ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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ギンガ対ビクトリー(後編)

少年は、第1部隊と行動を共にしていた白い少女のことが気になっていた。変な意味では決してない。得体の知れない存在として彼女を怪しんでいた。

何か嫌な予感というものを…アラガミに似た危険な臭いを感じていた。

そして、その予想は的中する。

少女の腕から、神機そっくりの剣が作り出され、ゴッドイーターたちと共に戦いだした。しかも、アラガミの肉を当たり前のように食らっている。

もはや黒。自分にとって、あの少女は『抹殺すべき人類の天敵』だと確信した。それを庇い、あまつさえ一緒に仲良くしているあのゴッドイーターたちも場合によっては…。

少年は決断した。あの少女は…絶対に殺さなければならない。

 

ウルトラマンとして。

 

あの時…アラガミを倒すと誓った者として。

 

 

 

「さっきはやってくれたな…ズェア!!」

目くらましから回復したビクトリーの回し蹴りがギンガに向けられ、それをギンガは右腕で受け止めると、すかさずビクトリーはもう一撃回し蹴りを撃ちこんでくる。鋭いパンチも飛んできて、繰り出されるそれらを何度も防いでいく。

(速い…そして重さがある!)

ビクトリーは、ギンガが同じウルトラマンだからといって手加減するつもりなど毛頭ない、本気でシオを殺すつもりだ。そのためなら、ギンガを倒すことに何の躊躇も持っていない。攻撃を次々受け止めていく内に、ユウはそれを嫌でも悟らざるを得なかった。

ラッシュを繰り出し続けるビクトリーは、立て続けに放つ回し蹴りに加え、同時に足のクリスタルから光弾を放ってきた。

〈ビクトリウムスラッシュ!〉

「グアァ!!」

回し蹴り単体なら防げるが、二重の攻撃となると防ぎきれなくなり、ギンガは次々とビクトリーの光弾を受けてしまう。

 

その繰り出され続ける光弾は、一発ギンガの後ろを越え、シオの方へ一直線に向かってしまう。

だがここで、彼が腕を振るった。

「ウルトラ念力!」

タロウは唯一使うことのできる超能力を使い、ビクトリーの光弾を全く異なる方角へずらした。シオは無事そのまま仲間のもとへ逃亡を続けた。

なんとか防ぐことはできた。だが喜びなどない。

「なんということだ…本当にこんなことになってしまうとは」

ウルトラマン同士で戦うこと。それは決して起こしてはならなかった現実。

しかし、アラガミとなっていたジャックから数えて、『ここ最近』の中で二度も、望まなかったのに起きてしまった非常な現実がそこにあった。

 

 

腹を押さえ、目の前に視線をやるギンガ。しかし目の前にビクトリーの姿はない。

「デヤアアアア!!」

上から声が聞こえた。頭上を見上げると、ビクトリーがギンガに向けて飛び蹴りを仕掛けてきていた。危うく食らい掛けたギンガは、かろうじて両腕をクロスして防ぎ、両腕を振り払うと同時に額の紫に光ったクリスタルから光線を放った。

(仕方ない…!)

〈ギンガスラッシュ!〉

だが食らう直前、自分を足場代わりに蹴って後ろへ飛び退くことでビクトリーは回避した。

回避と同時に撃たれた蹴りで光線の軌道もずらされ、ギンガは後ろへ押し退けられた。

「お前、やる気あるのか?だったら邪魔をするな!」

着地したビクトリーがギンガに言い、シオを追おうとする。

「やめてくれ!シオは…」

「くどい!」

ギンガがその肩を掴んで止めると、鬱陶しく思ったビクトリーはギンガの手を払い、みぞおちに拳を食い込ませた。

「うぐ…!」

腹を押さえつつも、ギンガは絶対にシオを追わせまいと自らを奮い立たせ、両手を広げてビクトリーの攻撃の全てを受け止める体勢に入った。

「君に…シオを追わせない!」

「貴様…!」

苛立ちを覚えるビクトリーは、ギンガに怒りの攻撃をさらに加え始めた。

 

 

 

「みんなーーーーー!」

「シオちゃん!」

その頃、シオはなんとか第1部隊と合流を果たした。

「あれ、ユウは!?」

「あっちで、たたかってる…」

コウタは、ユウがいないことに気づいてシオに尋ねると、シオは自分が来た方角を指差した。その時にはすでに、二人の巨人ギンガとビクトリーが争いあっていた。

「なんだよこれ…どうなってんだよ…」

コウタは唖然としていた。同じウルトラマン同士が戦っている。力試しなんて生易しいものではない。本気で潰しあっていた。一度ギンガの危機を救ったはずのビクトリーが、今度はギンガを襲っている。ウルトラマンに憧れを抱いていたコウタにとってショックな光景だった。

