ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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ウルトラマンR/B放送記念!
というわけで、放送日前日のこのタイミングで最新話を投稿いたします!


閉ざされし扉

アーサソールの壊滅、リンドウの捜索中止、エリックの死。大車のアリサへの洗脳と脱走。

オペレーション・メテオライト前に積み重なるように事件が起こる極東支部は混乱していく。

リンドウの捜索中止は、アナグラにいるゴッドイーター全員に、全員へのメールという形で知れ渡った。

リンドウを慕う者は多い極東支部のゴッドイーターたちは納得を示す者はおらず、日々抗議を入れる者が続出した。だが誰がなんと言われても、上層部からの決定だと、捜索任務の許可は下りなかった。

食堂にて、メールで捜索中止の通達を見て、ケイトは残念そうに呟いた。

「リンドウさんとは、ハルから聞いていたこともあったから、会って話してみたわ。面白くて、それで仲間思いの人だった…そうよね」

「ああ。あの人とは俺は特に年が近くて世話になったの何度になるか…こっちに戻ってきたときは、一緒に飲みにいくつもりだったのにな…」

ハルオミの手には、三人分の酒の入った缶がある。自分とケイト、そしてリンドウのために用意したものだ。今では、墓前に添えるための供物になってしまったが。

「第1部隊のみんなは大丈夫かしら?新型の二人も戦線に復帰できないまま、今日も次の作戦の準備のために任務に行ってるんでしょ?」

「……」

ハルオミは腕を組んで遠くを眺めるように天井を見つめる。

リンドウがいなくなったことで一番悲しみに暮れたのは間違いなく、残された第1部隊の面々だ。そんな彼らに今、自分に何ができるのか…リンドウに直接恩を返せなくなったハルオミは考え始めた。

 

 

その頃、出撃中の第1部隊は…

アナグラから遠く離れた廃工場地帯で、ヴァジュラと交戦中だった。

「グルウウアアアアア!!!」

ヴァジュラの鬣から電撃がほとばしり、ソーマ、コウタ、サクヤを襲う。それを紙一重でよけ、すかさずコウタとサクヤはバレットをヴァジュラに撃つ。ヴァジュラは二発の弾丸を受けて少しのけぞるが、すぐに持ち直してソーマの方へ飛び掛ってくる。それをソーマは、重いバスターブレードを持っているとは思えない軽やかな身のこなしで後ろへ避けた。

ソーマはそのまま自分が注意を引きつつ、遠距離の二人の援護を受けながらヴァジュラと攻防一体の戦いを展開する。

…しかし、彼らの動きは、いつもと比べるとやや悪い方向にあった。

サクヤは、任務中でもリンドウのことが頭から離れられず、戦いに集中しきれなかった。

(リンドウ…)

戦いのさなか、サクヤは何度も周囲を見渡した。どこかにリンドウが生きてさまよっている。戦いに集中すべきとはわかっていても、それでも目をキョロキョロと動かして、アラガミを攻撃しつつリンドウの姿を探し続けていた。

だが、それが彼女の油断を生んでしまう。

「あッ!!」

背後から背中に突き刺さる攻撃に、サクヤは悲鳴を上げた。

「サクヤさん!」

コウタがそれに気がついて声を上げ、即座にサクヤの後ろの方角に見えたオウガテイルたちに発砲した。そのオウガテイルたちはコウタの弾丸を受けて倒れたものの、攻撃を受けたサクヤは、背中にオウガテイルたちが放った針が突き刺さっていた。

「く…」

命に別状はないものの、ダメージが重くてすぐに動けない状態だった。

コウタがすぐに彼女の元へ駆け寄ろうとするが、今度はコウタに、ヴァジュラの尾の鞭が飛ぶ。

「うわあああ!!」

「コウタ…!」

コウタを吹き飛ばし、サクヤに向けて飛び掛るヴァジュラ。サクヤは、自分が追い詰められたことを悟り、目を閉ざす。

だが、ヴァジュラの攻撃は届かなかった。

間一髪サクヤの前に駆けつけたソーマが正面から装甲を展開して、ヴァジュラの突進を防ぎ、カウンター攻撃『パリングアッパー』でヴァジュラの顔を下から切り上げた。

「グゴォ…」

今の一撃で頭を真っ二つにされたヴァジュラは絶命する。

「油断してんじゃねぇ」

「ごめんなさい…」

ソーマの厳しい視線にサクヤは項垂れる。

「ソーマ、もっと気が利く言い方しろよ!今のサクヤさんは…」

コウタが少しはフォローを入れるようにソーマに抗議するも、サクヤが手を突き出して首を横に振った。

「いいのよ、コウタ。私のせいであなたまで危険にさらされたんだから…」

「サクヤさん…」

何か言おうと思っていたコウタだが、サクヤの思いつめた表情を見て押し黙った。やはりリンドウのことが気になって彼女は戦いに集中できなかったのだと気づいた。

三人は任務を完了させ、ジープを走らせてアナグラに戻っていく中、サクヤは運転をソーマ、助手席をコウタに譲って一人、後部座席で周囲を遠い目で見つめていた。

(だめね…あなたがいないだけで、こんなドジを踏むなんて…)

ソーマに厳しく指摘されるのも無理はない。リンドウが姿を消したあのエリアからこの場所は遠く離れている。リンドウが入る可能性なんて皆無なのに、それでも淡い希望にすがってしまい、集中が途切れてしまう。下手をしたらコウタが食われていたかもしれなかったのに、コウタは自分を責めなかった。

戦闘中と同様に、遠くを眺め続ける。だがやはりというべきか、リンドウと思われる姿は影も形も見られなかった。

(リンドウ、どこにいるの……?お願いだから…帰ってきて…)

 

 

 

