ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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扉を開いて(中編)

「ホラホラアリサ!こっち来て!」

「…」

アリサはその頃、ある場所に連れてこられていた。そこに広がる光景を見て、彼女は目を見開いた。

天にも届きそうなほど高い位置まで延びた線路。

各地に設置され自動で動く巨大カップ。

あらゆる先端にゴンドラをぶら下げた巨大な輪。

「オレーシャ、あの…ここって…」

「見てわからない?アリサも聞いたことあるでしょ?」

「え、ええ…そうですけど」

そこは旧時代、世界各地にあらゆる形で点在していた遊園地だった。暗い夜でも星のように美しく輝くイルミネーションに照らされ、多くの人たちが遊園地でひと時の余暇を満喫している。

幻を見ているような気分だった。こんなにきれいな景色を見たのは初めてと思えた。

「アリサ、さっきからなんかボーっとしてない?ちゃんと寝てる?」

顔を覗き込んできたオレーシャに、アリサは当惑を露わにしながら、浮かび上がった疑問を口にした。

「オレーシャ、ここって、フェンリルの運営している遊園地でしょうか?」

「ほえ?なんで?」

「だって、ここまでアラガミに荒らされることなく存在している遊具施設なんて、あるはずが…」

アラガミが世界中に蔓延るこの時代、地球上の遊園地はすべて壊滅している。だがアリサの目の前には、それが崩壊することなく存在し続けていた。それは考えてみればあまりに異様だった。ただ、フェンリルが直接管理していると考えれば、各支部の防壁がそうであるように、アラガミに食い荒らされない対策が施されていると考えられる。

しかし…オレーシャの回答は予想外なものだった。

「アラガミ?なにそれ?」

「え?」

「やっぱりアリサ、最近寝不足でしょ?やっぱり何か悪い夢でも見たんでしょ?」

「夢…?」

改めて、自分の目に映る景色を見て、そして自分の記憶をたどる。

アリサは自分の記憶に違和感を覚えた。

幼い頃に両親が殺され…リディアと出会い……あれ?

(パパとママが、死んだ?何を考えてるんですか…それに、アラガミって、なんですか…そんな、ゲームの中に出てくるような化け物がいるわけないのに…)

アリサの頭の中の記憶…アリサは幼い頃から大好きな両親によって育てられ、いきつけの病院の先生であるリディアのつてでオレーシャと親友同士となり、日々何不自由ない幸せな日々を過ごしていた。そう、そうではないか。

自分がさっきまで、どうして悲劇的な過去を背負った設定になっていたのか不思議だった。自分は特に不幸になった経験なんて何もなかったのに。

(今日はなんだかおかしいですね。今だって胸に変な感触…って)

自分が覚えのない記憶に振り回されかけ、自嘲しているアリサの胸を、突然オレーシャは後ろから揉みだした。

「ひゃああ!?い、いきなり何するんですかオレーシャ!!」

「うーん、しかし今日もいい感触ですなぁ~」

「は、放してくださいよ!」

アリサの胸が大きくなり始めて以来、オレーシャはしつこく自分の胸をおもちゃにしてくるのだ。

「にしても、あたしと同じ年齢でここまでのサイズとは……いや、待てよ…これならあたしの胸にも希望が…!!」

でも、同時に悩みも持っていた。彼女はアリサと比べるどころか、女子の平均バストサイズより著しく低かったのである。

「………」

「ち、ちょっと!そこで黙らないでよぉ!!?」

アリサの無反応さにオレーシャは驚愕と絶望感を露わにして喚いた。本当に困った子だと思える。でも、自分にとってかけがえのない親友なのだ。

「おーい、アリサー!」

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。その声を聴いた瞬間、アリサの胸の奥に、瞬時に光に満たされたような温かさが湧き上がった。

すぐに振り返り、声の主の姿を確認した彼女は目を見開き、視界が歪み始めた。目からあふれ出る…大粒の涙で。

「パパ…ママ…!!」

アリサの中から、果てしない喜びの感情が溢れる。なんでだろう、ずっと一緒に暮らしてるのに、なぜか今日は愛する両親がメリーゴーランドの前で、笑顔でこちらに手を振っている。

