比企谷八幡と黒い球体の部屋   作:副会長

20 / 192
 今回も少し短めかな。
 自分で書いたものなんだけど、場面場面の文字数がバラバラで分け所が難しい。


三度、彼らは残酷な戦争を強いられる。

 転送された場所は、どこかの寺院。

 

 ……住宅街でなかったのは初めてだ。

 破壊された器物は一般人にも見えるんだろ? ここまで大きな寺院が破壊されたら大騒ぎになるんじゃないのか?

 

 まぁいい。そこら辺は俺の領分じゃない。

 

 それよりも、あの人はどこに……

 

「八幡!」

 

 俺の背後から声が聞こえ振り向くと、そこには陽乃さんと――

 

「陽乃さん。…………なんかあったのか、お前ら?」

 

――やけに青い顔をした相模と折本がいた。いや、マジでどうしたんだよ。

 

「い、いやなんでも」

「だ、大丈夫大丈夫!」

 

 ……いや、ザ・空元気なんですが。

 ……まぁ、犯人は分かりましたよ。めっちゃ怯えた目で陽乃さんをチラチラ見てるもの。

 

 俺は陽乃さんに近づき、耳打ちする。

 

「……ちょっと。二人に何したんですか?」

「え~。ただの恋バナだよ☆」

 

 嘘だ!!!

 っていうか、貴重な経験者のメンタル始めっから削らないでくださいよ。……ただでさえ、この後の展開はヘビーなんですから。

 

 

 ……それにしても、なんていうか。

 あれだね。目に毒っていうか、俺の腐った目に映すには高尚過ぎるっていうか……

 

「八幡?」

 

 陽乃さんは覗き込むように俺に顔を近づける。

 ほんのり頬が朱い。くっ……気づいてて、言わせたいんだなっ。

 

「あ、あの…………陽乃さん」

「な~に?」

 

 首傾げるなよ、可愛いなちくしょう!!

 さっきからSAN値削られ過ぎだよ!童貞のメンタル舐めんなよ!

 ……けれど期待にキラキラさせる陽乃さんの目を見ると、逃げられないと悟らざるを得ない。……覚悟を決めるか。

 

「すごい……似合ってるってか、綺麗、です」

「そう?ありがと♪」

 

 っていうかエロ――おっとダメだ、これ以上はダメだ!

 

 なんていうか、陽乃さんのガンツスーツ姿はヤバい。

 ピッタリと体のラインを出すこのスーツを陽乃さんほどのナイスバディが着ると、もの凄い妖艶な雰囲気を醸し出す。

 俺みたいな制服とは違って上から着れるような服じゃなかったし、それに着る時間もなかっただろう。相模も折本もスーツだけしか身に付けていないし。当然、陽乃さんも同様で、抜群のスタイルをこれでもかっていうほど強調している。

 色が黒で光沢があってってもうあれにしか見えないよ。Sで始まってMで終わる女王様のコスチュームに。確かに似合いそうだけど。

 ついついそういういかがわしい目線で見てしまうが、それとは別に、やっぱり綺麗だ。

 この人は黒が似合う。こんなコスプレみたいな衣装でも、陽乃さんは息を呑むほど美しかった。ってか――

 

「…………誰にも見せたくねぇ」

 

 他の男が陽乃さんで欲情してるかもって思うとそれだけで胸の中から暗い感情が湧きだす。

 俺自身もそういう感情を抱いてるってのに、勝手な話だな。

 …………ってか俺、今の声に出てた?

 ヤバいすげぇ恥ずかしい独占欲剥き出しじゃねぇか聞かれてないよねお願いだからそうだと言って300円あげるから

 

「………………ふぇ?」

 

 はいばっちり聞かれてました死にてぇ~~~~!!!!!!

 うわぁぁぁぁぁぁはずかしはずかしはずかし×1000000

 陽乃さんの顔見れない俺絶対顔真っ赤だよっていうか俺何口走ってんだよ何が「誰にも見せたくねぇ(キリッ)」(脳内補正あり)だよ!究極に似合わねぇよ!何様だよ!キャラじゃねぇよ!

 あ、顔真っ赤な陽乃さんはめちゃくちゃ可愛かったです本当にありがとうございました。

 

 ……相模と折本の目線が業務用冷蔵庫並みに冷たいのはスルーの方向で。

 

 

 

「――――うあああああアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 すると、俺の後ろから蹲り両手で頭を抱え断末魔のような叫び声をあげながら一人の男が転送されてきた。

 

 坊主だ。

 

 坊主はガタガタと震えていたが、恐る恐る目を開けると、こちらを――というより寺院の方に目を向ける。

 

「……羅鼎院(らていいん)じゃねーか」

 

 ん?ここは羅鼎院っていうのか?

