ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
「紹介しよう。本日よりお前たち第1部隊に配属となる新型神機使い『神薙ユウ』だ」
翌日の朝、ユウはアナグラのエントランスにて、新人教育担当のツバキに連れられ、配属先となった第1部隊メンバーたちに自己紹介することとなった。
「神薙ユウです。足を引っ張らないように頑張りますので、よ…よろしくお願いします」
少し堅くなっている様子で、ユウは第一部隊メンバーたちに向けて敬礼した。そうならざるを得ない。先日まで、自分はフェンリルに対する反発心のあまり、第1部隊メンバー…そう、目の前にいるリンドウには特に冷たく当たってしまったので気まずかったのだ。
「雨宮隊長、その…以前は無礼な発言をしたことをお詫びします。申し訳ありませんでした…」
それを聞いてリンドウは気さくに笑った。
「気にしてねえよ。俺たちがそう言う目で見られるのはもう慣れてる。
さて…もう知り合ってはいるが自己紹介するぞ。俺は第一部隊隊長の雨宮リンドウ。それと、雨宮隊長なんて呼び方は止めてくれや。慣れてねえんだ」
「そうね。ツバキさんはともかく、リンドウが『雨宮隊長』って呼ばれるなんて違和感ばりばりだもの」
横からサクヤがクスクス笑ってくる。
「うへぇ、そりゃないぜサクヤ。俺はこれでも隊長なんだからよ。まあでも…」
ばつが悪そうな顔をしていたが、リンドウはユウをじっと見ると、うんと頷いて笑みを浮かべた。
「先日よりはいい目をしているな。お前。吹っ切れたって感じだ」
「そう、でしょうか…?」
自分なりに割り切って見せたつもりだが、いまいち実感はない。本当にこの選択に間違いがなかったのかといわれると、ただ『後悔はしていない』としか返す言葉が無い。
「まぁ、とりあえずとっとと背中を預けられるくらいに育ってくれ。…以上」
「「え、終わり!?」」
少し間があったし、隊長と言う立場だから少しは長話が出るのかと思っていたが、やけに適当な言い方をしてきたリンドウに、ユウとコウタは見事に面食らった。
上官と言う立場以前に、姉として弟の抜けたところは見られたくないところもあるためか、直後にツバキは手に持っていたバインダーでリンドウの頭を叩く。
「痛ッ!」
「全く…少しは隊長らしい挨拶くらいせんか。馬鹿者」
進入隊員の前で叱られる隊長。あまり見ないタイプの隊長なのは間違いない、というかこんな隊長はこの先含めてもリンドウしか思い当たらないのではないかとさえ思える。
…本当にこの人が隊長で大丈夫なのか?
「新人君、いちいち気にしてたら身が持たないわよ?」
やれやれといった感じでサクヤがため息を漏らす。
「それにしても意外だったよ。新型神機が配備されるって聞いてたけど、まさかあんただったなんてさ」
その一方でコウタは、新しく配属された新型神機使いのメンバーが、先日会ったばかりのユウだったとは思って見なく、驚いている様子だった。
「確か、君はコウタだったよね」
「おぉ!覚えててくれたんだ!そうそう、藤木コウタ!よろしく」
「よ…よろしく…」
名前を覚えてもらってて嬉しかったようで、コウタはユウの手を両手で取って固い握手を交わす。しかしぶんぶん振ってくるものだから腕が痛い。
「にしても新型かぁ…剣と銃の両形態が一度に使えるんだろ?俺もうちょっと遅れて入ってきたら新型になってたかな~?」
一方で彼は、自分が新型神機使いじゃないことについて、遠近両方に対応できる武器を手にしたユウをうらやましくも思っていた。そんな彼にサクヤとリンドウの二人が口を挟む。
「何言ってるの。神機は人を選ぶんだから」
「それにコウタ、お前の神機だって古いとはいえ、なかなかのものなんだぜ。なんたって、姉上が現役時代に使っていたんだからな」
神機が人を選ぶ。それは要するに、適合率の話である。ユウが新型神機に選ばれたのは、配備された新型神機がたまたまユウと適合していただけ、逆にコウタは適合していなかっただけの話だ。だがその一方で、コウタが使用することとなっている神機は長期間使われていたために少し古いものの、その分何度も調整されてきた、それもツバキが現役のゴッドイーターだったころに使っていた長年の業物なのだ。使い手によっては、ユウの新型にも劣るどころか上を行くかもしれないというのがリンドウの見解だった。
「リンドウ、ここで私を姉上と呼ぶな」
「へ~い…」
ツバキは公私混同を割けるため、姉上と言う古風でわざとらしい呼び方に目くじらを立ててリンドウに注意を入れた。
「そう言えば、私とはまだ話してなかったわよね?私は橘サクヤ。よろしくね。神薙君」
リンドウが頭の上がらない姉、いや上司からの喝に頭を掻く一方で、今度はまだユウとは会話したことのなかったサクヤが握手を持ちかけてきた。優しい笑みと美貌、しかもその薄着の格好から一瞬見るだけでわかるほどの抜群スタイルが目の毒にカウントできるものだから、サクヤの伸ばしてきた手の感触と彼女の笑みに、彼は思わずどきっとしてしまった。ツバキもまたキツめではあるが、クール系のかっこいい美人なうえに、大きな胸元を開いた服をきているせいもあり、余計に年頃のユウがそうなるのも致し方ない。
「は、はい…よろしく、お願いします…」
「もしかして、まだ緊張してる?」
「そ、そうみたいです…」
頭をかきながら、つい見とれてしまった自分をユウは恥じた。変な視線で見てしまったことに気づかれているのではと思うと余計にそう思えてしまう。
「ソーマ、これから一緒に戦う仲間だ。お前も挨拶くらいしとけ」
リンドウが、後ろにあるソファにふんぞり返るように座っておる青年に話しかける。リンドウと同じく、第1部隊の凄腕の神機使いでもある、ソーマだ。しかしソーマはち、と舌打ちしてきた。入隊早々とっつきにくいタイプの人間と遭遇するとは。行き成り舌打ちされたユウは少しカチンときたが堪えた。
「…ソーマだ。別に覚えなくていい」
「おいソーマ!そんな態度…って、行っちまった。ったく…」
ソーマはソファから立ち上がると、せっかく新しい仲間が自分の部隊に入ってきたにもかかわらず、コウタが引きとめようとしたものの、エレベーターに向かって、そのまま乗って去っていった。完全に拒絶されている。どうしてソーマがこちらに対して突っぱねるような態度を取ってくるのか理解できないユウだった。
「…すまんな。あいつは優秀なゴッドイーターなのだが、あの通り対人に対する態度が問題視されていてな。私が現役だった頃から何度も注意を呼びかけてきたが未だに治っていない」
ため息交じりにツバキがユウに詫びを入れる。上官としてソーマの態度を改めさせることもできない自信の監督不行き届きぶりを情けなく思っているようだ。ソーマをフォローするように、今度はリンドウが言葉をかけてくる。
「だが新入り、あいつはとっつきにくい奴だが、信頼もできるし、死を嫌うやさしい奴でもあるんだ」
「ホントですか~?俺この前軽く挨拶したら、行き成り殴られて医務室行きになりましたよ?」
ジト眼でコウタはリンドウを見る。以前ソーマに意味もわからないまま殴られたことがあるらしい。
「それはまぁ…運が無かったとしかいいようがねぇなぁ…」
「リンドウ…」
乾いた笑みを浮かべるリンドウに対し、サクヤは冷たい視線を送る。
少し空気が妙に重くなっているのを見かね、ツバキが話を切り替えた。
「さて…話を戻すぞ。この神薙ユウは訓練期間中のため、まだ任務には出撃させられないが、今のうちに仲間同士のコミュニケーションをとっておくようにしておけ。その方が任務を円滑に進めやすくなるだろう」
「「「了解!」」」
