ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
そういやアニメ、最後まで大丈夫なんでしょうか…。
作画は確かにいいんですけど、予定とかをもうちょっと考えてほしかったですね…。
そういや、漫画版『救世主の帰還』読みました。アクが強いとか、主人公の性格が受けないとか言われてて一部のファンから不評らしいですが、僕は結構好きでした。公式じゃ設定さえハブられがちということもあり、設定を組み込んでみようかと考えてます。
アナグラに帰還した後、現場に派遣されたゴッドイーターたちの多くは一般の負傷者たちと共に治療のためアナグラのメディカルルームに搬送された。
無論、ウルトラマンギンガとして戦い、見事ドラゴードを撃破したユウも同じだった。
「デトックス錠持ってなかったの?」
病室のカーテンで囲まれたベッドで寝かされたユウは、以前も治療に当たってくれた女医、ルミコと話をしていた。
「いや、その…ヴァジュラに囲まれた時に落としちゃって…」
あの戦いで変身する直前、一度ユウはヴァジュラの雷撃を受けてしまった。その際に所持していたアイテムの一部がダメになってしまっていたのだ。その状態のままギンガとなってドラゴートと戦い、そして毒霧を吸ってしまってヴェノム状態に陥ってしまっていた。そしてその直後に課せられた負傷者の安全確保などの事後処理に追われていたのだが…。
(ギンガに変身していた時の状態異常とダメージが、変身を解除した後でも引き継がれていたなんてな…)
迂闊だった。自分とギンガは、たとえ意思が一つじゃないにせよ、変身し体を一時的に一つとしている間は痛みも病気も共有される。だからユウも、ドラゴートから受けたヴェノム状態に
「けど、自分がヴェノムにかかっていたことを忘れるなんて、ゴッドイーターである以上は怠っちゃだめなことなんだけど?」
「面目ないです…」
ルミコの言うことは正しい。他人の事も大事だが、それ以上に自分の身のケアをしなければ、いざ助けなければならない命が目の前にあった時に、ダメージの蓄積などで体が動かなくなり、助け出せなくなるようなことだってあるかもしれないのだから。
「まぁ、ヴェノムは時間が経てば治るものだけど、次からは無理しないようにね?傷はそんなに長く時間を賭けなくても治るけど、それまではここからなるべく動かないようにしてよ」
ルミコはユウのベッドを囲うカーテンを開き、じゃあねと一言言い残すと、カーテンの外へ出て行った。
ゴッドイーターは体内に投与された偏食因子の影響もあり、傷は普通の人間よりも傷が治りやすい。でも無理をきたせば傷の治りが遅くなるのも当然だ。1日くらいはこのベッドで休まなければならない。
ヴェノム状態のせいで体力がギリギリ底を尽きかけて戦闘不能寸前になってぶっ倒れたときは、リンドウたちはかなり慌てていたものだ。
「大丈夫か、ユウ」
ふと、誰も見ていないはずなのに男の声が聞こえてきた。
「…いきなり出てくるもんじゃないでしょ。まるで幽霊だ」
しかしユウは驚かなかった。その声の正体を知っているのだから。
「失敬な。私はこれでも生きているんだぞ」
人形となってしまった、忘れ去られた英雄…ウルトラマンタロウだ。
「まぁそれはともかくとして、ウルトラマンとしての真の初陣、お疲れ様。体は大丈夫か?」
「我ながら結構しぶとくてね。でないと壁の外で何年も生きてられないよ」
へへ、とユウは悪ガキっぽく笑って見せた。
「といっても、今日はやばかったな…毒だなんて」
ルミコの治療や薬のおかげでよくなっているが、毒に侵されるという滅多にない体験のおかげで、目覚めた直後は気分が悪かった。
「タロウは、あんな危険な奴らと戦っていたの?」
「…ああ。毒…といえば、一度そういった類の敵に負けたことさえある」
負けた。タロウを完全無敵の英雄のようなもの、とまでは思っていなかったが、それでもタロウの人形になってなお放たれているオーラから察して、大概の敵ならいともたやすく打ちのめせるイメージがあったためか、驚いた。純粋なウルトラマンでも毒を喰らうんだな、と。
「しかし、妙だ。私の知る限り…アラガミと怪獣が合成した生物など見たこともない。つい最近までな」
「え?」
その一言に、ユウは耳を疑った。怪獣はともかく、最近まであんなやばそうな奴を見たこともなかった?あれだけの強敵が今、自分たちがこうして生きている時間の間に現れるなんて信じられなかった。
「最近までって、アラガミが現れたときから知ってたんじゃなかったの?」
「私が目を覚ましたのは、ほんの数年前…ごく最近だ。その時にもそれ以前にも、アラガミと怪獣の合成生物は出現していないはずだ。フェンリルがその危険度を知らせないはずがない。だがつい最近まで、私を含めた誰も知りもしなかった。そしてその矢先に…」
ウルトラマンギンガ=ユウが現れた。
同じタイミングで現れた異系の存在同士。こんな、神々の名を持つ魔獣たちに蹂躙されるという、殺伐とした世界でもその異常な存在の影響は間違いなく遠く、深く及ぶことだろう。
タロウは何か妙な胸騒ぎを覚えた。まるで暗闇の中から誰かが自分たちを覗き込んでいるような不気味さを感じた。
(…やはり、『あれ』の仕業なのか…?)