「彼らは、なぜ争うの…?」

サクヤもどうしてウルトラマンが互いにいがみ合っているのかわからずにいた。

ギンガの正体を知るアリサとソーマにも、この状況の原因はハッキリとわからない。だが少なくとも予想はつく。ユウ=ギンガが望んで同じウルトラマンと戦うはずがない。間違いなくビクトリーに理由があると見た。

「…みんな、ユウ君を探しましょう!シオはソーマ、あなたが見ていてあげて!」

サクヤの指示で第1部隊はユウを救出するべく、ウルトラマンたちの戦闘領域内へ踏み込むことになった。

バレットの準備を急ぐサクヤとコウタ、そしてアリサ。その最中、ソーマがアリサの隣に並び、耳打ちするように彼女に話しかけた。

「あいつをうまく援護してやれ、あの様子だと、まだあのビクトリーとかいう奴と戦う覚悟が定まりきれてない」

言われてみて、アリサはビクトリーに応戦するギンガを見る。ソーマの読み通り、ビクトリーに対して攻撃を積極的に行っていないように見受けられた。

ユウらしいと言えばそうなのだが、だからといってやられてしまっては元も子もないことは本人が一番よくわかっていることのはずだ。

ユウを援護しなければ。正体を知らないままユウの捜索を始めるサクヤとコウタと共に、アリサはシオをソーマに託し、ギンガの援護に向かった。

 

 

一方、ビクトリーのギンガに対する攻撃はさらに激しさを増していった。

「セイ!」

顔面を狙って蹴りを加えてきたビクトリーに対し、ギンガもいい加減やられっぱなしのままで終わるわけにいかないと、ビクトリーの繰り出された足を引っ掴んで投げ飛ばした。

「ディヤアアア!」

「ウオォア!?」

さっきまで攻撃に対して消極的だったはずのギンガが、意を決して反撃の手を強めてきたため、ビクトリーは受け身を取りきれずに背中から地面に落下する。だがギンガからの追撃は来なかった。その間にビクトリーは立ち上がり、ギンガに再び足から放つ〈ビクトリウムスラッシュ〉を連射した。

ギンガは〈ギンガセイバー〉を形成、ビクトリーの光弾を一つ一つ切り落としていき、全てきり終えたと同時にビクトリーに飛び掛かった。

止めを刺すところまで行くわけにいかないが、一度ビクトリーを無力化して説得しなければ。シオは決して彼が考えているような子ではない、と。

ビクトリーに掴み掛り、組み合う姿勢となったギンガは、そのまま彼を背負い投げようとした。しかしその直前、ビクトリーの額から光線が飛んできた。

〈ビクトリウムバーン!!〉

「グハァ!!」

胸に直撃したその光線は、ギンガを押し返し、彼の背中に押しつぶされる形で廃ビルを倒壊させていく。

「フン……ム?」

鼻で笑うように息を漏らしたビクトリーの視線に、シオとソーマの姿が目に映った。

人間の少女の姿をしているとはいえ、アラガミ。かたやその傍にいるのは、以前ジャンキラーを操って暴れまわっていた男。

(自ら危険なやつらを抱え込むとは…やはりあいつらは危険分子か!)

一度ギンガが吹っ飛んでいった方角を見て彼を一瞥すると、すぐにソーマとシオの方へ向き直ったビクトリーは、足に光を集めていく。

「シオ、捕まれ!」

ソーマはすぐに神機を荷台へ放り投げ、シオを助手席へ強引に押し込めると、すぐに車を起動して走らせた。それと同時に、ビクトリーの〈ビクトリウムスラッシュ〉が彼らの方へ飛んでいく。

光弾は二人を狙って次々と降り注がれていく。ソーマはハンドルを切り続け、くねくねと蛇行運転を繰り返しながら光弾を紙一重で避けて行った。シオは隣の座席で「おぉ~」と、まるで遊園地のアトラクションを楽しむ子供のように楽しげな声を上げていた。