ヨハネスは、極東支部の上層部と連絡をとるモニタールームを訪れ、大型モニター越しに3人の議員たちと対談していた。

『支部長、中止という考えはないのか?アーサソール壊滅、雨宮リンドウ少尉の消息不明について、本部は作戦の中止を要請してきているのではないのかね?』

『ここしばらくのこの極東は、ただでさえアラガミとの戦闘が激化傾向にある。その上で異星人だの合成神獣だの、わけのわからんイレギュラーまで出現した。そやつらはウルトラマンの存在が抑止力になっているとはいえ、とばっちりを食らって、我々もそうだが、別支部から派遣されたゴッドイーターに犠牲が出たら、君は責任をとれるのか?』

メテオライト作戦前のリンドウらが抜けたことによる著しい戦力低下と、別支部から呼び寄せたゴッドイーターの負傷および犠牲が出ることを、彼らは懸念していた。

だが、ヨハネスは首を横に振る。

「本部は中止を念頭に入れろと伝えてきただけで、中止にしろとまでは私に命じてはいません。それに、各支部から一時的とはいえ、ゴッドイーターたちをよこしてもらったのです。作戦の一つも実行せず、このまま各支部へ彼らを帰しては、それこそ責任問題と私は考えます」

『ですが、雨宮少尉ほどのゴッドイーターが抜けた穴は大きすぎると思います。ロシア支部から寄せた新型もまだ回復できていないと聞いていますが?』

女性の議員の指摘に対し、ヨハネスは薄く笑みを浮かべ、彼らに告げた。

「安心してください。雨宮少尉に代わる逸材を、既に我が極東支部は手中に収めています」

『逸材だと?』

「みなさんもご存じ、新型の片割れ、神薙上等兵です」

『あの若者がかね?だが、彼はまだ入局して間もない、経験が浅いではないか』

『それに彼の神機は…』

上層部の方でも、ユウの神機の損壊は報告されていた。

新型神機は修理に必要な素材も種類が限られている上に消耗も激しい。貴重な新型が二本もあるとはいえ、そのうち一本が壊れたなんてただ事ではないのだ。これには特に整備班のリッカたちも頭を悩ませている。

「心配要りません。彼の神機については既に対策済みです」

即座に言い放つヨハネスに、モニター越しの上層部は目を見開いた。

 

 

 

「その話は本当かな?」

「はい、アリサの手に触れた途端、彼女の記憶と思われるビジョンが、僕の中に流れ込んできました」

その頃、医務室のアリサと手を触れた時に起きた現象について、ユウはこれの詳細に関して詳しそうな人物と訪ねていた。

その人物とは、ペイラー・サカキ。ヨハネスとは旧知の仲であり、この極東支部の技術開発統括責任者を勤める男だ。

サカキのラボにあるソファに互いに腰掛け、特徴的な狐目の上にかけている眼鏡をかけ直しながら、ユウの話にサカキは興味深そうに耳を傾けていた。

「おそらく、それは『感応現象』だ」

「…官能?」

「感応だよ」

おかしな意味の方に捉えてしまったユウに対し、サカキは素のまま訂正する。

「この現象は、新型ゴッドイーター同士の間に起こるものだ。さきほど君が、アリサ君の手に触れたと話したように、肉体的接触をすることで互いの記憶・感情を共有し合うことができるんだ」

ユウはサカキの説明を聞いて自分の手を見る。新型である自分に、こんな能力が備わっていたとは思わなかった。ただ、一つその説明だけだと疑問に思うことがあった。

「…感応現象って、新型ゴッドイーター同士じゃなくても思りうるケースって、ないんですか?」

なぜこのようにユウが尋ねたのか。それは、アーサソール事件の時、スサノオに捕食されアラガミ化したウルトラマンジャックと戦っていた時に触れたことで見えたビジョンにあった。あれも眠っているアリサの手に触れた瞬間に起きたように、感応現象によるものだと確信を得ていた。だがそれだと『新型ゴッドイーター同士でなければ発動しない』という条件が満たされない。

「ふむ…」

サカキは少し考え込むと、ユウに対してこのように答えた。

「実をいうと、この感応現象については不明な点が多すぎるんだ。なにせ新型の人数が現状、世界各支部を回っても少ない。つまり事例や情報がほとんど集まらないんだ。しかも単に触れ合ったからと言って発動するとは限らない。

ただ少なくとも、新型ゴッドイーターという存在が不可欠だという可能性は高いね」

はっきりとしたことは、サカキでさえもまだわからないようだ。だが、新型という存在が間違いなく原因だという確信がある。当時引退していたとはいえ、ヴェネは元々新型ゴッドイーターで、あのスサノオはジャックの他に彼の新型神機も捕食していた。彼の新型神機を通して、ヴェネの記憶ごとジャックの記憶も流れたと考えれば辻褄が合ってくる。アリサにも以前……胸をもんでしまったことも含めて触れたことがあるが、あの時もこのような現象は起きていない。発生するタイミングも不特定と考えられる。

「私の知っている限りのことを、私なりの解釈を含めてという程度だったが…これで大丈夫かな?」

「はい、十分です。ありがとうございました。サカキ博士」

ユウはソファから腰を上げて、サカキのラボを後にしようとすると、呼び止めるようにサカキが声をかけてきた。

「ここしばらく、君にとって辛いことが何度も起こったというのに、君は思った以上に毅然としている」

ちょうどドアノブに手を触れようとしていたタイミングだった。サカキの言葉に、ピタッとユウは動きを止める。

「辛くないのかい?」

「…そう尋ねられると、辛いとしか言えません」

アーサソールは離散、ヴェネとエリックは死に、リンドウは行方不明扱いされ捜索ができない。アリサも昏睡状態が続き、いざ薬が切れて目覚めると暴れだす。これを辛くないと言える奴は、心が冷え切っているどころじゃないだろう。