「ではこれにて解散だ。各自次の任務に備えろ。ユウ、お前は0900から訓練だ。遅れたらその分だけペナルティをかける。そして私からの質問には全てYESとだけ答えろ。わかっているとは思うが、新型に選ばれたからといって調子に乗るなよ。いいな?」
「は…はぁ…」
「YESだ。わかったら返事をせんか」
「は、はい!!」
じろりと睨みを利かされ、ユウは反射的に背筋を立てて気をつけした。去り行くツバキを見て、リンドウはふう、とため息を漏らした。
「や~、やっぱ姉上はおっかないな」
「また姉上って呼んでるわよ。あとでチクろうかしら?」
「聞かれてないうちは見逃してくれよ…オチオチ夜も眠れねえ」
サクヤが少しからかって来ると、リンドウは頭を掻く。コウタがひょいとユウの横に来ると、内緒ごとを打ち明けるかのように耳打ちした。
「気をつけろよ。ツバキ教官はめちゃくちゃ厳しいからな」
「う、うん…」
それはもう見るからにわかる。ゴッドイーターとしてこれから戦うことになるのだ。わざとこちらを恐怖させるような態度で接するのもまた上官として当然のことなのだ。でも、やっぱり怖いので避けて起きたのが本音である。
アナグラの、新米ゴッドイーターのために用意された『新人区画』の自室のベッド。窓には夕日が映っているが、アナグラは大半の重要なエリアが地下に展開されているため、ユウのいる新人区画もまた地下にある。この窓に映る夕日も偽物だ。
コウタがそうであったように、新人の教育は主にツバキが担当している。見た目以上に彼女は厳しかった。あれからは訓練の日々だった。まずは適合試験も行った訓練スペースにて、彼は腕立て伏せや腹筋などの基礎訓練や捕食形態(プレデターフォーム)の扱い方、新型らしく銃形態と剣形態の即効性を問われる切り替えを練習した。フォームチェンジの際に神機に不調を起こしたらアラガミに隙を与えてしまったりしたらことなので、この訓練には、ユウが所持する新型神機の動作確認実験を兼ねていた。
ちなみにユウがフェンリル入りを果たした際に持ちかけたヨハネスとの約束だが、きっちり女神の森に向けて物資が運ばれていたことが判明、ユウはひとまず安心した。が、見立てを変えれば、飼い犬的な立場のユウから噛まれることなく手なずける、と言う見立てもできるので自分なりに油断はしないようにした。
訓練についても結果は問題なし。思った以上に早く彼は形態変化を自在にこなし、基本動作の訓練、さらに新型故の、銃と剣の両方の訓練も行った。神機はこれまで二種類に分けられたため、訓練の量は通常の新人神機使いよりも二倍近く。訓練期間も少し長めに取られていた。
しかもこの訓練、メニューの量もそうだが、ツバキの睨みを利かせた視線と厳しい指導もまた精神面に堪えて来る。噂では彼女の足音を聞いただけ出た以外のゴッドイーターたちは姿勢を直ちに正すほどらしい。相当鬼教官として恐れられてもいるようだ。返事がほんのちょっと小さかっただけでも「わかったらとっとと返事をせんか!!」と厳しい怒声を浴びせられたので、ユウもツバキの怖さを良く理解した。
「つ、疲れた…ツバキ教官厳しすぎる」
ユウはフェンリルから支給されたコバルト色の制服の上着を脱ぎ捨ててベッドの上に飛び込む。それにしても、どっと疲れたものだ。フェンリルの施しなど受けるものかと強がっていた割りに、皮肉にも彼らに用意されていたこの部屋のベッドの心地よさに癒されてしまう。
「お疲れ様、ドリンクを用意しよう」
「あ、ああ…ありがと…って!!なんであんたがここにいるんだよ!!」
どこからか聞こえてきた声に対して、思わずごく自然な流れで突っ込みを入れてしまった。いつの間にかちゃっかり自分の部屋にいて、しかもスポーツドリンクをベッドの傍らの台座においてくれた、人形の姿をしているウルトラマンタロウに。
「私は君から見れば、ウルトラマンとしては先人に当たる。まだ君が未熟な内は私が面倒を見ておこうと思ってな。よってここに来たのだ」
「よってって…どうせ他にいく宛てが無かったのが本音じゃないの?」
「ぐ、そ…そんなことはないぞ!後の誇るべき後輩のために働くのもまたウルトラ戦士としての重要な役目だ!」
(慌てる辺り怪しいな…いや、こいつが怪しいのは最初からか)
「ユウ、何か失礼なことを言わなかったかな?」
「別に」
ユウはタロウからドリングを受け取り、それを飲み干した。それにしても、動く上に喋る人形とは。傍から見れば妙なものである。視点を変えれば怪談物にも受け取れる。
「それにしても、かなり疲れた様子だな」
「そりゃね…最近までまともな運動といえば、アラガミから全力で逃げることくらいだったんだから。それが急にアラガミと戦う側に立つんだよ。疲れの度合いが段違いさ…」
ため息を漏らしていると、ユウはタロウのまとう空気が暗くなり始めたことに気づく。人間としての表情があれば、落ち込んでいるようにも感じ取れた。
「だが、過酷な特訓で強くなっても、やはり我らは未熟なままだった。何せ…こんな姿なのだからな」
そういってタロウは、部屋の壁にかけられた鏡に映る自分の姿を見る。本来は巨人の姿をしている自分。今では、その姿を模倣した人形の姿。我ながら情けない姿をしている。
「…そういえば、タロウたちウルトラマンってアラガミさえも物ともしないほどの奴らだったんだろ。姿を維持するには人間の体が必要とか言ってたみたいだけど、とんでもな特訓をしてたみたいだし、アラガミを倒すなんてたやすかったんじゃないのか?それに、そんなタロウがどうして人形の姿なのかまだわからない。もしかして、人の体がないとそんな人形になってしまうような体質?」
「…」
「あ、今更責めようとは思ってはいないんだ…ごめん」
いくらか一気に疑問を打ち明けたユウだが、タロウが押し黙っている。もしかしたら自分が、『ウルトラマンが早く来ていれば、今頃人類はアラガミに苦しむことが無かったのでは』と言っているように聞こえていたのではと思った。
しかしタロウは気にすることなく、逆にユウに対して問いかけた。
「君は、自分がもし女性だったらとか、自分自身の存在そのものがない世界とかを想像したことはないか?」
「え?」
「我々ウルトラマンは、そういったあらゆる宇宙…平行世界に存在し、それぞれの世界の秩序を守るべく戦ってきた。時には時空さえも超え、別の宇宙に飛ぶこともあった」
「別の宇宙って…確かそれって…多次元宇宙論?」
聞く限り、フェンリルの全宇宙規模版のようだ。宇宙規模となると相当の規模である。それだけの行動範囲があるなら、なおさら疑問も募った。ウルトラマンがそれほどの存在なら、どうして目の前にいるタロウがこんなちんまりとした人形なのか、なぜ地球をアラガミの支配下に置くのを見逃してしまったのかと。タロウが先日自分たちの力に頼りすぎて地球人が怠惰になることを恐れていると話していた以上、何も地球の歴史や文明に深入りするわけでもなく、宇宙の平和を保つというのが目的なら、アラガミの脅威から地球を守るという名目で彼らもまたアラガミと戦うことだってできるはずだ。事実、かつてのウルトラマンたちは地球を狙う侵略者だけでなく、突如現れた地球怪獣と戦うことなど腐るほどあった。
「そうだ。複数の宇宙に群がる侵略者は怪獣たちを使役し、互いに連合を結成し、全宇宙制覇という目的を果たす上で最も邪魔となる我らウルトラマンを滅ぼそうとした。我らももちろん奴らの身勝手で傲慢な暴挙を許すまいと、我らも多次元の同胞たちと共に連合を結成し、戦いに挑んだ」
そのとき、タロウの脳裏に蘇るのは、『あの時』…ウルトラマンと言う存在がまだ地球の人々に記憶されていた頃だった。