「ったく、呑気な奴だ…!」

人が必至こいて、一撃でも敵から貰ったらゲームオーバーまっしぐらのデスゲーム状態から脱出しようとしているのに。シオの危機感を全く無視した子供らしいリアクションに呆れながらも、彼はハンドルを左から右へと何度も切り続け、ビクトリーの光弾から逃げ続ける。

「ちょこまかと…」

車のくせに妙にすばしっこい。ビクトリーはさらに光弾を連射し続けるが、ソーマの巧みなドライバーテクニックによって避け続けられる。しびれを切らし、ビクトリーは自ら直接狙おうと接近を図って駈け出した。

「やめろーーー!!ディヤ!!」

ここでそうはさせまいと、飛んできたギンガがビクトリーの前に降り立ち、彼に向けて飛び蹴りを叩き込んだ。

「グォ…っちぃ…!」

大きく後ろへ仰け反らされたビクトリー、そして彼に対して再び身構えるギンガ。

だが、ここで二人は自らの異変に気付いた。

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

エネルギーと制限時間の限界が近づき、彼のV字型のカラータイマーが点滅を始めていたのだ。同時に立ち上がっていたギンガもカラータイマーが点滅を始めていた。

「…時間か。なら次で決めてやる…!その暁には、あのアラガミを倒させてもらう…!」

ビクトリーは両腕をV字型に組んで、必殺光線を放とうとした。

「く…!」

ギンガもそれにならって思わずL字型に両腕を組みかけるが、それ以上は思い留まった。

ビクトリーにそこまでの攻撃を加えるのはまずい。アラガミ化したジャックとは違う。彼には言葉も通じるし、同じ人間が変身している。やはり思い切った行動に移るのに、ギンガは抵抗を覚えて光線を撃つのを躊躇った。

それをお構いなしにビクトリーは右腕にエネルギーを充填しつくし、ギンガに撃ちこもうとした時だった。

「ギンガーーー!!」

アリサの声が轟き、ビクトリーに向けて弾丸が連射された。

「うぐ…!!」

ビクトリーは連射された弾丸によって光線の姿勢を崩されてしまう。見ると、サクヤとコウタ、二人のゴッドイーターたちの姿がこちらを警戒して銃神機を向けている。

「っち…邪魔が入り過ぎたか」

ビクトリーは、これ以上はやりにくさを覚え、ギンガたちに背を向けた。

「待ってくれビクトリー!話を…」

「回復がすんだら、ケリを付けにそっちへ向かってやる。それまでせいぜい俺に勝つ算段でも考えるんだな…!」

言葉で引き留めてきたギンガに対し、振り返ってそう言い残したビクトリーは、そのまま飛び去ってしまった。

「ビクトリー…」

最後までこちらの言葉を受け入れることなくビクトリーが去ってしまった空を、ギンガは落胆を覚えながら眺めるしかなかった。

 

 

 

見つからないように変身を解き、元の倉庫に戻ってきたユウは、ひとまず仲間と合流しようと歩き出す。

チャリ…

何かを蹴ったのか、足元から物音が聞こえた。ユウは足元を見下ろして音の出どころを確認する。

「これは…」

それは、方位を指し示す道具…コンパスだった。なぜこんなものが、アラガミに食われることなくここに?

ふと、ユウは思い出した。あの少年がビクトリーに変身した際、常人離れした跳躍力で飛んだ時に彼の体から何か小さなものが落ちてきていた。彼がビクトリーに変身してシオを殺しにかかってきたショックで気に留めてすらいなかったが…。

(もしかして、彼の持ち物なのか?)

「ユウ君!」

真っ先に一つの予想が浮かんだとき、サクヤがユウの元へやって来た。

「サクヤさん!」

「ユウ君、怪我はないわね?…っ!?」

怪我の確認を行うサクヤだが、彼の持っているコンパスを見て目を見開いた。

「あなた、それをどこで…?」

「これがなんなのか知ってるんですか?」

コンパスひとつで妙に驚いているサクヤの反応があまりに意外に感じられた。何か深い意味でもあるのだろうか。

「…リンドウの、コンパスよ」

「リンドウさんの!?」

思わぬ名前を聞いてユウは驚愕する。

だがこのコンパスは、ビクトリーに変身していたあの少年が持っていたものだ。だがサクヤは、これがリンドウのものだと口にしている。

「…そうだ、思い出したわ」

ふと、コンパスを見ていたサクヤはあることを思い出した。

「5年くらい前にリンドウが話してくれたときがあったわ。落ちていた棒切れ一本でアラガミと戦おうとした子がいたって。その子にそのコンパスをあげたって聞いてるわ」

「棒で、アラガミと?」

サクヤからそれを聞いてユウは目を丸くした。棒切れ一つで戦うなんて、そもそもナイフは愚か、オラクル兵器に属さないあらゆる武器も通じないアラガミに立ち向かうこと自体命を捨てるに等しいことだ。だが、5年前という年月から考えて…ビクトリーの変身者であるあの少年はどう考えても子供だ。怖気づいて動けなくなってもおかしくないのに…。