「でも、僕は決めたんです。二度と膝を折らないって。でないと…アラガミや、身勝手な悪人が嘲笑いながらみんなの命を奪いに来ますから。

みんなの未来と夢を…何より自分のそれを守りたいから、僕は戦います。自分よりどれほど強い敵が現れても」

振り返りながら、サカキにそう告げた後、ユウは今度こそラボを後にした。

「…実に興味深いね、神薙ユウ君」

一人残されたサカキは、ユウが去って行った扉の方を凝視していた。

「その行動力、ヨハンや『来堂先生』に似ているな」

 

 

 

ユウは、感応現象を体感した次の日も病室でアリサの見舞いに来ていた。どのみち今の自分は神機が壊れている状態にあるので任務に連れて行ってもらえない。基礎体力作りなどの訓練を行うか、こうしてアリサの見舞いに行くしかやることがない。

アリサの病室へ来ると、この日もやはりリディアが待っていた。アリサはこの日もぐっすり眠ったままだという。

「リディア先生、彼女の様子はどうなのだ?」

ユウの胸ポケットから顔を出してきたタロウが尋ねてくる。

「鎮静剤の効果が効いていてまだ眠っています。ただ、昨日までと比べると顔色が少し良くなったみたいです。昨日ユウさんがアリサちゃんの手に触れてからですね」

「…!」

言われてみて、ユウは少し驚きを見せる。確かに、病人らしい顔色だったアリサの顔が、少し安らいだものになっているように見える。

「これも、サカキ博士が語っていた感応現象の影響なのだろうか?」

「感応現象?」

知られていない単語だったこともあり、リディアは何のことか疑問に思う。ユウはそれについて、サカキ博士から聞いた通りのことを彼女に説明してみる。

「新型ゴッドイーターが起こす現象…それで、昨日アリサちゃんは、薬の効果と関係なしに少しだけ目を覚ましたんですね」

「……ユウ、彼女の手に触れてみてはどうだ?」

すると、タロウが一つユウに提案を出してきた。

「あの集落での戦いで大車は、アリサを使って、リンドウ君を殺したと言っていた。そして君の命さえも狙った。もし、再び感応現象を起こすことができれば、アリサから何かを聞き出せるかもしれない」

「!」

あの男はマグマ星人たちと同様に闇のエージェントだ。自分はウルトラマンだからまだ狙われる理由はわかるが、なぜリンドウまで確実に命を奪おうとしたのか。その理由がわかるかもしれない。

「…わかった、やってみる」

自分はもとより、なぜ大車がリンドウさえも殺そうとしていたのか。大車の駒にされていたアリサなら、何か知っているのだろうか。

それを確かめるべく、ユウは再びアリサの手に触れた。

 

そして…期待通り感応現象が起きた。

 

だが、今回起きた現象は、前回よりもさらに鮮明で………不思議な形を取っていた。

 

 

 

「……う……」

ゆっくり目を開けるユウ。

視界に映った景色は、さっきまで自分がいた病室ではなかった。

そこは、防壁内の町だった。

アラガミの襲撃を受けた後だからか、防壁に近い場所の建物がいくつかボロボロになっている。極東支部に限らず、防壁はほぼ連日して破られてしまうため、壁の近くの住居は真っ先に狙われ、整備士たちが毎日修理と補強を繰り返し行っている。

ここは、極東支部の市街地なのか?だが、なぜだろう。似ているけど、何か違う気がした。空気?気温?それとも…

「パパ、ママ!早く早く!」

(!?)

突然、ユウの喉からキーの高い声が響いた。思わぬ声にユウは内心ギョッとする。今のは自分の声なのか?エリックの妹、エリナのような幼い女の子の声だ。

元気一杯にはしゃぎながら、視界が近くの廃屋の中に移動させられ、窓の外を覗き込んでいる状態になる。ふと、視線の先に、まるで自分を追ってきたかのように、二人のやや若い夫婦が歩いてきた。

その際、偶然に廃屋の割れたガラスに、今のユウの姿が映った。

(なんじゃこりゃああ!?)

帽子を被ったまだ幼い女の子だった。まさか女の子になっていたとは。

…いや、待てよ。この少女の顔には覚えがある。そして、この少女の両親のうち、母親の顔も同様だ。

「おーい、アリサー」

父親が姿を隠した少女を呼びかけようと口にしたその名前を聞いて、ユウは目を見開いた。通りでそこの母親の女性とあの少女に見覚えがあると思ったら…

(幼い頃のアリサと…ご両親だったのか)

そう思っているうちに、ユウが見ている幼いアリサの視点は、廃屋の中で天井から差し込む光に照らされたクローゼットに移る。彼女はそこへ向かい、その中へと入って身を隠した。

二人は困ったようにしながらも、娘を追って廃屋の中に入る。内部の隅にはタンクや掃除道具、木箱、放置されたもので溢れている。中央は割りと空いていて遊び場としてちょうどよいスペースだった。

「あの子ったら…」

「いいじゃないか。さっきまで仕事の話でちゃんと構ってやれてなかったんだ。付き合ってやろうじゃないか」

「もう…」

母親が困った様子だが、父親は娘からの構ってアピールが嬉しかったらしく、娘であるアリサの我侭にも付き合う気満々だった。

アリサの視点に見えるクローゼットの扉の隙間から外を見て、ユウは底知れないほどの不安を覚えた。

…嫌な予感がする。それもとてつもなく…少し前にも起きたあの悲劇にも匹敵するような…。

アリサはかつて、両親をアラガミに……待てよ…まさか!!?

