ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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タイトル通りですね。逃れられない運命というか…
今回でビクトリーの変身者が誰なのかもはや確信を得た人もいるのではないでしょうか?


ギンガ対ビクトリー(前編)

「ぐぬぬぬぬ…」

あの戦いのどさくさにまぎれて引き上げていたイカルス星人イゴールは、これまで同じ闇のエージェントたちがそうだったように、自分も作戦を失敗させ、結局ウルトラマンギンガたちに勝ち星を譲る羽目になったことを悔しがっていた。『あのお方』が危険視した第二のウルトラマン『ビクトリー』をあぶりだしたのが唯一の成功だった。結局心の闇を沈められたソーマと彼が操っていたジャンキラーもギンガたちの活躍で停止させられ奪われたも同然となったが…。

(なんか新たな作戦を考える必要があるじゃなイカ。もし二度も三度も失敗することになったら、我輩までグレイ氏たちのように、あのお方から粛清されてしまうじゃなイカ)

やっていることは悪党のそれでしかないが、彼らは彼らで必死だった。自分たちが崇拝する主の機嫌を損ねることは避けなければならない。そのためにも、主の願いをかなえるため、主の敵は徹底して排除しなければならないのだ。

「でも、もうあいつらの仲間を洗脳して駒にする作戦は使えないじゃなイカ。何とか別の方法も考えないと…」

今はとにかく新たな作戦を立案しなければならない。二人のウルトラマンを倒し、あのお方の脅威を取り除くために、イゴールは一人暗い部屋の中で思案に時間を費やしていく。

「…む」

ふと、イゴールは何かを思いついて顔を上げた。そういえば気になることがあった。

ギンガとジャンキラー、そしてビクトリーの争いを止めに来たあの白い少女のことだ。

(あの少女は何者なんだ?やけに肌が真っ白だし、どうもソーマ君とは知り合いのようだし…)

 

 

それは、もう一人の人物も気にしていた。

ウルトラマンビクトリーに変身する、あの少年だ。

彼は今、とある廃墟の建物内にいた。

アラガミの影響もあってすでにボロボロにされ、長らく放置されていた建物だが、わずかな食料が詰め込んである箱や薬がいくつか置かれている棚、人が寝泊りするためにつるされた天幕と寝床など、わずかに人がここに住んでいた形跡があった。

そこの窓際から外を覗き込む少年。ギンガがジャンキラー、そしてその中にいた、星人に操られていた人間を庇ったこと、そして例の白い少女が同じ行動をとったことが気がかりだった。

あの時、ギンガが自分の邪魔をしたのはその中に彼が守ろうとした人間がいたから。それはとりあえず理解できた。とはいえ邪魔をされたときはいい気持ちではなかったし、ジャンキラーの中にいるあの男がまた星人にそそのかされて暴走しないとも限らない。

だが気になるのは…危険を顧みずに自分の前に立ちふさがった、あの白い少女だ。

(あいつは、何者なんだ?)

イゴールがそうであるように、彼女から人間とは何かが違うものを感じた。でも見た目は、どこからどう見ても年下の人間の少女にしか見えない。だがその割に身なりが、フェンリルのマークを刻んだボロボロの布一枚。人間が着込むにはあまりにも貧乏くさすぎる。

疑問が深まっていくばかりだ。

(確かめるか。あいつらゴッドイーターは、任務で壁の外に出てくるはず。そのときに…)

少年の決断は早かった。早速例の少女が何者か確かめるべく、彼は廃屋から外に出る。

外に出ると、彼の目にいくつもの土の盛り上がりが映る。

これらすべて、アラガミに襲われ不運の死を遂げた者や、満足のいく治療を受けられず病死していった防壁外の人々の墓である。中には、土を穿り返されたものもある。アラガミが死んだ人たちの遺体を掘り返して食ったのだ。

神を騙る墓荒らしの所業が、また自分の見ていないところで行われていた。それを悟った少年は目つきが険しくなり、悔しそうに歯を食いしばる。

その中でただ一つ、無事に残っている木製の十字架の墓があった。その墓の前に少年は立つと、静かに黙祷を捧げた。

「…大丈夫だよ。俺が必ず……」

 

 

 

 

理解できなかったのは、ユウもまた同じだった。

「なんであの時、ビクトリーは…」

思わずその疑問をユウは自室で口にした。彼の部屋を訪れていたアリサが、テーブルの上に立っているタロウに問う。

「ねぇ、タロウ。タロウの話だとウルトラマンは、人間を救うために何度もその命を張ってきたんですよね。それなら…なんでビクトリーは、ソーマがエイリアンに操られていたときに…」

中にいるソーマもろとも、ジャンキラーと、そしてイカルス星人を抹殺しようとしたのか。ギンガと同じヒーローというには、あまりにも攻撃的過ぎる姿勢のビクトリーが信じられなかった。

「おそらく彼は、同じウルトラマンとはいえ価値観と物の捉え方が異なるのだろう。光の国出身の私にとって、価値観の合わない同胞はほぼいないも同然だったから、同じウルトラマンであのような強硬姿勢をとられたのは滅多にない」

「…そのビクトリーとかいう新しいウルトラマンは…ハト派かタカ派で言えば…後者だな」

ソーマもこの場にいた。ユウからウルトラマンについての詳細な情報を得て、それを共有するためだ。当然ソーマは、ここにきてここまで話が進むまでの間、ユウとウルトラマンについて詳しい話を聞いた。

