ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
馬鹿め!と大車は思った。今の奴はダメージの蓄積とエネルギー切れ直前。そんな状態でアリサを庇いでもしたら、確実に奴はエネルギーをすべて失い、敗北。そして元のユウの姿へと戻る。その時にユウが生きているかはわからないがどちらでもいい。寧ろアリサを庇ってくれるのなら、奴が死んで、アリサは引き続き自分の人形のままでいさせることができる。
爆発の炎を見て、大車の中で勝利への喜びが高ぶった。
『やった…やったぞ!!ついにあの憎らしい神薙ユウを…ウルトラマンギンガを、この私が倒したのだあああああああ!!
我が主!!どうですか!見ておられますか!あんな糞異星人共等よりも私の方がよほどお役に立てたでしょう!?これからもこの大車ダイゴを、あなたの右腕としてお使いください!』
完全勝利。もはや『あのお方』の脅威はなくなった。ギンガ以外のウルトラ戦士は皆、あのお方の力によってスパークドールズとなり、無力だ。ゴッドイーターがどれほど束になっても、怪獣や合成神獣を味方に付け、それ以前にもあのお方をバックに置いている自分たち闇のエージェントには敵わない。
『どれ、アリサの無事とあの小僧の死体の確認でもするか…』
生きたままで屈辱的な始末をユウにつけられないのは残念だが、十分にあの方が喜ぶ展開となるだろう。そして自分は、あのお方に寛大な褒美を頂き、未来永劫の栄光を約束される。金、名声、女…全てに困ることはない。そして自分にとってムカつくだけの存在を跪かせられる。
『これでこの地球は…この大車ダイゴのものだ!!私をコケにした人間共を全員、私の前にひざまずかせて…』
「浮かれるの体外にしろよ、大車」
『………は?』
爆炎の中から聞こえてきたその声に、大車は呆けた。
「この地球も、僕も、そしてアリサも…お前ごときに運命を左右されるほど軽くもなければ、小さくもないんだよ!!」
煙が晴れた。今度こそ始末できたと思っていた。でも、今見た光景にそれがただの思い込みでしかなかったことを知った。
だが、一つだけ納得できないことがあった。
生きていたウルトラマンギンガのカラータイマーが、さっきまで赤く点滅していたはずなのに、エネルギーが満タンである証…青い輝きを放っていたのだ。
『な、なぜだ………なぜ貴様のエネルギーが…!?…は!』
メザイゴートの目を通して、大車はギンガの中に広がっている、ライブしている人間が留まっている空間『インナースペース』を覗き見た。
『アリサ…お前かああああああ!!』
間一髪だった。メザイゴートの攻撃を受ける直前、ギンガは無事、ユウと同じようにアリサを自身のインナースペースへと導くことに成功していた。
今のギンガは、ユウだけではない。アリサもギンガにウルトライブしたことになり、その影響でエネルギーが回復したのである。
遠くから、うっし!と、オレーシャがガッツポーズを決めた。
「ここは…」
インナースペースの中にいたアリサは、この特殊空間の中にいるためか、不思議な感覚を覚えた。一度はアラガミと断じて、憎み怖れたウルトラマンの中。父と母に包まれてるような、何故かとても安心できる場所だった。
「アリサ」
アリサのもとに、ユウが駆け寄って来た。
「神薙さん…」
感応現象で見たとおりだった。こんなところにいるということは、やはりこの人が…ウルトラマンなのだろうと、改めて確信を得た。思えば、自分の傲慢さと心の弱さが原因で、この人に対してあまりにも迷惑をかけすぎていた。
