ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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メテオライト開始前

闇のエージェントたちは、暗闇に満ちた煉獄の地下街の一角に隠れていた。

廃列車が幾重にも積み上がって線路が塞がった場所の奥に続く闇の中で、グレイ、バキ、マグニスの三人はただ静かに、『誰か』を待っていた。

これまで彼らは、何度も自分たちの主の邪魔者であるウルトラマンギンガを抹殺しようと策謀を張り巡らせていた。しかし、それらはことごとく失敗し、最後にボガールとディアウス・ピターを融合して生み出したベヒーモスからも餌として、体の一部を食われる始末だった。

今は義手・義足で普段通りに歩くことだけは可能だが、青ざめたその顔には強い恐怖心が伺えた。できれば自分たちが待っているその『誰か』にはこのまま来ないでほしいとさえ思えた。まるで怒られるような間違いを犯してしまい、教師や親からの説教を恐れる子供のようだった。

「…ねぇ、あのお方にいったいどう言い訳する?」

グレイが口を開く。声が震えていて、恐怖に身が裂けそうでいるのが見て取れた。

「Meには、Answerの出せないQuestionだぜ…」

「俺にもわかりっこねぇよ………!!」

主とあがめているだけあって、バキとマグニスにとっても畏怖の対象でもあった。だからこそ彼らは、大車もそうしたように『主の宿敵』でもあるウルトラマンギンガを抹殺しようとした。だが…正義は必ず勝つとでも現実が囁くように、彼らの企みはことごとく失敗した。果たしてあのお方が役立たずの駒を許すだろうかと考えると…その先は最早考えることさえ憚りたい。

すると、三人の前…廃列車の積みあがった通路側の暗闇に、三人は強い気配を感じた。はっきりとした姿は目しできない。だが、彼らはあの闇の中を覗き見て…察した。

自分たちが忠誠を誓い、そしてこの世で最も恐れている存在…自分たちが『主』と呼ぶ存在がここを訪れたことを。

「も、申し訳ありませんわ!ウルトラマンギンガを今度こそ仕留めようと、試行錯誤を張り巡らせていたのですが…奴ら予想以上に運に恵まれていたようで…」

主が自分たちの前に現れたと知るや否や、闇の中にいる主に向けて必死に弁明…いや、言い訳するグレイ。

「ま、Master!MeたちにはまだギンガをKillingするためのProjectを講じていますぜ!もうOnceMore、Meたちにチャンスを!!」

「どんな命令でもお聞きいたします!ですから…どうか…」

三人そろって土下座をして、必死に主に向けて命乞いをする闇のエージェントたち。主のお役に立ちたいというよりも、必死に命乞いをしているだけだった。

しばらく三人は頭を下げ続け、恐る恐るバキが顔を上げる。

すると、三人の命乞いに対して、主からの答えが返ってきた。

「森へ向かえ…?」

そう呟いたのはグレイ。そのように彼らの頭の中に、主からの声が聞こえた。

 

 

 

かつてこの地球に荒神が出現する前に、人類を守る剣でもあった兵器『メテオール』。データ等の回収に成功し、アリサもトラウマを無事克服することができた。ユウの神機も無事修理が完了し、新型神機使いが二人とも完全復帰を果たしたことで、

リンドウの行方不明やエリックの死、ユウの挫折、アリサの身に起きた悲劇。それらの身を裂くような困難を彼らは乗り切り、第1部隊は再び頭角を現す兆しを見せ、下落傾向だった極東支部内の士気は上がりつつあった。

だが、ディアウス・ピターが闇のエージェントの手によって合成神獣へと進化を遂げたこともまた無視できないことだった。

これまでの合成神獣の中でも強敵の部類に位置するベヒーモス。

後のことを考えれば、初めてあの姿を自分たちに見せたあの場で倒すべきだったかもしれない。メテオライト作戦の際は極東地域に生息する数多くのアラガミと共に、奴もまたアラガミでもあるため当然現れることが想定された。だが、奴はスサノオと融合したウルトラマンジャックほどじゃないにせよ、ギンガとしても単独で戦うには危険だった。ギンガクロスシュートを食らってもなお倒れずに生き延び、逆に逆転の不意打ちを仕掛けるほどだ。今度もまた勝てるとは限らない。

だが、こちら側も決して無策で挑むわけではない。

『来堂ホツマ』博士の遺したデータディスク。その中には、彼がアラガミの脅威の中でも必死に守り続けてきた人類救済のための情報が詰め込まれていた。それも、アラガミの偏食傾向を解析し、アラガミには決して……否、あくまで可能な限り食われないように奴らが嫌う素材で作られた特別性のディスクだ。絶対ではないにせよ、それほどのものを作り人類が失ってきたであろう情報を守った来堂博士の、人類の未来を思う強い意志が現れているとユウは思った。

「…で、解析はどれほど進んでいるんですか?」

ユウとアリサは、サカキの研究室を来訪し、彼から話を伺っていた。回収したのは自分たちなので、ディスクの解析状況を直接その目で確かめたかった。

「解析そのものは特に問題はない。ただ、このディスクの中にある情報をもとに再現するのは、結構苦労を強いられると思うよ。当時とは全く異なる素材で、それも限られた時間内、現在で利用できる技術で再現・応用するのだからね」

