ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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今度のウルトラマンR/Bにて、水のクリスタルがなぜかアグルを差し置いてギンガになっていたのが納得いかない…だってギンガに水属性の技ありませんでしたよね?寧ろ炎だの雷だのなのに…まぁ、その気になれば水とか出せそうですけどね。初代ウルトラマンたちも手から水を出してましたし。
でも名前の語源に『河』があるからとか知名度狙いとか、そんな無理やり感のある理由による設定では、さすがにウルトラ好きな子供たちも疑問に思うと思います。
なので少しでも個人的に納得が行ける設定にしようと、いつの日かまではわかりませんがギンガにオリジナル新技を追加しようと思います。



エリックの葬儀/捜索中止

後日、エリックの葬儀が訓練スペースで執り行われた。この部屋は壁に傷や銃の後などが常につけられる場所だが、演説用の高台ステージが設置されていたり、一昔前の体育館のように集会として使えるようにできている。

「これより、我らが誇り高き戦友、エリック・デア=フォーゲルヴァイデの葬儀を執り行う」

極東勤務のゴッドイーターたち、ツバキやヨハネスといった上官、オペレーション・メテオライト参加者の中で参加を希望した者、そしてエリックの親族や、他の関係者等が出席した。当然アリサを除くユウたち第1部隊メンバーも参加した。全員が喪服を着こみ、訓練スペースの中央の棺で眠りにつくエリックに、献花を添えていった。

 

 

葬儀が終わった後…。

いつもの表情がさらに険しく見える。パッと見ただけではわかりにくいが、エリックの死についてはソーマもまた強く衝撃を受けていた。

「…あのバカ息子が、先に逝き追って」

「うおおおおおおおおおおおお!!!わが友エリック!!なぜ…どうして死んでしまったのだ!!」

「え、エミール落ち着け…!」

自分も知らないエリックの友人や、実の父親。道中でこんな声が聞こえてきた。葬儀中、堪え続けた涙が一気にあふれ出てしまったのだろう。

ソーマは購入したドリンクの缶を開けずに自販機近くのベンチに腰掛け続けていた。ふと、彼の耳に声が聞こえてきた。

「第1部隊、酷いことになっちまったな……リンドウさんが行方不明で…エリックが死ぬなんてさ…」

「馬鹿だったけど、筋の通った男だったのにな…」

「これもやっぱ、ソーマのせいだったりするんじゃね?あいつ『死神』だって噂だし…」

「あいつと組んだ奴は死ぬって奴か?」

「サクヤさんも辛いだろうな…噂じゃ、リンドウさんとくっついてたって話だしよ」

「新型の新入り二人も生き残ったみたいだけど、生意気な女の方は精神崩壊してるって話だろ?」

「うっわ…最悪じゃん。俺あいつと組みたくねぇわ」

「オペレーション・メテオライト、あんなのがいたら作戦にならないだろ。ってか中止だな」

何ともお門違いなことか。ユウたちもそうだが、エリック本人が聞いていたら間違いなく憤慨するような話である。

若くしてベテランの域に達し、そして高い生命力であらゆるミッションでソーマは生き延びてきた。だが、その分だけ彼の周りで仲間が何度も死に絶えて行った。それでついた不名誉な仇名……『死神』。アラガミにちなんで名づけられたその殺人的な称号、それを気にせず、ソーマから当初邪険にされながらも、諦めず対等に接してきてくれた友が遂に死んだ。さらに付き合いの長いリンドウでさえ、未だに発見されたという報告がない。

 

――――ソーマ、僕は必ず君を超えた華麗なるゴッドイーターになって見せる!

 

――――ち、ちょっと油断しただけだ!次は華麗にあのアラガミを打ち倒して見せる!

 

――――君は僕が認めた華麗かつ誇るべき仲間だ。もっと誇らしくしてくれ

 

勝手にくっついて来て、勝手に持ち上げて…最初はうっとおしくてしょうがなかった。だがそれでも、自分が死神と揶揄されていることを気にせずに接してきてくれた…数少ない友だった。

「くそ……!!」

なぜだ…なぜ俺の周りではこうも死が付きまとう…!