「あの、私…」
「いい友達を、持ってたんだね」
ユウに対して何か言う前に、彼からそのように言われたアリサは驚いて目を見開いた。
「聞いてたんですね…オレーシャのこと」
「うん。リディア先生からも、ね。辛かったね…」
「はい……でも、もう膝は着きません…!!」
ユウから心配の眼差しを向けられ、アリサは頷いた。完全に晴れた顔…とは言えないものの、それでも顔つきを引き締めていた。自分のせいで死んだと思っていたオレーシャ。アリサを恨むどころか、強く生きていてほしいという願いを秘めていた彼女の思いを知り、絶対の自信を強く持てるわけではないが、今一度アリサは立ち上がろうと決断した。
「行こうか、一緒に」
「はい!」
オレーシャにも、天国にいる父と母にもこれ以上恥ずかしい姿は見せられない。
ユウが左手でギンガスパークを掲げると、アリサも右手でそれをぎゅっと握る。
アリサには、一杯言いたいことがあった。ユウにはこれまでの非礼と迷惑をかけ続けてしまったことへの謝罪、そして自分を助けにここまで来てくれたことへの感謝。リディアにも何度も心配をかけてしまったこともあるし、今まで変わることのない友情を持ってくれたオレーシャにもお礼を言わなければならない。
ギンガスパークを通して二人の強い決意を受け、現実世界のギンガはメザイゴートに向けて再度構えを取った。
完璧だった。アリサを自分にしか信頼を置けないように何度も彼女の心を追い詰め、その心につけこんだ。それを盾にしてウルトラマンギンガを抵抗できなくさせ、敗北させるなど容易かったはずだ。
『なぜだ、なぜなんだあああああ!』
「残念だったな大車…お前の予想は外れた」
ギンガがメザイゴートを指差しながら、その中にいる大車に向けて言い放つ。
「お前の最大の敗因は、人の心を見下し舐め切ったことだ。医師としても、人間としてもどこまでも落ちぶれ、己の欲望のためにたくさんの人の命と心を踏みにじったお前は…絶対に許さない!」
ユウがそう告げると同時に、ギンガは火炎弾〈ギンガファイヤーボール〉を放った。自身と周囲が炎に包まれ、メザイゴートは地面の上を転がった。
『ぎゃあああああああああ!!!あ、熱い!熱いよおおおおおおお!!』
大車の悲鳴も聞こえる。火達磨にされ、身もだえながらみっともない悲鳴を上げている。
『し、死ぬ!死ぬ死ぬ死ぬ!あぎゃああああああああ!』
…醜い。ギンガ…いや、ユウは思った。
アリサも、ユウの隣で見ていて、今までの自分が信じられずにいた。脳裏によみがえる、大車が自分に刷り込んでいたあの暗示の言葉…あんなものに、しかもべたべたとすり寄ってきた大車の言葉に安らぎを覚えていたなんて…。
それも、自分が両親と親友の死で壊れてしまうほどに心が弱かったからだろう。今でもこの世界の残酷さには恐怖する。でも、それでも生きてほしいと願う人がいたことに気づいた以上…別れを告げなければならない。今までの…クローゼットの中に閉じこもっておびえ続けた自分と。そうしなければ、また自分は同じ過ちを本当に繰り返してしまう。
「これで決める…!」
ギンガは全身のクリスタルを、一昔の時代の春を思わせるような桜色に輝かせた。
その光は周囲に満ちる夜の闇さえも照らし、星よりも強く輝く。周囲がその光でまるで真昼のように空を明るく染め上げたところで、ギンガは両手を前に突出し、ユウとアリサはギンガの中で強く技の名前を言った。
――――〈ギンガサンシャイン〉!