 さすが坊さん、本業だな。詳しいじゃねぇか。少し見直し――

 

「なんだよ。生きてんじゃねぇかよ、俺」

 

 …………おい、坊主。本音でてんぞ、本音。

 

 横で折本が「……うわー」って言ってる。折本引かせるとかどんだけだお前。

 相模も陽乃さんも一様に軽蔑っていうのがピッタリの表情をしている。今まで散々向けられた感情だからよく分かる。うん。

 

 周りを見ると、あの坊主に縋りついていたリーマンが携帯に「ちっ。圏外かよ、クソが」とか言ってる。……さっきの必死に念仏唱えてたお前はどこ行った。

 

 ……なんかガンツのミッションって本当に人間性が出るよな。ミッションの度に大人ってやつに絶望し、働くもんかという決心を強固になる。俺は絶対にあんな大人にはならない。専業主夫最高!

 

 っていうか、あのリーマン以外にもどんどん帰宅組が増えてる。

 このままじゃ、頭破裂するぞ。

 

 そう思っていたら、寺院の門の前にアイツが立っていて、全員に向かって大声で呼びかけた。

 

「みんな!!これから星人と戦う!!このマップに表示されているエリアから外に出るな!!文字通り頭が吹き飛ぶぞ!!!」

 

 葉山の言葉に全員の歩みが止まるが、それでも引き返すやつがいない。

 

「……は!証拠はあんのかよ、証拠は!」

 

 ……確かに、言ってることは最もだが、この状況に陥ってもまだ信じないのか?

 普通に考えて、葉山が嘘を吐くメリットがないだろう。

 

 ……こんな考えに至るところが、俺がガンツに毒されている証拠か。

 

 普通の人間は日常が壊れるのを嫌う。訳分からない状況から、一刻も早く日常に帰りたくなるもんだ。それを阻害する要素を否定したくなるもんだ。

 

 この状況に抵抗を覚えない。

 つまり、この状況が日常になってきてるってことか。

 

 末期だな。

 

 

 葉山の方を見ると、葉山はぐっと踏込み、文句を唱えたボンバーさんの元まで跳んだ。

 

 10m以上の飛距離と4、5mの高さを助走無しでジャンプし、ダンッと目の前に降り立った葉山に、ボンバーさんは見て分かるくらい狼狽える。

 

 そして葉山は、無表情でボンバーさんを片手で持ち上げた。

 

「ちょ!何すんだ、降ろせ!」

「見ろ」

 

 そう言って、葉山は何かをボンバーに見せる。

 コントローラー?――おそらくはマップ画面だな。

 

 そして葉山は、その状態でエリア“外”に向かって歩き出す。

 

「この四角内がエリアだ。この赤い点がプレイヤー――つまりこの移動している点が俺達だ」

「だから何だってんだ!!いいから降ろ――」

 

ピンポロパンポン ピンポロパンポン

 

「……ん?何だ?この音楽?」

「聞こえたか?これは警告音だ。エリア外に近づくにつれて大きくなる。――そして、エリア外に出るとそのまま頭が破裂する。俺達の頭の中には爆弾が埋め込まれているんだ」

 

 葉山はボンバーさんの目を見据えるように話しているが、ボリュームは帰宅組全員に聞こえるような音量で話している。

 

 ボンバーさんは笑い飛ばそうとするが、自分を持ち上げる葉山の表情を見て、その笑いが引きつっている。

 やがてボンバーさんの表情が恐怖に染まってきた頃、葉山はボンバーさんを降ろす。ボンバーさんは「ひぃ!」悲鳴を上げながら逃げるように葉山から遠ざかる。

 ちゃんとエリア内に。

 

 帰宅組は何も言わず、誰も動かず葉山を見ている。

 

 葉山はそんな視線に動じず、冷たく。

 

「試してみるか?」

 

 と言い放った。

 そして一人、また一人とエリア内に戻ってくる。

 

 リーマンと坊主は最後まで立ち止まっていたが、やがて葉山が彼らに向かって足を踏み出すと、リーマンは慌てて戻ってきた。

 坊主は葉山を睨みつけていたが、大きく舌打ちをし、寺院に戻ってきた。

 

