ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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心無き機械の鉄人(前編)

「フン!!」

ユウは、リッカの頼みである『新しい神機パーツの試験』に付き合うために、訓練スペースでその神機を試しに動かしていた。

「これかなり重いな…」

今使っている彼の神機だが、刀身が先日までのロングブレードではなく、触るものすべてを粉砕しそうなハンマーに差し替えられていた。振り回すたびに、その比重のあまる自分の体が引っ張られるような感覚を覚える。ゴッドイーターは普通の人間より身体が強化されているものだが、そんな身の上のユウにさえ重いと言わしめる。一体何キロの重さなのだろうか。

「『ブーストハンマー』はバスターブレードよりも破砕に特化させた、破壊力重視の刀身パーツだからね。重くなっちゃうのも仕方ないよ」

三階ほど高い位置に見える窓からリッカが、スピーカーを介してユウに言った。

「リッカさん、これほど重いと流石に隙が大きすぎと思うんですが…バスターブレードの場合みたいに何か特殊な機構とかあるんですか?」

彼女と同じ部屋にいるアリサが、ユウが振り回している神機を見て憂いを覚える。さっきも言ったように、あのハンマーは非常に重いのが見られる。しかもリーチもバスターブレードよりも短い。破砕攻撃力が高い分、動きもどうしても鈍くなってしまうのが想像に容易い。

「うん、大丈夫。普通に叩き割るだけじゃ味気ないからね。ブーストハンマーだからこその機能しっかり着いてるよ。ユウ君、今から言うとおりに神機を動かして」

「了解」

スピーカー越しに聞こえるリッカの指示に耳を傾け、ユウは彼女から聞いた通りにハンマーに搭載されている機構を起動する。ハンマー部位の近くの機器が火を噴き、それに伴ってユウもためしに一振り、素振りをしてみた……直後だった。

 

ガコオォン!!

 

「ひゃ!?」

一瞬の激しい金属音と共に、アリサとリッカのいるフロアにまで強い振動が来た。あまりに振動に、二人は思わず尻餅をついたり壁に顔をぶち当てたりした。

「いったた…」

起き上がった二人は、窓の向こうの訓練スペースを見やると、そこには壁に大きな凹みが広がり、その中央でユウが目を回していた。

 

 

 

「痛てて…酷い目にあった」

「ユウ、大丈夫ですか?」

「ごめん、ユウ君。どうもブースト機構の出力、人間が支えるには強すぎたみたいだね」

医務室を出て、頭に大きなたんこぶが出来上がったユウに、アリサが気遣いの言葉をかける。

「気にしなくていいよ。…まぁ、ゴッドイーターでも痛いのは辛いけど」

ブーストハンマーの試験運用だが、結局ユウが目を覚ました頃には中断ということになった。リッカは彼が目を覚ます間に整備室に戻り、すぐにブーストハンマーの再調整に取り掛かったという。

本来なら直立した状態で、ハイスピードで乱打できる〈ブーストラッシュ〉が完成するはずだったが、今回の試験運用で設定されたブースト機構の出力が人間の体で支えきれないほどのものだったことが分かったそうだ。体よく実験台にされたと言えるが、試験運用なんてそれも含めてのものだからユウはあまり文句もいえなかった。

「神機は神機使いの命綱そのものだから、次はちゃんとしたものを作れるように頑張るよ」

失敗こそあれど、それは普通に生きる上で当然のこと。まして、技師と言うものは数々の失敗を経て成功へと昇華する。それをわかっているリッカはさらに張り切っていた。

彼女の技師としての手腕は、整備士たちの間でも噂になっていて、若いのに大したものだと評判だ。次は期待できるかもしれない、と思った時だった。

「お願いです!私に神機をください!」

三人は少女の声を耳にした。

「あれって…エリナちゃん?」

声の方を見ると、ベレー帽を被った裕福そうな少女が、整備士の男性に必死に詰め寄っている。亡きエリックの妹、エリナである。

「パッチテストならすでに通ってます!いつでも適合試験を受けられます!だから…!」

「そうは言われても…俺の一存でできることじゃ…」

整備士の男性は、自分に無茶を吹っ掛け続けるエリナに困っていた。

「どうしたんですか?」

見かねたリッカがその整備士の男性とエリナのもとに歩み寄って話を伺った。

「聞いてくれよ。さっきから何度もだめだって言ってるのに、彼女神機をくれってせがむんだ」

困った様子を露わに、頭を掻きながら整備士の男性はリッカに言う。エリナは邪魔が入ってきたとばかりに不満そうに顔を歪めている。おもちゃをねだる子供が拗ねているように見える…と、事情を知らない者が見ればそう思うだろう。だが、彼女が神機を求めている本当の理由をユウたちは知っている。

