ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
さらにもう一つの懸念は、ユウが神機を振う姿を描くタイミング…ギンガに変身して戦うのは当然ですが、ゴッドイーターとして戦う描写が疎かになりがちです。ゴッドイーターでもあるのでなんとかうまく描いていきたいです。
そういや、雨とかタブタイトルに書いておきながら、本編中では雨が降らないな…。
「な、なんとか撒いたかな?」
はぁ~と深いため息を漏らすコウタは座り込んで壁に背中を預けた。今彼らがいるのは、廃墟となった街の、まだ残っていた住居の一階。しかし、気が付いたら鉄塔の森の外に置いていたジープから離れてしまった。もう一度戻るには距離もあるし、時間もかかる。それに一般の人たちを抱えている。移動するだけでも一苦労だ。
「まさか、またあんな巨大サイズのアラガミが現れるなんてね…」
エリックは物陰から外を覗き見ながら呟く。今、テイルメイデンは流石にスタングレネードの効果が切れたのか、ユウたちを見失いはしたものの、鉄塔の森のエリア内でキョロキョロと周囲を見渡している。
それにしても、なんて巨大なのだろう。この前極東支部を襲ってきたドラゴードにも匹敵する50mクラスの巨体。あれだけの敵を倒す手段など自分たちにはない。
「ど、どうするんですか…!?」
「な、なあ!あんたらゴッドイーターだろ!あんなのぶっ倒してきてくれよ!」
すると、不安を隠せなくなったリーダーの男性がユウたちに声をかけてきた。少女に至っては言葉を失っている。
続いて男性が上から目線も同然の言葉を飛ばしてくる。確かにゴッドイーターである以上、アラガミを倒すことは義務ではあるが、いくらなんでも相手にするだけ無謀な敵に立ち向かうのは下策でしかない。
男性の言う通りあいつを倒しておいた方が最上の結果を出せるのだろうが、あいにくあれだけの巨体のアラガミを倒せるだけの攻撃力など、今ここにいる4人を合わせても無理だ。援軍が来るまで逃げきるしかない。
「ある程度体力が回復したら、すぐにここを離れましょう」
一般人を連れての逃亡というものは体力を減らしやすい。ユウの提案で一度身を隠せると言う条件下の元、この場に着いたのだが、いつまでもここに留まるわけにいかない。もしかしたらあいつとは別のアラガミが現れるかもしれない。そうなったらこの人たちを守りつつ逃げ切れる可能性などないに等しい。
だから願う、早く援軍に来てほしい…と。
「…」
一方でユウは悩み始めた。懐に隠しているアイテム…ギンガスパークを服の上からさすった。これを使えば、一発逆転でこの状況を打開することは可能だろう。
(…だめだ、今ここで変身するのは)
だが、タロウから忠告を受けている。この力に頼りすぎてはならないと。事実ユウは以前にこのアイテムの中に宿る巨人…ギンガから変身を拒まれてしまった。それに今は人の、仲間たちがいる。人目につく場所の変身は、自分もギンガも危険にさらすも同じだ。
でも、自分たちがせっかく助けた人たち…特にあの少女を見ていると、使えるはずの力を使ってはならないと言うもどかしさを覚える。焦る気持ちが湧き上がってしまう。
「む…」
壁の影から見張りをしていたソーマの目つきが変わった。彼の目に、わずかに見えていたテイルメイデンの姿が、砂埃の中に消えたのだ。
「敵の姿が見えなくなったぞ」
それを聞いて、一同は立ち上がる。ユウとエリック、そしてコウタも外の様子を確認すると、砂煙が晴れたその場所にはテイルメイデンの姿が影もなくなっていた。
「諦めて帰ってくれたってことか。はぁ~助かった」
姿が見えない。それは同時にあいつから逃げ切れたということ。そうとったコウタは安心の溜息を洩らし、大人たちも一安心する。
「呑気なもんだな」
「え?」
しかし、ソーマはそうは思わなかった。まだ、その氷のような冷たさとツルギのような鋭い目つきが、戦闘態勢に入ったままだ。
「あのアラガミはコクーンメイデンの変異種だ。本来コクーンメイデン系のアラガミは、一度誕生したら決してその場から動くことはない。そもそも歩くことができない。だが、たった今姿を消した。これがどういうことかわかるか?」
「え?えっと…つまり?」
言っていることがわからないと言いたげに、コウタは首を傾げる。あまりに察しの悪い彼にソーマはため息を漏らした。
「進化したことで移動可能になったということ…かな?」
コウタに代わってユウが答えを言って見る。ソーマはコウタの反応と違って否定的な態度を見せない。正解のようだ。
「やっぱり帰ってからちゃんと勉強しておくべきだね」
「…」
エリックからも窘められ、コウタは小さくうめき声をあげた。クラスに間違いなくいる、勉強嫌いな学生タイプの彼にとって勉強と言う言葉はできれば耳をふさぎたいものだ。
しかし、なんにせよ厄介だ。本来なら移動ができないはずのコクーンメイデンが巨大化しただけならまだよかったのだが、本来のメイデンとは異なり移動可能になったなど、厄介の一言では片付けがたい。
「姿を消したんだ。次はどこから現れるか…」
姿のなくなったテイルメイデンが。今度はどこから姿を見せるだろうか。
少女が、ユウに縋るように服の裾を掴んでくる。その目を見て、やはり不安をぬぐい切れていないことがうかがえた。
「大丈夫。兄ちゃんたちが守るから」
「…うん」
少女は頷くが、やはり猛烈な不安を抱いたままだ。
「なんだか、いつの間にかなつかれてるね。まるで兄妹だ」
ふと、横からエリックが笑みを浮かべてきた。
「兄妹かぁ~。そういやこの子、ノゾミと何歳違いかな?」
コウタも話に加わってくる。彼も妹がいる、と任務の前の会話で明かしていた。ユウと少女を見て、自分の家族と重ねてみたのだろう。
ユウは、少女の眼差しに懐かしさを覚えた。
(小さい頃の、あの子に似てるな…)
かつて自分が失った大切な存在にこの少女がダブって見えた。容姿は似ても似つかないものなのに、似ているようにさえ感じる。余計に、この少女とその家族でもあるこの人たちを無事に安全な場所へ連れて行きたいと思った。たとえこの人たちが、一度極東支部入りを拒まれているのだとしても。
「!」
その時、ソーマは何かを察したのか表情を変えて背後を振り返る。自分の正面から見て大人たち三人、コウタ、ユウと少女がいて、エリックが一番向こうにいる。
そして、さらにその向こう、自分たちが隠れている崩れかけの住居の穴の開いた屋根の向こうに、何かが見える。うねうねと動く、巨大な紐のようなものが。
いや…待てよ…あれは!!