闇に満ちた荒野の世界。そこで自分が兄弟や別宇宙のウルトラ戦士と共に、あまたの数の怪獣と悪の宇宙人たちと戦う、まさに全宇宙の命運をかけた、壮絶な戦いだった。
「未曾有の、果てしない戦いだった。一体いつに終わるのかもわからないその戦いの中…」
「どうしたの?」
急に沈黙したタロウにユウは首をかしげた。
「…私たちは、そこにきてやっと気づいたのだ。もっと早く気づくべきだった…あの戦いは、何者かによる罠だった」
「罠?」
「私も何が起きたかはっきりとわからなかった。だが、無差別に襲う黒い霧が互いに戦っていた我らを襲い、覆い尽くしたのを見て、意識を失った…」
何者かが放ったのか、それとも自然発生か。タロウの記憶では発生した原因こそわからないままだったが、あの時発声した黒い霧に怪獣や宇宙人だけでない、自分の仲間や兄弟たちが次々と人形されてしまったその瞬間の光景までは忘れたことは無かった。
「もしかして、そのときにあんたは人形に…?」
「ああ…気がついたらこの姿で、荒れ果てたこの地球にいたのだ」
ユウからの問いにタロウは頷いた。
「昔自分がそうしたように、人間の姿となる手段もあったのだが、人形にされてしまったせいで本来の力のほとんどを失い、このとおりだ。本来の力を発揮することもできず、人形の状態から元に戻ることも人間になることもできず、この姿のままくすぶっていたのだ。ずっと守りたいと思っていたこの地球が、地球の人々が、アラガミによって食い荒らされていくのを見ていることしかできずにいた…」
ぎゅっと握り締められた形のタロウの拳が震えているように見える。
タロウにとって、地球は生まれ故郷である光の国とは別の、地球人『東光太郎』として生きていた頃の、もう一つの故郷だ。それがまさか、アラガミという神の名を飾られた醜い化け物などに食い荒らされ、今となっては見る影もなくしている。しかも今のタロウは、最後の戦いで起きた異常現象のせいで力を失っている。悲しみと自身の不甲斐無さを呪いたくなってしまう。
「今の私には、怪獣は愚か、小型のアラガミを倒すことさえもできない。せいぜい念力を使い、追い払うのが精一杯だ…!!」
「…」
これで嘘を演じているとしたらとんだ食わせ物だが、声に嘘が混じっているようには見られない。何かを成したいのに、昔のようにそれを成すこともできない。今のタロウはまさに、今の人間たちの意志の一つを体現しているとも見えた。好きな仕事について裕福な生活を送る、夢を追い求めて生を全うする。今の人類はそんな余裕さえも許されていないのだから。
いや、待てよ?
「ちょっといいかな」
「む、何を…!」
あることを思いついたのか、ユウはタロウを掴んで持ち上げると、彼の足の裏を見る。何かの予想が当たったのか、うんと頷く。
ユウは覚えていた。初めて巨人に…ウルトラマンに変身した時、あのウルトラマンの人形にも、六角形のマークがついていた。そしてアイテムの先端にマークを当てると、まるでカードリーダーのごとく人形が反応し、自分が気がつけば光を身にまとって巨人となっていた。
「もしかしたら、タロウもこれを使えば、元の姿に戻れるんじゃないか?」
最も、これをつかうということは、今度は一時的にタロウに自分が変身するということになるのだろうが。
「む、本当か!?」
「まだ確証はないしただの予測だけど、あの時僕が変身した巨人には、タロウと同じマークが足の裏についているし、もしかしたら…あ、でも今ここで試すのはまずいかな…?」
ウルトラマンはあの時変身してのとおり、巨人だ。ここで試したらアナグラの地下の空間を押しつぶしてしまうのではないかと言う懸念が出た。
「なるほど…まだユウは一度しか変身していない。下手をこいて巨大化してしまったらまずいし、目立ってしまうのもな…」
タロウもユウの懸念を察した。元の姿に戻るのは、人形となって目覚めたその日以来己の無力さを呪い続けてきたタロウにとってこれほど望んだことは無い。しかしだからといって周囲を無視した行為はすべきではない。一応自分たちウルトラマンが等身大への変身やミクロ化も可能なのだが、それは十分な訓練をしてからじゃないとできないのだ。
「うーむ…ユウ、君の気遣いに感謝するが、今はやめておこう。万が一と言うこともある」
「そうだね…」
本来なら不法侵入財で捕まりそうだったところを、新型ゴッドイーターへの適正が通ったなどという、宝くじにも匹敵するようなことが起きた自分の首を絞めることはない。タロウを元の姿に戻すのは、今はおいておこう。
「明日早いし、もう寝るよ」
「あぁ、お休み」
ツバキ教官はさっきも言ったように時間にもうるさい人だ。早めに休んで明日に備えよう。ユウは寝巻きに着替え、毛布に身をくるませた。
「…ところでさ、タロウ」
「うん?」
「どこから用意したのさ?その特注サイズのベッド」
寝る直前、ユウは見た。なぜかタロウが、今の彼の体の大きさに合った小型サイズのベッドに、それも帽子とパジャマ姿で寝ようとしているのを。ちなみに帽子からチャームポイントである二本角が飛び出ている。
「大人の事情と言う奴だ。気にしないでくれ」
「いや…無理だろ…」
シュールな光景が逆に気になってしまい、翌日ユウは寝坊した。その翌日の朝早くのエントランスの光景が以下。
「遅い!3分遅刻だ」
バインダーを片手に、出撃ゲート前に仁王立ちするツバキと、彼女の前で頭を垂れるユウの姿があった。
「以前も言ったな、遅刻したらその分のペナルティを課すとな」
「…はい」
「今から訓練前の追加メニューを言う。腕立て・腹筋・背筋それぞれ300回だ。今すぐやれ」
「はいぃ…!」
ゴッドイーターになれば身体能力が体内に埋め込まれた偏食因子の影響で強化されているのだが、それでもツバキのしごきはきついことこの上なく、ユウはその日の夜には激しい筋肉痛にさいなまれることとなった。
ユウが訓練の日々に明け暮れている間のある日、リンドウ・タツミをはじめとした各部隊の隊長陣とツバキはアナグラの役員区画にある、会議室へ呼び出された。
会議室にはテーブルが長いテーブル置かれ、奥のほうに巨大電子スクリーン、傍らにはスクリーン画面内を操作するための装置が設置されている。
テーブル中央の席に支部長ヨハネスが、もう一人傍らの席には狐目の眼鏡の男も座っていた。どこか怪しげな空気を漂わせているが、彼もまた極東支部において重要な役割を担っている男なのだ。
「第一部隊隊長雨宮リンドウ、到着しました」
「第二部隊隊長大森タツミ。到着しました」
「来てくれたようだね。では早速…会議に移るとしよう。席に座りたまえ」
それぞれの隊長陣が敬礼し集合。ヨハネスの指示通り彼らは席に座った。
「さて、皆を呼んだのは他でもない。例の、アラガミ防壁を破ったという巨大アラガミとそれに連なる情報についてだ。
サカキ博士、頼む」
「ああ。ではみんな、今からスクリーンに映すものを見て欲しい」
名前を呼ばれた狐目の男が装置を機動、今回の会議のために用意したプレゼンテーションをスクリーンに表示した。
少し紹介しよう。アラガミ技術開発の統括責任者『ペイラー・サカキ』。アラガミを研究者としての立ち居地から常に観察し研究し続けている。少しマッドサイエンティストじみた一面もあるが悪人ではない。支部長であるヨハネスとは旧知の仲である。実は、ユウの適合試験の後、彼のメディカルチェックも担当しているため、ユウともすでに面識がある。
「では、早速始めて行こう。皆も噂で聞いているはずだ。旧降星町の鎮魂の廃寺…そこに出現した巨大アラガミのことを」
誰も返答こそしていなかったものの、その表情には肯定の意思が見られた。