「…仇を、討ちたいんだね」

ユウの一言に、エリナは俯きながら頷いた。

「………だって……誰も探さないもん……」

「探す?」

「エリックを殺したアラガミよ!!まだどこかで生きてるんでしょ!?」

顔を上げた時のエリナは、涙目だった。濡れた瞳でユウを睨み付け、彼女は自分が抱え込んでいた、悔しさと悲しみに満ちた叫びをぶちまけた。

「ゴッドイーターはアラガミを倒さないといけないんでしょ!だったらなんでエリックの仇を討ってくれないの!?誰も彼もリンドウさんリンドウさんって…お兄ちゃんのことなんてまるでどうでもいいって言ってるみたい!!

ユウさん、あなたはお兄ちゃんの友達だったでしょ!だったら私のお願い聞いて!お兄ちゃんの仇のアラガミを探して!!」

「エリナちゃん…」

ユウは息を詰まらせた。エリナが兄の死で嘆き続けていることは知っていたが、これほど心の傷が深くなっていたなんて。だが仇のアラガミを探せなど、無茶にもほどがあることを注文してきている。エリックを殺したあのボルグ・カムランは、最後の最後でエリックが放った貫通弾で穴を開けられ、湖に落ちたところをダムの水で押し流されていって倒すに至っていない。おそらく放っておいている間にエリックから受けた傷は回復しているはずだ。そして位置を特定しようにも、他にもカムランは何体もいるはず。オペレーション・メテオライト中に紛れ込んで倒されてくれているとよいのだが…。

「わかった、探してみるよ。でもすぐには無理だから時間がほしいんだ。

だから駄々をこねて整備士さんを困らせないであげて?」

妹を気遣う兄のような口調で優しく言葉をかけるユウ。だが…

「……そうやって、適当に流して終わらせる魂胆なんでしょ」

「え?」

エリナが口にした言葉に耳を疑うと、彼女はすかさずユウに向けて怒りを向けてきた。

「ユウさんも、エリックが死んだことなんか本当はどうでもいいんでしょ!本当にエリックのことを気にしてるなら、私に言われるよりも前に仇を探してるはずだもん!」

「何を言ってるんだ!エリナちゃん、そんなこと…!」

「嘘だ!!だって誰もエリックの仇を取ろうとしてない!一人で死んじゃったエリックの気持ちなんて、誰もわかろうとしてない!!」

あるわけがないとユウは否定するがエリナは聞く耳も持とうとしない。

「ユウさんなら、すぐにでも探しに言ってくれると思ってたのに…もういい!みんな死んじゃえばいいんだ…誰もエリックを助けてくれなかったんだから!!」

エリナは泣き叫びながら、その場から去って行った。

ショックだった。エリナがあそこまで追い詰められていたとは。ユウは呆然とするあまり、エリナになんと言葉をかけるべきか見つからなかった。

「明らかに、焦ってるね…彼女。自分はゴッドイーターじゃないから、お兄さんの仇を討つどころか、戦うこともできないから…」

リッカが走り去るエリナを見て言った。

「私のせいでも、ありますよね…」

エレベーターに乗って姿が見えなくなった彼女を見送り、アリサがポツリとつぶやく。

「エリックさんのことです。私が、大車先生の駒にされてたから…」

エリックの死について、アリサは決して無関係ではないと自認している。自分がまんまと大車の操り人形にされ、ボガールとして暴れさせられたがために、エリックが結果として死を遂げてしまったのだから。真実を知れば、きっとエリナはアリサのことも兄を殺した仇の一人だと見なすかもしれない。かつて家族を失い、心のクローゼットに閉じこもっていたアリサには、兄という大切な家族を奪われたエリナの悲しみと怒りを強く理解した。