ソーマは、思わずぎゅっとドリンク缶を握り潰した。

 

 

 

葬儀が終わった翌日…。

ユウは今後の身の振り方を少し見つめ直しながら、アリサの病室を後にした。出ると同時に、タロウは再びユウのポケットに隠れて、彼と行動を共にしていた。

『どうも大車の洗脳の後遺症が酷いようだ。薬が切れて目が覚めるたびに、また暴れる状態が続いている』

「まだ回復するには時間がかかるってことか…」

残念なことに、アリサはまだ回復の兆候が見られなかった。エリックの葬儀終了後も見舞いに行ったが、目を覚ますことなくベッドで眠りについたままだった。早く良くなってほしいものだ。あんな悪党に振り回されるなんて酷過ぎる。見舞いに来るたびに、傍らで彼女を見守っているリディアの辛そうな顔も、見ているこちらの心を痛めつける。

何とか、目を覚まさせることができればいいのだが…死ななかっただけでもまだ可能性があると思いたい。エリックと違い、彼女はまだ生きているのだから。

アリサの見舞いの後、今度は屋内に設置された戦没者の霊園に来たユウは、エリックの墓の前で手を合わせる。

彼の墓石には彼の名前と生没年が掘られ、そして彼が巻いていた腕輪が安置されていた。亡くなったゴッドイーターの墓には、こうやって腕輪を収めることがあるのだ。

腰を上げて、霊園を出ようと思ったところで、ユウはある人物を目にする。

「タツミさん…?」

防衛班班長にして、第2部隊の隊長である大森タツミだった。別の墓の前で祈りをささげていると、ユウの存在に気が付いて彼もまた立ち上がった。

「ん?おぉユウ、お前か。エリックの墓参りか?」

「はい…」

近づいてきたタツミに対し、ユウは頷く。

「辛かったな、お前さん。エリックのこと…」

横に並んできてエリックの墓を見下ろすタツミ。

「はい。でも…ここで挫けたっても、エリックは二度と帰ってきません」

ぎゅっと拳を握り、湧き上がる悲しみを押し殺すユウ。

「それに、リンドウさんもまだどこかで生きているかもしれません。その時僕がまた腐ってたら、今度こそ助けてあげられなくなる。だから…もっと強くなりたいです。もう誰も失いたくないから」

ユウのまっすぐな目を見て、タツミは一瞬驚いたように目を見開き、なぜか小さく笑い出した。

「………ははは」

「タツミさん?」

急に笑ってきたタツミに、ユウは首を傾げた。

「いや、悪い。なんというか、お前に対して親近感って奴が沸いてきたんだ。

そうだ、ちょっと来てくれ」

馬鹿にしたような笑いに見せてしまったかと思ったタツミはすぐに笑うのをやめる。ユウの肩を押し、自分が祈りをささげていた墓のもとまでユウを案内した。その最中、タツミは自分のことについて話し始めた。

「俺はさ、10歳くらいの頃に外部居住区に住んでて、ゴッドイーターに助けてもらったことがあった。その時の彼らの背中がでっかくて、かっこよくてさ。ゴッドイーターになったら、彼らみたいにみんなを守れるヒーローになりたかった。最近話題のもんで言えば…例のウルトラマンみたいな奴だ。外部居住区の人たちとか、あいつを完全無欠のヒーローって言ってるみたいだからな。あいつにも憧れてるけど、正直嫉妬もしてる」

「………」

「けど、理想と現実ってのはどうもかみ合わないもんだよ。俺は適合率がめちゃくちゃ低くてさ、適合試験での偏食因子投与の時、危うくアラガミにされかけたし、ゴッドイーターになった後も、神機が全然扱えてなかった。捕食形態になった神機が俺を引っ張りまわすわ、勝手に装甲を展開するわ…散々だったよ」

苦笑いを浮かべながら、タツミはある墓の前で立ち止まる。

「でも、そんな俺と一緒に体を張り続けてくれた奴がいた。こいつだよ」

ユウは、タツミの前に置かれた墓を見やる。これを彼は見せたかったのだろうか。墓には、エリックの場合と同じように腕輪が置かれ、名前も掘られている。

「『マルコ・ドナート』…?」

「あぁ、防衛班の初代副隊長…俺の相棒だった。今は見ての通りだけどな。減らず口ばっか叩いてくるけど、実家に孤児を連れてきて家族にしちまうくらい子供好きで、俺や防衛班のみんなにとってかけがえのない仲間だった」