「そうですか…」

メテオライト作戦までにはどうにか間に合ってほしいところだが、サカキほどの優秀な科学者でも難易度は高いらしい。

「いや、作戦までには必ずみんなが安心して使えるものを用意するよ。各支部からそれぞれのゴッドイーターの他にも、優秀な科学者たちもこの極東支部に派遣されているから不可能ではない。私としても、この人が遺したものを人類のためにフルに活用したいんだ。

来堂博士は…私とヨハンの若い頃の恩師だから尚更ね」

「え!?」

「そのディスクの製作者さんと、サカキ博士たちは…お知り合いだったんですか!?」

突然の告白に、ユウとアリサは驚愕した。まさか、ディスクを受け取る直前に見た、あの映像の老人が、サカキとヨハネス支部長とは顔見知りだったなんて。

「あぁ、君たちが生まれる前…アラガミも姿を現す前のことさ。私とヨハン、後にヨハンと結婚した女性…アイーシャというんだが、彼女と三人で、来堂先生から直接ご教授を受けたんだ。

その時はまだ人類は何万年もの間に培ってきた情報や技術を保有していたのだが、それでも知ることができる知識はほんの一握り。そんな数多の情報の中から、先生は私たちに念を押すように教えていたことがあった」

「念を押すほど教えていたこと?」

「ウルトラマンと怪獣の知識、そして人類がかつてウルトラマンたちとどれほど深い関係だったのか…さ」

昔を懐かしみながら、サカキは当時の…まだアラガミが現れる前に、来堂博士から講義を受けた時の記憶をよぎらせた。

「私たちは、あの人からの教えを人類のために、そしてあの人が強く憧れていたウルトラマンたちのためにも、科学者として努力を重ねて行ったものだ」

「尊敬してるんですね…その博士を」

「あぁ、もちろんだ。できれば君たちにも会わせてあげたかったのだが…ユウ君、君はいまいくつかな?」

「え?18ですが…」

「そうか、ソーマと同じ年齢なのか。だとしたら、君たちが生まれるよりちょっと前の時期だ。あの人が、姿を消したのは…」

ユウの言葉にそのように答えたサカキだが、その先は何も言わなかった。言わずともわかっているのだ。きっと来堂博士は、今頃は…確信した二人は心を痛めた。

「済まない。今の君たちに人の死の話は酷だった。軽率な物言いを許してくれ」

空気が沈みがちになっていたのを察して、サカキは謝った。これまで二人の身に、第1部隊に不幸が降りかかり過ぎていたことには、リンドウとは良き仲でもあった彼もまた心を痛めていた。ユウはいえ、と気にしないでほしい旨を言った。

「ともあれ、私はこのディスクに記録されていたデータをもとに、神機に関連する新たな武装やバレットを再現するつもりだ。必ず君たちの力になれるものを作ると約束しよう。かつての恩師、来堂ホツマの名に懸けて」

「お心遣い、感謝します。サカキ博士」

 

 

 

サカキ博士の研究室を後にし、二人はエレベータに乗って居住区画へと向かった。今日はもう任務もない。このまま自室へ自由時間の予定だ。

「うまく開発できたらいいな」

「サカキ博士が解析している『メテオール』ですね?確かに、あれが完成したら私たちにとって大きな戦力になりそうですね」

ユウの一言に対してアリサが期待を抱きながら言った。サカキはあのディスクのデータをもとに、神機に搭載できるタイプのメテオールを設計している。完成すれば確かに、

「ピターの合成神獣も、ただものじゃないからな…」

「はい…」

アリサもピターだったころからあいつの恐ろしさは重々承知している。合成神獣もアラガミであることに変わりないので、奴もメテオライト作戦中に現れることは明白。メテオールの完成は、奴を倒すためには必須となることが予想された。