「そのアラガミについてだが、リンドウ君たち第一部隊からの証言によると、オウガテイルがこの人形を捕食したために起きた突然変異による成れの果てだったということがわかった。しかもその体長は、ウロヴォロスよりも巨大な、50~60m級」
なんだって…?そんな馬鹿な…周囲の隊長陣からざわつきが起こる。やはりリンドウたちが戦ったあの巨大アラガミ…オウガダランビアの存在が、先日現れた新たな巨大アラガミの出現に伴って、無視は愚か、隠したままでいることもできなくなったのだ。いや、隠すつもりだったわけではないだろう。ただ、突然の出現で写真のような根強い証拠品もなく、出現の前例が全く無かったのだ。
「待ってください。人形を食ったくらいでアラガミが姿形をそう簡単に変わるものなんですか?」
タツミが挙手し、皆を代表して質問した。その問いに対してサカキが答える。
「いい質問だね。確かに、小さな人形を食べたところでアラガミは姿を変えたりなどはしない。アラガミの中には、クアドリガのようにオラクル細胞が戦車を捕食したことで、捕食対象の情報を元に自らの姿を構築した種もいるが、何の能力も無い人形をアラガミが捕食したところで、彼らの体を構成するオラクル細胞に捕食され尽くされ、外見・能力的共になんの変化ももたらさない。
しかしこれだと疑問に残るね。なぜ、鎮魂の廃寺でリンドウ君たちと交戦していたオウガテイルが、突然変異を起こしたのか…。一つわかるのは、これだ」
サカキがスクリーンに表示したのは、鎮魂の廃寺で発見された、怪物の人形、もう一つは通常のオウガテイルの写真だった。そして今度は写真ではなく、その怪物にオウガテイルの。
「写真については残念だが写せなかったが、リンドウ君たちの話を元に一流の絵師の人に描かせてもらった、例の巨大アラガミの姿だ」
一流、と言うだけあって、絵はうまい。細かいところにわずかな違いが見受けられたが、あの時見た巨大なアラガミとほぼ特徴が一致していた。オウガテイルと怪物の人形と隣りあわせでの表示だったこともあり、わかりやすい。
「戦闘中に逃亡を開始したこのオウガテイルが怪物の人形を捕食し、巨大なアラガミに突然変異した。普通なら先ほど語った通り、人形を食べたくらいでアラガミは進化しない。
でも、こうも考えられないかな?」
サカキはふ、と笑みをこぼしながら、ここに集まっている者たちに向けて言う。
「あの人形が…ただの人形ではない、それも特殊なものだとしたら?」
それを聞いて、一同の目が変わる。サカキがプレゼンの次ページを表示すると、今度はあの怪物の人形の写真の一枚のみ。しかしそれはまるで生物の体の部位を示す見取り図のようだ。
「回収されたあの人形を私なりに観察してみて、あることがわかったのだ。この人形はね……『生きて』いるんだ」
「生きている?」
「そう、実はあの人形は一つの生物なんだ」
皆の疑惑のまなざしを受けるサカキだが、そのことは想定済みと表情を変えない。
「信じられないだろう。私も最初はそうだ。だがこの人形をあらゆる装置にかけて解析した結果、これからは生命反応が検知されていた。予想を覆る結果が出てくるというのは、科学者として興奮させられるものだよ。そうそう、もう一つ気になるといえば、そのアラガミのコアだ。ウロヴォロスのコアは、本来巨大なものだ。
だが回収されたコアは…オウガテイルと全く変わらないものだったよ」
「オウガテイルと全く変わらない!?マジですか!?」
タツミが声を上げてしまう。
アラガミとは、巨大な種であればあるほどそれに比例して、回収されるコアもまたサイズが変わっていく。だが、オウガテイルから進化したあのオウガダランビアのコアは、ウロヴォロスよりも巨大だったにもかかわらず、コアのサイズは通常のオウガテイルと全く同じだった。
「これが、私があの人形がただの人形ではないと判断したもう一つの理由だ。確かにオウガテイルはあの人形を捕食し、進化した。普通なら人形もオウガテイルを構成していたオラクル細胞に取り込まれてしまうはずだが…さっきプレゼンで見せた通り、あの人形は少し汚れた程度で原型を完全に保っていたのだ。しかも生命反応がある…今のところこれしかわかっていないが、これほど研究し甲斐がある研究対象は久しぶりだ。
そして同時に興味深かったのは…リンドウ君たちが見たと言う…『巨人』」
「巨人…?」
タツミをはじめとした、まだユウが変身した巨人を見たことが無い面々が眉をひそめる。
「その巨人は不思議なことにリンドウ君たちを援護し、見事倒した…と。そうだね」
「ええ、その通りです」
サカキとは別に、ヨハネスも問いかけてきて、リンドウは頷く。
「リンドウさん、信じられないですよ。白昼夢でも見たんじゃないですか?」
別部隊の隊長が、疑惑のまなざしをリンドウに向ける。と、そんなリンドウをフォローするかのごとくサカキがその隊長に対して問い返した。
「では尋ねるが、君はどうやってリンドウ君たちが助かったと説明できる?」
「あ…それは…」
「最初はオウガテイルの群れしかあそこにいなかった。しかしあの時の第一部隊は長年のキャリアを持つソーマ君とサクヤ君の両名が負傷し、リンドウ君一人で逃げるのも難しい状況だった。だが第一部隊は全員生存し、保護対象だった青年の救出にも成功した。
超巨大アラガミの存在も、ウロヴォロスをも超えるオラクル反応値をヒバリ君がリアルタイムでキャッチしていた。となると…リンドウ君の言っていた巨人の存在もまた、信憑性がでるということだ」
「確かに…失礼しました」
夢か幻かとリンドウに意見をしてきたその隊長は、まだ半信半疑ではあるものの言い返す言葉をなくし、頭を下げる。その後、ヨハネスが口を開く。内容はアナグラのアラガミ防壁を破った巨大なアラガミについてだ。
「さて先刻、この廃寺に現れたオウガテイルの巨大亜種に続き、ザイゴートの特徴を備えた新たな超巨大アラガミが出現した。防衛班さえ全く歯が立たないほどの相手だ。たとえ最精鋭である第1部隊を派遣しても、勝利は愚か生存も危ういだろう。
遭遇した場合、各隊はザイゴート通常種討伐と同様に、基本は属性攻撃バレットで牽制し、スタングレネードやホールドトラップですぐに敵の動きを封じ離脱するように。本部や各支部にも警告のつもりで情報を与えておくつもりだ。調査部隊も派遣し、次の奴の動きを探らせる。くれぐれも対策が無いまま、自ら討伐しに行こうなどと考えないように。君たちゴッドイーターはただアラガミを殲滅するためではない。アラガミの脅威から人類を守るものなのだから」
「「「了解」」」
と、そのときだった。
彼らのいる会議室をはじめとして、アナグラ中に非常警戒警報が鳴り響いた。
その頃のユウの訓練は、人工的に作り出したダミーアラガミとの戦闘だった。ダミーアラガミは、オウガテイルを茶色くにごらせたような姿をしている。自分たちの手で作り出したアラガミだから、そのダミーが暴走した場合の対策もしっかり練られている。最も、自分たちの作ったアラガミに殺されるなど笑い話にもならないからこそ、気を引き締めなくては。
『では、訓練開始。目の前のアラガミを倒してみろ』
以前はヨハネスがいたスペースに今度はツバキがいて、ユウの動きを監督する。彼女が命令を下すと、ダミーアラガミが早速ユウに向かう。
「グルオオオオオオオオ!!!」
以前と同様、恐怖を覚えた。訓練のために用意されたダミーとはいえ、目の前にいるこいつは立派なアラガミだ。一歩間違えば殺されることも懸念される。
「く……!」
体が震える。だが、逃げ場はない。逃げてしまえば訓練にもならない。ナントカ勇気を振り絞ろうとしていると、ダミーが突然ユウに飛び掛る。まずい!反射的にユウは右方向にステップして回避した。
(逃げるな…戦え!打ち勝て!)