脳裏に浮かぶのは、自分を人形に変えたあの黒い霧を発生させた、巨大な『影』。
「…今は休むよ。考えてたって、きっとわからないや」
「…そうだな」
所詮わからないことだらけのタイミングでの憶測など、確信に変わることはない。それ以上にユウの回復が望ましかった。
「ゆっくり休め、ユウ。何か必要なものはあるか?」
まるで入院した肉親に語るような物言いに、ユウは苦笑した。
「タロウって…いつから僕の保護者になったんだよ。それに気持ちだけでいいよ。人形が動くなんて、普通に考えたらただの怪奇現象じゃないか」
「私は妖怪か!?」
彗星神獣ドラゴートが率いるアナグラの群れの襲撃から数日経過した。
あの日、アナグラは大きなダメージこそ負ったものの、決定的壊滅は免れた。ゴッドイーターたちの奮闘もそうだが、一番の要因といえば、やはり例の光の巨人の存在だろう。
コードネーム『ウルトラマンギンガ』。
以後、ユウやコウタが放った言葉を元に、巨人の名前はそれで定着し、早速アナグラの各区画に設置されている共有端末『ターミナル』の『ノルン』のデータベースにも記録された。
外部居住区、内部共にギンガの話でしばらく持ちきりとなっていた。
「一体あの巨人はなんなんだ!」
「新種のアラガミなのか!?」
「けど、我々を襲わなかったぞ。それどころか…俺たちを襲うことなく…」
「んなのただの希望的観測だろ!」
影響はもちろんゴッドイーターたちにも及んだ。
一体あの巨人はなにものなのか。もしかして自分たちを救いにきてくれたのか。それとも新たな人類の脅威なのか。
ギンガの活躍を賞賛するもの、疑惑するものに人々は別れた。
「ひとまず落ち着いてください。例の巨人については、我々も必ず調査し皆さんに納得できる返答を約束いたします!」
あの事件の直後から数時間の間、アナグラのエントランスに殺到する住民たちの一部を、なんとかフェンリルの一般職員たちが落ち着かせようと図るのに手を焼かされたそうだ。
傷も毒も治ってから、ユウはいくつかの新人向けに用意された低難易度任務をこなしていった。以前も遭遇したオウガテイルやザイゴートなどを相手にしてきたが、訓練の成果もあって小型アラガミ程度なら容易く手玉に取れるまでになっていた。
「どうだね、例の新型君は?」
支部長質にて、ヨハネスはツバキから、ユウの訓練や任務に関する報告を聞いていた。
「まさに天才…というべきかもしれません。神機使いになった人間というものは、最初はアラガミへの恐怖におののくあまり、自分や仲間を死に導くことが多いのですが…」
「彼の場合は、それが一切ない…と」
「寧ろ仲間の生存率を高めています。以前藤木コウタと組ませてミッションに当たらせた際も、パートナーをしっかりサポートし、五体満足でミッションを成功させています」
「そうか、それはよかった。彼の成長は目覚しいものだ。この調子でさらに育っていけば、この極東も安泰だな」
「ですが、優れた人間ほど早い段階で殉職するケースも少なくありません」
「そうだな…」
優秀であることは人間誰もが求めるもの。だがそれだけに、多忙になることも違いない。ゴッドイーターのような命を張る仕事の場合だと、求められるあまり危険な任務にも借り出され、最悪死亡する。
ツバキの弟であるリンドウはこれまで長く神機使いを続けてきた最古参なのだが、我が弟ながら良く生きてこられたものだと弟の悪運の強さを実感する。その悪運を他の誰かにも分けてあげたいほどだ。
「だがこれからもリンドウ君や神薙君のような人材を見つけ育てていくことは重要だ。全ての人類をアラガミの脅威から救うために。来るべき…『エイジス計画』の完成のために」
「…では、私はこれにて」
「ああ、ご苦労」
ツバキは最後に一度敬礼し、支部長室を後にした。
彼女が去ったのを見計らい、ヨハネスは端末を使い、サカキ博士に連絡を取った。
「ペイラー。前回の防衛任務で回収された例の人形について何かわかったか?」
『そうだね…この人形にも生命力があるのは共通しているが、あまりわかったことはないね。もう少し時間が必要だ。
とはいえ、呼び名がないと。仮にこれらの人形を「スパークドールズ」と呼称しよう。例の巨人の情報と共にノルンにアップロードしておくよ』
「…できれば本部の連中に気取られないようにしておきたいな」
『そうだね。秘密主義な連中のことだ。血眼になってでも研究材料として欲しがるだろうね。そして…研究結果を全て独占する』
ふう…とサカキはため息を漏らした。
フェンリル本部はヨーロッパ方面に置かれている。だが本部は自分たち以外の事情についてはほぼ無関心な上に、噂では権力者同士の権力争いという醜い争いを続けていると言う話だ。
『まあなんにせよ、時間は必要だ。あの巨人共々、データがほしいな』
「頼む」
『それにしても…』
サカキはふと、言葉を一度途切れさせてから、もう一度口を開く。口調が昔を懐かしんでいるようだった。
『未知なるものに触れる。あれ以来かもしれないな、ヨハン。
私と君、そして「彼女」と共に、オラクル細胞を研究していたあの時のことを』
「…ああ」
そうだな、とヨハネスは呟く。
その脳裏に浮かび上がったのは、現在よりも若かった頃、ただの研究員だった自分とサカキ、そしてもう一人…『彼女』と共にオラクル細胞の研究をしていたあの時のことを。
その時は、心の大半がまるで、悪友たちと共に街を行く少年時代のように探求心に溢れていたものだ。そして今も、それが年甲斐もなく蘇えろうとしている。あの巨人、ウルトラマンギンガが、それを思い出させてくれている。
(ウルトラマンギンガ…か)
「にしてももったいなかったなユウ!あの時もっと早く戻ってきてたらウルトラマンの活躍を名まで見られたのにさ!」
「別にいいよ。それよりも生き残れたことの方が大きい。リンドウさんもそう言ってたし」
アナグラの新人区画に用意されたユウの部屋。
コウタが以前のミッションの時のことを思い出しながらユウに言うと、対するユウは少し苦笑気味に返した。
実はあの巨人こそが自分だったのだから。見に行くというレベルの話じゃない。
ただ、自分の正体についてはタロウから『決して誰にもばらしてはならないぞ』と念押しされた。無論ユウもそれを重々承知していた。大体ばれてしまった時の想像はつく。
フェンリルの職員に捕まる、または支部長などのお偉いさんからのお呼び出しを食らう。
次にメディカルチェックを強制され、果てはそのまま自分と一体化しているウルトラマンの秘密の解明のために解剖されて…要はフェンリルからモルモットにされてしまうということだ。フェンリルからの嫌がらせなんてまっぴらごめんだ。
「それにギンガに助けられたって言ったでしょ?ちゃんと見てたんだ」
「え、マジ!?」
「マジって…僕はあの時ヴァジュラとコンゴウ2体に追い詰められてたんだよ?新人の僕らが生き残れると思う?」
「…確かに無理だな」
自分が同じ状況に陥った時を想像してコウタは青くなる。大型アラガミの中でも代表的なヴァジュラと、まだ新人の自分たちが単独で相手にするには難しい相手、コンゴウ。囲まれて生き残れる自信は正直無し。
「やっぱりみんな、驚いてるよね」
「そりゃー、あんなでかいヒーローが出てきたらみんな驚くだろ」
「コウタは、ウルトラマンを信じてるんだ」
「当たり前だろ?お前のこともあるし、なんたってあのアラガミを倒して俺たちを助けてくれたじゃねえか!頼もしい味方なのは間違いない!へへん、俺の勘は当たるんだぜ?」