「ドオオャアアアア!!」
闇を払う光は、メザイゴートの体を宙へ打ち上げて行った。
『ぬああああああああああああ!!』
宙へと舞い上げられるメザイゴートの中から、大車の声は引き続き響き続ける。空間内にも強い闇に満ちていたはずなのに、彼がライブしているメザイゴートのインナースペースにも、ギンガの光線によるものか、太陽のような強い輝きが大車の身を焦がすようにまばゆく輝いた。
『ひ、光……あぁ…栄光の光は…また私を……拒むと、いうのかあああああああああああああああああああああああああ!!!!』
大車のその叫び声が轟くと同時にメザイゴートは爆発し、光となって消えて行った。
メザイゴートへのライブが解除され、地面の上に大車は全身やけどを負ったようなすすだらけの姿となって転がった。メザイゴートのスパークドールズの状態はもっとひどく、火で炙られたかのようにボロボロでもう使い物になりそうになかった。
「大車先生…」
ギンガの中から、それをアリサは見下ろしていた。
信頼していた。両親を殺された自分に道を指し示してくれた人だと思っていた。でも、それは自分の野望のため、欲望のはけ口として利用するための方便だった。結果、自分は復讐の鬼と化し、仲間たちに何度も迷惑をかけてしまうだけの存在にされた。今までの恩義が、ただの疑惑と嫌悪感に変わっていくこの変化に、アリサの心境は複雑さを増していった。
(アリサ…)
その心境を察したユウは考えた。憎しみ、それは彼もまた抱えたことがある感情だ。幼いころに妹も、防壁外で共に暮らしてきた人たちも救おうともせず見殺しにしたフェンリルに対してそれを抱いた。そこにもし、大車のような悪意のある存在が自分を利用するために甘い誘惑の言葉をかけてきたとしたら、果たして逆らえただろうか…?
いや、タラレバの話をしても仕方ない。
既に、この空間が遠くの位置からうっすらと消滅し始めていた。アリサを探してからまだ一日はおろか1時間ほども時間は経過していないとはいえ、仲間たちも心配しているはずだし、これ以上ここに留まり続けるのは危険だ。
「脱出しよう。もちろん、彼女も連れて」
彼女、と言われ、アリサの視線の先にオレーシャの姿が映った。こちらに笑顔を向け手を振っている。勝利の喜びを共に分かち合ってくれている。ロシアで一緒に戦ってきたころと同じように。
「はい…!」
一方、アナグラの中ではまだコウタたちはアリサを探し続けていた。
「アリサはまだ見つかってないの!?」
「ええ、もうアナグラ中を徹底して探しても、誰も見てなかったそうよ。ヒバリちゃんにも頼んでアリサの腕輪信号を探して貰ったけど、今空に強力なジャミングを起こす雲が発生していて、反応を追えないそうよ」
コウタから質問に、お互い成果のなかったサクヤはそう答えるしかなかった。
まさか空の上にできた、ジャミングを発生させている妙な雲の向こうに展開された特殊空間の中にいると思わなかったに違いない。見つからないのも無理はなかった。オペレーターのヒバリの力を借りてもダメだったとなると、もうこれ以上はどうにもならなかった。
「くっそ…どこ行っちまったんだよアリサの奴…さっきハルさんたちにも聞いたけど、向こうも手がかりなしみたいだし、ソーマの野郎も手伝わないし…」
「…」
サクヤは、コウタがソーマのことに触れると、コウタの向こうの廊下の角に視線を向ける。そこに、ソーマが壁に背中を預けた状態で隠れていて、サクヤは小さくため息を漏らした。…実を言うと、手伝う気を見せなかったソーマだが、ちゃっかり隠れて、アナグラ周辺の居住区を中心にアリサを探し回っていてくれていたのだ。コウタには言うなよ、その一言をサクヤに念押して。昔から素直じゃない男である。
「…ここまで探しても見つからないなら、もしかしたら誰かに連れ出されていることも考えられるわ」
「連れてかれた?なんで?」
