Side和人――とある駅の近くの大通り
吸血鬼――目の前の紅蓮の幼女は、自らのことをそう称した。
吸血鬼の始祖――そして、その懐刀の青年。
和人はそれを聞いて、つい先程まで己と殺し合い、そして自らの剣で殺した男の――否、吸血鬼の言葉を思い出す。
「……吸血、鬼……じゃあ、お前達は……剣崎の――」
「そう。彼の仲間――というより」
幼女――リオンは、青年――狂死郎の肩の上で、足をぷらぷらと振りながら言う。
「彼等を吸血鬼にしたのは、僕だよ。彼等だけじゃなく、この世界の全部の吸血鬼は、僕のせいでそうなってしまったみたいなものだね」
和人はその言葉に「……え?」と呆然とする。
今の言葉には看過することなど出来ない幾つもの衝撃的な言葉が含まれていたような気がしたが、余りにも衝撃的過ぎて、和人の頭の中は瞬間真っ白になり、上手く情報を処理できない。
和人は、ゆっくりと「……ちょ、ちょっと、待ってくれ」と言って頭を押さえ、リオンに食って掛かるように問い詰める。
「――そう、なってしまった、っていうのはどういうことだ……? そ、それじゃあ、まるで、あいつ等がそうじゃなかったみたいな言い方じゃないか?」
「……ん? あれ? そこから知らなかったのかい? 情報が漏れたみたいなことを聞いたから、てっきり知っていたのかと思ったけど……まぁいいか。こんなことになった以上、遅かれ早かれ暴かれる事実だ」
と言って、リオンはあっさりと、和人にとっては余りにも衝撃の真実を伝える。
「“始祖”である僕以外の吸血鬼は、みんな元々は人間だよ。――まぁ、黒い球体から言わせれば、地球人というべきかな」
人間――地球人。
和人はそれを聞いた瞬間、目の前が真っ暗になるのを感じた。
人間のようだ、とは、何度も思った。
昨夜のミッション終わりに乱入した時も、夕方に襲われた時も、そして、あの剣崎と剣を交わした時も。
だが、それでも、奴等は化け物に変身したし、人間離れした――化け物染みた力も持っていた。ガンツも、奴等をオニ星人だと言って、星人として標的にしていた。
だから、奴等は化け物だって、殺すべき敵だって――
(――アイツは……比企谷は、知っていたのか?)
こじつけかもしれない。いや、こじつけというより、やはり八つ当たり、逆恨みなのだろう。自分達よりは色々なことを知っていて、それをこちらに隠す秘密主義めいたあの男でも、こんな情報を知り得たとは思えない――が。
それは、今は考えるべきことじゃない。そんなことを考えている場合じゃない。
大事なのは、化け物になっていたとはいえ、元人間の命を、幾つも和人が、この手で奪ったということ――そして。
「……化物に……剣崎や……人間達を……吸血鬼に、変えたと言ってたな?」
「ああ。僕が、彼等を吸血鬼にした。人間を吸血鬼にした。まぁ、始祖の――純然たる吸血鬼である僕からすれば、それでも只の吸血鬼もどきなんだが。君達からすれば等しく化け物だよね」
「…………それは、お前が、彼等の血を吸って――吸血鬼に、したのか?」
和人はどこかで聞いたような、多くのゲームによって身に付けたVR産の吸血鬼知識からそう尋ねた。
だと、すれば。もし、そうだとすれば。
ここで、この幼女を――始祖を、殺せば。
もう、吸血鬼は――化け物になる人間は、いなくなるのか?
