ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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明けましておめでとうございます!
お年玉…というのも変ですが、再びジャンキラー回の続きです。

今年はもっと集中して執筆作業ができますように…

しかし、頭がボーッとしてきている。元旦だからではない。最近結構そういうこと多くて、仕事で聞き逃したらダメなことを聞き逃して怒られた…


ジャンキラー、再び(後編)

極東支部を飛び出したあのアラガミの少女は、アラガミの出現以降、ずっと雪が降り積もる場所…鎮魂の廃寺を訪れていた。ソーマを追っていたはずの彼女が、なぜここにいるのだろうか。

彼女は周囲をきょろきょろして、何かを探していた。目に移る場所に捜し求めているものがないとわかると、違う場所に足を動かして探し回る。これをずっと繰り返していた。

その様子を、緑のフードとマスクで素顔を隠していた少年が、物陰に隠れながら少女を追って観察していた。深い意味などない、ただ彼女の奇行が彼には怪しく見えた。それに、ミッションエリアまで常にヘリを使って時間短縮を図るゴッドイーターたちと違い、彼女は極東支部から徒歩と走りだけで、それもたった数分の時間のみでたどり着いた。少年の眼から見ても、彼女が人間から見てあまりに常識を超えた何者かに見えてならなかった。

(いったい、何者だ?それに、なにを探しているんだ…あいつは)

少女は時に雪を書き出しながら何かを探していた。しばらくして、廃寺の裏に積もっている雪をかき出していた彼女は、あ!と声を上げた。

「やっと見つけた!」

どうやら探していたものを見つけ出したようだ。だが、少年の視界から見て、ちょうど少女が背を向けている状態だったため、何を見つめていたのか見えない。少女は探していたものを握ってすぐにこの場を立ち去ろうとする。

だが、そんな彼女を狙ってか、馴染み深いオウガテイルにザイゴート、そしてコンゴウ。彼女の周りにアラガミが集まってきた。

「むー!じゃましないでよ!」

自分をこのアラガミたちが狙っている。それはソーマに会いたがっている彼女にはわずらわしいもの以外のなんでもない。少女はかまっていられないとばかりに、アラガミたちの頭上を一気に跳躍して飛び越え、廃寺の門を一気に駆け抜けた。

そのさまを見届けた少年は、物陰から出てきて、ひたすら少女の驚異的な身体能力に驚いた。

(なんて速さだ…)

常識を超えた相手には追跡も難しい。普通なら人間のみで追跡できるものではないだろう。

…彼が『ただの人間ならば』の話だが。

少女を取り逃がしたアラガミたちが、今度は少年の周りに集まってきた。

「グルルルル…」

オウガテイルのうなり声が聞こえる。どうもなかなかに飢えているようだ。少年は、できればあの少女を追いたかった。でも、彼のアラガミを見る目は、ゴッドイーターたちにも負けないほどに鋭くなっていた。

「…悪いが、すぐに片付けさせてもらう」

少年は懐から、赤い銃のようなものを取り出し、それをアラガミたちに向けた。

 

【ウルトライブ!!ウルトラマンビクトリー!!】

 

光の本流が柱となり、少年はその身を巨大化させ姿を変えていく。光の余波が発するそのほとばしるエネルギーは、周囲のアラガミを飲み込み、その身を跡形もなく消し去った。

そして、光が終息すると同時に、以前ジャンキラーからギンガのピンチを救った新たな戦士が現れた。

自分を取り囲んでいた周りのアラガミが消滅したのを確認すると、ビクトリーは遠く後に強い気配を感じた。自分と同じ光の気配ともう一つ、醜悪な闇の力を。

(あっちか…)

もしかしたらあの白い少女も向かったかもしれない。確証はないが追ってみよう。

ウルトラマンビクトリーは勢いよく空へ飛びあがり、気配の感じた場所へ急行した。

 

 

 

第1部隊の仲間たちのヘリが駆けつけたのは、その時だった。

ジャンキラーに向けて、サクヤ、アリサ、コウタの三人の神機の弾丸が浴びせられ、ジャンキラーの動きが止まった。

「よかった…間に合った」

アリサがまだ無事の様子のギンガを見てホッとするも、まだ油断できないと気持ちを引き締めた。現にギンガが、ユウが苦戦を強いられていた。

「ギンガが…サクヤさん!」

「わかっているわ。二人とも、ウルトラマンを援護して!」

「「了解!」」

いち早くウルトラマンを救わなければと思ったコウタの声にサクヤも頷き、三人はジャンキラーに向けて射撃を行った。

雨のように降り続く弾丸に、ジャンキラーは身動きができない……と思われた。

ジャンキラーは三人の援護射撃を無視し、ギンガに向けて再度殴りかかってきた。

「あいつ…!」

こっちのダメージなんて全くものともしないのかとコウタが目を見開いた。

殴りかかったジャンキラーに対し、ギンガもまたジャンキラーの胸元に蹴りを叩き込んで押し出した。

ギンガのエネルギーが、もう残り少ない。カラータイマーの点滅を見て、アリサは心配を募らせた。サクヤとコウタも、ギンガがジャンキラーに今度こそ勝てるのか、神機を構えたまま、いつでも援護できる姿勢を保ち続けていた。

