「はあ? 何考えてるんですかあなたは」
心を読んでいたらしいさとりにすっごい顔をされた。こんなに口をあんぐり開けるさとりも珍しい。
「何って……今日の記憶を思い出しているんだ」
けど、午前中までの記憶が霧がかかったように見えてこないが。映姫のありがたいとすりこまれたお叱りしか記憶に残っていない。
ただそれだけなのに、なんでさとりは失望したような顔をしてるんだ?
「優斗さん、あなたを見てるとラノベの主人公の、男友達みたいな気持ちになるからですよ!」
「俺の心の中と会話するのやめろ」
心を見透かすのが当然だとしゃべらなくても会話できるんだな。
ラノベの主人公ってどういうことだ。流行りの異世界転生モノみたいなチート能力を持っているってことか? 俺の能力は弱くはないだろうが絶対ではないぞ。
あと、地底に住んでいるお前が何でラノベって単語を知ってるんだ。さっきのチョコといい、外と何らかのパイプを持ってるのではないかと俺は睨んでいる。
「チート系主人公じゃありませんよ。無自覚系ラブコメですよ……」
「そんなぼそぼそ言っても俺は心読めないから聞こえないぞ」
「はあ……もういいです」
げんなりといった様子でため息をつかれた。別にさとりに迷惑をかけるようなことはしていないと思うのだが。というかむしろ、被害を被ってるのは俺だけだと思うのだが。
「本当の本当に、今日が何の日が覚えてないんですね?」
「ああ、ってかそもそも今日の月日さえ覚えていなくてな……教えてくれよ」
「いえ、私はやめておきましょう。部外者がかかわる問題ではありませんし」
「部外者ってなんだ」
「そう、私はただの盛り上げ役! 周りは固めますが、一番の核心には触れられないんです!」
「一人で盛り上がるな」
しかし、これ以上同じことを繰り返しても無駄だろう。
「けど優斗さん、これだけは言っときますよ!」
「ちょ、近い」
一瞬のうちにさとりが背伸びして俺の顔に近づいてきた。軽く俺を見下ろしてきて、らんらんと目を輝かせている。
「さっき、チルノさんに大妖精さんが待っているといわれましたね」
「ああ、そうだな」
「これがさっきの質問のヒントなんですが……まだわかりません?」
「だから映姫の説教できれいさっぱり忘れたって」
なぜさとりはこんなに、今日の日にちを思い出させようとするんだ。
「じゃあ、一つお教えしましょう。大妖精が待ってるということは、あなたに何か用事があるはずです。そしてそれは、今日の日付を思い出せば必ずわかるはずです」
「そ、そうなのかー」
ルーミアのセリフで茶化してみたが、あいかわらず、さとりの目は今日一番輝いていた。俺の言葉を気にする様子もなく、まくしたてていく。
「そして、思い出した時あなたはこう考えるはずです、『あ、やばい、すっかり忘れてたどうしよう』と」
さとりの能力って未来予知じゃないだろ。なんでこんなにわかるんだ。
「けど、そこからが勝負です。そこからの受け答えで、あなたと大妖精の心がプラスにもマイナスにもなります。それを決めるのは優斗さん、あなた次第ですよ」
「わ、わかった。肝に銘じておこう」
「そしてこれが一番言いたいことですが、」
呼吸を整え、さとりはもう一度大きく息を吸う。
「私自身の勝手な感情としては、ハッピーエンドがいいです! バッドエンドのエンターテイメントなんて面白くないに決まってますから!」
「それは竹取物語に失礼だろ」
ハッピーエンドってどういうことだ?
「おお、そういえばそうでしたね。――まあ、それは例外ってことで。――まあとにかく、大妖精さんと仲良くしてね、ってことが私からのお願いです」
真面目な顔してなにいってんだこいつは。
「その課題ならもう完了してるぞ」
そんな当然のことお願いされるまでもないだろう。俺と大妖精は仲がいい。はずだ……俺の誤解だったらすごくショックを受けるだろうが。
「うわ……――はあ……」
また深いため息をつかれた。
さとりと別れてから帰路についている途中、ずっとそのことばかり考えていた。が、考えても頭が働かない。思考を頭の中の何かが強制的に排除してこようとする。
周りに積もっている雪や身体に刺さる冷気から、今は真冬と推測される。
冬に行うイベントといえば、クリスマスにお正月……正月は霊夢の賽銭集めを手伝った記憶がある。
では、弾幕ごっこ大会? これも違う。今回はクラス対抗らしいだし、そんな面白そうなものを忘れるはずがない。それに定期テストもやっていないので、今日は三月ではない。
つまり、今日は一月半ば~二月末ということになる。
「むむ……」
目を閉じ、整理したもののやはりだめだ。
まあ、思い出せなくてもいい。もうすぐ家につく。そこで大妖精に聞けばいい話だ。
第四十八話でした。今回でバレンタイン編終わるといったな。あれは嘘だ。
さとりがどんどんメタくなっていく……さとりは結局自分の好奇心で動いている感じですね。幻想郷ってそんな人ばかり。
では!