「ホントかな…?コウタの勘って当てになる感じがしないけど…」
「ひっで!!」
コウタはとても離しやすい相手だった。年齢は15歳、ユウよりも3歳年下だが、その差もまるで感じられない。なおかつまっすぐで一本気な節がある。同じ新人同士で、自分の正体がそれであり飽かすことはできないとはいえ、ウルトラマンを信じてくれている。これから仲良くやっていけそうだ。
「にしてもコウタ、ちょっとお菓子を食い散らかしすぎじゃない?」
「え?あぁ堅いこと言うなって」
ちなみに二人がいるのは、ユウの部屋だ。コウタが親睦を深める目的を兼ねて遊びに来ていたのだが、菓子のカスはできれば散らかさないで欲しいものだ。悪い奴じゃないのだが、コウタはあまり行儀がよろしい方じゃない。
「…そんなんだから自分の部屋のゴミ袋片付けられないんだよ」
「う、そ…それは関係ないだろ」
そう言われてコウタは一時息を詰まらせる。
配属され、訓練を受けてからの早数日、コウタの部屋は本人のルーズさが災いしたのか早速ごみ屋敷の卵になりつつあった。一度部屋を見に行った時、ゴミ袋が部屋の隅に、まだ洗ってないままの皿が流しに山積みになっていた。
(最も、僕も昔は片付けられなかったんだけどね)
数年前の全てを失った『あの日』以来、一方で自分はなるべく部屋を片付けるようにしている。しばらく前に物品紛失を防ぐために部屋を散らかさないように片づけを義務付けた。もっとも、自分には監視役としてタロウが目を光らせていることもまた、部屋が片付いている要因となっている。
「ん…コウタ、それなに?」
ふと、ユウはコウタが腰にくくりつけていたものに注目する。
「ああ、これ妹がお守りに持っていけって」
それに気がついて、コウタはそれを手に取る。それは彼の顔を象った手作りのストラップだった。ボタンが彼の目の位置に、特徴的な帽子も被っている。
「なかなかかわいいだろ?今度の休暇にはお返しにお土産いっぱい持って帰ってやるんだ」
「…」
「ユウ?」
コウタはふと、ユウの顔が奇妙に暗くなっていたことに気づく。
「おーい、聞こえてるかー?」
「え?あ、ああ…うん」
コウタに名前を呼ばれて我に返ったユウは、適当に頷いて見せた。
「どうかしたか?」
「なんでもないよ。気にしないで」
わざと笑みを見せ、コウタの気をそらした。
と、ここでユウの胸ポケットに仕舞われた携帯端末がバイブレーション機能の元振動を発し始めた。ユウは端末を手に取って通信に出る。
「はい、こちら神薙」
『ユウさん、そろそろミッションのお時間です。コウタさんとご一緒にエントランスまで来てください』
通信先はオペレーターのヒバリからだった。
「あ、はい!すいません、わざわざ通信まで…」
『これもお仕事ですから。お気を付けて』
ぷつん、と通信が切れると、ユウはすぐに立ち上がった。
「コウタ、任務だよ」
「お、時間か。うし!」
コウタも立ち上がり、二人はエントランスに向かった。
そんな二人の姿を、棚の上に部屋の飾り物のフリをしているタロウが見送っていた。
(ユウの今の表情…もしや…)
ユウの過去について、一つの察しをつけた。タロウは、ああいった顔を地球防衛の任務に就いてた時期に幾度か見たことがある。特に、一度自分がウルトラマンタロウであることを捨て、地球人『東光太郎』として生きて旅をする直前の戦いの前に、とある少年が見せた顔とよく似ていた。
が、自分の立場だったらあまり触れられたくないことだと考え、タロウはひとまず気づかなかったことにした。
エントランスに降りると、リンドウとソーマ、そしてもう一人サングラスを駆け、刺々しい刺青を刻んだ裸体の上半身の上にジャケットを羽織ると言う派手な格好をした青年が待っていた。
「よお新入り共」
リンドウが二人がやって来たのを見て、二人に向けて手を振る。ソーマを見てコウタがちょっと気まずそうな顔を浮かべていた。コウタいわく、挨拶をしたらいきなり殴られたというらしい。
「あ~あ。ソーマ、君がそんなに憮然としているせいで、新人君が怯えてるじゃないか」
「…黙れ」
ちょっとおどけた言い方をするサングラスの男に、ソーマはチッと露骨に舌打ちする。
「リンドウさん、この人は?」
「おおそうだ、紹介するか。こいつは…」
ユウが、そのサングラスの男は見たことがなかったので詳細を聞こうとリンドウに尋ねようとすると、サングラスの男は手をかざしてそれを遮った。
「リンドウさん、僕に自己紹介させてください」
リンドウはそれを聞き入れて一歩下がると、サングラスの青年は代わりに一歩前に出て、早速自己紹介した。
「やぁ、君たちが新しく配属された新人君たちだね。
僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。
君たちもせいぜい僕のように華麗に戦えるようになってくれたまえ。できうる限り僕も先輩として君たちをサポートしようではないか!」
エリックと名乗ったこの青年が白い歯が見えるほどのさわやかフェイスを見せた途端、どこからかキランッ!と擬音が、白い歯の放つ光と共に放たれた…気がした。
「あ、ありがとうございます…神薙ユウ、です」
「藤木コウタっす…」
なんだろう。この人は…と二人は思った。
派手な衣装もそうだが、言動からしてどこかナルシストさに溢れている。そう、自分を『美しい人』として完全に認識している。
「今回のミッションはお前ら二人とエリック、ソーマの4マンセルだ。討伐対象は鉄塔の森にいるコクーンメイデン。あのエリアにうじゃうじゃ出ているって話だ。
奴らは突然地面から現れる上に、ジャミング能力を持つ個体もいる。壁外の人間だけじゃねえ。ゴッドイーターのミッションにも後々弊害を及ぼすが、個体の力は弱いからお前たち新人二人にも討伐任務を与えることになった。」
「あれ、リンドウさんは?」
てっきりこの場にいるから、リンドウも任務に同行すると思っていたコウタだが、リンドウはおどけた様子で首を横に振って見せた。。
「悪いが俺は今回デートのお約束だからな。お前らだけで行って来い。ソーマ、あんまし新人二人をいじめんなよ」
「うるせぇ、さっさと行け」
冷たく言い放つソーマに、リンドウはやれやれと肩をすくめるも、いつも通りなのかすぐにその場から一度去って行った。
「さて、任務の概要は聞いていた通りだ。僕たちは今から『鉄塔の森』へ行く。人類がかつて栄華を誇っていた時代に稼働していた廃工場なんだが、そこには無粋にも神の名を騙る化け物たちに支配されている。
さて、対象のコクーンメイデンについてだが、すでに勉強はしているかな?」
「へ?えっと…」
エリックからの問いに、コウタはいきなり質問されるとは思っていなかったのか、言葉を濁した。
ユウとコウタはまだ新人だ。そして一人は新型、もう一人は旧型とはいえ、ツバキが使っていた強力にチューニングされている神機。それを使える人材は鍛えられる分だけでもしっかり鍛えておくことが急務。当然アラガミやこの世界に対する知識も蓄えることも重要だ。そのため、ユウとコウタには、サカキ博士からの特別講義への参加が義務付けられている。
しかし…本当なら何か知っているはずのコウタが先ほども語った通り言葉を濁している。
「す、すいません…わかんないです…」
(そういえば、コウタって講義中はうとうとしてばかりだったよな…)
ユウは内心では呆れていた。つまり、コウタは居眠りしていたのだ。ノルンのデータベースもほとんど見てもいないだろう。
なら代わりに自分が答えよう。
