ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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今回の投稿文までは投稿しても問題なさそうなので、まずはこちらから……

暁のゼロ魔の方、どうも執筆が進みません…集中できない。


ジャンキラー、再び(前編)

化け物……死神。

 

 

ますます不愉快な二つ名の通りになっていく自分への苛立ちと…仲間を失った深い悲しみを、ここ数日の任務中、彼はひたすら遭遇したアラガミたちにぶつけていった。

時々脳裏に流れる、『声』を聴きながら。

 

 

――――早く生まれてきてね

 

 

――――あなたはこの世界に福音をもたらすの、アラガミからみんなを守ってあげて…

 

 

 

ふざけんな…

福音だと?俺が奏でてきたのは、そんな綺麗なものなんかじゃない。

 

 

 

――――お前は全てのアラガミを滅ぼすために生まれてきた。いいな?あれをすべて殲滅しろ

 

 

――――あの子、八針縫うほどの傷が一日で…人間じゃないわ

 

 

――――あの人と組んで生き残った人っているの?

 

 

――――あいつとは組みたくないな

 

 

――――最近じゃエリックとリンドウさんだろ?洒落になってねぇよ

 

 

――――やっぱり、あいつは死神なんだ

 

 

大切な人たちを失った深い悲しみと無念の声、そして…理不尽に自分を恨み、忌み嫌う連中の、怨念と拒絶の叫びだ。

 

俺はただ『アラガミを滅ぼし、人を守るために生まれた』。それが父と母の望みだった。

でも実際はどうなのだ。

リンドウやエリックを救えず、自分が回収したアイテムのせいでエリナが苦しみ、これまでにも自分の任務で共に同行してきたゴッドイーターたちが次々と死んでいき、自分だけが強靭な生命力で生き延びた。

守りたいと思っている奴ほど守れずに死なせ、一人のうのうと生き延びてしまう…『出来損ないの化け物』だ。

 

しかも最近では…

 

 

――――ウルトラマンって、すごいよな。あんな馬鹿デカいアラガミをやっつけられるんだからな

 

 

――――あいつがいれば俺たちの生存率も上がってくるよな

 

 

――――けど、できれば俺たちが倒せる範囲の奴は残してほしいな。報酬が減ってしまう

 

 

――――でも、アラガミがいなくなれば、私たちの仕事なくなっちゃうんじゃない

 

 

――――へーきだって。充分俺たちの生活潤ってるだろ。アラガミなんかいない方がいいし

 

 

――――だな。ましてや、味方を死なせ続けるだけの役立たずな死神にはとっとと消えてほしいぜ

 

 

――――そ、それはさすがに言い過ぎじゃ…

 

 

ソーマは、自分を死神と忌み嫌う連中より、ウルトラマンギンガに対して黒い感情を抱き始めていた。自分と違って…ヒーローとして皆から必要とされる人ならざる巨人。それに引き換え、自分は…

 

役立たずの死神。

 

しまいには、先日ギンガを救いに現れた、ビクトリーとかいう新たなウルトラマン。

次から次へと、自分は果たすべき役目も全うできず、挙句の果てに存在意義を得体のしれない巨人などに奪われていく。

 

どいつもこいつも、どいつもこいつも…!どれほど俺を惨めにすれば気が済むんだ!

 

ソーマが振るうバスターブレード神機の黒い刀身は、まるで彼自身の黒い感情を体現したかのようだった。

 

怒りと苛立ちの赴くまま、彼は神機を振るい続けた。

また一匹、オウガテイルを切り伏せる。それからコンゴウ、サリエル、ザイゴート、ヴァジュラ…さまざまなアラガミを無双のごとく切り裂いていく。

「はぁ、はぁ……」

息が切れるまで神機を振るい続け、ソーマは刃を止めた。改めて自分が切り伏せたアラガミの死体を確認する。

「…!!」

ソーマは絶句した。自分が切っていたのは、自分の神機に切断されて転がっていたのは…

 

 

リンドウ、エリック、サクヤ……

 

 

自分と共に戦ってきたゴッドイーターたちの、バラバラに切断された死体の山だった。

 

 

ソーマは後退りした。すると、後ろにある何かにぶつかった。

 

「そーまも、やっぱりおなじだったんだね」

 

 

少女からもソーマは後ずさる。

 

(違う…違う!)

