ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
アラガミの少女と出会ってから、数日が経過した。
メテオライト作戦によって、極東支部の周辺はアラガミの数が一時的に激減していた。だが、決して0になったわけではなく、時折緩やかながらもアラガミが再び誕生し始めていた。
そんな時、一匹のコンゴウが逃げていて、それをボルグ・カムランが追っていた。アラガミは自分に近い種を食べないとは言うが、この二体のように種別が異なる者同士なら、アラガミ同士での共食いは行うのだ。
コンゴウは傷ついていた。恐らく何かの拍子で繰り広げられたボルグ・カムランとの戦闘で負傷し、敵わないとみて逃げているのだろう。アラガミらしく一度狙った獲物は逃すまいと追い立て続ける。
コンゴウはボルグ・カムランから逃れながら、目についた廃都市のビルの中へと逃げ込んだ。とにかく何か食べたいと思えるものを食らい、傷を癒さなければならない。幸いボルグ・カムランはビルの中へ入れないようだ。といっても、空なり破壊するなりの方法でコンゴウを追ってくるのかもしれないが。だがボルグ・カムランはコンゴウから興味を失ったのか、追うのをやめて去って行った。
コンゴウは傷ついた体を引きずって、近くに見つけた廃材を口に放り込んだ。どう見ても食べ物に見えないそれを食らう様は、まさにアラガミらしい。
その廃材を漁っていると、コンゴウはあるものを見つけ出す。
それは人形…それもただの人形ではない。タロウと同様に、何者かによって縮小された生物…スパークドールズだった。
コンゴウは廃材ごと、気づかないうちにそのスパークドールズを捕食してしまう。
満腹感を得て膨れた腹を、この事態では絶滅した生物の一種であるゴリラのように叩くコンゴウ。
すると、コンゴウは自らの体に異変が起きたことに気付いた。
体中からあふれ出るその得体のしれない力に、強い昂揚感を増していく。力があふれるにつれて、コンゴウの体が50m級に膨れ上がり、その体もまた異常な変化を及ぼした。スパークドールズを取り込んだことで合成神獣に変貌したのである。
コンゴウだった頃と同様に赤い体を基調としながらも、その両足や、半分に割れた赤い仮面の下の顔や皮膚が、捕食したスパークドールズの怪獣のものと複雑に絡み合うように融合していた。
新たな合成神獣、『どくろ神獣クレナイコンゴウ』となったコンゴウは、昂揚感のあまり吠えた。
「グオオオオオオオ!!」
クレナイコンゴウは、みなぎる力を感じるあまり、本能的に感じ取った。もう自分は無敵だ。さっきのボルグ・カムランだって屁でもない。自分は最強のアラガミとなった。これで自分以外の全ての生物を自分だけの餌として蹂躙しつくすことができる。
本能の赴くままに野心を燃え上がらせたクレナイコンゴウ。
そんなコンゴウの前に、
「………」
頭にかぶったフードとマスクで顔を覆っている一人の少年が、クレナイコンゴウの前に姿を現した。
クレナイコンゴウは、さっそく獲物がきたとしか思わなかった。だが、現れたのがこんな小さな生き物かと思うと、もっと大量にむさぼれる獲物を求めたくなった。だが、せっかくの獲物だ、遠慮なく食らってやる。
クレナイコンゴウは、その剛腕で少年へと手を伸ばした。少年が懐に忍ばせたものを取り出そうとそこへ手を突っ込んでいたことなど気にも留めなかった。
その直後に、自分の身を滅ぼすとは知らずに…
それからすぐの事だった。
愚者の空母に、合成神獣の反応があった。その報告をもとに第1部隊、そして一時エイジス島の防衛任務を休み、極東支部に戻っていた第3部隊が派遣された。
「あれは、もう一人のウルトラマン…!」
現場に来て、真っ先に口を開いたのはサクヤだった。
派遣された時には既に合成神獣は、未だその正体が掴めない第二のウルトラマン『ビクトリー』に圧倒されていた。すでに体中が傷だらけにされ、ズタボロと言える状態だった。
(ビクトリー…!)