「アリサ、今日はあたしをあんたのパパとママに紹介してくれる約束だったでしょ?」

オレーシャのその一言で、アリサの頭の中に『最近の記憶』が過る。

そうだ、今日両親と共にこの遊園地に遊びに来る暁に、親友であるオレーシャも誘い、両親に彼女を紹介する約束をしていた。

「…はい。そうでしたね。すみません、こんな大事なことを忘れるなんて」

「反省してるならよろしい!んじゃ、早く行こう!あたしもあんたのお父さんたちと話してみたいから!」

「はい!」

二人ははしゃぎあいながら、次のアトラクションへと駆け出した。

 

 

 

そのときの大車の目にも、上空から見ている状態で二人の姿が映った。

ああ、いいよ。この感じだ。自分以外の誰かを支配し思いのままに操る。支配者にだけ許された快楽、最高のものだ。アリサはまた、この大車ダイゴの人形として舞い戻ってきた。もう一度この人形を利用して、今度こそウルトラマンを仕留めてやる。前回は予想外にも苦汁をなめさせられた。だから、以前にも匹敵する屈辱で絶望を味あわせる形のものでなくてはならない。

助けだそうとする少女から、救いを拒絶され、そして何もできないまま一方的に蹂躙してじわじわと痛めつける。奴が完全に戦闘不能になったら、あえて生かしたまま拘束し、今度はアナグラにいる奴の仲間たちを一人ずつ、最も絶望と屈辱に満ちた形で殺し、心を完全につぶしてから殺してやる。

そのために仕込みを、これまで言うことを聞かせるために封じ続けていたオレーシャの記憶を呼び覚ましたのだ。アリサは自分の管理下に置かれながらも次第にオレーシャに対して心を開いていた。その分、『用意したオレーシャ』に対しても依存を示すはずだ。

「あぁ…楽しみだよ。奴を始末すれば、きっとあの方も私をもう一度信じ、これまで以上に頼ってくださるに違いない…闇のエージェント共も、私の偉大さの前に今度こそ膝を折るだろう…くくく…」

いつか来ると信じて疑わない未来に酔いしれながら、大車は自分の手のひらの中で今もなお、親友とともに踊り続けるアリサを見て笑っていた。

アリサにも以前握らせていた闇のアイテム、ダークダミースパークが彼の手の中で怪しく光った。

「この私をコケにした罪は重いぞ…ウルトラマンギンガ、神薙ユウ。せいぜい、今度こそむごたらしく恐怖と絶望を覚えて死んでくれよ……?…くけけけけ」

 

 

 

 

しかし、大車以外にもアリサたちを物陰から覗き込む誰かがいた。まるで特定の誰かの監視役のように、アリサたちをじっと見続けていた。

背の高さと服の上から見える華奢な体つきからして、アリサたちとそれほど年の変わらない少女のようだった。物陰から姿を現した彼女は、深々と背中にフェンリルのシンボルマークを刻んだ黒いコートを着込み、その素顔もフードで覆い隠していた。

 

 

 

 

アナグラ内を中心に、アリサを捜索し始めたユウたちは、とにかくアナグラにいる仲間たちに聞き込みを始めた。だが、アリサの手がかりとなる有力な情報はなかった。

「手がかりなし…か」

「アナグラの大半の範囲を探し回っても、手がかりひとつないなんて…」

「アリサちゃん…」

特にこれと言って、好転するような情報も得られず、ユウ、コウタ、リディアは参り始めた。

ツバキにもこの事態を知らせ、もしアリサを見かけた人がいたらすぐに連絡を入れるようにと、メールで極東支部内でのフェンリル関係者全員知らせが届いた。

 

「アリサ?あなたと同じ新型の?ごめんなさいね、私は見かけてないわ」

「悪いが、俺も例の新型の居所は知らない。奴は今病室にいるんじゃなかったのか?ま、口先だけのやつがいなくても俺には関係ないがな」

「はっ、あんな生意気な奴知るかよ!寧ろいなくなって清々するぜ」

「ご、ごめんなさい。私、みなさんにお分けする分のお菓子を焼いてたので…」

 

しかし知らせを待つだけでは我慢ならなかった彼らは先程まで聞き込んでいったが、以上のように誰も知らない様子だった。それどころか、アリサは極東に赴任したてだった頃の、旧型を見下し、アラガミを惨殺する姿や態度が大きく災いして、極東支部内での彼女の評価は下の下に近かった。中にはいなくなって精々するといった態度の者もいたほどだった。その悪印象はゴッドイーターだけでなく、そうではないフェンリル職員にも伝わり、彼女を密かに不気味がる人が大勢いた。

