東方好きの優斗と大妖精と   作:ゆう12906

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月世界での攻防 ~もう一つの東方紺珠伝~
第七十二話 絶望の布陣


「助けてください? あの姉妹が? おかしな話ね」

 

 呼んだ手紙に異議を唱えたのは紫だ。

 

「あれだけプライド高いのに、普通こんな手紙送ってくるかしら? たちの悪いいたずらじゃない?」

 

「あなたねえ……よく考えなさいよ。確かにあの子たち、特に依姫は排他的だけど、だからこそ今切羽詰まってるんじゃないの?」

 

「そうだと思うぞ。俺たちが弾幕ごっこ大会やってるの知ってるだろうし」

 

「ふーん……。まあ行くだけならいいけど」

 

 よく二次創作なんかで書かれている紫とは違い、ここのゆかりんは温和でよかった。

 

「じゃあどうしますか。私たちだけで行きます?」

 

「そうだな……」

 

 さとりの質問に髪の毛を触りながら考える。

 

 まず言えるのは、すぐに出発しなければならないということだ。

 

 ただ当然、今は弾幕ごっこ大会の真っ最中だ。簡単には人は集まらないだろう。時間と人手、相反する問題をどうやって解決するか。

 

「なら簡単ですよ。私、いいもの持ってるんですよ」

 

 おもむろにさとりが取出したのは、外の世界で見たことある気がするトランシーバー。

 

「そんなもの持ってるのか」

 

「にとりさんの技術は幻想郷一ぃぃぃぃぃ! ということでね」

 

「だったら早速頼む」

 

「私もスキマで呼んでくるわね~」

 

 言うが早いが、2人は颯爽とスキマの奥へと消え去った。

 

 戻ってくるまで数分あるだろう。それまで休憩と、もう一度ベッドに横たわる。

 

「優斗、ほんとー、に無理してない?」

 

「いや、もう限界」

 

「とうとう我慢しなくなったね……」

 

「……もう相当無理してると思うぞ。まだひと踏ん張りしなくちゃいけないみたいだけど」

 

 またぶっ倒れてベットに強制送還される未来が見えるのだが、手の打ちようがない。

 

 頭を空っぽにして、少しでも充電しようとしているところに、もう1人の重鎮が来た。

 

「あなた本当にあっち行くの?」

 

「お前と紫とさとりだけで無双できそうな気はするけどな」

 

「そんなんだからいつもテスト採点押し付けられるのよ」

 

「語弊があるな。押し付けるってのはいやいやながらも引き受けるってことだ。俺には拒否権がない」

 

「それだけ口回るなら起き上がりなさい……といいたいところだけど、今回は特別サービス」

 

 永琳は一つため息をついた後、胸ポケットから取り出した錠剤を渡した。

 

 どこぞのアポトキシン4869のように怪しいが、これはどのような薬効があるのだろう。

 

「ほら、疑う前にさっさと飲む」

 

「ゴハッ⁉」

 

 強引に喉の奥に突っ込まれた。どうでもいいが、いつもこんなことやられてるうどんげの気持ちがちょっとだけわかった。

 

 一錠が食道、胃袋へと入っていき、腹のあたりが何だか熱い。即効性の薬だろうか。

 

「……なんか重いんだけど」

 

「そりゃ菌を死滅させてるわけだし」

 

「永琳先生、この薬ってどんな効き目なんですか?」

 

「そうよね、愛する優斗君が心配だもんねー」

 

「そ、そういうつもりじゃ……」

 

「この非常事態にあんまりからかうな」

 

「ビスケットじゃないけど、たたけば惚気が出てくるって素晴らしいと思うわ。――でその薬だけど、とにかくすごいっていえば伝わるかしら?」

 

「いや全く」

 

「ウイルス全死滅、内臓器官全回復、脳内スッキリ、アドレナリンによる体力増幅と持久力アップってところかしら」

 

「十分すぎるほど理解できた」

 

 外の世界を軽く凌駕していた。

 

「普段ならこんな生の倫理壊す薬出さないんだけどね……うちの子を助けてもらうんだし」

 

 頬を手でおさえながらのお姉さんボイスはなかなかにレアシーンだ。

 

「お待たせしました! いいメンバーがいっぱいですよ!」

 

 永琳の薬が完全に効いたころ、さとりのスキマが現われた。

 

「よし、早速通してくれ」

 

「了解です。まず小悪魔さん」

 

「大ちゃん、まだ試合が終わってないんだって? 私に任せといて!」

 

「こあちゃん、ありがとう。百人力だよ!」

 

 なるほど、確かに試合が終わった小悪魔ならすぐに呼べるな。……終わってないってどんな意味だ?

 

「咲夜さん!」

 

「月世界にはいろいろ因縁がありますので」

 

「あの、依姫に攻撃しないようにな?」

 

 そして俺も下手な発言でナイフを当てられないようにしないと。

 

「次に早苗さん!」

 

「昨日の敵は今日の友! 私も微力ならお手伝いいたしますよ!」

 

「あー、うん……」

 

 あれ、このメンバーさ……なんだかすごく嫌な予感しかしないんだけど。

 

「そして最後、文さん!」

 

「記録係はお任せください!」

 

 予想した通り過ぎて、反射的に頭を抱えた。

 

「そうか、これだけの豪華な顔ぶれなら俺は必要ないな。審判やってくる」

 

「許されると思ってるんですか?」

 

 あ、死んだな。第六感がそう告げた。

 

「……謀ったな」

 

「さあ、何のことかサッパリ」

 

「あら、何話してるのよ。こっちも連れてきたわよ」

 

 今度は壁から紫のスキマが出てきた

 

「じゃあ紹介するわね。映姫校長先生よ」

 

「月世界の危機と聞いて」

 

「帰るううううううう!!」

 

 何なんですか、肉体の危機を脱出したと思ったら今度は精神的に苛め抜くつもりですか俺に休息の時は与えらえないんですか。

 

「ほら、もう繋いどいたからさっさと行くわよ」

 

「こんなところいられるか。俺は帰るぞ」

 

 半ばあきらめの死亡フラグを自分から立てる。

 

「大妖精さん、羽交い絞めにしてしまいなさい!」

 

「うんっ!」

 

「おわっ、ちょ、そんな……」

 

 連行される絶望感が、背中にかかる柔らかい感触に全て塗りつぶされる。

 

 皆を見回すと、全員合わせたかのようなニヤニヤ。

 

「……頑張ろ」

 

 敵は月世界を攻めている輩だけではない、とひしひし感じつつスキマの奥へと突入した。

 




第七十二話でした。このメンバー強そう(小並感)

優斗にとっては嫌な思い出しかないですが、まさにオールスターメンバーですね。さすがに気分が高揚します。

ここからはちょっとまじめなお話。

みなさまお気づきでしょうか。僕の小説、ある東方シリーズのキャラが一人も出てないことに。そして月世界が攻められている。

はい、つまり今回の敵はあの人たちです。お楽しみに。(72話の先頭に書いてあるのでいう必要なかったような……)

では!

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