恐怖を超えようと自分に言い聞かせ、目の前の敵を見据えたユウは…駆け出した!駆け出してブレードを振り上げ、ダミーに切りかかる。
「せやああああああああ!!」
ザシュ!!
一閃。すれ違いざまにはなった刹那の一撃が、ダミーアラガミの体を真っ二つに切り伏せた。
ツバキは目を見開く。最初はダミーでも、恐怖のあまり腰を抜かす新人はこれまで何人も見てきたが、こいつは違った。恐怖で心が完全に支配される前に精神をコントロールし、勇敢に目の前の敵に向かい、そしてわずか数十秒の内に倒してしまった。
しかしこれを見ていたのはツバキだけではない。ユウをたきつけた本人でもあるタロウもまた、ツバキたちには見えない場所からユウの訓練を受ける姿を見ていた。
(こいつは、希望の光になるかもしれんな…)
(一瞬危ないと思ってしまったが…)
ツバキの笑みに、そしてタロウの目には、彼に対する期待と未来への希望が孕んでいた。
『よし、では捕食形態に切り替えてコアを回収しろ』
「はい」
ユウは指示通り突きの構えで神機をダミーに向けると、刀身からアラガミの頭が飛び出す。
近くで見ると、自分の武器ながら恐ろしく見える。捕食形態となったユウの神機はダミーアラガミの死体をガジガジと味わいながら食い破る。食べ終わると、神機のコアが僅かに光った。どうやらコアを回収したようだ。
と、その途端、警報がユウのいる訓練場、そしてアナグラ全体に向けて発令された。そして、放送を通してヒバリの声が轟いた。
『緊急事態!アラガミ防壁に向けて、アラガミの群れが接近中!』
(アラガミ…!)
ユウと、ツバキの表情が硬くなる。タロウも人間としての顔だったら同じ顔を浮かべていたことだろう。以前あの巨大アラガミが防壁の一部を破壊したが、その時にできた破壊箇所の修繕が終わっていなかったのだ。このままではあの場所を中心にアラガミがなだれ込んできてしまう。あれから数日たち、防衛班のメンバーたちも傷は回復した。防壁を壊したあの巨大アラガミが出たと言う情報がないだけまだよかったが、すぐに対応しなければならない。
「ヒバリ、敵の種と数を教えろ」
『偵察班からの報告によりますと、ザイゴート4体、オウガテイル6体です』
「全部で10体も…!」
雑魚アラガミで占められているとはいえ、たった一体でも十分な脅威だ。
『ユウ。さっそくで済まないが…お前にも出てもらうことになる』
ツバキはユウを見下ろしながら言った。これだけの数を相手にするのなら、まだ新人であるはずのユウもまた必要となってくると見た。
『だが、お前は貴重な新型であり、まだ新人だ。銃形態での後方支援を中心に他のメンバーたちのサポートに回れ』
「り、了解!」
神機使いになる前、自分の手で修理した機械を売って稼ぎに出ているときは、アナグラへ進入するために外の世界に出ていた。そしてアラガミから逃げ延びるためにスタングレネードを多く所持していた。
今までは逃げるため、でも今度からは…アラガミを倒すために外に出る。緊張が走る。ユウは直ちに神機を持って出撃体勢に入った。
アラガミの群れは、極東エリアの一つ『嘆きの平原』に結集する可能性が大とのことだった。エントランスで他の第1部隊と集合し、現場へ出撃したユウたち。防衛班はちょうど修復中のアラガミ防壁の付近にて交代制で待機、万が一破損箇所から内部に侵入されそうになった場合は直ちに応援を呼んで迎撃に当たらせる方針を採っている。
現場となっている嘆きの平原。そこは平原とはいうものの、かつてはビルが立ち並ぶ都市の跡で、現在も古く崩れ落ちかけているビルが残されている。辺りの環境も激変し、常に厚い雲に覆われ雨が降り、コケや菌類が繁殖していた。しかし一番気になるのはその程度ではない。
「な、なんだ…竜巻…?」
現場に着いたユウが真っ先に注目したのは、嘆きの平原の中心部にある、竜巻だった。
「やっぱり気になるみたいね。あの竜巻だけど、アラガミが発生した影響で起きたこと、それ以来一日もやんだことが無いってこと以外ほとんどわかってないのよ」
延々と、ただ吹き荒れ続ける竜巻、思いの他近くにいるはずだというのに、人が吹き飛ぶほどの風圧は無い。ただ人間を、中心部に開けられた巨大な底なしのクレーターに寄せ付けまいとしている。
「噂じゃ、あの竜巻の中からアラガミが出る、なんて聞くことがあるが、所詮は噂程度の情報だ。まぁ今はそんなことよか、今ごろここを経由して近づいてきているアラガミ共だ」
今回は隊長であるリンドウ、副隊長のサクヤ、ソーマ、コウタ、そしてユウ。現在の第1部隊全メンバーがそろい踏みとなっている。
「お互い初任務だな。がんばろうぜ、ユウ」
コウタが元気付けるように背中を叩いてくる。
「あ、うん…」
さっきのダミーともまた違う。今回は、本物の…こちらを本気で食らいかかってくる化け物だ。コウタもおそらく緊張をその身に走らせている。
リンドウが第1部隊メンバーたち全員の方を振り向き、今回の任務の概要をおさらいする目的で話し始めた。
「うーし、んじゃ全員良く聞くように。俺たち第1部隊は今からここに接近中のアラガミの群れを迎え撃つ。数は多いから無理して全部討伐しようとは考えるな。討ち漏らした分はアナグラに待機中の防衛班をはじめとした待機組がなんとかしてくれる。
新入り二人組みは、今回は後方支援だ。新型のお前さんも銃形態をメインに、サクヤと一緒に前衛を勤める俺とソーマの援護を頼む。今回は初陣の奴にはちとキツイ中型種のコンゴウも混じってるからな」
「り、了解!」「了解しました…」
二人の表情に緊張が走っている。いくら行き成り前に出る必要が無いからとはいえ、そう簡単に初任務の神機使いが、死の恐怖が常に伴う任務に挑めることは無い。リンドウは新米だった頃からそんな連中を何度も見続けてきた。
「そんじゃ新入り二人。任務の前にお前らに聞く。俺たちゴッドイーターは何のために戦う?」
リンドウは一つの問いをコウタとユウの二人に投げかける。
「な、なんでって…人類の未来のため、とかじゃないんですか?」
行き成り何を言い出してきたんだろうと、コウタは首をかしげた。続けて、ユウが戸惑いを見せつつも返答する。
「アラガミから…人を守る、そうですよね?」
「そうだな。俺たちゴッドイーターが優先的に高級な配給品を頂いているのは、命がけでアラガミと戦う立場にあるからだ。だが言っておくぞ。命を懸けることと、命知らずは別もんだ」
見続けてきたのは、初陣で緊張するばかりだけの新人だけじゃない。ゴッドイーターになったことで、アラガミとの絶望感いっぱいの戦いに耐え切れず腰を抜かし食われてしまった者、ゴッドイーターになれたことで逆に調子に乗ってしまい、勇気と無謀を履き違えて殺される者もいる。リンドウも数人ほどの同期がいたことだろうが、もうみんないなくなっている。
「まだお前らには言ってなかったな。今から3つの命令を言い渡す。それだけは厳守するように。良く聞けよ?」