「それはわからない。でも、さっきアナグラ中の電気が一時的にダウンしたことを考えると、アリサの失踪と関係あるかも知れない」
サクヤのその予想は概ね合っていた。メザイゴートの発生させたあの雲の影響である。一時的にアナグラの電力をダウンさせ、オレーシャの幻影にアリサを連れ出させ、ユウを誘き出す。しかもメザイゴートの雲にはジャミングを発生させる効果もあり、アリサはおろか他のゴッソイーターの位置情報も得られなくなる。
「もしかしたら、アリサを狙う誰かが電気をダウンさせて、暗くなった隙を突いて…」
そこまでサクヤが言いかけたところで、サクヤの通信端末に着信が入った。連絡してきたのはヒバリからだった。
『サクヤさん、上空に広がっていた雲が消えてジャミングが収まりました!アリサさんの反応も特定できましたよ!』
この時、ユウとアリサがライブしたギンガが、大車のメザイゴートを撃破して脱出を果たしていた。そのためあの雲も同時に消滅しジャミングが解かれ、アリサの腕輪信号をキャッチできたのだ。
「っち…」
結局自分が動き回ったのは無駄だったらしい。ソーマは人隠れて小さく舌打ちした。
脱出を果たし、三人は元の現実世界、極東支部中央施設の屋上に立った。ユウたちがライブを解いて降り立つと同時に、極東支部上空に広がっていた大車…正確にはメザイゴートの特殊空間は消滅した。
「おぉ、戻って来たか!」
大車が作り出した特殊空間に突入した時と同じように、リディアとタロウが待っていてくれた。
「アリサちゃん!!」
戻ってきたとたん、アリサの姿を見たリディアは彼女の元へ駆けつけ、すぐにぎゅっと抱きしめた。
「り、リディア先生…苦しいです」
胸の圧迫感がすさまじくて息苦しい。気がついてすぐにリディアは腕の力を緩めた。
「ご、ごめんなさい…嬉し過ぎて…でも、よかった」
「先生、私のこと…恨んでは…」
オレーシャが死んで、ロシア支部の病棟で目を覚ましたあの日、アリサは知らない間にオレーシャに関する記憶を大車によって消されていた。その時、大車の口車で「リディアの大切なものをアリサが奪ったから、もう二度とリディアはアリサに会いたくないのだ」と言われた。それが自分を利用するための方便であり、オレーシャの記憶が戻ることで大車に何かしらの弊害が起こるのを防ぐための方便でしかないことだと、今なら思えるが…彼女が自分を恨んでいること自体は本当ではないのかと不安を抱いた。でも、それは杞憂でしかなかった。
「私がどうしてアリサちゃんを恨まないといけないの。むしろ、あんな人にアリサちゃんを預けて、離れ離れになって…ずっと後悔してきた…ごめんね」
「そ、それこそおかしいです!先生は何も悪くありません!」
リディアからも謝られたアリサは慌てた。しかしリディアからすれば、アリサの心を平常に戻すためという名目で大車にオレーシャの記憶を消してもらうことになったが、結局アリサを救うことを諦めてしまっただけの言い訳だとしか思えなくなった。しかも、自分の妹とアリサの絆をなかったことにしてしまうところだったのだから、大車と違って優しさに溢れた彼女の罪悪感は大きかった。
「さっきから二人とも、お互いに謝りすぎだよ。せっかく会えたんだから、もっと笑顔でいないと」
アリサとリディアは、横から言葉を挟んできたオレーシャのほうを向いた。リディアはやはりというべきか、驚きの表情をあらわにするしかなかった。
殉職したはずの妹が、生前と変わらない姿でそこにいたのだから。
「嘘…オレーシャ、なの…?」
「久しぶり、リディア姉」
リディアはアリサの時と違い、やや恐る恐るオレーシャに歩み寄って手を伸ばす。その頭をそっと撫でると、忘れかけていたオレーシャのふわりとした匂いが漂った。
リディアはオレーシャをギュッと抱き締めた。オレーシャも姉を抱き締め返し、姉妹は一緒に泣いた。
「ユウ、彼女はもしや…」
「うん…アリサの、大切な友達だ」