「確か、ノルンのデータベースによると、接近戦に持ち込むと奴らの体の中の針が飛び出す。遠距離から構えているとオラクルエネルギーの弾丸を発射してくるので注意されたし…」
「へえ…ユウってちゃんと勉強してるんだな」
「当たり前だろ、命がけの仕事なんだ。コウタこそちゃんとデータベース目を通さないと」
「あはは…見ようとは思っていても、ついバガラリーのアニメ見ちゃうんだよな…」
それでは本末転倒だ。ユウは不真面目加減の強いコウタに呆れるも、続けてコクーンメイデンについて話を続ける。
「でも、一つ弱点がある。それは、動けないことですよね」
「そう、奴らは移動することができない。植物のように根を張り続けている。いくら遠距離攻撃を持っているといっても、僕たちゴッドイーターの銃型神機と比べると遠く及ばない。
僕とコウタ君は当然遠距離から、ソーマは陽動。新型君には遊撃を担当してくれ」
「僕が遊撃、ですか?」
「そうだ。君の持つ新型神機は銃と剣の両方を持っているそうだね?」
「はい」
「だから新型の特性を生かし、臨機応変に接近戦と銃撃に切り替えながら立ち回って欲しい」
「り、了解!」「わかりました」
「ソーマもそれでいいね?」
「…あぁ」
エリックの作戦については文句はない。各員の神機にあわせたポジション配置だ。二人は承諾の意を込めて敬礼する。ソーマも直視せず、エレベータ前のソファに座ったまま頷いた。
ふと、コウタが何か質問があるのか挙手した。
「あの、エリックさん。万が一別のアラガミが現れたらどうするんですか」
「その場合は邪魔な奴だけを叩くようにするんだ」
「え?目に付いた奴から倒した方がいいんじゃ…」
「あまり深追いしすぎると体力の無駄遣いが伴い、かえって自分を危険に晒してしまう。それに持ち帰れる素材の量にも限界があるしね」
「そっか…わかりました」
何かの狩ゲーみたいにステージ中に落ちた全てのアイテムを拾えるなんてことは無理だ。
「さて、これ以上時間はかけられない。そろそろ行くとしよう」
4人は出撃ゲートに搭乗、壁の外へはフェンリル印のジープを用いて出撃した。
車の運転はソーマが担当。エリックが助手席でユウとコウタの二人が後部座席に搭乗。4人が愛用する神機は専用のアタッシュケースの中に収納されている。この状態なら適合者以外の人間も神機を安全に持ち運ぶことができる
壁の外は、やはり荒れ果てていた。窓ガラスも割れ、壁にひびが入り、砂と泥、雨で汚れ、崩れ落ちたビルがあちこちに並んでいる。何度も見てきたが、気持ちのいい光景ではない。アラガミが地上を理不尽に食い荒らした結果だ。
タロウの話だと、ウルトラマンはこの地球を半世紀以上も守ってきたらしい。彼の教え子を最後にウルトラマンによる本格的な地球防衛は途絶えてからしばらくたった時期に、タロウたちが人形にされてしまい、その間に地球はたちまちアラガミによって見ての通りになってしまった。一族でずっと守ってきた地球の変わり果てた姿に、どれほど絶望と悲しみを味わったことだろう。自分たちの知っている人間もアラガミによってウルトラマンに関する情報そのものが抹消されているため、ほとんどいない。
『ずっと守りたいと思っていた地球の変わり果てた姿を見て、自分がのうのうと生きている』という事実。物悲しくならないはずがない。
その気持ちはユウにも通ずるものがある。ユウもかつて…。
「ユウ、そんなシケタ顔すんなよ。見てるこっちまで気落ちするだろ」
コウタがユウの沈んだ顔を見かねて声をかけてくる。呼ばれて我に返る
「え、ああ…ごめん。ちょっと物思いにふけっていた」
「さっきも似たようなことがあった気がすっけど…老け込んだ?」
「まだ18だよ!」
苦笑いを浮かべながらユウは抗議した。いくら年下とはいえ、せいぜい3歳違いだ。老人扱いは勘弁してもらいたい。
「そっか、君もか」
話を聞いていたエリックが呟く。それを聞いたユウが彼の方を向く。
「そうかって…エリックさんも?」
「エリックでかまわないよ。とはいえ、あくまで今年で18だから、今はまだ17だ」
「へえ…」
「ゴッドイーターでいられるのは若い世代の間だけだ。その間に、華麗にアラガミを討ちつつ生き延びないとね」
華麗に、と言う言葉をどこか強く強調しながらエリックは言った。どこからかキラリ、と擬音を響いてきそうだ。
エリックの言う、若いうち。ゴッドイーターは実際10代前半から、長くて20代後半の間の若い間しか続けられない。長く戦いすぎてしまうと、体内に投与された偏食因子がオラクル細胞に変異し、アラガミ化を招く可能性があるのだ。まだ若いツバキが既に引退したのもそのためで、彼女の腕輪がテーピングされて封印されているのもそのためだ。
「そうだ。是非聞いておきたいことがあるんだ。
君たちはゴッドイーターとして戦う理由があるかな?」
「俺は、母さんと妹を…家族を安心させてやるためです!」
妹…それを聞いてエリックはサングラスの奥に隠れた瞳の色を変える。そしてふ、と柔らかな笑みを浮かべ、今度はユウのほうを向く。
「ユウ君。君は?」
「僕は…」
ユウの脳裏に、これまでの人生が走馬灯のように高速再生される。家族を失い、一人流浪にさまよい、その果てに女神の森にた。そして旧降星町の鎮魂の廃寺で出会った光の超人、極東への配属と神機使い・ウルトラマンとしての戦い。
その果てに見出したユウの望みは、彼にとってわかりきったことだった。
「もう誰も失いたくないから。そして自分にできる何かをするため…後は…」
少し言葉をためた後、ユウは自分の成し遂げたいことを口にした。
「夢があるからです」
「夢?」
「昔、地球人は月に行ったことがあるそうなんです。
僕もいつか当時の彼らのように、空の上…宇宙を、あの雲の上を自由に越えていきたいんです」
現在は空の上さえもアラガミに支配された、はるかかなたの無限の世界を見上げながら、自分の夢を語るユウを見て、エリックとコウタはポカンとしていた。
「あ、あれ…?何かおかしいこと言った?」
ユウは二人のリアクションを見て気まずさを覚えた。今の夢をいつぞやの日にタロウに聞かせた際は『素晴らしい夢じゃないか!』と褒めてくれていたせいか、今の反応に戸惑いを覚える。
「い、いや…別におかしいとは言わないけど、とんでもないこと言ってますよね、エリックさん」
「でも、僕は素敵な夢だと思うな。今の時代、そこまでの夢を抱ける人間は寧ろ貴重ですばらしい。僕はユウ君の夢を心から応援するよ」
「エリック…」
最初はちょっとナルシストさをさらけ出しまくりな人だとは思っていたが、この人はそれ以上に輝いているものを持っている。自分を高く見ている一方で、決して他人を侮辱もしなければ否定もしない。相手が真剣に思っていることを前面的に肯定してくれている。
エリックは、今度は運転席のソーマの方を向いて彼にも問いかけてきた。
「そうだ。ソーマ、君は?この機会に何か言ったら…」
「…興味ねえな」
あっさりと受け流された。
「それと、ユウとかいったか?」
運転席のミラー越しにユウの姿をちらと見ると、次の瞬間辛辣な言葉を彼に向けて突き刺してきた。
「どんな覚悟でこんなクソッタレな仕事に着いたのかと思えば…そんな陳腐な幻想が理由だったのか」
「何…!?」
「こんなくそったれな世界で甘いだけの夢なんざ抱くもんじゃねえ。後で後悔するぞ」
ユウはそれを聞いてどこかカチンと来た。だが確かに自分でも夢見がち過ぎているところはあるとは思う。でも、それでもユウはかなえたいと強く願っている。なんとか心の中で我慢することはできた。