「エリック!上だ!!」
ソーマが叫ぶと同時に、エリックが、そしてユウたちも頭上を、性格には自分たちのいる住居の天井の穴を見上げた。
一同の表情が強張る。地面から、二つの触手…いや、尾が生えていた。さきほどまで海藻のようにゆらゆらと揺れていたその二つが、鋭い槍のように研ぎ澄まされ、降りかかってきた。
「外へ!!」
急ぎ外へ向かえと叫ぶユウ。ソーマが無理に大人二名の腕を引っ張り、コウタも気付いてもう一人、女性の手を引いて外に追い出す。
ユウも、少女を抱えて外に出ようとした。
と、その時だった。ユウは思い切り背中を押し出された感覚に晒された
「!!」
ユウたちはその衝撃を受け外に押し飛ばされると同時に、彼らの留まっていた住居が、二本の尾が突き刺さると同時に倒壊した。
「ぐ、大丈夫…?」
外に放り出されたユウは、傍らに倒れた少女を見る。少女はユウを見るが、少女は返事をしない。まさか!?と思っていたが、息がちゃんとある。ちょっと体を撃って気絶をしただけのようだ。ほっと安心した。
「ユウ!早く!」
遠くからコウタの声が聞こえる。ソーマや大人たちも無事だ。
少女を抱え立ち上がる。二本の尾がくねくねとうごめく。
間違いない。あのアラガミ…テイルメイデンが地面の下を移動してここまで来ていたのだ。そして地面の下から二つの尾を伸ばして攻撃をしてきた。見えないはずなのに、いともたやすくこちらの居所を掴んで攻撃を仕掛けるとは恐ろしい。受け身のこっちからすればおちおち安心してその場に立つこともままならない。
しかし、自分たちは今どうなった?いきなり押し出されたようだが…。自分たちが辛うじて隠れていた住居は無残に倒壊していた。
「!」
ユウはその時血相を変えた。住居の瓦礫の山の中に、エリックが倒れているのだ。少女を抱えたまま、ユウは倒壊した住居の方に駆け寄った。
「ユウ!!危ねえ!!」
コウタの叫び声が聞こえるが、届かなかった。ユウは少女を抱えたまままっすぐエリックの方に向かって行く。
「くそ、仕方ねえ!俺も…」
このままではユウも危険だ。コウタも助けに向かおうとしたが、ソーマが後ろからコウタの肩を掴んだ。
「状況を考えろ!もうグレネードも残ってねえ。てめえまでミイラになる気か…!?見ろ!」
既に、ユウたちの向こうの、二本の触手が伸び始めていると同時に、地面の砂がだんだんと盛り上がっている。
さっきのアラガミが、地面から姿を現そうとしているのだ。
「待ってくれ!じゃあ…あの子まで見捨てる気か!」
少女のことを刺しているのだろう。リーダーの男性が声を荒げた。
「…悪いが、今はあんたらの方が優先だ。このまま俺たちが突っ込んだところで、二の舞を喰らってお終いだ」
「そこをなんとかしろよ!あんたら」
もう一人の男性が無茶を吹っ掛けてきたが、ソーマはジロッと彼を睨み付けて黙らせた。
「…ぅ…」
なんでもかんでも俺たちに頼るのは勝手だが…限界ってもんを考えろ。心の中で言い返した。実際ソーマの判断は正しい。このまま巻き添えを喰らっては元も子もない。今度こそ全滅だ。
「退くぞ新入り」
「…くそ!!」
せっかく友達に慣れた人間をこのまま置き去りにする。コウタは悔しげに顔を歪め、やむを得ずソーマと大人たちと共に、この場から全力で離れざるを得なかった。
だんだんと、ユウたちの姿が小さくなっていった。
「この!!」
ユウはエリックの元に接近しつつ、銃形態の神機を向け、テイルメイデンの尾に向けて連射。触手に手傷を負わせて怯ませる。
尾に傷がついて、その傷の奥が僅かに光っている。浅くそれも小さいものだが、結合崩壊を起こしたのだ。今なら!