ユウが感応現象でアリサの記憶を見ていたことは、タロウもその場にいたから知っている。確信を持って訪ねてきたタロウに、ユウは静かに頷いた。
ユウたちは二人から一歩引いた場所に下がり、もらい泣きしそうになるくらい感動した。
ようやく離したところで、リディアとオレーシャはユウたちの方を向いた。
「ユウさん、本当に…本当にありがとうございます。あなたのお陰で、アリサちゃんと…オレーシャとまた会えました」
「いえ、僕だけの力じゃどうにもなりませんでした。アリサとオレーシャの力ですよ」
今回は本当にそうだった。ギンガと一緒に大車をボコボコにすればよいと言う話ではない。アリサを救うことが最大の目的だったのだから。
「でも君が、アリサの中からあたしを見つけてくれなかったら、あたしはリディア姉とアリサにもう一度会うことは出来なかった。ありがとね…」
「神薙さん、私からもお礼を言わせてください。迷惑ばかりかけてきちゃった私を助けてくれて…ありがとうございます。それと、今まで…無礼と迷惑をかけ続けて、ごめんなさい!」
アリサからも頭を下げられ、オレーシャからも礼を言われ、僕自身はそんな大したことないのに…と口に出さなかったが、ユウは照れ臭くなって謙遜する。それに初対面からのあの態度も、いちいち気に留めたらきりがないので慣れ始めていた。
「……あ、そうそうアリサ。ちょっと耳貸して。リディア姉もこっちこっち」
すると、何かを思い出したかのようにオレーシャはアリサに手招きしてくる。さらにリディアも加え、端から見たユウがどうしたんだろうと困惑するのをよそに、三人でコソッと会話を始めだした。
「ユウのことなんだけど、なかなかいいんじゃない?」
「え?何がです?」
「やだなぁもう。それをあたしの方から言わせる気?」
「あぁ、成る程。オレーシャの言いたいことがなんとなくわかった。確かにあの人ならいいと思うわ」
何かを察したのか、リディアが妙に生暖かい視線をアリサに向け始めた。
「な、なんですか…二人して何の話を…」
それらの視線に思わずたじろぐアリサに、オレーシャはニヤニヤ笑いながら言った。
「新型ゴッドイーターのカップル、うん、悪くない」
聞いた瞬間、アリサは顔を真っ赤にして会話の輪から飛び出した。
「か、カカッカカカップ…!!?何を言い出すんですか!!わ、私は別に彼のことそんな風に思ったこと…」
顔を赤くして必死に否定するアリサを見て、大笑いしているオレーシャはもとより、リディアまで腹を押さえて必死に笑いをこらえていた。
「もう、リディア先生まで!!」
「ふふふ、ごめんなさい。久しぶりにアリサちゃんが慌てる姿を見てたら、可笑しくって」
思わず涙目になってしまうくらいに怒鳴るアリサ。三人の会話が今の動揺するアリサの言葉以外小声で展開されてたので、ユウはアリサの「カプなんとか」の意味が理解できず首を傾げていた。
だがオレーシャのアリサいじりはここで終わりではなかった。
「それでユウ。君はアリサのことどう思ってるの?」
「言った傍からなに言い出すんですかオレーシャ!!?」
気が付けば、確信的な質問をユウに投げかけている。当然真っ赤なままのアリサなど無視して、次にユウが口にする回答に、いたずらっ子のような笑みを浮かべながら期待を寄せる。
「えっと…仲間だと思ってるけど?」
そう言うと、オレーシャは呆れたのか深いため息を漏らした。あくまで『仲間』かよ…と。
(…別に、期待してたわけじゃなかったけど…)
アリサも心なしか残念な気持ちを抱いた。命がけで助けに来てくれた割に、アリサ個人にはあまり固執していないのだろうかと思うと、なんだか気に食わないし切ない。
「あれ?僕何もおかしいこと言ってないはず…ねぇタロウ?」
「…やれやれ」
ユウはひたすらよく理解できずに首を傾げるばかりだった。タロウにも尋ねてみるが、彼は肩をすくめて見せるだけだった。なんか腑に落ちないというか…すっきりしないリアクションのタロウに、さらに困惑を深めていくだけだった。
