比企谷八幡と黒い球体の部屋   作:副会長

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 そろそろサブタイにネタ切れが……。


次なる絶望として、彼らの前に大仏が立ち塞がる。

「はぁ……はぁ……」

 

 坊主は集団から離れて一人逃亡していた。

 

 鐘がある建造物の壁に背中を預け、ゆっくりと座り込む。

 

 巨大な仏像の突風によって吹き飛ばされ体中をしこたま強打した上、更に坊主故に裸足だった足の裏にいつの間にか深々とした裂傷を負ってしまった。

 

 それにより満足に走ることもできず、こうして身を隠すしか出来なかった。

 

「くそッ!……くそっ!」

 

 ズキズキと痛む足の痛みを堪える為に、踝を強く握る。

 医学的に根拠のない行動だが(出血を抑えるという効果があるのかもしれないが、こんなことでどうにかなるような怪我ではなかった)、本能的にやってしまう。案の定、まるで痛みは治まらなかった。

 

 なんでこんな目に。

 

 ガンツのミッションに巻き込まれた者が確実に抱くであろう理不尽に対する怒りが、坊主の胸の中に生まれる。

 

 結局、葉山の言った通りの事態に陥ってしまった。

 

 あの時、必死で否定し、耳を貸さなかったが故に、自分はこうして動けなくなってしまっている。

 

 あのスーツをアドバイス通りに着ていたら、今頃は……。

 

 そんな思いが坊主の頭を過ぎるが、それを必死で振り払う。

 それはもはや信仰心故ではなく、ただの意地であると理解しているが、それでもこの男はその事実を受け入れることが出来なかった。

 

 しかし、心はどんどん弱気になり、ついに坊主は己の人生を振り返り始めた。

 

 この職業に就いたころは、仏への信仰心で満ちていて。

 誠心誠意尽くせば、きっと何事も報われると信じていた。

 

 いつからだろうか。

 

 経を唱えるのが、ただの作業になったのは。

 

 いつからだろうか。

 

 日々の修行が、無感情にこなすルーチンワークになったのは。

 

 これは、信仰心を忘れた己への(ばち)なのか。

 

 あの部屋に転送された時、坊主の頭に過ぎったのはそれだった。

 

 必死で否定した。自分はまだ見捨てられたわけではない。

 ここで誠意を尽くせば、きっと俺は成仏できる。極楽浄土に往生することが出来る。

 

 必死で言い聞かせた。他人の声に耳を貸さず、見ず知らずの人間を巻き込んで。

 

 

『た、助けてくれ!!』

 

『じ、地獄とは、どういうところなんだ!教えてください!お願いします!』

 

『自信がないんだ!お、おれはきっと地獄に落ちる!だから、助けてくれ!お願いします!お願いします!』

 

 

 あの時のリーマンの醜態は、まるで鏡で自分を見ているかのようだった。

 

 そうだった。自信がなかった。

 

 坊主はとっくに気づいていた。だが認めるのが怖くて。

 

 

――自分が、極楽浄土に相応しい人間なんかじゃないって。

 

 

 坊主は、俯いた顔をゆっくりと上げる。

 

 

 そこには、2mほどの大きさの仏像がいた。

 

 

 坊主は感情の伴わない虚ろな目でそれを見つめる。

 さっきまでは、こんな所に仏像なんてなかった。

 職業柄、色々な仏像を見てきたが、残念ながら自力で歩く仏像には出会った経験はなかった。

 

 仏像は、ゆっくりと坊主に近づく。

 三叉鉾に似たさぞかし殺傷力のありそうな杖を持っている。

 苦渋に満ちた怒りのような表情は、そういう風に作られたのか、それともこの星人の感情を表しているのかは分からない。

 

 坊主は恐怖と痛みで震える両手を合わせ、ポツポツと紡ぎだす。

 

「南妙法蓮華経……南無阿弥陀仏……」

 

 経だった。

 坊主自身も最後の最期で自らが縋るのが経だとは思わなかったが、無心で経を唱え続けた。

 

 そこで、仏像の動きがピタリと止まる。

 

 坊主は自分のまさしく最後の悪足掻きが予想外の成果があったことに驚く。

 

(まさか……仏像だから、経に弱いのかッ!?)

