ハリー・ポッターと虹の女神   作:セバスチャン

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※作中に一部、残酷な描写(流血シーンなど)が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※6/7:文章をより読みやすいように微調整しました。


Petal7.『例え闇に囚われても

 宴も終わり城中の人々が寝静まった頃に、スネイプは一人、学校内を歩いていた。彼は玄関ホールを通り過ぎる時、中央に飾られた”炎のゴブレット”に静かな一瞥をくれてから、正面の石段を下り、灌木の茂みを抜けて、大きな石の彫刻の立ち並ぶ散歩道へやって来た。あちらこちらに彫刻を施したベンチが置かれていて、その一つに見知った魔法使いが座っている。――ダームストラング校の校長、イゴール・カルカロフだ。スネイプがベンチに座ると、カルカロフはやおら自分の服の左袖を捲り、”闇の印”を見せつけた。

 

「この数ヶ月の間にますますはっきりしてきた」イゴールは不安ではち切れそうな声で嘆くと、痛々しい傷跡を見るかのような目で自らの印を見つめた。

「私は真剣に心配しているのだ、セブルス。否定できる事ではないだろう?」

 

 スネイプはカルカロフにすぐ印を隠すようにと忠告すると、警戒心に満ちた目で周囲を見渡した。――今この学校にはムーディがいる。彼は公の授業で明確な敵意を見せるほどに、”闇の帝王”と深い繋がりを持つイリスを警戒していた。あのあらゆるものを見透かす魔法の目がこの光景を見つけたら、彼は間違いなく再び逮捕されるだろう。それどころか、彼と一緒にいた自分まで危ない。普段はもっと用心深い性分である筈のカルカロフは、スネイプに指摘を受けるまで『かつての宿敵がこの学校にいる』という事実を思い出す余裕すらなかったようだった。彼は我に返ったように息を飲み、急いで袖を引き伸ばして印を隠した。そして長い顎鬚を指に巻き付け、神経質そうな顔つきで何事かを考え込んでいる。

 

 ――イゴール・カルカロフはスネイプと同じ元”死喰い人”で、魔法省に捕えらえた時、多くの”死喰い人”を告発して難を逃れた人物だった。皮肉な事にスネイプもその告発された者の一人だったが、ダンブルドアの証言により無罪放免となった。しかしカルカロフのように仲間を売ってアズカバン行を逃れた者は、他にも大勢いた。敵の手に捕まるよりはと名誉の戦死を遂げたり、ご主人様への忠誠を貫きアズカバンへ入った者の方が、むしろ少ないくらいだ。多くの”死喰い人”はヴォルデモートが失脚した途端、もう彼は二度と戻って来ないと見切りを付けた。

 

 しかし彼らの目論見は外れた。十数年の時を経て、”闇の帝王”は再び現世へ降臨せんとしていた。闇の帝王は裏切り者を決して許さない。力を取り戻した彼がまず行うのはかつての仲間を呼び集める事、そして裏切った者への容赦のない制裁だ。カルカロフは朝目覚め、印が昨日よりも濃くなっているのを目の当たりにする度に、生きた心地がしないと言って、憐れみを誘う声でしくしくと嘆いた。しかしスネイプは彼を助ける余裕などない。自らの命よりも大切な、果たさねばならない使命がある。彼は落ち着き払った口調で応えた。

 

「私は何も騒ぐ必要はないと思うが、イゴール」

「この期に及んで、君は何も起こっていない振りをするつもりか?」

 

 カルカロフは薄い色の目を驚愕に見開き、盗み聞きを恐れるかのように周囲を見渡してから、不安げな押し殺した声で言った。

 

「あのお方はまもなく復活を遂げるだろう!もう我々に残された時間はほとんどない」

「なら、逃げればどうだ?」スネイプはそっけなく言い返した。

「私が言い訳を考えてやる。しかし、私はホグワーツに残る」

「余裕だな、セブルス。ご自分は安全な場所に守られ、ぬくぬくと高みの見物というわけか」

 

 カルカロフは唐突に吐き捨てた。先程までの耳障りの良いへつらい声も、笑みも、今やかなぐり捨てている。まさに醜悪な形相だった。彼の薄い色の目は氷の欠片のように冷たく研ぎ澄まされ、スネイプを睨み付けている。

 

「噂で聞いたぞ。お前は()()()が入学して以来ずっと、不正な補習授業で拘束しているそうだな。あのお方から自分だけを助けてもらうように教え込む時間はたっぷりとあった訳だ」

「あの授業は、旧友からの指示で実行しているだけだ」スネイプは冷え冷えとした声で応えた。

「断じて私の意志ではないし、元より彼女に助けを乞うつもりなどない」

「白々しい事を抜かすな!」

 

 カルカロフはついに怒りを爆発させ、スネイプの胸倉を掴み上げた。

 

「セブルス、あの子の加護を私にも与えろ!今すぐだ!さもなければ女学生が一人、この学校から永久に消え去る事になるぞ」

「ああ、好きにすれば良い」スネイプの黒い目がギラリと剣呑な輝きを放った。

「だがあの子はルシウスのものだ。手を出す事は私が許さん。あの子ではなく、ディメンターの加護を君が欲しているというなら別だがね」

 

 その時、睨み合う二人の左腕に僅かな違和感が走った。カルカロフはまるで雷に撃たれたかのように体を大きく痙攣させた後、急いで袖を捲り上げて印を覗き込み、深い絶望の感情に沈み込む事となった。その様子を見るだけで、スネイプには嫌というほど理解できた。――”闇の帝王”の復活がますます近づいてきているのだと。

 

 

 翌日の夜、地下牢にて”閉心術”の訓練が再開された。スネイプはイリスの心の表面をざっと眺め、精神状態が比較的安定している事を確認すると、杖を振るって地下牢内の作業机を片付けた。四方の壁に作り付けられた薬品棚が、壁の中に吸い込まれるようにして消えていく。スネイプはイリスを部屋の中央へ招き寄せ、薄い唇を開いた。

 

「”開心術”は言葉の通り、心を開き見る術だ。術者は相手の目を見る事で心を開く。非常に卓越した術者なら、目線を交わしただけで、相手が今何を考えているのかを垣間見る事だけでなく、必要であれば深く心の世界に潜り込み、本人すら気づいていないような奥底に眠る秘めた思いも把握する事が可能だ。

 ゴーント、”開心術”を侮るな。『自分の心を見られるだけなら、痛くも何ともない』と思っているな?『”磔の呪文”の方がもっと辛い』とも」

 

 スネイプは知らない内に”開心術”を使い、イリスの心の内を盗み見ていた。本心を暴かれて顔を真っ赤にするイリスを見て、スネイプは意地の悪い笑みを浮かべ、小さな子供に昔話を聴かせるように優しい声音で言葉を続けた。

 

「では能天気な君にもご理解頂けるよう、分かりやすい表現で説明して差し上げよう。

 ”闇の帝王”は不世出の”開心術”の達人である、最も偉大なる魔法使いだ。近い未来に、彼が復活を果たしたとする。君は再び彼に憑依された。彼は”開心術”を使って君の心に侵入し、君の友人関係を洗い出した。そして彼は君と最も親密な関係にある、()()()()()を見つけ出した」