でも、アリサを一方的にせめていい話であっていいはずがない。彼女だって被害者なのだ。

エリックが死んだあの日、自分は何も救えないと自棄にならなければ、すぐにギンガに変身してエリックを助け出せたかもしれなかった。

…だが、悔やんでばかりもいられない。

エリックから託されたのだ。エリナとソーマを頼む…と。

彼の遺言を思い出したユウは、エリナのことはしばらく気に留めようと心に決めた。

 

 

 

 

 

兄はナルシストで自尊心が高く憶病でもあると言われているが、一方で周囲から疎まれているソーマにも気軽に話しかけ、彼のような強いゴッドイーターを目指し、そしてなんだかんだ仲間に対してアドバイスをかけたりバレットについて同じ銃型神機使いたちと話し合う機会を設けたりと、決して悪い評価を受けた男ではなかった。

父から引き継ぐはずの家督を捨ててでも選んだそれらの行動は、極東で療養中の身でもある病弱な妹を守るための行動だった。

エリナは、兄を尊敬していた。ナルシストな一面を差し引いても、誰よりも強くてかっこいい人だと。

そんな兄が、ある日…仲間を捨て身で守ったために命を落とした。

エリックの死には、はじめは多くの人たちが痛ましく、悲しんでくれていた。

だが…リンドウの死が決定的となって以降、エリナは苦痛を感じ始めていた。

エントランスにて、アナグラに戻っていた第2・3部隊の会話が聞こえる。エントランスにある受付前のベンチで、死んだリンドウのことを語り合っているようだ。

エリナは近くの柵から隠れるようにして会話に耳を挟んだ。

「リンドウさん、あの人には何度も世話になったのにな…」

「あぁ、俺もこの極東に赴任したての頃は世話になったものだ」

「悔しいです…リンドウさん、私の誤射にも笑って許してくれてたのに」

「その後しばらく一緒に連れて行ってもらえなかったわよね?」

「う…それは…」

「俺もあの人にはまだ借りを返しきれてない。このままとんずらは御免だったがな…」

「…ちくしょう…逃げ足が一番すごいはずのあの人が…」

エリナは、リンドウの葬儀の日からずっとその言葉を聞き続けていた。聞けば聞くほどリンドウ、リンドウ、リンドウ…リンドウの名前ばかりを耳にし、もう誰もエリックのことを語らなくなり始めていた。

まるで、兄のことなどリンドウに及ばない、取るに足らない存在とでも言うように。

少し前までエリックのことを惜しんでいたはずの声が、すべてリンドウに対するものになっていた。兄を慕うエリナには、苦痛を与える現状だった。

誰もエリックのことを語らなくなっていく。話にもあげなくなっていく。仇を討ってあげようとなんで言い出さない。

エリナは聞いていた。兄を手にかけたアラガミは死んだのではなく、兄が発見された湖に落とし、激流に流されただけだと。第1部隊のメンバーたちと、兄は何度も行動をともにしており、最期の日も兄が友と認めたユウと一緒だった。エリックが今何をしているのか、アナグラに姿がない間はずっと誰かに何度も聞いていたので知っていたのである。

兄の死で誰もよりも心に傷を負ったエリナは、その場から立ち去った。

 

 

 

ゴッドイーターたちは、アラガミから回収した素材やミッションエリアから適当に拾い上げたものを持ち帰ったり、預けてもらうことができる。その中に、ユウたちにとって無視できないアイテムが置かれていた。

メテオールデータ回収任務の際、バキがプリティヴィ・マータの予想外の奇襲で取り落とし、そこをソーマが回収したダークダミースパークと、アニメロボットのようなスパークドールズである。

ダミースパークは、まるで自分の意思を持っているかのように『見ていた』。

いや、ダミースパークを通して何者かが二人を見ていた。

 

ソーマとエリナ。エリックという存在で共通点を持つ二人を。

 

二人の心にある、『心の闇』を。

 

 

 

その日…悪魔は二人のうち、まずはエリナに狙いを定めその魔の手を伸ばした。

 

 

 

自室に戻ったエリナは、部屋のベッドに顔を埋めていた。

時間なんてかけてる場合じゃない。じっと待っている間にも、兄を殺したアラガミは他にも誰か…防壁の外に追いやられた人を襲ったり、いずれこの極東支部の防壁を破り再度襲って来るのかもしれない。そうなれば、兄がそうだったように、多くの人たちが犠牲になるのは明白。