ふぅ、と一息ついたユウは、視線を後ろに向ける。
そこには、ボロボロの姿に変わり果てたまま気絶している大車がいた。呼吸が聞こえる。ライブしたメザイゴートの体が盾代わりになったことで命までは失わずに済んだようだ。だが、いくらスパークドールズもダークダミースパークも消滅しているとはいえ、起きたら何をしでかすかわかったものじゃない。
「タロウ、今のうちにこの人を拘束できる?」
「うむ、任せてくれ。…ウルトラ念力!」
タロウは大車をじっと睨むと、大車のボロボロになった白衣をウルトラ念力で細長く伸ばし、それをロープにして大車をぐるぐる巻きにしばりつけた。これでこの男はもう逃げられないだろう。
「後はこの男を引き渡して尋問してもらおう。この男には聞きたいことがある」
タロウは大車を見下ろしながら言った。
思い起こせば、ユウたちがしばらくの間暗闇の道を進むことになったのは、この男の邪悪な思惑が原因だ。しかも今もなお、この男のせいでリンドウは失踪したまま。ウルトラマンであるユウを殺そうとしたのは、この男が闇のエージェントであることを考えれば納得がいくが、なぜアリサを利用してまでリンドウを暗殺しようとしたのか、そもそも地球の人間でありながら闇のエージェントに堕ちたその理由が未だにわからなかった。それを知るためにもこの男はまだ死んでもらっても逃げられても困る。
「……」
アリサたちも複雑な心境を抱き、大車に対して今すぐにでも怒りの感情をぶつけたくなった。この男のせいで長らく自分たちは苦しみを味合わされ、引き裂かれたのだからなおさらだ。でもタロウの言うとおりだ。そもそも自分たちゴッドイーターはアラガミを倒す戦士であって、いくら落ちぶれた存在でも人間を殺すわけにいかないのだ。
今は、タロウの言うとおり尋問させてもらい、真実を聞き出すまで怒りを収めることにした。
ふと、オレーシャを見たアリサが声を上げた。
「お、オレーシャ…!?それは…!」
ユウとリディア、そしてタロウもまた彼女を見て目を見開く。
彼女の体が金色の光となり始めていたのだ。
「あはは…もうこれ以上は限界みたい」
オレーシャのその言葉を聞いて、ユウたちは思いだし、そして理解した。オレーシャは、既に死んでいる。そんな彼女が再び現世に現れるという、本来ならあり得ない奇跡。そのタイムリミットが来てしまい、もうこの世に留まることができなくなったのだ。
「あたしは、ユウ…君がアリサの記憶の中であたしを見つけてくれたことで形になった…
本当にありがとね。またリディア姉と、アリサと会えたこと…本当に感謝してる」
「………」
オレーシャはユウの方を見て、改めて彼にお礼を言った。ユウは、なんと言葉をかけていいのか分からず、声が喉から出せずにいた。
「いや、行かないで!」
アリサはオレーシャの手を掴もうとするが、できなかった。彼女の手に触れようとしたところで、アリサの手がすり抜けてしまったのだ。
「そんな…!」
自分の手とオレーシャの手を見比べ、動揺するアリサに、オレーシャは切なげな表情を浮かべ、首を横に振った。
「アリサ、ごめんね…でも、こういうのはどうしようもないんだ。いつかは訪れるんだよ、別れの時って奴は」
顔を上げたアリサは、駄々をこねる子供のように首を横に振り続けた。
「嫌だ…お願い…消えないで…まだあなたと、たくさん…お話ししたいのに…一緒にいたいのに…」
耐えきれなくなったアリサは膝を着き、両手で顔を覆ってしまう。オレーシャは彼女の前で身を屈めると、もう触れることができなくなった光るその手でアリサの肩に触れた。
「あたしもだよ…でも、ごめんね………もう行かなきゃいけない……だからせめてさ、向こうでアリサのパパとママに会ったらいっぱいあんたのこと、話してくる。あたしたちのお父さんとお母さんにも、自慢の友達がいたってこと、話さなくちゃ」
「オレーシャ……」