 

 坊主は自分にとってあまりにも都合がいい理屈を捻り出し、希望を見出す。

 

「南妙法蓮華経……南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏!!」

 

 一瞬復活した信仰心は霧散霧消に消え失せ、再び唱えたそれはただ死にたくないという強欲に満ちた汚い経だった。

 

 最後の最期でこの男が縋ったのは、純粋な信仰心ではなく、打算と欲望だった。

 

 それを感じ取ったのか。それとも一瞬動きを止めたのはただの偶然だったのか。

 

 目を瞑り、にやにやとした口元を隠しきれないまま、生き残る策として見せかけの信仰心を取り繕う坊主に。

 

 

 憤怒の表情の仏像は、自らの手に持つ断罪の鉾で、坊主の体を顔からまっすぐに串刺しにした。

 

 

 

 

 

 こうして、今回のミッションの最初の犠牲者が生まれた。

 

 全員生きて帰る。

 

 自身の心の支えとなっている目標が早くも崩れたことを、葉山はまだ知らない。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

「おい……何だあれ?」

 

 俺は陽乃さんと今後の方針を話し合い、とりあえず余力のある内にボスっぽい奴がいそうなこの五体で固まっている離れに行こうか、と結論を出しかけた。

 

 が、その時。少し離れた場所にいる(っていうか俺達は集団から孤立している。近くにいるのは葉山くらいだが、コイツもなんか引いてる。……あ、なんだ、通常運転か)ボンバーさんが戸惑った声を上げた。

 

 俺達は階段を昇り、そちらに視線を向ける。

 

 

 そこには、血まみれの2mくらいの仏像がいた。

 

 …………血まみれ?

 

 

「きゃぁああ!!」

「うわ、何だ!?」

「こいつら、何なんだよ!?」

 

 すると、まず俺達の背後にいた相模が悲鳴を上げ、次にラッパーさん、そしてインテリが続いて悲鳴を上げる。

 

 俺はそれらに目を向ける前にマップを確認する。

 

「八幡、これって――」

「ええ」

 

 陽乃さんは俺に近づき、背中合わせのような態勢になる。

 

「囲まれましたね。迂闊でした」

 

 マップには、9個の赤い点を、9個の青い点が囲むように配置されているのを示していた。

 

 くそっ。9体がバラバラに配置されているのを確認した後、5体が固まっているのを拡大表示で見ていたから、気づかなかった。

 

「比企谷、どうする?」

「は! 決まってる」

 

 葉山の俺に対する問いに、なぜか達海が答える。Xショットガンをガシャンと鳴らしながら。

 

「全部倒す!!そんだけだ!!」

 

 カッコいいな。さすがイケメン。

 

 ……まぁ、そうだな。見た所、アイツらはさっきの奴らほどデカくない。全部大きくて2mくらい。ちょっとデカい人間サイズだ。

 デカくないから弱いってわけじゃないだろうが、少なくとも倒せない相手jy――

 

 

 メキ

 

 

 ……ん? 何の音だ?

 

 

 メキメキメキ

 

 

「おい……なんか変な音しないか?」

「はぁ!? 今それどころじゃねぇだろ、空気読めよ!!」

 

 葉山の言葉に、すでに臨戦態勢に入っている達海がうっとうしげにあしらう。

 いや、でも確かに――

 

 

 メキメキメキメキメキメキメキメキメキメキメキメキメキ

 

 

 すでに異音は無視できないレベルで鳴り響いている。

 仏像に囲まれたことで、恐怖していた連中も、また別の恐怖を誘うこの音に焦燥感を感じていた。

 

「八幡……」

 

 背中で感じる陽乃さんの体も少し震えている。

 

 俺も嫌な予感が止まらない。

 ……そう。中坊と乗り込んだ、あのアパート。二階の廊下で田中星人に囲まれ、正面のドアが開いたあの時のような――

 

 

 ドガーンッ!!! という轟音が響いた。

 

 俺達の目の前、この寺院で一番大きな建物から飛び出すように、巨大な何かが飛び出してきた。

 

 

「大……仏……?」

 

 

 誰かがポツリと呟く。

 確かにそれは、大仏のような見た目をしていた。

 

 そして、大仏の名にふさわしい巨体だった。

 

 先程、俺達が倒した巨大な仏像よりも、更にデカい。

 おそらくは15m以上はあるだろう。

 

 これだけのスケール。そして威圧感。もしや――

 

「これが……今回のボスか……?」

 

