ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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ボロボロの翼でも(前編)

病室から失踪したアリサを探すのをきっかけに起きた、大車との新たな戦いは、無事アリサを救出することで幕を下ろした。

しかしその裏でウルトラマンと合成神獣の戦いも起きていたことは、極東支部の者たちの中で知る者は誰もいなかった。…ただ一人を除いて。

「アリサ君は無事だったのか?」

「はい。同時に、極東内にアリサを狙って侵入した大車に誘拐されたところを、神薙上等兵が救出、大車を拘束したそうです。アリサはその時には、意識が十分に回復していたとのことです」

「では次に…大車君は今どうしている?」

「アリサ奪還を阻止しようと神薙上等兵と乱闘になって負傷したらしく、今は厳重な監視の元で治療を受けています。その後はそのまま懲罰房の牢獄にて監視をつけて拘束させる予定です」

逃がすわけがない。大車はツバキ個人としても許せる男ではない。

「そうか、ご苦労だった。オペレーション・メテオライトの憂いの一つがこれで消えた。そのまま彼を逃さないようにしてくれ」

ツバキから報告を聞いたヨハネスは、大きなリアクションは示さなかったが満足げに頷いた。大車はフェンリルを裏切った卑劣な裏切り者。管理下において置かなければ、次に何をしでかすかわかったものじゃない。奴の行いとその裏にある、悪事の理由などには大体察しがついている。故に放っておけば、こちらの害となるのは目に見えている。

「ところで、アリサ君を発見した神薙君に怪我などの異常はなかったかな?」

「神薙上等兵に怪我は見られませんでした。至って体調は良好、神機さえ稼働できればすぐにでも任務に復帰できるでしょう」

「それならよかった。実は、彼の神機をすぐに修理させようと思っていたところでね」

「え…?」

ツバキは耳を疑う。

「実は、我が極東支部はアリサ君のものを除いて、新型神機を二本保有している。少しでも新型神機を扱える適合者がほしくてね、少し無理をしたが予め新型神機を二本手に入れていた。そのうちの一本が、神薙君が適合した新型神機だ」

ツバキは驚く。新型神機はまだ開発されて間もなく、本数も多くはない。そんな新型を、この男はロシア支部から引き抜いたアリサの分も含め、三本もこの時期に確保していたのだ。

「もう一本のパーツの一部を、神薙君の神機にそのまま移植させておくよう、修理班に連絡しておいた。ツバキ君、君は神薙君の訓練状況を見て、彼が常に最高のコンディションで任務に当たれるように見ていてほしい。

1週間後、その日に延期させていたオペレーション・メテオライトを再会する。前日には現在ここにいる全ゴッドイーターたちはブリーフィングルームに呼び出すようにしてくれ」

「…了解しました」

この男はフェンリル創設にも関わっていたと聞いている。だから三本もの貴重な新型を確保できただけの権力もあるのだろうか?

ヨハネスからの命令に承諾しつつも、彼に対する確証を得ようにも得られない疑惑がツバキの中で渦を巻いた。

 

 

大車との戦いから二日過ぎた。

アリサが無事に見つかり、さらに大車も極東支部によって厳重な監視の下拘束された。無事だったアリサもメディカルチェックを受け、一時は現隊復帰が危ぶまれるほどに精神を乱されていたが、検査の結果心身ともに問題はなかった。…が、それはあくまで普通に生きられる上での判定。ゴッドイーターとして戦えるかどうかまでは別問題だった。

「はぁ…はぁ…!」

訓練スペースにて、アリサは激しく息を弾ませていた。目の前には、コクーンメイデンの姿をしたダミーアラガミが立ちふさがっている。

訓練スペースの床から3階の高さには、全体を見下ろせる防弾ガラスで張られた部屋があり、ユウとタロウはそこからアリサの訓練の様子を見守っていた。

「ちょっと驚いたな。アリサが、あんなこと頼むなんてね」

ふと、ユウが呟く。大車の洗脳の影響もあったとはいえ、彼のアリサに対してどうもプライドが高いイメージを持っていた。そんな彼女が、これまでの行いと態度から打って変わって自分に頼みごとをしてきたのが衝撃だった。

「私はそうは思わなかったよ。あれだけのことがあって変わろうと思わない人間などいないだろう」

タロウは寧ろ頼みごとをしてきたことを当然だと思っていた。

 