ユウがアナグラに保護されて以来、ギンガとして戦ってきたこと、数々の強敵を打ち破ることがあっても、時にアーサソールやエリックの件のように多くの救えなかった命もあったこと、その跡で立ち直り、アリサの心を救ったこと、そしてそのアリサが今ではユウの正体を知る数少ない人間の一人だということ、そんなユウを序盤から見守ってきたのが、タロウと名乗る人形にされたウルトラマンの大先輩だということ…第1に知る必要がある情報を優先して聞いた。人形であるタロウが自分と会話してきたことは、メルヘンな夢でも見ているのかと疑ったくらいの衝撃だったが。

「奴は、事件解決のためなら、例え相手が人であっても、無害な人間を守るためなら、危険な存在は徹底的に排除する。…現に、俺がまさにそうだった」

前回のビクトリーの戦いに対する意識と、ジャンキラーへの明らかな敵対行為。ソーマが操られていたとはいえ、ビクトリーは彼もろともジャンキラーを破壊しようとしていた。

「…まだそうだって思いたくないな。僕たちがこうして生きているのはウルトラマンたちのおかげでもあるんだ。ビクトリーが最初に現れた時だって…」

そう、ジャンキラーがエリナを操縦者として始めて暴走した時、危うくギンガは敗北を喫するところだった。それを救ったのもまたビクトリーだった。それもあってユウはまだビクトリーのことを信じたいと思っていた。

「お前のことだからそういうだろうとは思った。だが、万が一奴と戦うことがあって、甘さに囚われれば、お前がやられるぞ」

「…うん。わかってる」

ソーマは言い方こそきついが、この警告は彼なりの気遣いだと知っている。そしてそれは決して間違いではない。だから頷くユウだが……彼はやりたくもない戦いを、またすることになるとは思わなかった。『同じウルトラマンと命を懸けた戦い』を。

「ウルトラマン同士の戦い…絶対に避けなければならないことですね」

「あぁ、まったくだ。私たちに、同胞同士で血を吐きながら続けるマラソンなどやっている場合ではないのだから」

今の地球は、アラガミ、宇宙人、合成神獣…圧倒的な力を持ち、なおかつ非道で狡猾な敵で乱れに乱れている。だからこそビクトリーとは協力し合える間であることが望ましい。だがビクトリーがあの調子では、それは望めそうになかった。だがユウとタロウ、二人が特に強く願った。ビクトリーと戦うことがないことを。

と思ったとたん、勢いよくユウの部屋の扉が開かれた。

「おーいユウ!」

「ひゃ!?」

突然の来訪者。コウタがいきなり大声を出して扉を開けてきたものだから、特に繊細なアリサが悲鳴を上げた。タロウも驚いて声をあげそうになったが、ここは人形の振りをしてわざとコウタから見えない位置へ、テーブルからコテッと落ちた。

「こ、コウタ!ノックぐらいしてから入ってきてください!」

「悪い悪い。…もしかして、お邪魔でした?いやぁ~幸せそうでなりより」

アリサとユウが逢引している。遠まわしにコウタはそう読んでアリサを露骨にからかってくる。

「そ、そそそんなわけないでしょう!ソーマだってここにきてるんですから」

「ソーマが?いやいや嘘だろそんなわけ…」

それを聞いてコウタは耳を疑ってユウの部屋を見渡すと、確かにソーマがユウの部屋のソファにどっしり腰を下ろしていた。

「そ、ソーマが来訪してる…!?」

「悪いか」

「いや、その…ここまで打ち解けてるって思わなくってさ…」

確かにソーマが仲間として溶け込み始めているのは記憶に新しいが、部隊の仲間の部屋を来訪してくるとは予想しなかった。とはいえ、これはこれでからかいやすいアリサを弄る口実ができなくなったと思うとちょっと面白くない…とコウタは思った。口に出したら殺されそうになるので当然このことは黙る。

「ところでコウタ。何か用だったんじゃないの?」

「あ、そうそう。サカキ博士が俺たちに来てくれって。サクヤさんも先に入ってるよ」

「呼び出し?」

再びサカキからの呼び出しとのことで、ユウたちは真っ先にアラガミの少女シオのことが浮かぶ。さすがに脱走した、などということはない。そうなったらアナグラ中がアラガミ侵入の警報でうるさくなっているころだ。前回はシオが研究室の壁を破壊して脱出した時はそれはもう大混乱が起きたものだ。サカキが研究中の事故とのことで誤魔化し、すぐに壁の修理を技術班に、神機開発研究統括責任者の権力を利用して最優先で行わせたので、スムーズにシオを研究室に連れ戻すことができた。とはいえ、急遽修復作業をやらせたため、破壊される前と比べると脆いので注意が必要。当然破壊される前以上の頑丈な壁を作ってもらうように手配し、シオをバイキングデートに連れて行ってる間の時間を使って作業してもらう予定だ。

っと、話が逸れてしまったのでそろそろ話を戻そう。サカキが再びユウたちを研究ラボへ招き入れた。

その理由を聞くためにもユウたちはさっそくサカキの研究室へ向かうが…

 

 

「服、ですか?」

 

 

呼び出しの理由は意外なものだった。

 

シオの服のコーディネートについてだった。

「見ての通り、シオは我々フェンリルのお古の旗をこうして身にまとっているだけだろう?アラガミとはいえ、この子もれっきとした女の子だし、ちゃんとしたおしゃれな格好をさせてあげようと思うんだ」