 

「……葉山君、どうしちゃったんだろう?」

「なんか、前までとキャラ違くない?」

 

 相模と折本が少し怯えながら言う。

 

 キャラが違う……か。それは少し正しくない。

 

「逆だろ」

「え?」

 

 俺の言葉に、相模が驚いたような顔を向ける。

 

「別に性格が変わったわけじゃない。あれも葉山だ。……おそらく葉山は、切羽詰まっているんだ。全員を助ける、誰も死なせない。そういった目標(げんそう)に縋っているんだ。ずっと抱き続けているそれを実現させることに邁進することで、精一杯今まで通りであろうとしてるんだよ。その形を取り繕うことに、必死なんだ。……それが葉山の今の心の支えなんだろう。そうしないと、立ってられないんだよ。……きっとな」

 

 俺が今まで、奉仕部というあの場所の形を、必死で取り繕っていたように。

 

 あの場所に、あの時間に、縋っていたように。

 

「相模」

「……なに?」

「葉山の傍に、居てやれ」

 

 俺は、相模の顔を真正面から見据えて、そう言った。

 

 

 あのままじゃ、葉山は壊れる。

 

 あんなやり方だと、みんなは救えても、葉山は救えない。

 

 いずれ気づくだろう。形が似ているだけの偽物だと。望んだものとは違う空っぽだと。

 

 その時、葉山の心は確実に折れる。――その際には、折れた葉山の心を支える、支えが必要だ。

 

 それが出来るのは、三浦でも、一色でもなく、今までこのガンツミッションにおいて、ずっと葉山に寄り添ってきた――――

 

 

 相模はじっと俺の目を見ていたが、やがて、

 

「わかった」

 

 と言って頷き、葉山の方へ駆け出す。

 

 あの葉山隼人を救う。

 それはおそらく困難を極める。

 

 あいつは何かを抱えてる。それはきっと、深く、暗く、黒い何か。

 

 ……だが、俺にはそれが分からない。

 どれくらい深いのか、どれくらい暗いのか、どれくらい黒いのか。

 

 きっと、分かる日は来ないだろう。あいつが俺のことを何も分からないのと同じように。

 

 ……相模は、あいつのことを理解できるのだろうか。

 

 

 ……俺は――

 

 

 ……ん? なぜか、相模が途中でこちらに振り向いた。そして、

 

「比企谷。……ありがとね」

 

 ……そう言って、今度こそ葉山のところに向かった。

 

 相模があんな風に俺に笑いかけるとは……あいつもあんな風に笑えばトップカーストに負けないくらいモテるんだろうな。

 なんか背後の殺気が凄いけどきっと気のせいですハイ。

 

 

「相模さん、大丈夫かな」

 

 そして、そんな殺気に気づかず、折本が俺に話しかけてきた。すげぇな、お前。昔からそういうとこあるよな。

 

「……人の心配してる場合か」

「え? どういうこと?」

「達海だよ。あいつもおかしいだろ」

 

 そう言うと、折本は大きく目を見開く。

 そして、すこし顔を俯かせて、呟くように答えた。

 

「……比企谷も、やっぱりそう思う?」

 

 ってことは、やっぱ折本も気づいてたか。まぁ、同じ学校だし、こいつ達海に付き纏ってるらしいしな。

 

「……あいつも、葉山とは別の意味で暴走してるだろう。危うさでいったら同じくらいだ」

「……どうしたら、いいかな?」

 

 そう言って折本が俺を潤んだ目で見つめる。

 ……こいつ、俺のことウザがってたんじゃねぇのかよ。前のミッションの時、あんな敵意が篭った目で睨んできたくせに。

 

 ……良くも悪くも素直なんだよな、折本は。

 下に見ている奴にはそういう振る舞いをするし、上に見ている奴にはそういう振る舞いをする。

 

 唯一いいところは、その評価を固執しないってとこか。

 上に見てたやつも情けない所を見たら見下すし、その逆に下に見ていたやつでもいいところを見つけたら見直す。

 

 よく分からないが、折本の中で俺は相談するに値する相手くらいには評価が上がったらしい。

 

 だとしたら、自分のことは自分でやれ、とは言えないな。

 

 だけど、ここで折本が言って欲しい言葉を探って贈るといった女子的相談のお約束を守るほど、俺はいい人間じゃない。

 厳しいようだが、俺の中で正しいと思う答えを言わせてもらう。

 