だが心配なのはギンガだけじゃない。まだジャンキラーの中には、ソーマが囚われているままだ。

「ウルトラマン!まだその中にソーマがいるわ!」

ソーマは、リンドウと同様サクヤにとって長らく共に戦ってきた仲間だ。これ以上、大切な仲間が死ぬなんてことはあってほしくない思いのあまり頼まずにいられなかったサクヤはギンガに呼びかけた。

ギンガはジャンキラーとの殴り合いの中、上空から見ているサクヤを見て頷いて見せるも、直後に繰り出されたジャンキラーの目からの光線〈ジャンレザー〉が飛んできて、いち早く反応して腕をクロスして防御した。危うくモロに食らうところだった。

気を取り直してギンガはジャンキラーと向かい合う。

『くそが…どこまでも苛立たせやがる…』

戦意を失うことなく、身構えるギンガの姿を見て、ソーマのイラつきの声がジャンキラーから聞こえてきた。

「え…?」

「今の、ソーマの声…?」

思わずコウタが呟く。今の声は、サクヤたち3人にも聞こえた。特に強く反応を示したのはサクヤだった。

まさか、ソーマがジャンキラーを動かしてるのか!?先ほど、確かにソーマがジャンキラーの中に吸い込まれるように消えたのはこの目で見ていたのだが…。

「どういうことなの…」

サクヤは何が起こっているのか分からず、ひたすら混乱し続けていた。

だがギンガとユウの関係を知っていたアリサとタロウは、大筋のことを理解した。そしてタロウは、ウルトラ一族特有の透視能力でジャンキラーのコックピットを覗き込むと、ソーマ以外にもう一人、宇宙人が入り込んでいるのを見つけた。

「あれは…イカルス星人!」

「イカルス星人?まさか、宇宙人がソーマを!?」

肩に乗っているタロウがその名を口にしたことで、アリサも確信を得た。

心優しいユウのことだ。操られているとはいえ、仲間が敵に…同時に人質となるこの状況には弱い。ユウは…ウルトラマンはまだこの世界に必要だ。でも、そのために…今度はソーマを手にかけなければならないかもしれない。そんなことをしたら、勝っても負けてもユウは…きっと心に深すぎる傷を、再び負うことになる。

(今度はソーマを操って……嫌な手ばかりを好みますね!!)

闇のエージェントに対し、彼女はギリッと苦虫を噛み潰すように顔を歪めた。

 

 

 

『グオォ!』

鋼鉄の拳はギンガの顎に食い込み、まるでボクシングのリングで、相手からの痛心の一撃をもらってしまったボクサーのように、ギンガは大きく跳ね上げられた。

今度こそ何とか立ち上がり態勢を整えようとするも、瞬間移動でもしたかのように目の前にジャンキラーが立っており、今度はギンガの頭を掴み膝蹴りをギンガのみぞおちに叩き込んだ。腹を押さえてふらつくギンガに、再び〈ジャンフラッシャー〉を浴びせて痛めつける。

『ウワアアアアア!!!』

集中砲火を食らい続け、体を痛めつけられていくギンガ。

「っち…みんなから愛されるヒーローウルトラマン様、この程度か…」

ジャンキラーのコックピットのモニターでそれを見ていたソーマはふん、と鼻息を飛ばしながらギンガを見下すように見下ろし、失望感を露骨に出しながら吐き捨てた。大層な夢を語り、その強大な力を持って人を守ってきたが、やはりリンドウたちを死なせたところで化けの皮が剥がれたのだと彼は考えた。

「まあいい。このままこいつを二度と戦えないようにしてやる。そうすりゃやすっぽいヒーローごっこもできなくなるだろ」

ソーマはジャンキラーの腕でギンガに手を伸ばす。後ろからソーマの台詞を聞いていたイゴールが目を細めた。

「何を言ってるのかな?君は。この程度で済ませるなんて甘いじゃなイカ」

「う…」

彼の頭の中に、イゴールの声が強く響き、ソーマは頭に頭痛を感じたのか再び頭を抱えだす。

「ウルトラマンギンガも、その変身者も生かしておいたら、あのお方の障害にしかならないじゃなイカ。君は今我輩の思い通りに動くマリオネット。だから我輩の言うことを何でも聞く義務があるじゃなイカ。さあ、さっさと彼を殺してしまうんだよ!君のコンプレックスの対象が消えてくれるし、あのお方の邪魔者もいなくなるじゃなイカ!」

