ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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計画の布石

ジャンキラーの襲撃後、エリナは無事ゴッドイーターたちによって保護された。すぐに医療班に回され容態を診てもらったところ、命に別状はなかった。

ベッドに寝かされていたエリナが目を覚ました。意識に関しても、アリサの場合と違ってしばらく目覚めない状態が続くわけではなかった。

「おお…エリナ。よかった。目が覚めたのだな」

「お父、様…恥ずかしいからやめてください…」

見舞いに来たところ、目が覚めた娘を見て、父親であるフォーゲルヴァイデは娘を何度も抱きしめた。

ユウはギンガに変身した時、ジャンキラーの動きを封じるためにギンガサンダーボルトを放ったことで、中にいたエリナにも致命的なダメージを負わせてしまったのではないかと不安を覚えていた。ルミコたち医療班の報告を聞いたとき、フォーゲルヴァイデと入れ替わる形でエリナの見舞いに来たユウとアリサは、エリナの実父以外で他の者以上に安堵した。

ただ、彼女にひとつ気になる症状と思われるものがあった。それは、ユウとアリサがエリナの見舞いに行った時のことだ。

「…何も覚えてない?」

「はい…自分の部屋に一度戻ってから、それ以後に何をしてたのかわからないんです」

エリナは、ジャンキラーを操縦していた頃の記憶がすっぽり消えていたのだ。てっきり覚えていたのではないかと思っていたユウとアリサ、そしてユウの服の中にいたタロウも話を聞いて耳を疑った。

アリサは確かに覚えていたのに、エリナだけは闇の力に呑まれていた時の記憶が途切れている…。いや、よくよく考えたらアリサだって大車に洗脳された身だ。忘れてしまっていたところを思い出したのかもしれない。

「あの、私もしかして…何かとんでもないことを…?」

「…いや、心労が祟って部屋で倒れていたのを君のお父さんが見つけたんだよ。エリナは何もしてない。安心して」

ユウは真実を言わないことにした。エリックの死を引きずり過ぎて体調を崩した。そういうことにしておかなければ、エリナもこの先極東支部に居場所をなくしかねない。

「そう、ですか…すみません、ご心配を、その…おかけしました」

エリナは世話をかけてしまったと思い、ユウたちに詫びを入れた。

どうやら体に後遺症らしきものもなく、当日そのまま退院するとも聞き、ユウたちは病室を後にした。

エレベーターで上の階へ上る中、アリサはユウに話しかけてきた。

「エリナちゃんが忘れていたのは、不幸中の幸いだったかもしれません。私の場合は、ユウやリディア先生のおかげで立ち直れましたが…」

「うん、確実にアリサのようになるとは限らない。辛いことは無理に思い出さない方がいいかもね」

「だが、今回の件は私たちにも責任があるだろうな…」

タロウが苦悩をそのまま口にするように言うと、アリサがそれに同調した。

「そうですね…ソーマが回収してきた、あのダミースパークが、あれほど危険だったなんて…一度使ったことがあるくせに、まだ知らない部分があったなんてなんだか情けないです」

「持ち帰ることなくあの場で破壊するべきだったね。僕もすぐにそれに気づくべきだった」

ダミースパークは、握った持ち主の心の闇に付け込んでその心を悪に染めて暴走を促す。たとえ持ち主がいなくても、放置すれば本来の姿に実体化したスパークドールズに暴走を続けさせる。それだけ危険なものを破壊しないままに捨て置いたことは反省しなければならない、と三人は思った。もしアラガミやメテオールの他にも、スパークドールズの研究も行っているサカキに研究解析目的で預けていたら、今度はサカキが闇の力に呑まれてしまい、アナグラの頭脳担当という貴重な人を敵に回すことになっていたかもしれない。

でも今回の事で、ダミースパークは即時破壊してもいいことがわかったので、それはそれで不幸中の幸いでもある。

「ところでタロウ、ダミースパークはどうしたの?」

「あれならここにある」

ユウの疑問に、タロウは頭上にダミースパークを掲げながら答えた。自分の体のサイズとほぼ同等のアイテムを一体どこから出したんですか、と突っ込みを入れたくなったアリサだが、ここは流すことにした。