中にはハルオミとケイト、タツミやブレンダンたちのように協力的な人もいたのだが、「いなくなって良かった」と心無い者からそれを口にされた際、話を聞いたリディアは強くショックを覚えた。

「みんな、どうだった?」

三人で肩を落としていると、サクヤがユウたちのもとに戻ってきた。だが、三人の表情を見て、サクヤは結果がそうだったのかを瞬時に悟る。

「その様子だと、アリサも見つかってないのね」

「はい…サクヤさん、ソーマは?」

「それが、ソーマは部屋を留守にしてていなかったの」

「ソーマも?…まさか!」

もしやソーマもアリサと同じように姿を消したのか?そう思い始めたユウだが、サクヤはそれを察して首を横に振る。

「でもアリサと違ってちゃんと見かけたって人がいたわ。私はこのままソーマを追いながらアリサを探してくる」

「なら、僕らは引き続きアリサを探します」

再度、合流する前と同じように、彼らはアリサの捜索に向かった。

だがいくら手分けして探し続けても、アリサは愚か、彼女を見かけたという人さえも見つからなかった。

ユウは、より確実にアリサが見つかるよう、ツバキにもこの事態を知らせ、アリサにも病室に戻るように館内放送で知らせてもらったが、いくら待ってもアリサは現れなかった。

 

「先生、そちらは何か手がかりはありましたか?」

再び合流したリディアと二人になり、彼女に捜索の状態を尋ねるが、リディアは首を横に振った。

「いえ…誰もアリサちゃんを見た人がいませんでした」

「僕も同じでした。さっき合流したときと何も変わって無かったです…」

「もしかして、アナグラの外に出てしまったのでしょうか?」

「その可能性を考えて、アナグラの出口近くの職員にも聞いてみたんですが、彼らもアリサを見てなかったようです」

「じゃあ、一体アリサちゃんはどこに…これだけ探してて手がかりひとつないなんて…」

ようやく再会できても大車のせいで精神に異常をきたし、挙げ句の果てに失踪。リディアは心配どころじゃなくなりつつあった。

(…)

ユウの服のポケットに隠れているタロウも、アナグラ中を回ってもアリサが姿を見せず、外にも出たと言う話がないことに違和感を覚えた。

そんなとき、ユウの通信端末から着信音が鳴った。直ぐに手に取って画面を見ると、その内容を目にした彼は目付きを変えた。

 

 

 

from:大車ダイゴ

件名:アリサに会いたいか?

内容:屋上まで来て、上空に広がる雲の中に飛び込むといい。

 

 

 

 

なんと、連絡してきたのは、あの大車だった。

 

 

 

 

 

アリサは、両親にオレーシャのことを紹介し、せっかくだからオレーシャと二人で遊んでくるように勧められた。

「あ、あの…オレーシャ…これに乗るのは…」

「何言ってんの。これに乗れなきゃ遊園地を制覇したとはいえないっしょ!」

が、遊園地というものには絶叫マシンは付き物。ジェットコースターを前に足がすくむアリサを、オレーシャは無理やり引っ張りあげる。その後、アリサの悲鳴が遊園地の空に響いたのは言うまでもなかった。

「もう、酷いですオレーシャ!私が嫌がってたのに、無理やり乗せるなんて!」

「ご、ゴメンゴメン…だからそんな泣かないでよぉ…かわいいから眼福だけど」

「全然反省してないじゃないですか!反省してください!」

ジェットコースターから降りた途端、涙目でポカポカ叩いてくるアリサだが、オレーシャは寧ろその反応を楽しんでいた。

その後も彼女たちは楽しんだ。ウォーターボートを乗り回したり、ゲームセンターにあるUFOキャッチャーで可愛い人形を狙ってみたり、巨大回転ブランコを回ってみたり、様々な遊具を二人で楽しんだ。

まるで、本当に天国にいるような幸せな気持ちだった。アリサとオレーシャは、遊園地の各地のアトラクションを遊び尽くす勢いで楽しいひと時を過ごし続けた。

 

そんな二人を、ここでも黒コートの少女が遠くから見つめていた。

彼女は、アリサたちのもとへもっと近づこうとする。しかしそれは叶わなかった。なぜか彼女の目の前に光の壁が現れ、近づくこともままならなかった。

(バリアか…好き勝手してくれちゃって…)