「でも今の私たちは、メテオールについてはサカキ博士の解析能力と、技術班がどれほどの状態で再現できるかを願いながら期待するしかできません。

私たちは、私たちにできることをしましょう」

ピターは確かに恐ろしく、そして強い。合成神獣へと進化したならなおのこと。でも、アリサは絶対に倒さなければならないと決意し、強い眼差しをユウに向けた。

ユウはその視線にやや驚きを感じたが、安心したように少し微笑した。

「なんだかアリサ、前にもまして頼もしいな」

「へ?あ、ありがとうございます…」

一時笑みを見せたユウが馬鹿にしているのかと不服に思ったが、寧ろ自分を褒めてきたことに困惑を抱きながらも、少し照れくさそうに視線を逸らした。

「最初に来たときも自信満々だったけど、あの時よりも刺々しさもなくていいと思うな」

「う…あ、あの時の事は忘れてください…!!」

極東支部に配属された頃のアリサを思い出してそのように評価すると、アリサは急に怒ったように赤面した。

「なんで?」

「なんでって…それは……その……」

ユウから首を傾げられ、口ごもりだしたアリサ。すると、エレベータが一時停止し、扉が開く。

「なんだ?新型同士仲良く逢引かよ?」

するとそこには、第3部隊に所属するゴッドイーター、小川シュンが二人を見て嫌な視線と笑みを向けてきた。

「いいご身分だよな。リンドウさんを見殺しにしておきながらよ」

シュンは下卑たとも取れる笑みを見せているが、その目には確かな怒りの炎がちらついていた。

「な…私は…!!」

「私は?なんだよ?まさかリンドウさんを行方不明にさせたくせに悪くないってのか?」

「そんなこと言ってません…!」

大車に操られていた頃ならそう思っていたかもしれないが、正常である今、そんな行き過ぎた傲慢な考えを抱くわけがない。アリサは真っ向から否定した。

「ま、せいぜい足引っ張んなよ。あれだけ威張り散らしやがったんだ。またすぐに壊れたりしたらアラガミの餌になるだけだからな。

んじゃな、口先だけの新型共」

「ッ…!!」

アリサだけでなく、ユウに対しても吐き捨てるようにシュン。アナグラ内へ収容されている、ゴッドイーター以外の人間が住まう居住区画までエレベータが到着したところで、彼は最後まで自分たちを見下した態度を改めないまま降りて行った。

「…ごめんなさい。私のせいで」

シュンが去ると同時にエレベータの扉が閉じたところで、アリサはユウの方に向き直って頭を下げた。何も悪くないはずのユウまで悪く言われているのは、自分の巻き添えによるものだと思っていた。

実をいうと、アリサにとってあの頃…自分以外のゴッドイーターを見下していた頃の自分はあまりにも恥ずかしくてたまらないものだった。精神も脆く、才能に驕って他人を見下し、ただ仇のアラガミを倒すことしか能のない自分。しかもシュンの言うとおり、大きな口を叩いておきながら精神崩壊を引き起こしたこともあるので、シュンの悪辣さを混じらせた言動を否定できなかった。

「アリサが悪かったわけじゃない。シュンは腹いせをぶつけてきただけだし。

それよりアリサ、これからどうする?」

シュンのあんな態度なんかにいちいち構っていても意味はない。適当に流すことにして、ユウは首を横に振ると、アリサにこの後の彼女の予定を尋ねる。

「私、これからサクヤさんのところへいきます。ユウはこれからどうしますか?」

「僕はこれからタロウに訓練を見てもらうよ。メテオールだけじゃない、僕自身も強くならないとギンガも力を発揮できないかもしれないから」

ユウは、ギンガに選ばれたとはいえ、実際には彼の力をただ借りているだけの身だと自分を捉えている。自分が強くならなければ、ギンガも自分の力を発揮しきれないかもしれない。または自分が身体を強化すれば、自分が変身したギンガもまた同様に強くなれるのではと考え、訓練に積極性を強めたのだ。

その時、ユウの持つ通信端末に着信音が鳴った。

 

 

コウタ

件名:時間ある?

 

俺の方の訓練が終わったら俺んち来いよ

母さんの料理食って、作戦に備えようぜ?

アリサも誘っとくよ

 

 

食事の誘いだった。

コウタの母親と妹。自分にはもう取り戻せない繋がり。その点においてユウはコウタの事を羨ましいと素直に思えてならない。でも、外部居住区を守る装甲壁は何度も破られている。今度こそコウタの家族がアラガミの餌食にならないとも限らない。ヴェネやエリックのように…

だから、今度の作戦は負けられない。もう誰も失わないためにも、タロウからの訓練に力を入れなければ。

「そうだ。そのタロウは今は…」

そう言えばこの日、タロウは用事があると言って別行動をとっている。何をしに行ったのだろうか。

「ここにいるぞ、ユウ」

「うお!?ちょっと…脅かさないでよ…」

何をしているのか気になったところで、突如タロウがユウの目の前に浮遊する形でテレポートしてきた。

「いやぁすまん。どうしても気になったことがあってな」

「気になったこと?」

「大車ダイゴのことだ。直接あの男に話を伺いに行っていた。だが、顔を見ることもできなかった」

タロウは大車から、これまで現れた合成神獣の他にも、彼と同じ闇のエージェントや、自分や他のウルトラマンたちを人形に変えた彼らの親玉の情報を聞き出そうと考えていた。しかしタロウが今伝えたように、大車が捕らえられている独房がどこにあるかわからず、探し回ろうにも今の自分がアナグラ内部でウロウロしていたら、『怪奇!動く赤い人形』という噂がたって動きにくくなる。

「大丈夫だったの…!?」

大車の名前を聞いて、ユウは目を見開く。

「しかし奴は厳重に拘束されているんだ。ダミースパークも取り上げられているし、大丈夫だろう」

確かにそれなら、ひとまずは心配はなさそうだに思えるが、あの男がこれまで行ってきた悪行を考えると、どうも気が気でならなくなる。平気でとち狂ったことまでほざいて自己正当化までしてきた。神の救済とかだのなんだの…このままなにもできないままでいてほしいところである。

「…救済、か」

「ん?どうかしたのか?」

「アリサを幻影の世界から連れ戻そうとしたとき、大車が言っていたんだ。この星は、オラクルによる神の救済を待つだけ…って」

「オラクルによる救済?どういう意味なんだ…?」

オラクル。おそらくアラガミを構成しているオラクル細胞のことを指し示している。だがアラガミは、所謂天災的な脅威。それを肯定した何て、一体奴は何を考えていたのだろうか。