同じウルトラマンでもあるユウは、ビクトリーの姿を絶対に見逃すまいと、その姿を凝視した。できるなら、あのウルトラマンがいったい何者なのかを見極めたいところだ。
「す、すげぇ…やっぱり夢じゃなかったんだ。ウルトラマンが他にもいたなんて…」
コウタは興奮を抑えながら、自分が今見ているこの光景…ギンガ以外のウルトラマンが本当に現実のものであることを噛みしめた。
「俺たちが来る前に、もうあそこまで…」
「俺たちが来るまでもなかったというわけか。無駄骨だったな」
シュンが当然の反応を示した一方で、カレルが今回の報酬には期待できそうにないと思った。ウルトラマンのおかげで自分たちの生存率が高くなったのは良いとは思うが、その一方で自分たちに与えられるはずの報酬がもらえなくなることについては不満だった。
「ちょっと残念ね。私も合成神獣を撃って、綺麗な花を咲かせてみたかったんだけど」
戦闘狂の気があると良く囁かれるジーナも残念そうにしている。せめてあと5分早く来たかったわ、と最後に呟いた。
ソーマは、表情を険しくしながらビクトリーを睨みながら見上げていた。
(……また、ウルトラマン…か…!!)
ビクトリーはV字型の光を形成しそれを右腕に吸収すると、警戒したクレナイコンゴウが足元から拾い上げた廃ビルの上数回分の部位を持ち上げ、ビクトリーに向けて投げつけた。光線を撃つ前にぶち当てることで強制的に光線を中断させようとしたのだろう。だが無駄に終わった。ビクトリーが直撃する前にL字型に組み上げた両腕から必殺光線を放った。
〈ビクトリウムシュート!〉
ビクトリーの光線で、投げつけられた廃ビルは砕かれ、その後ろにいたクレナイコンゴウがモロに食らった。もだえ苦しんだ果てに、クレナイコンゴウはダウンし、そのまま爆散した。
クレナイコンゴウが倒れたのを確認すると、ビクトリーは頭上を見上げ、空の彼方へと飛び去って行った。
「やっぱウルトラマンって、すっげぇな…」
「…うん…」
コウタに対して適当に相槌を打ちながら、ユウはビクトリーの正体を掴もうとする間さえも与えられなかったことに少し残念に思った。
「二人もウルトラマンもいれば、死ぬ人も少なくなるんだよな?さっきのウルトラマンだって、アラガミと戦ってたし」
正体は未だ掴めずにいるものの、それでもあのウルトラマンが敵ではないと考えられた。というよりは、コウタを始めとして誰もが思っていることだろう。
「これを機会に、死神様と一緒の任務がなくなるとせいせいするぜ」
シュンが、ソーマを遠くから横目で見ながら言ってしまったその一言を、ソーマは聞いてしまった。聞きたくなくても、彼の耳は小声さえ聞き分けられるほどに良すぎた。
「…!」
サクヤも聞いていた。ソーマと一緒に信頼し合い戦ってきた彼女にとって、またしてもソーマを侮辱するシュンの言動は許しがたいことだった。サクヤから睨まれ、シュンはまずった…と口をつぐんだ。
ソーマが、シュンの横を通りすぎた。危機感を覚え、シュンは思わず身構える。だがソーマは、シュンを殴り飛ばしたりすることなく、そのまま横を通りすぎた。
一時シュンを殴り飛ばすのではと思っていたユウたちだが、ソーマが乱闘を起こさなかったことにホッとした。でも、ユウは見ていた。今すぐにでもシュンを殴り飛ばしたがっていると言えるくらいに怒りで顔を歪ませていたソーマを。
ユウたちはアナグラへ帰還し、アラガミの少女の様子を見に行った。
ユウとアリサにアラガミの少女のことを任せて、コウタとサクヤは任務の報告を終わらせてから来ることになった。ソーマは、アラガミの少女を受け入れられず、この研究室へ来るのを避け続けている。
サカキの言うとおり、本当に彼女が人間を襲うことなく平穏に暮らしているかどうか心配になり、ユウたちは任務の合間を縫って少女の様子を見に行った。
「あ、ユウだ!アリサもきた!」
少女は予想以上に学習能力が高かった。瞬く間に第1部隊の仲間たちの名前と顔を覚えた。
ちなみに普段このアラガミの少女は、サカキのラボ内にある、左右の二つの扉の内、右側を彼女の部屋として与えられている。