 

事は数十分前。

「私に、戦い方を教えてください!」

退院してすぐに、ユウの部屋を訪れたアリサは彼にこのように申し込んできた。

「僕に?どうして?」

思わぬ要求にユウは目を丸くした。さっきも言ったように、アリサはプライドの高いイメージがあったから頼みごとを申し出ると思わず、理由を尋ねる。

「知っての通りだと思いますが、私は…ずっと復讐のために戦って来ました。でも、ただ目の前の敵を倒すだけじゃなく、今度こそ自分の意思で大切なものを守れる強さがほしいんです!」

アリサには、まだ大切なものがこの世に残っている。恩師であるリディア、そして自分をもう一度光の下に導いてくれたオレーシャとの約束。

一度は引退だって考えてもアリサを責められない。両親と親友を立て続けにアラガミに食われるという、あれだけ辛いことを経験したのだから。これ以上危険な戦いに身を投じずともよいのではとも思える。

「…」

しかし、彼女の目は前のような深い闇のような冷たい目ではない。強い光を宿したアリサのアクアブルーの瞳を見て、ユウは彼女の意思が固いことを悟った。

「うん、力になりたいのは山々なんだけど…僕じゃあまり力になれないんじゃないかな。神機だって今は修理中だし」

「そんなことありません!ウルトラマンでもある神薙さんは、私が理想としている強さを持っています。だから、あなたに…」

「うーん…」

神機も壊れていて、まだ人にものを教えると言うにはあまり熟練しきれていない。そもそも自分自身がウルトラマンな訳ではなく、あくまでギンガの力をお借りしてるだけだ。だがせっかく立ち直ったアリサの頼みを無下にするのも気が引ける。どうしたものかと悩むと、アリサがかなり落ち込んだ様子を露にしていた。

「や、やっぱり…私なんかの頼みなんて聞きたくないですよね。私、あんなに酷いこと言ってましたし…」

「うわあああ!そんな泣きそうな顔しないで!!」

「な!だ、誰が泣きそうですか!変なこと言わないでください!」

泣きそうだと言われ、思わずこれまでのような意地っ張り具合を表に出して反発するアリサを宥める始末。落ちつかせるのに少し時間を要した。

「す、すみません。取り乱してしまいました。でも、もう泣きませんから!」

しばらく…と言ってもそんなに長時間というわけではない。ようやく落ち着いたものの、変わらず意地を張って見せるアリサに、ユウは苦笑いを浮かべる。アリサはその顔を見て面白くなさそうに頬を膨らませた。

「悪かったから、そんなに睨まないでよ…。

ただ、さっきの話だけど、僕だってまだ未熟だよ。だから教えられることも多くない。寧ろこれから学ばないといけないことも山ほどあると思う。」

「そうですか…」

「だから、アリサ。僕も君と同じ気持ちだ。一緒に学んでいこう?」

「!ッあ、ありがとうございます…!」

ユウからそのように言われ、アリサは少し驚いたように顔を上げながらも、少しだけ嬉しそうに笑みをこぼした。

「神機の扱い方については、他のゴッドイーターたちにいろいろ聞いて回るのがいいと思う。サクヤさんや、防衛班の人たちに聞いてみたりとかもいいと思うけど…」

「サクヤ、さん…ですか…」

サクヤの名前を聞いて、アリサの表情が不安に満ちる。

そっか、そうだったな…ユウはアリサが暗くなった理由を察した。リンドウが失踪した際、一番取り乱してしまったのはサクヤであることはアリサも聞き及んでいた。あの日、両親の仇でもあるディアウス・ピターをはじめとした新種のヴァジュラたちの群れがいた。それだけならまだ切り抜けたかもしれないが、彼が失踪した一番の原因は、あの状況で自分が大車によってボガールにされてしまったのが一番の要因だと、アリサはサクヤに対して罪悪感を強く抱いた。