「確かに、この格好は…」

やや幼いとはいえ少女の姿でボロ布一枚。少々際どい格好だし見窄らしい。せっかく可愛らしい容姿をしてるので、ちゃんとした服を着せた方がよさそうだとユウたちも思った。

だがサカキの悩みはその先にあった。

「ただね、何度か服を着てもらおうとアプローチをかけたんだが…」

試しにサカキは、一枚の黒いシャツを取り出してシオに突き出すと、シオが嫌そうな顔を浮かべて、駄々をこねるようにじたばたしてきた。

「きちきちちくちくやだー!」

「…と、こんな感じで着てくれないんだ。私たち人間の服は、彼女の肌には合わないらしい。彼女の肌が人間のものと若干異なるからか、それとも彼女自身の好みに合う着心地ではないからか…どちらにせよこれ以上押し付けがましくすると、また脱走しちゃいそうな気がしてね…そこでシオとのバイキングデートの傍ら、彼女用の服の素材を集めてきてほしい」

「アラガミの素材から作った服なら、シオの肌に合うかもしれないってことか?」

サカキからの説明に、おおよそ察しが着いてソーマがため息を漏らした。ゴッドイーターの仕事にしてはあまりにもらしくない。

だが一方で、アリサとサクヤは全く違っていた。

「けど、この格好のままなのもちょっと気になりますよ。急いで素材を集めて、シオちゃんの服を作ってあげましょう!」

「ええ、どんな服でも作れるよう、素材をもれなく集めてきましょうか」

シオに服を着せると聞いて、妙に盛り上がっていた。

シオはと言うと、着たくもないチクチクする服を着せられると思ってか、ソーマの後ろに隠れて拒否反応を示している。

「うぅ~ちくちくやだよ~」

「だ、大丈夫だよシオ。ちゃんとちくちくしない服を作ってもらうんだから」

「…ほんとか?」

「そうそう。大丈夫大丈夫」

不安げに上目遣いで顔を覗き込んできたシオの頭を、ユウは撫でて安心を促した。

「今回も任務は通常のものに偽装してある。必要な素材も追って伝えよう。よろしく頼んだよ。ただ、くれぐれも用心はしてくれ。任務続行が不可能とわかったら、すぐに帰還するように」 

 

 

こうして第1部隊は、バイキングデートがてら、シオの服の素材集めにいそしむことになった。

 

 

第1部隊はミッションエリアへ移動用ジープに乗って向かっていた。ジープの荷台に積んであるキャスターつきのコンテナにはシオが入り込んでおり、入れる前にユウたちから言われたとおりコンテナを食べることなく大人しくしている。

「でもどんな服にするか考えないといけないわね。どんなデザインがいいかしら。シオって見かけによらずやんちゃだし…動きやすさ重視がいいのかしら?でも…うーん、悩むわ」

「いえ、ここはやはりかわいい服がいいと思います。シオちゃんだって女の子なんですから。フリルがついたものがいいでしょうか?いや、それとも大人っぽい色に…なんだか自分の服のこと考えるよりなんだか楽しいです!」

サクヤとアリサはシオの服をどんなものにするかで話が盛り上がっていた。

「…なんか、二人とも張り切ってない?」

コウタがユウとソーマに同意を求めるように小声で問う。二人は黙って頷いた。

「確かに、たかが服によく盛り上がるもんだ」

それを聞いてアリサが当然です!と言い切る。

「女の子にとって服装は重要です。絶対の嗜みなんですから、それを怠ったりしたらドン引きものですよ」

言っていることは確かに正しいし、コウタとソーマも自分の趣味に合わない服とか、周りから見て格好悪い服は着たくない。が、今の彼女の勢いを見ると、なぜか理由のわからない同意のし辛さを感じる。

「けど、最近僕たちのあいだで、こんな他愛のないことが少なくなってたから、いいんじゃないかな」

ユウは一方で、肯定的にコメントした。彼の言うとおり、ここ最近の間は辛いことが続きすぎた。寧ろこれくらいの会話があった方が日々への充実感があるというものだ。

「…まぁ、こんな他愛のないことで目くじらを立てるのも大人気ないか」

ユウの言うことももっともと思い、ソーマもあまりこの空気に水を差すのはやめることにした。

 

 

必要なアラガミの素材は

サリエルから取得できる「女神羽」「女神羽衣」

ヴァジュラの「獣神雷毛」、

コンゴウの「猿神大尾」、

クアドリガの「戦王大鎧」、

ボルグ・カムランの「騎士針」

 

 

「うへぇ…けっこう多いな。ってか、こんなに必要なの?しかも大型種ばっか…」

メモに記したラインナップを見てコウタがややげんなりしている。素材の元となっているアラガミたちが、中型種であるコンゴウを除いて全部が大型種だったことが大きかった。

「コウタ、私たちはアラガミを倒すための部隊であることを忘れたんですか?大型種を複数相手にするなんて、これからいくらでもあるのは目に見えてますよ」

「そりゃそうかもだけどさ~。さすがにこの数を一度に相手にするのは難しいっしょ?」

「それはまぁ、確かに…」

一度はだらしのない言い方をするコウタをとがめるアリサだが、コウタからも事実を突きつけられ、返す言葉もなかった。

「なら、ここは二手に分かれながらターゲットを探し、各個撃破しながら素材とシオのご飯を集めるのが最善だと思うけど、どうかな?」

「どうかな~?」

ユウが運転しながら、隣と後部座席にいる仲間たちに意見を求める。箱の中からもシオが顔を出してユウを真似て声を出してくる。

「そうね。一体ずつ仕留めるなら今の私たちでも問題ないわ。メンバーは男女別で行って見ましょう。ちょうど隊長と副隊長、新型の二人をそれぞれ一人ずつ別の班に回せるし、いいかしら?」