リディアも、眼鏡の奥の瞳から涙が溢れ出はじめていた。幼き日から二人で強く生きてきた妹と、二度も別れなければならないなんて辛くないわけがない。
「…リディア姉も、ごめん。あたしって…姉不孝者だよね……あたしがゴッドイーターになるって決めた時も大ゲンカして、必ず生きて帰るって約束で納得してもらったのにさ……」
「そんなことないわ…あなたは、世界一の…私の自慢の妹だったわ」
リディアが必死に喉の奥から絞り出した言葉を聞き、オレーシャもまた、笑顔を浮かべた。オレーシャはユウの方に向き直る。涙をこらえようと、必死になりながら。
「ユウ、アリサのこと…これからもお願いね?」
「…あぁ、もちろんだよ」
本当なら、自分がアリサの傍にいたかったに違いない。親友として、家族として…姉妹として。でももう、それは敵わない願い。だから、こうして信頼できる誰かに託すのがやっと。それは先に逝く者にとって苦痛と悲しみに満ちたものに違いない。彼女の顔を見たユウはそれを悟るしかなかった。
ユウからの承諾の言葉に安心したオレーシャは改めてアリサとリディアに向き直った。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「…待って…」
立ち上がったアリサが、目元をこすりながらオレーシャのもとに歩み寄った。もうわがままを言っても、手遅れなことは、さっきからもうわかっていたことだ。
だから……
「オレーシャ、最後に…言わせてください。
オレーシャは…私にとっても最高のお友達です。これからもずっと…」
オレーシャはアリサの言葉を受け、うんと頷いた。
「ありがと…アリサ」
さっきから泣きそうになってばかりだったのが嫌だった。だから少しでも明るく笑顔で、美しく別れを告げようと、オレーシャは必死の笑顔と共にVサインをアリサたちに向けた。
―――――アリサ、リディア姉…絶対幸せになってね!
―――――それが、あたしの最後の願いだから!
最後の瞬間に堪えていた一筋の涙を流し、その言葉を最後に……オレーシャの体は無数の光の雫となって霧散し、空へと舞い上がって行った。
思わずアリサは手を伸ばしたが、もうその手の中に光の一粒も届かなかった。
今度こそ天国へと昇天していく親友を見上げ………叫んだ。
「オレーシャァァァァァーーーーー!!!」
ユウとタロウも、もちろんリディアも、オレーシャが超えて行ったあの白い雲の漂う青い空を、ずっと眺め続けていた。アリサの涙が止まる時まで、ずっと……
NORN DATABASE
⚫️オレーシャ・ユーリエヴナ・バザロヴァ
外伝作品『アリサ・イン・アンダーワールド』『ノッキンオンヘブンズドア』に登場した少女。ロシア支部の防衛班に所属していた。
同性へのボディタッチが趣味だが、一方で姉のリディアと違って貧乳であることを気にしており(良く言えばスレンダーでもある)、同じ年齢なのに発育の整ったアリサと、同部隊に所属していたダニエラのスタイルの良さを羨んでいるところも。そのために貧乳であることをいじると、その相手に殺意を露わにしたような言葉を口にする。
作中でも語った通り、既に故人で享年15歳。
ロシア支部の防衛班のムードメーカー的存在であり、ロシア支部に配属された時は大車の洗脳もあって他者に対して邪険な態度のアリサにも明るく接し続け、その心の扉を開かせて親友となった。
しかし、その後間もなく任務中に予想外にも遭遇したヴァジュラに、傷ついたアリサを守って戦死。その凄惨な最期を目の当たりにしたアリサは再び心を閉ざしてしまった。だがその魂は死後もアリサと共にあり続けた。
アリサと再会を果たし、別れを告げる場面は、ゴッドイーターのテーマ曲『My Life』の歌詞の一部を、最期の願いの下りはウルトラマンA最終回でエースがこどもたちやTACの仲間たちへ最後の言葉を残した時の台詞を意識させられるように書いた。
⚫️リディア・ユーリエヴナ・バザロヴァ