「これなら後で、訓練スペースでの自主練にかこつけて破壊できますね。調査部の方々がジャンキラーの調査中に回収していたら、今度はあの人たちの誰かが、このアイテムの魔力に精神を汚染されていたかもしれませんから」

ジャンキラーだが、ギンガと戦った後、あのまま機能停止状態のまま調査部の大掛かりな回収作業が決められた。極東のはずれの島、後にあらゆるアラガミから人類を守る最後の砦、エイジス島の地下に保管されることになっている。今はまだ極東支部の外に、ワイヤーロープで縛り受けられているが、あまりに大きすぎて極東支部内に置く場所がなく、かといってずっと防壁のすぐ近くに置こうにも、その辺りにもアラガミは常に現れている。せっかくの貴重な資源、研究材料にもなりうるジャンキラーを、無機物さえ食いつぶすアラガミの餌にされてしまうのは決して見逃せず、上層部は安全なエイジス島への保管を決定したのだ。

「ジャンキラー、あのまま悪用されることがないまま眠ってくれると良いな。

…しかし、ジャンキラーと言えば…もう一つ気になることがあったな」

「…あぁ」

そうだ。絶対に忘れられないことがあった。

ジャンキラーの突然の再起動と不意打ちで危機に陥ったギンガを救った、あの黒い巨人だ。

「名前、聞こえてました。確か…『ウルトラマンビクトリー』…っと言ってましたね。コウタがまたうるさくはしゃいでましたよ。『新しいウルトラマンだ!』って」

ギンガの姿からユウが変身を解いて仲間たちのもとに戻るまでに、少年心をくすぐる存在が新たに現れたことでコウタがまたテンションを上げたらしく、その相手をさせられたアリサは面倒な目にあったようだ。

ちなみにコウタだが、ジャンキラーが遠距離射撃で外部居住区にも攻撃を加えてしまったため、家族の無事を確認するために一度実家に戻っていた。

「タロウ。あのウルトラマンには覚えはないの?」

「いや、私もあのウルトラマンは見たことがない。そもそもギンガのことも私はどこから来た何者なのかもわからないんだ。少なくとも、私の故郷、M78星雲光の国の戦士ではないだろう。

正直、驚いたものだ。てっきり私は、ギンガ以外のウルトラマンたちは全員闇の呪いによって人形にされていたとばかりに…」

タロウの記憶でも、そもそもギンガさえも知らないウルトラマンだった。それに加えウルトラマンビクトリー、彼の見た目はM78星雲人でも、義弟である獅子座L77星出身の双子たちとも異なる。レッド、ブルー、シルバー、いずれの種族にも属さない外見だった。

「タロウたちも知らない、ウルトラマン、か……」

「でも、これは良い兆候かもしれませんよ。同じウルトラマンがもう一人いる。これは宇宙人たちも警戒して、迂闊にこちらを攻めることもないでしょう」

アリサの言うことも一理ある。闇のエージェントを名乗っていたあの宇宙人たちも、ウルトラマンであるユウを非常に警戒していたからこそ、あのような用意周到な罠を張ろうとしていたのだ。だがそこへ未知のウルトラマンが現れた。彼のことを調べていないうちは、奴らも迂闊に手出しがし辛くなるはずだ。

「だが、だからといって日々の鍛練を怠るべきではない。まだあのウルトラマンが何者なのかもわからないのだぞ」

タロウは、ビクトリーに対して一定の警戒心を持ってユウに警告した。

「…大丈夫。もう大事なことで怠けたりなんかしない」

あの集落にいた頃の、自信を無くした頃の自分なら、ウルトラマンビクトリーの存在を知ったとしたら、きっと自分はウルトラマンであることを本気で放棄していたかもしれない。でも、今は違う。自分以外にウルトラマンがいるからといって役目を放棄することは絶対にしない。そんな怠惰の先にあるのは、きっと不幸だけだから。

「でも、できればあのウルトラマンと直接話をしたい。今度会ったら、助けてもらったお礼もしたいから」

あのウルトラマンは、結局話す間も与えることがないまま去ってしまった。一体何者なのだろう。できることなら、みんなを守るために一緒に戦っていきたい。

すると、ユウとアリサの端末に着信音が鳴る。二人がそれぞれの携帯端末を確認すると、二人にコウタからのメールが届いていた。

 

From:藤木コウタ

件名:二人とも有給貯めてたよね?