サクヤが簡単ながらも、各メンバーの武装の特徴を考えた配分を発表し、誰もそれに反対することはなかった。

「それなら、シオはどうします?さすがに壁の外では出してあげないと窮屈でしょうし」

「しお、そーまといっしょがいい!」

「だってさ。ソーマ」

ユウが少しからかうような口調で言う。ソーマはふぅ、と一呼吸をおいてからシオに言った。

「好きにしろ、だが戦いになったら下がっていろ」

「うん!」

「みんな、あれ!」

車の前方を指差すユウ。進行先に廃墟となっている小さな市街地に、サリエルとヴァジュラが俳諧していた。

「どうやら行ったそばから狙い目のアラガミが出てきてくれたみたいだね」

「じゃあユウ君、ソーマ、コウタ。ヴァジュラは任せたわ!私たちはサリエルを狙う!」

「気をつけてくださいね!!」

「はい!!」

サリエルの方が近かったため、さきにサクヤとアリサが車から飛び降りる。気がついたサリエルが、勢いよくヴァジュラの方角へ向う車に向けてレーザーを放とうとしたが、その前にサクヤのスナイパーが火を噴き、サリエルの額の目に直撃する。貫通力のある弾丸を受け、サリエルが悲鳴を上げる。レーザー攻撃は遮られたことで、ユウたち4人の乗る車はそのままヴァジュラの方へ向った。

 

 

 

ヴァジュラが車の音に気がついて、ユウ達を迎え撃つために彼らが乗る車の方角へ顔を向け、威嚇の咆哮を上げた。だがそれに怯むほど、未熟なままのユウたちではない。

「たかがヴァジュラ一匹、さっさと片付けるぞ」

「うん、今の僕たちならこいつは敵じゃない!」

「おう、俺たち第1部隊の力を見せてやろうぜ!」

ソーマが心を開き、シオとも手を取り合うようになったことで、第1部隊はリンドウが不在なとなった今でも…いや、以前以上に意識レベルの結束力が高まっていた。

車を停車させ、車にはそのままコウタが、前衛にソーマ、中衛にユウが入る形で第1部隊男性組は戦闘体制に入った。

ソーマがヴァジュラへ接近、対するヴァジュラも鬣に雷を帯びていく。ユウとコウタは、銃神機で銃撃、ヴァジュラの電力チャージを妨害する。ヴァジュラが弾丸を浴びせられている間にソーマの斬撃がヴァジュラの前足に入る。切り傷を負わされ、前足を負傷したヴァジュラに、ユウは頭上を飛び捕食形態を展開、そのまま落下と同時にヴァジュラの鬣の一部を神機に食いちぎらせた。

プレデタースタイルの一つ、〈穿顎〉。空中から地上への緊急着地にも役立つ技だ。捕食に成功したことでバースト状態となったユウはすぐに銃に切り替え、振り向きざまにソーマとコウタにバレットを移す。

「頼んだよ!」

「おっしゃあ!」「ふん…」

リンクバースト状態に移行した二人の体から力がみなぎっていく。

すると、自分の足を斬りつけてきたソーマを憎んでか、ヴァジュラがソーマを狙って突進してきた。ソーマは近くのビルの窓に飛び込んでそれを避ける。

その光景を、車のコンテナから顔を出したシオが興味深そうに眺めていた。まるで、初めて見るテレビにくぎ付けになる異世界からの迷い人が食い入るように眺めているかのように。もちろん今回第1部隊の戦いを見るのが初めてではないのだが、シオは人一倍知識欲が強い。言い換えるなら勉強熱心な子だ。

ソーマの剛腕な剣劇。ユウの銃と剣を併用する器用なタクティクス。そして傍にいるコウタの遠距離からの援護射撃。

「しおもやる~!ふん!」

「うわ!?」

すると、シオはまるでびっくり箱から飛び出す仕掛けのようにコンテナから飛び出す。その勢いに一番傍にいたコウタが驚くが、それ以上にシオは驚くべきものを見せ付けた。

シオが手を前に突き出すと、その指が奇怪に伸びていく。まるであやとりのように絡まり、広がり、そしてねじれを繰り返していくうちに、シオの手にはショートブレード神機にそっくりな形状の剣が握られていた。

「でええぇぇ!?そんなことできんの!?」

「えへへ~。つよいぞ~」

驚きの声を上げるコウタに、まるでおもちゃの剣を手に取る無邪気な少年のように、手製の擬似神機を振り回している。

「それじゃ、いってきま~す!」

「ちょ、シオ待てって!おい!」

コウタの制止を聞かず、軽いノリでシオはそのまま戦闘に飛び入り参加してしまった。

当然、彼女の飛び入り参加にユウとソーマは驚かされた。

「「シオ!?」」

声をそろえて思わず彼女の名を口にすると、シオは手製神機をヴァジュラに向かいだした。当然ヴァジュラもシオに気が付いて雷をほとばしらせる。まずい!そう思ったユウとソーマは彼女の元へ向かおうとする。