「…いや、今はそれよりも体を鍛えることを考えよう。もう作戦まで時間がない」

だがオラクル細胞のことなんてあまり詳しくない。考えても、奴の狂言なんかにいちいち振り回されてなんていられない。

今の自分はゴッドイーターであり…ウルトラマンなのだから。

「そうだな。ピターの合成神獣がまた現れるのも予想がつく。ユウ、作戦までの間さらに私が一流のウルトラ戦士になれるようビシバシ鍛えるから覚悟したまえ」

「お手柔らかに、タロウ教官」

 

 

 

訓練スペースにて、銃型神機使いたちが集められていた。メテオライト作戦で使うバレットのシミュレーションを行うためである。

そのバレットの威力は、予想を超えたものだった。

「これで、練習用なんですか…?」

訓練スペース内の高台から、天井に打ち上げた金色の弾丸が雨のように落ちてダミーのアラガミたちを貫く。遺体となったダミーたちがホログラムらしく消滅したのを見て、コウタが驚きを隠せずに呟く。

「さすがはメテオライト。技術班もすごいものを作ったのね」

サクヤも驚きを感じていた。

「とすると、この前の任務で回収したデータにあった、『メテオール』はこれさえも超えているのかしら?」

「メテオール?」

聞きなれていない単語を耳にして、傍にいた第2部隊のカノンが首を傾げた。

「リッカが今張り切って取り掛かってる作業があるって聞いたんだけど、もしかしてそのメテオールのことかしら?」

興味を抱いたのか、さらに第3部隊のジーナも話に加わってきた。

「でも、あれにはリッカたちも手を焼いていると聞いてるわ。まだサカキ博士の解析も途中らしいし、間に合うのかしら?」

「…だったら、それを利用して設けることは期待できそうにないな」

現在サカキがディスクの解析を急いでいるとはいえ、完全な状態ではない。その範囲内でのディスクのデータにあった兵器の再現が至難であることは想像に容易い。ジーナにもその辺りは伝わっていたようで、それを察したカレルは一人勝手に落胆したように愚痴をこぼしていた。守銭奴でも有名とされている彼のことだから、開発中のメテオールを利用して討伐が困難なアラガミを倒して報酬をがっぽり儲けるという魂胆だろう。

「でも、そのメテオールがないとしても、私たち自身でバレットを生成することは可能よ。

実はちょっと自信作を思いついて、今度のメテオライト作戦で試してみたいのがあるんだ」

フォローするように口を挟んできたのは、グラスゴー支部から夫のハルオミと共に極東に来訪してきたケイトだった。

「バレットの生成…」

小さくつぶやくと、コウタはサクヤたちの方を振り返って頭を下げだした。

「あの…みんな、俺にもバレットの作り方を教えてくれませんか?

俺…リンドウさんがいなくなったときとか何もできなかったし、役に立ちたいんです!」

自分は、思えば第1部隊の中でも、目立った何かを持ち合わせていない。使っている神機が、かつてツバキが使っていたこともあって、何度もチューニングを施された年季の入った優れもの、というだけだ。しかも実際、ユウたちと違って本当に何もできていないところも多く、それが少しずつ彼の中でコンプレックスになっていた。

だから、役に立ちたい。外部居住区にいる母と妹のためにも、仲間のためにも。

「…そんなにかしこまることないわ。私も同じ思いだから」

「お姉さんでよければ手伝うわ。みんなのためにも、いいバレットを開発しましょう」

サクヤが笑みを見せ、ケイトもまたコウタの要求に快く頷いてくれた。そして、やっぱり年上の優しい美人っていいなぁ…などと、自分でも不謹慎だとは思いつつも綺麗な銃型神機使いの美人なお姉さんたちからの講習を受けられることにコウタは喜びを覚えた。

「…別に構わんが、俺からの講習は安くないぜ?」

「…そこは譲歩してくれよ…」

しかし、カレルのその一言で一気に現実から引き戻され肩を落とした。

「わ、私も誤射しないバレットを作りたいです!」

「…言いにくいんだけど、あなたはバレットを作るより、腕を磨いた方が先決だと思うけど?」

「…デスヨネー…わかってました…」

カノンもさらっと話の輪に入って、自分の弱点を打ち消してくれるご都合主義なバレット製作を思いつくも、ジーナから冷静に突っ込まれて凹んだ。

 

 

 

極東支部中央施設の屋上。

マットが敷かれ、そのうえでユウは高く飛び上がった。

「はぁ!!」

ユウはタロウから、かつて彼が使っていたというフォームを教え込まれていたが、一回転、二回転、三回転。空中で一回飛んでる間にそれを三連続で行うというのは流石にしんどいものだった。オラクル細胞を取り込んでゴッドイーターとなったからこそできるのだろう。ただの人間だった頃なら絶対にできない芸当に違いない。しかも教えてもらったからと言って一発でできるものでもなかった。

「せい、は…うわああ!!」

二回転目に入ろうとしたところで、うまくバランスが取れなくなり、ユウはマットの上に落下し尻餅をついた。

「痛てて…」

お尻をさするウルトラマンの変身者。そう思うと自分が情けない絵面をさらしている気がする。

「甘いぞユウ。もっと体を回転させろ。わずかな恐怖心も技を発動している間は捨てないと成功しないぞ。もう一度だ!」

「は、はい!」

タロウはツバキとはまた違った厳しさがある。ツバキは結構なプレッシャーを与えて奮い立たせるタイプだが、タロウの場合は付きっきりで手解きする。多忙の身でもあるツバキより長く細かいところを見ることができる。