まるで自分の干渉を許そうともしないそのバリアを苦々しげに睨むと、彼女は夜の闇に満ちた空を見上げた。

(早く彼に来てくれないと、手遅れになっちゃうかもね…)

彼女の目に映ったのは、闇だけではなかった。

空の一部が歪み、その中からアラガミのような怪物の顔がいくつか浮かび上がった。

 

 

 

 

 

大車から突然のメールを受けとり、ユウたちは極東支部中央施設の屋上まで来た。

ウルトラマンの力を手にした自分が、二度目の変身をしようとしてギンガに拒否された場所。当時の自分は、あくまでギンガは力を貸してくれただけで、ギンガの力を自分のものだと勘違いしていた。自分ならば、ろくに壁の外の人間を助けようともしない フェンリルと違って助けに行けると思い上がっていた。ここで出会ったタロウに喝を入れられ、フェンリルにいる人たちも防壁外の人々と同様に苦しみ、今日を生きていると思い知らされた。大切なことに気付かされたとはいえ、苦い思い出だ。

こんなご時世だ。苦い思い出もそうだが、人が悲しい思い出を積み重ねていく事態なんて有り余り過ぎている。でも、それでも強く生きなければさらにもっと深い悲しみに溺れ、いつか二度と抜け出せなくなってしまう。そうなる前に、アリサを助けださなければ。

「あの雲、邪悪な気配を強く感じるぞ」

タロウが、施設のちょうど真上に広がる暗雲を見て呟く。長年のウルトラ戦士としての勘がそう囁いている。

「この暗雲も、このまま放置すれば極東支部に害をなすことも容易に考えられる。

ユウ。大車は間違いなく罠を張っているはずだ。あの男の人物像を考えれば、それは君の身を裂くような卑劣さに満ちているかもしれない」

「…うん、僕もあいつがそうしてくると思う」

タロウもやはりそう思っているか。過去に、何度も卑劣な宇宙人たちと戦った猛者だからこそすぐにそう思えてならないのだろう。だが、このまま向かうしかない。

「ユウさん…」

自分の名を呼ぶリディアの顔は、不安に満ちていた。

アリサは幼い頃から抱き続けた両親の死、そしてしばらく前に失った親友の死のショックで心を閉ざし、大車にそこを着け狙われてしまった。リディアもその分だけ湧き上がり続ける悲しみに何度溺れかけたことだろう。

アラガミの脅威は自然災害に近いほど理不尽だ。でも、人の悪意で湧き上がる悲しみだけは絶対に許してはいけない。

「先生は、ここで僕たちを待っててください。必ず…アリサを連れ戻します。

タロウ、先生をお願い」

「わかった、くれぐれも気を付けるんだぞ」

タロウの言葉を受けて頷いたユウはリディアの前から一歩下がったのち、ギンガスパークを上空に掲げた。

 

【ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!】

 

「ギンガーーーーーー!!!」

 

変身を遂げ、ウルトラマンギンガはアナグラの上空に広がり始めている暗雲の中へ飛び込んだ。

「ユウさん…アリサちゃんを、お願いします」

アリサたちの無事を強く祈りながら、リディアは暗雲の中へ飛び込んでいったギンガを見送った。

 

 

 

「む…?」

大車は、自分の作り出した『この世界』に、侵入者が飛来したことを察して頭上を見上げた。

空の上に、歪みが生じている。確信を得た。やつが…この世で最も打ち殺したい小僧がここへ来る、と。

ニタッ…と不気味な笑みを浮かべた大車は、ダークダミースパークを手に取った。

 

 

 

この先にアリサがいる。

たくさんの人たちの命、彼らのために戦ってきたエリックやリンドウさえもあざ笑う大車の下卑た笑みと、悲鳴を上げ恐怖におびえ続けるアリサの姿が頭に浮かぶ。

なんとしても、無事に連れ戻さなければならない。もう、大車のような悪党にいいようにさせてたまるか!!