緊張が解けない二人を見かね、リンドウはじろりと眼光を尖らせながら、口を開いた。一体どんな命令なのか?真剣みを帯びたリンドウに凄みを感じつつもユウとコウタは耳を傾けた。
「死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が避ければ、不意を突いてぶっ殺せ」
思った以上に、単純だった。そして何より、死を覚悟した戦いより、必死こいて生き残ることを優先する命令だった。
「そ、そんなんでいいんですか?」
「ああ。生きてりゃ後は何とでもなる。アナグラでもそう言ったろ?」
何か重大なことを言われるかと思ったらそうでもなかった、逃げること優先の命令に目を丸くするコウタに、リンドウはそう言い返した。なんかいい加減だよな…と思った。
「でも、4つですね」
「あ、確かにこれじゃ4つだな。悪い悪い」
続けて放たれたユウからの軽い突っ込みにリンドウは後頭部を掻く。
「リンドウって、よく数え間違えるのよね。昔から」
「サクヤ君、遠まわしに隊長を計算もできない男みたいに言うのは止めなさい」
「はいはい」
「…なんか緊張解けましたよ…不思議なくらいに」
締まらないリンドウの言は、これから命のやり取りをする直前のタイミングにふさわしくは無い。ユウはため息を吐いた。が、こんなだからこそかもしれない。緊張で無駄に入った力が抜けた。
「けどまぁ、やばくなったらお前らだけでも先に逃げて、後は先輩に任せとけ」
「そんな…いくら戦い慣れてるからって」
万が一自分たちが危険に及ぶ場合の対応が、まさに文字通り仲間を見捨てる選択に、コウタが講義を入れようとする。
「安心しろって。俺たちはそう簡単にやられるタマじゃねえよ」
ふと、一人会話の輪に入っていなかったソーマが、遠くを見つめながらその眼光を尖らせた。
「…来るぞ」
「ん?」
リンドウも、そしてサクヤ、コウタ、ユウが彼の声を聞いて遠くを眺める。
来た…!まず手始めに接近したのは、オウガテイルとザイゴートの群れだ。話ではこの二種のアラガミの総計10体がアナグラに向かっているという。だが数が、その半分にも満ちていない。せいぜい全部で4匹。前哨戦のつもりだろうか。
「ヒバリ、サポートお願いね」
サクヤが端末越しにアナグラのオペレーター、ヒバリに通信を入れた。
『了解。第1部隊、バイタル正常値…問題ありませんね。がんばってください!』
「よし、行くぞ!」
先頭に立つリンドウが叫び、導かれるように第1部隊メンバーたちは平原の土を踏む。ユウは神機を銃形態『50型機関砲』に切り替える。前衛を勤めるソーマとリンドウが神機を振るい、真っ先に食いかかってきた二体のオウガテイルを切り裂く。
だがその僅かな間に、ザイゴードが叫び声を挙げる。
「…!!」
耳障りな叫びだが、鼓膜を破る目的があるわけではない。変質者に襲われようとしている女性が大声で叫んで助けを求めるように、何かを呼んでいるかのようだ。
「コウタ!」「おうよ!」
このまま叫ばれるとまずい。ユウはコウタの名を呼ぶと、コウタはツバキから受け継いだアサルト型神機『モウスィブロウ』を構え、ユウと同時に弾丸を連射した。
二人が使っているアサルト銃は、威力こそ低いが連射性に富んでいる。火、氷、雷、神属性のうち二人が放ったのは炎属性。ザイゴートは神以外の属性に弱い。二匹のザイゴートは二人の集中砲火をもろに受け、地面に落ちた。なんとか倒したらしい。
「や、やったの…?」
しかし倒したとはいえ、今まで防壁外でアラガミと遭遇することがあったときは、スタングレネードを適当に投げつけて撒くことがユウの取ってきた手段だっただけに、異様な高揚感を覚えている自分に、奇妙な恐怖さえ覚える。初めてアラガミを倒した人間とはこんな感覚に苛まれるものなのか。
「お、やったね」
感心したようにサクヤが声を漏らす。
「よくやった。んじゃ新型。捕食形態に切り替えてコアを回収しろ」
「は、はい…」
リンドウが早速倒したオウガテイルの一匹に向け、捕食形態の神機を構えている。ソーマもザイゴードの一体に向けていた。ユウもちょうど目に付いたもう一匹のザイゴードに向けて、神機を捕食形態に変える。訓練の時と同じようにアラガミの頭が現れ、ザイゴードの死骸を食った。
「コア、回収しました」
回収したところで、ユウがリンドウに言う。そのとき、アナグラのヒバリからの緊急通信が入った。
『緊急事態発生!先日アラガミ防壁を襲撃した超大型ザイゴートが、そちらに近づいています!』
「何…!」
『しかも、ザイゴート8体、オウガテイル6体、コンゴウ5体…ヴァジュラを1体連れています!』
「ヴァジュラまで!?」
声を上げるサクヤ。皆の目に焦りが現れる。
例の巨大アラガミに対する対策会議は執り行われてはいたが、防衛班がコテンパンにされたこと、あのアラガミが小型種であるザイゴートの特徴を備えていることしかわかっていなかった。
そんな状況下で極東支部がとれる対策と言えば、持ちうる戦力=つまりほぼ全部隊のゴッドイーターたちの力、そしてアイテムを用いて食い止めることくらいだった。
しかし防衛班が戦う以前、第5・6両部隊が壊滅しており、その分の補充要員も間に合っていない。
『このままでは危険です!せめて交戦ポイントの変更を提案します!』
「こりゃ、めんどくせえことになったもんだな…」
なんでこんなタイミングで、話に聞いていた例の超巨大アラガミが現れたのか。レーダーに探知されていなかったのか?リンドウは舌打ちする。すると、ソーマが静かに呟きだした。
「新手が来る…」
彼の察したとおり、ちょうどそのとき、新手のアラガミたちが現れた。オウガテイルが6匹、ザイゴートが8匹、コンゴウが2体。大群だ。新人を引き連れた状態で戦うべき群れではない。
「全員車に戻れ!ここから離れるぞ!」
「は、はい!!」
リンドウの指示で、第1部隊は、ミッションエリアのすぐ近くに置いたジープに戻った。リンドウが運転席、ソーマが助手席、ユウ・コウタ、そしてサクヤが後部座席に搭乗し、ジープは走り出す。
「サクヤ、車の後ろは任せた!」
「ええ!」
サクヤが車の後ろに身を乗り出し、こちらに近づいてきているアラガミたちに向けてスナイパー型神機『ステラスウォーム』から、火属性の弾丸を放った。スナイパーはオラクルの消費量が高いものの、遠距離から放つほど威力が増大する。すでに彼らを乗せたジープは現場から遠く離れつつあり、その鋭い一発は、こちらに向かって勢いのまま近づいてきたオウガテイルとザイゴートを計4匹、その僅かな一撃で貫いて見せた。
「同時に複数のアラガミを…!」
リンドウに続き、サクヤも歴戦の実力者でもある。小型とはいえ、2匹以上のアラガミを立った一撃で攻撃した。ユウとコウタは目を見開くばかりだった。しかし今倒した分だけではない。まだ他にもアラガミはいる。しかも厄介なことに、一撃では倒せそうにない、中型種のコンゴウも迫ってきていた。
「援護します!」