 

 ”三人の子供”――すぐにハリーとロン、ハーマイオニーの顔が思い浮かび、イリスはドクンと心臓が大きく脈打つのを感じた。かつてリドルはイリスの友人関係を間違ったものだと言い放ち、自分を助けようとしてくれたハーマイオニーを”穢れた血”と罵り、彼女にバジリスクをけしかけた。

 

「ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー。この三人は、狂信的な純血主義者である彼にとって生きるに値しない子供達だ。君がいくら頑固に口を閉ざそうが、彼らと親友ではないと見え透いた嘘を吐こうが、何の意味も成さない。口は簡単に嘘を吐けるが、心だけはそうできないと、彼は良く知っているからだ。”闇の帝王”は舌舐めずりをして、泣き叫ぶ君の目の前で彼らを一人ずつ嬲り殺した」

 

 イリスはサーッと音を立てて血の気が引いていくのを感じた。バジリスクに石化の魔法を掛けられ、硝子のように硬く変質したハーマイオニーの肌の感触が蘇り、思わずブルッと身震いした。そんな彼女の様子に構わず、スネイプは歌うように話を続ける。

 

「親友を失って絶望に泣き叫ぶ中で、君は無意識の内に家族へ助けを求めた。”闇の帝王”の食指が再び動いた。――君の叔母君であるイオ・イズモはスクイブだ。君を帝王の目から守り、今日に至るまで隠し通した人物でもある。彼はまるでピクニックに行くような気軽さで、君の心から家の所在地を抜き取り、君の家へ”姿現し”した。いくら君のおば君が勇敢に戦ったところで、あのお方に勝つ事など出来ぬ。かくして君のおば君は、君の前へと引き摺り出され、最も無惨な方法で殺された」

 

 スネイプの言葉は、イリスの心に正視に堪えないほど恐ろしいイメージを生み出した。――大好きなイオおばさんがヴォルデモートの手によって深く傷つけられ、苦痛に呻きながらも自分を心配そうに見つめ、やがて命を手放していく光景だ。彼女は余りの恐怖に顔を真っ青にして、縮み上がった。おばさんが殺されるなんて、そんな事、決してあってはならない。ごくりと生唾を飲み込んでスネイプを仰ぎ見ると、もう彼は笑ってなどいなかった。真剣な表情で腕を組み、イリスをじっと見つめている。

 

「ご理解頂けたかな?」優しい声でスネイプは囁いた。

「”開心術”はあまねく全ての秘密を暴く。それに比べれば自分が苦しむだけの”磔の呪文”など、むしろ生温い方だ」

 

 スネイプは腕組みを解き、杖を構えながら言った。

 

「君が本当に大切なものを守りたいと思うのなら、”閉心術”を会得しなければならない。”閉心術”に呪文はない。強い拒絶の意志をもって、心を閉じるのだ。最初は、箱の中に自分の心臓を入れるイメージをすると良い。

 今から私は、再び君に”開心術”を掛ける。私が君の心へ直に触れる感触を感じられるように、ゆっくりとした速度で君の中へ入っていくとしよう。――ゴーント、強く思い、また想像する事が肝要なのだ。君の心臓を箱に入れ、私に触れられないようにしろ。私を拒絶するのだ」

 

 イリスは杖をギュッと両手で握り締め、目を深く閉じて一生懸命想像した。――自分の体から心臓を取り外し、脈打つそれを箱の中に入れ、蓋をして鍵を掛ける。イリスのイメージが固まった事を確認すると、スネイプは”開心術”を用いてイリスの心の中に侵入した。そのエメラルド色に輝く瞳を通り抜け、小さな頭を通り過ぎ、脈打つ心臓を撫で、さらに奥の方へと――

 

 

 イリスの心の世界で、二人は向かい合って立ち並び、真剣な表情で見つめ合っていた。――イリスは薄い硝子で出来た透明な箱の中に入っている。それは彼女が急ごしらえで作り上げた”閉心術”が、精神世界で具現化されたものだった。スネイプは箱の前まで歩み寄ると、その表面にひたりと手を当てて、力を込めた。

 

 やがてびしりと音を立てて大きな罅が入り、その罅を中心として蜘蛛の巣のような亀裂が広がっていく。――このままでは箱が壊されてしまう!焦ったイリスは両手を組み、目をギュッと瞑って想像を膨らませた。箱がもっと大きくなり、頑丈になるイメージだ。彼女の意志に従って表面の罅は修復されてゆき、硝子の箱は徐々に肥大化していく。しかしスネイプの力の方が、もっとずっと強かった。

 

「私を拒絶しろ、ゴーント!」スネイプは怒鳴った。

「このままでは、君は大切なものを全て失う事になるぞ!」

 

 大好きな親友達の明るい笑顔、イオおばさんに抱き締められた時のぬくもりが思い起こされ、イリスはたまらず震え上がった。――私のせいで、皆を危険に晒したりするもんか!彼女は奮起し、より一層力を込めた。もう二度と、あの人にハーミーを傷つけさせたりしない。見る間に箱全体がキラキラと光り輝き、罅は一つ残らず修復され、元の滑らかな表面へ戻った。箱は二倍ほどの大きさに成長し、厚みを増した壁が光を屈折させ、今は遠くの方に歪んで見えるばかりとなったイリスを見て、スネイプは満足気に言った。

 

「素晴らしい」

 

 イリスは言葉を発する余裕もないほどに集中していたが、不意にスネイプに褒められた事で有頂天となり、大きく気持ちが揺らいだ。その結果、せっかく上達しかけていた”閉心術”が乱れて、あれほど頑丈だった箱は今度はビニールのように柔らかくなり、イリスに覆い被さってきた。余りの自分の至らなさに恥じ入り、俯くイリスの様子を見て、スネイプは呆れたような笑いを口元に滲ませる。

 

「だがまだまだだな」

 

 スネイプが長い指で箱の残骸を一押しした瞬間、それは眩い光を放ち、粉々に砕け散った。イリスは降り注ぐ欠片から身を守るために、強く目を瞑ってしゃがみ込んだ。

 

 

 やがて大好きな親友達の声がして、イリスはゆっくりと目を開けた。――イリスはいつの間にか”隠れ穴”のロンの部屋にいた。クィディッチ・ワールドカップへ出かける前の日、オレンジ色に燃え盛るロンの部屋で、もう一人の自分がハリー達とシリウスの前で、祖母・メーティスが遺した呪いの事を話している。スネイプは、湯気が立ち昇る五人分のティーカップとお菓子が載った盆の横に立ち、その様子をじっと観察していた。

 

 ――これは”自分の過去の記憶”の世界だ。しばらく経ってからその事実に思い至ったイリスは、やがて大いに慌て始めた。自分の記憶が正しければ、もうすぐシリウスが『スネイプを信用するべきではない』と忠告してしまう。スネイプ先生がそれを聞いて心を痛める前に、どうにかしてここから移動しなくては。どうして彼は寄りにもよって、こんな記憶の中にいるのだろう。イリスがはらはらと気を揉んでいると、スネイプはふとこちらを向き、静かな口調で言った。

