四季がはっきりしている幻想郷がようやく涼しくなってきた10月。その初日のHRの時間は風が吹いて結構涼しかった。
「う、う~ん」
いつものように大妖精のいる1年1組の後ろで伸びながらまったりしていた俺。
しかしHRの終わりにそんな日常を壊す慧音の言葉が、唐突に投下された。。
「さてと、話は変わるがみんな。月へ行きたくないか?」
クラスが騒然となった。後ろでうたた寝をしていた俺も、思わず慧音のほうへ見入ってしまう。
…………月? 月っていうとあのテクノロジー満載のか? しっかしいきなりなんで……
「ほら、今クラス別社会科見学の時期だろ?」
ああそうか。うちの学校と特色として、クラスごとに行われる社会科見学がある。慧音はその場所として自分に関係のある月を選んだのだ。
――しかし問題があるぞ。俺は教室の後ろから手を挙げて質問してみる。
「慧音先生。そもそもどうやって行くんだ?」
すると、慧音先生は若干苦い顔をしながら、
「うむ。不本意ながら……」
突然前ドアが開いた。
「はーい! 私の能力よ!」
紫か。ああスキマね。便利なもんだ。
「無理ね」
「あらどうして?」
話の腰を折るように言ったのは霊夢。ずいぶんと自信に満ちていた。
「私、月に行ったことがあるのよ」
「私もだぜ!」
「あら、私もよ」
へえ~。霊夢や魔理沙、レミリアも……ん? そんな本があったような……確か1回読んだはずだ。
「それで?」
「すごく私たちを目の敵にしていたわ」
「ああ、しかもメチャクチャ強いんだぜ……」
「その点については心配ご無用!」
諦めの言葉に反論したのは紫。賢者といわれるくらいだから何かいい考えでもあるんだろう。
「みんなで忍び込んで、何か向こうの大切なものを盗るの。そして『これを返してほしければ社会科見学をさせろ』って、言えばOKよ」
なるほど……って、脅迫じゃねえか。
でもいい案だ。それと同時に、俺はある子供の遊びを思いだした。
「紫先生。これって規模が大きい旗取りゲームですよね」
「ふふっ、まあそんな感じだわね~」
そう、俺たちが攻撃側で月世界が守備側。俺たちの勝利条件は相手の大切なものを盗み出すことだ。
「それでね優斗。あなたには指揮官をやってほしいのよ」
「えっ?指揮官ですか?」
「ええ。とってもお似合いよ。みんなもそれでいいわよね?!」
おおー!と、同意が得られた。
指揮官か~。もちろん経験はない。でもやるからには燃えるな。
やる気が出てアドレナリンが出たのか、ここで俺は、霊夢たちが月世界に行った小説の内容を完全に思い出していた。――確か、綿月姉妹だっけ?
姉はともかく、妹のほうはずいぶん下の世界を見下している。というか、自分たちの世界に誇りを持っている印象があった。一泡吹かせるのも面白そうだな。
「よーし!みんながんばろう」
うぉーっ!と、歓声が聞こえる。さてどうしようか……
「紫、確か前は幽々子たちをおとりに使ったんですよね?」
「そう。よく知ってるわね」
あの時は霊夢たちをおとりに使い、さらに自分たちもおとりにした二重ひっかけで突破したんだっけ。ずいぶん簡単な手に引っかかったんだな。
「もうその手は通じないわよ」
「もちろん」
紫とと会話しているうちに俺にすさまじくいい考えが浮かんだ。ふふ……これならなら絶対引っかかるぞ。
こちらの強みはクラスメンバー全員、およそ20人くらいを使えることだ。さらにほとんどの生徒がスペルや能力を知られていない。
それを使って突破する。相手が油断して揚げた足を容赦なくとる。
「それではこれから作戦会議を始める」
放課後、職員室の紫の机を訪ねた。聞きたいこと。いや、確認したいことがあったからだ。
「紫先生」
「はい?」
「単刀直入に言いますね。今回こんなことになったのは、」
「あら~ばれてるの?」
話を遮った紫を無視し、続ける。
「前回の勝利が気持ちよかったからじゃないですか?」
要するに、もう一回憂さ晴らしをしたいということだろう。
「……そうだけど?」
あっさり認めたよこのスキマ妖怪。まあいいんだが。
――俺は隠れていたもう一人に声をかける。
「永琳先生も出てきていいですよ」
「あらら。気づいていたの」
噂を聞きつけ、調査しに来たのだろう。まったく盗み聞きなんて人が悪い。
「別に先生のお弟子さんたちに告げ口してもいいですよ」
永琳先生の質問を先回りして俺は答える。
「あら、あなたが不利になるじゃない?」
「いや、依姫たちにも言いたいことがありますし、」
もう一つのほうが重要だ。
「こんなハードモードでクリアしたら最高にクラスの絆が深まると思いません?」
「ふふ、確かにね。じゃあ伝えておくわ」
自分でハードルを上げてしまうのは悪い癖だ。まあ、絶対にクリアしてやるがな。
と、いうわけで第十七話でした。
次回、首都攻防戦です!優斗はどう攻めていくんでしょうか!
ではまたお会いしましょう!