再度、ユウは挑戦する。高く飛び上がり、再び一回転、二回転…と回ったところで、

「うご!?」

今度は頭からゴチン!と音を立てて落ちた。

ヌオオ…と苦悶の声を漏らし座り込んで頭を抱えるユウ。滅茶苦茶後頭部が痛い。たんこぶも出来上がっている。

「だ、大丈夫か…?」

タロウがユウに近づこうとすると、その後頭部にすごく冷たい感触にユウは悲鳴を上げた。

「冷た!?」

「おぉ、なかなかいい反応だ。でもそこにいるのがかわいい美女じゃないのが残念だ」

振り替えると、ジュースの入った瓶を持っているハルオミの姿があった。それにともないタロウはハルオミに見つかる前に、近くのベンチの影に隠れた。

「ハルさん…何するんですか。お陰でたんこぶがものすごく痛くなりましたよ」

それに「かわいい美女だったら」とは何事だ。ケイトという知的眼鏡美人の奥さんがいる癖に…と付け加えたくもなった。

「そうか?たんこぶができた時は冷えたもんを患部に当てるのがいいって聞いたぞ」

詫びれることなく、ハルオミは笑ってユウに瓶を手渡す。中身はラムネだった。こういう時はスポーツドリンクが向いていると思うのだが、などと文句を垂れる気にはならなかった。どうせハルオミのことだから風に靡く薄のように流すと予想がついていたから。

いただきます、と一言言って、ラムネをのむユウ。やはりシュワっと喉の中で泡が立つのが感じ取れる。…ウルトラマンなだけに、などと心の中で呟いたのは内緒だ。

「で、なんでハルさんがここに?」

「お前さんがここに上がっていくのが見えたからな。もしかしたら隠れて逢い引きしてたのかと期待してたんだよ。そしたら何てことない自主練だったとはな」

「あんなことがあったんですから当然ですよ。もうあんなことが起こしたくないから、こうして自主的にも訓練してるんです」

「なるほどな…そりゃそうか」

リンドウエリックの身に起きた悲劇。ハルオミも思い出す度にいつものおどけた調子を出し辛くなるほどの出来事だ。

「まぁでも、あんま無理に根詰めても当日うまく動けないからな。ほどほどに体を解しとけよ、帰ってきたときに自分が死体になってました、なんて洒落にならないからな。俺とケイトもグラスゴーに残ってる後輩一人に留守番任せてるからな。そこは絶対に譲らないように気を付けないとな」

「大丈夫です。ありがとうございます」

肩に手を乗せてきて身を案じてきてくれたハルオミに、ユウは軽く会釈した。

「で、話は変わるけどよ…」

さっきと売って変わって真剣な視線を向けてきたハルオミ。その視線にユウは思わず唾を飲み込んだ。何かゴッドイーターとしての重要な言葉を向けてくるのか…!?

…と、思ったらそんなことなかった。

 

「なあ、お前女の子の外見を見る時、どこを見る?」

 

「結局そこに行き着くんですか!?」

さっきまでちょっとかっこよく兄貴分のように接してきた矢先に、残念な話題を持ちかけてきたハルオミに突っ込むしかなかった。最初に会ったときから知っていたが、噂通りのセクハラ先輩である。…もしや、さっきハルオミが口にした、グラスゴーで留守番している後輩も同じ感性だったりしないだろうか…?

「言ったろ?無理に根詰めてもって。だからこうして緊張を解すトークを持ちかけてんじゃないか」

「せめて健全な範囲の話題とか思い浮かびません!?」

「で、どこを見てるんだ?」

「どこって…そんなこと…」

言えるわけないと言おうとしたが、男の本能がこの悪いタイミングで呼び起こされたのか、ユウは思い出してしまった。

アリサの大きくて柔らかい胸を、不可抗力とはいえがっしりと鷲掴みにしてしまったことを。

(うわああああああ!こんなときに何を思い出してるんだバカヤローーーーーー!!)

「んんー?どうしたんだ若人。もしや…」

「なにも思い出してなんかないんですからね!!」

「そう意固地になることないさ。心を裸にして、お兄さんと一緒に行こうじゃないか。聖なる探求の道へ…」

「お願いだからそっちの道に導かないでください!」

顔を覆った自分の反応を見て、さらに詰め寄ってくるハルオミをかわすのに体力を無駄に浪費したユウだった。

飲み込まれたら、あの時のアリサの蔑むような目に晒される…と自分を思い留めながら。

 

 

 

 

「やはり、ダウンロードしたパスワードクラッシュソフトじゃ、ロックの解除なんて無理か…」

メテオライト作戦前の、銃型神機使いたちが総出で参加した射撃訓練が終わった後、サクヤは自室に戻って、部屋に備え付けられたターミナルを操作していた。冷蔵庫に隠されていたあのディスクを調べるためである。しかし、ディスクにはロックがかけられていて、解除にはリンドウの腕輪が必要だった。だが知っての通りリンドウは行方不明。それ以外で解除の方法があるとしたら、そのロックを無理やり破壊するアプリ等を探すしかない。だがそういったソフトは大概ウイルスソフトであることも多く、もし本当にロック破壊ソフトを見つけても、この腕輪認証という厳重なロックを解除できるとは限らない。