サカキは現在この少女の観察の他にも、この極東支部の戦力増強のためにメテオールのデータ解析を行ったり、これまで回収されたスパークドールズの研究にも勤しんでいたりとかなり多忙だ。解析だけならこの部屋にいるので、ついでにアラガミの少女の観察も可能なのだが、たまに部屋を出ておかないといけない時があるので、その際は第1部隊のメンバーの中で手が空いているいずれかが来訪して様子を見に来ることになっている。何か変わったことや、覚えたことがある場合は簡単なレポートとしてまとめておくことにされているのだ。
「やぁ。こんにちは」
「…?」
普通の挨拶をしたのだが、少女は初めて聞くためか首を傾げてくねくねする。
「知ってる人と会ったら、こうやって挨拶するんだ」
「…うーんと……こん…に…ち…わ?」
「うん、よくできたね。エライエライ」
ユウから頭を撫でられ、少女はえへへ、と嬉しそうに微笑んだ。
こうして何かを教え込むと、意外と早くこちらの言葉を吸収していく。アラガミ風に言うと、知識そのものを捕食している、ともいえるかもしれない。
少女は他にも好奇心旺盛で知識欲も強かった。基本的な挨拶もそうだし、ユウたちの会話を通して様々な言葉とその意味に理解を示して行った。
(……○○)
ユウは、懐かしい感覚を覚え、心の中で妹の名前を呟く。子供の頃に死んでしまった妹にも、こんなふうに頭を撫でたりすることがあった。もう妹にはしてあげられないが、この少女には、妹に与えられなくなったものを与えられる気がした。それは、きっとこの少女がアラガミではなく、人としていられる理由になってくれたらと願いたくなった。
アリサもその様を見て関心を寄せていた。
「色んな言葉を覚えてきましたね」
「にしても驚いたよなぁ…まさか人間の姿をしたアラガミだなんて…」
「うぅむ…私も驚くばかりだ。このようなことは」
タロウもユウのポケットから顔を出して同意した。今はユウとアリサ以外は誰もいないし、アラガミの少女からも見られないようにほんの少しだけ顔を出している。
ユウはもとより、あのタロウでさえあのアラガミの少女については驚かされていた。これまでアラガミというのは、人間が想像する神々の姿を模倣した、目についた獲物はどんなものでも食らう凶悪且つ悪食な怪物。そのイメージが深く根付いている今、人間そのものと言えるアラガミが現れた。これが驚かずにいられようか。
「タロウは、あの手のパターンって昔はなかったの?たとえば、人間だったと思ったら…なんてことは」
ユウは、タロウがまだウルトラマンとして戦っていた約100年前のことを尋ねた。
「知性のある怪獣や星人が人間へ擬態や憑依を行ったり、人間を怪獣へ改造したという話はあったが、少なくともあの少女のように凶暴なはずの種族に、あのようなイレギュラーが生まれることはなかった」
(…それほどのことがあって、あの子のことをよく驚けましたね)
むしろタロウの話した過去の戦いの方が驚きの連続だったのではないかとアリサは思ったが、対してタロウはそうとは思っていなかった。
「この宇宙は常に驚かされることばかりだ。
だが、サカキ博士の言うように、アラガミが何かを模倣した姿で誕生するならば、いずれ人間の姿をしたアラガミが現れるのも、時間の問題だったのかもしれない」
「そうだね。でも、あんなかわいい姿をした女の子がアラガミか…」
鎮魂の廃寺から連れ出したあの時、シユウの死体を貪るという、人間がすれば間違いなく腹を壊しかねないことを平然とやってのけたあたり、普通の子じゃないのはわかっていたが、それ以外においてあの少女はとにかく無邪気で純粋な人間の少女そのものだった。アラガミ、といわれないとなかなか気づかないのかもしれない。
「…ユウって、ああいう女の子が好みなんですか?」
「え?」
アリサがユウにポツリと呟く。
「いえ、なんでもありません」
小声だったことでよく聞こえなかったので聞き返したが、アリサはなぜかユウからそっぽを向いた。なぜか彼女は不満を抱いているのか、それとも何か怒っているのか、面白くなさそうに少し膨れている。
「サカキ博士が言っていたことがすべて的を射抜いているのなら、あの少女に脅威はない。私も彼女を見て、アラガミにも本能的に備わった凶暴さも悪意も感じなかった。おそらくはだが、きっと大丈夫だろう」
「…うん、そうかもね。ソーマに怒鳴られたときもそうだったし」
「ソーマに怒鳴られたとき、ですか?」
「実は…あの子がソーマに「化け物は化け物だ」と拒絶された時、寂しそうにしてたから」