「…わかった。神機の扱い件は、僕の場合はまだ修理中ってこともあるし、後にしよっか。

じゃあ戦い方だけど…それは僕より適任の人の力がちょうどここにいる」

「え?」

ここに戦い方を指南してくれる適任者がいる。そう言ってきたユウだが、アリサの目にはユウ以外誰も彼の部屋にいなかった。

「タロウ」

名前を呼ばれると同時に、瞬間移動という形でタロウがユウの肩に乗ってきた。

「アリサ、君とちゃんとした形で会話をするのは、これが初めてだな」

「に、人形が喋っ…!?…あ」

突然現れた人形。それがいきなり喋ってきたことで一度は驚いて声を上げかけたアリサだが、ここで霞んでいた記憶の一部が蘇る。大車に操られ、あの男に命じられるがまま防壁外の人たちの集落に隠れていたユウを暗殺しようとしたとき、ユウを守るべく現れたあの赤い人形が自分に立ち塞がってきたのを思い出した。

「あなたは確か、あの時の…」

「自己紹介しよう。私はウルトラ兄弟No.6、ウルトラマンタロウ。地球人としての名前は東光太郎だ」

「あ、はい…はじめ、まして…」

やはりウルトラマンだったのか。しかし、ウルトラマンといえど、人形と会話…なんだか奇妙な気分に陥った。

「タロウは光の国…あ、ウルトラマンたちの故郷の星のことなんだけど、そこで若手のウルトラマンたちを指導していた教官だったそうなんだ。それにアラガミが現れるずっと前にも、地球防衛の任務に就いていたから僕よりも戦いのノウハウとかずっとわかっていると思う」

「いやいや、私もまだ上の兄弟たちには及ばないままだ。今は訳あって、見ての通り人形の姿になっているが、こう見えて戦いの経験は長らく培ってきている。私でよければ君を指導しよう」

「あ、ありがとうございます!」

確かに人形の姿だが、ウルトラマンの教導官なんて頼もしい限りだ。アリサは深く感謝して頭を下げた。

「あ…わかってると思うけど、僕やタロウの事は、秘密にしておいてね?」

「大丈夫です!誰にも教えません」

 

 

こうしてタロウによって、アリサは指導を受けることになったのである。

 

 

まずはこの日、ダミーアラガミとの模擬戦闘で、今の彼女のコンディション等とタロウたちに確かめてもらう。

アリサは神機を握りしめ、敵の攻撃に備えて身構える。

コクーンメイデンは遠くから頭から放つオラクルの光弾を飛ばす。また、近づく者を体内から生やした無数の針で串刺しにする奴だ。アラガミの中でも雑魚中の雑魚。油断さえしなければ遅れは取らない。しかし…

(く…)

手が少し震える。ダミーだとわかるが、見た目は本物と遜色ない。

アリサは呼吸を整え、目付きを変えて神機を銃形態『レイジングロア』に変形する。…以前と比べて、銃への切り替えが遅い。前はもっと、瞬きほどでないにせよ早く切り替えられたはずだが。

アリサは銃撃を加えながらコクーンメイデンに接近する。こうすればメイデンは近づいてくる敵に対して攻撃を加えられなくなる。光弾をアリサに向けて撃つこともままならず、アリサの接近を許すダミーのコクーンメイデン。

「はあああああ!!」

アリサは十分に接近したところで、ロングブレード『アヴェンジャー』に切り換えコクーンメイデンを頭上から真っ二つにした。切り伏せられたダミーのコクーンメイデンは消え去り、ふう…と、アリサは呼吸を整えた。この程度の相手なら問題ないようだ。でも雑魚相手に安心するようではいけない。

「次、お願いします!」

アリサは再度神機を構えて言った。その後、アリサはオウガテイル数匹や、シユウ等の中型種の新たなダミーアラガミとの模擬戦闘を続けていった。

 

 

 

ここから見たところ、戦闘はなんとか行うことはできていたように見受けられた。目の前の敵を、まずは小型種から一体ずつ片付けていく。物量に差があるときは弱い奴から倒してしまうだけでも、敵の攻撃から狙われる回数や確率が減っていく。性格面については大車のせいもあったとはいえ問題はあったものの、彼女は元々模範的な知識と技術を培っており、それを実行するだけの能力もあった。