「ッ!!あんた…!!」
しかしそれ以上にコウタがソーマの物言いにムカッと来て、今が車の上であることも忘れて詰め寄ろうとする。だがその前にエリックが右手を掲げ、コウタの手を阻む。視線だけで「それ以上はいけない」と伝え、コウタもその意味に気づいて渋々ながらも引き下がった。
「ソーマ、それは流石に言いすぎじゃないか?こんなご時勢だからこそ、人は夢を見るものじゃないかな?」
「…知ったことか」
全く謝りもしないでソーマは冷たく引き離す。
「それより、もう目的地だ。無駄話するなよ」
淡々と話すソーマに、エリックはやれやれとため息を漏らした。
それからしばらく経過した後、4人は鉄塔の森に到着した。
今回のミッションの目的地の『鉄塔の森』。
人類が栄華を誇っていた時代では近隣地帯に電力を与えていた発電施設だったそうだが、アラガミによって世界が支配された現在は、施設内にも植物やコケが生え、濁った水で地下が浸水しているなど、ただの廃墟と化している。
四人は直ちに車から降りて、ユウたちはケースから愛用の神機を取り出す。エリックも愛用の神機はブラスト系の『零式ガット』を取り出し、所持の弾丸の最終チェックを行う。
「コウタ君、斬弾の数はしっかり把握を。いざと言うときに撃てなくなってアラガミに返り討ちにされたりしたらちっとも華麗じゃないからね」
「は、はい!」
華麗さについてはさておき、確かに弾の数のチェックは必要だ。コウタと、それに続いてユウも弾の数をチェックしようとする。ユウの神機の銃形態もコウタと同じアサルトだ。弾切れについては、オラクルエネルギーが0でも発射できる無属性の連射弾さえあれば問題はない。とはいえ、威力が同時に少なく敵の弱点も突けないので確認は必要だ。
しかし、一方でソーマが仲間たちが弾の数を調べている間に、一人で歩き出した。
「ソーマ、一人でどこへ行くんだ!一人じゃ危ないよ!」
警告を入れるユウだが、対するソーマはさっきと同じように冷たく言い放った。
「うるせえ。死にたく無かったら俺にかかわるんじゃねえ」
そういうや否や、ソーマは愛用の神機『イーヴルワン』を担いで鉄塔の森のエリア内に入ってしまった。
(ソーマ…)
あれだけ人を突き放そうとする態度。
そのときの彼の目は、酷く冷たかった。まるで障るものすべてを凍らせる氷のようだ。なぜああまで他人を突き放すのか…いや、ユウにはどこか覚えがある目だった。
ゴッドイーターとなる以前に壁の外で生きていた頃、。
「あいつ…何様なんだよ!いくら先輩だからって、ユウの当たり前の忠告だって無視してさ!」
コウタは酷く憤慨する。最初に会ったときは、自分があがってしまったあまり思わず質問攻めしてしまったとはいえ、行き成り「うるさい」の一言で殴りつけてきたほどだ。ユウの夢についても、どこか浮世離れはしているとは思ったが、あそこまで冷たく言い放つなんて酷すぎる。
「ああ、ソーマは僕がついていくよ。それと…誤解はしないでやってくれ。彼はただぶっきらぼうなだけで、心優しい男なんだ」
「あいつが?どーかな…」
エリックのフォローをコウタは全然信じることができない。エリックはコウタの反応を想定済みだったこともあり、頬を指先でかきながら苦笑いを浮かべた。
「さて、ソーマを一人にさせるのは美しくない。僕たちも行こうか」
「はい」「了解」
先輩として二人を仕切るエリックに同意し、三人はソーマを追って鉄塔の森に侵入した。
そのとき、彼らは気づいていなかった。
鉄塔の森の廃墟と化した建物の上より3人を…特にユウに注目する視線があったのを。
視線の主は、その手にあるものを持っていた。人形…サカキが『スパークドールズ』と名づけたものを。その人形は、二つの尾を頭に持つ怪物を象っていた。視線の主は、別の方を振り向く。それと同時に、地面からちょうど等身大の黒い影が生えて来た。現れたのは、さび付いた金属のような茶色く汚れたような体を持つ、かの旧時代の拷問器具『鉄の処女(アイアンメイデン)』のような姿を持つ異形の存在。
今回のユウたちのミッションターゲット、コクーンメイデンだ。
「くっくっく…」
見せてもらうぞ…。
そう呟くと、視線の主は左手に人形を持つと、もう片方の手に、あるものを取り出す。
そこに握られていたのは、黒い短剣のようなものだった。
鉄塔の森に新入後、エリックはソーマの元に向かった。
鉄塔の森の最奥のエリアは海に面し、ちょうど8の字を描くようなエリアだが、中央が濁った水溜りで浸されているくらいで全体の見晴らしがよかったので、見つけるのに時間は掛からなかった。
「ソーマ、独断専行は華麗じゃないぞ」
エリックがたしなめるように言うが、ソーマは振り向こうともせず知らん顔だった。
彼をフォローしてきたエリックには悪いが、コウタはやっぱりあいつを殴ってやりたいという衝動に駆られる。一体仲間を何だと思っているのだ。
「それより、敵は?」
ユウが険悪な方へ行きがちの空気を紛らすために、ここに討伐対象のコクーンメイデンがいるとか言うが、今のところ姿が見当たらない。
「見たところ今のところは一体も出現していないね」
エリックが神機を構え、周囲を見回る。
「えっと…ヒバリさん、レーダーに反応は?」
コウタは平静さを戻し、アナグラのヒバリに連絡を取って確認をとってもらうと、すぐにヒバリから返答が返ってきた。
『ターゲット反応はありません。ですが、突如前触れも無く小型アラガミが出現する場合があります。注意してください』
地面から前触れ無く現れる。まるでグロテスクアニメのワンシーンのような絶望感がある。対応が遅れれば、その直後に起こるのは目も当てられない残酷な一幕。考えただけでもゾッとする。コウタは足が小刻みに震えている。以前はゴッドイーターじゃなかったとはいえ、外への行き来に慣れていいたユウとは違い、彼は壁の外に出る回数は数えるほどしかないのだから仕方ない。
「コウタ。大丈夫?」
「だ、大丈夫…なんともねえって…」
強がってこそいるが、表情から恐怖の色が全く消えていない。しかしコウタは続ける。
「俺がここで退いたら、母さんとノゾミの方にアラガミが来るかも知れねえ。そんなの、俺には耐えられないから…」
なけなしの勇気を振り絞りながらコウタはぎゅっと神機を握り締める。
タロウは言っていた。恐れるのは当たり前だ、だがそれを知り理解した上で乗り切ること。それが勇気なのだと。
その勇気こそ、ウルトラマンにさえも匹敵する、人類が持ちうる貴重な力なのだと。
その勇気は、ユウにもある。だから鎮魂の廃寺で、サクヤを助けるためにスタングレネードだけで飛び出していけた。
「…!」
エリアの北からぐるりと西側に差し掛かったところで、エリックが神機を構える。西にある高台から何かが這い出てきた。
ターゲットのコクーンメイデン、それも5体だ。
「さ、早速5体…!」
コウタは驚きながらも銃口を向けた。
「よし、僕とコウタ君が援護する。ユウ君とソーマは接近してあの個体を!」
「はい!」
ユウは神機を銃形態に切り替え、コクーンメイデンに向けて連射しながら近づいていく。ソーマは肩に神機を乗せてユウよりも先に近づき、、コウタとエリックも二人を援護すべく援護射撃して二人をサポートする。
近づいている際にコクーンメイデンの頭が割れだした。その裂け目から数発の光の弾丸が飛ぶ。オラクルエネルギーによるエネルギー弾だ。警戒して一瞬立ち止まり、装甲を展開しようとするユウ。しかし一方でソーマはかまわずに突っ込んで行った。
(え…!?)