 

叫びたいのに、声がうまく出ない。少女がソーマを惑わすように手招きする。

 

「いっしょにたべようよ。そーまのあらがみも、たべたいっていってるよ?」

 

ソーマは感じていた。さっきまで自分がアラガミを切り伏せていた時、苛立ちと共に『飢え』を感じていた。

頭を抱え、自らの中に感じる『飢え』。認めたくなかった。それを受け入れたら、自分は今度こそ人間でなくなる。アラガミとなんらかわらない存在だと認めることになってしまう。

 

「俺は…俺は…!!!」

 

 

 

 

「うわあああああああああああ!!!」

ソーマは起き上がった。嫌な汗がどっぷりと彼の額をぬらしている。

そこは自室のソファの上だった。銃弾の後や自分が殴り付けたことでボロボロで穴だらけになっている部屋の壁やターミナルがその証拠だ。

またあの夢を見た。これもあのアラガミの少女が現れて以来だ。何度も悪夢が自分の頭の中に浮かび続けていた。

この前のサカキの研究室で、そして夢の中で少女に誘われた二度の時のことが、ソーマの頭の中で重なった。

『そーまのあらがみはたべたいっていってるよ』

「くそが!」

またしても怒りのままに壁を殴り付けるソーマ。また一つソーマの部屋に傷が刻み込まれた。

 

 

 

 

 

ジャンキラーは、エリナを搭乗者として暴れ、そこをウルトラマンビクトリーに止められて以来、決して動かなかった。その気になれば、今その機体を地面に縫い付けているワイヤーロープなど簡単に引きちぎってしまえるはずだが、彫像のように固まり続けている。

そんなジャンキラーだが、サカキでも解析が困難であることや、他にもサカキでなければ進められない仕事が多く、一度ジャンキラーを、あらゆるアラガミの攻撃から守る装甲が覆う島『エイジス』へ輸送し保管することになった。

この任務のために、輸送用ヘリが用意され、ワイヤーにつるした状態で運ばれる。当初は3機で運ぶ予定だったが、予想以上にジャンキラーの重量が重く、予定よりも多めの6機で輸送することになった。

アラガミはザイゴートやサリエルをはじめとした飛行型も存在しており、空の旅も当然ながら危険を伴う。サカキがユウにあらかじめ伝えて通り、第1部隊、エイジスへ戻る第3部隊にも当然出動要請が下された。

「これだけ大掛かりな輸送任務はかつてないものね」

周囲に、ジャンキラーに絡みつくワイヤーをヘリにつなぐ作業員たちの様子を見ながら、サクヤが呟いた。

「今からあのジャンキラーを運ぶんですよね?なんかもったいないよな。あれが俺たちの味方になって戦うとこ、見てみたかったんだけど」

コウタが、ウルトラマンとジャンキラーが一緒に戦うと言う構図を想像しながら期待していたようだが、残念ながら現実になることが無さそうなので落胆している。

「なんでそんなふうに思えるんです?」

アリサがやや呆れ気味にコウタに問う。

「だってさ、ロボットだぜ?宇宙で作られた変形スーパーロボットだぜ?めちゃくちゃかっこいいじゃん!?」

「そんな理由で動かされてもこっちが困りますよ。前みたいに暴れられたりしたらどうするんですか。…ウルトラマンギンガでも、あのロボットには苦戦させれたのに、まったく子供なんですから」