「おおぉぉ~」

だが、思いの外シオはヴァジュラが自身の周囲に放出した雷を軽やかに避けた。しかも何とも緊張感のない声を漏らしながら。身軽な体を生かし、彼女はヴァジュラの前足の攻撃や、突進攻撃を避けていく。そしてすかさず手製神機でヴァジュラの体に傷を刻み込んだ。それでもシオを近づけまいと、ヴァジュラは一度シオが距離を置いたところで、遠距離から雷の弾丸を放ってくる。だがシオもまた、遠距離から射撃をヴァジュラに向けて撃った。その時、彼女の手製神機は変形していなかった。刀身の形を取ったまま、銃撃が行える造り造りとなっていたようだ。

「あははははは~うりゃりゃりゃ!!」

シオは銃撃が楽しいのか、そのまま銃撃を撃ち続けてヴァジュラの体を傷つけていく。

(これじゃ…まるでカノンさんじゃん…)

笑いながら楽しそうに撃ちまくる姿は、第2部隊のカノンの戦闘時の豹変ぶりとダブってしまい、ユウは青ざめながら苦笑いを浮かべた。さすがにその時のカノンと異なり、悪魔じみたものではなく、無邪気な天使そのものだが、どちらにしろ質の悪さを感じさせられる。

「援護するぞ!」

「うん!」

シオが手製神機で戦いだしたものだから、驚きのあまりしばらく呆然としてしまった。このままシオに任せては彼女が危険だと思い、危なっかしくて見てられないとばかりのソーマの一言で我に返ったユウも戦線に戻る。

シオは戦いの初心者とは思えない軽やかですばしっこい動きで、ヴァジュラを切り刻んでいく。だが、やはりまだ戦い慣れてはいないところもあり、ついにヴァジュラの突進で突き飛ばされてしまう。

「うわああああ~!!」

だが、大きく吹っ飛ぶほどの攻撃を受けたというのに、彼女は緊張感がまるでない悲鳴を上げていた。…というか、

「楽しんでいるように聞こえるぞ…」

「うん」

ポケットから顔を出してきて呆れ気味のタロウに、ユウは同意した。と、拍子抜けしている場合ではない。いくら苦痛を表に出してこないシオでも、痛いのは嫌だといつかは言うに違いない。ユウは捕食形態を再度展開、突進攻撃を備えたプレデタースタイル〈シュトルム〉で攻撃、再びヴァジュラの顔の一部を食いちぎった。

「ガアアアアアア!!」

今の一撃がよほど答えたらしく、ヴァジュラの顔の皮膚が剥がれ結合崩壊を起こし、赤々とした皮膚の下が明るみとなった。

ヴァジュラは怒り狂って活性化、さらに雷の力を高めてユウに反撃を加えようとした。

「目を閉じろ、ユウ!!」

後ろからコウタの声が響く。咄嗟に装甲を展開しつつ、ユウは目を閉じると、コウタが投げつけたスタングレネードがユウとヴァジュラの間で爆発。まばゆい光がヴァジュラの視界を潰した。

その隙にソーマはビルの壁を駆け上る。

「ソーマ!」

その間にユウはさっき取り込んだオラクルを再びソーマに向けて譲渡、ソーマのバーストレベルがさらに上がり、より強く彼の力を活性化させる。そしてソーマは壁を蹴り、刀身を兜割の構えで真下のヴァジュラに突き出した。

プレデタースタイル〈獄爪〉。ソーマが好んで使う技だ。大きく開かれたアラガミの口がヴァジュラのうなじにかじりつき、そのままバリバリと貪っていった。ヴァジュラはやがて、首と銅が離れ、倒れた。

「シオ、大丈夫!?」

ヴァジュラが死んだのを確認し、真っ先にユウが、そして続けてコウタがシオのもとに駆けつける。

「あたたた…てへへ」

少し痛みはあるようだが、舌を出して笑ってきている。特に何ともないようだ。

すると、最後にソーマがやってくる。シオはソーマが近づいてきて笑みをこぼし、ソーマに手製神機を見せながら得意げにした。

「そーま、みた!?しお、すごいだろ~?」

「勝手に飛び出るな。このバカが!」

シオは褒めてもらいたかったのだろう。だが次にソーマが口にしたのはシオへの叱咤だった。

「お前が戦えるかどうかは別にいい。それよりも、お前の勝手な行動でこいつらの動きが乱れ、逆にお前もこいつらも余計な危険に晒すところだったんだぞ!」

「ソーマ、そこまで言わなくても…」

以前シオを拒絶してきたときのように、また大声を出してくるソーマ。確かにソーマの言うことは間違いではないが、とは思っていたが、シオが落ち込み過ぎないのではないかと懸念してをコウタが止めようとする。

「待ってコウタ」

だがそんな彼をユウは止めた。今は止めるべきではない。そう思ってユウはコウタにはあえてフォローを入れさせなかった。

「あう…ごめん、なさい。しお、またえらくなかったな」

シオはソーマから厳しく怒られ、予想通りすっかり落ち込んでしまった。このままシオがソーマの事をおびえてしまわないかと、コウタは心配する。だがユウの予想通り、コウタの心配は杞憂だった。ソーマがシオに背を向けながらも、驚くことを口にしたからである。