ゴッドイーターではない自分では倒すどころか戦うこともできない。だから信頼できる相手に頼もうと思っていた。それなのに…エリックの友だったはずのユウも自分の願いをすぐに聞き入れようとしなかった。

誰もエリックの仇を討ってくれようとしない。悔しくて悲しくて…ただひたすらエリックに対する無念が強まる。

 

そんな時だった。

 

保管庫に保存されていたダミースパークが妖しく光ると、傍にあるスパークドールズごと保管庫から瞬時に消え、エリナのベッドに落ちてきた。

「…?」

エリナは何かが起きてきた感触を覚え、部屋に突如現れたダミースパークとスパークドールズを手に取る。

「なにこれ…?」

見たこともない何かが、突如部屋の中に転がってきたことに、彼女は困惑する。

すると…ダミースパークが怪しい闇を放ち始めた。

その闇に触れたエリナの瞳が、赤く染まっていく。

何かが自分の中で沸き上がっていく。

 

憎悪。

 

怒り。

 

悲しみ。

 

失望。

 

どす黒い感情が、彼女を支配した。

 

 

 

翌日…。

メテオライト作戦時よりもガランとなった作戦司令室に、第1部隊が召集された。

「なぁ、なんの用事で呼び出しなんだ?」

「知っていてもあなたには教えませんけど」

相変わらずコウタに対してはやけに冷たい態度のままのアリサ。とはいえ、以前のように心まで侮辱するような感じではなく、だらしのない生徒に対する真面目な優等生の態度のそれである。

「え~。何だよアリサ。俺にだけ冷たくない?ユウに対して仲良さげに話しかけてんのに…は!?…ははーん、さては…」

「べ…別に他意はないですよ?」

「ほんとかよ~?その妙に赤くなった顔が怪しいな~?」

コウタのニタニタ顔にたじろぐアリサは必死に誤魔化すが、対するコウタにはなんの意味もなさない。彼女の赤く染まり始めたせいで動揺しているのが分かりやすすぎた。

「ほんとに何でもないです!サクヤさん!何か聞いてませんか!?」

「……」

強引に話を切り上げ、サクヤに話を吹っ掛けるアリサ。逃げやがったな、とコウタが呟くがアリサは無視した。しかし、話しかけられたサクヤは反応を示さなかった

「あの、サクヤさん?」

「え?あ…なに?何か用かしら?」

サクヤはアリサに呼びかけられ我に返った。やはり話を聞いていなかった。

「今日の呼び出しの理由です。何か聞いてませんか?」

「あ、あぁ…そうね。私も聞いてないからわからないわ」

「二重の意味で聞いてなかったんですね…」

「ユウ君は、なんだかきつくなってきたわね…」

ユウからやや呆れられた視線を向けられ、サクヤは反論できない。実際ユウの言葉通りだから文句は言えない。

「私語は慎め。今から執行部から降りた正式な辞令を発表する」

そこへ、ツバキが作戦司令室に到着し、巨大モニターの前に立った。しかし、一人人数が足りないことに気付く。

「…む?ソーマはまだ来ていないのか?」

「ええ、あいつまだ部屋で寝てるんじゃないんですか?」

「…まったく。まぁいい。ソーマには別途で伝えることとする。では執行部からの辞令だ、よく聞け」

コウタのソーマに対する陰口を聞いてため息を漏らすと、ツバキはすぐに目つきをいつものようにキリッと引き締め、到着している第1部隊メンバーたちに向く。

「本日を持って、橘サクヤ。貴官を第1部隊新隊長に任命。同じく…神薙ユウを副隊長に任命する」

「え…?」

ユウは耳を疑った。今、ツバキが言ったのか?

自分が、副隊長?