 周りを囲む、9体の仏像。

 そして目の前の巨大な大仏。

 更に、少し遠くの離れに控える5体のまだ見ぬ星人。

 

 もはや毎度恒例だが、今回も目の前が真っ暗になるくらい絶対絶命だった。

 

「八幡……」

「大丈夫です」

「!」

 

 俺は手探りで背後にいる陽乃さんの手を握る。

 

「あなたは絶対に帰してみせます」

 

 俺はギュッと力強く陽乃さんの手を握る力を強めて、目の前にそびえ立つ大仏を睨み据える。

 

「わたしも」

 

 すると、陽乃さんも俺の手をギュッと力強く握り返してくれた。

 

「わたしも、必ず、君を守る」

 

 思わず陽乃さんの方を振り向くと、陽乃さんは優しく微笑んでくれていた。

 

 この笑顔を守る為なら、何だって出来る。

 

 そんな恋愛脳なことを思わず考えちまうくらい、その笑顔は魅力的だった。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

「相模さん、折本さん、陽乃さん!あと、スーツを着たアナタ!小さい仏像の方を何とか出来ないか!?倒さなくていい!出来る限り俺達から引き離してくれないか!?大仏は俺と達海と比企谷でなんとかする!!スーツを着ていない人間はとにかく逃げろ、早く!!」

 

 葉山が大声で指示を出す。っていうか俺ちゃっかり大仏討伐メンバーに勝手に入れられちゃったよ。まぁ、いいんですけどね。

 

 ……だが、他のメンバーはどうだろうか?確かに戦力分割としては理想的だ。陽乃さんがいれば相模と折本にも万が一はないだろうし、真っ先に排除すべき大仏に男三人をぶつけるのも正しい。

 

 だが、逃げるっていうのは簡単じゃない。

 

 相手は星人だ。スーツを着てなきゃ、背中を見せただけで殺されるんだぜ。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 海王神ポセイドンが所持してしそうな三又の鉾を構える血まみれの仏像。

 

 それと相対するのは、ボンバーとラッパーの二人。

 この二人は一応スーツを着ている。(葉山に半ば脅されるような形で、だが)

 

 だが、それでも恐怖は消えない。仏像はゆっくりと鉾を水平に構え、刃を二人に向ける。

 

「ひ……」

 

 ボンバーは本能的に一歩後ずさる。反対にラッパーは一歩前に躍り出た。

 

「ちょ、アンタ――」

「喧嘩もしたことねぇような青瓢箪は下がってろ。コイツは俺がやる」

 

 そう言ってラッパーは首と拳を鳴らすことで戦闘準備完了をアピールする。

 

 巨大仏像の突風攻撃により、すでに特徴的だった帽子とサングラスは吹き飛びラッパー要素は皆無だったが、その短く切り上げた金髪とピアス、そしてぎらつく眼光は、確かに喧嘩慣れしていそうな風体であった。

 

 元々彼は今回のメンバーで白人の格闘家に次いで屈強な体格をしている。

 身長も180cm以上あるだろう。

 

 そんな彼は、2mを誇る目の前の仏像に迫力では負けていなかった。

 

 睨み合う両者。

 しびれを切らしたのか、先に動いたのは鉾の仏像だった。

 

「しかるはまくれしなば!!!」

 

 独自の言語を発しながら放った必殺の突きを、ラッパーは紙一重で躱した。

 いや、躱していなかった。ビリビリに引き裂かれた服が物語るように、完全に躱しきれず、腹部を切り裂かれたはずだった。

 

 だが、痛くない。血も一滴も出ていない。

 

 この時ラッパーは初めて、服の中に着こんだ黒いスーツの意味を理解した。

 

「は……はは!すげぇ!!こりゃあ、すげぇ!!こんなもん着てたら、もう何も怖くねぇ!!」

 

 ラッパーは笑う。楽しそうに笑う。

 

 そして、再び放たれた突きを、今度は完全に避け、更に仏像が鉾を引く前にそれを脇で挟むようにして動きを封じ――

 

「おらぁ!!」

 

――仏像の顔面にヘッドバッドをお見舞いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフッ……ジーザス!!」

 

 その言葉とは裏腹に、彼の顔は歓喜で色づいていた。

 

 彼の目の前には、こちらも2mほどの獣のような頭部をした仏像。

 

 