そのマルコという人物のことを思い出してるのか、タツミは遠い目でマルコの墓を見つめた。

「ちょっと偉そうに説教もしてきやがったんだけど、あいつも俺たちと同じ経験をしてた。目の前で助けたいと思ってた人をアラガミに食われまくった。だからヒーローになりたいって思ってた俺に対して、『完全無欠のヒーローなんて馬鹿げてる』『てめえでできることをやれ』って何度も言ってきたよ。そんなふうに言いまくってたあいつ自身が、ヒーローになりたがってたらしいのによ。

で、最期は…本当にヒーローになった。アラガミに食われそうになった赤ん坊を、命を賭して守ってな」

完全無欠のヒーローを否定しておきながら、実はヒーローを目指していた。人のこと言えんのかと突っ込みたくなるようなことだが、実は同じ理想を高く持っていたということは、友としてタツミは嬉しく思っていた。だが、その笑みに悲しみが混ざりはじめた。

「こいつを失った途端、俺は一気に腐っちまったよ。もうヒーローにはなれない、理想を追うことはできないってさ…そのせいで生き残った仲間にも迷惑かけちまった。そんな俺をヒバリちゃんが俺を励ましてくれて、マルコが守ってきた子たちと出会って、何とか立ち直れたんだ。それをきっかけに、あいつが守ってきたものを知ることができた。

だから、マルコが守ってきた子たちに見せてきた、あのでっかい背中に追いついて見せるって決めたんだ」

語っている間のタツミは、相棒を失った時の悲しみも思い出していた。だが彼はずっと笑顔で語っていた。悲しみよりも、苦楽を共にした相棒と出会えたこと、戦ってきたことを強く誇っていた。

「今は、ウルトラマンギンガも俺にとっちゃライバルみたいなもんかな。と言っても俺なんかとはスケール違いすぎるし、あのでっかい背中に追い付く前にマルコの神機受け継いだカノンの誤射癖をどう解決するべきかが問題だけどな」

(…いつの間にかライバル宣言か)

苦笑混じりに言うタツミを見て、ユウも薄く笑った。マルコの墓からユウの方に視線を向け直し、タツミは話を続ける。

「ユウ、俺はこれでもお前よりもずっとこの仕事やって来たんだ。俺みたいに完全無欠のヒーローを目指すわけじゃないとしても、一緒に任務に行くなり、訓練につきあうとか悩み事を相談するなり、なんでもいい。俺たちにできることがあるなら、なんでも言ってくれ」

ユウは、タツミに対して強く尊敬の念を抱いた。普段はヒバリをデートに誘っては断られるというちょっと情けない様を見ているが、それを除けば彼は尊敬すべき先輩としか言いようがなかった。

「タツミさん、僕もなりたいです。マルコさんや、タツミさんが追いとめているようなヒーローに。この先も大切なものを失うことが続くとしても」

ヒーローを目指してないだろう、というタツミの予想に対して首を横に振り、ユウは家族を失い、仲間を失い、苦痛と共に様々な経験を経た上での、決意を新たに示した。

「…やっぱ、思った通りかもな。俺とお前って何となく似てる気がするんだよな」

皆を守れるようになりたい。その願いを互いに抱えている者同士、それに気づいたユウは否定しなかった。この人と似ていると思うのは、悪い気がしなかった。

「僕はタツミさんやハルオミ隊長ほど女の子に積極的じゃないですけどね」

「あ!言いやがったなこいつ!しかも何気にハルなんかと比べやがって!!」

「い、痛いですってタツミさん!!」

ただ一つだけはっきり違うことについて関して、ちょっと生意気を言って見せたユウに対し、タツミはヘッドロックをかけてきた。

 

 

 

エリックの葬儀以降、ユウは毎日タロウの指導の下で訓練を行い、破壊された神機の修復状況の確認のためにリッカのもとを来訪したり、アリサへの見舞いを繰り返していた。

この神機が治るまでの間、ユウはゴッドイーターとしては事実上の活動休止状態だ。ウルトラマンとしてなら戦えるだろうが、自分が戦えないからと言ってギンガに頼りきりでは、このアナグラに来たばかりのころと何も変わらないので避けたいと思っている。