驚くユウを他所に、ソーマは神機の刀身を引きずりながら全速力で近づいていくと、肩に担いでから先端をコクーンメイデンのほうへ突き出す。すると、彼の神機の黒い刀身が捕食形態に代わり、一体のコクーンメイデンを一飲みにするようにかじり取ってしまう。
と、ここでソーマの体に変化が起こった。一体のコクーンメイデンを食らった途端、彼の体に光が灯った。
「おい、どけ」
「え?」
ソーマがさっさとどくように、目を見開いたままのユウに言う。
彼がまとうその光からは、ほとばしる力の波動があった。ソーマはその光の力を刀身にこめ、身の丈異常もあるその大剣を一振りする。
「うわ!!」
あまりに大振りながらも力に溢れたその一撃に、危うくユウも巻き込まれかけるも、ソーマに言われたとおり上に飛び上がって回避。
その一振りは、ソーマの目の前にいたコクーンメイデンたち4体のコクーンメイデンを上下の二つに切り裂いてしまった。
そのたった一瞬の一撃だけで、ノルマの6体の内5体を撃破してしまった。
「すげ…」
ユウだけじゃない、コウタも今のソーマの圧倒的な力に驚嘆した。
(ぼ…僕、何もしてない…)
しかし結果としてユウは何もしなかったに等しかった、というか全部ソーマにいいところを持って行かれてしまった。今回のミッションは新人向けの簡単なミッションだ。コクーンメイデンも新人のゴッドイーターでも注意すれば楽に勝てるレベル。だがそれを…第1部隊の中でリンドウに匹敵する実力者でもあるソーマが全部片づけてしまった。
「さっさとコアを回収するぞ」
「……」
ソーマはジロッとユウを睨むと、ユウは声を出すことができず、黙って死体となったメイデンのコアを、捕喰形態を展開して回収した。
「そ、ソーマ…簡単なアラガミなんだから新人君たちに譲るべきじゃ…」
改修が終わったところで、エリックも震えて渇いた笑い声で注意を促す。
「そいつらのお守りなんざ面倒なだけだ。俺のいないところで勝手にやればいい」
しかし、ソーマはまたしても反省の色を露わにしようともしなかった。そのまま残り二体のターゲットの討伐に一人歩きだしていく。
「いい加減にしろよ!!俺たちはチームなんだぞ!仲間同士の連携が重要だってリンドウさんからも言われてるだろ!」
いくらなんでもここまで来たらエリックの静止など意味を成さなくなり始めていた。コウタがこめかみに青筋を立てるほどキレ、ソーマに向かって怒鳴り散らした。
「仲間…?」
ソーマはコウタの方を振り返る。
「そんなにお友達同士でくっつきたきゃ勝手にしろ。俺は残りの2体を探していくぜ」
なんと申し訳なさそうな顔を浮かべるどころか、馬鹿にしてくるように冷笑したのだ。そう言って、ソーマはコウタからしれっと視線を背け、鉄塔の森の中央部にある、緑で覆われているエリアへ歩き出した。
ブチ!!!
コウタはもう我慢ならなかった。あまりに身勝手で傲慢なソーマの言い分に、後で頭痛が響いてきそうなほど頭に来た彼はソーマに拳を振りかざそうとした。
「コウタ!!」
流石に殴りかかってしまえば始末書どころの問題じゃない。下手したら今後の任務にだって響く。ユウが間一髪彼の右腕を掴んでとめることに成功した。
「離せよユウ!あの糞野郎に一発ぶん殴っておかねえと……!」
ユウに止められなお怒りを抑えきれないコウタに、エリックも説得に入った。
「コウタ君、気持ちは痛いほどわかる。けど君はたった今、仲間同士という言葉を使った。その仲間に拳を向けるのは美しくない」
自分の言った言葉を思い出し、はっとなったコウタは悔しげに拳を下ろした。
「なんなんだよあいつ!!本当にいい奴なんすか、エリックさん!?」
しかしソーマへの怒りは晴れなかった。
「はぁ…ソーマ、君って奴は…」
流石にエリックも、今回のソーマの勝手さ加減には目を閉ざしたままでいる訳に行かない。帰ったらツバキたちに報告しなければならない。
「実をいうと、ソーマの今回みたいな態度はチームを組んだ時はほぼ毎度のことなんだ。特に第3部隊のシュン君とカレル君とは、ほぼ水と油みたいなもんだよ」
「よ、よく付き合いきれるね…」
ユウもああまで仲間の存在そのものを煙たがる人間は初めてだ。そしてそんな男に付き添うエリックのような人間も珍しく思える。
ソーマはこれまで、どういうわけか問題行動ばかり起こしている。実力は前述のとおりリンドウにも匹敵するとは言うが、その度重なる問題のせいで階級も下のままで懲罰房入りの回数も多い。しかもその懲罰房は彼が入るたびにボロボロになると言う始末。
「まあでも、付き合いが長くなった僕でさえ未だにどうにもなっていない…」
どうしたものか…とエリックは深いため息を漏らした。
――――…て…く…
「!」
ふと、ユウの耳に何かが聞こえてきた。
「どうしたんだい?」
耳を済ませだしたユウにエリックが尋ねる。
「人の声が聞こえる…!」
「声?」
エリック、それに続いてコウタが耳を澄ませる。だが、今のところ何も聞こえていない。
「空耳じゃないの?」
「うぅん。確かに聞こえて…」
と、その時だった。
ガシャンと、ユウたちが鉄塔の森への侵入に使った入口付近の廃墟の建物の扉から、誰かが飛び出してきた。
「うわああ!!助けてくれえ!」
数人ほどの、人間の集団だった。そして、ユウたちさえも焦らせる影が、ガラスを飛び散らせながら建物を突き破って現れる。
「オウガテイル!!」
「なんであんなところから!?」
驚くエリックとコウタ。まずい、ソーマも今の音で気付いただろうが、ここからソーマの位置は遠い!
「うおおおおおお!!」
自分がいかなければ、ユウが真っ先に神機を構え、オウガテイルに向かって走りこみながら銃撃を仕掛けた。
「じ、神機使い…」
自分たちとすれ違う形で走り抜けていったユウを見て、建物から姿を見せた集団の一人である男性がユウを凝視する。
このオウガテイルは大したものではない。銃撃を喰らっただけで簡単に怯みきっている。止めに彼は神機を剣形態〈ブレード〉に変形させ、オウガテイルの頭を上から真っ二つに斬り下ろした。
「ハアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!」
ザシュッ!!!
「グゴオオオォォ!…!」
ユウに頭を叩き割られたそのオウガテイルは、地面に顎を下ろす形で倒れ、絶命した。その周囲に赤い池が出来上がった。
「なんでオウガテイルが…それにあの人たち…」
疑問に思っていたユウだが、すぐにヒバリが言ってきた言葉を思い出す。奴らは前触れなく地面から誕生することもあるのだ、と。もしかしたらこのオウガテイルもその誕生例の一体なのかもしれない。
「みなさん、ご無事ですか!?」
エリックとコウタ、そしてソーマが、ユウと建物から飛び出してきた人間の集団に駆け寄ってきた。
「なんでこんなところに人が…」
集団の構成は中年の長身の男性一人、若い男性一人、女性一人、そしてまだ幼い少女の4人構成だった。
間違いない、アラガミ防壁外の難民の一団だ。
「何で…だと!俺達を追い出しておいて、今更追いかけてきたのか!!」
すると、若い男性がユウたちを見るや否や、助けられた身であるにもかかわらずいきり立ちだした。その反応を見て、エリックは察した。
「もしかして、あなたたちは…」
「ああそうだ!追い返されたんだよ!極東支部からね!」
「え!?」
それを聞いてコウタは驚いた。極東支部から追い払われた?