 

「ゴーント、先程の感覚を忘れるな。君の準備ができ次第、再浮上し、先程の作業を繰り返す」

「私、もう大丈夫です!」

 

 イリスは急いでまくし立てた。そしてわざとらしく何度も咳き込んで、ハリーとロンが揃って言い放った言葉を掻き消そうと頑張った。

 

 

 ――その時、窓から明るい陽光が差し込んで、イリスの豊かな黒髪を明るく透かし、彼女の白い膚を淡く光らせた。金色と青色の光が深く入り混じり、美しいエメラルド色へ変わった大きな瞳がスネイプを再び仰ぎ見る。

 

 スネイプはまるで時が止まったかのようにその場で立ち尽くし、彼女の目を魅入られたかのように見つめ返したまま、ピクリとも動かなかった。

 

「先生?」

 

 スネイプはイリスの言葉に応えなかった。感情の読めない昏い瞳がふと揺らいで、キラッと光を放ったような気がした。彼は熱に浮かされたように覚束ない足取りでイリスに近寄ると、顔を苦しそうに歪ませ、茫然と佇む彼女の頬へ手を伸ばした。

 

 しかしスネイプの指先が触れる寸前に、彼がイリスに覆い被さるような形になった事で窓の光が遮られ、彼女はすっぽりと影に包まれた。――まるで魔法が解けてしまったかのように、イリスは元の姿へ戻った。我に返ったスネイプは、火傷をしたように素早く手を引っ込める。彼女は恩師の不可思議な行動に首を傾げながらも、心配そうに見上げて口を開いた。

 

「先生、大丈夫ですか?あの・・・」

『だがその証拠がない』

 

 突然シリウスの鋭い声が後方から突き刺さり、彼女は驚いて息を詰めた。――なんてことだ、すっかり忘れていた。イリスがブリキ人形のようにぎこちない動作で振り向くと、記憶の中のシリウスが過去の自分へ向けて忠告を始めたところだった。いつも自分を助けてくれるスネイプ先生に、こんな事を聴かせたくなかった。静まり返った部屋の中で、シリウスの言葉だけが残酷に響き渡っている。イリスが気まずそうに縮こまる一方で、スネイプは先程の自分の行動の理由を静かに思い返していた。

 

 

 ――カルカロフの狂気、ムーディの警戒、そして濃くなる一方の”闇の印”。カルカロフに言われるまでもない事だ、”闇の帝王”はまもなく復活を遂げる。彼が降臨を果たした時、世界は再び――自分の事すらも信じられなくなるような――猜疑心と恐怖心、そして悪意に満ちたものへと変わっていくだろう。人を疑い、警戒し、自ら杖を取って戦う意志を持たなければ、この子は生き残れない。悪しき人々に利用され、絞り尽されて、無残に殺されるだけだ。不意にかつての幼馴染の亡骸の記憶がフラッシュバックし、スネイプはほとんど反射的に”耐えられない”と思った。

 

 スネイプは先程イリスに触れようとした手を茫然と見つめながら、()()()()()()()()をやっと自覚した。――自分がルシウスの命令に従い、どんなに辛く当たり傷つけるような言動を繰り返しても、彼女は健気にそれを耐え、いつでも陽だまりのような笑顔を浮かべて慕ってくれた。窓際に立った先程のイリスの姿と、かつて自分に笑顔を向けてくれた幼馴染の姿が重なり、スネイプは込み上げる想いを耐え忍ぶかのように深く目を瞑る。

 

 彼が永久の愛を捧げるリリー・エバンスとイリスは、あらゆる面で非常に良く似ていた。

 

 たった数年の間に、イリスはスネイプがどうする事も出来ないほど深く大切な場所にするりと入り込んで、リリーの思い出と一緒に笑っていた。この子の傍にいてずっと見守りたいと、スネイプは思った。しかしそんな事が出来る訳がないという事も、彼は良く分かっていた。

 

 ――”リリーを二度死なせる訳にはいかない”。そして彼女に警鐘を鳴らす事が出来るのは、今の自分だけだ。スネイプは唇を強く噛み締め、覚悟を決めた。

 

 やがてジニーが皆を呼びに来たために、記憶の中の人々は立ち上がってぞろぞろと部屋を出ていった。――イリスの記憶の領域から外れたのか、徐々に色を失っていくロンの部屋の中で、スネイプはただ物も言わずにじっと佇んでいる。彼女はその様子に狼狽し、唇を噛み締めた。きっと先生はシリウスの言葉に傷ついてしまったんだ。イリスはそっとスネイプの傍に近づいた。今やロンの部屋は跡形もなく消え去り、白い霞だけが二人を静かに包んでいる。

 

「君は何故、ブラックの忠告を信じない?」

 

 スネイプは唐突に尋ねた。昏い感情を宿した黒い目と、明るい光を放つ青い目が交錯したとたん、彼は眩しいものを見たかのように目を細め、顔をわずかに背ける。『何故シリウスの言葉を信じないのか』だって?イリスはその問いにすぐ答えを見出す事が出来た。そんなの決まってる。『私が先生を信じているから』だ。

 

「私は先生を信じています」イリスは揺るぎのない口調で言った。

「先生は私の味方です」

「・・・味方?」

 

 しかしスネイプはイリスの言葉尻を捕え、口元に酷薄な笑みを浮かべた。まるでイリスが「魔法薬学」の授業で間違えた回答をしてしまった時にするような、嘲りに満ちた顔つきだ。――どうして先生はそんな顔をするのだろう?イリスは大いに戸惑いながらも、スネイプを仰ぎ見た。次の瞬間、彼は感情の読めない目で小さな少女を絡め取り、静かな声で尋ねた。

 

「君は何故、私が()()だと思うのかね?」

 

 その瞬間、本能的に身の危険を感じたイリスの世界は、血のような真紅色に染まった。周囲から無数のボールが転がって来て、茫然と立ち竦む主人を守り、ニョキッと突き出した細い腕でスネイプに向かってクソ爆弾を投げつけ始める。しかしそれらを受ける前に、スネイプは杖を一振りしてボール達を弾き飛ばすと、イリスの腕を掴んでグイと引っ張った。

 

 二人はイリスの心の世界から弾き出され、現実世界へ戻った。イリスは思わずよろめきながらも何とか踏ん張って、スネイプを縋るような目で見つめた。胸がざわざわと騒ぎ、言いようのない不安が込み上げて来る。――先生は私の味方だ。彼女は何度も自分に言い聞かせた。さっきのは、きっと聞き間違いだったのに違いない。けれどもそんな思いを嘲笑うかのように、スネイプは左袖を捲って印を見せ、彼女の目の前で口付けてみせた。

 

「先生?」イリスは乾き切った唇を開き、何とか声を絞り出した。

「君はブラックの言う通り、彼らを頼るべきだった。私の家に来たのは間違いだったな」

 