「あの、その子の名前は聞いていますか?」

「名前?確か………

 

 

『空木レンカ』、

 

 

そう聞いているわ」

「レン、カ……」

自分とは別に、ウルトラマンの力を得たであろうその少年……『空木レンカ』の名前は、ユウの頭の中に深々と刻まれた。

 

 

 

「なるほど、シオには自ら擬似神機を展開して戦闘できるのか。それも新型と同等の性能とは」

帰還後、第1部隊は早速サカキ博士に今回の任務の結果を報告した。

シオが疑似神機を形成して戦った。それはサカキにとって研究者としての本能を刺激するほどに興味深い話だった。

「俺たちも最初に見たときは驚きましたよ!シオの手がにょきにょきって延びたとたん、あいつの手に神機擬きができるなんてさ」

「ほい!」

「うおぉ!?」

コウタが熱弁するかのようにサカキに言うと、シオが証拠を見せるためか、それとも今こうしてコウタをわざとびっくりさせるためか、実際に疑似神機を作り出して見せつけた。

「いきなり、んな物騒なもんを出すな」

ソーマが軽くシオの頭に拳を乗せると、シオの口からあう、と声が漏れた。

「実際に見てみると、やっぱり驚くわね」

「えぇ、自分の体から神機を作れるなんて…」

女性陣二人も当然ながら驚いた。

「おぉ、これはなんとも興味深い!おそらく君たちの戦いを見て、シオのオラクル細胞が彼女の意思に従って独自に変形されたんだろう」

サカキは実際に作られたシオの疑似神機に大いに興味を惹かれていた。眼鏡を何度もかけ直しながらシオの擬似神機を眺めてクルクルと彼女の周りを回る。はたから見ると明らかに変人である。

「ある意味では…便利ですね。神機って管理も制御も大変ですし、剣の形のまま銃撃を行えるのは、切り替えの際のわずかな時間の隙を突かれにくくなりますし…」

ユウも、改めてシオの疑似神機を見て言った。ゴッドイーターとしてより便利で効率よくアラガミと戦えるようになりたいと思う立場としては、シオの能力はかなり魅力がある。といっても、人間の身では決してできないであろう特性なのだが。

「なら、君たちも実際に使えるようになるようしてみるかい?なに、心配入らないよ?多少体をいじくって改造するだけ……」

「じ、冗談はやめてください!」

全員がサカキの提案に引いた。ちょっとうらやましく思っただけで肉体改造だなんて勘弁してほしいものだ。なぜか円形のテーブルの上に貼り付けにされ、怪しげな覆面と黒スーツを着た迫る犯罪組織の団員に改造手術を施されるときのイメージが浮かんでしまう。

「まぁ冗談はさておいて」

(割とマジな目をしていましたよね…)

「シオの観察のためにも、これからも彼女をデートに連れていってあげてほしい」

「…それは、危険かと思います」

異を唱えたのユウだった。

「危険?」

アラガミのことかと思ったが、そんなことはわかりきっていることだ。別の理由があると見てサカキは耳を傾ける。

「実は…」

それから、シオを連れていくことの危険な理由を、そして今回の任務でおきたこと…ビクトリーがシオを抹殺するために、同じウルトラマンであるギンガと争ったことを告げた。

「そうか、あの黒い新たなウルトラマンは、シオの命を狙っているんだね?しっかり彼女が、アラガミだとわかった上で」

「はい…ビクトリーは、アラガミや、人類に少しでも害をなす存在を徹底して排除する傾向にあるみたいです」

「むぅ…それは困ったね。シオの食料も必要だというのに…」

口調は暢気そうに聞こえるが、胸中は決してそうではない。ウルトラマンが明確にシオを抹殺対象にしている。外へ連れ出していけば、間違いなくマークされてしまう。…いや、既にマークされていると言える。