だが、タロウはアリサの戦い方を見て、気づいたことがあった。

「恐怖をなんとか抑え込もうとしているな」

「え?」

そのように呟くタロウに、ユウが視線を向けた。

「確かに目の前の敵を倒すことはできている。だが、以前と比べて動きの切れが荒くなっているように見える」

改めて窓ガラスからアリサの模擬戦闘の様子を見るユウ。見ていくうちに、タロウが指摘したことについても理解が追いついていった。

銃と剣の切り替えのタイムに遅れが生じ、何とか小型種を倒していってるが、やはり攻撃の隙を突いて攻撃対象になっていないダミーアラガミがアリサに攻撃を仕掛けている。

それでもアリサは、膝を突くことなく神機を振るいながらダミーたちを倒して行った。

コクーンメイデン、オウガテイルの群れ、シユウ2匹、コンゴウ2体。病み上がりでもここまで彼女は繋いでいった。

「けど、撃破数を考えると、結構うまくいっているように見えるね」

「ああ、確かに。だが相手はあくまでダミー。実際のアラガミとは違う。本物は予測不能の行動に走ることもあるし、何よりダミーはこちらを殺すことは決してない」

不慮の事故さえなければ命を保証された戦い。それが模擬戦と言えよう。だがそれは実践の過酷さと空気を知ることも、不測の事態への応対が体に身につかない。ダミーたちを的確に処理していくのは悪くないのだが、訓練の内で以前ほどの調子がまだ戻っていないアリサがこのまま戦線復帰させるべきかと思うと、タロウはまだ不安を強く覚えた。

その不安は、的中する。

「あ、あれは…!!」

新たに表れたダミーアラガミを見て、ユウは絶句した。

 

 

 

「はぁ、はぁ…次!」

息を整えながら、アリサは次のダミーを出してくれるように申し出た。

少し前と比べて、まだ調子は確かに戻りきれていない。それでも、中型種を相手に連戦をこなして撃破できているのだから、調子は取り戻しつつあるはずだ。

……が、それこそが希望的観測だとアリサは思い知ることとなった。

次に現れたダミーアラガミは…

「………!!!」

思わずアリサは息をのんだ。

出現したのは、ヴァジュラだった。

そう、両親を殺したピターとは同系統、オレーシャを目の前で食った奴と同一種のアラガミだ。

ダミーヴァジュラがアリサに向けて咆哮を響かせる。このヴァジュラは偽物。自分が食われることはない。ないのだが…

「グオオオオオオオオオオ!!」

「ッ…!」

大車に封じられた記憶が蘇った今、アリサはヴァジュラへのトラウマも同時に蘇った。目の前のヴァジュラが偽物だと頭では分かっていたのだが、確かな恐れを抱いて身をビクつかせた。

ダミーヴァジュラが攻撃を仕掛けてきた。以前までのアリサならすぐに装甲を展開するはずだが、恐怖で指先が咄嗟に動かせず、反応が遅れてしまう。

「アリサ、避けたまえ!」

アリサの耳に、タロウの叫び声が聞こえる。反応して回避にかかるが、やや遅かった。アリサはダミーヴァジュラの前足の殴り付けによって壁に激突してしまう。

「痛ったぁ…!」

苦痛に顔を歪めるアリサ。いくら死なないように安全措置を施されたダミーとはいえ、殴られたりするのは流石に痛い。

『トレーニング中止!』

アナウンスが流れ、ダミーヴァジュラが消える。

「アリサ、大丈夫?」

訓練スペースにユウが入ってきて彼女のもとに駆け寄る。ヴァジュラがダミーアラガミとして出てきて、アリサがすぐに動きが固まってしまったのを確認してすぐに降りてきたのだ。

「…はい…すみません」

差し伸べられたユウの手を使ってアリサは立ち上がる。以前と比べ、彼女は素直に謝ってきた。

 

 

訓練スペースを出て、一度休憩にはいることにしたアリサを連れ、自販機コーナー近くのベンチに座った。

「やっぱりすぐにってのは無理があったんじゃないかな?」

ダミー相手にうまく立ち回れないからって失敗を咎める気になんてならなかった。両親をピターに、親友をヴァジュラに食われるなどという悲惨な過去を持っているのだから。

「い、いえ!今回は確かにダメでしたけど、私は…」

だがアリサ自身が強く意識している。いつまでも恐怖に怯える訳に行かないのだ、と。

だから今朝、アリサはユウとタロウの二人に頼み込んできた。戦い方を教えてほしい、と。

しかし一方で焦っている印象も否定できない。

アリサは、オレーシャとの約束を果たすために今一度生きることを決意したが、かといってトラウマを拭い去りきれた訳ではない。現に今回、ダミーヴァジュラを相手に身動きがうまく取れずにいた。