この日はコウタも同行し、一緒にユウの神機の修理状況を見ていた。

「どう、リッカちゃん?直りそう?」

修理代の上に乗せた自分の神機を修理してくれているリッカに、ユウは尋ねる。

「うーん…まだ時間がかかりそうかな。刀身、銃身、装甲がトリプルで破壊されるなんて、正直初めてのことだと思う。そもそも新型神機って、旧型と比べてかなりデリケートなんだ。変形部分の部品とか、すぐに損耗しちゃうの。ボルグ・カムランの盾から削り取った合金使っても長持ちしないんだ」

ボルグ・カムランと聞いて、ユウは真っ先にエリックの最期の光景を思い出してしまった。

「あ、ごめん…」

うっかり傷をえぐるようなことを言ったと気づいたリッカは、すぐにユウに謝った。エリックと相討ちになったアラガミがボルグ・カムランであることはリッカも聞いていたのだ。

「いや、いいんだよ。僕の方こそ、こんなハードな仕事押し付けることになっちゃったし」

「無理もないよ。新種のヴァジュラの他にも、あんなでっかい奴を相手にしたんだし」

コウタが横から口を挟んでくる。彼の言うとおりだ。ボガールに、氷のヴァジュラ数体、そしてディアウス・ピター。ウルトラマンとして敗れたアーサソール事件の直後に、こんな奴らを一度に相手にして生き残れただけでも運がよかったと言えた。

「そういえば、エリックの神機は…?」

「…エリックの神機なら、保管庫で封印処理を施して保管しているよ。いつか受け継いでくれる人のために」

二人から視線を外し、神機保管庫の方に目を向ける。

「何度も経験してきたことだけど、正直つらいよ。神機だけが帰ってくるのって」

ゴッドイーターたちの命綱を整備・強化する立場の苦悩だろう。リッカの瞳が僅かに潤んでいた。それを見てユウは修理中の自分の神機を見て提案する。

「リッカちゃん、こいつを前より強くした状態で直してあげて。もうエリックのような犠牲が出るのも、目の前で守れなくなるのも嫌だから」

「…予定より長引くかもだけど、いいんだね?」

ユウは、迷わず頷く。

「わかった、任せて!きつい仕事を押し付けたって、ユウ君は言うけど、私は寧ろその方が整備士明利に尽きるってもんだから、遠慮しないで!」

失いたくないのならやることはひとつだ。それを見てリッカは自らを奮い立たせるように笑みとサムズアップを見せてきた。

「じゃあ、俺のも!」

流れに乗ってコウタも神機の強化を願い出る。が、ユウの場合と違い、なぜかリッカは微妙な顔を浮かべた。

「コウタ君のは…正直これ以上のチューニング望めないかもよ」

「え、なんで…」

「だって、君の神機…ツバキさんのお下がりじゃん。もうとっくに限界近くまで強化されてて、今度どこを強化すればいいのかわからないもん」

それを聞いて挙手したときのテンションはどこへやら、コウタは肩を落とした。

「マジかよ~…俺も神機改造してもらって、ユウみたいに剣とかバンバン使ってみたいって思ってたのに…」

「それ最早新型だから」

少し突っ込みじみた返しをするリッカだが、コウタのその何気ない案自体は悪くないと思った。旧型神機を、ユウやアリサ、そして行方知れずのギースの神機のように、銃と剣の同時使用ができる、現時点においてかなり魅力的だ。

「そういえば、さっきサクヤさんが来たよ」

ふと、リッカは思い出したように言った。

「サクヤさんが?」

「今のコウタ君みたいに神機の強化をお願いしてきたんだ」

「…リンドウさんのこと気にして?」

ユウからの問いに、リッカは頷く。

「…多分ね。あの二人、ツバキさんも含めてずっと一緒だったって聞いたから」

「そうだったのか…」

サクヤにちょっと憧れを抱いていたコウタは、少し残念に思っていたが、同時に納得もできた。たまに見せるあの二人のやり取りは、まさに恋人同士のそれだった。

「ユウ、神機直ったら、一緒にリンドウさんを探しに行こうぜ」

「うん、もちろんだよ」

言われるまでもないことだ。神機の修理が終わり次第、リンドウ捜索任務を申請しよう。今は捜索隊を出向かせているようだが、そろそろ自分たちゴッドイーターが出てもいいはずだ。