先にユウも、走行中のジープから振り落とされないように手すりに捕まりながら立ち、サクヤと同時連射を開始する。アラガミたちが近づいてくる。絶対に近づかせまいと連射を続けて牽制を図る。その際にオウガテイルとザイゴートを3匹ほど撃破したが、長く続くことはなかった。
「弾切れ…!」
先にユウのほうが弾切れを起こしてしまう。
「少し撃ち過ぎてたわね。次はもう少し考えながら撃ちましょう」
「すいません…」
サクヤからの指摘にユウは反省した。確かに今回は撃ち過ぎていた。
接近戦ならアラガミを剣で攻撃さえすれば、弾丸を撃つのに必要なオラクルエネルギーを、刀身を通して神機に充填させることができる。が、今は走行中のジープの上。近接攻撃での充填は不可能だった。
『リンドウさん!アナグラの防壁付近に、例の巨大ザイゴードが出現しました!現在防衛班と第4部隊が交戦中!』
「え…!?」
一同は、突如入ってきたヒバリからの通信にぎょっとした。
「どういうこと?そいつはこっちに近づいてきてたんじゃ…!?」
サクヤがヒバリに説明を求めた。
『それが、ジャミングが発生して敵の位置が急に探れなくなって…すぐに復旧させましたが、すでにターゲットが防壁のすぐ傍に出現して…!!』
ミッションエリアには、たまにジャミングと呼ばれる異常が発生し、こちらのアラガミ探査を妨害してしまうことがある。しかし、ここからアナグラまでは少し離れている。ジャミングが治るまでの間の時間で、こちらを通らずにアナグラに出現するには時間が短い。
「そんな、ジャミングが治るまでの僅かな時間に早く…アナグラにたどり着いたというの…!?」
「ちぃ…!!」
最悪だ。あからさまな舌打ちをかますリンドウ。こちらはアラガミの群れを振り切るだけでも手一杯だ。もう交戦ポイントがどうこうの話じゃない。ここでこいつらにかまってばかりいると、アナグラが、以前防衛班を全滅寸前のピンチに追い込んだあいつの餌食になってしまう。いずれ他のアラガミたちも集まってくるはずだ。
「この…くらえ!」
コウタが手にもったスタングレネードのピンを引き抜き、追ってきているアラガミたちに向けて投げつけた。視界をふさぐだけではない、体中のオラクルの結合を麻痺させる効果もあるその光は追っ手のアラガミたちの身を震わせ、立ち止まらせた。
「一気に飛ばすぞ!しっかり捕まってろ!」
リンドウが後ろの三人に座席に座るように指示し、三人が座ったところで彼はアクセルを一気に踏み込み、嘆きの平原から離れていこうとする…。
「り、リンドウ!!まだ追っ手が来るわ!」
サクヤが叫ぶ。スタングレネードで怯ませ距離を離したというのに、今度はコンゴウがこちらを追ってきていたのだ。コンゴウは聴覚に優れている。エンジンの飛ばす音を聞き、惹きつけられるようにこちらを追ってきたのかもしれない。
しかも、奴らのうちの一匹が背中のパルプ器官から放つ真空波がジープに迫り来る。
「この!!」
させまいとユウは直ちに立ち、コンゴウの放ってきた空砲からジープを守るべく装甲を展開する。バン!という破裂音が響く。その音と衝撃の影響でジープに乗っていた第1部隊メンバーたちは目を伏せ、すぐに目を開ける。ジープが破壊されてもいない。さっきと同様に走行中だった。
しかし、ユウの姿がなかった。
「ユウ!?」「ユウ君!?」
声を荒げたコウタとサクヤ。実はさっきのコンゴウの攻撃を防いだ際、ユウだけは走行中のジープの上に手すりも使わず立つとおうアンバランスな姿勢、敵の攻撃を防いだことと相まって、ジープから落ちてしまったのだ。
「ちっ…!!一旦車とめるぞ!ユウをすぐに見つけて…」
リンドウがすぐユウの救出のためにジープを止めようとしたが、再びヒバリからの緊急通信が入ってきた。
『リンドウさん!!防衛班メンバー、カノンさんとシュンさんが戦闘不能!!ジーナさんとブレンダンさんもバイタルが危険域に入りました!!すぐに帰還して応援を!』
「すまん、こっちは新型の新入りと逸れちまってる!幸いそこまで離れてないから直ちに見つけて…」
自ら探しに向かうことを決めたリンドウは、少しの間だけまだ持ちこたえるように防衛班に言うようヒバリに頼もうとしが、
『リンドウさん、僕にかまわず行って下さい』
別の通信が割り込んできた。それは、たった今姿を消していたユウからのものだった。
『ユウさん!大丈夫ですか!?』
そのユウはと言うと、近くの廃ビルの中に隠れながら、雨と付近をかぎまわるアラガミをやり過ごしていた。通信端末はゴッドイーター一人に一つずつあらかじめ配布されているため、ユウも通信先をリンドウたちに設定することができた。
しかしコンゴウの攻撃を防いだ際のダメージがあるらしく、顔が汚れ息が少しあがっていた。
「確か、ヒバリさん…でしたっけ?僕は大丈夫です。それよりもリンドウさん。先に…」
『何言ってやがる!生きてるならさっさと戻って来い!今どこにいる!?』
通信先でリンドウが声を荒げているのが聞こえる。鼓膜が破れそうだ。
「このまま走行を続けてアナグラに戻っても、こっちが討伐を担当していたアラガミにもアナグラへの接近を許してしまいます!それにリンドウさんが僕のために戻ってきたら、防衛班の人たちが…!!だからここで僕が連中をひきつけます」
『それは俺がやる!今回が初陣のお前にんなこと任せられるか!』
リンドウの言うことも正しい、いや、最もかもしれない。でも現在のアナグラは二つの脅威に見舞われている。アナグラのほうはすでに戦闘中のゴッドイーターに戦闘不能者が出ており、しかも相手は以前アナグラの防壁を夥しく破損させた超巨大な個体だという。勝てるかどうかの見込みも難しい。その上こっちのアラガミたちも個人が戦うには数が多すぎる。
「リンドウさん!あなたは隊長だ!だったらここで一番優先するべき選択があるはずです!」
『…ッ!』
でも…誰かがここで足止めをしないと、ただでさえアナグラに強敵がいるというのに、アナグラの防壁付近で戦っているゴッドイーターたちはさらなる数の敵と戦って倒さなければならないのだ。
「生意気言ってすみません…でも大丈夫です。
忘れたんですか?元々僕は防壁外出身。アラガミから逃げるのは…結構得意なんですよ?」
ユウは元々機械弄りが得意だった。その腕は自作でスタングレネードを作れるくらいはある。オラクルリソースはフェンリルの庇護下でなければ入手しづらいが、ユウはこれまでアナグラに幾度か侵入して密かに手に入れてきたので、スタングレネード作りに必要な部品を入手することができた。おかげで何度も襲ってきたアラガミを相手に、その度に逃げ延びることができた。今じゃこの逃げ足の速さは自慢にさえ思える。
『……命令、忘れてないよな?』
「はい」
『俺たちの見ていない間に死んだりするんじゃねえぞ』
「了解…!」
無論、死ぬ気はない。今の自分には、アラガミと戦うだけの力を手にした。それ以前に、女神の森とアナグラを行き来する間にアラガミから何度も逃げ切って見せた。リンドウに言って見せたとおり、逃げ足には自身がある。通信を切り、ユウは神機を再び銃形態に。今度は属性付きの弾丸ではなく、無属性のバレットを装填し、ビルの窓から、外で自分を探し回っているオウガテイルを狙い、引き金を引いた。