「もういいかい?」

「まぁだだよ」

アリサと、彼女の父親が互いに呼びかけあう。アリサは幼い頃はかくれんぼが好きだったようだ。

天井に開かれた穴から差し込む光で照らされるクローゼットが、両親の目に入った。なんとなく、あそこにアリサが隠れているような気がしていた。

「もういいかい?」

「もういいよ」

アリサから探してもいいという合図が出て、彼女の両親は周囲を探そうとした、そのときだった。

「アラガミだ!アラガミが来たぞ!」

何度も聞いたような、でも誰もが一言聞けば恐怖を抱く叫び声が聞こえた。

たちまち外は悲鳴で満たされた。

「アリサ!」

アリサの両親もあせりながら直ちにアリサを探す。しかし現実は更に非情さを増す。

アリサ一家のいるこの廃屋の中に、アラガミがついに突入してしまった。それも…よりによって…第1部隊に悪夢を見せた要因のひとつであるあのアラガミだった。

(ディ…ディアウス・ピター!?)

間違いなかった。あの暴君のごとき風貌を持った黒いヴァジュラ。見間違いようがなかった。

奴の赤い眼は、廃屋の中央にいたアリサの両親に狙いを定めていた。

まさか…!!

「やめ…!!」

ユウはピターに向かって叫ぼうとするが、無駄だった。今の彼はアリサの中にいる状態。アリサの両親に向かって、ピターは目にも留まらぬ速さで飛び掛り…

そこから先の光景を、ユウは直視したくなかった。思わず目を背けたくなった…が、できなかった。生々しくて吐き気を催す音が、アリサとなっているユウの耳に入る。

目を開けたときには……アリサの両親は、奴の口の中に骨のひとかけらも残すことなく飲み込まれていた。

「ッ…!!」

ユウは言葉を発せなかった。おびただしい血の池と、赤く染まった口元と…あの下卑た満足そうな笑み。ある意味、血の一滴さえも残さず食っていたボガールの捕食よりも残虐な光景だった。

『―――パパ…ママ?』

聞こえたのはそんな気持ちも悪い音だけじゃなかった。アリサの悲鳴も聞こえてきた。

『い、いや…いやああああああああああああ!!!やめてええええええええ!!』

鼓膜を突き抜けそうなほどのアリサの恐怖に満ちた悲鳴が、まるで大音量のスピーカーのようにクローゼットから轟いた。

「やめろおおおおおお!!」

ユウはピターに向かっていこうと、クローゼットの中からそのまま奴の体に拳を叩き込もうとした。

だが…できなかった。

アリサの体の中から自分の半透明な右腕が飛び出てクローゼットを突き破ろうとした瞬間、扉から自分の体がすり抜けてしまい、彼の拳は空を切るだけだった。

(そんな!?)

どうして触れない!?

動揺するユウ。アリサを助けないといけないのに!!

奥の手であるギンガスパークを使おうとしたが…そのとき、背後から誰かが自分の肩を掴んできた。

「え…?」

 

---無駄だよ。これはあの子の過去の記憶、つまりすでに起きてしまった事。

 

---だからあんたが手を出したところで意味はないんだよ

 

「誰だ!?」

振り返ってそう言おうとしたが…ユウは振り返ると同時に辺りを見て驚愕する。

「!?」

景色が、一変していた。

さっきの汚い廃屋のではなく、綺麗に掃除されたどこかの病院の一室となっていた。病室のベッドの上に、アリサが座っているようだ。しかし、体が小刻みに震え続けている。個室だからか他に誰もいない。

(これは…いつの出来事だ?)

そう思っていると、アリサのいる病室のドアノブがカチャっと動いた。その途端だった。彼女は扉に向かって走り、扉を押さえて必死に開くのを防ごうとしていた。

「アリサちゃん、待ってくれ!私は往診に来ただけで…」

「やだ!やだ!開けないで!来ないで!いや、いやあああああああ!!」

幼子とは思えないくらいのヒステリックな悲鳴。往診に来ただけの医師の来訪さえ彼女は恐れた。クローゼットの扉から見えた、両親を食ったピターの姿が彼女の心に深くトラウマとなって刻み込まれてしまっていた。

外から医師看護師の声が聞こえる。

このままだと彼女の治療もままならない。いつか栄養もとれなくなって死んでしまう、と。それほど彼女の受けた心の傷は深かった。

なんて不憫なことだろう。彼女は自分に救いを差し伸べようとする人の手さえ怖がっていたのだ。扉を開こうとする。ただそれだけなのに。

しばらくしてから、アリサの元に新たな来訪者が来る。だが今度の来訪者は、あり得ない場所から来た。何と窓からだった。アリサのいる病室は二階以上の高台なのに、これほど大胆な行為に走るとは。

流石のアリサも、窓を開けて外を確認すると、上から降りてきた人物が彼女の部屋に入ってきた。

「ふぇぇ…助かった」

ユウはアリサの中で目を丸くした。その人物は、なんとリディアだった。現在とほとんど変わらない容姿だが、自分とほぼ同じ年くらいの少女のようなあどけなさがあった。

なぜわざわざ、まるで一昔前のクリスマスに現れるサンタクロースのような形でアリサの元を来訪したのか。恐らく、部屋に閉じ籠り続けるアリサを助けたいと思ったからだろう。それにしたって昔から見かけによらず大胆な人だな、と思った。

「あ、あの…」

大丈夫なのかと、思わずたずねかけたアリサだが、彼女の頬に窓から拭きぬける風が当たり、その目に自ら開いた窓が映る。

伝わってくる。あの時…彼女の両親が食われた瞬間の、絶望と恐怖が、今アリサの中から見ているユウさえも飲み込まんとする勢いで。

「い、いやあああああああ!!」

「ッ!!アリサちゃんだめ!!」

扉が開いてる。アラガミが来る!