「なんだよ!お前俺と年変わんないじゃん!」

「そんなふうに年齢を気にするから子供なんです」

また不毛な言い争いに発展する二人の会話。それを少し離れたところから見ていたシュンは不満を口にする。

「はっ、サクヤさんはまだしも、なんで俺らがこいつらと…」

ユウやアリサ、ソーマ…第1部隊には彼が嫌うゴッドイーターがいるのが原因だった。

「嫌なら降りるか?シュン。その分だけお前の借金返済が遅れるだけだがな」

「あぁ!?」

カレルの言動にシュンが目くじらを立てる。

「…まぁ、死神の呪いが怖けりゃそれでもいい。その分の報酬は俺がいただく」

「んなことさせるかよ!いいぜ、接触禁忌種でも合成神獣でも死神の呪いでもこいってんだ!」

カレルの挑発にシュンは対抗意識を燃やすが、話を遠くから聞いて、ユウは二人に向けて不愉快さを覚えた。カレルは一見シュンと違って冷静な面で物事を見ることができそうだが、どうも彼もソーマに対して悪感情を抱いているようだ。

(ソーマの苦しみを理解しようともしないで、好き勝手言いやがって…)

「ユウ、今は収まれ。あんな者達でも勢力としては君の味方なんだ」

誰にも悟られないよう、タロウがそっとユウに耳打ちして落ち着くよう促した。だがタロウもシュンたちの会話に怒りを感じていた。

それを見かねたサクヤも、内心ではシュンたちにいい加減にしろと叫びたくなった。ソーマはリンドウが長らく信頼したゴッドイーターの仲間だ。それを根も葉もない噂に流され、仲間の死の責任を押し付けるシュンたちの身勝手さに憤りを感じずにいられない。でも、今の自分は第1部隊の隊長だ。少なくともこれから任務というときに、彼らの任務へのモチベーションを下げるようなことは避けなければならない。

「みんな、それぞれ別のヘリに搭乗して」

ヘリは6機。それぞれ一人か二人組みになってヘリに乗り、エイジスに到着するまで自分たちが乗るヘリと輸送中のジャンキラーを守るという流れだ。

組み分けは、ユウ、サクヤ、アリサ、シュンとジーナ、カレル、ソーマとコウタという、少なくともそれぞれに一人、遠距離攻撃が可能なゴッドイーターを一人配置することを重点に置いた組み合わせとなった。

ソーマと組むことについて、コウタは不満そうだった。ソーマをシュンや噂に流されたゴッドイーターたちのように死神だのと揶揄しているわけはない。ソーマの最近の態度がさすがにフレンドリーな彼でも…いや、そんな彼だからこそ仲間に対して排他的なソーマの態度が許せなかったためだろう。まだソーマの過去について知らないコウタに対して怒りはわかなかったが、このままではコウタもシュンたちのようにソーマのことを罵倒するようになってしまうのではないかと、ユウは恐れを抱いた。

「俺はあのジャンキラーに乗らせてもらう」

すると、そんな彼を読んでか、ソーマがジャンキラーを指差しながら言った。

「どうしてか理由を聞かせてもらえる?」

サクヤが理由を聞く。

「俺たちの敵には、宇宙人を名乗る変な野郎どもがいただろ。あのデカブツを、そいつらの仲間が狙ってこないとも限らない。そいつらに備えて俺が見張らせてもらう」

言っていることは理にかなっていた。サクヤにはその意見を反対する理由はなかったので、ソーマのジャンキラーの守備配備申請を受け入れた。

「わかったわ。でも危険だと思ったらすぐにヘリに移って」

「…へ、てめえの呪いで動かしたりすんじゃねぇぞ」

いやみたっぷりに言いながらヘリのほうへ向かうシュンに

「悪いわね。うちの男共がいちいちあんなこと言ってきて」

ジーナは、曲者ぞろいの第3部隊の中では、相手を侮蔑するようなことはなかった。シュンとカレルの非礼をユウたち第1部隊に詫びてきた。

「そう思うな口止めてあげてください」

ユウが少し棘を含めたように言う。

「何度言っても聞かないのよ。あの二人は。…もっとも、私は目の前のアラガミを撃つことに頭が向かって、二人への注意よりも戦いを優先しやすいから、ある意味同罪でしょうけど」