イカレた宗教の教祖が信者に語りかけるように、狂気的な言い回しでソーマに命令を下す。

だが、ソーマはすぐにそれを実行に移さない。頭を抱えたまま小刻みにもがいている。

イゴールはまだ、ソーマが抵抗の意思を強く持っていると認識した。

「うーん、どうも聞き分けが悪いなぁ。じゃあもっと心の闇を増幅させないと」

ダミースパークに強く念じると、さっきと打って変わってまたさらに深い闇がダミースパークから放出され、彼の目が赤く明滅する。

「う、うおおおおおおおおお!!」

獣のような咆哮を上げるソーマ。今度は言うことを聞いてくれそうだと、イゴールはほくそ笑んだ。

ソーマはモニターに見えるギンガに手を伸ばすと、ジャンキラーもまたギンガの首下に向けて手を伸ばしだした。

そうだ、そのまま首を絞めてやつを絞殺してしまうのだ。頭の中にイゴールは命令を響かせる。

そのソーマは…わずかに残った理性の中で強く抵抗の意志を持っていた。

(く、くそ…やめろ…!!)

イゴールの操る闇の力が彼の頭の中を支配していく。確かにユウとギンガに対する不満と嫉妬はある。でも…少なくともソーマは命を奪うつもりは毛頭なかった。痛めつけて、ヒーロー気取りな青臭い行動と態度を止めさせたかっただけだ。それなのに、理性を超えてギンガ=ユウへの殺意が沸いてくる。これでは…

(これじゃあ結局…本物の化け物じゃねぇか…!!)

その意志に体だけが勝手に従い、あと数センチのところまで必死に引っ込めようとしている腕がギンガの喉元に触れようとした時だった。

目の前のギンガが地面の土をぎゅっと握りしめながらジャンキラーの方を見て言った。

 

上空から鏃のような金色の光がギンガとジャンキラーの間に割って入ってきた。

 

「ウワ!!?」

光はギンガとジャンキラーの間の地面に激突し、その爆風でギンガが後方へ転がり、ジャンキラーがわずかに煽られる。

今の不意打ちには驚いたが、結果的に今の光はギンガにとってピンチを救った予期せぬ幸運だった。だが今のタイミングでの攻撃…もしや…

ギンガは光が飛んできた方角を見やる。すると、予想していた通りの存在が、鏃状の光が突き刺さった地点に激突するように降り立った。

体中に散りばめられたV字型のクリスタル、黒と赤の模様を刻んだ体。

 

前回の戦いでも姿を現した謎の巨人、ウルトラマンビクトリーだった。

 

「う、ウルトラマンビクトリー!?」

「嘘、なんでこのタイミングで…!?」

思わぬ時期の登場に、ヘリに乗っていたサクヤたち三人も驚きと同時に当惑した。

 

 

 

「…ウルトラマン、ビクトリー…」

ギンガは、自分とタロウ以外の新たなウルトラマンの背中を見た。なぜここにきて現れたのか。

あまりに予想外なタイミングでの登場に、ギンガは少なからず嫌な予感がしていた。

 

そしてそれは、的中する。

 

「ハアアアアア!!」

ビクトリーはジャンキラーを見据えて身構えると、一気に駈け出してジャンキラーに飛び掛かると同時に、膝蹴りを叩き込んだ。

「な…!!」

このビクトリーの行動に最も驚愕したのはタロウだった。

(なぜ彼はジャンキラーを…ソーマがまだ中にいるのだぞ!?)

 

 

(ついにやってきたじゃなイカ!)

期待通りにビクトリーが現れた。もうてっきり現れないと思っていたイゴールは今更かよと突っ込みたくなった。こいつをあぶりだしてまずは実力を推し量る。それで今後奴が邪魔者として立ちはだかるなら、可能ならばこの場で始末する。ジャンキラーは『ウルトラマンやそれと同等の戦士が数人がかりでも倒せなかった』宇宙最強クラスのスーパーロボットだ。しかもウルトラマンと違い、エネルギーに制限と言えるものがない。

今は、イゴールにとってよい展開だった。

「おぉ!これは不幸中の幸いというものじゃなイカ!」

元々ジャンキラーにビクトリーをぶつけることはイゴールが望んでいたことだ。ビクトリーと戦わせてその実力を図ることができるのだから。

 