 

その矢先だった。

 

 

第一部隊に、認めがたい通知が来たのは。

 

 

ユウとアリサが帰還を果たし、エリックの葬儀が終わってから1週間後、作戦室へ集められた第1部隊のメンバーに、ツバキの口から告げられた通達。それは…

「捜索、中止!?」

 

 

雨宮リンドウの捜索中止だった。

 

 

「どういうことですか!まだ腕輪と神機が見つかっていないのでしょう!?」

「そ、そうだよ!説明してくれよ!俺たち、リンドウさんを早く見つけようと思って準備してたのに!」

サクヤとコウタが真っ向から反論する。行方不明になったゴッドイーターの捜索が終わるのは、その人物の腕輪や神機が見つかるか、可能性は限りなく0だが本人が発見されるまで続投されるのだ。任務の優先順位としては高くないものの、それが決まりだ。だが…あまりにも期限が早過ぎる。

「これも上層部からの決定だ。それに、こちらのレーダーで腕輪のビーコン、生体信号ともに焼失したことが確認された。捜索隊からの情報によると、最期の消失ポイントにはリンドウのものと思われる大量の血痕と、奴の服の一部が発見された」

ツバキは淡々とした態度で、弟であるリンドウの捜索中止の理由をユウたちに告げていく。

「レーダーの故障とかではないんですか…!?」

「…残念だが、至って正常に動いている。

それもオペレーション・メテオライト開始前に、新種のヴァジュラに合成神獣、そして我々を妨害する謎の異星人共の妨害がある状況で生きている可能性が低い者を探す余裕はない。まして深手を負っているならなおさらだ」

「…たかが服の一部と血の跡を見ただけだろうが。そんなにあの野郎の立案した下らねぇ作戦の方が大事だってのか…!」

ユウに続き、直接死体を見たわけでもないのにと言いたげに、ソーマが珍しく口を開く。長らく戦ってきたリンドウのことについても、彼は強く気に留めていた。今のはツバキに対してではなく、リンドウ捜索中止を下した上層部…支部長であるヨハネスたちに対するものだった。

「ツバキさん…リンドウはあなたのッ!!……」

そこまで言い掛けたところで、サクヤははっとなって口を閉ざした。肉親であるという指摘を受け、ツバキは少しの沈黙ののち。ユウたちから背を向ける。

「…確かにリンドウは、私の弟だ。だが…上層部の決定だ。覆ることはない…」

その言葉を残し、ツバキはエレベーターへ乗り込んだ。

ツバキを傷つけてしまった。リンドウ同様にツバキと長らく共に生きてきたサクヤは、それに気づいた。間違いなく、彼女に当たってしまっていた。

「ごめん…少し頭冷やしてくるわ。今日の任務には、間に合わせるから…」

サクヤも、リンドウについての悲しみとツバキへの罪悪感から、この場にいるのが後ろめたくなり、ユウたちの前から去っていく。

「サクヤさん、だいぶ参ってるな…」

「うん…」

ここ最近、この第1部隊…いや、極東支部は失ったものがあまりにも大きすぎた。でも、ユウはヴェネやエリックの死に際の言葉や、タロウやリディア、タツミからの励ましもあって、膝を折ってはならないと強く自分に言い聞かせた。

この空気の重苦しさには耐えないといけない。それはコウタも同じように考えていた。

「今日、俺サクヤさんとソーマと一緒なんだ。二人のことは俺が見るから、ユウはアリサの方頼むよ」

「大丈夫、そのつもりだから。どのみち神機が修理中だしね」

 

 

 

「…すまない、サクヤ…」

ユウより一足先に上へ向かうエレベーターの中では…

「……うぅ…リンドウ……」

誰もいないその場所で、ツバキは壁に手を付け、床に膝を着いてこらえきれなくなった涙を流していた。絶対に他の誰かに見せまいとしていた涙が、床に滴り落ちて行った。

 

 

 