ギンガ…ユウは黒い雲の中を潜り抜けながら、何度も決意を固め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

――――ありがとね、この子のために必死になってくれて

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

ふと、耳に誰かの声が聞こえてきた。アリサとの間に起きた感応現象による彼女の過去の記憶、それを見ている時に聞こえたのと同じ声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――あたしだけじゃ、助けてあげられないから…力を貸してね

 

 

 

 

 

 

「君は、いったい…」

 

問い返そうとしたところで、ギンガはあの暗雲の中への侵入に成功していた。

着地と同時に、周囲を見渡す。

(これは…!)

見たことのない、光輝く遊園地の夜景。ユウもまた驚かされた。アラガミに食い荒らされることなく、綺麗に光り続ける、こんな景色を目の当たりにするなんて。

いや、これが本物であるはずがない。さっき自分は変身して暗雲の中へ飛び込んだ。その先にあった景色が、こんな形であるはずがない。大車や闇のエージェントたちが仕掛けたに違いない。

「とにかく、アリサを探さないと…!」

ギンガは幻の遊園地の中を遠視で探し始める。

『ようこそ、神の玉座へ』

「!!」

今の声、わすれもしなかった。アリサの主治医という立場にかこつけて、彼女を自身の野望のための人形に仕立てた卑劣な男…大車。

「大車、姿を見せろ!」

ギンガが、まだ姿を見せてこない大車に聞こえるよう、遊園地全体に向けて叫ぶ。

「慌てるな。そう叫ばなくてもここにいる」

すると、闇の中からギンガの呼びかけに答えるように、大車が姿を見せた。手にはダミースパークと、スパークドールズが握られている。彼はそのスパークドールズの足の裏をダミースパークでリードする。

 

【ダークライブ、メザイゴート!】

 

大車の姿が黒い闇に包まれると、醜悪な獣の姿をした怪獣が大車のいた場所に現れた。

「その姿…!!合成神獣に、ライブしたのか」

今度はアリサではなく、奴自らがライブしているようだ。

新たな合成神獣…『波動電撃神獣エレキメザイゴート』。

その姿は醜悪だった。クラゲに似た体から、ザイゴートの女体が首を長く伸ばし、両腕のかぎ爪を鋭くさせ、ザイゴートだった頃の頭の単眼と口が腹に移動している。ただ、女体部分が通常のザイゴートと異なり、黄色い。恐らくザイゴートが特定の属性に進化した『堕天種』なのだろう。

だが、一つユウは疑問を抱いた。

(合成神獣は、アラガミが怪獣のスパークドールズを捕食し、その特徴を取り込むことで誕生する。でも、あいつは…)

大車は、合成神獣のスパークドールズを用いていた。合成神獣と化したアラガミも、スパークドールズに自らを変化させられるのだろうか。それとも…

…いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。

『この世界は、私が今ライブしているこの「メザイゴート」によって支配されている。こいつは私が他のエージェント共にも明かしていない秘密兵器の合成神獣。この神の力を持ってすれば、ウルトラマンギンガ…貴様など赤子のようなものだ』

神と言うには、おぞましい姿だ。そしてその中でいい気になっている邪悪な男は…

「…神、ねぇ…畜生の間違いでしょ?」

その一言に、合成神獣の中にいる大車のこめかみの血管が膨れる。口調だけ紳士ぶっても、やはり中身の醜悪さは消えないのだ。

減らず口を…と呟くも、大車は普段通りの口調に戻す。

『ところで、いいのかな?君はただ一人の、合成神獣に相対することが可能な存在だ。ここで君がそうやって立っている間にも、アナグラにアラガミが押し寄せているか、闇のエージェントたちが何かを企んでいるかも知れないんだぞ?』

「…彼らはあなたが考えているほどやわじゃない」

気遣いのフォローなどではない。個性的でどのように接するべきかもまだわからない人たちもいるが、リンドウやエリックが背中を預け戦ってきた人たちだ。

『まぁ、ゴミどもがどうなろうと知ったことではない。君さえ殺せばあんな連中軽くひねり潰せるからな』

興味なさそうに、そして完全にアナグラにいる仲間たちを見下す大車。

「そんなときは来ない。あんたの汚らしい野望を砕いてやる」

『ずいぶん意気込んでいるようだが、前回のようにうまくいくとでも思っているのかな?』

余裕の意思を崩さない大車ことメザイゴート。三つ首のアラガミの顔さえも、どこか歪んだ笑みを浮かべているかのように錯覚させられる。

うまくいくかどうかなんてわからない。未来が見えているわけではないのだから。でも、自分が求める未来のために、いつも自分は前を向いてこの残酷な世界の中で戦ってきた。今もそれは変わらない。