しかし、気になってくる。アリサにアラガミを誘引する装置を渡し、怪獣を使ってリンドウを失踪に追い込んだという大車。その手口、目的、動機は一切わからない。なんのためにあの男はこんなことをしたのだろうか。不透明な点が多すぎて、わからないことが多い。

考えていると、サクヤの部屋の扉をノックする。

「誰?」

気がついてサクヤは扉の方を振り替える。

「すみませんサクヤさん、私です。少しお話ししたいことが…」

「アリサか…入ってきていいわよ」

「失礼します」

サクヤに迎え入れられ、ソファに腰かける。サクヤはコーヒーの入ったマグカップを二人分用意し、ソファに座った。

「で、話って言うのは?」

「サクヤさん、なにか償えることはないでしょうか…?」

コーヒーの水面を眺め、アリサはサクヤに向けて口を開いた。

「ここに来る前、シュンさんにリンドウさんのことをきつく指摘されました。やはり、まだ私のことを認めていない人たちがいるようです。でも私の信頼よりも、リンドウさんのことが……」

アリサはシュンにきつく指摘を受けたことで、リンドウ失踪の原因が自分であることを再認識され、リンドウとは親しかったサクヤたちに対して強く罪悪感を覚えた。でも嘆き悲しむだけではいられない。サクヤに、自分の意思を吐き出したくなったのだ。

「リンドウさんやパパとママの仇でもあるピターを討ったところでリンドウさんが戻ってくるわけでもないことも事実です。ですから、他に何か償えることを………」

以前の高圧的な彼女からは想像もつかないような素直な態度。これがアリサの本当の姿なのだろうとサクヤは改めて思った。

「アリサ、あなたがが償うことなんてないわ。あなたは元々邪な輩に利用されてしまっただけなんだから」

「私はそうは思いません…私がもっと心を強く持てば、大車先生につけ入れられる隙を与えなかった、リディア先生だって私のことで苦しむこともはずですから…

だから、サクヤさん…リンドウさんと親しかったあなたにも何かをしてあげないと気が済みません!」

アリサは頑なに自分に責任があることを譲らなかった。真摯に自分が向き合わなければいけない責任と向き合おうとしている。このまま何もさせないでいるのも、かえってアリサが思いつめるかもしれない。

『周りに頼ってみろ』。ツバキのそんな言葉が頭をよぎった。…なら、ひとつお願いでもしてみるか。

「そうだわアリサ、これを見て」

サクヤは、リンドウが隠していたディスクをアリサに見せた。

「それは?」

「リンドウが残した手紙よ。残念だけど、彼の腕輪認証のロックがかけられてて中を見ることができないの」

リンドウがサクヤの部屋に隠していたとされるそのディスクを見て、アリサは目を見開く。なぜ彼がサクヤの部屋にこんなものを隠していたのか。

「あなたを利用し、リンドウを失踪させた大車医師の目的がなんなのかは明確にわからない。でも、もしかしたらその理由がこのディスクの中に隠れているのかもしれない。

このディスクの中を見るためにも、リンドウの腕輪を一緒に探してほしいの。

これは償いとしてではなく、仲間としてのお願いよ」

「…!手伝わせてください!」

願ってもない願いをサクヤから頼まれ、アリサは即座に返答した。

 

 

 

 

「誘導装置の複製品を設置し、アラガミを引き寄せる…か」

周囲に生い茂る木々を見て、マグニスが口を開く。

アラガミがはびこるこの世界で森が生い茂っている場所などないに等しい。にもかかわらず森が生えているのは一箇所しか該当しない。

リンドウ失踪直後にユウたちが訪れた、あの山岳地帯の集落だった。そばには、ダムの水が貯水されてできた湖が見える。

三人の傍らには、極東支部のゴッドイーターたちがメテオライト作戦のために極東エリア各地域に設置した、アラガミ誘導装置とよく似た装置が設置されていた。複製といっていたところを考えると、彼らはその誘導装置を新たに作っていたか、または『主』から与えられたようだ。

「装置を起動すると、メテオライト作戦エリアからアラガミたちは離れ、非戦闘員が密集するこの森の集落へと流れる。そうなれば、ウルトラマンギンガやゴッドイーターたちはこちらへ向かわざるを得ない。その間に極東支部を、別の合成神獣を仕向けて…制圧。

さすがは主ね。敵の本拠地を直接狙えば、さすがのウルトラマンでも今度こそお終いね」

「あぁ、今の奴はゴッドイーターのBOYを器にしている。偏食因子を定期的に摂取しないといけねぇあのBOYが、それができなくなれば、たちまちBOYはアラガミ化しHUMANとしてはDEATH…ギンガは新たな器を探すか、またはそのまま器を見つけられず、Masterの野望が果たされるのを、FingerをくわえてSeeingだけ…ってわけだな」

「でも、どうせ確実にギンガを殺すなら、ここにいる人間共を直接人質に取るのもいいんじゃなくって?」

「それは俺も考えた。だが、その場合人質を取り返された後で俺たちのほうに隙が生じやすい。俺たちが万が一人質を取ってギンガを一時行動不能にしても、別のほうから邪魔が入るのは目に見える」