「どうするんですか?あの黒いウルトラマンに狙われる以上、シオを連れて歩けないですよ!」

「…仕方ない。しばらくシオを外へ連れ出すのは控えることにしよう。それまで君たちには普段どおり任務を続け、シオの食料調達と服の素材集めに着手してほしい」

サカキのその提案しか、今後の第1部隊が取れそうな動きはなかった。すると、ソーマが腕を組みながら、頭に浮かんだ悪い予想を口にした。

「だが、全員で向かうのもまずいぞ。あのウルトラマンに、俺たちの顔は知られている。当然、ゴッドイーターであることもな」

「まさか、ウルトラマンビクトリーが直接ここへシオを狙って現れるってこと?」

「…ああ」

「そ、そんなわけないじゃん…いくらウルトラマンでも、まるで人の家に踏み込んでくるようなこと…」

サクヤはソーマの予感していることを言い当てる。コウタはそこまでのことは流石に起こらないのではと思って否定を入れが、言い切る前にソーマが遮るように言い返した。

「だと言い切れるのか?あのウルトラマンの強硬姿勢は、ジャンキラー輸送のときで既にわかっているはずだ」

身を以てそれを知っているソーマの説得力は大きく、コウタはそれを否定できない。

「あ…そっか…。くそ、なんだってウルトラマンビクトリーが、シオを殺しにくるんだよ!いくらシオがアラガミだからって、あんなお構いなしに…しかもあいつが攻撃してきたあの時、シオと一緒にソーマだっていたんだぜ!?そもそもシオは何も悪いことしてないのに、ありえるかあんなの!?」

その言葉には落胆も混ざっていた。ギンガと同じウルトラマンであるビクトリーが、ソーマを乗せたジャンキラーの時以上に、自分たちに対して明確に危害を加えてきた。心のどこかでまだ信じたい気持ちがあったコウタにとって、裏切られたような気持ちにも駆られてしまうことだった。それはユウも、隠れていたタロウも、アリサもまたどこか同じ気持ちを抱いた。

(タロウから聞いていた話では、ウルトラマンは地球と人類を守る正義の戦士。だが必ずしも怪獣や異星人を倒すことをよしとはしなかったって言ってた。相手を理解して、倒すべきか否かを判断する。だけど、ビクトリーは…)

同じウルトラマンなのに…なぜ、あんなに強硬姿勢を取って来たのか。

単にシオがアラガミであり、以前にソーマがイカルス星人によってジャンキラーを操るための駒にされた、というだけではない。それだけではない、何か理由があるはずだ。

ソーマや、アリサがかつてそうだったように。

いつか、もう一度会うべきだろう。

 

ウルトラマンビクトリー…空木レンカに。

 

 

 

その頃、ウルトラマンビクトリーの変身者、空木レンカは、以前にも訪れていた墓の集まる廃墟に留まっていた。

粗末な暖簾で囲いを作ってある寝床で、着ている緑のポンチョを脱いで腰掛ける。ふと、彼は服に違和感を覚えた。あるはずのものがない、そんな感じがしたのでポンチョのポケットを探る。

数年前に、あるゴッドイーターからもらったはずのコンパスがなくなっていた。どこかで落としてしまったのだろうか?少し時間を使って周囲を探ってみるが、やはりない。あの広々とする高野のどこかで落としてしまったのだろう。

「…」

まぁいいか、とレンカは割り切った。コンパスなどなくとも今は大して困らない。ビクトリーに変身すれば空を自由に飛べるし、アラガミを倒すことだってできる。やるべきことも、頭に刻まれている。

コンパスを探すのを諦めて横になりながら、彼は先日の戦いを思い出した。

(………)

自分以外のウルトラマン、ギンガ。あいつは確かにゴッドイーターたちと共に戦い、人類を守るための戦士だろう。俺もこの目で直接見たことがあるからそれはわかる。だから一度、あのロボットに不意打ちを食らい掛けたところを助けたのだ。

でも、一つ看過できないことがある。あいつが、人の姿をしているとはいえ、倒すべき敵であるはずのアラガミを守っていた。それだけは絶対に許されない。しかもあの時、ギンガの頼みで敢えて見逃していたあの男は愚か、あそこにいたゴッドイーターたち全員がアラガミの少女を庇っていた。

アラガミは、所詮アラガミだ。抹殺しなければならないのだ。放置すれば、いずれまた災いを振りまくとしか思えないのだから。それを邪魔するなら……

レンカは懐を探ると、服の下からペンダントを取り出した。青い光を放ち、内部に不思議な文様が刻み込まれた宝石をひもでくくりつけたものだ。

「アラガミは…倒さなければならない。

そうだろ?」

 