とはいえ、自分でも癖がある人間であることをジーナはわかっている。彼女は戦狂いの気があるらしく、より苛烈な戦いを求めて無謀な行動に出るところもあるという。そういうところもあってか、寧ろソーマの噂などまったく気に留めておらず、彼の死神の呪いが本物なら寧ろかかってこいといわんばかりの姿勢だ。ソーマにとってはそんなことは嬉しくもなければ慰みにもならないことだが。

「ともあれ、今回の任務の間はお互い、わだかまりを忘れて冷静にいきましょうか」

第1部隊と第3部隊の間のしこりを残したまま、ジャンキラー輸送任務は開始された。

 

 

 

その出発直前、ある一人のフェンリル職員がジャンキラーに近づく。

ジャンキラーは、中には誰も入ったりしないように監視の目が厳しく光っていたが、彼は怪しまれることはなかった。その男が近づいても、監視員の職員たちは、同じフェンリルの者かと思っているのか、その男が素通りしてもまったく気に留めていない。まるで透明人間が通り抜けたかのようだった。

その男は、ジャンキラーの中に入り込んで内部を動き回った。廊下、エネルギーをつかさどるジェネレーター前、そしてコクピット。

彼はそのコクピットに、何かを入れている小型ケースを持ち込んでいた。

その箱からは、妙に禍々しいオーラが出ていたことには、彼以外誰も気が付かなかった。

飛行したヘリによってジャンキラーが運ばれたのはそれから数分後の事だった。

 

 

 

一人、ワイヤーでくるまれたジャンキラーの背に乗っていたソーマは、エイジス島の方面を眺めていた。

クソッタレな父親がやたらと完成させたがっている、人類全てを収容できるとされている防壁。あらゆるアラガミに捕食されないように常に調整が続けられ、現在までアラガミに食い荒らされることなく存在し続けているため、多くの人たちからも信用されている、『エイジス計画』の要である。だが、ソーマにはあれがとても人類を守りきれる絶対のものとは思えなかった。アラガミは常に進化を続けている。今でこそアラガミに食われずにいるものの、いずれあのエイジスさえ喰らい尽くすアラガミがいつか必ず現れると信じて疑わなかった。最近では合成神獣なんて、通常の大型種アラガミよりもさらに巨大で強大なアラガミが現れているくらいだ。間違いなくその時が来る。

今はヨーロッパへ遠征中のあの糞親父だってわかっているはずだ。その上であんな物を作り出している。そしてリンドウやエリック、彼らをはじめとして多くの人たちが、その犠牲になっている。ヨハネスは決して犠牲になることは『強制しない』。あくまで『選ばせている』だけ。しかし自分の望む方向へ『選ばせる』ことが得意だ。要は、相手を利用するのが得意だ。それが胸糞悪いことこの上ない。あのユウとかいう新人についても同じことが言える。だから自分は、敢えてこの呪われた体を利用して、奴の計画の犠牲になっていく仲間たちを守ろうとした。でも、守れた仲間なんていない。この先も、今は生き残っている仲間もいつか必ず死んでいくのだろう。

何をやっても、人の死が連続して現実となる。何度人死にが起きないことを願っても、自分だけ異常な回復力で一人生き残っては仲間を死なせ、死神だの化け物だのと揶揄され、自分でもそう思えてならなくなる。

それに引き替え、最近になって表れた光の巨人『ウルトラマン』は、明らかにソーマ以上に異常な存在。強大な力を持ち、合成神獣とも互角に戦い、勝利してきた。まさに誰もが描く通りの理想的なヒーローだ。0にこそなってないが、あいつが現れて以来、人死にが著しく激減し、合成神獣もすべて倒され、多くの人たちからの信頼を得ている。だがソーマは、リンドウやエリックといった身近でごくわずかな人たちからしか信じてもらえていない。

シュンたちが言うとおり、自分は…あの少女と同じ…『化け物』なのか。彼女のことを思い出して、ソーマの表情が歪んだ。あいつを見ていると、心がざわつく。

(…違う!俺は…あいつとは違…う…!!)