「アリサ、焦ることはない。不調からすぐに元通りに行かないのは何もおかしいことではない。我々ウルトラ戦士でもこのようなことは同じだ」

「そうなんですか?」

ユウの肩から姿を見せたタロウからそう言われた際のアリサは少し目を丸くする。

「私たちを完璧なる存在だと思っているのならそれは間違った認識だ。私たちにも敗北もあれば、最悪死が訪れることもある」

その言葉は決して嘘ではないことはアリサも理解できていた。それはギンガ…つまりユウやタロウの身につい最近実証されたことでもあり、そして自身が原因で起こったことでもある。これ以上、自分のせいで誰かが傷つくようなことがあってはならない。だからどうしても焦る気持ちが逸ってしまう。

「あ、ここにいたのね」

そこへ、アリサの様子を見に来たリディアがユウたちのもとにやって来た。だが彼女だけじゃない。

「ッ…サクヤさん…!」

思わずアリサは、もう一人リディアと共にやって来た女性…サクヤを見て思わず顔をこわばらせた。無理もなかった。自分のせいで、リンドウは行方不目になったようなものだと思えてならなかったから。サクヤの顔を直視できず、アリサはすぐに目を背けてしまう。

「アリサちゃん、調子は…よくないみたいね」

アリサの顔を見たリディアはすぐに読み取る。やはり付き合いの長さもあるし、医者として患者の状態を目で見極めることができるからなのだろうか。

「…すみません、リディア先生」

「昔みたいに姉さんって呼んでほしいんだけどな?」

リディアは少し困ったように笑みを見せた。大車のせいでしばらく引き裂かれてしまっていたし、オレーシャのこともあるから、まだそう簡単に離れ離れになっている間の溝や時間は埋め尽くせないようだ。

「…アリサ、今…少し時間あるかしら?聞きたいことがあるの。リンドウがいなくなったあの日、あなたの身に何が起きたの?あなたの口から、直接聞いてみたいの」

サクヤから尋ねられたアリサは、ビクッと身が震えた。リンドウの件について、やはり自分に対する恨みつらみを募らせているに違いないと思えた。

恐る恐る、彼女はユウに助けを求めるように視線を泳がせた。サクヤがリンドウのことを想っていたのは察しがついていた。だから彼女の頼みも無視はできないと思い、ユウはアリサに対して頷く。

「辛いかもしれない。でもそれはきっとサクヤさんもわかってくれているはず。そうですよね?」

「ええ……でもアリサ。あなたが悪かったわけじゃないのは頭では理解できているの。ただ、あなたやリディアさんには悪いけど、あなたの行いに関しては正直まだ許しきれているわけじゃない。けど、少しでも心に整理をつけるためにも、聞いてみたいの。当事者だった、あなたの口から」

リディアは、サクヤの話を聞いて心を痛めたのか少し悲しげに目を伏せる。理解はできているのだが、やはりつらいものだ。でもそれはサクヤにも言えたことだから文句を言うことはできない。

「………わかり、ました」

アリサは、ロシアで両親が食われメンタルケアを受けてから、リンドウが行方不明になったあの日のことまでの敬経緯を話し始めた。

「両親をピターに殺され精神を乱した私は、リディア先生のお陰で部屋の外に出ることができるようになった頃でした。私には神機との適合率が高く、ゴッドイーターとしての素質があるとされ、フェンリルの総合病院への異動を受けました。そこで大車先生に出会ったんです。あの人は紳士に私と向き合ってくれて、とてもよくしてくれてました」

よくしてくれていた。表向きはそうかもしれない。でもユウとリディアは本当のことを知っているだけに、腹の奥に積めたものが燃えるような感覚を覚えた。サクヤも先のことを察してか、表情が険しくなっていた。

「…でも、その頃からだと思います。アラガミへの憎しみが強くなったのは…思えば、あの人の言葉は私を都合のいい道具にしようと誘導していたんです。パパとママの仇のアラガミを片っ端から殺していけって、そうすればパパとママが喜ぶって…本当のパパとママなら、私が危ないことをすることに反対していたのわかっていたはずなのに…!