アリサは再び暴れだした。自分を抱き締めるリディアの白い肌に爪を突き立て、引っ掻き続ける。しかしリディアは、自分が傷だらけになることも厭わず、暴れるアリサを抱き締め続けた。

しばらくして、アリサは暴れ疲れたのか、ようやく暴れるのをやめた。顔をあげると、自分を抱き締めるリディアの顔が自分の爪痕で傷だらけになっていた。

アリサは泣きながら謝り始めた。必死に、自分に優しくしてくれたリディアにひたすらごめんなさい、ごめんなさい…と。リディアは聖母のように微笑み、再びアリサを優しく抱き締めた。

これがアリサと彼女の恩師、リディアとの出逢いだった。

ユウは感動を覚えた。この残酷な世界で、リディアのあの優しさは貴重なもののように思えてならないくらいに。

 

だが、ユウは知っている。アリサが、自分と出会った頃は憎しみの塊となっていたことを。そのきっかけが…仲間たちに悲劇を押し売りしたあの外道で間違いないことを。

 

さっきとまた景色が変化した。

体つきを見ると、さっきまでの幼い体ではなく、一気に今と変わらないくらいの年齢に成長しているようだ。

すぐさま…あの卑劣漢の顔が目に入った。

(大車…!)

あの男の顔を見た途端、ユウの中に怒りの炎が猛る。

「さあアリサ、心安らかに聞きなさい。今日も強くなるおまじないをしようじゃないか」

「はい、先生…」

大車は見るからに人の神経を逆撫でするような下品な笑みを浮かべ、臭い吐息がかかりそうなほど顔を近づけているというのに、アリサは疑いもなく、いつぞやのように素直な子供のように聞き入れている。目は光を灯さず、明らかに正気ではなかった。

アリサの視点から見ているせいか、もう気持ち悪さを感じるばかりだった。

「いいかいアリサ。君にはパパとママの仇を討てる力がある。その力で、憎いアラガミたちを皆殺しにするんだよ。そのために、私のことだけを信じ、私の言うことだけを聞くんだよぉ?」

「はい、私…大車先生の言うことを聞きます」

「いい子だ。それじゃあ今からこれを見て、よぉく覚えるんだぞぉ?」

大車は、ベッドの前に立てたパネルに、写真をいくつか表示し、彼女に語りかけ続ける。

ねちっこく、いやらしく…それでもアリサ疑問の一つも抱かず聞き入れ続けていた。

そして、決定的な光景が再現される。

「そしてこれが君のパパとママを食べた…アラガミだよ」

ユウは絶句した。パネルに映されていたのはアラガミではない。

リンドウと自分そして…ウルトラマンギンガだった。

(そうか、こうして大車はアリサを洗脳したのか…!)

既にわかってはいたが、なんて卑劣な男だ。アリサを自分の都合のいい暗殺の道具に仕立て上げやがって!

 

そこから先も、アリサの視点で彼女の記憶は再生され続ける。

ロシア支部へ配属され、新型神機への適合試験を受けたとき。

『幼い君はさぞかし自分の無力を呪っただろう。だがこれで君は仇を討つ力を得る。戦え、打ち勝て!』

それはヨハネスの声だった。自分もあんな感じで声をかけられながら適合試験を受けていたのを思い出した。

(支部長もロシア支部でアリサの適合試験を見てたのか)

 

「うあああああああああああ!!!」

ザシュ!!

「うげ…」

「ち、ちょっと…あの子やばいんじゃなぁい?」

同じくその支部で共に戦う仲間たちと任務に向かったときの光景。だがそれは極東支部に配属された時と同じく、仲間を蔑ろにし、アラガミへの虐殺を厭わないものだった。

ロシア支部での彼女の仲間の、彼女を見る目も白かった。誰も腫れ物のように彼女を見て寄り付こうとしない。

(アリサ…)

無理もない。あんなことをする人を仲間だなんて思いたくないだろう。自分も、アリサの憎しみ任せな戦い方と心構えを肯定できなかった。第3者から見て、あまりにも異常すぎたのだから。

だが、そんな中でただ一人だけ彼女にじゃれつくゴッドイーターの少女がいた。

ポニーテールの金髪、褐色肌、やや小柄で、細い身体と裏腹に、大きなバスターブレード神機を担いでいる。

(彼女は…?)

当時は大車に洗脳されているせいで冷酷かつ残忍な性格にされてしまっていたアリサに対して、疑問に思うほどの明るい笑みをその少女は向けていた。

「終わった終わったー。早く帰って一休みしたーい。あ、でも戻ったらチビたちを遊ぶ予定だった…イヤー人気者は辛い辛い」

その顔は、幼いがどこかリディアとよく似ていた。

対して、アリサから伝わる感情は、彼女に対する苛立ちだった。アリサは、この少女を嫌っていたようだ。

「あなた…何を考えてるんですか。いつも任務中にへらへらして。あなたはアラガミが憎くないんですか?」

いつも、という言葉を使っているあたり、この記憶はアリサがゴッドイーターとなってしばらくの期間を置いてからだと理解した。

「あはは、あたしそんなにへらへらしてるように見える?っていうかさ…いい加減名前で呼んでくれない?