「ジュア…」

身構える形で返答したギンガを見て、戦意を崩す様子がないことを悟った。

『やる気ということか。実に結構だ。だが、それも無駄に終わることだろう』

「痛い目を見たくないなら、今すぐアリサを帰せ」

『おやおや、ずいぶんとアリサを連れ戻すことにこだわるのだね。もしや、好いているのかな?だからあの子にやたら執着するか。まぁ無理もないだろう。まだ小娘とはいえ、あの子の美貌と発育具合は私も目を見張るものがあるよ』

さっきの挑発的な言動を返し、嘲笑うように大車が言った。アリサに対するセクハラまで露骨に暴露している。ユウはすさまじく嫌悪感を覚えた。

これ以上話をしているのも時間の無駄だ。アリサをすぐに助けだし、この世界から脱出するべく、ギンガはメザイゴートに向かって駈け出した。

『さすがゴッドイーター!力づくというわけか!』

向かってくるギンガに向けて、メザイゴートはライブしている大車の意思の元、体中から無数の電撃と氷の礫を形成し、それを飛ばす。

「ムン!ハッ!ディア!!」

着弾しそうになったところで、ギンガはそれらの攻撃を手刀で弾き、すぐにメザイゴートの眼前にまで迫った。

ギンガとメザイゴートは互いに掴みあった。掴みあった状態から相手を投げ飛ばそうと体を回転させ、二人同時に回り出す状態になる。このままでは投げ飛ばされると勘付いたギンガは、腕をひねり、一本背負いでメザイゴートを前へ投げ倒した。

『ぐお…!!』

大車の苦痛の声が聞こえた。効いているらしい。

すかさずギンガは馬乗りになり、強烈な連続パンチを繰り出し続けメザイゴートを滅多打ちにする。

『…の、ガキが!!』

「ウワ!?」

ギンガがメザイゴートの顔を殴っている間に、腹の顔から電撃玉を放ってギンガを押しのけた。

再度立ち上がったメザイゴートは、すべての顔から…ギンガを撃ち滅ぼさんがために強烈な電撃波を放ち続けた。

さっきと比較にならない威力で放っていた。触れたものを焼き尽くしかねないほどの雷。

ギンガはすかさず対処した。電撃には電撃!

「〈ギンガサンダーボルト〉!」

互いの電撃が、お互いに相殺された。今の攻撃も塞がれ、舌打ちした大車に向け、ユウは言い放った。

「こんなもの?あんた…詰まらないな」

『き、貴様ぁ!ならこれでどうだ!』

大車は怒り、指の音を闇の中へ響かせる。

なんと、闇の中からさらにもう一体…合成神獣が姿を現した。

『変形神獣ガザート』。こちらもザイゴートが怪獣を補食して生まれたのか、奴の特徴である女体部分と単眼がある。他には元になった怪獣の特徴と思われる大きな翼を広げていた。

(もう一体駒を確保していたのか。だが…それがなんだ!)

アリサという助けるべき仲間を目の前に、一体敵が増えたところでユウは怯むことはなかった。

向かってきたガザートに向け、初手の蹴りを食らわせると、肩に背負って体を回転させ、地面に放り投げた。

背中を強く打ちつけながらもガザートはすぐに立ち上がり、鋭い牙をむき出してギンガに向かい、彼に両手ではたきつけにかかる。そのビンタを両腕で防ぎながら、ギンガは力を込めた鉄拳でガザートを突き飛ばす。

「キシャアアアア!」

少し距離を開かされたところで、ガザートが飛びながらギンガに突進した。ギンガは真正面から突撃したガザートの頭を両手で掴み、踏ん張る。

「ヌウウウ…シャア!」

ガザートの頭を掴む手を左手のみに替え、右手のチョップで地面に叩き伏せた。すかさず、メザイゴートがギンガの背後から電撃波を飛ばしてくる。いち早く反応したギンガは、すぐにジャンプしてそれを回避、空振りになったメザイゴートの攻撃は、ガザートに直撃してしまう。

しめた!メザイゴートに向け、ギンガは空中からとび蹴りを食らわせた。

「ディヤア!!」

「グギイイイィ!!?」

『ば、バカな…!』

突き飛ばされながら、メザイゴートから大車の驚愕の声が漏れた。

確実にウルトラマンを殺すために二体の合成神獣を用意した。『あのお方』が自分に与えたチャンスを成功させるためにわざわざこしらえ、与えてくれたものだ。なのに、それと使ってなお、奴が不利になる気配はなかった。それどころか、こちらの方が旗色が悪くなっている。なぜだ、なぜ奴に敵わない?