 

 

鎮魂の廃寺であの少女を見失った後、直後ビクトリーに変身した謎の少年は、襲ってきたアラガミをあっという間に蹴散らした少年は、インナースペースからジャンキラーを見た。

(気配の正体はこいつか)

このロボットからは嫌な感じがする。近づくだけで人を不快感にさせるような、醜悪な闇を感じる。現にこいつは、自分と似ている光の巨人を…人を守るために体を張り続けていると噂されているウルトラマンギンガを襲っていた。

さっきまで追っていた白い少女も気になるが…こいつは捨て置けない。

ビクトリーはジャンキラーを敵と見定め、飛び蹴りを炸裂させた。大きく後ろへ後退するジャンキラーに、すかさずビクトリーの怒涛のラッシュが襲う。ジャンキラーが宇宙でも指折りの鋼鉄の体を持っていなかったら、今頃ジャンキラーのボディは凹みと穴で塗れていたことだろう。

『ンの野郎が…!!』

思えば、こいつもウルトラマン。ソーマにとって、自分の存在理由を奪う、気に食わない存在だった。

ジャンキラーもビクトリーに対して敵意を露わにし、ビクトリーが放ったパンチを逆に自分の繰り出した腕を突き出して受け流しながら、胸から〈ジャンフラッシャー〉を降り注がせビクトリーを怯ませた。少し距離が開いたところで、ジャンキラーは再度拳を前に突き出すと、〈ジャンナックル〉を飛ばしてビクトリーの胸元を突く。

腹にロケットパンチを叩き込まれ大きく吹っ飛ばされるビクトリーだが、地面に落ちる前に地面を手に付け、そのまま側転しながら地面に着地する。

同時に、自分に向かってきた〈ジャンキャノン〉に、ビクトリーは額のクリスタルからV字の光線を発射する。

〈ビクトリウムバーン!!〉

「ディア!」

ビクトリーとジャンキラー、その両方の光線が互いにぶつかり合って消失した

爆炎が巻き起こってお互いの姿が一時見えなくなったが、爆炎の中からジャンキラーが接近戦を試みてきて、ビクトリーの方へ向かってきた。ビクトリーも接近してきたジャンキラーに向かっていき、互いに組み合う。すると、ジャンキラーがビクトリーの腕に両手から放つ電撃を浴びせた。

〈ジャンサンダー!!〉

「ウオオオオ!!?」

強烈な電撃を受け腕の力が弱まったところで、ジャンキラーは彼の腕を振り払い、その鋼鉄の腕でビクトリーを数発殴り付ける。ビクトリーもいくつか殴られ仰け反ったものの、足を突き出すと同時にジャンキラーに足から光弾を撃ちこんだ。

〈ビクトリウムスラッシュ!〉

「ハ!!セイ!ウオリャ!!」

一度だけじゃない、回し蹴りを加えながら二度三度と続けて光弾を撃ちこんだ。仰け反ったところを見ると、ダメージはあるようだが、それでも致命的なものとは程遠く、未だジャンキラーは平然としていた。

ビクトリーはジャンキラーを見て、小さく唸り声を漏らした。

(こいつ、予想以上の強さだ。アラガミとは比較にならない)

だがこいつを野放しにはできない。並みのアラガミ以上の脅威なら寧ろここで倒さなければならないと彼は考えていた。

だったら一気に勝負を決めてしまおう。ビクトリーは光でVの字を描き、両腕をくみ上げだした。

『光線の撃ち合いか…なら、望みどおりにしてやる…!!』

それに対して、ジャンキラーもまた腰のひし形のパーツを展開させた。

「!」

これを見てギンガはぎょっとした。まさか、互いに必殺光線を撃ち合うもりなのか!?そんなことになったら、どちらかが…!!

「だめだ、やめてくれ二人とも!!」

ギンガは飛び出してビクトリーの腕を掴んだ。どっちにも撃たせてはならない。あのジャンキラーの中にはソーマがいるのだし、ビクトリーも同じウルトラマンだ。

「っ!邪魔をするな!!」

「グアァ!」

ビクトリーが光線を妨害してきたギンガに怒り、彼を乱暴に跳ね除けた。近くで転がり倒れたギンガを無視し、再び光線の構えに入るビクトリー。

「やめるんだ!!あの中には僕の仲間がいるんだ!!見えていないのか!?」

ギンガは再び立ち上がってビクトリーに呼びかける。すると、ビクトリーが構えを崩さないままギンガの方を向く。

そして、信じられない言動を口にした。

 

「…お前、地球と人類の平穏を踏みにじる奴を庇うのか?俺と同じウルトラマンでありながら!」

 

