東方好きの優斗と大妖精と   作:ゆう12906

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第四十一話 早苗の策略

 早苗に、六畳の和室に案内された。こたつとタンスがあるが、隣の部屋が霊夢の部屋だ。そちらに大妖精と霊夢がいる。なぜこちらの部屋にもこたつがあるのだろうか。

 

「なるほど……確かに正月らしいな」

 

 霊夢と早苗が用意したあるものに目をやり、俺は感想を漏らす。

 

「そうでしょう! なんせ2人で作ったといっても、霊夢さんほとんど私にやらせてくれなかったですから!」

 

「ドヤ顔で言ってるそれは文句なのか? こんなものめんどくさそうなものを霊夢がやったのか?」

 

「『まったく、しょうがないわね』と、言ってましたが絶対ノリノリでしたね。これがいわゆるツンデレというやつでしょうか」

 

「ああ、いわゆるツンデ霊夢というあれだな」

 

 そこでいったん言葉を切り、改めて黒と灰色と白で作られたそれを見る。

 

 しっかし、よく作られてるなあ……。おそらく手縫いだろうが、ミシンのように精密な糸さばきだ。

 

「ほら、着てみてください」

 

「ああ。…………」

 

「……………………」

 

「いや、着替えるから外出ろよ」

 

「そうでしたね! 危うく嫉妬されるところでしたよ!」

 

「はいはい、早く」

 

「は~い」

 

 妬むって俺の着替えを見てだれが妬むんだよ。利用価値ないぞ。

 

 心の中でツッコミを入れながら、その衣装に身を包む。

 

 灰色と黒のストライプが入っているロングスカートのようなズボン。黒の長着の上にかける羽織の胸の部分には白い家門のようなものが刺しゅうされている。昔からある、男性の正装。

 

「終わったぞ」

 

「はーい! おお、やっぱり似合いますね! クールさがにじみでてますよ!」

 

「ほめかたがうさん臭いぞ」

 

「そんなことはないですよ。袴を着ると誰でもかっこよくなるんですね」

 

「それ悪口になるからな」

 

 袴、それは古くから日本の重要な場で使われてきた正装だ。これを2人が作ってくれたのだ。

 

 袴なんて七五三の時以来だな。とても新鮮だ。

 

「さて、隣に行きましょうか。気になるでしょ?」

 

「まあな」

 

 男の俺へのプレゼントはこれ。では女性の大妖精は? 

 

 女性の正装、つまり着物だ。

 

 大妖精は基本的には公式通りの服装で一年中過ごしている。実際はドット絵だけというツッコミは無しで。

 

 黄色のリボンで緑の髪をサイドポニーにしていて、白シャツに青のワンピース。胸元には左右対称の黄のリボンをつけている。

 

 さすがに冬場は下にタイツをはいているが、それ以外はそのままの格好だ。チルノと一緒にいると寒さをあまり感じなくなるらしい。妖精というのはそんなもんとだと大妖精に教わったことがある。

 

 そんな一年中同じ格好の大妖精が、今は着物を着ているというのだ。イラストでも見かけたことがないのに、本物がみられるなんて、さすが幻想郷だ。

 

「さっ、こっちですよ」

 

 すぐ隣の部屋なので、数歩で障子の前に立つ。わずかに期待に胸を膨らませ、大妖精と霊夢がいる障子を開け――

 

「――!?」

 

 ない。慌てて取っ手から手を放したとたん、背筋から嫌な汗がダラダラと流れた。

 

「おい早苗。着物って着付けるのに時間かかるよな?」

 

「そうですね」

 

「まだ中で着替えてる可能性は?」

 

「むー……無きにしもあらずといったところでしょうか」

 

「気づかなかったのか?」

 

「はい! まったく考えてませんでいた!」

 

 危ない危ない。早苗の天然がこんなところで出るとは。気づいてよかった。本当に。

 

 もし不用意にあけて、もしまだ途中だったら、それは悲惨なことになっていただろう。いや、凄惨といったほうが正しいか。

 

 ここは一回早苗に確認してもらわなくては。

 

「早苗、ちょっと中を見てくれ」

 

「はーい。――どれどれ……」

 

 障子をわずかにあけ、片目でのぞき見する。俺にあとで変な疑いがかからないようにしてくれているのだろう。

 

「大丈夫ですよ。霊夢さん見とれてました」

 

「そんなにいいのか」

 

 これで一安心だ。今度こそ、障子を勢いよく開ける。

 

「大妖精、どんな感じd……」

 

「うわぁ! 何やってるの!?」

 

「サーセン!」

 

 障子を開いた手を返すようにパァン! とすぐに閉める。

 

 あ、ありのまま今起こったことを話そう。確かに早苗は大妖精が着替え終わったといっていた。

 

 ところがどうだろう。開けた瞬間目に映ってきたのは、ちょうど着物の前の部分を抑えるのに苦労していた大妖精のあられもない姿。

 

 大丈夫、いくら着物だといっても下着はきちんとつけていた。上下とも真っ白いやつ。子供っぽいな……って何言ってるんだ。あれ? これすごくマズくない?

 

「おい、どういうことだ」

 

 俺の冷ややかな声に、早苗は満面の笑みでペロッと舌をだし、

 

「面白そうだったんで!」

 

「最初に俺に開けさせようとしたのは……」

 

「私がそんな馬鹿なわけないじゃないですかー」

 

「こっちは命かかってるんだよ!」

 

「安いアクション映画みたいですね」

 

 つかみどころがない返答だったが、今はそれで揉めている場合ではない。

 

 うわあ……部屋の中からどす黒いオーラが出てるんですが……

 

 逃げるか? いや、そんなのダメに決まっている。中にはチート主人公の霊夢がいる。仮に早苗と協力したとしても仲良く破滅するのがオチだ。

 

 とすると、あれしかないか……

 

「早苗、わかってるよな。あれをやるぞ」

 

「えー。パンツ見たの優斗だけじゃないですかー」

 

「もし逃げたら霊夢にお前の悪行をすべてチクる」

 

「う……わかりました」

 




第四十一話でした。早苗さんさっすが。

優斗は無傷で済むのでしょうか……たぶん駄目でしょうね!  

では!

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