「エリック!しっかり!」
少女をなるべく優しく下ろし、ユウはエリックの傍らで身をかがめる。
「ユウ…君…」
エリックは瓦礫に下半身が埋まってしまっている。これのせいで抜け出せなくなっているのだ。彼の神機も瓦礫の下に違いない。ユウはすぐに瓦礫を退かしにかかる。
「待ってて、すぐに退かすから!」
「ダメだ…僕に、かまうな…!このまま留まっていれば、君も…」
ユウが瓦礫の一部を手づかみした時、エリックはかすれた声で警告を入れる。
「その少女を連れて…早く…!僕にも、妹がいるからね…コウタ君の気持ちが良くわかるのさ…」
「じゃあ…!」
さっき突き飛ばしたのは、エリックだった。テイルメイデンの攻撃が、ちょうどユウたちに降りかかろうとしたところで、自分の身を顧みずにユウたちを突き飛ばした。代わりに自分ががれきの下敷きになってしまったが、間一髪ユウたちに危機を救ったのだ。
「だったら生きるんだ!妹さんが待ってるんだろ!」
「このまま…共倒れになる気か…!?」
エリックの言う通り、ユウの今の行動はゴッドイーターとしては褒められたものじゃない。下手をすれば自分も、自分の傍にいる少女さえも巻き込んで死なせてしまう可能性が高い。冷静に考えれば、このままエリックを置いて逃げた方が悪い結果にはつながらない。それはエリック本人も承知の上だった。
今のユウが、自分と少女の両方を助けようとしていることはすぐにわかるが、二人とも助けられる見込みなどない。
「そのままじゃ勝ち目はない。僕を置いて、生き延びてく――」
再び逃げることを促すエリック。だが…。
「嫌だ!!」
エリックの言葉を遮るようにユウが叫ぶ。
こんなこと、二度と経験したくなかった。今この時が、ユウにとって世界が黒に塗りつぶされた『あの時』と同じだったから。
たった一人の家族だった妹が、自分を突き飛ばし、アラガミによって瓦礫と化した家の中に押しつぶされていくのを黙っているしかできなかったあの時と。
「KUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
その時、地面を突き破り、テイルメイデンが再び姿を現した。そして、ユウの姿を見るや否や、上の頭が割れて、光を灯す。こちらに向けてオラクルエネルギーの弾丸を撃つつもりだ。
「先に逝く僕を許してくれ…『エリナ』…」
「…!」
エリナ…それが、エリックの妹の名前なのだろう。
もう死を覚悟したことと、ダメージの蓄積の影響だろうか。妹への謝罪と共に、エリックは意識を手放してしまった。
傍には巨大な怪物。瓦礫の下には、助けたいのに自分一人ではどうにもできない人。傍には、他の誰かの手を借りなければ助け出せない少女。
そして、エリックが口にしていた妹の存在。彼の帰りをきっと待っていることであろう。犠牲者の数を考えると、ここでエリックを置いて逃げた方が賢明な判断だろう。だが、それを選んだら、エリックの妹…『エリナ』と言う少女は味わうことになるに違いない。
―あの時の自分と同じ、大切な家族を目の前で失うと言う悲しみを。
そんなこと…そんなこと!
――――許して…たまるか!!
ユウは神機を突き立て、懐からギンガスパークを取り出した。
「力を…!」
ギンガスパークを掲げると、右手に『選ばれし者の紋章』が浮かび、先端から溢れた光がギンガの人形となってユウの手の中に収まる。円を描くように回し、足の裏の紋章をギンガスパークの先端に接続した。
【ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!】
接続と同時に、ギンガスパークにギンガの顔の意匠が現れ、ギンガの人形が光となってギンガスパークそのものを包み込み始める。
「ギンガーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
ユウは甲高く叫び声をあげ、ギンガスパークを掲げると同時に光を身に纏った。
「KUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
銀河系のごとき天に上る光の柱。それに当てられたテイルメイデンは吹き飛ばされる。
エリックは、サングラスを駆けていたにもかかわらず、今の光の眩さによって目を覚ました。
目を開くと、そこには見覚えのある顔があった。だがそれは親しい間柄の顔を見たからなどではない。ごく最近に初めて見た、異形の存在の顔が目に飛び込んできたのだ。
「!」
いつの間にか、自分とユウが運んでいた少女は、巨人の掌に乗っていた。巨人がこちらを見下ろして来た。一瞬エリックは戸惑いを覚えた。少女も目を覚ますと、真っ先に飛び込んできた巨人を見て思わず悲鳴を漏らした。
「ひ…」
もしかしたら、新たなアラガミではないのか?そう疑ってしまう。だがその直後、巨人が頷いてきたのを見た。人間臭さのある感情表現に、今度は違う意味で戸惑いを覚えたが、そこへエリックが彼女の肩に触れて笑みを見せた。