気がついたら、あの時リンドウさんが、パパとママの仇に見えて、彼のいるビルを…!」

それ以上アリサは言えなかった。自分がボガールという、アラガミ同然の化け物に変身させられリンドウを襲ったなど、口にするだけでも恐ろしかった。

ユウとリディアより先に、アリサが怯えて頭を押さえたところで、サクヤが彼女の肩に手を添えた。

「話させてごめんなさい。辛かったでしょう?

でも、ありがとう。話してくれて。あなたの痛みも伝わってきたわ」

「サクヤ、さん…」

顔をあげてサクヤの顔を見るアリサ。その時の彼女の目は、リンドウを奪った自分への憎しみはなかった。一人の醜悪な男に人生を狂わされた少女を慈しむ優しい目をしていた。その目はアリサからサクヤへの後ろめたさからの恐怖を和らげた。

「アリサ、これからまたゴッドイーターを続けるのよね?」

「…はい。まだ任務に行くには、不安がありますけど…」

この先も自分がまた新たなトラウマを抱くようなことが起きるかもしれない。飲み干せない悲しみにあうかもしれない。でも、オレーシャと約束したのだ。彼女の分も生きて幸せを掴むために。

「なら、先輩として私もあなたをサポートするわ。同じ部隊の女同士、悩みでも何でも話していってね」

「ッ…ありがとうございます…!」

なんていい人なのだろう、そうとしか思えなかった。今も昔も、自分の回りには優しい人たちが集まってくる。

アリサは強く決意した。こんな優しい人たちが生きる世界や未来を守りたい、と。

それがきっと、死してなお自分を見守ってくれていたオレーシャにも届くと思って。

そのためにも早く恐怖を克服し、休んでいる間にも鈍った本来の動きを取り戻さなければ。

 

 

 

 

アリサは訓練を再開してから、とにかく努力を積み重ねようと必死且つ積極的になった。

「これまでの無礼、本当にすみませんでした!!」

反感を買ってしまったゴッドイーターたちにもアドバイスを受ける必要も出たため、謝罪と共に頭を下げた回数も多い。タツミたち第二部隊やグラスゴーから遠征してきた真壁夫妻は人柄が良かったのでともかく、

特にカレルやシュンのような風当たりの強い相手には苦戦を強いられている。

「…儲け話を持ってくるなら考えてやるよ」

「へ、俺はてめえの生意気な口は忘れてねェからな。当然…リンドウさんのことだってな!俺は認めないからな!」

「………ッ」

言われた時は何も言い返せなかった。今も初対面からこれまでの無礼な態度を許してもらっていない状態だ。その身に受けるしっぺ返しの重さを痛感しつつも、アリサはユウやサクヤのような協力的なゴッドイーターたちからの支援、タロウからの教導を受けて腕を磨き続けていった。

剣術、銃の扱い、相対する敵に合わせた動き、不足の事態や死角からの攻撃への対応。オペレーション・メテオライトまで残り一週間になるまでの間、アリサはひたすら訓練を繰り返した。

 

辛いときもあるが、その度にアリサは空を見上げる。ある日にリンドウが教えてくれた言葉がある。

 

 

―――混乱しちまったときは空を見るんだ。それで動物に似た雲を探してみろ。落ち着くぞ

 

 

オレーシャと最後の別れを行った極東支部中央施設の屋上に上って、彼女が光となって飛び去った、明けの明星が輝く空を見上げる。

薄暗くも、日の出とともに明るさを取り戻す空。いくつもの雲もその光によって照らされていく。

「雲が多すぎて、数えられません」

思わず苦笑するアリサ。リンドウの言っていた通り動物に似た雲を探してみるが、風で流れていく雲の数が多く、動物に似た形の雲なんて見つからなかった。でも効果がなかったわけではなく、不思議と落ち着いた。

 

 

ボロボロに傷ついた翼でも、いつか飛んで行ける。

 

傍には、こんなにも弱い自分を信じてくれている人たちがいるから。

 

 

あの雲を超えた世界の向こうで、オレーシャは今も見守っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、大車のやつはフェンリルに捕縛されたようだ」

大車の敗北は、マグマ星人マグニス、ナックル星人グレイ、バルキー星人バキにも伝わった。廃屋の中にある、放置されたままのデスクに腰掛けるマグニスがほかの二人に向けてため息混じりにぼやく。