「す、すげえ!出世じゃん!大出世じゃん!こういうのなんて言うんだっけ?下克上?」

「それ、裏切りですよ。でも、おめでとうございます、ユウ」

コウタはユウの昇進と聞いて大はしゃぎ。そんなコウタを軽く咎めながらもアリサも祝福した。

「ち、ちょっと待ってください!なぜ、僕なんですか?僕なんてゴッドイーターになってまだ日が浅い身ですよ!」

いきなりの副隊長就任に、ユウは強く戸惑ったままだ。それに自分でもまだまだ戦士として未熟さを感じている。副隊長なんて自分には合わないと思えてならない。

「謙遜することはない。サクヤ以外に副隊長を勤められるのはお前だけと判断してのことだ」

「だよな~。俺まだ人を引っ張れるほど立派じゃないし」

「私も、最近のこともあります。それにまだ、副隊長クラスの責任を負うには実力の他にも課題が多く残ってると思いますので」

「それに加えて、ソーマは実力は一流で、任期が現存の第1部隊の中で最も長いが、知っての通り協調性に改善が見られん。任期の長さと言うだけでやらせても部隊は瓦解するだけだ。それはソーマ本人も理解しているだろうがな」

だが誰一人、ユウの副隊長昇進に反対しなかった。それどころか自分たちの自覚している欠点を、まるでユウを取り囲むように言って、ユウしか副隊長に相応しい者がいないと伝える。

「私も、ツバキさんの決定に異論はないわ。寧ろ、あなたがリーダーになってみる?」

「と、とんでもないです!」

副隊長だけでもいっぱいいっぱいだ。それにリーダー、つまり隊長になると、万が一ギンガに変身しなければならない状況に陥ったら、変身と同時に第1部隊は指揮官不在の状況に追いやられてしまう。ユウがウルトラマンであることを知るアリサでも、不在の間のフォローを続けさせるのも酷だ。

…仕方ない。あまり乗り気ではないが、もしかしたら自分でも今はわからない得を得られるかもしれない。前向きに考えることにし、ユウは決心した。

「僕で勤まるかはわかりませんが…慎んでお受けします」

 

 

こうして、ユウは入隊してまだ期間が圧倒的に浅い異例の時期に、第1部隊新副隊長として就任した。

 

 

 

作戦司令室でユウに下された副隊長昇格の報には、タロウも驚いていた。

「まさか入隊してさほど月数も経っていないユウが、これほど早く副隊長の座に就くとはな」

ユウの服のポケットから顔を出して、タロウが廊下を歩く最中のユウに話しかけた。

「僕も驚かされたよ。他に適任者がいないって話だけど、それでもまだ僕が副隊長にふさわしいか様子を見ることもできたのに」

「それだけ人材も厳しくなっているとみるべきかもしれんな。私が人間として活動していた頃と比較すると、今の地球の状況に合わせて時代が変わったともいえるな…ところでユウ、これからどこへ行くつもりだ?」

「エリナちゃんのとこだよ。ちょっと気になって」

よくエリナが姿を見せたのはエントランスの方だった。任務から帰ってくるエリックを迎えに、彼女はよくそこで姿を見かけると聞いていたので、おそらくそこだろうと予測した。彼女にどんな言葉をかけるべきかなんてわからないけど、それでも放っておくのは、自分にエリナとソーマのことを託して逝ったエリックに申し訳が立たない。

エントランスへ着いて、エリナの姿をさっそく確認しようと、一帯を見渡してみる。だが、珍しくこの日はエリナの姿がなかった。兄が死んだ後も、その死を認めたくないのか、エントランスに来てはもう二度と戻ってこない兄の帰りを待っている彼女にしては珍しい。

「姿が見えないようだな」

「ヒバリちゃんに聞いてみるか」

階段を下りて行き、受付のヒバリにさっそく声をかけようとすると、その前にユウの元へ裕福そうな紳士が歩み寄ってきた。

「君か、神薙ユウというのは」

「え?あ…はい」

「エリック…息子から聞いている。自分にも匹敵する華麗なゴッドイーターの戦友だと」

エリックを息子と呼ぶその紳士に、ユウは喉を詰まらせた。この紳士は、エリックとエリナの実父だった。彼の父と聞いて、ユウは何をどう返すべきか迷った。下手な言葉をかけられない。息子の最期に立ち会っていた…その身の上である自分のことをどう思っているのかが、ユウには不安だった。

「あ…あの…息子さんのことは…」

だが、謝るべきだろう。救えなかったことについては自分に責任があると自認しているユウは謝ろうとした。思えば、なんでもっと早く伝えられなかったのだろう。しかし、ユウが謝ろうとしたその前にフォーゲルヴァイデ氏は首を横に振った。