「大丈夫、彼は…僕らを助けてくれたんだ」
そうだ、彼は前回の防衛線で極東支部の危機を救ったのだ。まだ知らないことだらけだが、それでもまた今のように助けてくれたのだ。それにしても…。
(このタイミングで助けに入るとは…華麗すぎて言葉にならないな…)
少女と共に巨人の手の中に収められながら、エリックは心の中でそう呟いた。
光は、撤退中のコウタたちの目にも届いた。そして、光が晴れると同時に現れた巨人に注目する。
「な、なんだありゃあ!」
「もしかして…アラガミ!?」
3人の大人たちは、巨人の姿を見てかなり動揺した。
かつては地球で数々の伝説を残した超人たちを知りもしない人間がすでに大半を占めている世界だ。今の反応をするのも致し方のないこと。
しかし、コウタは巨人を見てその目に希望の光を灯した。
「ウルトラマンだ!ウルトラマンが来てくれた!!」
「う、うるとら…?あの巨人がなんなのか知ってるんですか!?」
リーダーの男性がコウタの興奮にも達している喜びように目を疑う。一見すれば、アラガミにも見られる巨人に、なぜ希望に満ちた目を向けているのか。
「大丈夫です!あれは…ウルトラマンは味方です!」
「み、味方…!?あの巨人が…!?」
にわかには信じられないと言った様子だった。でも、その証拠はすぐに明らかになる。
ギンガがこちらを見てくると、すぐに駆けつけてきた。思わずその巨人が近づいてきた際に、大人たちは小さく悲鳴を漏らしてしまう。しかし直後に、ギンガが片膝を着き、地面に置いた右手を広げる。そこには、瓦礫の下敷きにされていたエリックと、ユウが抱えていた少女の二人がいた。
「エリック…!」
ソーマは、傷を負ってこそいたが、無事だったエリックを見て、いつもの無表情から一転して目を見開いていた。
「エリックさん、けがは!?」
「大丈夫さ、コウタ君。けがはしているが、見ての通り無事だ」
エリックは渇いたような笑みを見せてくる。
「…あのお兄ちゃんは…?」
すると、少女はユウがいないことに気づいた。それを聞き、コウタとエリックも周囲を見る。少女が気づいた通り、ユウの姿はどこにもない。
すると、ギンガが立ち上がってきた。彼が立ちあがったのを見てコウタたちが一斉に注目を入れる。本当に、エリックたちを助けてくれたのか?そんな疑惑に満ちた思いを秘めた眼差しを向けられたまま、ギンガは彼らを見下ろし、右手を水晶体で敷き詰められた胸に手を当てて見せてきた。
「俺に任せろ…って…?」
コウタがギンガが何を伝えようとしているのか、予想を立てて口にすると、ギンガはそれを聞いて頷いてきた。
(伝わった…!)
それを見て驚くコウタたち。アラガミと違って、人間の言葉さえも分かるのだと知って唖然とした。
「シュワ!」
ギンガは驚いている彼らから背を向けて高くジャンプ、テイルメイデンの正面まで降り立った。
「……」
コウタは言っていた。ウルトラマンは味方、だと。根拠といえば、たった今の自分と少女に対する対応。エリックもその言葉に、不思議なくらいに強い信憑性を覚えた。
(このまま借りを作ったままでは、華麗なゴッドイーターとは言えないな…)
今の恩を、借りを返したい。エリックはなんとかできないかと考え始めた。
「おいエリッ…!」
気が付いたときには、彼は一歩前に歩きだしていた。
変身を遂げたユウ、ウルトラマンギンガは、そのたくましい豪腕によるチョップを振りかざす。それに対し、テイルメイデンは頭の尾をしゃくりあげてそのチョップを弾き飛ばした。
「グゥ!?」
手にしびれを覚えるほど、尾に入った力は予想以上だった。
今度こそ!とギンガはテイルメイデンに近づき、その胴体に向けてパンチとアッパーを叩き込む。
すると、テイルメイデンの頭の尾が伸びてきた。さっきと同じように、槍や針のように鋭く先がとがっている。
「KUAAAAAAA!!!」
テイルメイデンの、上の頭の少女を象った顔が、血を寄越せと叫んでいるように醜く歪むと同時に、頭の二本の尾が襲い掛かる。
「デュ!!」
とっさに右に避けたギンガ。かろうじて回避に成功したが、避けた際にわずかにギンガの左肩にテイルメイデンの尾が掠れた。しかも傷痕が、右肩の水晶体に傷をつけている。もしあのまま真正面から受け止める、または後ろに同じ方向へそのまま避けていたら、口刺しにされていたことだろう。
まずは、あの尾をどうにかしなければ。
ギンガはまず、奴の尾の出方を探った。対するテイルメイデンは再び尾を振ってギンガに攻撃を仕掛ける。急所に突き刺されてしまえば命はない。
テイルメイデンの意による刺突攻撃が、再び襲いかかる。ギンガが右に避けると、その位置に向けて。左に避けると左に、後ろに避けるとその分だけ尾を伸ばして串刺しにしようとする。
(くそ…!)