かつて人類が繁栄していた頃、その地下エリア一帯には多くの人々が買い物でにぎわっていた。その名残からか、地下から地上へのビルに続くエスカレーターや、延々と伸びる地下鉄の線路の跡が今も残っている。とはいえ、当時と比べれば明らかに変わり果てた光景だった。

さらに異様なのは…そのエリアには地下からマグマの池がわき出ているせいで、ありえないほどに熱くなっていた。

そこは、現在では『煉獄の地下街』という名前で、ゴッドイーターたちから命名されている。

「ぐばぁ!」

大車は、マグマ星人マグニスからの暴行を受け、壁に激突した。壁から転がり落ちる大車を、マグニスたちは見下した目線で見下ろした。

「まったく、やはり所詮は地球人だな。結局ウルトラマンギンガの始末に失敗し、自分が使っていた人形の小娘まで奪われるとはな」

「呆れたGuyだぜ。Youは。ウルトラマンはYouが考えていたほど簡単に始末がつくとでも思っていたのかい?」

「ちょっと普通の人間より強い力を持ったくらいで、すぐに大きな手柄を求めて調子に乗る…これだから地球人は愚かなのよ」

積み隠すことなく呆れた様子だった。長年自分の同族たちがウルトラマンと戦ってきたからこそ、大車のとった手段程度ではギンガを倒せないと読んでいたようだ。

地面に転がり、露骨に星人たちから呆れられ見下され、歯噛みする大車。彼の傍らには、彼が隠し持っていたボガールのスパークドールズが転がってきた。それをグレイが拾い上げ、さらに見下した目を向けてくる。

「このボガールのスパークドールズは返してもらうわよ。あんた程度じゃ宝の持ち腐れみたいだし」

「ま、待て…」

「よし、今度こそピターを見つけに行くぞ。そして今度こそ、ウルトラマンギンガを殺せるだけの合成神獣を作り出してやる」

手を伸ばす大車。だが、そもそも地球人ごときを当てにしていなかったらしく、マグニスたちは大車の前から立ち去ろうとする。

しかし、その時だった。

三人の闇のエージェントたちは、足を止めた。目に見えない、何かに足を掴まれた様な感覚を覚え、身動きが取れなくなる。

そして、彼らの前に……屋内だというのに、真っ黒な暗雲のようなものが現れる。

「あ、あなたは…」

グレイが後ずさる。その中に何かを見つけたのか、他の面々も恐怖を露わにした表情を見せている。途端に、大車が暗雲に向けて土下座をかましてきた。

「お、お待ちください我が主様!今度こそお役にたちます!シックザールが抱え込んでいる秘密についてもつかんだ情報があります!ですから…どうか…どうか…」

額を地面にこすり付け、命乞いをみっともなく行う大車を、三人のエージェントたちは笑わなかった。その暗雲の中に潜む何者かに対し、恐れをなしていた。そんな存在の前でふざけた真似などできないのだ。

すると…何も聞こえないはずなのに、暗雲の中から何かを聞いたのか、マグニスが目を見開く。

「以後の作戦について、いくつか話がある、と?」

Realy(マジで)?」

 

 

 

ユウは、改めてアリサの病室を訪れた。アリサが落ち着いて眠る時間が増えたので、面会ができるようになっていた。そこには先にリディアと、タロウが共にユウが来るのを待っていた。

「アリサの容体はどうですか?」

ベッドで眠っているアリサを見ながら、ユウはリディアに尋ねる。

「健康には近づいています。でも、まだ…」

リディアからの返答に、やはりか…とユウは残念に思う。

「タロウもどう?その人と話は?」

ユウは、今度はタロウに向けて質問をする。帰還後、ユウはアーサソール事件の際に手に入れたウルトラマンジャックのスパークドールズをタロウに預けていた…いや、返したというべきか。

「いや…会話はできない。ジャック兄さんの声は一切聞かなかったよ」

こちらも同じらしい。残念なことにジャックもコミュニケーションが取れるような状態でもないようだ。

(…本当に人形なのに喋ってる)

リディアは、当然ながら人形なのに自我を持って喋っているタロウに驚かされた。ユウがウルトラマンであることもそうだが、こうして小さな人形として普段はとどまっているとか、非現実的な光景としか思えない。だがこうして現実で起きている。しかも、かつてはこのタロウというウルトラマンの人形たちも、自分たちの祖母以前の代には地球を守っていた時期があったという。未だに半信半疑だが、彼女は自分の患者だった集落の人々やアリサを救ってもらった恩もあり、引き続きユウたちの正体云々については口を閉ざしてくれている。