 スネイプは冷笑し、イリスに”切り裂き呪文”を放った。禍禍しい光線は左肩に命中し、皮膚が大きく裂けて鮮血がほとばしり、彼女は痛みと驚きの感情に打ちのめされ、苦痛に喘ぎながらスネイプを見た。――本当は彼の手により、受けた傷はすぐさま治癒されていたが、恩師の裏切りに狼狽するばかりのイリスは気づかなかった。自分で創り出した血溜まりに足を取られて転び、床を這いずって逃げようとする彼女に向け、スネイプは”磔の呪文”を唱えた。それはイリスがピーターに受けたものとは比べ物にならないほど優しい痛みだったが、彼女はそれに気づく余裕すらなく、自らの血に塗れながら泣き叫んだ。

 

「やめてください!やめて・・・」

「君がみだりに人を信用するからだ。改心する”死喰い人”など存在しない」

 

 本当にその通りだった。スネイプが知る中で、過去の罪を本当に悔い改めた”死喰い人”など、一人足りともいなかった。――かくいう彼も足を洗った身だが、それは今までの行いを反省したからではない。リリーの子供を守るためだ。彼らは皆ずる賢く、嘘が上手い。そう遠くない未来、『スネイプ先生も改心したから大丈夫だ』と、本当の悪意を秘めた彼らに口先三寸で騙され、利用し尽されるイリスの姿が目に見えるようだった。スネイプは容赦なくそう言い放ち、壁際にまで後ずさり、涙を浮かべて自分を見つめる彼女を射竦めた。――この期に及んでも彼女は杖を取ろうとせず、縋るような目を向けている。攻撃を止めてくれると信じているのだ。ギリと唇を噛み締め、スネイプは唸った。そして杖を向け、力を込めて”ある呪文”を唱えた。

 

「アバダ・・・」

「エクスペリアームス、武器よ去れ!」

 

 スネイプの杖先に恐ろしい緑色の火花が飛び散った瞬間、イリスは反射的に杖を引き抜き、”武装解除呪文”を唱えた。かくして彼の杖は弾き飛ばされ、”死の呪い”は回避された。――イリスは生まれて初めて、スネイプに抵抗した。彼は武器を失っても戸惑う様子すら見せず、彼女の傍にしゃがみ込んで、小さな顎を掴み、自分の方にグイと向けさせた。

 

「ゴーント。私の心の内が見えるか?」

 

 スネイプはしっかりとした声音で問いかけた。イリスは怯えながらも力を込めて彼の瞳を見つめたが、いくら頑張っても彼の目の奥に虹色の輝きは見い出せない。彼女は力なく首を横に振った。

 

()()()()()()()()()()()()()。そしてそれは、私も含めてだ」

 

 スネイプは静かにそう言うと、床に転がった自分の杖を拾い上げて、イリスに向けて歌うように美しい呪文を唱えた。するとみるみるうちに彼女の体に残るわずかな傷が全て消え去り、床に広がる血溜まりや衣服の裂かれた部分までもが綺麗に修復されていった。スネイプはイリスに”血の生成を促す薬”を飲ませ、言葉を続けた。

 

「君は”開心術”の才能を有している。常に相手の心を覗き、見えぬ者は信用せぬ事だ。――かつて”闇の帝王”が支配していた時代は人を疑う心と嘘、そして悪意が蔓延していた。君のように嘘を見抜けないお人好しは、いつも死の一番乗りだった。表面上は優しい笑顔を浮かべているが、その裏で悪しき事を考える者は、吐いて捨てるほど存在する。君は人に対して、もっと警戒心を持つべきだ」

 

 ――それはスネイプが身をもって発した”警告”だったが、その意味を真に理解するには、まだたった十四歳の平凡な女の子には早すぎた。イリスは空っぽになった薬瓶を持ったまま、スネイプの昏い目を頑固に眺めていた。いくら力を込めても、虹色の煌めきは見えない。彼が深く心を閉ざしているからだ。

 

 やがてスネイプはイリスの手から薬瓶を回収し、彼女の体調の最終確認を終えると『寮に帰ってゆっくりと体を休めるように』と言い、部屋の外へと送り出し、扉を閉めようとした。しかしその扉をガッと掴んで、阻んだ者がいた。――イリスだ。

 

「心の内を読める者だけを、先生は信じろと仰いました」

 

 涙と鼻声でくぐもった声で、イリスは挑むように言った。――一体、何が言いたい?彼女の言葉の意図が読めず、スネイプはゆらりと幽鬼のように顔を下げて、小さな少女を見つめた。泣き腫らしたエメラルド色の目が、はっきりとした決意に燃えている。先生や他の人々が何をどう言おうが、私は先生を信じたい。イリスは強くそう願った。今まで築き上げて来た彼との絆は、そう簡単に崩れるものではない。彼女は一切の迷いのない声音で、こう続けた。

 

「私、いつか必ず先生の心を開きます。そうしたら、また私は先生を信じる事ができるから」

 

 余りの事にスネイプは言葉もなく、ただイリスを見つめた。――いつも頼りなくおどおどとしているこの少女は、時として驚くような芯の強さを垣間見せる。まるで”蓮の花”だ、スネイプはそう思った。汚泥の中で一片の穢れもない美しい花を咲かせる蓮のように、自分がどれほど傷つけ、冷たく突き放しても、イリスはずっと傍にいて、清らかな笑顔を向けている。

 

 ――イリスの力が遠く及ばない、暗く深い海の底、際限のない後悔と懺悔の感情に埋め尽くされた場所で、リリーの亡骸を抱き締めてうずくまるスネイプに一条の光が差した。彼は虚ろな目でその光を見つめ、力なく微笑み、こう言った。

 

「やってみるがいい。君にできるものなら」

 

 

 イリスは地下牢を出たあと、ぼんやりとした足取りでグリフィンドール塔へ戻った。もう夜も更け、談話室にはほとんど人気はない。部屋の隅っこにはフレッドとジョージがいて、羊皮紙を片手に何やら真剣な表情でヒソヒソと話し合っている。

 

「おかえり」

 

 不意に優しい声がして、イリスは急いで声のした方へ視線を送った。――ハリーだ。いつもの特等席に座り、クィディッチ・ワールドカップのプログラムを読み込んでいるようだった。彼は朗らかに笑い、テーブルの上に置いてあった皿を差し出した。美味しそうなスコーンがいくつか載っていて、クロテッドクリームもたっぷりと添えられている。

 

「こっちにおいでよ。・・・疲れただろ?お茶にしよう」ハリーはポットから暖かい紅茶を注ぎながら言った。

「紅茶にミルクを入れようか。どうする?」

 

 『心の内が見えぬ者は信じるな』――その時、スネイプの言葉が警鐘のようにイリスの耳の中で鳴り響き、彼女は無意識の内にハリーの目を覗き込んで、虹色の光を見出していた。――彼の心は、自分に対する愛情と思いやりに溢れている。その優しい気持ちはまるで暖炉の炎のように、冷え切った彼女の心を暖めた。そして親友の心を勝手に覗き見た事で生まれた罪悪感と、そうしなければ生きる事ができないと説いたスネイプの忠告が、イリスの頭の中で複雑に入り混じり、心臓が張り裂けそうに震えた。彼女は黙ってハリーの隣に座ると、彼の肩にそっと頭をもたせ掛けた。彼はたまらず顔を真っ赤に染め上げ、優しく抱き寄せる。