しかしユウには覚えがあった。
「パッチテストを、通れなかった人たち…」
パッチテスト。それは各支部のアラガミ防壁を通る際に行われる、神機に適合できる人間であるかを確かめるものだ。もし集団だった場合、その中の一人だけでも通ることが出来れば、その集団は防壁の中への移住を認められる。ユウも、パッチテストを通ることができたから壁の中に入れてもらうことができたのだ。だが、この人たちは…。
(誰一人、受からなかったんだ…こんな小さな女の子さえも…)
ユウは、集団の中に居た小さな少女を見た。こちらをみて、警戒をしているのか難民のリーダーの男性の後ろに隠れながらこちらを見ている。
フェンリルに対して人でなしと言いたくなるほどの非情さを知る人もいるだろう。だがフェンリル側にも事情がある。彼らが弱い立場の人間に与えられるのは、ユウたちが知る限りでもごく一部だけだ。
以下からは酷な言い方になるが、パッチテストにも通らなかった…つまり、
保護できるのはゴッドイーターになれる素質を持つ人間だけだ。何年経とうがゴッドイーターになれる素質を持てない、役に立てない人間にまで糧食を与える余裕などない。
それならいっそ、役立たずな人間など外に追い払ってそのまま口減らしに当ててしまえばいい。
有能な存在にこそ飯や金を当てた方が効率的だ。
―――無能な人間を救う価値はない…。
過激ではあるが、遠回しにそう言っているようなものだった。
現在は新型神機使いであるユウが、当時パッチテストに通らなかったのは、現在ほどの高性能なテストではなかったこと、またはパッチテストの結果保管されている神機に誰も適合出来ないと判定されたこと、当時は資源・食料の問題などの問題、現在よりもパッチテストの合格ラインがシビアだったからなどが考えられる。
自分も、こういった人たちを何度も見てきた。子供の頃も、ユウも一度はアナグラから追い返されたことがある。小さな子供さえも容赦のない現実。この少女も、現実で見るにはあまりに辛いものを目にしたことだろう。以前の自分がそうだったように。
「さっさと行けよ。どうせ俺たちをアナグラに連れて行ったって通してもらえねえ。かえって惨めだ」
若い男性が冷たく突き放すように言い放った。
「アナグラまでにたどり着くまで、一体どれだけの仲間が死んだと思っているの!なのに今になってかわいそうだから保護しましょうって?」
女性の方も、アナグラを追い払われた恨みを込めて怒りを露わにする。
だが、このまま放っておいていいのか?
せっかく助けられるはずの命を無視してまで。
「エリックさん、なんとかこの人たちをもう一度…」
アナグラまで連れて行ってやれないだろうかと問おうとしたが、それを察したエリックが首を横に振った。
「それは無理だよ、コウタ君」
「そんな…!」
コウタはこのはぐれ集団の人たちを助けてられないだろうかと模索するも、エリックが念を押すように言う。
「一度パッチテストが通らなかったことがはっきりしているんだ。もう一度テストしてもらったところで意味はないよ」
また希望を抱かせようとしたところで、再びパッチテストを通らなかったときの絶望感を味あわせるだけだ。
「でも、こんな小さな子までいるのに、こんな場所に放置するなんて酷いじゃないですか!」
それでも諦めきれずにコウタがエリックに抗議するも、その言い回し方にカチンと来たのか、若い男性がコウタの胸倉を掴んで怒鳴り出した。
「酷いとはよく言ったもんだな、あんた。そんな酷いことをしやがったのは、あんたらフェンリルの連中じゃないか!えぇ!!?」
「………」
コウタはその男性の剣幕に押され、返す言葉が見つからなかった。やっとアナグラという安住の地にたどり着いたのに、それを認められなかった悔しさが露わになっている。
エリックも、なんとかしてあげたいとは思っていた。けど、自分たちにはどうすることもできないのが現実。
でも、いつまでもこの態度のままでいいわけがない。
「すいません、そのあたりにしてください」
そう言いながら、ユウはコウタの胸倉を掴む男性の手を解かせる。
「なんだよ!俺たちは被害者なんだぞ!てめえらフェンリルに…」
「あなた、さっき言いましたよね?『助けてくれ』って。僕たちフェンリル参加の人間が偉そうなことを言える立場じゃないのはわかりますが、だからといってそれが人に助けを乞う態度ですか?」
ユウはこの男性を見て思った。この人は、フェンリル入りする前の自分だ。フェンリルにも事情があることを知ろうともせず、『フェンリルは自分たちの箱庭しか守らない』など、自分たちの都合のいいように歪曲し、ただ自分たちが辛い目にあったがために被害者面を貫き通したまま、駄々をこねるだけ。
過去に自分が相手から酷い目に合わされたらやり返したいのは人間の性の一つといえるが、いつまでもネチネチと同じ態度を取り続ければ、逆に自分たちが気が付かないうちに同じ『加害者』側に立つ、いざというときに今までのいやみな態度が原因で他者から拒絶されることもありうるのだ。
「それに、手がないわけじゃないかもしれない」
「え?」
「女神の森…そこへ連れて行けば彼らを助けられる。あそこは極東支部から追い払われた壁外の人たちが作った場所です。
あそこはまだアラガミの出現例がほとんどない地域です」
「そ、そんな場所があるのですか…!?」
リーダーの男性が話を聞いて目を見開いた。フェンリル支部以外に、アラガミがほとんど出てこなくて、それも壁外の人たちによって建設された場所。魅力的な話だ。
(女神の森…最近、極東でもその存在を認知された、壁外の人間のみで作り出された集落。
だが極東でも知っている人間はほとんどいないし、知れたのもほんの数日前から。とすると…)
「僕もそこで生きてましたから」
ユウは彼らに向かって頷いた。エリックはやはりと思った。彼も元は、たった今保護したこの人たちと同じだったのだと。
「現在僕たちの組織は女神の森への物資輸送を行っています。臨時の作業員としてそのヘリに乗せてもらうことができるかもしれません。」
「本当ですか!?」
それを聞くと、リーダーの男性が目を輝かせる。極東支部への保護を拒絶された身としては、他の新天地が見つかっているというのは大助かりな話だ。
「なに言い出すんですか!こいつらが嘘を言っている可能性だって…」
だが、一度見捨てられたことで強い疑心を抱いているせいか、女性の方は男性に同調して反論する。
「だが、考えてみろ。私たちが生き残るには、この手しかない。一度芽生えたチャンスなら掴みに行くのが一番いいはずだ。
この子だっているんだ。可能性があるなら…それに賭けるしかないよ」
リーダーの男性は、自分の後ろに隠れている幼い少女を見る。少女は怯えた様子でこちらの顔色をうかがったままだ。その子を見て男性と女性は押し黙った。自分たちはともかく、これ以上こんな幼い子供に地獄を見せたくはない。
「ユウ君。掛け合うといっても一体誰に…?」