 

――――姉さん…

 

 

 

イカルス星人イゴールは、潜伏中のとある古い民家の中で悩んでいた。

テーブルの上には、いくつかの怪獣たちのスパークドールズと、数冊ほどの本が並べられていた。本には『怪獣図鑑』『アラガミ百科』と、最近のフェンリルの手によるものや、かつての時代に執筆されたものなどさまざまなものがあった。イゴールはこれらを読みながら、アラガミと怪獣の組み合わせを考え、ウルトラマンを倒すための新たな合成神獣を作り出そうと考えていた。

「うぐぐぐぐ…だめだ、何も思いつかないじゃなイカ」

だが、いくら考えてもこれといった合成神獣が浮かばない。これでは、マグマ星人マグニス、バルキー星人バキ、ナックル星人グレイのように、『あのお方』から見限られ、残酷な形で粛清されてしまう。頭を抱えて悩んでいると、イゴールの背後からガチャっと玄関の扉が開く音と、せせら笑い声が聞こえてきた。

「悩み事か?イゴール」

「む?おぉ…君は…」

イゴールは、それを待ち望んでいたようで、振り返ってその声の主を確認した途端に喜びを露わにした。

そこにいたのは異星人のようだが、人間の男性だった。見た目は確かに人間だが、擬態しているのだろう。

「何かいい駒が思いついたか?」

「…全然じゃなイカ。ウルトラマンギンガは既に強力な素材を合わせた合成神獣を倒せるくらいに強くなっているんじゃなイカ。これではいつまでたってもウルトラマンを始末できないじゃなイカ。また吾輩たちの知らないウルトラマンも現れて…もうどうすればいいのかわからなくなってきたじゃなイカ!」

頭を抱え、もうお手上げだと両手を広げて足をばたつかせるイゴール。どこか駄々っ子じみた動きだが、ボルストは笑わなかった。

「そうか…まったく、何年経とうとウルトラマン共は忌々しいものだな。だが、一つ面白い情報を得たぞ」

その時の男の笑みは、誰から見ても悪の心が垣間見えるほどに歪んでいた。

「あのビクトリーとかいうウルトラマンだが…どうやらギンガとは対立しているようだ」

「対立ぅ!?それはどういうこと!?そんなのありえるぅ!?ウルトラマン同士がいがみ合うなんてありえないじゃなイカ!」

「絶対にありえんことではないだろう。100年前…ババルウ星人の一人がこの地球と『ウルトラの星』が衝突させようとしたときの話を聞いたことはないのか?」

「あ…!」

男からその話を聞いて、イゴールは思い出した。

 

1974年、ウルトラマンたちの故郷『M78星雲ウルトラの星』が地球に衝突する危機に瀕するという大事件が起きた。当時地球を守っていたウルトラ戦士『ウルトラマンレオ』の弟、アストラがウルトラの星の軌道を制御する鍵兼兵器『ウルトラキー』を盗み出したためである。だがこれは、実際にはアストラに擬態した『暗黒宇宙人ババルウ星人』の企みによるものだった。地球を滅亡させ、ウルトラマンたちを彼らの惑星もろとも抹殺するための卑劣な罠。ババルウ星人の擬態は技も姿も全てコピーすることが可能であるため、まさに完璧を誇り、ウルトラ兄弟たちは愚か実の兄であるレオは何が何でも守りたいと思っている弟が偽物であることに気付けず、アストラを裏切り者として倒そうとしたウルトラ兄弟たちと対立してしまうこととなる。

間一髪のところでその事件は、レオと本物のアストラによってババルウ星人は倒され、ウルトラキーも奪還された事で事なきを得たが、この事件は宇宙人たちの間で広く知れ渡るほどの大事件として語り継がれている。

 

たとえ同じウルトラマン同士でも、事情によっては対立しあうということだ。

「詳しい理由はよくわからんが、我々の最大の障害となるウルトラマンが手を組むことなくいがみ合うのは、俺たちにとって格好のチャンスだ。これを利用しない手はない」

「ふむ…確かにその通りじゃなイカ。でも問題はその状況をどう利用するかじゃなイカ?」

「それについてだが………」

ウルトラマンやゴッドイーターたちに、再び新たな脅威が迫ろうとしていた。


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