 

「イリス、どうしたの?」

 

 しかしイリスは問い掛けに応えなかった。代わりに、わずかに鼻をすする声が聴こえた。――泣いている。たちまちハリーの脳裏にスネイプの意地の悪い顔がパッと思い浮かび、彼は警戒した声で言った。

 

「あいつに何かされたのか?」

 

 イリスは首を横に振り、ますます強く彼にしがみついた。ハリーは彼女が心配な一方、とても心地良い幸福感に身を任せ、ひとまず彼女が落ち着くまでずっとこうしている事にした。

 

「大丈夫だよ。僕が傍にいる」

 

 ハリーが頭を撫でながら優しく言うと、イリスは安心したようにこくんと頷いた。――イリスはハリーを実の兄のように慕い、甘えていたが、ハリーは一人の女性としてイリスを愛していた。それぞれが抱く想いはとても似ているようで、その行く先は悲しいほどに異なっていた。

 

 その時、どこからかクスクスと忍び笑いが聴こえてきて、ハリーは我に返り、後ろを振り向いた。――フレッドとジョージだ。二人はハリーの視線に気づくや否や、芝居がかった所作でお互いを見つめ合い(ジョージはイリス役を買って出たのか、妙に乙女チックな立ち振る舞いをしていた)、熱烈なキスをするジェスチャーをした。そしてハリーに向かって”行け!”とハンドサインを出した。

 

 二人が何をさせようとしているのか理解したハリーは、ただ顔を真っ赤にして硬直するばかりだった。いつまで経っても彼が動かないので、しびれを切らした二人は溜息を零して席を立ち、「おやすみ」と言って男子の部屋へ続く階段を上がって行ってしまった。――フレッドは二人の傍を通る時、「()()()!」とハリーの頭を軽く小突いた。

 

 

 翌日は土曜日で、普段なら遅い朝食を摂る生徒が多いはずだった。しかしイリス達はこの週末はいつもよりずっと早く起きた。身だしなみを整えた四人が玄関ホールに下りていくと、すでに二十人ほどの生徒がウロウロしているのが見えた。みんな朝食を持ち込んで、ホールのあちこちに座り込み、”炎のゴブレット”を眺め回している。ゴブレットはホールの真ん中に、いつもは”組分け帽子”を載せる丸椅子の上に置かれていた。床には細い金色の線で、ゴブレットの周りに半径三メートル程の円が描かれている。

 

「ねえ、誰か名前を入れた?」ロンがうずうずしながら、近くにいたハッフルパフ生の女の子に訊いた。

「ダームストラングが全員。だけどホグワーツからは、私は誰も見てないわ」

「昨日の夜、皆が寝てしまってから入れた人もいると思うよ」ハリーは言った。

「僕だったらそうしたと思う。皆に見られたくないもの。ゴブレットが名前を入れたとたんに掃き出してきたりしたら嫌だろ?」

 

 その時、ハリーの背後で大きな笑い声がして、四人は一斉に振り返った。――フレッドとジョージ、リー・ジョーダンが急いで階段を降りて来るところだった。三人共ひどく興奮している様子だ。

 

「やったぜ」フレッドが有頂天で言った。

「”老け薬”を飲んだんだ。一人一滴な」ジョージが両手を擦り合わせながらロンにウインクした。

「三人の内、誰かが優勝したら一千ガリオンは山分けにするのさ」

 

 リー・ジョーダンはニヤリと不敵に笑ったが、ハーマイオニーは”極めて遺憾です”と言わんばかりの表情を浮かべ、実に彼女らしい警告の言葉を送った。しかし三人は見事にそれを聞き流し、早速フレッドが足を踏み出した。イリスは固唾を飲みドキドキしながら、その様子を見守った。今や彼女だけでなく、玄関ホールの全ての人々が息を飲んで見守る中、フレッドは勇気をもって線の中に足を踏み入れた。

 

 一瞬、上手くいったとみんなが思い、口々に歓声を上げかけた。ジョージもきっとそう思ったのだろう、フレッドの後を追って飛び込んだのだ。しかし次の瞬間、双子は金色の円の外に放り出された。二人は三メートルほども吹っ飛び、冷たい床の上に叩きつけられ、それから全く同じ”白い髭”が生えて来た。

 

 玄関ホールが大爆笑に湧いた。フレッドとジョージでさえ、落胆するどころか、立ち上がってお互いの髭を眺めたとたん、腹を抱えて笑い出した。やがてダンブルドアがやって来て、ブルーの目を悪戯っぽく輝かせながら注意をし、医務室へ行くようにと指示を出した。ゲラゲラ笑っているリーに付き添われ、医務室へ二人は向かい、イリス達も笑いながら朝食を摂るために大広間へ向かった。

 

 大広間の飾りつけは今朝はすっかりと変わっていた。ハロウィーンらしく、生きたコウモリが大きな群れを成し、魔法のかかった天井の周りを飛び回っていたし、何百というジャック・オ・ランタンがあちこちの隅に飾られている。イリスが丁寧に裏ごしされたカボチャのポタージュに浸したパンを食べている間にも、大広間中の生徒達はみんな、誰もかれもが顔を合わせては、誰がホグワーツから立候補したかと話している様子だった。

 

「ハッフルパフじゃ、みんなセドリック・ディゴリーのことを話してる」シェーマスが軽蔑したように言った。

 

 ”セドリック・ディゴリー”――イリスは名前を聴いて、はたと思い出した。クィディッチ・ワールドカップで出会ったハッフルパフの上級生だ。とても礼儀正しいハンサムな青年で、クィディッチではハッフルパフ・チームのキャプテン兼シーカーを務めている。その時、玄関ホールの方で大きな歓声が上がった。やがてグリフィンドールの上級生、アンジェリーナ・ジョンソンが少しはにかんだように笑いながら大広間に入って来て、イリスとハーマイオニーの間に腰掛けるなり、明るい声で言った。

 

「私、名前を入れて来たわ!先週が誕生日だったの!」

 

 輝くような笑みを浮かべるアンジェリーナを、イリスとハーマイオニーは憧れに満ちた眼差しで見つめた。――竹を割ったような性格の彼女は、グリフィンドール・チームの名チェイサーであり、女の子達の憧れの的でもあった。何より、グリフィンドールで立候補者が出るのはとても嬉しい事だ。二人はアンジェリーナの肩越しに見つめ合い、微笑んだ。

 

「貴方が選ばれるといいな、アンジェリーナ」とハーマイオニー。

「私もお祈りしてるよ」とイリス。

「ありがとう、二人共」

 

 アンジェリーナは凛とした顔を優しく緩ませ、微笑みかけてくれた。そうこうしている内に四人は朝食を摂り終わり、短い話し合いの末、久しぶりにハグリッドの小屋へ遊びに行く事になった。ハーマイオニーが『ハグリッドにSPEWの勧誘をしていなかった』と言って、バッジを取りに駆け戻っている間、三人は玄関ホールに佇み、何をするでもなく”炎のゴブレット”をじっと見つめていた。

 

