東方好きの優斗と大妖精と   作:ゆう12906

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第六十二話 式神攻略法

「突風『猿田彦の先導』!」

 

 空中から式神が放ってきた座薬弾を、文のスペカで風を巻き起こして吹き飛ばす。

 

「想起『テリブルスーヴニール』! そこだっ!」

 

 返す刀でさとりのスペルを発動する。レーザーの予告線が式神に重なり、向こうが右に移動した。

 

 さすがに避けられるか。さとりらしく、相手の移動先を予測して左に中弾を放っておいたのだが……どうやら俺はただの人間のようだ。

 

「……イケ」

 

 また式神が座薬弾をばらまいてくる。真上から制圧射撃されるような感じで、大変避けにくい。少しずつ、息が切れていく。

 

 右に左に、あるいはこちらも対抗して弾を打ってなんとか相殺する。ただ、本調子ではない俺に全てを見極めることは難しかった。

 

「痛っ……なんでまた」

 

 弾に殺傷性がある仕様は以前と変わらないらしい。粒弾がかすめた左の太ももに、切り傷ができて動脈から血が垂れていた。

 

 そもそも、なぜこいつは俺を襲うのだろうか。霊夢の言葉を借りるならば、幻想郷には人間を襲う凶悪な妖怪がたくさんいる。

 

 ではこの式神は妖怪か、と聞かれたら首を縦に振るだろう。幻想郷の妖怪は、襲うときも真摯に、華麗に、律儀に、とても人間らしいものなはずだ。それと比べてこいつはただの獣だ。まるで誰かに命令されているように冷酷で、それでいて無慈悲に命を脅かす。

 

「……こうなったら」

 

 コイツと出会った時からうすうす覚悟はしていたが、本気を出さなければならないようだ。

 

 だが、こちらはアイツを倒す手段がない。弾幕はもちろん効かないし、上空に浮かんでいて距離が離れすぎているため、打撃を加えることもできない。だから――、

 

「拳打『げんこつスマッシュ』」

 

 一輪のスペルカードで、雲山の握り拳を発射する。ただし、

 

「……ナニ?」

 

 真下に。俺のおかしな行動に、初めて式神が疑問を持った。

 

 この技、反動跳躍(リラクションフロート)を使うのも久しぶりだ。地面に打ち付けた拳という作用が反作用を生み出し、俺の身体が宙に舞い、一気に式神との距離が縮まる。

 

 ここでパンチやキックの一つでも出せれば晴れて幻想郷の超人たちの仲間入り、なのだがあいにくおれはただの人間だ。空中で手足をバタバタさせても、式神には届かない。

 

 そう、決して式神は倒せない。だったら方法は一つ。俺は今ちょうど正面に対峙している式神に面を見せつけた。

 

「……チッ」

 

 式神はモンハンの緊急回避のように、高速で真下に退避する。誰だってそうするだろう。けどそれは、

 

「大いなる間違いだ。恋符『マスタースパーク』!」

 

 おなじみのマスパ音とともに、極太レーザーが空中に展開される。当然ながら作用はとても大きく、反作用も尋常ではない。しかも今は空中にいて、背中も足も地についていない。つまり、

 

「……おおおっ!」

 

 大空を一気に駆け巡った。式神との距離がどんどん離れていく。体力が少し無くなってきたが、これで作戦成功だ。

 

 勝ち目がない戦いをする必要は微塵もない。負けそうなら逃げる、これが鉄則だ。魔理沙あたりに聞かれたら、意気地なしと罵られそうだが。

 

 ともかく、これであいつがこちらを視認できないくらいには遠ざかった。あとは着地の時にもう一度弾幕を出し、勢いを殺せば万事うまくいく。

 

 最高点に到達し、身体がどんどん地面に近づく。さて、そろそろ準備を……。

 

「…………あれ」

 

 突然ゾクッ、と背筋に戦慄が走った。頭を横に勢いよく振りって寒気を吹き飛ばそうとするが、その頭がフラフラする。

 

『本当はアポトキシン4869くらいの強いやつも作れるけど、あなたの体が持たないからただの解熱剤にしておくわ。飲んだらすぐに平常に戻るけど、激しい運動とか蝶ネクタイで声を変えたら、熱がぶり返すから気をつけなさい』

 

(……まさか)

 

 永琳からの伝言が頭によぎる。最悪のタイミングで解熱剤が切れたとでもいうのか。

 

「クソッ、動け……!」

 

 せめてもう一度マスパと、念じるけれどパソコンが応えてくれることは無かった。それどころか、着地地点がぼけて見えてくる。ああ、これは完全に、

 

(大妖精……すまない)

 

 いまさらながら、後悔の念がわいてくる。

 

 おとなしく寝ていればよかったものを、自らの欲求に流され……なんて馬鹿なことを。

 

 固い地面が近づくのが何となく感じられる。覚悟して、目を静かに閉じる。

 

 インフルエンザで倒れた時もこんなに嘆いていたな。あの時は大妖精が助けてくれたが……まさかね。

 

「優斗ぉ!」

 

 ……まさか。地上で俺の背後から聞こえる声は俺の幻聴だろうか。

 

「……マジで?」

 

 どうやら存在していたようだ。俺が地面に突き刺さる瞬間、抱きとめられた。これでは逆お姫様抱っこだ。開いた口がふさがらないとはまさにこのこと。

 

 なぜ俺が落ちることに気付いた? なぜ学校からここまでこれた? なぜ自由落下してくる男子高校生を受け止められた? 

 

 疑問なら頭の中に埋め尽くされている。だがそれさえも、安堵と感謝で塗りつぶされていく。

 

 後頭部から伝わってくる、柔らかい手の感触。間違いない、こんなタイミングは大妖精以外ありえない。

 

 とりあえず上を向き、大妖精の目を見る。

 

「ありがとう大妖精……」

 

「あっらー、やっぱり大妖精さんかと思っちゃいましたか? 残念、さとりんでしたー‼」

 

「帰れ」




第六十二話でした。さとりんは永久に不滅です!

実は「さとりんだよー」がやりたかったために、優斗をインフルにして、大妖精とイチャイチャさせ、さとりにいじらせました。……ここまで五か月かかってるんですね。

ではっ!


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