近付きにくい。ギンガはそれでも接近して応戦しようとしたが、やはり近づきにくい。しかも、ギンガがうまく近づけないことをいいことに、テイルメイデンは上の、少女を象った顔がついた口が開かれると、口の中からオラクルエネルギーで構成されたエネルギー弾を発射してきた。
それも一発だけじゃない。二発、三発…十発近い連続のオラクルのエネルギー弾がギンガを襲った。
「グワ!!」
ギンガはとっさに両腕を組んで防いだが、爆風のダメージが腕に伝わる。近付かなければそれはそれで厄介ということ。
「KUAAAAAAAA!!」
「シュア!!ハッ!!ウオオオオオオ!!!」
だが、負けるわけにはいかない。ギンガは、その右腕の水晶体から光の剣〈ギンガセイバー〉を形成し、針のごとき攻撃を防いだ。二本の尾がギンガを襲うたびに、ギンガは光の剣を振いながらその二本の尾を必死になって弾き返した。しかし、刺突攻撃を全て受け止めきれなかった。わずかな隙を突いて尾の先が、ギンガの腕に突き刺さった。
「ウア!!?」
膝を着いて刺された左腕を掴んで悶える。その怯みをテイルメイデンは見逃さない。ギンガに向かって飛びかかってきた。
下の方の頭が、グワッ!と大きな口をあけ、ギンガの足にかみついた。
「フォァ!?」
それに続き、今度は上の頭の二本の尾がギンガの首に巻きついてきた。ギリギリと締め上げにかかる尾の力は凄まじい。足と首を捕えられ、身動きが取れなくなってしまった。だが、テイルメイデンの攻撃はこれだけに収まらなかった。
それどころか、恐ろしい攻撃が待ち受けていた。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
「!!?」
ギンガは後ろを振り返る。すると、驚くべき光景を目の当たりにした。
テイルメイデンの胴体が、グパァッ!と、扉のように開いていたのだ。開かれた胴体の中には、何かがうねうねとしているが、色が赤黒く中身も暗いためかよく見えない。見えないのだが、テイルメイデンの扉の裏を見てゾッとした。
針や棘が、おびただしく着いていたのだ。
コクーンメイデン、それは中世の拷問器具『鉄の処女(アイアンメイデン)』に似た姿をしたアラガミ。
アイアンメイデンは罪人をその中に放り込ませ扉を閉じ、扉の裏や中に敷き詰められるように用意された針や棘によって罪人の全身を突き刺すと言う、なんとも想像することも恐ろしい拷問器具の一種だ。
それに似たもののためか、攻撃手段の一部も体内の針で相手を突き刺しにかかると言う鋭いものが多い。
ギンガは、次に自分に降りかかるかもしれない未来を想像して恐怖した。テイルメイデンは彼を喰らおうとしているのだ。それも、今から拷問器具に放り込まれようとしている罪人のように、その体内に取り込んで…。
(全身串刺しだなんて…ごめんだ!)
ギンガはなんとしてでもこの呪縛から逃れなくてはと、まずは首に巻き付いている二本の尾を解こうと、首に巻き付いた尾を掴んで力を入れる。しかし首に巻き付いている二本の尾の力は強く、ほどける気配がない。
このままでは…食われる!!
その時だった。
ブワッ!とギンガの視界を白い光が塗りつぶした。
「GUAAAAAAAA!!?」
今の光の影響か、テイルメイデンが悲鳴を上げている。首と足の拘束が緩んだ。今のうちに!ギンガは後ろを向いたままテイルメイデンに向けて後ろ蹴りを繰り出し突き飛ばした。
今の光は知っている。スタングレネードによるものだ。一体誰が?辺りを見渡すと、スタングレネードを投げた張本人はすぐに見つかった。
(エリック…!?)
ジープに乗っているエリックがこちらに手を振っている。
今のスタングレネードは、エリックが投げつけてきたものだった。
借りを返すつもりで、ギンガを助けに来てくれたのだ。
(命を救われたんだ。これくらいの借りじゃ物足りないくらいだよ…)
ギンガからの視線に気づき、エリックはニヒルに笑って見せている。
さらにそれだけではない。
空からバン!と銃声が数発分鳴り響いた。ギンガが次に頭上を見上げると、ドアが開かれたヘリがギンガの頭上を飛んでいる。ヘリには、サクヤともう一人…眼帯の女性がスナイパー神機を構えていた。あの眼帯の人は確か、第3部隊のジーナって人だったか…?
「皆、生きてる!?」
サクヤが耳に搭載させていた通信機で地上組と連絡を取り計らった。ソーマの救援通信に、この二人が駆けつけに来てくれたのだ。
さらにもう2、3発、ジーナの神機から鋭い弾丸が放たれ、テイルメイデンの体に突き刺さり、血しぶきを起こした。
「綺麗な飛沫」
テイルメイデンから血が飛ぶのを見たジーナは笑っていた。
「もう、ジーナったら。あまりそう言った顔は止めて」
「ふふ、ごめんなさいね。早く撃ちたくてうずうずしてたから」
どこかその笑みは危ない何かを漂わせる。サクヤが一言注意をするが、対するジーナは笑って流していた。
ギンガ…いや、ユウは心が満たされた。いくら自分がこれほどまでに強大な力を持っていても、今のようにピンチに陥ることもある。それを助けてくれる存在が、近くにいることを実感した。
(ありがとう…!)
心の中で礼を言い、地面の上を転がるテイルメイデンを見て、ギンガは腕の痛みをこらえつつテイルメイデンの次の攻撃の出方を伺う。
わざと一歩足を出して、近づく仕草を見せると、それを見てこちらに近づけさせまいと、テイルメイデンが二本の尾を振いだした。警戒すべきはあの二本の尾の攻撃。それはまるで、奴隷に向かって乱暴に鞭を振って言うことを聞かせようとする暴君のようだ。伸び縮みし、突き攻撃はまるで槍か針のように鋭い。
これでは近づきたくても近づけない。
いや、ならば隙を作り出せばいい!ギンガは全身のクリスタルを赤く光らせ、燃え上がらせると、灼熱の火炎弾を自らの周囲に形成、テイルメイデンに向けて放った。
〈ギンガファイヤーボール!!〉
「シュア!!」
それに対し、テイルメイデンは再びオラクル弾をギンガファイヤーボールに向かって今度は3発以上連射しようとした。
しかし、それをも阻まれた。エリックがブラスト弾をテイルメイデンの下の顔の目に向けて放ったのだ。
今の一撃で、片目が結合崩壊を起こし、潰された。お蔭で、テイルメイデンは自信の砲撃の発射を妨害され、ギンガの火炎弾をモロに食らってしまう。
今のうちにあの厄介な尾を!ギンガは再びギンガセイバーを展開し、テイルメイデンの頭の尾をすれ違いざまに斬り飛ばした。
「ショオオラア!!」
「GIAAAAAAAAAAAAAA!!」
頭の二つの尾を失い、もだえ苦しむテイルメイデン。
今度こそ止めを刺す!