ソーマはすぐに頭の中でそれを否定したが、その否定の意思に力が思ったほど入っていなかった。そしてそれが、あの少女と同じように、自分が常に他人を遠ざける時に使っている通り、『化け物』なのだと思えてきてしまう。

…本当に、そうなのか?

自分は仲間を死なせ続ける化け物。だから仲間なんて最初からいない方がいい。そう思っているから敢えてユウたちと距離を置き続ける。それと引き換え、あの少女は最後に会った時、自分に言った。

「そーまにあえて、みんなとあえてうれしかった」、と。

なんだこれは…本当なら殺すべき仇敵であるはずのアラガミが、自分に必死に訴えてきていた。自分の嘘偽りない、一緒になれて嬉しいという気持ちを倒すべき化け物が言葉で、伝えられているのに…。

(俺は…………)

仲間を死なせ続ける出来損ないの化け物な自分より、あのアラガミの少女の方がよほど人間らしいじゃないか。

ソーマは、自分が今足場代わりにしている、足元に見えるこの機体を見下ろした。

 

 

 

飛行型のアラガミが接近していないか、ユウたちは周囲を確認しながらヘリの護衛を続けていた。

何匹か、任務が始まってから飛行型のアラガミが接近してきたが、いずれも今の彼らには取るに足らなかった。

「喰らえ!」

銃声が鳴り響く。ユウのヘリに近づいた数匹のザイゴートが落ちていく。他のヘリにもザイゴートの他にサリエルが二体接近しレーザーで打ち落としにかかってきた。

「コウタ、レーザーを撃って!」

「はい、サクヤさん!」

だがそれらの光線はシュンが装甲で防御したり、ヘリに被弾する前にサクヤたち他の銃型神機使いたちのバレットがレーザーに直撃することで相殺される。

「ユウ君、アリサ!捕食!」

「「了解!」」

ユウとアリサは次のザイゴートが迫るまでの間、捕食形態に神機を切り替えると、落下中のザイゴートに向けて捕食形態の首が延びてザイゴートに噛りついた。ザイゴートのオラクルエネルギーとコアを取り込み、神機がバースト状態に移行する。

「ジーナさん、カレルさん!」

「あら、これはいいわね」

「ほう…これがバーストか」

ユウは取り込んだオラクルをカレルとジーナに飛ばし、彼らをリンクバースト状態に。二人は旧型の銃型神機使いなので自力でのバーストはできないため、今回始めてのバースト移行だった。

アリサもその間にコウタとサクヤにオラクルを渡して二人をリンクバーストさせた。ザイゴートを先頭にサリエルが後に続く形で、アラガミたちはヘリやその中にいるユウたちを食らおうと必死になって群がっていく。しかし、彼らに隙はなかった。接近しようにもユウたちはバレットを十分に保有していることや、ユウとアリサの二人が捕食形態を利用してアラガミバレットを補給し続けており、弾切れを起こすことなく撃ち落としてくる。

サリエルも自身が放つバリアを展開することで彼らの銃撃を防御し、レーザーを撃ちかえしてくるも、レーザーがヘリに被弾する前に、銃型神機のバレットによって相殺されていった。そしてバリアの持続時間も永遠ではない。一度展開したら数秒でサリエルのバリアは消える。