答えの見えない疑問にただ混乱するばかりの大車。

「僕に勝てると思っていたのか?大車」

ギンガが、ちょうどガザートを肘打ちで殴り倒したところで、メザイゴートの中にいる大車に言い放つ。

「僕は常日頃ゴッドイーターとしての通常訓練に加え、ベテランのウルトラ戦士であるタロウからもトレーニングの指導を受けていた。こうして二体の怪獣を相手にすることも想定の内でね。

それに引き替え、ただの医者だったお前はまるで戦い方がなっていない。ただのアラガミよりも読みやすい。しかもせっかく二体の合成神獣を用意しておきながら、僕を殺すことだけにしか頭を働かせてないから、チームワークも散々だ。

お前は僕と戦う前から、僕を殺した未来の事しか考えていない。だから無様な戦い方しかできないんだ。自惚れが過ぎるぞ」

これまでユウは、ゴッドイーターとなり、ウルトラマンとなってアラガミと何度も戦ってきた。当然知っての通り合成神獣たちとも、闇のエージェントたちとも未来を賭けた戦いを潜り抜けてきた。それは時に辛いことも経験したが、その痛みもまた彼を強くしていったのだ。その辛さと痛みを経て、もう悲劇を繰り返すまいと強く生き、戦いに身を投じてきたことで彼の体には、戦士としての動きが体に染みついていた。

そんな彼と、ただの医者でしかなかった大車の間には、天と地ほどの戦闘経験の差があったのである。

「このまま勝負を決めてやる…お前の呪縛から、アリサを解放する!」

指をさして、自分の勝利を強く宣言したユウことウルトラマンギンガ。

…だが、不利なはずだというのに、大車は突然押し殺すような笑い声を漏らし始めた。

『く…くくく…』

「な、何を笑っている…?」

『自惚れが過ぎる?それは君たちの方だ。

全く、本当に無駄なことを好む者だな君たちは…実に愚かしいよ』

苦戦し始めているとわかった途端に…また前の詭弁の続きか?話したところでこいつの話はとても共感できることではないに違いない。

『だが、残念だったね。あの子はもう外の世界に出るつもりはないようだ』

「どういうことだ?」

『あれを見たまえ。あそこに彼女がいる』

メザイゴート…大車は自身の右方向に顔を向け、ギンガもそちらの方に視線を傾けた。

確かにアリサはそこにいた。観覧車の中で隣に座っている女の子と仲良く談笑しあっている。

それを見たギンガは、絶句した。

(あの子は…バカな!?)

感応現象でみたアリサの記憶の通りだ。あの少女は、アリサの亡き親友であるオレーシャだ。

 

 

 

 

バリアの内部にて、少し遊び疲れたところで休憩を挟むことにした二人は、観覧車に乗って遊園地の景色を楽しむことにした。

「あ~、遊び過ぎて疲れた~」

ゴンドラ内の椅子で、オレーシャのぐったりとした様子を見てアリサは深くため息を漏らす。言っている彼女もまた疲労の色が見える。

「はぁ…オレーシャってば、はしゃぎ過ぎですよ。着いて行った私まで、すごく疲れたんですから」

「そういうアリサだってめちゃくちゃ楽しんでたじゃん」

「それは、まぁ…そうですけど」

「特に一番楽しんでたのは、やっぱお化け屋敷かジェットコースターの方だったんじゃない?」

「た、楽しくなんかなかったですよあれらは!!なにが楽しくて自分から怖がらないといけないんですか!」

意地の悪い笑みを浮かべるオレーシャに、アリサは食って掛かるように文句を言う。どうも恐怖を促すタイプのアトラクションが苦手なようだ。

笑みから一転して、オレーシャはアリサの目を真っ直ぐ見続ける。

「ねぇ、アリサ」

「なんですか?」

「あたしたち、ずっと友達だよね?この先も、ずっと…」

急に真剣な顔をして問われたアリサは困惑した。オレーシャがこんな質問をしてくるとは思わなかった。でも、聞くまでもない質問だからこそハッキリと思いを伝えなくてはいけない。