 その時、ボーバトン生が校庭から正面の扉を通ってホールへ入って来た。一団の中に、とんでもなく美しい少女がいる。長いシルバーブロンドの髪がさらりと腰まで揺れ、大きな深いブルーの瞳は宝石のように輝き、にっこりと笑うと真っ白で綺麗な歯並びがキラリと光った。――イリスはこんなに美しい人を見たのは、生まれて初めてだと思った。”炎のゴブレット”を取り巻いていた生徒達が、一行を食い入るように見つめながら、道を開ける。マダム・マクシームが生徒の後からホールへ入り、彼女の指示で生徒達は一人ずつゴブレットへ紙を投げ入れていく。

 

「あの人、ヴィーラだ!」ロンが掠れた声で言った。

「間違いない、あれは普通の女の子じゃない!」

 

 ロンが言う事も最もだとイリスは思った。まさに惹きつけられるような美しさだ。通常は男性にしか作用しない筈の美少女が有する”ヴィーラの魔力”は、”動物と会話できる能力”を持つ、感受性の高いイリスにも充分な影響を与えていた。ゴブレットを入れる時の所作さえ美しく見えて、イリスは思わずホウと感嘆の溜め息を零した。

 

「ホグワーツじゃ、ああいう女の子は作れない!」とロン。

「ホグワーツだって、女の子はちゃんと作れるよ」

 

 ハリーは反射的にそう言い返し、イリスを熱を帯びた目でチラッと見た。――ハリーにとってはシルバーブロンド美少女より、隣に立つイリスの方が遥かに魅力的だった。ロンはやがて、バッジを取りに戻ったハーマイオニーにバシッと頭を叩かれ、我を取り戻した。かくしてイリス達はハグリッドの小屋を目指して歩き出したが、ロンの目は依然として、前方を歩くボーバトン生――の中にいる美少女――へ据え置かれたままだった。

 

 禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋に近づいた時、小屋から百メートルほど離れた場所に、数日前にボーバトン生が乗って来た、巨大なパステル・ブルーの馬車が安置されているのが見えた。彼らはその馬車へ向かい、順番に中に入って行く。その様子を見守りながら、イリスは数日前にカルカロフ校長に言われた言葉を思い出した。――彼は”自分の船で寛いではどうか”と言っていた。恐らくボーバトン生もダームストラング生も、三校対抗試合が行われている間は、馬車や船の中で寝泊まりするのだろう。

 

 ハリーが代表して小屋の扉をノックすると、すぐにファングの低く響く吠え声がした。ハグリッドが勢いよく扉を開け、出迎えてくれた。

 

「よお、お前さん達!元気か?」

 

 ハグリッドはにっこり笑ったが、四人はピシリと固まって二の句が告げないでいた。――ハグリッドは一張羅の毛がモコモコと膨らんだ茶色い背広を着込み、黄色と橙色の格子縞ネクタイを締めていた。おまけに髪を撫でつけようとしたらしく、業務用のグリースかと思われる油を塗りたくったせいで、ギラギラとした虹色に輝いている。髪は何故か二束にくくられて垂れ下がっていた。どう贔屓目に見てもハグリッドには似合わなかったし、むしろ前の恰好の方がずっと良かった。ハーマイオニーは目を白黒させてハグリッドを見つめていたが、結局何も言わない事に決めたらしく、こう言った。

 

「エーット・・・スクリュートは元気?」

「元気だぞ。でっかくなって、もう一メートル近いな。ただ困った事に、お互いに殺し合いを始めてなあ」

 

 ハグリッドは『お前さんの忠告した通りだった』と言って、悲しそうな顔でイリスを見つめた。心配そうにハグリッドを見つめ返す彼女は、他の三人が明らかにホッと胸を撫で下ろしている様子に気付かなかった。

 

「だがもう大丈夫だ。もう別々の箱に分けてやった。今度の授業はあいつらのお散歩だぞ。お前さんのリクエストに応えてな!」

 

 ハグリッドは嬉しそうにイリスにウインクしてみせた。すかさずロンが殺意を込めた目線を彼女に飛ばしながら、変に明るい声でこう言った。

 

「ワーオ!お散歩だってさ。イリス、ナイス・アイディア!」

 

 ロンの放った皮肉は、ハグリッドには通じていないようだった。やがてハグリッドがお茶の準備を始めたので、四人はテーブルに着き、すぐにまた三校対抗試合の話に夢中になった。ハグリッドは何やら試験の内容を知っているようだったが、いくら四人がせっついても笑ってはぐらかすばかりで教えてくれようとはしなかった。ハグリッドはランチに鉤爪入りのビーフシチュー、デザートにカチカチのロックケーキを出してくれた。それに(イリスだけ)舌鼓を打ちながら、試合の種目が何なのか、あの手この手で彼に言わせようとしたり、立候補者の中で代表選手に選ばれるのは誰なのか推測したり、フレッドとジョージの髭はもう取れただろうかなどと話したりして、四人は楽しく過ごした。

 

 昼過ぎから小雨になった。急に使命を思い出したハーマイオニーは、バッジを片手に熱弁を振るってSPEWに勧誘したが、ハグリッドは『それは屋敷しもべ妖精のためにならない』と言って拒否した。イリスはそんな彼をベッドに座らせ、その後ろに立って杖を振るい、彼の髪型をお洒落なポニーテールにする事に成功した。それから彼が”オーデコロン”だと言い張る、耐え難い匂いを放つ謎の水の成分を調べ、手持ちの薬草をいくつか放り込んで、彼に似合うような爽やかな香りが漂う、本物のオーデコロンへ再調合した。そんなのんびりとした穏やかな時間が過ぎ、いよいよハロウィーンの晩餐会、そして”炎のゴブレット”が選んだ各校の代表選手を発表する時間が迫って来ていた。

 

 イリス達は小屋を出て、大広間へ戻るために学校に向かって歩いた。すると途中でボーバトン生を引き連れてマダム・マクシームがやって来た。その瞬間、イリス達の目の前で、ハグリッドが駆け出した。そして早足で彼女に追いつくと、二人はふと立ち止まり、熱を帯びた目でお互いを見つめ合った。マダム・マクシームがハグリッドの髪を撫で、心地良さそうに鼻を動かしているのが見える。やがて二人は仲良く寄り添い、歩き去って行った。彼らの後を、ボーバトン生が小走りでくっ付いていく。

 

「まさか、あの二人付き合ってるの?」ハーマイオニーが愕然とした声で言った。

「子供ができたら、新記録だぜ。一体何トンあると思う?」ロンが囁いた。

 

 二人の未来の行く末は分からないけれど、後ろ姿はとても良く似合っている。イリスは心の中で二人の初々しい姿に声援を送りながら、学校へ戻った。

 

 

 四人が大広間に戻った頃には、蝋燭の灯りに照らされた大広間は、ほぼ満員だった。”炎のゴブレット”は、今は職員テーブルの正面に移されていた。フレッドとジョージが髭もすっかりなくなり、失望を乗り越えて元の調子を取り戻し、気さくに笑っている。やがてダームストラング生の一行がぞろぞろとやって来て、クラムはイリスの傍に座った。そしてまたあの熱を帯びた目でチラッとハーマイオニーを見た。

 