 

今度の俺の非番の日、サクヤさんとユウの昇進パーティーをやろうよ!ここ最近辛いことも結構あったしさ、ここは景気よくモチベーションアップ狙いでパーッと騒ごうぜ!

 

 

「パーティー、か。コウタが勝手に騒ぎたがっているように思えますけど…」

「でもいいんじゃないか?コウタの言うとおり我々の身には最近色々なことがありすぎた」

アーサソール事件、リンドウとエリックの死、アリサの乱心、オペレーション・メテオライトでのベヒーモスとの決着。肉体と精神、その両方に大変なことが立て続けだった。コウタはみんなと騒ぎたいという欲求が見えるが、それだけでなく彼なりに気遣いを見せていると思える。

「せっかくだ。コウタの誘いに乗るといい」

「そうだね。そうしよう。アリサはどうする?」

「コウタの…というのがちょっと気になりますが、パーティーに反対はしません。寧ろ思い切って楽しんでしまいましょう」

タロウから背中を押されユウとアリサも参加の意向を示した。

しかしユウの場合、メールはコウタからのだけではなかった。もう一つ着信があったのをユウは見つめた。

「あれ?これは…支部長?」

珍しくヨハネス支部長からのメールがユウに直接送り届けられていた。

 

 

From:ヨハネス・フォン・シックザール

件名:副隊長就任おめでとう

 

本来ならあのロボットが出現していた時間帯に、君に直接祝辞と、他に君に伝えねばならないことを言うつもりだった。済まないが今から支部長室へ来てほしい。

 

 

「支部長からなんて、珍しいですね」

アリサが希少なアラガミ素材を見つけたかのように言った。こうして支部長がたった一人の人間に対して名指しで呼び出しを行う。本当なら確かに普通のことではない。でも最初こそユウを不法侵入者として拘束、半ば強引に新型ゴッドイーターとして入ることを強制していたものの、彼がフェンリルに入局してからヨハネスからの待遇は妙によかった。どこか怪しいとさえ思う時もある。だが、こちらに危害を加えるなどと言った行為をヨハネスはとってきていない。今のところは味方なのだが、どこか引っかかりを覚えた。

そんな時、エレベーターに新たな乗客としてソーマが乗ってきた。それを見てタロウは咄嗟にユウの服のポケットに隠れた。

「………」

ソーマはユウとアリサを一瞥すると、すぐに視線を逸らし、腕を組んで壁に身を寄せた。

…気まずい。ソーマの性格を考えたら当然そうなのだが、ユウとアリサは無言のオーラを漂わせるソーマに対してそう思わざるを得なかった。ソーマはやたら他人を拒絶する。どうも噂では『死神』と揶揄され疎まれているからのようだ。しかしその苛立ちをぶつけるかのようにコウタに対して何度も悪い態度を見せてしまい、ソーマの態度の悪さにコウタも怒りを覚えて仲違いを起こすようになった。これではよくない。エリックからもソーマの事を見てほしいと言われたことを思い出し、ユウはソーマに少し話しかけてみることにした。

「ああ、そうだ。ソーマ、エリナは今病室にいるよ。元気そうにしてる」

「…そうか」

エリナのことについてはソーマも気に留めていると思ったが、あまり深入りしてくることはなかった。でも…どこか安堵しているようにも聞こえた。

すると、三人が乗っているエレベーターが、支部長室のある役員区画へ到着した。ユウが下りると、ソーマもまた降りた。

「あれ?ソーマもここ?」

「…あぁ、糞親父の呼び出しだ」

糞親父、というのはヨハネスのことだろう。苗字がシックザール。そして顔つきがどこか似ている。ソーマはヨハネスの実の息子だが、糞親父呼ばわりしていることから、親子というには関係がかなり冷え込んでいるのが見て取れた。