「え?」

「闇に囚われ、あんな危険なロボットを乗り回している時点で、あいつは人類の脅威だ。倒さなければならない敵。それ以上でも…それ以下でもない」

ギンガは、呆気にとられた。あまりにも冷酷さばかりが目立つことを、このウルトラマンは言ってのけた。彼は…操られているだけで本人に悪意がないはずのソーマさえ、闇のエージェントやアラガミと同列の『殺すべき敵』としか捉えていないのだ。

ギンガに対してそう切り捨てたビクトリーは、ジャンキラーと同じように光線のチャージを完了させようとしていた。

『くそが…ああああああああ!』

まずい!ソーマもソーマで、ビクトリーを敵と見定めていた。この先に待っている結果が明らかに悪いものとしか思えない。

なぜだ…なぜこうなってしまった!? どうしてこんなことになってしまった!!

だが、光線は止まることなく同時に放たれた。

〈ビクトリウムシュート!!〉〈ジャンバスター!!〉

二体の戦士たちの強烈な光線が互いにぶつかり合った。周囲に嵐のような衝撃が走り、アリサたちの乗るヘリ3機も吹っ飛ばされかけ、すぐに嘆きの平原から退避する。

「グウウウウゥゥゥゥ……!!!」

ビクトリーは必死にジャンキラーのジャンバスターを押し返そうとしていた。だが予想以上にジャンバスターの威力が高く、自身の光線が押し返されかけていた。だがかく言うジャンキラーも、限界が近づいていた。それ以前にギンガと力をぶつけ合っていたのだ。内包しているエネルギーや内部中枢の機器にも、そろそろ休眠が必要なほどに限界が訪れようとしていた。

やがて、お互いに背負ったハンディキャップの上での光線の撃ち合いに変化が訪れた。次第にビクトリーの光線の方が押し返して行った。ビクトリーが自身の光線に、さらにエネルギーを注ぎ、その分だけ威力が増して行ったのだ。押し返そうとするジャンキラーだが、ジャンキラーはその身に受けてしまった。

『がは…!!』

激しい爆風が巻き起こり、ジャンキラーはその中に包まれた。

「「「!!」」」

ギンガ、ヘリに乗っていた第1部隊のメンバーたちはショックを露わにしていた。

爆発が終わり、ジャンキラーが小刻みに揺れ動きながら、膝を着いて前のめりに倒れこんだ。ダメージもやはり相当なもので、今の光線が直撃したことで一時的に機能停止してしまう。

だが、強引に光線の威力を高めるためにエネルギーを大分消費したのか、ビクトリーのカラータイマーも点滅を始めていた。それでも彼は残り少なくなったエネルギーで、止めを刺そうと両腕を眼前でクロスして、額に光を集めていく。

(く…今度こそ、ここまでか…!)

ジャンキラーのコックピットで、ソーマは膝を着いた。もうジャンキラーは動かない。そしてあの光線が炸裂したら、ジャンキラーは爆破させられる。この複雑に体内が入り組んだロボットから脱出するには時間を要する。つまり…このまま逃げられずにジャンキラーと運命を共にすることになる。

まずい!これ以上食らったら、ジャンキラーの中にいるソーマもただでは済まなくなってしまう。倒れている場合なんかじゃない!

「やめろおおおおお!!!」

ギンガは地面を蹴り、駈け出すと、背後からビクトリーを取り押さえた。

「お前、何をするんだ!放せ!!」

妨害をしたギンガの行動が意味不明にしか思えなかった。ビクトリーは、さっきの光線の撃ち合いでもう余裕はない。このタイミングでジャンキラーへの始末を邪魔されることは不快だったビクトリーはギンガに、目の前から退くように言うが、ギンガだけじゃなかった。

さらにギンガの前に、いつの間にかあのアラガミの少女が足を泥だらけにしてビクトリーに立ちふさがったのだ。

「やめて!これいじょうそーまをぶたないで!!」

両手を広げ、必死にやめるように彼女はビクトリーに言った。

「お前は、さっきの…!」

鎮魂の廃寺で探していた少女がここにいるということにも驚いたが、何よりあの少女もジャンキラー…正確にはその中にいたソーマを気遣っているという状態が信じられなかった。

「そーま、そこにいるの?」

アラガミの少女は、ジャンキラーの方を振り返り、ジャンキラーの前に立つ。彼女には、ジャンキラーの中にいるソーマがしっかり見えているようだ。

 

 

 

アラガミの少女の到着は、ヘリに乗っているサクヤ、コウタ、アリサにも見えた。

「サクヤさん、あの子が!!」

アリサが地上を指さしてサクヤに言った。サクヤも、別に誘導されたわけでもなく、アナグラから足だけでとても来れるような距離ではないこんなところまで来た少女に驚きをあらわにしている。