衝撃による混乱が治まらず、上手く働かない頭で、和人はそう考える。
リオンを睨み付け、二刀を持つ手に力が入る。
「……………………」
そんな和人の殺気を受けて、狂死郎が腰の日本刀に手を添える。
リオンは、そんな狂死郎の頭に、その小さな手をポンと乗せ、にこっと微笑む。それを受けて、狂死郎はあっさり刀から手を放した。
「残念ながら、それは違うよ。僕が血を吸って眷属に――家族にしたのは、この狂死郎だけだ。信じるも信じないも、君の自由だけどね?」
「………は、はぁ? だ、だって、お前……お前が! お前が奴等を、吸血鬼にしたって!」
「ゴメンゴメン、僕の説明が足りなかったね」
癇癪を起こした情緒不安定気味の子供のように喚く和人を、まるで大人のように幼女のリオンは諫める。
そしてリオンは――1000年以上生きる始祖の吸血鬼は、まさしくその年齢に似合う大人な語り口で、幼女の舌足らずの声で、その物語を語り始めた。
「彼等を吸血鬼にしたのは僕――正確には、僕の“灰”だ。だいたい1000年くらい前かな。僕が自殺して、死に損なった時の遺灰だよ」
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Sideリオン――とある吸血鬼の一人語り
「それじゃあ、少し長い話になるけど、聞きたいかい? 僕は話すことは嫌いじゃないから、というより大好きだから、聞いてくれるなら話すこともやぶさかじゃあないよ。――ん、そうかい。ありがとうね。歳を取ると、君みたいな若い子と話すのが、何よりの楽しみなのさ。そうだね、まずはそんな切り口から話し始めるとするかな。
「僕はこう見えても凄く長生きなのさ。吸血鬼だからね。詳しい年齢は覚えてない。1000から先は数えるのを止めちゃった。歳を取ると一年経つのがあっという間というけれど、それはまさしく本当の話でね。途中から『あれ? 今ってもう年越したっけ?』ってのが何回もあって。数えるのを止めたというよりは、自分を――自分の年齢を見失ったという方が正しいけれど、まぁどっちにしろ、1000を超えたら2000でも3000でも一緒だよね。とにかく僕はめちゃくちゃお婆ちゃんってことさ。実際にお婆ちゃんとかいったらブチギレるけどね。オコなんかじゃ済まないし、済ませないけどね。女の子はいくつになってもレディだし、レディに年齢の話はご法度ってことさ。
「……ん? 見た目? なんで可愛い幼女なのかって? ああ、これには理由があるんだよ。純然な吸血鬼がみんながみんなロリッ子やショタっ子って訳じゃない。そんな一部のマニアしか喜ばないような設定じゃないさ。確かに吸血鬼は不老不死だけれど、不老不死だからこそ、最も肉体的にスペックの高い十代後半から二十代前半の肉体年齢で固定してるのが普通だよ。だからといって、別に僕がロリボディを好き好んで選んでいる訳でも、狂死郎の趣味に合わせてるわけでもない。まぁ、狂死郎の趣味は否定しな――あ、痛い、ごめんて、ちょっとしたジョークじゃないか、こんなことで主に手を挙げるなよ。ったく、忠誠心のない眷属だなぁ。
「ああ、ごめんイチャつかないで話を進めろって。そうだね、こんだけ話してまだ何も進んでないね。歳を取ると話すのが楽し過ぎてすぐに脱線していけない。ええと、どこまで話したっけ? ああ、なぜ僕がロリボディなのかって話だっけ。哲学的だなぁ。まあ、真相は哲学的でもなんでもないんだけどね。
「ただ一人の馬鹿な吸血鬼が、カッコつけた自殺に失敗して、死に損なって、無様に今日まで生き長らえている――ただそれだけの物語に過ぎない。
「それじゃあ、前置きが長くなってしまったけれど、語り始めるとしようか。いつの間にか、こんな星に流れ着いた、たった一人のろくでもない鬼の物語を。
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「既に分かっているとは思うけど、僕は宇宙人だ。