「…奇遇だね。僕も支部長から呼び出されたんだ」

「何?…っち」

ソーマは耳を疑うかのように反応してくると、なぜか舌打ちしてきた。何か不快を催すことを言ってしまったのだろうかと思ったが、普通に話していただけなのでそんな心当たりもあるはずがない。

「何舌打ちしてるんですか。相変わらず失礼な人ですね」

「その言葉、そっくり返してしてやる」

アリサが顔をしかめてくるが、ソーマの返しに息を詰まらせ、あっさりと言い負かされた。ゴッドイーターとしての才覚を目覚めさせつつあるのだが、トークでの勝負についてはめちゃくちゃ弱いアリサだった。

「うぅ…じゃあ私、そろそろ部屋に戻りますね。次の任務に備えて休まないといけませんから」

「あ、うん。お疲れアリサ」

アリサは二人が降りたところで、自分の自室がある新人区画へエレベーターで移動していった。ちょっと悔しそうな顔がかわいいと思ったのは本人には言わない方がいいだろう。

二人はたまたまながらも一緒に支部長室の扉に立った。

「えっと…どうするソーマ?一緒に行く?」

「いい。てめえはここで待ってろ」

とりあえず同行するかを尋ねたが、ソーマが嫌がって一人で入室した。やはりどうもとっつきにくい空気を出して他人を拒否している。

ソーマは一体どうしてここまで、他人を拒絶するのだろうか。アリサのパターンは理解し解決したが、ソーマの事はいまいちまだわからないところがある。どうしたものかと思っている間に、ソーマが思ったより早く支部長室を出てきた。

「次はてめえが入れだとよ」

そのようにソーマは言ってユウに背を向ける。

どこか煮え切らないような感覚を覚えつつも、扉をノックし、奥からヨハネスの「入りたまえ」という声が聞こえる。

「失礼します」

面接を受ける入社希望者のように、ユウは入った。最初に会った時と同じように、ヨハネスはいつもの姿勢でユウを待っていた。

「ソーマも一緒だったかな?」

「ええ。まぁ…」

この日はソーマも呼び出していたので、一緒に来たのではと予想したのだろう。頷いたユウを見て、ヨハネスは少し難しそうな表情を浮かべた。

「その様子だと、息子があまり仲良くしてやれていないようだな。父親としてお詫びをさせてほしい。多忙や様々な理由があってのことだが、あれには私からあまり必要な教養を学ばせていなかったからな。おかげで、反抗期が予想以上に長引いてしまった」

「あ、いえ…」

息子を『あれ』と呼ぶ言い方に、ユウはどこかヨハネスがソーマを道具扱いしているようではないかと思った。深い意味はなく、あくまで『あれ』と呼んだだけなのかもしれないが。

「おそらく、唯一の友人だったエリック君や、理解者であるリンドウ君の死亡で、心が落ち着ききれていないのだろう。できれば息子と仲良くしてほしい。これは命令ではなく、ソーマの父としての願いだ」

その願いに対し、ユウは頷いた。エリックとの約束でもある。同時にタロウが以前教えてくれた「優しさを失わないでくれ」という教訓を少しでも重んじようと思ってのことだった。

「さて、では今から支部長として、今日の呼び出しについて話をしよう。

今日はよくあのロボットを迎撃してくれた。ウルトラマンだけではこの極東支部を守り抜くのは難しかっただろう。やはり君は、私が見込んだとおりの人間のようだ」

「いえ、僕はまだまだです。リンドウさんには遠く及びません」

そもそもジャンキラーとの戦いは、ウルトラマンビクトリーも来なかったら危なかったから、極東支部が無事だったのはとても自分たちのおかげとは言いにくい。

「その謙虚さは好ましいな。確かに今回は新たなウルトラマンが現れ、この極東支部は守られた。だが彼らが来る前にこの支部を守ったのは他ならぬ君たちだ。リンドウ君がそうだったようにね。