「ところでユウ。君の方はどうだ?」

「実は…」

ユウはリンドウの捜索が中止になったことも伝えた。そのことを聞いて、二人も残念そうに押し黙った。

「リンドウさんの捜索が…」

「サクヤさんたち、納得してなかったよ。もちろん僕もだけどね…」

リッカに頼んで神機を強化修繕してもらい、いつでも自分たちも捜索任務に出られるように準備していた矢先に、捜索の中止だ。納得なんてできるはずもない。

今のところ、すべてがうまくいっていない状況だ。こんな時にあの闇のエージェントを名乗る異星人や大車が、こちらに向けて何かしらの悪事を働かなければいいのだが…

「…すぅ……」

アリサは、ここに連れ帰ったころと比べて確かに落ち着いているが、表情はあまり安らいでるように見えなかった。

(かわいそうに…)

自分とアリサは、肉親の死という悲しみを背負っている。大車は狡猾にも、自分を…ウルトラマンとリンドウを殺すために、彼女の悲しみと憎しみに付け込んだ。

…思えば、なぜあの男は…ウルトラマンである自分ならまだしも、リンドウさえも殺そうとしたのだろうか。確かにリンドウは極東でトップクラスのゴッドイーターだ。だが、闇のエージェントたちの持つ力…怪獣を人形の状態から元に戻し操ったり、アラガミと融合させる力をもってすれば、わざわざアリサを洗脳までして始末を請け負うだろうか。

目を覚ましたアリサから、そのことについても話を聞けたらいいのだが、そのアリサはまだしばらくは目を覚ますことはないらしい。

(早く良くなってくれ…)

その願いを込めて、ユウはそっとアリサの手に触れた。

 

その瞬間だった!

 

「!?」

 

ユウの脳裏に、突然数多の光景が流れ込んできた。

 

黒いヴァジュラ…ディアウス・ピター。

 

そいつに食われていくアリサの両親。

 

大車の悪意に満ちた、アリサへの語りかけ。

 

大車によって引き金を引く仕草をするアリサの視線の先に映る…自分とリンドウの顔写真。

 

 

「ユウ、どうした?」

「ユウさん?」

「あ…!!」

二人の声を聴いて、ユウは我に返った。

「い、今のは…?」

思わずアリサの手を握っていた自分の右手を見る。今の感覚には…覚えがあった。

(これは…あの時と似ている…!)

アーサソール事件の際、アラガミ化していたジャックと戦っていた時だ。突然奴と戦っている間に、ジャックとヴェネの記憶が突如流れ込んだ。しかもその影響は、一緒に戦っていたギースにも及ぼし、ヴェネが内心ではギースに対して嫉妬と羨望を抱いて、一時彼から戦う意志を奪ったほどに鮮明だった。今見えた光景と同じように……

 

ふに…

 

そう、こんな柔らかい感触もまたどこかで………って。

「大丈夫ですか!?顔が青くなってますよ!?もしかしてどこかお体の具合が…!?」

気が付いたら、自分を心配したリディアがユウの顔を見て心配していた。が、いつぞやのように、ユウの手首を自分の谷間に埋め込んでいた。

彼女は、思わずこうして相手の手を握った際に、無自覚の内に相手の手を自分の胸元に持っていく癖があるのだ。

「ちょ、待…せ、先生!!落ち着いてーーーー!!!」

「…ユウ、また君という奴は…」

「だからわざとじゃないってば!!!これはリディア先生の癖っていうか…あああもう!」

以前事故でアリサの胸をもんだことを忘れていなかったのか、横から掘り返してきたタロウに、ユウは必死に抗議した。

その時、もう一つあることが起きた。

「あ、私…」

三人は思わず、声が聞こえてきた方を向く。

眠っていたはずのアリサが、目を覚ましていた。

「アリサちゃん!」

「せ、ん…せ、い……」

だが目覚めたのは、ほんの一瞬だった。アリサは再び目を閉じて眠った。

 

 


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