『アリサ・イン・アンダーワールド』『GODEATER2 undercover』に登場した若手の女医でオレーシャの姉。まだ駆け出しの頃、ピターに両親を食われたアリサを、現場の廃屋にあるクローゼットから発見した。アリサの心に光を与えたはじめての人。
ふわりとした雰囲気を放ちながらも、絶望的な現実にも折れない芯の強さを持つ。
アリサとオレーシャを抱きしめて温もりを感じるのが好き。
時々話をしている相手の手を握って、そのまま豊満な胸元に無自覚なまま相手の手を持っていてしまうことがあり、それは男性に対しても発生してしまっている。羨ま…いや、人によっては結構危険な癖である。
⚫️波動電撃神獣エレキメザイゴート
合成素材:波動生命体サイコメザード+ザイゴート堕天(雷)
大車がダークライブした合成神獣。ザイゴート堕天がサイコメザードのスパークドールズを捕食したところを、『あるお方』の力でさらにスパークドールズ化した。
武器は電撃波と、攻撃力を下げる毒霧、そして劇中でギンガにアリサを追わせまいと展開したバリア。
バリアの元ネタは、ウルトラマンガイア『迷宮のリリア』にて、メザードに心を乱された佐々木敦子隊員を追おうとした梶尾隊員を阻むために作られた金色の光の壁。
暗雲を発生させ、その中に幻想に満ちた特殊空間を発生させることもできる。その能力で、非情な現実に心が疲弊したアリサを、アラガミの存在していない設定の幻想世界に導き、オレーシャとアリサの両親の幻影も作り出し、あたかもこれまでのアリサの人生そのものがありもしない夢だと思い込ませる形でその心を完全に支配しようとした。ちなみに特殊空間を発生させる能力はメザードの最上級種『クインメザード』の能力。
また、メザイゴートの作り出した暗雲は発生時はジャミングを引き起こしてしまう。
外見はメザードの首の部分と両腕が、ザイゴート堕天の女体部分となっている状態。ザイゴートの女体部分の首がメザードのように伸びきっている。ザイゴート時の単眼を持った黒い頭の部分は、メザードの腹の位置に第二の顔として移動している。
⚫️変形神獣ガザート
合成素材:変形怪獣ガゾート+ザイゴート
強力な磁場を発生させるガゾートのスパークドールズを捕食し進化したザイゴート。そのためガザートも立っているだけで強力な磁場を引き起こす。
捕食欲求も、ガゾートが『親愛の情を持った同胞を共食いする習性』もあってかなり高い。
ギンガを確実に殺そうと目論んだ大車が手駒として所持していた。しかし戦力的には、既にヴァジュラとティグリスの合成神獣であるヴァジュリスを撃破できるようになっていたユウ=ギンガの敵ではない。
外見は、ガゾートの頭の部分がザイゴートの単眼を持つ黒い頭の部位に差し替えられ、両翼の先がザイゴートの翼、中央の腹にザイゴートの女体が埋め込まれている。
実は、このガザートが原因で今回の大車はかえって敗北に追い込まれていると言える。なぜなら、元になったガゾートは常に強力なプラズマエネルギーを発生させており、それは時に、肉体を失った人間の魂を具現化させてしまうこともある。現にウルトラマンティガ「幻の疾走」にて、シンジョウ隊員の妹マユミを守るために、ガゾートに殺された婚約者アオキ・タクマが現れGUTSに協力、ティガの勝利に貢献した前例がある。
このガゾートの意図せぬ能力は、ユウがアリサとの感応現象を発生させたことでアリサの中に眠っていたオレーシャの魂を呼び起こし、ガザートのプラズマエネルギーによってオレーシャの肉体を一時的に復活させ、壊れかけていたアリサの心を救うこととなった。
自分のありもしない勝利に戦う前から酔いしれていた大車の傲慢さ、自分の使う駒を把握しなかった怠慢さが招いた敗北とも言えよう。
ただ、ガザートを使わなかったとしても、オレーシャが万が一復活を果たさなかったとしても、ユウの必死の覚悟の強さが、長い時間をかけてでもアリサを救うことになる可能性があったのは否定できない。