 そいつは数百キロはあろうかという岩石のような灯篭を片手で担ぎ上げていた。

 

 

 仏像故に無表情だが、口を開いたシーサーのような相貌の目の前の敵は、まるで獲物を求めているかのようだと、白人の格闘家は思った。

 

 故に彼は、一切ひるまず、素早く距離を詰め、灯篭を持っていないがら空きの右側頭部に上段蹴りを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつは高速で移動していた。

 

 9体の仏像はそれぞれ違った特性を持っている。

 

 武器を使うもの。

 怪力を発揮するもの。

 

 そして、この個体の武器は、スピードだった。

 

 そいつは乱戦と化した戦場を縦横無尽に駆け回り、自らの獲物を探していた。

 

 そして、一人の男をロックオンする。

 その男は連れの金髪の男が鉾を使う仏像と戦っているのを少し離れて見ていた。

 見ているだけだった。

 

 ターゲットは決まった。

 

 そして、その男に向かって方向転換すべく、自慢のスピードを一瞬0にする。

 

 

 そこを狙われた。

 

 

 どこか離れた場所で、青色の閃光が光る。

 

 撃たれたことに気づかないそいつは、当初の目的通り男に向かって突進する。

 

「……え? !! う、うわぁぁぁぁああああああ!!!!!」

 

 ボンバーは合掌の状態で前傾姿勢で猛スピードでこちらに急接近する仏像に気づき、恐怖で絶叫する。

 まるで弾丸のようなそれに、ボンバーは腰を抜かしてへたり込むことしか出来なかったが――

 

 

――それはボンバーに激突する手前で木端微塵の破片へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は見事、復活を果たした。

 

 そのミリタリールックのコスチュームに相応しい2丁の大型銃(Xショットガン)をガシャコンッ!と同時に弾を装填するように操作し、目の前の敵を見定める。

 

 遅れてやってきたヒーローのごとく、乱戦の戦場にゆっくりと不敵な笑みを携えながら現れる。

 

 そして、そんな彼に一体の仏像が気づいた。

 

 こちらも2mほどの身長だが、大きく逆立った髪がまるでライオンのような雰囲気を演出している。

 こいつも地獄の使者のように恐ろしい形相の仏像だった。

 

 しかし、そんな迫力のある殺気をその身に受けても、ミリタリーは余裕の笑みを崩さなかった。

 

「戦争の時間だ」

 

 彼はキメ顔でそう言った。

 恐怖のリミッターが振り切れておかしくなってしまったのか、彼はまるで懲りていなかった。

 

 もう手遅れかもしれない。色々な意味で。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 ………………………………。

 

 うん。なんだかんだで平気そうだ。(一人を除いて)

 ホント、今回の奴らは曲者揃いだ。なんていうか逞しいな。

 これは葉山のファインプレイだろう。ラッパーさんにスーツを着せたのは大きい。他のメンバーは黙っていても戦うような奴らみたいだしな。

 

 にしても、あのつなぎ。

 銃の遠距離射撃を試して、スナイパーの役に徹するとは。凄い発想だ。

 だが、これはもの凄く頼りになる。後で俺も試してみよう。安全圏にいられるし、動かなくていい。何それ素敵。ぼくはしょうらいすないぱーやさんになりたいです。

 

 

 とにかく。そうなると、葉山の作戦通りに動くのがベストか。

 

 俺は葉山の方に目を向けると、アイツは頷いた。

 

 そして、俺が葉山の方に行こうとすると――

 

「俺が()る」

 

――達海の獰猛な、野心に満ちた低い声が響く。

 

「達海君、何言って――」

「アイツは、俺の獲物だ!!」

 

 折本の制止の声も振り切り、単身で大仏に向かって駆け出す。

 

 ちっ! やはりこうなったか。

 

「比企谷!」

「分かってる!」

 

 俺と葉山が達海の後を追う。

 別に達海が一人で倒してくれるならそれに越したことはないが、それが出来ないから協力プレイなんてぼっちの苦手分野な作戦に乗ったんだ。

 達海は貴重な戦力だ。こんなとこで無駄に死なせてたまるか。

 

 

「八幡!」

「葉山君!」

 

 陽乃さんと相模の声が響く。

 

 そして、達海は大仏の足元に辿りついた。

 

「――――ッ!!」

 

 達海は絶句している。

 その気持ちは分かる。俺も段々近づくにつれて実感しているところだ。

 