あのときの悲しそうな顔は、ユウにあのアラガミの少女が人間と同じ心を持ち合わせていることを確信させた。
「人間らしい感情も備わっているということか」
「でも…あの子にはかわいそうだと思うんですけど、ソーマのあの子への態度も、本当なら当然の反応だと思います。少し前の私も、『アラガミと仲良くなんてできるわけない』って言っていたと思いますから」
かつて、アラガミを殺しつくししたいと願うほどに憎んでいたアリサは、あまり言っては気分を悪くすると思いながらも、ソーマのあの時の少女への拒絶反応が必ずしもおかしいとは思わなかった。
でも、この少女が人間とほとんど変わらない存在というならば、いつまでもソーマのあの態度を放置したままでいても苦痛しか伴わない。それは、ソーマ自身にとっても同じことのはずだ。
どうすればいいのだろうとユウが悩んでいると、サカキの研究室をノックする音が聞こえる。
「二人とも、いる?」
入ってきたのはサクヤとコウタだった。
「サクヤ―!」
「あらあら…」
少女にじゃれ付かれ、サクヤは少し驚きながらも、本当に人間の少女と変わらないその少女の仕草に、すぐに笑みをこぼした。
「なんだか不思議だな。アラガミのはずなのに、そんな感じがしない」
コウタもそれを見て、アラガミの少女に軽く挨拶をしてみた。
「おっす!」
「オッス!」
少女もコウタを真似て返してくる。
「なんですかその下品な挨拶は。変な言葉覚えさせないでください」
アリサが白い目でコウタを睨む。
「えー、これくらいいいじゃんよー」
「じゃんよー」
アラガミの少女が再びコウタの真似をすると、アリサは軽めに少女を叱った。
「駄目だよ。コウタみたいに馬鹿になっちゃうよ?」
「ひでぇ…ユウ相手にはそんなんじゃないのに。差別だぜ」
前よりも明るくなったアリサだが、やたらユウに対して信頼を置いているというか、どことなく彼に対して贔屓しているようにも思えた。…まぁ、なんとなくその理由は察している。しかし口にしたらアリサからどやされてしまうのは目に見えている。切れたらそこらへんのオウガテイルよりも凶暴なのだ。
「なにか失礼なこと考えてました?」
「いえいえ…」
おっと、考えていることを悟られかけたか。コウタはすぐに何でもないふりをする。
すると、サクヤはアラガミの少女を見てふと疑問に思ったことを口にした。
「一つ気になったんだけど…この子に名前はないのかしら?」
「あ…そういえばまだつけてあげてませんでしたね」
思えば、この少女がアラガミで、しかもアナグラに置くというこの状況に驚くあまり、名前を付ける余裕などモテていなかったことにユウは気づく。
「へっへーん、俺、ネーミングセンスには自信あるんだよね」
「嫌な予感しかしませんけど…」
真っ先に名付け親として名乗り出たコウタに、アリサが懐疑的な視線を向ける。
その予想だが、当たっていた。
「ノラミ!」
…
サカキの研究室内が、一気に沈黙した。
「…ドン引きです」
真っ先にアリサが、絶対に認めないと言うように否定した。
「なんだよー!じゃあお前何かいいのあるのかよ!」
「な、なんで私が…」
逆に反論されるアリサは狼狽えた。
「はっはーん。自分のノーセンスっぷりをさらすのが怖いんだろ?」
「ち、違います!」
そう否定するアリサだが、ここで皆にこっそり教えよう。アリサには内緒だぞ。
以前ロシア支部に身を置いて、仲良くなったオレーシャと共に任務に赴いたとき、少し神機の挙動が遅くなったことが気になったアリサがオレーシャに相談したときだ。アリサと異なり旧型バスターブレード使いだったオレーシャだが、銃にはなれずとも可変する機能があることにかわりないし、何より仲良くなれたアリサの力になろうと、一つのアドバイスを告げる。神機を愛情を持って扱う、というものだ。その一貫で
『名前をつけてみたら?』
と勧められた。
アリサはあくまで復讐の道具として神機を扱って来たため、神機にそのような情を抱くことはなかった。でも神機も人工アラガミとはいえ生きている。もしかしたら持ち主の大切な気持ちも伝わるかもしれない。そう思ってアリサが考えた神機の名前は…
『ぱくぱくゴッ君!まさに名は体を表します!』
…コウタの予想通り、アリサはコウタ以上にネーミングセンスが壊滅的だった。当然オレーシャからも『ドン引き…』と言葉通り引かれていたには言うまでもない。