オレーシャって」

調子を変えようとしないその少女、オレーシャにアリサは馬鹿にされたと思ったのか、さらにイラつきを強める。

「質問に答えてください!あなたとリディア先生は、アラガミに両親を殺されたと聞きました。でも、あなたはどうして笑っていられるんです!?」

オレーシャはアリサの怒鳴り声に物怖じすることなく、聞き流すこともなく、彼女の言い分を受け止め、逆に問い返した。

「じゃあもし、アリサは自分のパパとママがアラガミじゃなくて人間に殺されたら、人間を憎んで殺しちゃうわけ?」

予想外の質問を返され、アリサは絶句する。

「そ…それは違う問題です!アラガミは絶対に滅ぼさないといけないんです!!」

「…無理だよ。アリサ。ゴッドイーターとしての最初の講習で、何度も言われてたでしょ?アラガミを滅ぼすなんて、事実上不可能だってこと」

それを聞いてアリサは、息を詰まらせる。だが納得もしていなかった。アラガミは両親の憎い仇だから、どうしようもないことだと割り切れるほど大人になれなかった。

「だからってアラガミを倒すな、なんていわない。そうしないと誰も守れないから。でも、あたしは憎しみだけで戦いたくない。こんな辛い世界だからこそ、ね?」

アリサはニカッと笑ってみせるオレーシャに、体の奥底から炎が沸きあがるような怒りと悔しさを覚えた。後にユウに指摘されたときと同じように、自分があたかも間違っていると突きつけられたような、でも絶対に認めなくないプライドの高さが、オレーシャの瞳の中に映っていただろう。

だが、そんな会話さえも与えまいとばかりに、二人の下に轟音が響く。

またアラガミが防壁を突き破り、居住区へ侵入したのである。

ロシア支部のゴッドイーターたちはすぐに対処に入り、アリサとオレーシャもまたアラガミを倒しに向かう。

そんな時、逃げ遅れた幼い少女をオレーシャとアリサは発見する。家に残した気に入りの人形が心配になって、戻ってきてしまったのだという。オレーシャは「心配だったんだね」と優しく少女に語り掛けるが、アリサはそうではなかった。

「なんて馬鹿なまねをしたんですか!あなたのその軽率な行動が、どれほど他の人に迷惑をかけたと思ってるんですか!!」

「わ、私はそんな…!」

「ちょ、アリサ!」

幼い少女はアリサに怒鳴られ、驚きを経て縮こまっていくばかりだった。アリサは相手が子供だろうと構わず、罵声を浴びせ続ける。

アリサの目を通してだからか、この記憶の映像をただ見ているだけしかできないユウは、当時のアリサ同様気づけなかった。

「こんなことをして、自分の家族に心配をかけることも分からなかったあなたなんて…」

オレーシャが、この時のアリサを見て、確信を得た視線を向けていた。

「死ん…」

「待った!」

オレーシャは、アリサが次に言おうとした呪いの言葉を遮った。

「ごめんね。このお姉ちゃん真面目だからつい気が立っちゃってるの。本当は優しい子だから、あまり怖がらないであげて…ね?」

「う、うん…」

「よろしい。じゃあパパとママのところに帰ろっか」

「待ってください!まだ話は…!」

「それはあと!今はこの子を安全なところに連れて行って皆と合流!」

納得できないままのアリサだが、オレーシャは最もなことを言ってかわした。仕方なく、アリサはオレーシャと共に少女を連れて一度、安全を確保できる地点まで引き上げた。

その後、合流した仲間たちと共に、侵入したアラガミを一掃したロシア支部のゴッドイーターたち。戦闘が終わったところで、オレーシャはアリサに向けて口を開いた。

「さっき女の子、パパとママに無事会えたそうだよ」

「…そうですか」

「あたし、さっきあの女の子にアリサが怒鳴ってるの見たとき、やっとわかった」

「な、何が…」

「リディア姉が言ってた。アリサはずっとあのクローゼットの中に閉じ籠ってるって。それはアラガミが憎いから、そう思ってた」

アリサは当時、いつもオレーシャたちの前で澄ましたような、周囲に対して無関心過ぎた態度をとっていたが、今は様子がおかしかった。つき受けられようとしている真実にオレーシャが踏み込もうとしている。両親が食われたあの時、ピターが今度は自分に迫ろうとしたときのような、そんな恐怖が沸き上がる。

「でも、本当は違ってた」

「…いや」

「アリサ、あんたは本当は…」

「やめ…」

 

「自分が憎かったんだ。

 

結果的に自分が、アラガミに両親を食われる原因作ったから」

「やめてえええええ!!」

アリサは悲鳴をあげ、頭を抱えて膝を着いた。オレーシャは、アリサのリアクションを見てオレーシャは正解を当てたと確信した。

「今までアラガミをあんなふうに殺したりしてたのも、自分への八つ当たり…ってとこか」

「…そうですよ。パパとママを本当の意味で殺したのは、私なんですよ!!子供の軽いいたずらじみたことをしたせいで、パパとママはアラガミに食べられたんです!

なのに私だけ生き延びて…私が死んでしまえば良かったんだ!」

顔を両手で覆いながら、アリサは悲痛に泣き叫び続けた。

ユウは、アリサのアラガミへも憎しみが、本当は別に、それも彼女自身に対するものであったことを知り、息を呑んだ。

(アリサ…本当は自分が憎かったのか…)

あの様子だと、アリサ自身も初めて知ったように見える。今までアラガミに味会わされた死の恐怖、両親の死への悲しみ。その発端はすべて自分にある。いつしかそれがアラガミに対するものへと刷り変わっていたのだ。恐らく、大車の洗脳のせいで。

「とりゃ」

「あいた!?」

すると 、そんなアリサの頭をオレーシャは小突いた。小突かれた箇所を抑えながらアリサが顔をあげると、オレーシャは怒っていた。

「ったく、せっかくパパとママから貰った命を粗末にしない!それこそ親不孝もんだぞ」

「な、なんなんですか…私が自分の命をどう使おうがあなたには関係ないでしょう!!どうせこのまま生きてたって、残酷な世界しか見えないなら、アラガミを殺し尽くして私も死んでしまえばいいんです!もうこんな地獄のような世界耐えられないの!!」