「息子のことを謝罪することはない。あの子は自分の意思で選んだのだ。その先が自らの死であっても」

天国にいるであろう息子の影を追うように、天井を見上げるフォーゲルヴァイデは、そのまま話を続けた。

「本来は臆病で見栄っ張りなバカ息子だったが、私は息子のことを恥じるつもりはない。あの子は私の教えの通りに、誰よりも華麗なゴッドイーターであり続けることができた。

これもきっと、君がいたからかもしれない」

そんなことはない、と喉の奥で出かかった。華麗かどうかはともかく、自分はこの人が思っているほど立派とはとても名乗れなかった。

「ただ…君に対して不快を催すかもしれないが…時々自分でも嫌悪感を抱くことも考えてしまう。息子が最後に戦ったアラガミと対峙したあの時、誰かがいち早く間に合っていれば…息子は……と。

当然、これは私一人の身勝手な認識だと思っているがね」

ユウは胸を締め付けられた。やはり、心のどこかで息子の死を誰かのせいにしたいとも思っているのだ。間違いだとしても、それは決して非常識なことではないだろう。悲しみを抱くほどに相手を思っている分だけそう思えてならないのだ。

「神薙君、君が息子のことを友と思っているのなら一つ約束してほしい。

息子を、これからも君の友であることを忘れないでほしい。息子が守った君の命を、どうか大事にしてくれ」

「……はい」

「ありがとう。私の戯言に付き合せてすまないな」

ユウはあの時の、エリックが死んだ時の悲しみを胸に秘めながらも、フォーゲルヴァイデに向けて了解の意思を込めた敬礼をした。自分の勝手だと自覚している糾弾についても含め、フォーゲルヴァイデは謝罪とお礼を同時に告げた。

「ところで話は変わるが、エリナを見なかったかね?」

「え?」

まるで知らないという言い方に聞こえる彼の言動に、ユウは耳を疑った。

「実は、朝から姿が見えないんだ。君は心当たりないか?」

「いえ…僕も今日、エリナに会いにここへ来たんですが…本当にいらっしゃらないんですか?」

おかしい、と思った。あのエリナのことだからここに来ると思っていたのだが、今日はたまたま別の場所にいるのだろうか。でも朝から父親の前にも姿を見せていないなんて。

 

探しに行こうと思ったその時、アナグラ中に警報が鳴り響いた。

「これは…!!」

受付のヒバリが、電子モニターに表示された反応に目つきを変えた。

「ヒバリちゃん、何が起こったんだ!?」

「南部の防壁が攻撃を受けています!」

アラガミ防壁が攻撃を受けていることは別段、珍しいことではない。しかし、この日はいつもとはまるで違ったことになっていた。

「敵は!?大型種が来たの?」

「い、いえ…これは………そんな……」

ヒバリの様子がおかしい。コンソール前のモニターのマップに表示されているマークを見て、彼女はひたすら目をこすったが、驚愕の表情に変化がなかった。彼女にとってもかなり予想外の事態らしい。

「どうしたんだ!?」

「い、今防壁を襲っている敵………

 

オラクル反応がありません!

アラガミではない何かが、この極東支部を襲撃しています!!」

 

 

 

 

ヒバリが言うその『オラクル反応を持たない敵』は、極東支部の防壁外に突如出現した。

外部居住区の人たちから存在感を強く現すその姿に注目が集まった。

「なんだあれ…」

出動要請に真っ先に飛び出たのは、極東支部防衛班に位置する第2部隊。タツミ、ブレンダン、カノンの三人は襲撃を受けていると言う南部防壁にたどり着くと、防壁を攻撃する敵の正体を見て言葉を失う。

「な、なんですか、あれ…」

「まるで、旧時代のアニメのロボットのようだな」

「…」

ようやく口を開いたのはカノン。当然わからないタツミとブレンダンには正解なんて答えられない。

敵の見た目は、アラガミとはとても言えなかった。機械的なその見た目で、髑髏の戦車のような大型アラガミの『クアドリガ』を浮かべたが、全然似てもいないし、クアドリガのように生物的な部位も全く見られない。

わからないことだらけだが、一つわかることがある。

アラガミではないこの『ロボット』が、この極東支部を破壊しようとしている、ということだ。

 

そのロボットの名は…『ジャンキラー』。

 


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