「さあ、綺麗な花を咲かせて…」

「俺は花よりも金だ」

バースト状態のジーナやカレルのバレットが、バリアの解除と同じタイミングで放たれ、サリエルは赤いバラを再現するように血しぶきを上げながら落下していった。

ジャンキラーの方も、近づいてきたサリエルとザイゴートをソーマが迎撃していた。ジーナとカレルの銃撃によって落ちていくサリエルに向け、ソーマは捕食形態の神機を突出し、そのオラクルを取り込んでバースト状態に入る。

「…失せろ」

ワイヤーを誤って叩ききらないように、当然ジャンキラーにも傷を追わせるわけにいかないので、気を遣わなければならない。ソーマは普段と違ったやりにくさを感じたが、それでも一匹でも多くのアラガミを屠っていく。こうしてアラガミをぶった切っている間の方が、余計なことを考えなくて済んだ。死神と揶揄されることも、あのアラガミの少女の事も気に留めないので、心がざわつくことも余計なイライラも降りかからないのだから。

そんな時、サリエルたちに向かって風のように何か黒い影がすり抜け、同時にワイヤーの一本が切れた。

「うわ!」

シュンの慌てるような声が聞こえる。ワイヤーが切れたのはシュンとジーナが乗っているヘリだった。今通り抜けたのは、間違いなくアラガミだ。ソーマの気配を察する感覚がそう囁いていた。

サクヤが敵の姿を確認すると、甲殻類のような表皮を持つ、蛇のように長い体を持つアラガミの姿を4体確認した。

「ヨルムンガンドですって!?」

「ヨルムンガンド?…って、なんだっけ?」

「少しはターミナルで学んでください!」

ここに来て己の無知をさらして仲間に尋ねてきたコウタに、アリサは恥ずかしささえも覚えて怒鳴った。

「まずい!今のでワイヤーが切られた!」

一本、サリエルごとワイヤーが食われたことで、ジャンキラーを支えるヘリが5機に減り、切れたワイヤーの方に向けてジャンキラーが傾いた。残りの5機もそれにともない、バランスを失いかけていた。

「飛行型のアラガミの中でヘリの金属を好んで捕食するわ!すぐに撃ち落として!」

サクヤがすぐに簡易的な説明を入れて迎撃命令を下した。すぐに銃型銃型神機使いたちはヨルムンガンドに向けて射撃を開始した。

雨のように連射される弾丸にヨルムンガンドは体をうねらせながら避けていく。当たったのはせいぜい2、3発程度。全く致命的なダメージとは言えなかった。銃型神機使いたちのバレットの威力が足りなかった。

ヨルムンガンドはさらに追い詰めるように、ゴッドイーターたちのバレットを避けながら、もう一本…今度はアリサのヘリに繋がれたワイヤーを食いちぎった。

「きゃ!」

アリサが転びかけたが、ヘリの壁に捕まって事なきを得る。だがこの状況、もっとも危険な状態なのはソーマの方だった。

足場代わりのジャンキラーを支えるワイヤーが二本も切れてしまい、今にも落ちそうだった。

「4機ではロボットを支えられません!このままヨルムンガンドの攻撃を避けながらエイジスへ向かうのは不可能です!」

自分が乗るヘリのパイロットがユウの方を振り返って警告してきた。ユウはただちにソーマに呼びかけた。

「ソーマ、早く飛び移って!このままだと君も落ちてしまうぞ!」

手を伸ばしながらソーマに呼びかけるユウ。

しかし、ソーマにそんな余裕はなかった。飛び移ろうにも、ヨルムンガンドが自分達のヘリやソーマの元で群がり次々と邪魔をしてくる。

ソーマは焦りを覚えた。

(くそが…どうすれば良い…?)

ソーマがその時考えていたことは、どうすれば仲間たちが助かるのか、ということだった。

ふと、足元に目についたものがあった。

今、足場代わりにしているロボット、ジャンキラー。こいつを動かせれば…

だが、当然動かし方なんてわからない。そもそもこいつをどうやって動かせば良いのだろうか。

ウルトラマンが来るのを待つか?…いや!