「邪魔?」

「忘れたのか?ウルトラマンタロウだ。

奴はあの姿でも強力な念力を発することができる。つまり俺たちの動きを封じている間に人質を取り返されて返り討ちだ。かといってタロウを先に確保しようにも、あの百戦錬磨のウルトラ兄弟が二度もそんな隙を見せるか?」

「つまりこのPlanがBestってことだ」

マグニスからいわれ、グレイはあぁ、と相槌を打った。自分たちの主に人形にされた今のタロウは、存在さえも忘れられるほどに侮られていたのである。でもそのどこかなめてかかっている自分たちの姿勢が、これまでの失敗の連続に繋がっていたのかもしれない。

「後はこれを湖の中に落とすぞ」

マグニスはすぐさま、誘導装置を湖の中に落とした。後は、メテオライト作戦の日を待つだけだ。

「これが最後のチャンスだ。これに失敗したら、俺たちにもう未来はない」

「えぇ、私たちも今度は慢心も油断もなしで行きましょう」

「今度こそウルトラマンギンガをDeleteしてやるぜ」

三人の闇のエージェントたちは、もうこれまでのように白星をギンガに譲るつもりはなかった。いや、元からくれてやる気はなかったが、自分たちの油断がこれまでの失敗の原因といえた。だから今度は容赦しない。

自分たちにチャンスをくれた主のためにも、ウルトラマンギンガを倒す。

絶対になさなければならない使命に、彼らの士気と意気は高揚していた。

 

 

 

 

 

 

 

だが…それはかなわない未来だった。

 

 

 

 

 

 

 

それも、ユウたちにとっても、まして闇のエージェントたちにとっても予想外な形で。

 

 

 

 

 

 

 

アリサを利用し、闇のエージェントとしてウルトラマンを始末しようとした男、大車。

彼はごく一部の者でさえも知り得ない独房内で、両手両足、そのすべてが動かせないように十字架の形をした拘束ベッドの上に寝かされていた。白衣を剥ぎ取られ、囚人らしく黒い縞模様の服を着せられていた。

大車はここで拘束されて以来、ずっとこの独房の中でもがき続けている。

「もご…もごごっが…!!」

出せ!ここからだせ!

口に着けられた、遠隔操作で口の前の部位を開け閉めできる機械のマスク越しに大車はわめき続ける。だが誰一人、彼の声を聞く者はいない。いたとしても耳を傾けようともしないだろう。

そんな時、大車のマスクが自動で開き、彼の汚い口が露になった。

「しばらくぶりだな。大車ドクター」

同時に大車の元を来訪してきた男がいた。

「し、シックザール…!」

ヨハネスの突如の来訪に、大車は目を見開いた。

「私の頼みを途中まで聞き入れてくれていたようだが、途中からやはり本性を現したか」

「…知っていて私をそのまま使っていたということか…」

「まだ君の力が必要だったからこそだ」

「…そうやって、ウルトラマンをも従え、あのお方に対抗するつもりか。はははは…!」

大車は冗談でも聞いたように笑い出した。

「『雨宮リンドウの暗殺を私に依頼した張本人』が、よくもまぁ我が物顔でウルトラマンに協力できるものだな!」

これを他の者たち、ユウ、アリサ、サクヤ、そしてツバキが聞いていたら耳を疑っていただろう。自分たちを厚く待遇したはずの、支部長であるはずのヨハネスが、あの大車にリンドウの暗殺を命じた張本人だったなんて。

大車の指摘に、ヨハネスは済ました顔のまま言った。

「そう、私はリンドウ君の殺害を君に依頼した。たとえこの世界にウルトラマンたちがいなかったとしても、アラガミを根絶するためなら手を汚すこともいとわない。悪と罵られても仕方ないだろう。

だが大車君。私はこの地球…いや、宇宙の未来を憂いている」

「地球の未来を憂うだと…!ならばなぜウルトラマンのような似非救世主どもに味方する。あいつらがいくらがんばったところで、糞の様な異星人共は消えてなくならないぞ」

「その糞のような存在は、我々人類…特に君自身も含んでいるのではないのかね?自らのためだけに地球を邪悪な存在に売り渡す…自己保身と醜い上昇志向の塊である君が」

「私はあのお方に選ばれた闇のエージェント、大車だぞ!私のやっていることは正しい!何も間違っていない!あのお方は、この宇宙を確実に平和に導く…そうだ、アラガミのような神の姿を模倣しているだけの化け物とも、貴様ら人間のようにいつまでも弱く愚かな存在とも違う!私は真の神に近づいた唯一の存在なのだぞ!あのお方と、あのお方に真の忠誠を誓う私こそが!!」

傲慢さと醜さを何一つつみ隠さず、大車はこれまでの悪行を棚に上げて自己正当化を繰り返した。当然、ヨハネスの視線は大車の言葉を聴けば聞くほどに冷ややかになっていく。

「…大車君…君は歴史の授業でこんな男の名前を耳にしたことはないか?」

「何…?」

「『蛭川光彦』…凄腕のジャーナリストであり、かつてウルトラマンに守護された身でありながら、ウルトラマンを…いや、この地球を邪悪な異星人に売ろうとした大罪人だ」

ヨハネスは大車の周りをゆっくりと歩きながら語りだした。

「彼は、『メビウス』という名のウルトラマンに幾度か命を救われたことがあった。しかし、彼はその卓越したジャーナリストとしての腕を、自分の利益のためだけに利用した。時に捏造記事をでっち上げて有名人を芸能界から追いやって多額の利益を得たり、同じやり方で地球防衛チームを失脚させようとさえした。そんなことをすれば自分を守る盾がいなくなり、悪の存在にこの星を乗っ取られてしまう…そんな簡単なことさえも無視してね。