「グルォ!!?」
そこから一気に連射、オウガテイルを痛めつけながら近づく。無属性の通常弾は威力が低く、オラクルを消費しない。寧ろ無属性弾丸を当てて行くたびにオラクルが回復するというものだった。近づいたところで、ユウはブレードを振り上げ、そのオウガテイルを頭から真っ二つに切り伏せ抹殺した。ぶしゃっと値が噴出し、返り血が顔にかかる。
「ちぃ…」
あまり血を浴びたくなかったらしく、ユウは眉間にしわを寄せた。顔に掛かった血を荒くこすって拭き取っていると、他にもまたアラガミが…オウガテイル・ザイゴートが全部で5匹ほど彼に近づいてくる。まるで仲間の仇でも討ちに来たのかと思えるタイミング。
さっきから同じ個体ばかりだが、こちらを得物としてみている。ブレードを構え、ユウは襲ってきたザイゴードをすれ違いざまに横一直線に斬り、さらに続けてもう二匹の別個体のザイゴートとオウガテイルを切り伏せる。
「はぁ…はぁ…!!」
周囲を見渡し、敵の姿を再確認するユウ。見たところ敵の姿はない。よし…今の内だ。早くここから引き上げ、リンドウたちに追いつかねばと、ユウは仲間たちを乗せたジープの向かう方角に向けて走り出す。が、そのときだった。
「ぐはぁ!!がふ…っ!」
どこからか放たれた電撃球が飛び、ユウは吹っ飛ばされ廃ビルの中に突っ込んだ。何が起こった?床の上を転がされたユウは、自分が突き破ったビルの壁の穴から外を覗き見る。
が、なんとビルの上からこちらに向けて、虎に似た風貌を持つ大型アラガミ…ヴァジュラが電撃の弾丸を放ってきたのだ。さすが、大型種なだけあって、オウガテイル程度の攻撃とは桁が違ったダメージだった。しかも、その音を聞きつけてかコンゴウが二匹、迫ってきている。地上に降りてきたヴァジュラとコンゴウが、いますぐユウに食らい尽きたいとばかりにこちらをじっと見ている。
「さ、さすがに…これ以上はやばいかな…?」
さっきまでのリンドウたちのような先輩たちがいたからこそ今回の任務もまだ成功率があったが、たった一人初陣のユウがヴァジュラどころかコンゴウにも勝てるはずがない。
「り、リンドウさん…そっちの状況は?…リンドウさん?」
とりあえず、先行したリンドウたちに連絡を取ろうと試みてみたが、通信端末が繋がらない…というか、電源が入らない。今のヴァジュラの攻撃で壊れてしまったようだ。
(まずいな…)
アナグラでは今頃、例のザイゴードの特徴を持っているという超大型アラガミが、また襲ってきているという。このままでは…アナグラと外部居住区の人たちがアラガミの餌食にされてしまう。
このまま自分は、今度こそアラガミにやられてしまうのか?以前、目の前でアラガミの精で妹を殺されたように、夢をかなえると約束したのに、叶える機会さえも無いまま…?
…いや。そんなこと…認めてたまるか!
ユウは咄嗟に、懐からあるものを取り出した。
『いいかユウ。もしもだ、自分の力だけではどうしようもなくなった時、それにもう一度触れてみるといい』
そのアイテムは、ユウが巨人に変身した際に使っていたあの銀色のアイテムだった。脳裏に、タロウが訓練の合間に告げていた言葉が蘇る。
「今でもまだ、フェンリルのことを許しきれたわけじゃない。それでも、今の僕はゴッドイーターだ。だから…行かなきゃいけない」
このアイテムの中に宿る、巨人の意思に向けてユウは頼み口調で語りかけた。
「…恥は承知の上だ。けど、頼む。僕に…力を貸してくれ。もう二度と…誰も殺させないために!夢をかなえるために!」
そのときだった。ユウの手の中で、銀色のアイテムがまばゆい光を放ち始め、ユウを包み込む。あまりの眩しさにユウは目を閉ざす。
目を開けると、そこは真っ白に包まれた場所だった。自分の影さえも消し去るほどのまぶしい光の中、視界の向こうに誰かの姿が見える。目を凝らしながら姿を確認すると、その姿にユウは驚きを見せた。
「あなたは…!」
等身大、人間と同じくらいの大きさだったが、間違いない。
自分が変身した、あの巨人だった。
『神薙ユウ。君の思い、確かに受け取った』
頭の中に直接響くような声が届く。あの巨人が、タロウがそうであるように自分に話しかけてくれていたようだ。
「…以前、僕はあなたの力を私物化していた。それでも…僕に力を貸してくれますか?」
『君はもうそのような過ちは犯さない。なぜなら、人とは失敗から自らを省み、未来に向けて成長するのだから。だからこそ、私がこうして君の前に姿を見せた。
皆を守りたい、夢を諦めたくない。その思いに応えよう。
さあ、共に戦おう。未来を勝ち取るために!』
ユウは頷くと、巨人に向けて一つ問いかけた。
「…あなたの名前を、教えてください。あなたにも、タロウがそうであるように名前があるはずだ」
『…私の名は…「ギンガ」』
「ギンガ…」
人類がかつて夢見た、宇宙のとある景色、星の集まりの名前。それが、この巨人の名前…。
巨人は光に身を包みながらだんだんとその身を小さくしていく。初めて変身した時と同じように、人形となってユウの手の中に納まった。
「行こうッ…!」
ユウは左手に巨人の人形を、右手に銀色のアイテムを握ると、人形となった巨人の足の裏についたマークを、右手に握っていた神秘のアイテム『ギンガスパーク』の先に当てると、巨人の人形が光に包まれる。
―――ウルトライブ!!
巨人の人形から変化した光を松明のように灯しながら、ユウは頭上に向けてギンガスパークを掲げた。
「ウルトラマン…ギンガあああああああああああああああああ!!!」
瞬間、ユウは光の中に呑み込まれ、彼を包んだ光は巨大化していった。
その肥大化した光の余波は、近づいてきたコンゴウ二匹、そしてヴァジュラの体を木っ端微塵に粉砕した。
ようやく二度目の変身です。大分長くなりました。
上手くかけたかどうかは、最初のうちは自分ではわからないから、受けが悪いかもしれない…。それでも読んでくれた人には感謝です。指摘してくださると助かります。
NORN DATA BASE
○ロングブレード
身の丈ほどの長さを誇る、攻守のバランスに富んだ刀身。切断に特化している。ユウ、リンドウ、シュンが装備。
○バスターブレード
ブレンダン、ソーマが装備。ロングブレードと比べて刀身がかなり重くなっており、同時に一撃の破壊力が重い分動きが鈍くなる。敵を切り裂く異常に破砕する効果が高い。
オラクルエネルギーを刀身にためて振り下ろす技、『チャージクラッシュ』が使える。
○リンドウの神機
ロングブレード『ブラッドサージ』
シールド『イヴェイダー』
○ソーマの神機
バスターブレード『イーヴルワン』
タワーシールド『リジェクター』
○ユウの変身時
変身時の叫び声の台詞は、ウルトラマンネオスの初期時の変身を意識している。
後半はゴッドイーターの放送日である7月5日に投稿します。