「……おそらく達海は、このスーツによるパワーアップに酔ってる。男ってやつは、一度は超人的なパワーのヒーローに憧れるもんだ。……だから、達海は今回積極的に戦闘に参加するだろう。しかし、このスーツの力だけで生き残れるほど、ガンツのミッションは甘くない。過信はこのゲームにおいて、命取りになる。――故に、達海にも傍で暴走を止める支えが必要だ。

 ……だが、そんな達海を支えるってことは、同じように危険な戦いに巻き込まれるってことだ。――折本、お前にそんな覚悟があるか?別に無理してアイツに付きあうことはない。あいつは強いしな。案外大丈夫かもしれん。……お前の自由だ。誰も責めやしない。強制なんかしない――お前は、どうしたい?」

 

 折本は、しばらくじっと考えていたが、やがて顔を上げて。

 

「うん。やるよ」

 

 と笑顔で言った。

 

「別にどこにいたって死ぬ可能性があるのは一緒だもんね。だったら、私は好きな人の傍で戦うよ」

「そっか……」

 

 ホント、良くも悪くも心に素直な奴だ。

 

 折本も達海の方に駆け出そうとし、相模と同じように途中で振り向いた。

 

「ありがと、比企谷!比企谷っていい奴だったんだね。ウケる」

「いや、ウケねーから」

 

 そして、輝く笑顔でこう言った。

 

「比企谷と付き合うのはやっぱり無理だけど、友達としてはちょっとアリかも♪」

 

 折本は達海の元へと走っていった。

 ……なんで俺、告白してもいないのにフラれてんの?『……友達でいいかな?』って苦笑いで言われた告白数知れず。あの後友達どころか一言も喋った記憶ないなー。はは。

 

 …………さて。そろそろ背後の殺気がえらいことになってきた。

 まだ星人に出くわしてもいないのに、早くも本能のアラートが全力でエマージェンシーを知らせている。

 

 俺はゆっくりと振り返ると、ニコニコとした笑顔の陽乃さんが文字通り仁王立ちしていた。すぐ傍にある仏像よりも怖い。

 

「えっと……陽乃さん?」

「ずいぶん楽しそうだったね、八幡」

「いや、別に……」

「ついさっきキスをした女の子の前で、別の女の子の好感度上げるの、楽しい?」

「そ、そんなつもりは……」

 

 怖い。超怖い。ねぎ星人とか田中星人とか足元にも及ばないレベル。

 なんか背後のオーラが具現化しそうな勢い。幽波紋(スタンド)とか出さないよね。オラオラオラとか始めないよね。…………ちょっと似合うな、陽乃さんに。自分の手を汚さずに相手をボコボコにするとことか特に。まぁ、幽波紋(スタンド)のダメージは本人に返ってくるから、手を汚していないわけではないんだろうけど。

 

 陽乃さんはふうと息を吐くと、「まったくしょうがないなぁ」と言いながら髪を掻き上げる。一挙手一動足が絵になるなぁ、この人は。

 

「それで。どうするの?この後?」

「とりあえず、俺達も葉山に合流しましょう。俺達は今回の敵がどういう星人かも知りませんから」

「……ああ。あつ~いキスを交わしてたもんね」

「…………顔を赤くするくらいなら言わないでください」

 

 まったく、この人は……。

 俺が少し歩くスピードを早めて先導しようとすると、陽乃さんが背中から優しく抱き着いてきた。

 

 ガンツスーツは体のラインにピッタリと張り付くような素材なので、さっきの私服よりもさらにはっきりと陽乃さんのダイナマイトボディの感触が感じられて、陽乃さんの甘い匂いと共に俺の脳髄を刺激し、顔に急速に熱が集まるのを感じる。

 

「ちょ、陽乃さん!!何して――」

 

「――わたしも。八幡の支えになるよ。ずっと、傍にいるから」

 

 耳元で囁くように呟やかれた優しい言葉に、ドキドキとした性的興奮は薄れ、代わりに温かい何かが胸の中に流れ込む。

 

 俺は肩から回された陽乃さんの華奢な細腕に手を添えて、一言だけ呟いた。

 

「…………ありがとう、ございます」

 

 

 ……俺はずっと、こんな言葉をかけてもらいたかったのかもしれない。

 

 単純だけど、なんか、救われた気がした。

 




 ってかバトルまで行ってねぇじゃん……

 すいません。次回はちゃんとバトると思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。