東方好きの優斗と大妖精と   作:ゆう12906

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第七十三話 「アイツ」の正体

 スキマに入ったら一瞬で月世界まで行ける、というわけではないらしい。なんだかグニャグニャ歪んでいる奇妙な空間を進んでいく。

 

「紫さん、あとどのくらいで着くのですか?」

 

「そうですよー、早くバトりたいです」

 

「私も、お嬢様から指令を受けているので」

 

「えっ、レミリア様このこと知ってたんですか? さすがカリスマ……ですね」

 

「あなたのとこのお嬢様威厳がなさそうね」

 

「それに比べて,紫お姉さんはみんなの役に立ってるわよー。もっと褒めてもいいわよ」

 

「わー、スゴイデスネー」

 

「どうしよう、このテンションについてけないんだけど」

 

「私もそうだから心配しなくていいと思うよ」

 

「あまり口をはさむとロクなことはないでしょうね」

 

 前から文、早苗、咲夜、小悪魔、紫、永琳、さとりにしんがりが俺と大妖精と映姫。みんなぺちゃくちゃ喋っている。

 

 パッと見いつも通りの光景だが、実は切羽詰まっている……ような気がする。

 

「ほら、もうちょっと緊張感持たないと」

 

 パンパンと手をたたくと多数の目がこちらを睨みつけてくる。

 

「この布陣でそんなこと言われましてもねえ……」

 

「うん、早苗が言うとめちゃくちゃ説得力がある」

 

 さっきから雰囲気が遠足みたいだ。

 

 小学校の先生のような気持ちになりながら歩くこと十数分、

 

「えっと……ああ、これね。――みんな、ここに入れば月世界に行けるわよー」

 

 1つのスキマをまさぐっていた紫が、手をメガホンにして叫ぶ。

 

 両手でごそごそやっている内に、スキマが俺の背丈くらいに広がった。あれ伸縮可能なのか。

 

 よく分からない驚きに浸っている間に、前から一列にスキマに入っていく。躊躇なく突入していて、みんな異変慣れしているな。

 

 俺も負けてはいられない。パソコンの画面を開き、東プロ辞書を起動。いつでもスペルが発動できるようにしておく。

 

 永琳の薬が強力過ぎて、体中に鋭気がみなぎっている。強いスペルを出すほど体力を消耗する俺の能力だが、これなら妖怪でも神でも吸血鬼でも余裕そうだ。

 

「どうしたの、早くしなさいよ。開け続けるのめんどくさいのよ」

 

「ああ、ちょっと待ってくれ……」

 

 1つ深呼吸して、心臓の高鳴りを抑える。

 

 この時、ちょっとだけさとりの言葉が脳裏によぎった。

 

『これで最後かもしれませんし』

 

 あれはもしや、これを予期していたのではないか。いまとなっては考えるだけ無駄だが。

 

「紫、先行ってくれ」

 

「え? ――まあいいけど。なるべく巻きでね」

 

 紫がスキマに消えた後、

 

「大妖精、悪かったな。さっき話を遮って」

 

「ううん、こんなことになっちゃったもん。しょうがないよ」

 

「けど、大切な話なんだろ? 内容はよく分からないけど、これだけははっきり理解できる」

 

「そうだよ、ずっと前から言おうと思ってたこと。夏祭りとかね」

 

「夏祭り……ああ、あの花火の時か」

 

「そう、いつもタイミングを逃しちゃって……」

 

 夏祭りというと……約半年前か。そんな昔から、思ってたのに口に出せない。重ね重ね、ひどい仕打ちをさせてしまったと自覚して、心が痛くなる。

 

「今度こそ、これが終わったら本当に、話そうな。それまで我慢してくれるか?」

 

「もちろん、慣れっこだからね」

 

 クスッと笑う大妖精に俺もつられてしまう。

 

「そうか、ありがとう」

 

「えへへ……」

 

 思わず手で大妖精の頭をポンポンしてしまった。

 

「よし、行くか!」

 

「うんっ‼」

 

 2人で走って一気にスキマを脱出する。そこでは――、

 

「風符『風神一扇』」

 

「出会いがしらに弾幕とは礼儀が鳴ってないですね。私を見習ってほしいものです。想起『テリブルスーヴニール』」

 

「いや、お前も弾幕出してるだろ」

 

 なんてツッコミはほどほどに、文たちが対峙してるほうへ首を回した。

 

 そしたらそこにいたのは、

 

「……なるほど、さとりが分からないわけだ」

 

「あ、あれって、もしかして、式神⁉」

 

 100体はいるだろうか。俺を散々苦しめてきた式神らしきものが襲い掛かっていた。

 




第七十三話でした。歯車が動き始めました。

もはや恒例となりつつある、遅れて申し訳ありません……。けもフレ事件が響いたんだ……

では!

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