「…まぁ、今回は大目に見てやる。俺も勝手な行動でリンドウやこいつらに迷惑かけたこともあるからな。勝手な行動はこれっきりにしろ」

「そー…ま?」

「…初めてにしてはよく戦えたな。それについては褒めてやる。お前を守りながら戦うより、一緒に戦う方がやりやすそうだしな」

後ろを振り返ったソーマが、薄く笑みをこぼしてきた。彼なりに、シオの戦いを評価してくれたのだ。

「それと、戦いになってもあまり前に出すぎるなよ」

シオは戸惑いを覚えながらも、泣きそうな表情から一転していつもの笑顔を露わにした。

「よかったなシオ!でもソーマの言うこと、忘れない様にしろよ!」

「うん!」

はしゃぐコウタの言葉にシオが頷いた。思わぬ事態が起きたものの、全員が無事で丸く収まったことで、ぐううううぅぅぅ…と大きな腹の虫が聞こえてきた。

「今の音…誰の?」

ユウは視線をコウタとソーマに向ける。

「ソーマか?」

「んなわけあるか。てめえじゃあるまいし」

「あぁ!?俺そんなかっこ悪い腹ペコ野郎じゃねぇぞ!?」

馬鹿にされたと思ったコウタはソーマを睨み返すが、本当の腹の虫の主が座り込んだ。

「あうぅ…おなかすいたよぅ…」

シオだった。

「シオだったのかよ!?って、もう腹減っちまったのか…?」

本当におなかが空いてしまったらしく、お腹を抱えて動こうとしない姿はちょっと苦しそうにも見える。しかし、シオは朝にちゃんと朝食をとっていて、再び空腹になるには時間が早すぎる気がする。

「…あ!もしかして…」

その理由について、ユウはあることに気が付いた。

「何かわかったのか?」

「シオが神機っぽいので撃ったからだよ。僕たちやコウタの神機もオラクルエネルギーを消費してバレットを撃つだろ?たぶんそれと同じで…」

「そういうことか。次からは考えて撃たせないとな」

説明を聞いて、ソーマはふぅとため息を漏らした。自分で空腹を速めていたとは、食いしん坊のくせにちょっと間抜けなものをシオに感じたようだ。とはいえ、同時にシオらしいとも取れる。

ユウは、一時はシオの使い擬似神機が便利なものに思えた。自分たちの使う神機は、取り扱いを間違えれば使用者を逆に喰らってくる危険な代物だし、これを扱えるようにするには、アラガミに食われるか、または自分がアラガミになってしまうかの危険な綱渡りを渡らなければならなくなる。シオはそもそもアラガミだし、自分の手で即興で作った物だからそんなリスクはない。でも弾丸を撃つたびにお腹が減って力が抜けるようでは、必ずしも全てにおいて優れている、というわけではないのだろう。

「シオ、ヴァジュラを食べなよ。少しはお腹も膨れるから召し上がれ」

「いっただきまーす!」

食べてもいいと聞いて、シオは反射的にヴァジュラの死骸に食いついた。死骸に飛びついておいしそうに肉片を肉料理同然に食べる。

「やっぱりアラガミなんだなぁ…」

「何を今更…」

ソーマが呆れたように呟くと、ヴァジュラの死骸を、捕食形態を展開した神機に食わせた。今回はシオの服の素材となるアラガミ素材を回収するのが目的だ。てっきりシオの飛び入り参加劇で忘れそうになるところだった。

ソーマがヴァジュラの死骸からコアを回収したところで、少し離れたところからサクヤとアリサの声が聞こえてきた。

「みんな~!片付いた~!?」

「こっちもサリエルをやっつけてきましたよ~!」

無事なのか、ではなく片づけたかどうかを聞いてきている。ヴァジュラ一匹ごときにユウたちが負けるとは全く思っておらず、信じていた表れだ。シオの服に必要なサリエルの素材も回収済みだろう。

「こっちも終わったよ~!!」

ユウもアリサたちに手を振って自分たちの方もヴァジュラを倒したことを知らせた。もう目の前に彼女たちがやって来たところで改めて二人を見ると、彼女たちは深い傷と言えるものは何もなかった。余裕綽々だったらしい。いくら大型種でも個体差というものもあるし、たいていのレベルの奴なら十分にやっつけられるようになっていた。

「サクヤさん!アリサ!聞いてよ!!すげぇびっくりなニュースがあるんだ!」

さっきのシオの活躍ぶりを話そうと興奮気味のコウタに、アリサは怪しい人間で見るように目を細める。

「なんですかコウタ。またそんなにはしゃいで。何か悪いものでも食べたんですか?」

「いや食べてねぇよ!食べてるのはシオだけど…ってかアリサ、俺をけなしすぎでしょ!?」

煩いですね、と騒ぐコウタをどこ吹く風のように流すアリサ。

「はいはいそこまで。さて、シオの服の素材の一部を手にいれたし、アナグラに戻りましょうか」

サクヤが二人の間に割って入り仲裁しつつ、全員に帰還を促した。

「シオ、早く来い。帰るぞ」

「ん~、もうちょっと」

ソーマは、まだヴァジュラの肉を食ってるシオに言うが、まだ食べたりないのかシオは食べ続けていた。

「ダメよ。ここにずっといると危ないから」

サクヤがお姉さんらしくシオに注意をいれつつ彼女に近づいて肩を軽く叩いた。

「うぅ~…」

しかしまだ味わいたいのか、シオはちょっと愚図るように唸った。

「帰ったら博士がヴァジュラよりおいしいもの用意するから。我慢することも覚えないともらえないぞ?」

「あう…わかった。しお、がまんする!」

もっとおいしいものをもらえなくなる。それを聞いてさすがにシオも耳を傾け、重くなっていた腰を上げた…

 

…その時だった。

 