しかし、助けるというのは簡単だが、パッチテスト不合格者である彼らを女神の森へ運ぶには、許可が必要だ。それも安全のため、ヘリを使うのが理想的。トラックならまだしも、4人乗りの車に乗せられる人数ではないし、ここから女神の森はかなりの距離のはずだ。
すると、次のユウの口から、3人にとってとんでもない人物の名前が飛び出してくる。
「シックザール支部長に」
「支部長に!?」
コウタが思わず声を上げる。エリックも声には出さなかったが驚いている。
これを聞いて、さっきまで黙っていたソーマも口を開き出した。
「おい、何勝手に決めてやがる。たかが新兵一人の意見に、支部長であるあの男が賛成すると思ってるのか?」
ソーマの言うことももっともだ。たった一人の新米ゴッドイーターの意見を聞くほど支部長であるヨハネスは暇ではない。
だが、ユウは決して引き下がろうとはしなかった。
「それは…わからない。でも、だからって、ここで見捨てるなんてできない。コウタ、そうだろ?」
「あ、ああ!俺もユウの意見に賛成だ。パッチテストに通れなかったからって、助けないままなんてあんまりだ!」
ソーマには、今のユウたちがまるで現実を見ようともしないわがままな子供のようにも見えた。それがソーマはさらに苛立たせる。
「さっきソーマはいったじゃないか。『勝手にしろ』って。だったら文句なんて言わないよね?」
「はは、これは君の負けだな、ソーマ」
「…ちっ」
揚げ足をとりやがって。最後に一度だけユウと、からかってきたエリックを睨みつけ舌打ちすると、彼はどうなってもしらんといわんばかりに適当な方を向いて放っておく事にした。
「ひとまず、彼らと車の位置まで連れて行こうか」
エリックの提案で、ひとまず彼らをジープまで護衛することにした。
「ソーマ、二時の方角は?」
「…今のところ、何も見当たらねえ。索敵を続ける」
道中で聞いた、保護した人たちからの話によると、彼らには他にもたくさんの仲間がいたらしい。二手に別れながらいずれ合流するつもりだったらしいが、2か月前を最後に別働隊とは連絡が途絶えてしまったという。
なんて言葉を掻ければいいのか、それがわからなくなってユウたちは黙った。
すると、リーダーの男性にがっしりとしがみついたままの少女は、ユウの顔を見上げていた。
「ん?僕の顔に何かついてる?」
視線に気づいたユウは彼女を見る。
「…お兄ちゃんたち…ゴッドイーターなの?」
「うん。まだ、入隊して間もないけどね」
自分の神機の刀身を見せながらユウは苦笑する。少女は何か言おうとしているが言葉が見つからないのか、もじっとしている。ようやく口を開き、ただ一言、少女は「ありがとう…」とユウに告げた。ただ一言、それだけでもユウは嬉しかった。
「ヒバリさん、支部長に…」
ヨハネスは支部長だ。忙しい立場である以上そう簡単に話しに取り入ってくれるはない。
そして、ようやくジープのところまで辿り来そうになったところで、こちらから回線をつなげられないか、ユウはヨハネスへの通信するたおめ、まずはヒバリへ連絡を取ろうと図った時だった。
ガシャアアァーーーン!!
突如激しい音が鳴り響く。
その音にユウたちは反応する。アラガミが現れたのか?そう思っている間に、彼らの上に暗い影がのしかかる。
「な…!!」
頭上を見上げた彼らは青ざめる。さっきの場所で拾ったち大人たちはさらに青く顔が染まっていた。何か、恐ろしくてたまらない何か巨大なものを見上げていた。
「散れ!!」
ソーマがとっさに叫ぶ。瞬間、ユウたちはそれぞれ散った。直後、ひと塊に固まっていた彼らの立っていた場所に、巨大な針のようなものが頭上から降りかかってきた。
槍のように深く地面に突き刺さったその尾のようなものが引き抜かれる。それの正体を目で追うと、悍ましい姿をした巨獣が、こちらを見下ろしていた。
「「う、うあああああああああああ!!!」」
その姿は、足の部分に怪物の頭があり、さらにもう一つ、本来なら頭に値する部位にさらにもう一つ、二本に束ねた髪を持つ少女を象った顔が人間の頭に部位する位置にある。
怪物と少女、双頭の怪物だった。
「あの怪物…コクーンメイデン!?いや…」
現れた怪獣にはコクーンメイデンの特徴がある。だが、あれは小型のはずだ。それに、なんだあの怪物のような体の一部は。
(別のアラガミと、融合した?いや、だからといって…)
あの巨体はおかしすぎる。エリックは、前回のドラゴードとの戦いにも参加していた。ドラゴードの事も聞いている。だがどちらも異常性に富んだ奴らだ。小型アラガミが大型種に進化するまで、どれだけの捕喰とそれに有する時間が必要になる?それだけの種に進化するなら、アナグラのオラクルレーダーでも探知されやすいのに、こうも突然…進化種が現れるなどあり得るだろうか。
(…いや、そんなこと考えている場合じゃない!)
今のでコウタとエリック、少女の三人とそれ以外の者たちの二派に別れてしまっている。
「やばい…!」
車はユウとソーマ、そして大人たちの方に置いてある。ユウたちが逃げる分にはギリギリだが、全員を乗せるには定員が足りない。無理に乗せたまま走行したら振り落とされてしまうことだってありえる。
しかも、すかさずコクーンメイデンに似たアラガミはこちらに向けて、ツインテールに似た二本の尾を伸ばし、槍のように鋭い瞬発力を持って、突き出してきた。
「避けろ!」
叫ぶと同時に、コウタと同じタイミングで再び放たれる一撃の刺突を、少女を抱きかかえて飛び退いた。しかし一発で終わる気配がない。さらに続けて二度、三度と突き出される尾が、エリックたちを貫こうとする。
「エリック、コウタ!」
ユウが直ちに神機を銃形態に切り替え、アラガミの頭から延びる二本の尾に向けて弾丸を連射する。今の連射が効いたのか、奴の動きが止まった。
「ソーマ、先にその人たちを安全なところに!」
「…ッ!おい、アナグラ応答しろ!」
舌打ちしかけるも、ソーマは大人三人を連れて離れた場所へと連れて行く。その際に彼はアナグラのヒバリに向けて連絡を入れる。
「新種の大型アラガミが現れた!一般人もいる!今すぐ応援を呼べ!誰でもいい!」
『は、はい!すぐに手配します!』
よし、応援の発注は済ませた。後は…逃げるまでの時間だ。何より、一般人の安全確保、そしてコウタたちを助けなくては。
「目を閉じて!」
ユウはスタングレネードを取り出し、ピンを歯で引き抜いて巨大アラガミに向けて投げつける。
瞬間、強烈な光が放たれ、アラガミの視界を遮った。奴の足の方にある顔が瞼を閉ざして呻いている。
「今のうちに!!」
奴の目の届かない場所まで退く。コウタたちに近づいたユウはコウタたちと合流、すぐさまその場から全力で走りだした。
奴は元々コクーンメイデンで、それの変異種のはず。だとしたら、通常のメイデン同様に動けないはずだ。
だんだん遠くなっていくコクーンメイデンの巨大変異種。
その果てに、彼らは近くの市街地跡地の居住区まで逃亡を図った。
しかし彼らは一つの誤算があった。コクーンメイデンは、動けない。それは確かだ。
だが、だからといって…
コクーンメイデンの特徴を持つあの巨大な化け物…
『双頭拷問神獣テイルメイデン』までがそうだとは限らないのだ。