ギンガは全身のクリスタルを金色に光らせ、頭上に雷をほとばしらせると、右手にその力を纏わせ、前に突き出すと同時に、雷を纏いし必殺の光線をテイルメイデンに向けて放った。
〈ギンガサンダーボルト!〉
「ドオオォリャア!!!」
「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
雷の流動がテイルメイデンの全身を包み、宙へ打ち上げる。テイルメイデンは雷撃から逃れることができず断末魔を轟かせながら、遥かな空の上で、華やかさの欠片もない花火となって砕け散った。
勝利を確信したギンガは構えを解くと、地上にいるエリックやコウタたちの方を向いた。皆の笑っている顔が、特にエリックのその顔が見える。静かに頷き、ギンガは頭上を見上げた後、空へ飛び去って行った。
「シュワ!」
戦いの後、非戦闘員である少女たちも一緒に運べるように、ようやく迎えのヘリが訪れた。
「ユウ!おーーーい!!」
すぐにコウタはユウに連絡を取りにかかった。だが、通信に返事がない。大声で周囲のどこかにいるかもしれないユウを呼ぼうともしたが、それは流石に他のアラガミに見つかってしまう可能性があったので控えるように警告された。
(もしかして、やっぱさっきの戦いで…?)
想像したくない現実を想像し、コウタは青くなる。
「…っち」
ソーマは舌打ちした。任務前に鉄塔の森へ到着する前に言った、ユウの言葉が浮かぶ。
(夢だのなんだの…こんなクソッタレな世界で馬鹿な夢見やがるからこうなるんだ。あのバカが…ッ!)
「お兄ちゃん…」
少女が悲痛な表情を浮かべながら不安を抱く。しかし、エリックは指差した。
「…いや、どうやらいらない心配だったみたいだ」
コウタたちがエリックの指差した方角を見ると、遠くから手を振りながら、ユウが皆の元へと駆け寄ってきていた。
「ユウ!」
「皆、ごめん。心配かけちゃって…」
たはは、とユウは頭の後ろを掻きながら苦笑した。
「お兄ちゃん、けがは?」
「大丈夫。この通りピンピンしてるから」
少女もユウの傍らに歩み寄って怪我がないか尋ねてきて、ユウは彼女の頭をそっと優しく撫でた。
「やはり、あの巨人が君を?」
「うん、ギンガが、僕を間一髪安全な所へ運んでくれたんだ」
エリックからの問いに、ユウは頷いた。それを聞き、責任を感じた彼はユウに向けて頭を下げた。
「しかし、今回の君の危機の原因は、僕にもある。済まなかった」
「いや、責めてる気はこれっぽっちもないし、別に気にしてなないよ!それに、エリックは僕を助けてくれたじゃないか」
謝ってきたエリックの謝罪にユウは気にしないでほしいと言う。
すると、ソーマがジロッとこちらを睨み付けてきた。その威圧感に押されかけていると、ソーマは睨んだまま一言、鋭い言葉を突き付ける。
「…次からは、自分の身は自分で守るんだな」
ソーマはそう言って、ジープ回収のため3人の元から離れだした。
以前も今回も、ユウはウルトラマンがいたからこそ助かった。けど、本来ゴッドイーターは彼の言う通り自分の身を自分の力で守らなければならない。そう言った意味では、ユウはまだゴッドイーターとして未熟なレベルだということだ。
(帰ったら…また訓練かな)
訓練中の映像を録画してもらい、タロウに見てもらおうか検討していたが、実際に行う必要がありそうだ。
「みんな、けがはないかしら?」
ソーマとすれ違う形で、地上にヘリが降りてきて、サクヤとジーナが降りてきた。
「はい、けがはしてますが平気です。」
「そう、よかった…でも」
ユウからの報告を聞くと、サクヤはジトッとユウを睨む。
「さ、サクヤさん?」
「ユウ、ソーマから聞いたわよ。エリックを助けに行ったそうだけど、あの状況で一人突っ走って助けに向かうのは正しい判断じゃないわ」
「……」
「仲間を助けに行く。それは立派だし私も否定はしないけど、だからといってあなたまで命の危機にさらされたらミイラ取りがミイラになる結果しかもたらさないわ。今回はまたウルトラマンが来てくれたからよかったんだけど、必ず来てくれる保証なんてないから」
「…はい。すいません」
サクヤからも同じ指摘を受けるとは。ユウは頭を下げて謝った。すると、サクヤはすぐに朗らかな笑みを浮かべユウの肩をたたいた。
「まあ、二人とも生き残ってよかったわ。次も無理をしない程度に頑張っていきましょう?」
優しく綺麗な笑みがユウに向けられているのを見て、傍から見ていたコウタは「いいなぁユウの奴…」と小さく呟いていた。
「ところで、生存者はこの人たち?」
「うわ!?」
すると、後ろからジーナがコウタに話しかけてきた。まるで背後霊のような話しかけ方に思わずコウタは驚いて声を上げてしまう。しかしジーナは驚くコウタではなく、生存した少女と大人たち3人の難民たちを見る。
「はい。今から支部長に頼んで、僕の出身地へ送ってもらうように申請するつもりです」
ヨハネスはユウがゴッドイーターとなる際に出した条件…『ユウの出身地=女神の森への支援』を約束してくれていた。だったら、そこへ資材を送るついでにこの人たちの保護を向こうにお願いしてもらうことにしたのだ。