「君達が言うところの“星人”って奴だね。黒い球体は彼等のことを――僕達のことをオニ星人と称したようだけれど、正確には僕こそが、僕だけが正真正銘のオニ星人なのさ。
「どんな星からどうやってこの地球に辿り着いた、とかの話は省略するよ。気になるだろうけれど、今回の、どうして元々地球人だった彼等がオニ星人に――吸血鬼もどきになってしまったのかという話とは何ら関係がないからね。まぁどうしても気になるなら、後でググってくれよ。正直の所、僕自身すら記憶は曖昧なんだけどね。なんせ1000年以上も前のことだからさ。ホームシックとかはとうの昔に通り過ぎたよ。
「まぁなんだかんだあって、無事、この地球という美しくも愚かしい星に辿り着いた愚かな吸血鬼であるところのこの僕は、とりあえず途方に暮れたのさ。着いて早々することがなくなった。いきなり未開の地にひとりぼっちで放り出されて、ぽけーと空を眺めていたのさ。
「ん? なんか目的があって地球に来たんじゃないのかって? そんなこと言われてもなぁ。別の惑星に飛び出すくらいだから、当時の僕はそれなりに熱いモチベーションとかなんか高尚な使命とかを持っていたのかもしれないけど、いざ辿り着いてみると、びっくりするくらいやる気が起きなかったんだ。いやぁ、あの時の僕は若かったねぇ。具体的に何歳だったかは覚えてないけれど。
「世界征服とか、人類滅亡とか、そんな感じの命を受けてたんだと思うけど、たぶん僕のことだから、その辺は建前だね。
「自由が欲しかったのさ。誰も同族のいない遠い地で、遥かなる青き惑星で、自由気ままに吸血鬼生を謳歌したかった。うん、おそらくこんな感じ。こっちの方がよっぽど僕らしい。これで行こう。
「でも、余りにも自由過ぎたんだろうね。右も左も分からず、どうしたらいいか分からず、途方に暮れた。これまた実に僕らしい。どれだけ実家で甘やかされていたか分かろうというものだ。こう見えても、僕はいいところの箱入り吸血鬼だったからね。だからこそ自由に憧れたんだろうが、得てしてどんな綺麗な夢や理想も、厳しく辛い現実に打ち砕かれるものだ。現実なんてこんなもんだ。なぁ、愚かだろう? でも、僕の愚かはここからなんだ。僕という吸血鬼はどこまでも愚かなんだよ。
「そんな風に、どれだけ無気力に無鉄砲に過ごしただろうか。偶にお腹が空いたら擦れ違った誰かさんに
「それが、こいつ――狂死郎。出会った頃のこいつは、とにかく生意気で、生まれて初めて出会う、僕の思い通りにならない奴だった。まぁ、その時の僕は、その時の狂死郎以上に生意気で、未だに箱入りクイーン気取りが抜け切れてない愚か者だったから、それはもうコイツの事が気に入らなくてねぇ。
「殺してやろうかと思ったくらいさ。あの時の僕は若かった。具体的にいくつかはやっぱり覚えてないけどね。
「そこから先は、狂死郎とつるむようになった。祝・ぼっち脱却だ。
「え? 殺すとか言ってたじゃんって? やだなぁ。気に食わない相手を手当り次第にぶっ殺すほど、僕は狭量な吸血鬼じゃないぜぇ。さっきと言ってることが違う? まぁ細かいことを言うなよ美少年。物語に脚色は付き物だぜ。
「普通にありのままにあっさりと暴露すると、殺さなかったんじゃなく、殺せなかった。うん、殺そうとはした。そこは認めよう。若気の至りだ。許せ。
「そう、殺せなかった。全盛期の僕が。吸血鬼の能力を十全に使えた僕が。当然ながら剣崎達みたいな吸血鬼もどきよりも数段も数十段も数百段も強い――強かった当時のあの僕が。これまた当然ながら当時は人間だった狂死郎を、殺せなかったんだ。全く我が眷属ながらとんでもない奴だよ。まぁ僕に傷一つつけることは出来なかったけれど、どれだけ傷を負っても僕に殺されなかったというのだから賞賛に値する。絶賛に値したね。
「だから誉めたんだ。やるぅーって。一目置いた。見直した。こいつ只の生意気な