 ハロウィーンパーティはいつもより長く感じられた。大広間の誰もかれもが首を伸ばし、待ちきれないという顔をし、そわそわしたり立ち上がったりしている。みんな早く皿の中身が片付けられて、誰が代表選手に選ばれたか聞けるといいのにと思っていた。イリスは大きなシュークリームを食べている時、ハリーに小突かれて、彼の指し示す方を向いて、アッと驚きの声を上げた。かつてクィディッチ・ワールドカップで見かけた、バグマン氏がカルカロフ校長の隣に、そしてクラウチ氏がマダム・マクシームの隣に座っている。

 

「あの二人だ」ハリーが驚いて声を上げた。

「一体何をしに来たのかな?」

「きっと三校対抗試合を組織したのは、彼らなんじゃないかしら?」

 

 ハーマイオニーがイリスと白く豊かなブラマンジェを半分こしながら、思慮深げに言った。

 

「誰か代表選手になるのか、見たかったんだと思うわ」

 

 ついに金の皿がきれいさっぱりと元のまっさらな状態となり、大広間のガヤガヤが急に大きくなったが、ダンブルドアが立ち上がると、一瞬にして静まり返った。ダンブルドアはまず、このイベントを復活させるに当たっての立役者としての二人――「国際魔法協力部」部長のクラウチ氏、「魔法ゲーム・スポーツ部」部長のバグマン氏をみんなに紹介した。クラウチ氏の時はパラパラと儀礼的な拍手が送られたが、バグマン氏の時はとても大きな拍手が上がった。ビーターとして有名だったからかもしれないし、ずっと人好きする容貌だからかもしれなかった。

 

 バグマンは誰彼構わず笑顔で手を振っていたが、イリスとバチッと目が合うと熱烈な投げキッスをしてくれた。その様子がとても面白くて、彼女は思わず吹き出してしまった。一方でクラウチは皆に向かってにこりともせず、手を振りもしない。ゴブレットにも全くの無関心で、ほとんどうんざりとした表情だった。イリスがこわごわ目を凝らしてみると、なんと彼は遠目にも分かるほどにげっそりと痩せこけている。一体どうしたんだろう。イリスは心配になって尋ねた。

 

「ねえ、クラウチさん、すごく顔色が悪いよ。大丈夫かな」

「さあね。フレッドが残した”老け薬”でも飲んだんじゃない?」ロンが適当に言った。

 

 そして、いよいよその時はやって来た。ダンブルドアは『代表選手として名前が呼ばれたら、大広間の一番前に来て、教職員テーブルの先にある部屋に向かうように』と告げ、杖を一振りした。くり抜きかぼちゃを残して、あとの蝋燭が全て消え、部屋はほとんど真っ暗になった。”炎のゴブレット”はいまや大広間の中でひときわ輝き、キラキラした青白い光が目に痛いほどだった。全ての目が見つめ、待った。

 

 やがてゴブレットの火が、突然赤くなった。火花が飛び散り始め、次の瞬間、炎が宙を舐めるように激しく燃え上がり、炎の舌先から焦げた羊皮紙が一枚、ハラリと落ちて来た。全員が固唾を飲んだ。ダンブルドアがその羊皮紙を捉え、再び青白くなった炎の灯りで読もうと、腕の高さに差し上げた。そして力強い口調で読み上げる。

 

「ダームストラングの代表選手は、ビクトール・クラム」

 

 大広間中が拍手の嵐、歓声の渦に飲み込まれた。イリスが「おめでとう」と言うと、クラムはぎこちなく微笑んで立ち上がり、前かがみでダンブルドアの方へ歩いて行き、やがて指示された部屋へと消えた。カルカロフ校長も満足気な様子で、彼を褒め称えている。

 

 数秒後、再び赤く炎が燃え上がり、拍手とお喋りはすぐに静まった。みんなの関心を集め、炎に巻き上げられるように、二枚目の羊皮紙が中から飛び出した。ダンブルドアがそれを捕まえ、また読み上げる。

 

「ボーバトンの代表選手は、フラー・デラクール!」

「ロン、あの人だ!」

 

 ハリーが叫び、ロンは魅入られたように少女を見つめた。美少女が優雅に立ち上がり、シルバーブロンドの豊かな髪をサッと振って後ろへ流し、長テーブルの間を滑るように歩いて、部屋の奥へと去って行った。――ロンは気が付かなかった。彼が夢中になってその後ろ姿を見ている間、ハーマイオニーが嫉妬の炎を宿した瞳で自分を睨んでいる事を。

 

 フラーが行ってしまうと、また沈黙が訪れた。しかし今度は興奮で張り詰めた沈黙が、ビシビシと肌に喰い込むようだった。――次は、ホグワーツの代表選手だ。そして三度、”炎のゴブレット”が赤く燃えた。溢れるように火花が飛び散り、炎が空を舐めて高く燃え上がり、その舌先からダンブルドアが三枚目の羊皮紙を取り出した。そしてその名前を見て、暖かな笑顔を浮かべた。

 

「ホグワーツの代表選手は、セドリック・ディゴリー!」

「ダメ!」

 

 ロンが大声を出したが、幸運な事にイリス以外には誰にも聴こえなかった。ハッフルパフ生は総立ちになり、叫び、激しく足を踏み鳴らした。セドリックがにっこり笑いながら、その中を通り抜け、テーブルの向こうの部屋へと向かった。セドリックの拍手が余りに長々と続いたので、ダンブルドアが再び話し出すまでにしばらく間を置かなければならないほどだった。

 

「結構、結構!」

 

 大歓声がやっと収まり、ダンブルドアが嬉しそうに呼びかけた。

 

「さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかったボーバトン生も、ダームストラング生も含め、みんな一緒に心から代表選手達を応援してくれることと信じておる。選手に声援を送る事で、みんなが本当の意味で貢献でき・・・」

 

 ダンブルドアが突然言葉を切った。何が気を散らせたのか、誰の目にも明らかだった。――”炎のゴブレット”が再び赤く燃え始めたのだ。火花が迸った。突然空中に炎が伸び上がり、その舌先にまたしても羊皮紙を載せている。ダンブルドアが反射的に長い手を伸ばし、羊皮紙を捕まえた。彼はそれを掲げ、それに書かれた名前をじっと見た。長い沈黙が流れ、今や大広間中の目がダンブルドアに集まっていた。やがて彼は咳払いし、そして読み上げた。

 

「ハリー・ポッター」

 

 

 大広間中の目が一斉に自分に向けられるのを感じながら、ハリーはただ座っていた。驚いたなんてものじゃない。体中が痺れて感覚がない。夢を見ているのに違いない。そうだ、きっと聞き間違いだったのだ。ハリーは何度も自分にそう言い聞かせた。

 

 誰も拍手しない。みんながハリーを睨み付け、好き勝手な事をヒソヒソと囁き合い始め、その声は怒った蜂の群れのようにわんわんと唸り、大広間じゅうに広がった。凍り付いたように座ったままのハリーを立ち上がって良く見ようとする生徒もいる。上座のテーブルでは、マクゴナガル先生が立ち上がり、切羽詰まった様子で何事かダンブルドアに囁いた。ダンブルドアは微かに眉を寄せ、彼女の方に体を傾けて耳を寄せている。