彼は私によく尽くしてくれた。信頼に足るゴッドイーターだった。実に大きな損失だった。だが私は、君がリンドウ君さえも超える逸材だと思っている」

ヨハネスはずいぶん自分を買っている。いくら貴重な新型ゴッドイーターだとしても、それほど自分は、彼の目から見て魅力的なのだろうか。

「では改めて祝辞を。副隊長就任、おめでとう」

自身に嘘偽りなく答えたユウに、ヨハネスは笑みを浮かべる。

「さて、ここに足を運んでもらったのは他でもない。副隊長就任に伴い、君に権限の強化が与えられる」

ヨハネスの話では、ユウが第1部隊副隊長に昇格したことで、今まで閲覧許可が下りなかった一部の資料のデータの閲覧が可能になった。これは同時にフェンリルからの信頼の証でもあるという。

「次に義務についても伝えることがある。君には通常の任務以外に、リンドウ君が行っていた『特務』を引き継いでもらう」

「特務?」

通常の任務と違い、特務とは支部長であるヨハネスが直轄で管理することが原則となっている。任務中に得られたアイテムも例外ではなく、特務は全てが最高クラスの機密であること。その性質上、特務は全て君が単独で行わなければならないことをヨハネスは説明した。たとえ信頼できる仲間に対しても、決して特務やその内容については明かしてはならない、ということだ。当然その分だけ、通常の任務よりも難易度が爆上がりとなる。しかしその代り、入手困難なアイテムや多額の報酬金額も得られるというそうだ。

(なんだか気まずいな…仲間たちに隠し事してるみたいで…って、今更か)

そう思ったユウだが、そもそも自分は、アリサ以外の仲間たちにはまだ自分がウルトラマンであることを明かしていない。当然明かすつもりはない。下手に自慢でもするかのように明かしてしまえば、後でどんな危険が伴うかわかったものじゃないのだ。

「苦労を掛けることになるかもしれないが、君なら単独でも危険な任務を果たすことができると私が判断した。特務は私からのさらなる信頼の証でもある。

特務の内容は追って伝える。とにかく今日もまた、驚くべきこともあって疲れているだろう。これからもよろしく頼むよ」

ヨハネスからの話はそこで終わり、ユウは支部長室を後にした。

部屋を出ると、なぜかソーマはそこで壁に背中を預けていたままだった。

「ソーマ、待ってたんだ」

「…別にてめえを待っていたわけじゃねェ」

「あ、そう…」

じゃあなんでここにいるんだよと突っ込みたくなったが、いちいちこのことで詮索しても仕方ないので歩き去ろうとすると、「おい」とソーマが珍しく呼び止めてきた。

「何?」

「あの男に干渉しすぎるな。それと…」

振り返ってきたユウに、ソーマは言った。

「俺みたいな化け物にも関わるな。…今度は、てめえが死ぬぞ」

そう言い残してソーマは、それはどういう意味なのかと尋ねようとしたユウを追い抜いて歩き去って行った。

彼が妙に周囲から疎まれているのは知っているが、なぜ自分を化け物と呼んで遠ざけるのだろうか。それに加え、自分の父親に関わり過ぎないように警告まで入れてきた。

(死神って、呼ばれてる理由と関係あるのかな…?)

疑問を抱きながらも、ユウもソーマに続く形でエレベーターに乗って自室へ戻って行った。

それと同じころ、アリサは二度と使われないよう、ダミースパークを訓練中に破壊した。

 

 

 

 

サクヤは、リンドウが残したディスクを閲覧していた。謎の単語…『アーク計画』。それが何なのかまだわからない。ただ、ファイルを閲覧し続けているうちに、リンドウが何をしようとしていたのかわかってきた。

「エイジス…潜入…」

どうやらリンドウは、『アーク計画』が何を意味するのか知るためにエイジスに潜入しようとしていたようだ。

サクヤはこのエイジス潜入を企てたリンドウが消された意味に、おおよその予想が着いてきた。

(まさか…口封じ…!?)