(…ウルトラマンなんかに…頼れるか!)

ソーマは予想外の行動に移った。ソーマはそのままヨルムンガンドと戦闘を続け始めたではないか。

「ソーマ!!」

何をしてるんだ!とユウは叫んだ。あんな不安定な場所で戦い続けたら、ソーマもただでは済まなくなってしまう。

「ソーマ、何してるの!早く脱出しなさい!」

今度はサクヤが呼びかけるも、ソーマはそれを受け入れなかった。

「このままではこのデカブツのために全員がお陀仏だ。俺も今の状況じゃお前らのヘリに移れねぇ。飛んできたところで攻撃されて落ちるだけだ…ふん!!」

近づいてきたヨルムンガンドの一体の突進をタワーシールドで防御し、すかさずパリングアッパーで切り伏せるソーマだが、まだ3体も残っていた。今、自分たちのヘリはエイジスと旧日本領の本州の間の海上までに移動している。このままではソーマはジャンキラーもろとも、海へ落ちてしまう。

すると、ソーマはまた一つ予想外の行動に出た。…いや、起きたと言えるような光景だった。ソーマの足もとに、魔法陣のような形の円形の光がともると、それがソーマを包み込んだ。消え去ると同時に、ソーマもまたその姿を消してしまう。

「「ソーマ!」」

ユウとサクヤの声がこだました。

ヨルムンガンドたちも、ソーマというターゲットを見失って周囲を見渡す。姿なき獲物に興味を失ったのか、今度はユウたちの乗るヘリを、再び獲物として狙い定めた。

(ソーマのことが気がかりだってのに!)

邪魔するなら倒すまで。ユウが苦々しげに神機を構え、ヨルムンガンドに対して迎撃態勢を整えた、その時だった。タロウがユウのポケットから飛び出て叫んだ。

「ユウ、あれを見ろ!」

「え…?」

ユウは、タロウが指を刺した方角…ジャンキラーの方を見下ろした。

ジャンキラーの赤い目が、再び輝き始めた。そして赤い模様を刻んだ鋼鉄の白いボディから、命が吹き込まれたように蒸気が噴き出て、機械が稼働した音が鳴り響く。

そして次の瞬間、拘束されていた鋼鉄の巨人は、その身を包むワイヤーを引きちぎり、再び極東の空に舞った。

「ジャンキラーが、また動いた…!?」

 

 

 

「!?」

ソーマもまた、自分の身に起きたことに戸惑っていた。突然足元に魔法陣のような円形の光に包まれたと思ったら、その一瞬で景色が一変した。赤い模様を刻んだ白い壁が周囲を囲っている。中央にはソファが置かれ、奥の壁にはモニターが設置されていた。どこかの建物の中なのだろうかと思っていたが、ここがどこなのかソーマは気づく。

(ここは、ロボットの中か?)

そうとしか思えない。まさか急にこんな形で乗り込むことになるとは。

ふと、ソーマは気配を感じた。誰かがここに入り込んでいる。

身構えていると、その気配の主が姿を見せた。

「お前は…」

現れたのは、フェンリル職員の男だった。なぜこんなところに一般職員がいる?ヘリでジャンキラーが運ばれた時に全員降りていなかったのか?

「なんでここにいる?」

「あ、あの…僕、徹夜で作業してたら、いつの間にかヘリが飛び立っちゃったみたいで…」

つまり作業してたら眠ってしまい、ジャンキラーから降り損ねたということだ。迷惑な奴だと、ソーマは思った。

しかし、これでどのみち自分がとらなければならない選択肢が定まった。

「そこでじっとしてろ」

ソーマは、すぐにジャンキラーの操縦桿を探し始める。このジャンキラーは、ウルトラマンにも匹敵する強力なロボットだ。コントロール下に置けば、この状況を脱することができるかもしれない。どんなリスクが潜んでいるのかもわからないが、このままなにもしなければ、仲間たちがヨルムンガンドに食われるのを待つだけだ。