彼らは元々極東支部入りを拒まれた身の上。この件については、帰還後ヨハネス支部長と話をすることで解決したい。
一応、ヒバリを通じてアポをとってもらった。それからわずか二分、帰還準備の傍らにヨハネスからの連絡があった。
『いいだろう。だが資材も食料も無尽蔵ではない。こういったことは何度も許可はできない。それだけは心してくれたまえ』
返事はYESだった。だがあくまで、今回は特別だ、という指示だった。それを聞いてユウはただ一言、はいと返事をした。
だが、なんにせよ少女たちはもう壁の外で危険な流浪の旅を続ける必要が亡くなったと言うことだ。
「ありがとうございます!ありがとう…ございます…」
「その…礼は言う」
「フェンリルにもあなたのような子がいるのね…本当にありがとう」
そのことをユウから聞き、難民のリーダーの男性や、一緒にいた男性と女性も涙ながらにユウに熱い握手を交わし、何度も感謝の言葉を述べた。それから難民の人たちは、ジーナとサクヤと共にフェンリルから用意されたヘリに乗せてもらい、改修した素材と一緒に運んでもらった。別れ際に、リーダーの男性と少女が揃って、ユウたちに助けてくれたことへ改めて礼を言った時は、とてもうれしかった。
先にアナグラへ戻って行ったヘリを見送り、ちょうどソーマがジープを回収しこちらに向かって運転してきたのが見えてきた。
「にしても、ソーマの奴も少しは無事でよかった、の一言くらいよこせっての」
「ソーマは確かにあの通りの態度だが…」
近付いてきたソーマのジープを見ながら、不満を口にするコウタ。それでもエリックはソーマへの擁護、いや…自分の彼への本心を明かした。
「リンドウさんもきっと、彼が優しい人間だというはずだ。帰ってきたら訪ねてみるといい。
彼は今の僕らよりもずっと長くゴッドイーターを続けてきた。その分だけ仲間の死を見続けてきたんだ。ここにいる僕らも、彼にとってはいつかいなくなる仲間の一人でしかないと見られているから、あえて突き放そうとしているんじゃないかな?」
「………」
コウタはそう言われて押し黙った。でも、同時に彼はあまり納得しがたいものを感じた。
(だからって、あんな言い方…)
「さあ、先にソーマも乗ってしまったし、僕らも早く乗ろうか」
エリックに促されるがまま、二人もジープに乗り込んでアナグラへの帰路を行くことにした。
4人がソーマの運転するジープに乗ってアナグラへの帰還中、沈みかかる日の反対の方角を見ると、オレンジ色に染まった海の上に、巨大なドームが見えた。
「あれは…」
「エイジスを見るのははじめてみたいだね」
そんなユウを見て、エリックが声をかけてきた。
「噂では何度か聞いてたし、最近はコウタと一緒にサカキ博士の講義も受けてたから。けど、あんなに大きなものが…」
エイジス島。
ギリシャ神話の女神アテナの防具『アイギス』の名を飾られた、人類をアラガミの脅威から完全に隔離するための人工島。
現時点で地球に残された人類すべてをあの島の中に収容するほどのスペースがあるとされている。今のゴッドイーターたちは、アラガミたちのコアを元に作られたオラクル資源を増やすために、日々の任務に励み、アラガミのコアを回収し続けているのだ。
(そう言えば、あの人形…)
素材、と言う点で…帰る前、ユウはコア回収の際にあるものを手に入れていた事を思い出した。あの時ギンガとなって戦ったアラガミに似た、足の方に顔が合って頭の方に尾が付いている、上下逆さまの怪物の人形だ。しかも足…もとい顔の裏に、ギンガの人形と同じ模様の赤いマークが刻み付けられていたものだ。
(あの人形、一体なんだったんだろう…)
ギンガと同じ何かを感じる人形だった。それに先ほど戦ったコクーンメイデンのようなアラガミには、コクーンメイデンとこの人形の特徴が現れていた。
確信をたやすく抱くことができた。あの人形、あの異様かつ巨大な姿となったコクーンメイデンと何か関係があると。
帰還したら、タロウに聞いてみることにしよう。彼なら、あの人形の怪獣のことについて知っているはずだ。
「…早く完成させようぜ。そうすれば、あの子たちみたいに、壁の外で辛い思いをする人が少なくなる」
コウタは、母と妹。この一握りの家族を守るためにゴッドイーターとなった。他にもたくさんの人たちが同じ理由を持って戦っている。だから、エイジス島の完成は彼らの悲願でもある。
「そうだな。早く完成させて、エリナを安心させてあげたい」
エリックもコウタに同調してそう呟いた。
「エリナって、さっき言ってた妹さんのこと…?」
「へえ、エリックさんも妹がいるんだ」
「ああ」とユウからの質問にエリックは頷いた。コウタも妹持ちと言うこともあって興味を惹かれた。
「元々僕はフォーゲルヴァイデ家の跡取りでもあったんだ。けど妹は体が弱くて、病を治すためにこの極東に来た。
だが、皆も知っている通り、極東は激戦区になりがちで、いつ防壁が破られ、アラガミたちの爪や牙がアナグラに届くかもしれない。
だから僕は、家督を捨てて極東のゴッドイーターとして戦うことを選んだんだ。安心して妹が静養と闘病に専念できるようにするために」
それを聞いていたコウタのリアクションは、思わずユウやエリックがぎょっとするほどだった。