 

 ハリーはイリス達の方を振り向いた。イリスとハーマイオニーは揃ってポカンとした表情を浮かべ、彼を見つめ返した。ロンは彼の方を見ようともせず、熱心な眼差しをゴブレットに注いだままだ。その周りに、長いテーブルを取り囲むようにしてグリフィンドールとダームストラングの面々が座り、みんな口をあんぐり開けてこちらを眺めている。

 

「僕、名前を入れてない」ハリーは放心したように呟いた。

「僕が入れてないこと、知ってるだろ?」

「分かってるよ。そんなことより、もう少し待てよ、ハリー」ロンは息を潜めながら、とうに火が消えているゴブレットを用心深く見つめた。

()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――その言葉は静まり返ったグリフィンドールのテーブルに思いの外響き渡り、みんな一斉に大爆笑した。ボーバトン生とダームストラング生、他の三つの寮の生徒達が冷ややかな視線を向ける中、グリフィンドールのテーブルの雰囲気は一気に和やかになった。

 

「ハリー・ポッター!」

 

 ダンブルドアが名前を呼んだが、先程よりは少し声音は柔らかかった。

 

「行くのよ」

 

 ハーマイオニーはハリーの背中を押して囁いたが、イリスは顔を真っ青にして彼の服の袖を掴み、引き留めた。

 

「ダメだよ、だってハリーは名前を入れてない。行く必要ないよ!」

「イリス。あのゴブレットには魔法契約の拘束力があるの」ハーマイオニーは苦しそうに言った。

「つまりハリーは代表選手に選ばれた以上、試練を果たす義務がある。行かなきゃ」

「大丈夫だ、イリス」ハリーは果敢にも微笑んで、イリスの頭を撫でた。

「行ってくるよ」

 

 ハリーは歩き出した。何百と言う目がサーチライトのように一斉に自分に注がれ、心無い誹謗中傷の言葉がハリーに襲い掛かったが、親友達が自分を信じてくれていると思うだけで、彼の気持ちは不思議と揺らぐことがなかった。彼はダンブルドアの指示に従い、部屋の中へ入った。

 

 

 疑念の渦が湧き起こったまま、宴は解散となり、イリス達は談話室へ戻った。みんなどんな理由であれ、ハリーが代表選手に選ばれた事が嬉しいのか、談話室内はかなりのお祭り騒ぎ状態になっていた。ご馳走がたっぷりと談話室には用意されていて、イリス達はバタービールの瓶とお菓子を少しばかり持つと、騒ぐ人々から離れて、いつもの特等席に座り込んだ。

 

「なあ、一体誰が名前を入れたんだと思う?」ロンがバタービールの瓶の栓を抜きながら、呟いた。

「言っておくけど、ホントにハリーじゃないぜ。あいつ、前に僕がこっそりゴブレットに名前を入れるかどうか相談した時に、返事しなかったんだ。それに・・・」

 

 ロンはチラリとイリスを見て、気まずそうに目を伏せた。

 

「君が「闇の魔術に対する防衛術」の授業であんなひどいパニック起こしたのに、名前を入れようって思う訳ないよ。あいつなら傍にいてやろうとするはずだろ?それこそ金魚のフンみたいにさ。代表選手になってる時間がもったいないって思うはずだよ」

 

 ――元・平凡代表選手のイリスを通して、自分がいかに恵まれている境遇にいるかという事を思い知ったロンは、昨今の彼女の強烈なパニックを間近で目撃し、ますますその思いを強くしたようだった。彼のハリーに対する思いやりと友情は、イリスとハーマイオニーの心を優しく暖めた。

 

「もういいわよ」ハーマイオニーは顔を赤らめながら言った。

「でも本当に、誰が名前を入れたのかしら?生徒になんてできやしないわ。ゴブレットを騙す事も、ダンブルドアを出し抜く事も」

 

 すると、談話室の穴が開いて、ハリーが帰って来た。彼はすぐさま、待ち構えていたグリフィンドール生達に包囲され、拍手喝采と大歓声の中で、疲れ切った表情を隠そうともせずに佇んでいた。やがて彼は無理矢理、人々を振り切って、リー・ジョーダンに無理矢理巻かれたグリフィンドール国旗を引き摺りながらやって来た。三人は急いでハリーを迎え入れ、イリスはバタービールの瓶の栓を抜いて手渡した。彼はあからさまにホッとした表情を浮かべ、ソファにどさっと座り込んで、バタービールを一気飲みした。

 

「どうだった?」

 

 イリスが尋ねると、ハリーは浮かない表情で事の次第を教えてくれた。――あれから三校の代表選手、そして校長先生、スネイプとマクゴナガル、クラウチ氏とバグマン氏を交えて話し合いをしたが、ハリーは結局”四人目の代表選手”として出場する事になった。悲しい事に一部の人――マクゴナガルとダンブルドアとムーディ――以外は、みんなハリーが自分の名前を入れたと思い込んでいて、彼らに警鐘を鳴らすべくムーディはこう言い放った――『ゴブレットから名前が出てくればポッターが戦わねばならぬと知っていて、誰かが名前をゴブレットに入れた。そしてその者は恐らく、彼の死を望んでいる』と。

 

 周囲の浮かれた喧騒があっという間に遠のき、三人は青ざめた表情でハリーを見つめた。彼は強がって笑い、イリスを愛おしそうに見つめた。

 

「君の名前が出て来なくて良かったよ、ホント」

「でも誰なんだよ、死を望む者って・・・マルフォイか?」とロン。

 

 しばらくの間、ハリーは顎に手を添えて思案していたが、やがてふっと顔を上げた。――かつて見た夢の事を思い出したのだ。僕を死を望む者はたった一人、ヴォルデモートだけだ。もし奴らが話していた計画の一部が、この事だったとしたら。しかしこの事はシリウスだけに話し、皆には怖がらせると思って言っていなかった。ハリーがイリスに気を遣い、あえて彼女の部分は伏せてその話を聴かせると、三人はますます震え上がった。

 

「シリウスに相談しましょう」ハーマイオニーがきっぱりと言った。

「彼と話すべきだわ」

「それからハリー、一つだけ約束してくれ」不意にロンが深刻な表情で口火を切った。

「もし一千ガリオン獲得したら、()()()()()()()って」

 

 四人は一斉に吹き出した。――お茶目なロンは皆のムードメーカー的存在で、いつも雰囲気を和らげてくれる。それはロンにしか出来ない事だ。何かと危険や暗い影が覆い被さる事の多い四人の学校生活の中で、いつしか彼の存在はなくてはならないものになっていた。それをロン自身も知っていて、その事は彼の自尊心をますます強くさせた。かつて兄弟たちの間に埋もれ、自信をなくしていた彼は、自らの力で失った自信を取り戻し、強く育て上げる事に成功していたのだった。




頑張って書いてるのに、全然話が進まない…( ;∀;)書きたい事が多すぎる…。
逆に考えるんだ…炎のゴブ編は上下巻あるから、アズカバン編の二倍の話数で完結していいと…。

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