「…だったら」

膝を着いて叫び続けるアリサに、オレーシャは手を伸ばした。

「そこから出てきなよ」

顔を上げたアリサが見たのはオレーシャの笑顔だった。

「この世界は確かに絶望だらけだよ。あたしとリディア姉もそうだった。でも、こんな世界でも希望をもって生きてる人もいるんだよ。

少なくとも、アリサが閉じ籠ってるそこよりも、明るくて希望があると思うな。だから、悲しみなんて飲み干しちゃおう」

すべてを包むような慈愛に溢れたその視線を、アリサは知っていた。病室に閉じ籠っていた自分のもとに手を差しのべ抱き締めたリディアと同じ暖かさに満ちていた。

「あたしがいる。リディア姉もいる。アーサーとヘルマン、ダニエラ…一緒に戦ってくれるみんながいる。悲しみを飲み干して、笑おう」

記憶を通して、ユウも心が温かくなり、このときのアリサの心が光に満ちていくのを感じた。アラガミと、それ以上に自分への無意識な憎しみだけで戦ってきたアリサは…自分の間違いと、オレーシャがこの地獄のような世界でも希望を抱いて誰かのために戦っていることの意味を知った。

アリサは、オレーシャの手をとった。

「初めまして、だね。アリサ」

「初めまして…オレーシャ」

今までは、顔を合わせてから仲間として接しているとはいえなかった。アリサが心を閉ざしていたのだから。でもこのとき、二人は本当の意味で出会うことができた。

ユウは、感動した。油断していたら涙が出るところだった。

アリサには既にいたのだ。彼女の悲しみを理解し共に肩を並べて戦う大切な仲間が。それ以前にリディアという、姉のような存在もいて、決して孤独に飲まれることはなかった。

アリサは…一度知っていたのだ。憎しみで戦うことの愚かさと、悲しさを。

(…待てよ?)

ユウは疑問を抱いた。これほどすばらしい姉妹と出会っていたのに、なぜアリサはユウが所属する極東支部に異動したとき、また憎しみを抱いて戦うように……

 

(ま、まさか………!!!)

 

ユウの背筋が凍った。その後のアリサの身に起きた、更なる地獄がくることを確信した。

 

 

そう、そんな幸せも…この非情な世界は容赦なく壊した。

 

 

後日の任務で、傷つき倒れたアリサは、目を覚ました。共に任務にきていたはずのオレーシャの姿がない。

「オレーシャ…?」

周囲は枯れ木で生い茂る、死した森。その森の中央は、赤く染まった血の池が出来上がっていた。

そこにたどり着いたアリサは……見てしまった。

瞬間、彼女の頭の中に、オレーシャと共にすごした日々がよぎった。初対面からじゃれ付くように迫ってくて、それ以来何度もスキンシップで尻やら胸やらを触ってくるオレーシャ。傷つき倒れそうになった自分に手を差し伸べ、無事を誰よりも喜んでくれた彼女の笑顔。

太陽のように明るいそんな彼女の顔が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァジュラに食われ、半分に別れていたのを

 

 

 

 

 

 

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

今までにない彼女の悲鳴は、まるで嵐のごとくだった。暴風に煽られるように、アリサの中からその叫び声を浴びたユウは吹き飛ばされた。

 

「うあ!?」

気がつくとユウは、元の…現実でのアリサの病室に戻っていた。

「ユウ、大丈夫か?」

「はぁ…はぁ…タロウ…うん、なんとか」

肩に乗って来たタロウを、ユウは見返す。

アリサの幼き日の過去。両親を目の前で食われたと聞いていたが、実際に見るとあまりにもショックが大きすぎる。だがもうひとつ驚いたのは、アリサにも彼女の孤独と心の傷を理解し、支えた親友がいたことだ。その親友オレーシャは…

「リディアさん、教えてもらえますか?オレーシャって、あなたの亡くなった妹…」

「ッ!」

リディアは、まだユウに自分の妹の名前を言っていなかったこともあり、驚いて目を見開いた。アリサの記憶の中にいたオレーシャが、リディアのことを姉と呼んでいたし、容姿や雰囲気もどこか似ているものがあったが、やはり当たりだったようだ。

「そこまでわかるなんて…なんだか、ユウさんが超能力者みたいですね」

やや苦笑気味にリディアは言った。

リディアはそれから、オレーシャのことを話し始めた。ある程度の情報は、アリサの記憶の中で見たとおりだったが、それだけでは知りえなかったこともリディアは話していった。

 

 

 

その頃、闇のエージェントたちは…

「ふぅ…ディアウス・ピター、Getだぜい!!」

キュピーン!と、どこぞのポ○モントレーナーのごとき台詞と、擬音を感じさせるようなポーズをとりながら、バルキー星人バキは得意げに叫んだ。

「なに一人でかっこつけてんのよ。こいつを捕まえたのはあんたじゃなくて、このあたしの故郷ナックル星の拘束具のおかげよ」

「我がマグマ星の特別星捕獲器具『マグマチックチェーン』を使ったことも忘れるな。こいつは、あのウルトラマンキングでさえ未だに外すことが困難とされるほどの、宇宙一の特注品なのだからな」

「宇宙一とは行ってくれるじゃない。あたしたちナックル星人を差し置いて…」

「ふん、自分の星を自慢できないような弱小星人を名乗った覚えはないからな」

「グルルルルル……」

そのディアウス・ピターだが、奴は今、体中に鎖を巻きつけられ、両足も拘束具で固定され身動きがとれずにいた。それでいて現在は等身大サイズの闇のエージェントたちに、今すぐにでも食ってやろうかといわんばかりの視線を向けている。

「ちっ…!」

その視線が気に食わないのか、マグニスは露骨に嫌悪感をあらわにしながら、サーベルを取り出してピターの目に向けて、サーベルを変形させた銃の砲口からビームを一発打ち込んだ。

「ガアアアア!!?」

目を焼かれてピターが悲鳴を上げた。アリサの両親のにくき敵で残忍なアラガミが、今は密猟者に虐待されている動物のような有様だった。

「何生意気にもこの俺様たちを睨み付けてやがる。たかが神の名前をもらっただけの卑しい獣の分際が。寧ろ貴様をこれから無敵の怪獣に強化してやるんだ。感謝してほしいくらいだぜ」

