「うわっ、うわわっ……!」
車いすに乗せられたまま、自由落下が続いている。ジェットコースターに乗った時のように、ふわっとした嫌な感触が胸に突き刺さる。
すぐにどこかへ転送されると思っていたが、しばらく猶予があるようだ。ということで、
「……さて」
目を閉じ、力を抜いてあらゆる情報を遮断する。その分のエネルギーが、脳へと向かっていく。
考えろ、この穴はどこへとつながっている? もし俺がさとりだったら、どこへ飛ばす?
大妖精の家……はない。それではあいつは何も楽しくない。誰もいないという観点で、校舎の中でもない。
となると、弾幕ごっこ大会真っ最中の校庭なわけだが……あそこの隅にある大木の下なんて、優しいはずがない。
弾幕ごっこ中のステージ上に叩き落されるか、映姫校長の真上に落とされるか……こんな想像できる時点で涙が出てきそうだ。
「……待て」
万が一、俺が危惧していたことが現実だったらどうなる? とりあえず3時間は説教確定だが、そういう次元のことではない。
今乗っている車いすはスチール製。なぜ幻想郷にあるのか甚だしく疑問だが、もしこれが映姫校長の頭に直撃したら……想像しただけで恐ろしい。
仕方ないので車いすから降り、パラシュートなしのスカイダイビングだ。
さて、いったいどこに落とされるのか。すべての集中力を視覚に使い、準備を整える。
2つ3つ選択肢が頭に浮かび、対処法を考える。さとりがそんなに多くのパターンを持っているとは考えにくい。
「見えた……」
遥か遠く、とても小さい光が現われた。
当然のことながら、距離は近づき、穴は大きくなっていく。さあ、さとりとの真剣勝負の時間だ。脳内で残り時間を素早くはじきだし、スペルカードを取り揃えておく。
残り5秒、――2、1、
「やっぱりかっ‼」
スキマから離脱した瞬間、緑と黒の艶やかな髪の毛が見えた。その2人は、楽しげに談笑していた。
即座に横にパソコンを向け、光の速さで詠唱する。
「気符『星脈弾』!」
少し弱めに放ったエネルギー弾の反作用で身体が移動する。ドスッ、と鈍い音ができて着地することができた。
「イテテ……」
さとりも爪が甘い。さすがの俺でもこれは予想できてしまった。だってさとりが俺を落とそうとした先は、
「……ウソ」
「あれ、優斗さん。風邪で寝込んでるんじゃ?」
大妖精と小悪魔だった。絶対に俺をピチュラせる魂胆だろうが、そこまで馬鹿ではない。
2人の問いかけに、ゆっくりと立ち上がってこたえる。
「いやいや、少し良くなったからな。永琳から薬ももらったし」
黒目の悪魔は疑問で頭がいっぱいだろうが、緑眼の妖精は不安で頭がいっぱいだろう。
「ごめんな大妖精、約束破って」
「……うん」
「けど、どうしてもお前の雄姿を見たくて。許してくれ」
「身体は? また無理してるんじゃ……」
「永琳から即効性のある抗ウイルス剤もらってきたから、激しい運動しなければ問題ないよ」
実はすでに1バトルやってきてるんだが。
「だってあの車いす……どうみても……」
「あれは大事を取ってだ。動けないってほどじゃない」
これも真実とは言えない。体調だけで言えば、最悪だ。頭がボーっとして、いつもの口調になれない。
「試合はいつ?」
「それならちょうど今からですよ! ささ、行きましょう!」
小悪魔がいいタイミングで車いすを運んできてくれる。さっきから何度もウインクされているので、とっくにお見通しなのであろう。
第六十四話でした。優斗のしゃべり方、なんだかおかしいような……
投稿間隔があいて申し訳ありません……四月からの新生活なめてました!
では!