東方好きの優斗と大妖精と   作:ゆう12906

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第五十八話 古明地姉妹の快哉

「優斗、優斗!」

 

 遠くのほうから声が聞こえる。実際に遥か彼方にいるのか、はたまた俺の意識が遠いせいで、そう感じるのだろうか。

 

「なんだ……」

 

 上半身を起こし、目をこすりながら声をかける。

 

 睡眠欲に忠実なまぶたに逆らって隣を見ると、見慣れた顔。

 

「起きた? お昼だからごはん持ってきたよ」

 

「あ……もうそんな時間か」

 

 数時間ほど眠っていたらしい。インフルエンザのせいでもあるが、さとりとの会話で、精神力を極度に消耗したことが一番の原因だろう。

 

 大妖精の手元には、おかゆが入ったお椀があった。

 

「ありがとな。とってもおいしそうだ。幽々子が作ったのか?」

 

「うん。珍しく全部食べないで残ってたよ」

 

「作為的なものを感じるな。誰かに残すように言われてたのか……」

 

「そこまで食に貪欲じゃないよ!?」

 

 作為的は言い過ぎだが、確かに珍しいことだ。

 

 ところで大妖精はさとりと出会っているのだろうか。

 

 俺が寝た後、さとりがいつまでも居座っていた可能性も否定できない。あのセクハラ悪魔が、変なことを教えていないか心配だ。

 

「大妖精、家に誰かいなかったか?」

 

「私が帰ったとき?」

 

「そうだ。例えば……さとりとかいなかったよな?」

 

 誰も来ていない、という返答を願って尋ねる。

 

「ああ、それならね……――……」

 

「どうした?」

 

 なぜか大妖精が黙り込む。まるでしゃべりたいことを、誰かから止められているかのように。

 

 しばらくの間があった後、

 

「誰も来てないよ」

 

「そうか。それならいいんだ」

 

 謎の空白があったものの、さとりと出会ってないようで安心した。

 

「じゃ、ごはん食べていいか?」

 

 いくら病気の身といっても、昼には食事が必要。

 

くどいようだが、さとりとのやり取りで大量の体力を持って行かれて、補給が必要なのだ。

 

「うん、ずっと寝てたからお腹すいたでしょ?」

 

「ああ……そうだな……」

 

 さとりと人気投票の話をしていた、とはさすがに言いづらい。罪悪感を覚えながらも、目線をそらす。

 

 ごまかすように、大妖精が持っているおかゆに手を伸ばす。

 

「ちょっと待って」

 

 だが、大妖精からストップがかかった。

 

「大丈夫? 1人で食べられる? なんだかとっても身体がつらそうに見えるな」

 

「そうなのか?」

 

 妖精だけにわかる、なにかがあるのだろうか?

 

「もしかして……身体の波長が見えるのか?」

 

「波長……――そう! 見えるの!」

 

 実際にあるようだ。妖精おそるべし。

 

「えーっとね。――見える、見えるよ」

 

「何がだ?」

 

「優斗が1人でご飯を食べてはいけません、って身体が言ってる!」

 

「本当の本当に?」

 

「ほんとのほんとに!」

 

「そうか。じゃあどうすれば……」

 

「そうだね……」

 

 大妖精は首をひねって考え込んでいたが、やがてぽんと手を打った。

 

「分かった。私が優斗に食べさせればいいんだよ」

 

「まあ、それしかないよな」

 

 自分では食べられず、ここには大妖精しかいない。そうなると、食べさせてもらうしかないわけだ。

 

 なんだか介護のようで大妖精に申し訳ないが、仕方のないことだ。これしか方法がない。

 

「じゃあ、はい、あ~ん」

 

 大妖精がスプーンでおかゆをすくい、俺の口元へ運んでくる。

 

 それを食べるだけの簡単なお仕事だ。絶妙な塩加減が、身体を癒す。

 

「どう? のど通る?」

 

「ああ、とてもいいおかゆだな」

 

「そう、じゃあもう一口。はい」

 

「ん……」

 

「おいしい?」

 

「……ああ」

 

「あれ、どうしたの? なんだか顔が赤いよ。もしかしてまた体調が悪くなったの?」

 

「……いや、別にそういうわけじゃない」

 

「それならいいけど……。はい、もう1回」

 

「……うん」 

 

 その……なんというか……目についてしまったのだ。

 

 大妖精は下からスプーンを差し出してくる。こちらはそれに顔を近づける。

 

 必然的に、大妖精との距離が近くなる。それだけならまだいい。問題は、

 

「どうしたの? 上のほうなんか見て」

 

「……別になんでもない」

 

 身体を前に倒している大妖精のシャツがたるんでいるのだ。そして食べるために顔を下に向けている俺はそれをのぞきこむような格好になる。

 

 大変不純なのは承知しているが、その、見えそうになるのだ。シャツの中が。

 

 下着はつけているので大丈夫だとか、そういう話ではない。

 

 さっきから見えるか見えないかのラインで、とても心臓に悪い。

 

 前までは意識してなかったはずだが……今日の朝のことが焼き付いて離れない。

 

 あと、このシュチュレーションも悪い。傍から見たら、まるで……カップルのようではないか。

 

 心の中で悶々としていても、スプーンは相変わらず運ばれてくる。

 

「もう少し食べる?」

 

「ああ、うん……」

 

 なんとか理性を保ちながら、昼食をとったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すばらしい、素晴らしいですよ! 大妖精さんも優斗さんも!」

 

 その頃、さとりは地霊殿で手をたたいて叫んでいた。

 

「どうだったー?」

 

「こいし、そこにいたんですか。ええ、そりゃあもう大妖精さんがかわいすぎますね!」

 

「大ちゃんと優斗の心に介入したかいがあったね!」

 

 そう、こいしは大妖精に、「自分たちと会ったことは言わないでおくこと」、優斗には、「大妖精の話を信じること」という無意識を送ったのだ。

 

 その結果、優斗たちはこのようなことになったのである。

 

「ええ。彼女、表向きは平静を装っていましたが、内心は心臓バクバクでしたものね。まあ、無事優斗さんに、あ~んができたから及第点ですね」

 

「もう少しすれば……」

 

「ええ……首を長くして待っていましょう」

 

 2人はハイタッチをして、作戦成功を喜んだ。

 




第五十七話でした。うp主の精神力も刈り取られました。

優斗は、以前同じようなことをさとりにやられているのですが……(四十九話あたり)全く気付いてないですね。さすが地霊殿エクストラボスです。

では!


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