「当たり前じゃないですか。私とオレーシャは、最高の親友です」

「ありがと、アリサ」

会話を終えたところで、二人を乗せたゴンドラは地上まで後少しのところまで来ていた。

二人が少し待ってからゴンドラから降りると、二人をアリサの両親が出迎えてきた。

 

 

 

なぜ彼女がここにいるのか…しかも、アリサの両親まで現れた。どう考えても普通ではなかった。死んだ人間がこの世に戻るなんてあり得ない。何かがあると見たギンガは、目をギラつかせながらアリサと談笑しているオレーシャとアリサの両親の姿を透視する。

(やはり!)

結果は予想通りだった。彼女たちは本物ではなかった。一瞬だけだが、透視した際にオレーシャたちの姿が消滅し、そこにあるのは青白い波動の塊、実体のない幻影なのだ。

「アリサ!」

ギンガはアリサに向けて叫んだ。

その声が、彼女に届いたのか、アリサは驚いたように振り返った。

「え…」

アリサはギンガを見て本当に驚いた。見覚えのないはずの巨人が、自分の名前を呼んでいた。

「アリサ!ここにいてはいけない!さぁ、帰ろう」

巨人の者と思われる、頭の中に響く声に、アリサは困惑する。

「帰る?いきなり、何…を…」

だが、彼の呼び掛けによって、アリサの頭の中に…メザイゴートによって封じられていた全ての記憶が呼び覚まされた。

人類の天敵アラガミによって荒らされた地球。ロシアで両親と共に過酷な世界でも幸せに生きてきたが、両親はディアウス・ピターに食われ、仇を討つためにゴッドイーターとなった。だがその矢先に親友も失い、地獄のような現実に恐怖しすべてを拒絶してしまった…悲劇だらけの記憶がアリサの頭の中をよぎった。

「ッ……!!?」

恐怖を思い出したアリサの身が震えはじめる。

全部思い出してしまった。…いや、本当は忘れていたのではなく、思い込んでいたのかも知れない。この世界にアラガミがいたなんて、それこそ幻の出来事だったのだと。本当は父も母も、親友も生きていて平和に暮らしていた…と。

「聞いてくれ!そこにいるのはオレーシャじゃない!大車の作り出したただの幻影だ!」

ギンガの呼びかけはまだ続く。思わずオレーシャを見つめるアリサ。幻影と言っていたが……

「アリサ、あんな得体のしれない化け物の言うこと聞いちゃダメ!」

オレーシャが自分に対して警告を入れてきている。真に受けてしまったら最後、そう言いたげに。

「アリサ!大丈夫か!?」

「アリサ!」

オレーシャだけではない。アリサの両親もアリサのもとに現れ、彼女の身を案じてきた。

両親も登場したことで、アリサは…すぐに信じ込んだ。このオレーシャや両親が幻覚なわけがない。幻にしては現実味が強すぎて、とてもそうだとは思えなかった。思いたくもなかった。

「あんた、いきなり現れてなんなの!あたしのアリサに変なこと言わないで!さっさと出て行ってよ!」

「そうだ!この化け物め!!私の娘を驚かせるな!」

「化け物!バカなこと言って娘を惑わせないで!どこへでも消えて頂戴!」

幻影のオレーシャたちが、ギンガに向けて反論してきた。

(化け物…!?)

ギンガは思わず化け物呼ばわりされてたじろいだ。…いや、いちいち動揺なんてして、まして大車が合成神獣の力で作り出した幻なんかに構っていられない。

「アリサ!戻ってくるんだ!このまま闇の中に取り込まれれば…二度と戻ってこれないぞ!」

ギンガは再度、アリサを説得する。リディアという、彼女の帰りを待つ人がいる以上、このままでいいわけがないのだ。

…しかし…

 

「し…知らない……!!」

 

「…!」

 

「…知らない…あなたなんか知らない!

来ないで…こっちに来ないで!!来ないでよおおおおおおおおおお!!」

 

アリサが発したのは、拒絶の言葉だった。頭を抱え、全てに対して恐怖を思い出した彼女はひたすら現実逃避に走ってしまった。

「ほら、アリサ!こっちへ逃げよう!」

幻影オレーシャたちがアリサを連れて逃げ出し始めた。

 

 


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