 遠くから見るのとはまたわけが違う。

 

 デカい。圧倒的に。

 

 デカさもそうだが、放っている威圧感がハンパじゃない。さっきの仏像とはレベルが違う。

 やはり、コイツが――

 

「クソォ!」

 

 達海が恐怖をごまかすようにガシャァン!と乱雑にXショットガンの装填を行う。

 

 そして ギュイーン!ギュイーン! と大仏の足に向かって連射した。

 

 が。

 

 バンッ バンッ と小さな花火のように、足の甲の表面が弾けただけだった。

 

「ダメだ! 火力がまるで足りない!」

 

 俺は思わず呻く。Xショットガンであれなら、Xガンじゃあ歯も立たないだろう。

 

 だが、どうする!? Xショットガンは今の俺達の最強装備だ。

 それ以上の武器なんて――

 

「!!」

 

 達海がこっちに吹き飛んでくる!

 それを俺と葉山がキャッチするも、勢いを殺せず、そのまま階段下まで吹き飛んだ。

 

「がッ!」

「ぐはぁ!」

「ぐッ」

 

 俺、達海、葉山はそのまま石の地面に叩きつけられる。

 

「八幡!」

「達海君!」

「葉山君!」

 

 三人が駆け寄ってくる。

 にしても、こういう時陽乃さんが誰よりも早く俺の名前を呼んでくれるのがちょっと嬉しかったりする俺は自分でもちょっと気持ち悪いな。自重しよう。

 

「大丈夫、八幡?」

「ええ。大丈夫です」

 

 そういって俺は膝に手を着いて起き上がる。

 実際、まだスーツが全然機能しているから体は全然痛くない。

 

 だが、痛いのは頭だ。

 どうする?あの大仏にどうやって立ち向かう?

 

 今の攻撃は全然見えなかった。おそらくただ歩く為に足を前に出しただけなんだろう。それであの威力。

 加えて厄介なのがあの防御力だ。Xショットガンであの程度となると、方法は……一つしかない。が、出来れば取りたくない。

 

 俺は陽乃さんを一瞬見て、すぐに目を逸らす。

 

 Xショットガン以上の武器。それは現時点ではガンツソードしかない。

 そして、それを使いこなせるのも、今は陽乃さんだけ。

 あれだけの巨体だ。剣を伸ばす技術は必須。

 

 だが、俺は陽乃さんをアイツに――ボスに単身で近づけたくない。矢面に立たせたくない。

 

 ……ああ、分かってる!これは俺の傲慢な我儘だ!

 

 ガンツのミッションは戦争だ!試せる手段があるなら試すべきだ!使えるものは何だって利用すべきだ!1%でも可能性が高い作戦を実行すべきだ!

 

 そんなことは分かってるッ!!

 

 ……でも。怖い。万が一にでも、億が一にでも。

 陽乃さんが危険に晒されると考えるだけで。陽乃さんを失ってしまうと考えるだけで。

 

「…………ッ!」

 

 ……くそッ! 何かないのか、別の方法は! 既存の武器だけであの怪物を打倒する方法は!?

 

 このままじゃ、陽乃さんは自力でこの結論にたどり着いて、単身で突っ込んじまう。

 

 俺を置いて。あの時の中坊のように。

 

 また俺は、守ってもらうだけなのか……?

 

 っ!ふざけんな!もう二度と繰り返してたまるか!あんな思いは二度とゴメンだ!

 

 考えろ!考えろ!考えろ!

 

 

 

「ありゃあ~。これはまた凄いなぁ。門がボロボロじゃないの」

 

 

 

 その見知らぬ声に、俺達は一斉に振り向く。

 

「…………誰だ?」

 

 そこにいたのは、あの部屋にはいなかった、よれよれのスーツ姿の中年男だった。

 




 さっさとガンツソードでぶった切ればいいじゃん。……というツッコミはなしでお願いします……。
 ……我ながら無理矢理が過ぎるとは自覚はあります。ごめんなさい。

 八幡はずっとぼっちであったが故に、一度内に入れたものは、大事なものとして認知したものには、すごく依存するタイプだと思うんですよね。

 ただでさえ中坊と奉仕部を失って、そこに現れた陽乃に依存して、どうしようもなく怯えていると考えてください。

 それで納得していただければ……いや、やっぱり無理矢理だなぁ。

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