「まさか、ソーマの危険を本当に察して…?」

「でもサクヤさん、やばいよ!このままじゃノラ「コウタ?」……いや、あいつが!」

コウタがすぐに、少女を助けるためにも指示を仰ごうとする。

途中、またしても自分の考えた残念な名前を口にしそうになったが、直後にどこからか心臓を射抜いてきそうな鋭い視線を感じて口をつぐんだ。

…ちなみにその時、いい加減にしろと言わんばかりの目で、アリサがコウタの方に銃口を向けていたという。

 

 

 

『お前…』

ジャンキラーの中で、ソーマは目を見開いた。なぜこいつがここにいる?サカキのおっさんは何をしているんだ。こいつが外に出たら、アナグラにこいつが隠れていたことがばれてしまうのではないのか。

なぜか、その手には一輪の花も握られていた。

(だ、誰だあの子は?やけに肌が白いじゃなイカ)

イゴールはあの少女に対して疑問が沸いた。なぜアラガミの蔓延る防壁外のこんなところに、それもソーマの事を知っている年端もいかない少女がいるのか、しかも人間にしては肌白い。さすがにあの少女がアラガミだなんてことには気付いていないようだ。

「いいや、どちらでもいいことじゃなイカ!ソーマ君、あの小娘も排除しちゃおうじゃなイカ!」

イゴールは構わず、アラガミの少女を打つようにソーマに命じた。あの少女を放置するのはまずいと直感が囁いていた。ダミースパークの精神支配力を疑っているわけではないが、ソーマを説得し正気に戻すためにあの少女は現れたに違いない。ビクトリーの実力の測定についてはここまでで十分だが、可能ならばこの場で自分たち闇のエージェントの主のためにギンガを始末しておきたい。

「ぐ、く…」

ソーマは操縦室にて、その手に握られたダミースパークの先を、モニターの向こうに見えるアラガミの少女に向ける。このまま一息に前に突けば、あの少女の体など、たとえアラガミでもタダでは済まされない。

つまり、今自分が乗っているこのロボットの拳で、あいつを簡単にする潰せる…。

 

―――あいつを殺せば、この胸糞悪い気分から永遠に解き放たれる…

 

アラガミのくせに、人間くさく考え行動し、喜怒哀楽を示す。ただの人間でありたいのにアラガミに近い存在として生まれたソーマにとって、アラガミの少女は、自分にとってコンプレックスを強く刺激する存在だ。見ているだけで落ち着かない。心がざわつくのだ。

 

―――あいつを消さなければ、俺はまた……

 

このままあいつを生かしておけば……

 

殺せ!殺してしまえ!!

あいつもアラガミだ!

リンドウたちを殺した奴らと同じ…!!

 

「消えろおおおおおおおおおおお!!!!」

 

衝動に身を任せ、ソーマは吠えた。

 

 

 

その叫びと同時に、ソーマの意思に沿って再起動したジャンキラーの赤い目から光線〈ジャンレザー〉が放たれ、アラガミの少女の方へと向かった。

「く、放せ!!」

「ぐ!」

ビクトリーが自分を羽交い絞めているギンガに肘打ちをぶつけて彼を引き離し、ジャンキラーの攻撃を阻もうとするも、間に合うほどの余裕はなかった。

レーザーは彼女の周囲の地面に着弾すると同時に爆炎を起こし、アラガミの少女はそれに怯えてびくっと身を震えさせた。一度だけでは、ソーマの苛立ちが収まらないと言わんばかりに、何度も放たれ、少女の周りを爆発で包む。

「…!!」

倒れこんだギンガはそれを見て、恐怖に似た焦燥に駆られた。あの少女はアラガミ。つまりは人類の敵…のはずだ。でもこれまで彼女はユウたちに危害を加えることなく、純粋なその心のままに、人間の子供のように接してきた。何一つ悪意と呼べる側面を持ち合わせておらず、とても手にかけるべき相手とは思えなかった。寧ろ…新しい仲間ができたと、今ならはっきり言える。

その仲間が、爆炎の中に消える。かつて、たった一人の家族だった妹を失ったあの時の様に、ユウは目を背けたくても背けることができない最悪の事態をイメージした。

(…あれ?)

