東方好きの優斗と大妖精と   作:ゆう12906

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第六十四話 果てしない落下

「うわっ、うわわっ……!」

 

 車いすに乗せられたまま、自由落下が続いている。ジェットコースターに乗った時のように、ふわっとした嫌な感触が胸に突き刺さる。

 

 すぐにどこかへ転送されると思っていたが、しばらく猶予があるようだ。ということで、

 

「……さて」

 

 目を閉じ、力を抜いてあらゆる情報を遮断する。その分のエネルギーが、脳へと向かっていく。

 

 考えろ、この穴はどこへとつながっている? もし俺がさとりだったら、どこへ飛ばす?

 

 大妖精の家……はない。それではあいつは何も楽しくない。誰もいないという観点で、校舎の中でもない。

 

 となると、弾幕ごっこ大会真っ最中の校庭なわけだが……あそこの隅にある大木の下なんて、優しいはずがない。

 

 弾幕ごっこ中のステージ上に叩き落されるか、映姫校長の真上に落とされるか……こんな想像できる時点で涙が出てきそうだ。

 

「……待て」

 

 万が一、俺が危惧していたことが現実だったらどうなる? とりあえず3時間は説教確定だが、そういう次元のことではない。

 

 今乗っている車いすはスチール製。なぜ幻想郷にあるのか甚だしく疑問だが、もしこれが映姫校長の頭に直撃したら……想像しただけで恐ろしい。

 

 仕方ないので車いすから降り、パラシュートなしのスカイダイビングだ。

 

 さて、いったいどこに落とされるのか。すべての集中力を視覚に使い、準備を整える。

 

2つ3つ選択肢が頭に浮かび、対処法を考える。さとりがそんなに多くのパターンを持っているとは考えにくい。

 

「見えた……」

 

 遥か遠く、とても小さい光が現われた。

 

 当然のことながら、距離は近づき、穴は大きくなっていく。さあ、さとりとの真剣勝負の時間だ。脳内で残り時間を素早くはじきだし、スペルカードを取り揃えておく。

 

 残り5秒、――2、1、

 

「やっぱりかっ‼」

 

 スキマから離脱した瞬間、緑と黒の艶やかな髪の毛が見えた。その2人は、楽しげに談笑していた。

 

 即座に横にパソコンを向け、光の速さで詠唱する。

 

「気符『星脈弾』!」

 

 少し弱めに放ったエネルギー弾の反作用で身体が移動する。ドスッ、と鈍い音ができて着地することができた。

 

「イテテ……」

 

 さとりも爪が甘い。さすがの俺でもこれは予想できてしまった。だってさとりが俺を落とそうとした先は、

 

「……ウソ」

 

「あれ、優斗さん。風邪で寝込んでるんじゃ?」

 

 大妖精と小悪魔だった。絶対に俺をピチュラせる魂胆だろうが、そこまで馬鹿ではない。

 

2人の問いかけに、ゆっくりと立ち上がってこたえる。

 

「いやいや、少し良くなったからな。永琳から薬ももらったし」

 

 黒目の悪魔は疑問で頭がいっぱいだろうが、緑眼の妖精は不安で頭がいっぱいだろう。

 

「ごめんな大妖精、約束破って」

 

「……うん」

 

「けど、どうしてもお前の雄姿を見たくて。許してくれ」

 

「身体は? また無理してるんじゃ……」

 

「永琳から即効性のある抗ウイルス剤もらってきたから、激しい運動しなければ問題ないよ」

 

 実はすでに1バトルやってきてるんだが。

 

「だってあの車いす……どうみても……」

 

「あれは大事を取ってだ。動けないってほどじゃない」

 

 これも真実とは言えない。体調だけで言えば、最悪だ。頭がボーっとして、いつもの口調になれない。

 

「試合はいつ?」

 

「それならちょうど今からですよ! ささ、行きましょう!」

 

 小悪魔がいいタイミングで車いすを運んできてくれる。さっきから何度もウインクされているので、とっくにお見通しなのであろう。

 




第六十四話でした。優斗のしゃべり方、なんだかおかしいような……

投稿間隔があいて申し訳ありません……四月からの新生活なめてました!

では!


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