だとしたら辻褄が合ってくる。このアーク計画というものが、誰かに漏れてしまうのが不味い計画だとしたら、リンドウは、知ってはならないことを知ってしまったがために…。

「…!」

サクヤは歯噛みした。もしリンドウが、知らなければ良かったことを知ってしまったとしても、サクヤにとってこの計画の実行者を憎まずにいられない。

リンドウはサクヤにとって、守るべき愛する人だったのだから。

でも、憎しみに逸って急ぎすぎるのは不味い。

(…この計画、ユウ君やソーマたちに伝えるべきじゃない)

そう、今の自分はリンドウから隊長の座を引き継いだ身。隊員たちを引っ張り、守る義務がある。冷静に、そして慎重に動かなければ…。

 

 

 

 

一方その頃、サカキはヨハネスのいる支部長室を訪れた。

「やぁ、ペイラーじゃないか。オラクル技術を新たに組み込んだメテオールの調整はどうかな?」

「時間はどうしてもかかり気味だが、そのぶんやりがいを強く感じているよ。昔の登山家風に言えば、高い山ほど征服のし甲斐がある、というものだ。ヨハンも技術屋をやめなければ、この心地よい達成感を得られただろうに」

「君がいたから廃業したんだ。自覚してくれ」

「本当に廃業しちゃったのかい?君は裏で、何かを行っているところだろう?そのために彼を、手駒に引き込もうとしている」

笑顔で言うサカキだが、その狐目は鋭い眼光を宿していた。ヨハネスはそれに気づいたが、態度を変えずに話を続けた。

「…ソーマだけでは、ままならないからな。だが手駒とは…少しは言い方を考えてほしいところだな。君はいつも通り、観測者として徹しつつ、例の件について調べてくれればいい」

さっきの鋭い視線への返しのつもりか、ヨハネスは重さを乗せた口調でサカキに言った。

「…最後の確認だが、考え直すつもりはないんだね」

「当然だ。メテオライト作戦で大量のアラガミのコアを入手し、前回の戦いでジャンキラーというロボットも手に入れた。計画は最終段階に入りつつある状況で思わぬ天の恵みを得たのだ。これほどのカードをそろえた今、もはや止められんよ」

今更だと言うように、ヨハネスはサカキにそう告げる。もう決意は何度、何を言っても変わらないのだとサカキは悟った。

「そうか…ならばそんな君に良いニュースがある。現地住民からのタレこみでね、旧イングランド地域で非常に強力な反応を示すアラガミが現れたらしい」

「もしや…『特異点』か!?」

ヨハネスが食いついてきた。待ち望んでいた者を目にしたように目を光らせている。

「それはまだわからない。あそこは本部直轄のエリアでね。私でも手が出しにくい以上、私が確かめに行くことは難しいんだ。本当に特異点なのかどうか…」

ヨハネスはサカキからそのように説明を受けた後、少し考え込んでから決断を下した。

「…よし、ヨーロッパへ飛ぼう。その間に留守を頼む。

例のジャンキラーというロボットについても、私の発注した任務として後日エイジスへの輸送護衛任務で運ばせる。その当日までなら、あのロボットの解析も許可しよう。あれをうまく利用できれば、極東の新たな守護神になってくれるかもしれない」

「そう簡単にいけばいいんだけどね」

「アラガミ装甲壁の元となった『お守り』を作った君ならそう難しくはないはずだ」

ヨハネスは最後に、では頼むぞ、と一言だけ言い残し、支部長室を去った。サカキが情報を掴んだという、『特異点』のことがよほど気がかりだったらしく、その足取りは早かった。

ヨハネスが去ったのを見て、彼は安心以外にもどこか含みのある笑みを浮かべた。

「研究の障害がいなくなってくれて助かるよ。さて…」

 

――――彼はどちらについてくれるかな?

 




お詫び:追加し忘れていた部分があったので急遽挿入させてもらいました。あと、サブタイトルもないようにそぐわないため変更します。申し訳ありませんでした。


次回は、ついに無印ヒロイン来る…?

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