…が、ギンガは少しの時間をおいてから、違和感を覚えた。

ジャンキラーはそれでも立て続けにアラガミの少女の方へと目から放つレーザーを放ち続ける。

「くそ!」

ビクトリーはそれを見て、すぐに少女を守ろうと自ら前に出ようとした。が、立ち上がったギンガがその行く手を、ビクトリーに背を向けたまま手を伸ばす形で阻んだ。

「さっきから何度も言わせるな!退け!」

「必要ないよ」

「何?」

ギンガの言っていることが分からず、ビクトリーは言い返そうとする。

だが、彼の一言の意味を、ふいに目に入ったジャンキラーと少女を見て、理解した。そして信じられないものを目にしたと、目を見開いていた。

「バカな…!」

 

アラガミの少女を守るため、ヘリのアリサたちも、最初はジャンキラーの攻撃を妨害しようかと考えた。

だが、サクヤがジャンキラーへの攻撃を躊躇したこともあってそれはなかった。何よりソーマは、粗暴かつ一匹狼な態度故に友人は少ないものの、それでも第1部隊にとって仲間であることに変わりない。

しかし彼らもなた、今の状況を見て動揺のあまり、そうすることを忘れていた。

「な、なにが起こってるの?」

 

 

 

ジャンキラーのコックピットのソーマは、焦りに似た衝動を覚えた。今の状況が理解できずにいた。

怒り、憎悪、後悔…負の感情を乗せ、アラガミの少女を滅ぼすために放っているジャンキラーの攻撃が、

 

一発たりとも命中していなかったのだ。

 

「どういうことだ…」

 

ソーマ自身も、理解できなかった。なぜ、殺したいと…殺すべきとみなしたはずの彼女に攻撃が命中しないのか。

あの少女は一歩たりとも先ほどから動いていない。同類と思っているソーマの意思で攻撃され、周囲に起こる爆発に驚くあまり、その場で身を丸めてうずくまっているだけだ。

『ちょっとちょっと!ちゃんと狙おうじゃないイカ!そんなんじゃあのちびっこを殺せないじゃなイカ!!ちゃんと狙わないといけないじゃなイカ!!』

「っるっせぇ…黙ってろ…!!」

イゴールがうるさく後ろから喚き散らしてくる。奴に持たされているダミースパークの精神支配の影響があるとはいえ、ソーマの耳にそれは耳障りなものだった。

『むぅ、なんか反抗的になってきてるじゃなイカ。なら、もっと闇の力を強めようじゃなイカ!』

イゴールは、新たに取り出したダミースパークから邪悪な闇を放出し、ソーマに握らせているそれに浴びせていく。ソーマのダミースパークはさらに闇を吸収し、彼の身をさらに強い闇で包み込んでいく。

「ぐが、あ、あが…が…!!」

まるで薬物中毒に陥ったかのように、深く闇の底へと沈みだしていく。だがそれでも、ソーマは抗い続けた。必死にイゴールの支配から抵抗の意思を示し続ける。その抵抗の意思はジャンキラーにも表れ、アラガミの少女から攻撃を外し続けていた。

 

 

 

ギンガはそれを見て、確信を得た。

ソーマはまだ、完全に心の闇に呑まれ切れていないのだ。

サカキやリンドウが度々言っていた。ソーマは、仲間の死を恐れる心優しい男だと。残酷な出生と、これまで守れなかったものが多すぎたがゆえに、自分に付きまとい続ける『死』を忌み嫌う彼が、自分を受け入れる数少ない存在を、どうして手にかけられる?

いや、無理に決まっていたのだ。どんなに心を闇で塗りつぶしても、覆せない事実だったのだ。アラガミだと分かっていても、彼は自分を受け入れてくれた彼女をとても殺す気になれないでいるのだ。

「…シュア!!」

少女を狙って放たれ続けるジャンキラーの放つレーザーを、ギンガが〈ギンガセイバー〉ではじき落とすと同時に、アラガミの少女を襲っていたジャンキラーの光線も止まった。

「そーま…?」

彼女は、自分を襲う光線が降りやんだのを機に、ジャンキラーの顔を見上げた。

『ぜぇ…はぁ……てめえ、やっと…やる気になったか』

ソーマの、ギンガに対する戦意を感じ取った声がジャンキラーから漏れ出る。長距離走でも走ったかのようにその声は息切れを起こしかけている。

抵抗を続けているとはいえ、まだソーマは星人の支配下にある。呼びかけは当然必要だが、それだけではだめだろう。言葉を乗せた分だけ、中にいるイカルス星人が、さらにソーマを闇の力で心を支配しようとする。

変身できる時間も、あまり長くない。ビクトリーに任せるのはダメだ。彼はあくまで、人の多い各支部や、壁外にいる人々に危害を加えるのを良しとしていないだけだ。だからこそ、ソーマもろともジャンキラーを破壊するつもりでいる。