「おいおいMr.マグニス。あんまそいつをAngryさせちゃだめだぜ。今度は腕を引きちぎってでもEscapingするかもしれねぇからな」

短気なマグニスをたしなめるバキ。グレイは、ピターの苦痛と怒りに歪んだ顔を眺めながら深くため息を漏らす。

「けど、こいつにも困ったものねぇ。何度捕まえても、宇宙金属性の鉄格子さえ食って逃げるわの繰り返しだったわ。アラガミ様様ね」

「まったくだな…この拘束具も、俺たちが故郷から持ち出した数少ない特注品だ。どうせ使うならウルトラマンギンガを相手に使っておくべきだったか」

どうもピターは、これまで彼らが捕獲のために用意した拘束具を食いちぎっては逃げ続けていたようだ。ついに業を煮やした彼らが用意した特別製の拘束具によってようやく逃げられないようにできたらしい。

自分たちと、自分たちの主の仇敵であるウルトラマンを倒すことさえできれば、確かにこんなに手の込んだ手間をかけることもなかった。

「ヒッポリト星人の奴らとかならうまく捕まえられたかしら?ウルトラ戦士でさえタール漬けにしてしまった奴らだし」

「やめとけ。手柄を横取りされて、俺たちのあの方からの評価が下がるだけだ。もし、使い物のならないと判断されたら、俺たちはどうなると思う?」

「…それもそうね」

闇のエージェントたちは、常に自分たちが崇拝する『あのお方』という存在からの評価を気にしている。同時にそいつから切り捨てられたら、その末路はろくでもないものであることも察してた。だから他の星人の能力に活路があっても、自分たちの力か、自分が従える手駒のみの力で『あのお方』からの命令を遂行している。大車がこの星人たちを出し抜こうとしていたのもそのためと見られる。

「さて、流石のYouたち自慢の拘束具もEatingし始めたぜ。とはいえ、Long timeを費やしそうだ」

バキの言うとおり、性懲りもないというべきか、やはり本能というべきか、ピターはマグニスたちの用意した拘束具、そのうちマグニスによるマグマチックチェーンをかじり始めていた。だが、これまで自分を捕まえていた鎖と違い、あまりにも硬くて食いちぎれずにいる。

「ふん、そうやって犬用のおやつみたいにしゃぶり続けていろ。さて、後は…」

マグニスは、大車から取り上げていたボガールのスパークドールズを取り出す。

「こいつとアラガミの合成神獣を作り出し、ピターとボガールとの融合を果たすまでの時間を稼ぐ…この作戦、あの無能な地球人に果たせるかな?」

「ギンガを倒せばそれがそれでGoodだぜ。ま、Impossibilityなのは目に見えてらぁ。

あのお方も、よくあのMad DoctorにNew Missionをくれたもんだぜ」

「…実績や実力はともかく、あの男がつかんだ『情報』だけは、あのお方でも目を見張るものがあったというわけだ。気に食わんがな」

小さく舌打ちするマグニス。

前回『あのお方』が彼ら闇のエージェントの前に次の作戦への指令を下した際、本来なら役に立てなかった無能者として、彼らの主から処断されてもおかしくなかった大車。しかし、ヨハネスの部下として極東支部から持ち帰った『ある情報』と引き換えに、もう一度チャンスを与えられたのである。一度は処断されるかもしれなかった大車がもう一度チャンスを与えられるという…よほど有力な情報だったに違いない。それをあのような無能でクズな地球人が掴んだことが気に食わないでいた。

「情報だけじゃないわ。あの男自身が持つ醜い感情による『マイナスエネルギー』の量と質は、普通の人間よりも並外れている。あの男が闇のエージェント入りを果たして以降、予想以上に『あのお方』の復活に必要なエネルギーも上がってるし…まぁでも、別にいいじゃない。大車にはせいぜい働いてもらおうじゃない。捨て駒らしく、ね。あの男が身体をどれ程張った所で、あの方のあいつへの評価は上がるはずがないもの」

「…ああ、自分のCountryを売るようなBADMANは、俺たちのようなAlienであっても万死に値するからな。せいぜい、捨て駒らしく散るのを期待だぜい」

闇のエージェントたちはほくそ笑みながら、大車の捨て駒としての活躍に期待するのだった。

 

 

その大車は、今は極東支部のすぐ近くの廃屋に隠れていた。

「くそ、あの糞異星人どもめ…」

マグニスたちから暴行を受け、身体は打撲だらけだった。サングラスもひび割れている。タバコを吸ってストレス解消しつつ、傷の手当てを行う大車。

(だが、まだあの方は私にチャンスを与えてくださった。私のアリサに仕掛けた『保険』とも言える作戦を信じて…これが成功すれば、私はギンガを倒し、あの方からの評価は今度こそ絶対となる!)

まだ大車は、ギンガを倒すことも、アリサのことも諦めていなかった。そうでなくては、この前アリサを奪い返される直前に、アリサに残した『置き土産』を仕込まない。あのときは自分が逃げるだけで精一杯だったが、ギンガを殺し、自分の未来の要であるアリサを取り戻す。

大車の頭の中に、ギンガの変身者であるユウの顔が浮かぶ。

『ありもしない自分の偉大さに浸る貴様ごときと一緒にするな!』

思い出すだけで腹が立った。あんな、ウルトラマンの力に、おんぶにだっこなだけの生意気な糞ガキ。前以上にとことん絶望させてから殺さないと気が済まない。

「失敗すれば死あるのみ。だが、何があろうが、私は生き延びてやる…!」

大車は、新たに『あのお方』から与えられたスパークドールズとダミースパークを取り出した。

 


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