「な、何をするつもりですか?私もここから何度も脱出しようとしてたんですが、出口らしき場所も見当たらないんですよ?」

「いいから黙ってろ」

後ろから声をかけた職員の男に対し、ソーマは適当に黙らせた。しかし、奇妙だ。どこをどう探しても、操縦桿らしきものは見当たらない。

「私も探し回ったんですけどこのロボット、そういったのないんですよ」

ソーマの行動を察して、職員の男がそう告げた。しかし、その時彼は奇妙な動きを見せた。

「だって…」

手元に、妙な禍々しいオーラを纏った黒いケースを取り出し、その中からあるものを取り出すと、それを…

 

仕込みナイフのようにソーマに向けて突き刺そうとした。

 

「!」

ソーマは人一倍周囲への気配や動きに敏感だった。それもあって、フェンリル職員の男の動きにいち早く気付き、その腕を掴んだ。

「…なんのつもりだ」

「今の不意打ちに気付くとは、さすがはゴッドイーター…といったところじゃなイカ」

男の雰囲気が一変していた。ソーマの人並み以上の力で腕を握られても平然としている。

「てめえ、まさか…」

「そのまさかじゃなイカ」

すると、男のかおがグニャリと空間ごと歪んだ。歪みが収まると同時に、男の姿は、人間のものでなくなった。小動物のような耳に、首回りに貴婦人が巻くマフラーのような黒い体毛。そして象のような灰色の肌。

「そう、我輩は闇のエージェントの一人、『イカルス星人イゴール』じゃなイカ」

ソーマは、男が正体を見せると同時に、奴の腕を捻ってへし折ろうとした。こいつを野放したら、仲間たちが危険に晒されると、直感的に確信した。だが腕を捻ったその瞬時、イゴールは一瞬で姿を消した。

「何 !?」

「でも、無駄無駄。お前の心に闇が巣食っている限り、この支配から逃れることはできないじゃなイカ」

背後から気配と声がして振り替えると、ソーマの後ろ、モニターの前でイゴールが立っていた。

「大方、ジャンキラーを操ってアラガミを撃退して仲間を救おうなんて…考えてたんじゃなイカ?

ロクに宇宙の技術を知らない地球人ごときに、そんな真似できるわけないじゃなイカ!!イカカカカ!!」

イゴールはソーマを露骨に嘲笑った。

これまで任務を共にしたエリックやリンドウを救えず、エリナがダミースパークを手にして極東支部で暴れたのを見過ごし、さらに倒すべきであるはずのアラガミの少女から懐かれている。イゴールのふざけているような笑い声は、それらのことが重なって自分に対するイライラのピークに達しようとするソーマの神経を逆撫でした。

「うんうん、良いよ良いよ。その心の中に深い闇が見えるじゃなイカ。ジャンキラーにここへ連れてこさせた甲斐があったじゃなイカ」

イゴールはソーマが今にも自分へ襲い来ようとしているのに、満足げだった。

その手には、さっきソーマに突き刺そうとした、エリナも使ったダミースパークが握られていた。さらにダミースパークからは黒い闇が溢れだし、ソーマたちのいるコックピットに充満していく。

その闇を浴びていくうちに、ソーマも異変を起こし始めた。

「ぐ、お…おぉ…!?」

なんだ…体の中から、力がみなぎって行く。それだけじゃない。心の奥に溜め込んでいた感情が…

 

怒り・憎悪・絶望・そして嫉妬…

 

あらゆるどす黒い感情が押し溢れていく。

「君には、もう一人のウルトラマンをあぶり出すための餌になってもらおうじゃなイカ」

「ふざ、け…ぐあああああああああ!!!」

イゴールに対する敵意も叫びも、黒き闇に飲み込まれていった。


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