スキマに入ったら一瞬で月世界まで行ける、というわけではないらしい。なんだかグニャグニャ歪んでいる奇妙な空間を進んでいく。
「紫さん、あとどのくらいで着くのですか?」
「そうですよー、早くバトりたいです」
「私も、お嬢様から指令を受けているので」
「えっ、レミリア様このこと知ってたんですか? さすがカリスマ……ですね」
「あなたのとこのお嬢様威厳がなさそうね」
「それに比べて,紫お姉さんはみんなの役に立ってるわよー。もっと褒めてもいいわよ」
「わー、スゴイデスネー」
「どうしよう、このテンションについてけないんだけど」
「私もそうだから心配しなくていいと思うよ」
「あまり口をはさむとロクなことはないでしょうね」
前から文、早苗、咲夜、小悪魔、紫、永琳、さとりにしんがりが俺と大妖精と映姫。みんなぺちゃくちゃ喋っている。
パッと見いつも通りの光景だが、実は切羽詰まっている……ような気がする。
「ほら、もうちょっと緊張感持たないと」
パンパンと手をたたくと多数の目がこちらを睨みつけてくる。
「この布陣でそんなこと言われましてもねえ……」
「うん、早苗が言うとめちゃくちゃ説得力がある」
さっきから雰囲気が遠足みたいだ。
小学校の先生のような気持ちになりながら歩くこと十数分、
「えっと……ああ、これね。――みんな、ここに入れば月世界に行けるわよー」
1つのスキマをまさぐっていた紫が、手をメガホンにして叫ぶ。
両手でごそごそやっている内に、スキマが俺の背丈くらいに広がった。あれ伸縮可能なのか。
よく分からない驚きに浸っている間に、前から一列にスキマに入っていく。躊躇なく突入していて、みんな異変慣れしているな。
俺も負けてはいられない。パソコンの画面を開き、東プロ辞書を起動。いつでもスペルが発動できるようにしておく。
永琳の薬が強力過ぎて、体中に鋭気がみなぎっている。強いスペルを出すほど体力を消耗する俺の能力だが、これなら妖怪でも神でも吸血鬼でも余裕そうだ。
「どうしたの、早くしなさいよ。開け続けるのめんどくさいのよ」
「ああ、ちょっと待ってくれ……」
1つ深呼吸して、心臓の高鳴りを抑える。
この時、ちょっとだけさとりの言葉が脳裏によぎった。
『これで最後かもしれませんし』
あれはもしや、これを予期していたのではないか。いまとなっては考えるだけ無駄だが。
「紫、先行ってくれ」
「え? ――まあいいけど。なるべく巻きでね」
紫がスキマに消えた後、
「大妖精、悪かったな。さっき話を遮って」
「ううん、こんなことになっちゃったもん。しょうがないよ」
「けど、大切な話なんだろ? 内容はよく分からないけど、これだけははっきり理解できる」
「そうだよ、ずっと前から言おうと思ってたこと。夏祭りとかね」
「夏祭り……ああ、あの花火の時か」
「そう、いつもタイミングを逃しちゃって……」
夏祭りというと……約半年前か。そんな昔から、思ってたのに口に出せない。重ね重ね、ひどい仕打ちをさせてしまったと自覚して、心が痛くなる。
「今度こそ、これが終わったら本当に、話そうな。それまで我慢してくれるか?」
「もちろん、慣れっこだからね」
クスッと笑う大妖精に俺もつられてしまう。
「そうか、ありがとう」
「えへへ……」
思わず手で大妖精の頭をポンポンしてしまった。
「よし、行くか!」
「うんっ‼」
2人で走って一気にスキマを脱出する。そこでは――、
「風符『風神一扇』」
「出会いがしらに弾幕とは礼儀が鳴ってないですね。私を見習ってほしいものです。想起『テリブルスーヴニール』」
「いや、お前も弾幕出してるだろ」
なんてツッコミはほどほどに、文たちが対峙してるほうへ首を回した。
そしたらそこにいたのは、
「……なるほど、さとりが分からないわけだ」
「あ、あれって、もしかして、式神⁉」
100体はいるだろうか。俺を散々苦しめてきた式神らしきものが襲い掛かっていた。
第七十三話でした。歯車が動き始めました。
もはや恒例となりつつある、遅れて申し訳ありません……。けもフレ事件が響いたんだ……
では!