「まぁ狂死郎がやべぇのは今に始まったことじゃないって再確認したところで、物語を進めよう。狂死郎のことは気に入ったけれど、この時はまださっきも言った通り眷属にしてないし、する気もなかったんだ。精々が、なんか面白い人間がいるからどうせ僕は不老不死だし偶には一人の人間の人生をじっくり観察するのも面白そうだから見て見よう! って感じで、なんかマンガとか映画とかを見る感覚で、狂死郎という人間を観てたんだ。娯楽として。物語として。まさしくヒューマンドラマだね。
「そもそもが、この星の人間――というより生き物を、吸血鬼の眷属に出来るのかどうかも、当時は知らなかった。分からなかった。軽く眷属を作るなんていうけれど、僕達吸血鬼にとって、実は眷属作りってかなり重要で重大なんだぜ。なんせ一人の、一体の新たな吸血鬼――
「まず第一に、生粋の、純然の、混じりっ気のない正真正銘の吸血鬼でなければ、眷属は作れない。こんなものがいるかどうかも知らないけれど、ハーフヴァンパイアとかじゃダメだ。吸血鬼性を帯びただけの人間なら――剣崎達みたいな吸血鬼もどきなら、普通の生殖行動で子供産むことは出来るかもだけど、子供にも吸血鬼性が宿るかもだけど、それはやっぱり吸血鬼もどきであって、吸血鬼じゃない。眷属作りは、まさしく純然な正真正銘の吸血鬼を作るものだから、そんなのとは似ても似つかないものだ。どこかの戦闘民族みたいに混血の方が強いなんてことは有り得ないんだぜ。
「そして第二に、その元となる、主となる、親となる吸血鬼が、強力で、高位で、凄まじい程、その眷属作りの難易度も上がる。これは意外な事実かな。でも考えて見れば単純だよ。その親の吸血鬼力に、子供の素体の方が耐えられないんだ。
「受け入れきれない。受け止めきれない。器が、耐えられない。
「吸血鬼の眷属作りに置いてはね、鷹は鷹を生むことが確定なんだ。絶対に鳶は生まないし、生まれない。
「優秀な吸血鬼の眷属は主に匹敵するくらい優秀で、最強の吸血鬼の眷属は負けず劣らずに最強の吸血鬼になるんだよ。
「逆に言えば、その最強の吸血鬼になれるくらいの素体でなければ、その吸血鬼の眷属足りえない。眷属になれずに、そのまま血を吸われて死ぬんだ。死ぬだけなんだ。灰になってね。
「黒灰になってね。死に様だけは、吸血鬼と同じように死ぬんだ。
「だからこそ、意外に吸血鬼はあまり眷属を持たないんだ。弱い吸血鬼はたくさん眷属を作れるけれど、あんまり作ると眷属同士が結託して主を殺したりするからね。弱い吸血鬼の眷属はやっぱり弱いけれど、それでも数は力だ。それに、眷属の方は吸血鬼に
「もどきとはいえ、結果としてたくさんの吸血鬼を生み出した僕が言うべきことではないかもだけどね。そうだね、話をそちらに戻そうか。また脱線しかけたね。
「どこまで話したっけ……そうだ。僕は最強だという話だね。そうだね、僕は最強――最強クラスの吸血鬼だったんだ。
「こう見えても、僕はエリートなんだぜ。なんたってお姫様だからさ。王家の長い歴史でも類を見ない天才児とか持て囃されちゃって。だからこその箱入りクイーンだったのかもね。
「あんまり好かれる子供じゃなかったよ。強かったからね――最強すぎる程に。
「だからこそ、僕は一生眷属なんて作らないだろうと思ってた。こんな最強の僕の眷属になれるような最強なんて、宇宙の何処を探しても見つかるとは思えなかったし。
「だがまぁ結果として、僕は狂死郎を眷属にすることになるんだけれど――そこには聞くも涙、語るも涙も壮絶な物語があるんだけれど、それはまぁいいだろう。語るとしたら別の機会だ。あればだけどね。
「とにかく大事なのは、その物語の中で、その物語の結末で、僕は――
「――死にたくなった、ということさ。バッドエンドを迎えたんだ。みんなが不幸になって終わりを迎えた。そうだ、自殺しようと、思い立つ程にね。思い詰める程にね。
「さて、ここで君に突然だが、吸血鬼の死因ランキングを発表しよう。デデン。