あまつさえ彼は、ある強力な星人がメビウスを引渡しを要求し、地球の人間すべてに降伏を持ちかけてきた時、メビウスが当時防衛チームの一人として隠れて活動していたことを世間に暴露した。

星人には自分たちの力では逆らえないかもしれない。犠牲を恐れた地球人はメビウスを引き渡すべきか、選択を迫れた。自らを救ったはずのメビウスに逆恨みしていた蛭川は、このままメビウスも防衛チームも一泡ふかせられる…何一つ正統性のない復讐を果たせると思っていた。

だが…当時の防衛組織の総監の言葉に動かされ、メビウスは引き渡されずに済み、彼と防衛チームたちの奮戦を経て、その星人は倒され地球は平和になった。

その後、蛭川は『地球の恥さらし』『ウルトラマンと人類全てを裏切った屑』『吐き気を催す邪悪』…さまざまなバッシングを受け心を病み…この世に逆恨みしたまま自殺したという」

衝撃の事実の連続を口にしながらヨハネスは大車の周りを歩きながら、全てを言い終えたところで再び大車の方に向き直った。

「君はまさに、その蛭川と同じ…哀れだ。君は忠誠という言葉で自分こそが正義だと自身に暗示しているだけだ。実際は自分だけ生き残りたがっているだけ…

まったく実に哀れだ……自分がいずれ、切り捨てられるだけの存在だとも知らずに…」

「切り捨てる…?は、どうせ貴様の計画の話だろう?例の…エイジス計画の裏に隠している『あの計画』のことだ」

「…くっくっく。『あの計画』?」

ヨハネスは肩を震わせて笑いをこらえ始めた。

「貴様…何を笑っている」

まるで、自分の言っている言葉的外れだと受け止めているように思われ、大車が顔をしかめる。

「くく、まぁいい…これ以上話すと君の絶望を促すだけだ。さすがにその先を話すと君がさらに哀れになってしまう。

それよりも本題に入ろうか」

「俺の質問に答えろ!若造が!」

「…君こそ立場をわきまえたまえ。今君の命を握っているのは私だ」

ヨハネスは、ポケットから取り出したリモコンを見せ付けると、その中央に埋め込まれたスイッチを押す。瞬間、大車のマスクを起点に、部屋を照らすほどの電流が大車の体を駆け巡った。

「あががががががががががががが!!!!?…っが…あ…」

リモコンのスイッチを押して電撃がとまったところで、ヨハネスは冷淡に言った。

「私に逆らったと判断すれば、君が身につけられているマスクに仕込まれている電流装置が起動。今のはほんの小さな電撃だが、出力を上げれば君の顔を黒こげにする」

大車は青ざめた。自分もよく知っている。こいつは、やると決めたら平気でやる。人に死を強いることにも躊躇を示さない。自分より年下で才能がちょっとあるだけと思っている相手に、『あのお方』のご加護を理解できない愚かな若造と見下していた相手に命を握られている屈辱以上に、彼は死の恐怖で何もできなくなった。

「…奴らにどこまで話したか、奴らは次に何を企んでいるか、全部話してもらおうか…さもなくば…」

自分が選ばれているものだと思っている大車ダイゴ。今でも彼は信じていた。いつか自分は、自分を選んでくれた『あのお方』の手によって救われると。

だが、ヨハネスは確信していた。そんなことは絶対にないと。そんな簡単に気づきもせず、ただひたすら自分のありもしない栄光の未来を信じ続ける大車を、心の奥底で軽蔑した。

 

(どこまでも…愚かな男だ。

 

…いや、愚かなのは、私を含めた人間全て、か…。

 

もしそうだとしても、私は…)

 




○NORN DATA BASE

・来堂ホツマ
『ウルトラマンギンガ』第1期に登場した、主人公来堂ヒカルの祖父。降星町の神社で神主をしている。
本作での彼は原点とは別次元の存在なのでヒカルという孫を授かっておらず、来歴も異なる。
学生時代のサカキ、ヨハネス、そして後にヨハネスを結ばれる女性アイーシャの恩師。彼の行う講義を経て、当時既に時代と共に伝説となりつつあった怪獣やウルトラマンのことをヨハネスたちは知ることになった。他にも地球防衛軍の科学兵器にも精通している身でもあったため、かつての防衛チーム『GUYS』の最強の兵器『メテオール』のこともくわしかった。
アラガミの出現後の生存は確認されていないが、アラガミによって世界の環境が激減したことで体を壊し、持病を患って自分が長くないことを悟る。自分が死ぬ前にせめて、人類がかつてのように地球で安心して暮らせるようにするため、メテオール等のデータを保存したディスクを遺した。だがアラガミの存在に駆けつけて、既にフェンリル内部に邪悪な宇宙人が入り込んでいたことに気付いた彼は、奴らに貴重なデータを奪われたり破壊されないために、わざと人気のない、既に壊滅した防衛軍基地にディスクを隠した。それからの彼の動向は全くの不明となっている。


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