「当然のResultって奴だぜ。あんな野郎ごときにやっぱりギンガはCan't Killingだったんだ」

さも当然に、こうなることをわかっていた様子でバキは言った。続くようにグレイが口を開く。

「今頃、牢屋の中で悔しがってるでしょうけど、このまま放置して良いのかしらね」

そう、大車も地球人でありながら曲がりなりにも自分たちと同じ闇のエージェント。そいつは今、自分たちの宿敵であるウルトラマンギンガこと神薙ユウの本拠地に捕まっている。

「極東支部の連中の拷問にかかって、うっかりあたしたちのことを喋ったりしないかしら」

「それもそうだな。誰か、あそこにもぐりこませる必要があるな。あの男の始末と……ギンガの近しい奴に、心に闇を抱えた者がいないかを探るためにもな」

自分達の現状を喋られ、不利に陥ることを懸念したグレイに、マグニスも納得し、何か対策を講じようと思案する。

「心に闇を抱えた奴を?ピターとボガールの合成神獣がいるのに必要かしら?それに、アナグラへの侵入はさすがに警戒されないかしら?」

「いや、案外Easyかもしれないぜぇ?」

懸念するグレイだが、バキは腰かけた机から飛び降りてマグニスの考えに同調する。

「連中のFRIENDの一人に、実は心に闇を抱えたBoyがいたぜ。例のオペレーション・メテオライト、その時にピター以外にも、そいつにライブさせた駒を差し向けさせんだ」

「それ、アーサソールを使ったときとそんなに変わらないじゃない?」

「いや、あの時はウルトラマンジャックがアラガミ化していた身でありながら俺たちに歯向かうという事態があった。駒が俺たちでさえも手に負えない奴だったせいでまんまと反撃されたが、駒を俺たちの制御下における程度にしておけば問題ない。それに、あんな奇跡二度も起きると思うか?」

マグニスにそう問われたグレイは、確かに…と呟いた。

「さらにさらに、もうひとつmeたち自身も念のためパワーアップを考えるのもgoodだぜい。あれだけのpinchを脱したLUCKYBOYなギンガのことだ。YOU-JINにYO-JINを重ねるに越したことねぇだろ?」

「確かに、あたしたちの先代は勝利したと思ったところで、ウルトラマンと地球人どもの返り討ちにあってやられたものね。奴等にもその悔しさと絶望をくれてやれるし、悪くないわね」

「うし!そうと決まったらあの御方にrequestだぜい!」

「奴の死を完全把握するまでは絶対油断するな。俺たちの持ちうる全てを持って、今度こそウルトラマンギンガを抹殺し、その首をあの御方に捧げるぞ」

ガチィン!

その時だった。突如彼ら三人の耳に、激しい地鳴りと、金属を叩きつけたような音が響いた。

「HEY!今のSoundは!?」

「ま、まさか…」

真っ先にマグニスが飛び出し、他の二人も後に続く。彼らは廃屋の下へと降りていき、階段の下にある倉庫の扉を開く。そこは倉庫ではなく、地下への更なる階段となっていた。急いで降りていく三人のエージェント。たどり着くと同時に、彼らは信じられないものを目にした。

「な…!?」

無惨に引きちぎられた鎖と、地上へ続く大きな穴が開いていたのだ。

「バカな…マグマチックチェーンを引きちぎって…」

地面に捨て置かれた鎖、それはピターとボガールの合成神獣を拘束していた、マグマ星人特性の拘束具マグマチックチェーン、そしてナックル星の拘束用の鎖だった。ウルトラマンでも外すことができないとされるほどの宇宙随一の物なのに、合成神獣はそれを食いちぎって地上へ逃亡したのである。

「OhMyGod!なんてこった!あいつここまで…」

「どういうことよマグニス!あの鎖はあんたの星の自慢のものなんでしょう!?」

「俺だけのせいにするな!貴様だって自慢げに自分の星のものをつけていただろうが!」

思わず互いに言い争いをしてしまうマグニスとグレイ。バキは二人の間に入って直ぐ様喧嘩を止めさせる。

「HEY!YOU GUYS!喧嘩してる場合じゃないぜ!こうなったら、すぐに奴らのFRIENDをこっちに引き入れなくっちゃぁな!」

「ならバキ、教えなさい!奴らの仲間の誰にダミースパークとスパークドールズを渡せばいいの!?」

バキに向けて八つ当たりでもするような剣幕でグレイが問い、バキはその先を話した。

「それは…」


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