「頑張りましょうエリックさん!同じ妹持ちとして応援します!」
「お、おう…ありがとう…」
恐らく妹を守りたいと言うエリックの意思に、コウタが激しく同調したくなったが故だろう。熱くガシッと両手を掴んできたコウタに対し、エリックは礼を言いつつもどこか引いていた。
「あ…そういえば、ユウって家族いるの?」
ふと、妹の話からなのか、ユウの家族が気になりだしたコウタがユウに、彼の家族のことを訪ねてきた。
しかし、それを問われた途端、ユウの表情が哀愁を帯びた、寂しい笑みに変わった。
「ユウ君?」
「…いないよ」
「え…」
「もう7年以上は前、かな…。アラガミから僕をかばって、家ごと…両親も顔さえ覚えてない」
「あ…ごめん…無神経だった」
ユウには、家族がいない。辛いことを思い出させてしまったことを悔やんだコウタはユウに謝った。任務の直前、居住区の部屋で妹の話が持ち上がった時にやたら暗い顔をしていたのはこのためだったのか。
「いいって。もう昔のことだから。
コウタ、エリック。妹さんを大事にね」
「あ…ああ」
いつまでも嘆き悲しみ続けるのはベストじゃない。死んでいった人たちのために、今を大事にする。したかったから、あの時自分はエリックを助けに向かったのだ。
二人の頷きを見ると、ユウは遠い空の彼方を見上げた。もう太陽は地平線の先にすっぽりと消えて行こうとしていて、空も暗い闇の中に包まれていこうとしていた。
(兄ちゃん、頑張るから…見ていてくれよ)
夢をかなえるため、大切なものを守り続けるため。
遠い彼方の夕暮れの空を見つめながら、改めてユウは心に誓いを立てた。
「ウルトラマン、ギンガ…」
ちょうどユウたちのジープが横切った廃ビルの屋上、そこから走りゆくジープを見下ろす者がいた。
あの人形…『古代怪獣ツインテール』のスパークドールズをコクーンメイデンの体内に放り込み、テイルメイデンに変貌させた張本人でもある、視線の主だった。
その姿は、とても人間の姿とは思えなかった。だが、だからと言ってアラガミと言うわけでもない。
既に辺りが夜の闇に包まれているせいか、姿は確認できなくなっていた。ユウたちも気づくことはなかった。
「ツインテールに小型アラガミを混ぜた程度では勝てんか…そもそも思っていたほどの戦闘力は見込めなかったしな。
まあいい。今回はただの実験だ。
それにどのみち…この世界にはもうウルトラマンは奴以外にはいない。いずれ、今度こそこの地球をもらってやる…」
その異形の存在は、ほくそ笑むように呟いた。
これから先に起る戦いに、心が躍るのを隠せなかった。
「我らに倒されるまで、せいぜいひと時の勝利の余韻に酔いしれていろ…最後のウルトラマン」
NORN DATA BASE
○エリック・デア=フォーゲルヴァイデ
極東支部所属の神機使い。使用神機はブラスト神機『零式ガット』。(ただし、2以降の彼の神機はショットガンにカウントされているが、1・BURSTに準じてブラストとしている)
性格は原作同様ナルシストだが、妹思いで周囲から疎まれているソーマにも気軽に接し友人と言えるほどの関係を築くほど人のいい部分もある。
原作では主人公に自己紹介した直後にオウガテイルに頭部を捕食(アニメでは搬送されている主人公をかばって)され死亡したという衝撃の最期と早期退場で有名になってしまっている。
しかし、早期退場してしまったにも拘らず、BURSTでは隠れキャラとして復活するなど、彼はゴッドイーターのキャラの中でも結構人気がある方だったりする。
彼を語る上でソーマの『エリック、上だ!』は外せない。
本作では無事、ギンガとなったユウのおかげで死亡フラグを断ち切った…?
○双頭拷問神獣テイルメイデン
『古代怪獣ツインテール』とコクーンメイデンが融合した合成怪獣。
ツインテールをベースに、足の部分にツインテールの頭(ただし、より悍ましさと凶悪さのある顔になっている)と、上の頭がコクーンメイデンに、上方のツインテールのように尾が二本伸びている。
攻撃手段はツインテールから引き継がれた二本の尾だが、この尾は鞭と同じように使用するほか、コクーンメイデンと同じように、まるで槍や針のように敵を突き刺してくる。さらに上の少女を象った顔の口から、オラクルエネルギーの弾丸を連射する。
最も恐ろしいのは、下の顔の口と二本の尾で敵を捉え、拷問器具アイアンメイデンと同じように体を開き、鋭い針だらけの自身の体内に相手を取り込ませ捕食するというエグイ攻撃。もしギンガが最終的に取り込まれていたらと思うとかなりショッキングな展開が待ち受けていたに違いない。
○古代怪獣ツインテール
『帰ってきたウルトラマン』にて、『古代怪獣グドン』とセットで登場した怪獣。元々は海洋生物だったらしいが地上戦もできる。グドンの好物でもあり、『帰りマン』本編でも二体係りで、一度ウルトラマンジャックを倒した話は有名。
その時の夕暮れの景色と、二体一の状況で戦う姿は作品の中でも特に印象的。ちなみに『ウルトラマンネクサス』の第35話目でも、ネクサスが同じ状況に立たされている。
次辺りで、読者の方が考えてくれた合成怪獣を出そうと思います。
気がついたら、リザレクション発売まで後1月近く…