「この勝負私たちの勝ちよ」
自信たっぷりに言う豊姫。その言葉は豊姫の幻想でしかない。
「―――こうあっさり引っかかってくれるとは思わなかったからな」
「えっ?いまなんて……」
その時、豊姫に通信が入った。
「何?今取り込み中よ!」
「いや実は……月の裏手からも何人か攻めてきたんです!」
よし、タイミングはばっちりだ。霊夢、魔理沙、レミリア、にとりに暴れてもらっている。
「わかったわ」
即座に通信を切り、妹へ連絡した。
「依姫そっちは?―――そう、終わったのね。すぐに月の裏手へ行って」
あらら、もう負けちゃったのか。エクストラボスと6ボス1人に5ボス1人だぞ? やっぱり別格の強さだったな。
よし、頃合いはよくなった。こっちも始めるとするか。
「なあ、お前の能力で素粒子に代えられないものって知ってるか?」
「えっ?」
やはり豊姫はこちらの能力まで把握していない。
「――ルーミア!」
「了解なのかー!」
刹那、あたりが暗闇に包まれる。
「えっ? ――これあなたたちの能力なの?」
こっから反撃開始だ。
「よし、攻撃だ」
「うん! 氷符『アイシクルフォール』!」
「闇は任せるのかー! 闇符『ナイトロード』!」
「んじゃ俺も。妬符『グリーンアイドモンスター』」
しかし向こうもさすがは永琳の弟子。ほとんど何も見えないのに、感覚で避けているようだ。だが―――
「おいおい。こっちが本命じゃないぞ?」
「!?」
豊姫が息を漏らして後ろががら空きになった瞬間、ヒュンと豊姫の背後を味方が通過した。
文、小傘、ヤマメ、キスメという足の速いメンバーだ。これで1年1組の生徒全員がこの作戦に参加したことになる。
これが俺が思いついた作戦。フランたち依姫への囮。アリスと椛の単独行動での囮。霊夢たちの豊姫を焦らせる囮。そして俺たち、文たちに目を向けさせないための囮。というわけだ。
前の紫の作戦は二重の囮だった。今回はそれの完全上位互換というわけだ。名づけて……『4つの囮(フォース・トラップ)』といったところか。
「くっ……させません!」
暗闇の中、豊姫が俺たちに背を向けて走り出す。俺の計算が正しければ……
ゴォン
なんと、豊姫の頭に火花が出るほどの勢いで何かがぶつかり、気絶した。
「もう能力切っていいぞルーミア」
視界が開けた俺たちの前に倒れていたのは……
「ほんと……計算通りだったな……」
――綿月姉妹であった。
メカニズムを説明すると……雛の能力だ。2人をめっちゃ不幸にし、あそこでぶつかってもらったのだ。闇と運。この2つには共通点がある。―――そう、豊姫の能力が使えないという点だ。
これが俺が考えた対豊姫用の切り札だった。
「う~ん」
先に目を覚ましたのは豊姫だった。
「あらあなたは……」
「どうも」
「あれここは……」
俺が2人を和室に運んでおいたのだ。みんなに手伝ってといってもそういうのは男の仕事だとか、チルノに至っては『私はか弱いんだもん!』だって。そんな言葉どっから覚えたんだろう。
「2人運ぶのは疲れたよ……」
「あら、ありがとう。―――あ~私たち負けちゃったのね~」
そういうとごろんと寝転がった。どうしたんだ?
「私の体好きにしていいわよ」
「はい?」
な、何を言ってるんだ?いかんいかん、落ち着け。こんな会話をみんなに聞かれたらピチュり確定だ。
「いや……俺がいろんな人にピチューンされるからやめてくれ……」
「ふふっ、冗談よ。あなたずいぶんと頭が切れるようだけど、意外と面白いのね」
ありゃりゃ、一本取られた。
そして豊姫は少し真面目な顔になって、
「しっかし、私と依姫をぶつけて倒そうなんて……よく考えたわね~」
「まあな。大妖精と小悪魔がいい仕事してくれたんだよ」
二人にあのグループに入ってもらったのは依姫を焦らせるためでもある。フランとかじゃ一発で見抜かれるからな。
「じゃ、協力しようかしらね~」
そういうと外に出た。みんなの案内役をしてくれるんだろう。
「う~ん」
続いて起きたのは依姫。随分と長く気絶していたので、その間にPCで綿月姉妹のデータを覚えておいた。あ、あと関係ないが大妖精の日とルーミアの日がそれぞれ毎月8日と7日ということも。
「あれ……お姉様は……」
「ノリノリでクラスのみんなに月世界の紹介してるぞ」
「へえ……ってあなた誰ですか?」
いやだなあ。2人を運んで布団に寝かした人なのに。
「改めまして、こっちのチームの指揮官の朝霧優斗だ。よろしく」
かがんで握手を求めてみる。
「よ、よろしく……ってあなた人間ですか?」
ジト目でにらんでくる。いいじゃないか人間でも。
「でも人間も結構やるもんだろ?」
「ま、まあ……」
「心のどっかで油断してたんじゃない?」
多分、二人が始めから本気を出してたら俺たちはまず、勝てなかっただろう。
「ま、まあそうですね……」
「まあ、今度同じ事があったらよろしくな」
「は、はい……」
依姫の頭をポンポンと叩いてみる。またこんなことができればぜひやってみたい。
「じゃあクラスのとこへ戻ってるから」
依姫は疲れているのか、顔が赤かったので、一人にしておいた。最後のほう無口になっていておもしろかったな。
こうして俺たちは月世界を存分に楽しみ、社会科見学を終えたのである。
「いや~負けちゃったわね~」
優斗たちが帰った後、和室に座っている綿月姉妹の姿があった。
足を延ばしてスカートをまくるというお姫様らしからぬ恰好で豊姫がくつろぐ。
「まあいろいろと学ぶものがあったわね。どうだった依姫?」
「…………」
「どうしたの?」
「……――いや、地上世界にもこんな強いものがいるのだなと」
「そうね。あのスキマ妖怪くらいに切れ者ね」
「いまだに信じられません」
「ふ~ん」
ここで豊姫はあることを仮定した。
「まさか……好きになっちゃったの?」
「違いますからね?」
驚きと焦りが入り混じった声で反応する。
「そう、あなたの初恋の相手がついに……」
「違いますし、初恋ではありません」
「まあ、あの方なら私も許すわ」
「違いますって……」
そして豊姫は思い立った顔になって、
「これは一大事よ!みんなに広めないと!」
「!?」
「みんな~!聞いて聞いて!」
そういって、部屋の外に飛び出す。
「違うって言ってるでしょ!――くっ…こうなったら実力行使で…」
月の世界は今日も楽しそうだ。
第十九話でした。長かった……疲れた……
優斗の作戦いかがだったでしょうか?(ネーミングセンスがない?気にするな!)
なんと大妖精にライバル出現です!
依「ぶっ殺しますよ?」
いやだなあ、冗談じゃないか。でも公式設定では依姫って結婚してるんですよね。なんと相手が豊姫の息子……複雑な家庭事情なんですよねw(笑えることではない)ここでは綿月姉妹は結婚していないことにさせていただきます。
ではまたお会いしましょう!次回は少し学校生活から離れて、まったりとした休日の話を書こうと思います。