シオとサクヤ間の足元に向けて、どこからか放たれた光弾が襲いかかってきた。

「キャ!?」

「シオ!?」「サクヤさん!」「シオちゃん!?」

突然の不意打ち。直ぐにユウたちは二人の元へ駆けつける。だがすかさず光弾は空から降り注がれ、次第にシオを重点的に狙い定めて集中砲火を繰り返す。

「シオ!!」

ユウは装甲を展開した神機を傘代わりに頭上にかぶり、その中へ飛び込んでシオの元に駆けつけ、脇の下に彼女を抱えて爆炎の中から飛び出した。

「ユウ!」

一人無茶にも取れる行動に出たユウに、アリサが声を上げる。ユウはシオを抱え、ビルの中へ飛び込んだ。

「シオ!ユウ!」

ソーマが焦るように声を荒げていた。

「コウタ、アリサ!一緒に攻撃してるやつを!」

サクヤが指示を出し、彼らは敵の姿を確認するべく、光弾の飛んできた方角に向けて銃口を向けた。

ビルの上に、人がいる。おそらくシオを狙ってきた犯人だろう。緑のフードを被り、その素顔をマスクで覆っている。結構な距離が相手との間に広がっていることもあり、ユウたちにはまだその人物の正体が掴めない。

サクヤたちに姿を見られてか、そのフードの人物は背を向けて、ビルの向こう側へ飛び降り姿を消した。

「くそ、ユウたちを追うぞ!」

ここで逃がしてはならない。頭の中でそのように警鐘が鳴り響く。ソーマが皆に追跡を促し、第1部隊はユウたちを追って行った。

 

 

 

朽ち果てたビルの中はコケや土、真っ黒なカビなどで汚れきっており、窓ガラスも全て割られている。その中へ飛び込んでいたユウは、シオの容態を確認する。

「シオ、大丈夫!?」

「い、いたいよう…」

シオの白い肌にいくつか傷ができていた。アラガミなだけあって、人間よりかなり頑丈であり、人よりも早く自然治癒力が高いだろうが、やはり苦痛であることに変わりないようだ。どう見ても幼子が転んで怪我をしたようにしか見えないだけに、彼女を攻撃してきた者に対する怒りが沸いてくる。

「タロウ、さっきの攻撃どう思う?」

胸ポケットにいるタロウに尋ねる。

「目的はわからないが、もしかしたらまた奴らが来たのかもしれない」

タロウは、さっきのサクヤとシオへの攻撃は闇のエージェントによるものだと予想していた。まだ確証はわからないが、真っ先に浮かぶ敵など奴らしか思い浮かばない。

「闇のエージェントか…!」

確かにあいつらならあり得そうだ。変身する前を狙ってくる。何度も非道で卑怯な手段を企ててきたあいつらならやりかねない。

「とにかく彼らと合流し、アナグラに戻った方がいいだろう。闇のエージェントかアラガミが出ても対応できるよう、用心するんだ」

「うん。さあ、シオ、乗って。しっかり捕まるんだよ」

「うん…」

ユウはシオを背負い、神機を構えてビルのさらに奥へ進んでいく。

ビルの中は静かだ。どこかでアラガミか、宇宙人のどちらかが息を潜めているのだろう。だがこの静寂はこちらの警戒心を高ぶらせ、落ち着きを奪っていく。

その内に、広々とした倉庫の広場にたどり着いた。周囲や天井を見渡してみる。天井を見た時、パラパラ、と音を立てる穴を見つけた。さっきの人影が、倉庫の屋根を突き破ってできた穴なのかもしれない。屋根の砂を落としながら音を立てているところから見て、まだここにきて時間はさほど経っていないはずだ。

だが、周りを見てもさっきの人影の主と思われる者の姿を確認できなかった。

どこだ…どこにいる?

闇のエージェントか?それとも…

「おい」

後ろから声が聞こえた。反射的に振り返ると、さっきの人影…フードの人物が立っていた。今の声からして、自分たちとあまり年齢差がない少年のようだ。

「君か…?さっきシオとサクヤさんを攻撃してきたのは」

シオを下して後ろに下がらせつつ、何者かを尋ねてきたユウだが、彼の質問を無視し、少年は逆に自分の問いかけを強引に押し付けてきた。

「俺のことはどうでもいい。それよりも俺の質問に答えろ。その少女は……

 

アラガミだな?」

 

ギクッと、ユウは喉を詰まらせた。間違いなくシオの事だ。

「なんの、ことだ…?」

「今更誤魔化すな。俺は見ていたぞ。そいつの腕が偽の神機を作り出し、アラガミを食っていたところを」

見られていたのか!これは非常にまずいかもしれない。しかも最早誤魔化しなど通じない段階に入っている。

…仕方ない。ならシオのことをある程度の部分だけ説明しておくべきだろう。

「待ってくれ。この子の事だけど…」

確かにアラガミであるが人間に害はない。アラガミであることを除けばほぼ人間同然なのだと説明しようとしたが、少年はユウが説明をする前に、それを遮るかのように声を荒げだした。

「お前たちはゴッドイーターだ。アラガミは俺たち人類すべての敵。倒すべき害悪でしかない!それをわかっていながら…お前たちは!!」

少年は懐から、金の意匠を刻んだ赤い銃を取り出し、銃口をユウたちに向けた。

「何をする気だ!」

「決まってるだろ。そのアラガミを…殺す!」

「っ…!!」

明確な殺意を露わにした眼差し。それを見てシオは怯えてユウの背中にしがみついた。

「そんなことさせない!シオは僕たちの仲間だ!」

「…仲間…だと…」

ユウの決意を露わにした言動に、少年はますますその顔を険しくしていく。

「ふざけるな!アラガミが仲間だと!?何の罪もない人々を殺して、食らって、あらゆるものを踏みにじり続ける、価値もない害獣を…増殖し続け地球を汚し続ける癌細胞を…仲間だというのかお前は!!」