もうあのときのような失態はできない。恥ずかしい過去を思い出しながらも、アリサはとにかく少女にふさわしい素敵な名前を着けようと考える。
「名前、名前…えーっと…」
「ホラホラなに悩んでるんだよ~?あるんだろ~?ノラミより良い名前がよ~」
「コウタうるさいです!集中できないじゃないですか!」
馬鹿にするように横槍を入れてくるコウタを怒鳴りつけながらも、アリサはアイデアを絞るが、やはりよい名前が浮かばない。
「はいはい。二人とも、そう熱くならないの」
この場の年長者らしく、落ち着きと温かみのある呼びかけでサクヤはコウタとアリサを仲裁する。すると、アリサはサクヤとユウの顔が目に入ったことで、コウタに対抗できる一手を見出した。
「あ、そうだ!サクヤさんとユウには何かアイデアありますか?」
苦し紛れにとったアリサの選択、それは『逃げ』だった…。
「おい、逃げんなよ!」
「逃げ?ええ、何とでも言ってください。リンドウさんが言ってたじゃないですか。『死にそうになったら逃げろ』って」
(そこでリンドウの命令を持ってこられても…)
大して死活問題でもないのに都合よくリンドウの命令を使って逃げの一手を図るアリサに、リンドウとは親しかった身であるサクヤは微妙な気持ちになった。
「やぁ君たち。今日も来てくれたんだね」
その一言と共に、部屋の主でもあるサカキがソーマを連れて来訪した。
ソーマは、いつも機嫌が悪そうな顔をしているが、この時はさらにそれは顕著に表れているように見えた。ここへ来たのも決して望んだことではなく、サカキに言いくるめられて仕方なく、というところだろう。
「博士、今日はどちらへ?」
ユウがサカキに質問する。
「さっきメテオールについて、解析がある程度進んだ分のデータを技術班に回しに行ったんだ。また新たなオラクルメテオールを実像できるかもしれない。どうもまた、あのビクトリーという新たなウルトラマンが現れたみたいだからね。我々も彼らと肩を並べるだけの戦力を蓄える必要がある」
それを聞いてコウタがおぉ!と期待を寄せた声を上げた。ウルトラマンとまた一緒に戦うのを期待してるのだろう。しかも新たな、対アラガミの新兵器、新メカというのは少年らしいコウタの心をくすぐりやすいようだ。
(僕としては、ウルトラマンビクトリーの正体についても掴んでおきたいけどな…)
まだビクトリーの正体がわからないままなのは、ギンガであるユウやタロウとしてはむずがゆさを感じずにいられなかった。
「このままウルトラマン任せでは、我々フェンリルはいずれ人々からの信頼を失って破産しちゃうからね」
(なんてプライドもへったくれもない理由…)
さらに続けてサカキが口にした、特にかっこいい信念とかフェンリルに身を置く立場のプライドとかは口にせず、ちょっとリアルな事情混じりな動機に、ユウは気持ちがよどんだ。まぁ、口先だけの善行ともいえない善よりも、リアルな視点の偽善の方が救われる。ウルトラマンとして戦う立場ではあるが、同時にゴッドイーターでもあるユウとしては、それも考えて行かなければならないことだと思えた。
「じゃあ、あのロボットは動かせそうなんですか?」
アリサがジャンキラーのことについて尋ねると、サカキは難しそうな顔をした。
「あれだけどねぇ…メテオール以上に解析に時間がかかりそうなんだ。動かし方も全く分からないし、暴走の危険も考えられる。後日エイジスへ輸送することになりそうだ。私もそれなりに技術屋としての腕は自負しているが、さすがは宇宙で作られたものだ。」
「え?あれ宇宙で作られたものなんすか?」
「普通に考えられるでしょう?あんなものが地球で作れたら、私たちが今使っている神機より、今頃もっとすごい武器が扱えましたよ」
ジャンキラーが宇宙で作られたロボット。それは確かに誰も口にしていなかったことだが、大方の予想はつくだろうと、コウタの反応に対してアリサが呆れた。
「ところで、彼女の様子はどうだい?」
「最初に会った時と比べて、結構たくさんの言葉を覚えてますよ」
ユウが、アラガミの少女を見ながら言った。サカキは少女に近づくと、軽めに「こんにちは」とあいさつした。
「はかせ、こんにちは!」
元気よく手を上げながら挨拶を返してきた少女に、ふむ、とサカキは何か納得したように声を漏らす。