だが、ソーマは自分にとって仲間だ。たとえ彼が自分に対してどう思おうとも。それに、リンドウたちからも託されたのだ。

「…みんな、僕に任せて」

胸に手を当て、ビクトリーと、アラガミの少女に言った。

「……」

ビクトリーは無言だった。本当にできるのか?疑わしげにギンガを見ると、ギンガは信じてほしい、と頷いて見せる。その意思が伝わったのか、ビクトリーは一歩下がった。

「…無理だとわかったら、俺が奴を破壊する」

最後にそう一言付け加えて。

続いてギンガは、ヘリに乗っている仲間たちにも目を向ける。彼が真っ先に目を向けたのは、自分の正体を知るアリサだった。その視線に、彼が何を言いたがっているのかを彼女は理解する。

(…わかりました。無理はしないでください)

頷いたアリサは、インカム越しにサクヤに向けて懇願した。

「サクヤさん、ウルトラマンたちから少し距離を置きましょう」

「アリサ?」

「彼は、必ずソーマを助けてくれるはずです」

私がそうだったように。心の中でアリサはそう付け加えた。

 

 

 

アリサに届いたのか、それからほどなくしてサクヤたちのヘリがすべて嘆きの平原から少し離れた場所へと下がっていく。

それを見届けると、ギンガは改めてジャンキラー、その中にいるソーマと対峙する。

『他の…連中を…混ぜなくていいのか?』

自分と戦う意思がある。そう判断したソーマの声が出てくる。

「ああ。僕は君を止めるために、戦う。もう迷ってばかりじゃ何も守れやしないからね」

『…いいぜ、来いよ…てめえの叶いもしない夢も、全部守ってやろうってつもりのその正義の味方ぶったムカつく面、ぶっ壊してやる…!』

変わらずギンガ…ユウへの敵意を露にするソーマ。ギンガは静かに、その言葉に異議を唱えた。

「…ソーマ…勘違いしないでくれ」

『あ?』

「君だけじゃないんだ…力を持っても、助けたかった人たちを救えなかったのは僕だって同じなんだ。ただ、突然与えられたウルトラマンの力を借りているだけの…ただの人間なんだ」

まるで言い訳でも言っているようにも聞こえたソーマは眉をひそめた。

「別に正義の味方を気取っているわけでもないし、ウルトラマンになったからって何でもできるようになったわけでもない。寧ろ、力を与えられてできることが増えても、できないことばかりが新しく目につくんだ。それでも、何かできることがあるから…全部じゃなくても誰かを救えるって信じてるから、僕はウルトラマンとして…ゴッドイーターとして戦うんだ」

そこまで言ったところで、ギンガは立ち上がってジャンキラーと対峙した。

「だから、リンドウさんやエリックがそうしたように…君ともちゃんと向き合いたいんだ」

『何度も言わせんな…お前に俺の何が「ほら、それだ。またその馬鹿げた台詞をだす!」』

ユウに対してムカムカしながらソーマはさっきと同じセリフを飛ばそうとしたが、ユウがその前に彼の言葉を遮った。実はこの時、ユウもまたソーマに対して、先ほどから少しカチンと来ていた。

「そういう君はそうやって他の人を避けてばかりじゃないか。自分を化け物と呼んだり、死神であることを受け入れようとしたり、一人で勝手に仲間から遠ざかったり…。

そんな君から何がわかるとか言われたって、わかるわけがないとしか答えられないよ。ごく一部を理解できても、全部理解できるわけないだろ。僕はソーマじゃないんだから。心を読めるわけでも、ましてや…神でもないんだ。君の言っている事なんて愚問でしかないんだよ!」

『て…てめえ…!』

揚げ足を取るように言い返されたソーマは歯ぎしりし、再度直接殴り掛かってきた。しかし、その拳は直線的で、ギンガに受け止められてしまう。

『は、放しやがれ!』

「そんな君が、僕のことを勝手に皮肉交じりにヒーロー扱いして、そのうえで叶いもしない夢を抱くなとか、正義の味方面するなとか……勝手に決めつけるな!!」

瞬間、ギンガの鉄拳がジャンキラーに炸裂し、ジャンキラーは大きく仰け反った。

『が…!!』

あくまで操縦者という立場だが、ソーマにも振動を通してダメージが伝わった。なぜかわからないが、ギンガから直接殴り飛ばされたように、ジャンキラーと同じく左の頬に痛みが走っていた。その痛みで、さらにギンガへの怒りといら立ちを高ぶらせた。

『んのヒーロー気取りがあ!!』

「ディヤァ!!」

ギンガとジャンキラーは互いに向けてパンチを繰り出し、二体の巨人の拳が強烈な振動を周囲に迸らせた。

だがこの時すでに、ギンガのカラータイマーが鳴り始めていた。

 


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