「ドゥルルルルルル、バン。一位はなんと――自殺だ。ダントツでね。他にはさっき言った、眷属に殺されたりとかを含めた同士討ち、同族殺し。または他種族に殺されたり。とまぁそんな事例もあるが、先程も言った通り、吸血鬼は基本、不老不死だ。
「不死身だ。死なない身体を持つ種族だ。滅多なことでは殺されないし、死のうと思っても死ねる身分じゃあ、ない。死ねる身体じゃあ、ない。
「それでもどうしても死にたい。死にたくて死にたくて堪らない。生きているのが辛くて恥ずかしくて堪らない。
「そんな時、吸血鬼はどんな風に自殺するか――決まってる。
「自分よりも、最強の吸血鬼でも、及びもつかない程に圧倒的な存在。
「太陽に――殺してもらうのさ。お天道様に焼き殺してもらうのさ。こんがりとね。
「現代の吸血鬼伝説と言ったら、色んなフィクションの情報がごちゃごちゃしてて、なんだか弱点だらけの笑える存在になってはいるけれど、それでもこれは正しい情報だ――吸血鬼は、太陽に弱い。太陽には敵わない。
「僕達吸血鬼は夜行性なんだよ。太陽を避けるんだ。太陽から逃げるんだ。弱い吸血鬼なら、それこそ一瞬で灰になるからね。
「だからこそ、彼等吸血鬼もどき達も昼間は“擬態”して身を守ってるわけだが――おっと、これは喋り過ぎだね。いくらなんでも彼等に申し訳なさすぎる。っていうか篤に怒られちゃう。
「まぁそういうわけで、自殺を決意した僕は、太陽の下に身を投げ出したのさ。けど、さっきも言ったけど、僕は最強の吸血鬼だったからね。その不死身力も半端じゃあなかった。
「焼身自殺に失敗したんだ。死ねなかった。いや、正確には死にきれなかった。
「体は焼けた。当時は十代後半の、まさしく絶世の美女の姿だった僕――いや、嘘じゃないよ。ボン、キュ、ボンを体現したかのような美女だったんだ。まぁそんな僕の魅惑の身体を、小麦色どころじゃなく、皮膚が爛れるまで焼いたんだ。
「でも、そこから健康的な白い肌が再生した――炎の中でね。焼けるそばから再生し、再生するそばから焼かれたんだ。その繰り返し。地獄の繰り返しだった。
「さすがに死ぬかと思った。いや、死のうとしたんだけど。死んだ方がマシだと思える苦しみだった。いや、だから自殺してたんだけどね。それが、何日も、何日も続いた。
「そして、どれだけ経ったか分からない。そんな自殺の日々が、唐突に終わりを告げた。
「僕の身体を包んでいた紅蓮の炎が、真っ黒の炎に包まれて――焼かれたんだ。
「炎が、別の炎によって、焼かれた。燃えた。これ以上ないくらい、荒っぽい消火方法だった。
「そして、その炎の中を、一人の男が突っ込んで来て――僕を抱き締めた。
「その時には既に僕の自殺は殆ど完了していて、強引に自殺を中断された僕の身体は、みっともない幼女になってたけれど、それでもその男は、構わず僕を抱き締め続けた。
「そして、言ったんだ。『勝手に人を吸血鬼にして救っておいて、自分だけ死んで楽になろうなんて許さない。責任取って、俺と一緒に永遠を生きろ』って……中々、熱いプロポーズだよね。炎の中だけに」
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「こんな形で、愚かな吸血鬼の愚かな自殺騒動は幕を閉じたわけだが、めでたしめでたしとは、残念ながらいかなかった。
「ここで、話は最初に戻る――灰だ。僕が幼女になったのは、僕の身体の殆どが灰となって、黒灰になって、世界中に、この地球中に散っていったからなんだ。
「僕の灰が――死に損なった遺灰が、燃え上がって、煙となって、大空を舞ったんだ。僕の――正真正銘の吸血鬼の黒灰が、風に舞って、風に乗って、全世界へと広がった。
「だからこそ、僕は“始祖”なんだ。全ての吸血鬼の、母であり、元であり、主であり、始まりの祖先。
「君が戦った吸血鬼もどきも含めて、全ての吸血鬼は、僕の灰を体内に取り込んだことで、吸血鬼となったんだ。彼等は――ナノマシーンウイルスと呼んでいるみたいだけどね。
紅蓮髪の吸血鬼は、朗々と悲劇の起源を一人語る。