「君たちが相手をしてあげてるおかげというのもあるだろうけど、それにしてもこの子は飲み込みも早い。知性を持ちながら食うか食われるかの世界を生きてきたんだ。きっとコミュニケーションに飢えてるんだと思うよ」
「なら、やっぱり名前を早く決めた方がいいかもしれませんね」
「そうだね。さすがにいつまでも『彼女』ではかわいそうだ」
この先も少女とは幾度も会話を続けることになる。名前を考えることについてサカキも同意する。
「ただ、まだちゃんとした名前が決められないんですよ」
「なぁ。やっぱノラミがいいって」
困るユウに、コウタが自分の意見を押し通そうとするが、やはりアリサから反対される。
「ダメに決まってるでしょ。そんなふざけた名前。少しは変な名前付けられるこの子の気持ちを考えてくださいよ」
「なんだよー!アリサなんか思い付いてもねぇくせに!」
「い…今から考えるところなんです!」
「ユウとサクヤさんもノラミがいいよな!?」
むきになって反論するアリサを無視してコウタはユウとサクヤに同意を求めるが、現実の非情さを思い知る。
「いや、ノラミはないと思うわ…」
「僕もノラミなんて名前は付けたくないよ」
(私も話には参加してないが、そんな野良猫に適当につけてるような名前は賛成しかねるぞ…)
ユウとサクヤだけでなく、ユウの服の中でコソッと話を聞いているタロウからも酷評を下された。
「えええええええええ!?なんで!?ノラミいいじゃん!」
納得できない様子のコウタだが、彼以外の誰もが思った。なぜそんなヘンテコな名前にコウタはこだわるのかと。というか少しは変だと思わないのか、と。
「名前というのは基本的に一生ものだ。じっくり考えてよい名前を考えて行こうじゃないか」
あまり急場凌ぎ感覚で名付けるのもよくないと思ったサカキがそう言うと、少女はサカキにおねだりしてきた。
「はかせー、おなかすいたよー」
「おっと、そうだ。そろそろお腹がすく頃だと思ったから、彼女用のランチを用意してたんだった」
サカキはソーマ、と呼ぶと、ソーマは舌打ちしながら、唐揚げに似た食べ物が詰まった大サイズ紙コップを取り出してサカキに差し出した。荷物持ちもさせられていたらしい。
「アラガミ素材を利用したランチだ。はい、めしあがれ」
「いただきます!!」
両手を合わせて会釈。ユウたちから教わった通りの食事の作法をしながら、早速少女は食事にありつこうとする。
「そーま、いっしょにたべよ!?」
すると、少女はソーマに笑みを向けて食事に誘う。
「おいおい、俺たちはアラガミを食べたりはしないんだぜ?」
コウタがおいおいと突っ込むように言うが、次に少女が言った一言で、場の空気が一変した。
「え~?でも、そーまのあらがみは、たべたいっていってるよ?」
「え…?」
ユウたちは少女の言ってる意味がよくわからず当惑する。
――――これを機会に、死神様と一緒の任務がなくなるとせいせいするぜ
だがそれ以上に、少女の言動は…ちょうどシュンの侮蔑に満ちた言葉と重なってソーマの逆鱗に触れた。
「ふざけるな!!てめえみたいな…てめえみたいな化け物と…一緒にすんじゃねェ!」
ソーマの、自分に向けられた激昂に、少女は怯えビクッと実を震わせた。
「そ、ソーマ…!」
動揺しながらも気遣うように声をかけるサクヤに気がつき、ソーマははっと、また自分が熱くなっていた気とに気がつき、仲間たちに背を向けた。
少女を招き入れた日のように、そのまま逃げるように去ろうとすると、少女がソーマに戸惑いながらも引き止めるように声をかけてきた。
「…ずっと、ひとりだったよ」
ソーマが、彼女の言葉を聞いて足を止めた。
「だれもいなかった…ほかのあらがみに…なんどもおそわれた。おっきくてこわいやつもいたよ」
ソーマにまた拒絶され怒鳴られるのを恐れているのだろう。まだ恐怖心が垣間見えた。ソーマが先ほど怒鳴ったように、本来誰もが恐れるであろう化け物…アラガミであることなどまったく感じさせなかった。
「だから…そーまにあえて、うれしかった!みんなとあえて、うれしかった…だから…だから…」
まだ無知ながらも、それでも自分の嘘偽りのない気持ちを、ひたすらソーマに言葉として伝える少女。
でもソーマがようやく搾り出した言葉は、いつも通りと言える拒絶の言葉だった。
「…もう、俺に関わるな…」
しかしその言葉に力はなく、とても弱々しくて消え入りそうだった。