少年の言葉は、アラガミに対する明らかな憎悪があった。アリサがかつて抱いたそれにも劣らないほどの、黒き炎が彼の中で燃えたぎっていた。アラガミは愚か、自分さえも焼き尽くしそうなほどの灼熱の炎が。

「前は敢えて見逃してやったが…もう遠慮はしない。

俺と同じでありながら、ゴッドイーターでありながら、人に害をなすような奴を庇う人間も…俺の敵だ!!」

少年は銃を棒状に変形させて顔の前に突き出すと、銃から人型の人形が現れる。

 

それは…ウルトラマンビクトリーのスパークドールズだった。

 

「君は…!!」

薄々感じていたかもしれない。彼が『そう』であることに。だがそれでも、またこんな事態になるのではと予想すると、それが杞憂であってほしいと思えてならなかった。

だが…それでも現実となってしまった。

少年はスパークドールズの足の裏に刻まれたサインを銃でリードする。

 

【ウルトライブ!ウルトラマンビクトリー!!】

 

光の弾丸となったスパークドールズが空に撃ちあげられ、少年は人とは思えぬ跳躍力で飛び立ち、その光と一体となった。

そして、空の彼方から黒き巨人…ウルトラマンビクトリーが、ユウたちのいる倉庫を踏み潰す勢いで降り立った。

呆気にとられるユウとシオにかまわず、ビクトリーはシオに狙いを定めて、ありを踏み殺しにかかるかのように拳を叩き込んできた。

「く!」

ユウはシオを抱きかかえて走り出す。とにかくすばしっこく動きながら避け続けていく内に、衝撃で倉庫が崩れ出した。

このままでは、シオと揃ってミンチにすり潰されてしまう。

ユウはスタングレネードを取り出し、ビクトリーが再び拳を繰り出そうとしたところで投げつけた。

「グ!?」

まばゆいフラッシュはビクトリーにも効果があったらしく、一時的にビクトリーは両手で顔を覆った。

「シオ、逃げて!ソーマたちのところに行って!」

「……」

逃げるように促すユウだが、シオはビクトリーに対して恐怖を抱いているためか、ユウに縋りたくて逃げるのを躊躇っていた。

「早く行くんだ!君を抱えたままではあいつと戦えない!」

「ゆう…でも…」

「大丈夫だ。僕は負けない。さあ、行くんだ!ソーマたちのところへ!」

「…!」

躊躇いがちであったが、それでも最後にユウの言うことを聞いてシオは逃亡した。

だがシオ一人だけで逃がすのは危険だろう。そう思ってユウはポケットにいるタロウに頼み込んだ。

「タロウ、シオを!」

「く…こうなってしまうのか…わかった。だがくれぐれも彼を…!」

できればビクトリーと、同じウルトラマンと争うなんてことは避けたかったが、実際にこうなってしまった以上迎え撃つしかなかった。タロウは今の現実の非情さを痛感しながらも、シオを守るべく彼女に着いて行った。

二人ともいなくなったところで、ユウはまだ視界を潰されて苦しんでいるビクトリーを見据え、ギンガスパークを取り出し、ギンガのスパークドールズをすぐにリードした。

 

【ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!】

 




追記:
タロウのセリフに違和感を感じたらしい人がいたので、説明を入れます。

皆さんもご存じ、タロウの元親友ウルトラマントレギア。彼についてですが、本作の時系列ではまだ悪に堕ちたかどうかは、現時点では不明とすることにします。
理由は、このエピソード投稿時にはまだトレギアがタロウの親友だという設定が公式発表されておらず、その状態のまま執筆していたからです。
さらに加えると、本作はメビウスの時代からまだ数十年後…大怪獣バトルの時代よりもまだ時間が進んでいないため、大怪獣バトル及びゼロの時代までは、光の国出身の悪トラマンはベリアルのみとなっています。今公式の通りに修正を加えると、逆に先の執筆に何らかの悪影響も及ぼすかもしれませんので、このままにします。
トレギアが悪に堕ちたかどうかは、現時点ではタロウはまだ知らないか、またはこの時代のトレギアは悪にまだ落ちていない状態のどちらか、または存在してないか…今後必要に応じて決めていこうともいます。

ただこうなるとゼロの扱いも公式と同じにはできません。別サイトで書いてる『ウルトラマンゼロ~絆と零の使い魔~』でのゼロは「6000歳」「生まれたその日に追放されていたベリアルが光の国で乱を起こす」「母をベリアルに殺されながらも生き延びだが、当初のセブンは妻共々息子も殺されていたと思っていた」「ゼロが息子だと気づくまでの間にTVシリーズの『セブン』~『レオ』にて活躍し、その後に息子がゼロだと気づく」…という設定となっていますが、それを反映させようとも考えてます。
ちなみに漫画作品に出てくるタロウの叔父(ウルトラの父の兄の方のウルトラマンジャック)についてですが……出ません。その作品は読んでないという理由もありますが、個人的な一番の理由は帰ってきたウルトラマンと名前が被るからです。名前が丸かぶりなキャラの登場は可能な限り避けたいので。

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