ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
6月分の投稿です。戦闘はありません。
自分で考えた設定なのに訳が分からない…なんてことがあるかもしれません。文章を読んでお気づきになった方がいれば、自分でも気づかないこともあるのでご指摘お願いします。
…人任せですいません。自分かなりおおざっぱなのでorz
ユウやアリサの腕輪の信号を追って、第1部隊の仲間たち三人が、集落近くのポイントに下ろしたヘリで救助に来た。
「ユウ、生きてる!?」
「怪我はない!?」
コウタとサクヤの二人が、ユウに容態を聞いてくる。あれだけの危機が起きたのだから尋ねずにいられなかった。
リンドウの行方、アリサのこと、森で溢れているこの集落のこと、アリサに何かしら仕掛けを施したと思われる大車のこと…
だが、二人はその時のユウの…そして集落の人々の様子を見て、言葉を失った。
「…」
ユウとリディア、そして集落の人々が何かに対して祈りを捧げていた。
彼らの中心に横たえてた、エリックに。
腹部が血でまみれながらも、安らかな笑みを浮かべていた。
その中でも、ソーマがフードの下で目を見開き、そして沸き上がる感情を隠すように深く被り直した。
「…っ…馬鹿野郎が…」
誰の耳にも届くことのない消え入りそうな声で、ソーマは眠りについたエリックに言った。
ユウはエリックの手に、彼のひび割れたサングラスを握らせ、再び彼に祈りを捧げた。
取り戻し、守ったはずの仲間。だが、失った仲間もおり、勝利の喜びなどなかった。
だが、それでもユウは戦い続けると誓った。
ゴッドイーターとして、
ウルトラマンとして、
神薙ユウとして。
アーサソールとの合同任務、闇のエージェントの謀略に続く激闘を経て、ユウはようやくアナグラへの帰還を果たした。
だが、その代償はあまりにも重すぎた。
リンドウは、アリサが初めてボガールになってみせたあの時、ビルの下敷きになってそのまま行方知れず。難民の人々はボガールや氷のヴァジュラなどに襲われて皆殺し。エリックはユウを連れて行った先の集落を襲ったボルグ・カムランとの戦闘で華麗なる戦死。そしてアリサは、最後の最後で大車によって精神異常をきたした。
あの集落については、エリックを含めて死傷者はわずか3名だった。集落の人たちも自分たちの住む場所の荒れようにショックを受けていた者がいたが、壁の外でたくましく生きてきたこともあって、頑張って復興すると集落の代表者が宣言した。
「リンドウさんだったら、何が何でも生きろっていうはずですから」
「エリック君のおかげで拾ったこの命、無駄にしません」
あの集落におけるリンドウの存在は、アナグラ内でもそうだったように大きかった。それに加えて、命を投げ出してまで集落の人々を守ったエリックの死を惜しむ声も多かった。
密かに物資を持ち出して防壁外の人々に与え、アラガミの脅威からも守り抜いた彼らはまさにヒーローだった。その姿に救われ、自らも奮い立とうとしていたのだろう。
復興支援のことも考えたユウだが、やめた。元々ここにある物資はリンドウが防壁外の人たちを救うために密かに持ち出したものだ。サクヤも第1部隊の仲間たちに、集落の人たちがリンドウの伝で手に入れた物資については口を閉ざすように念を押した。
ただ、リディアは迷っていたことがあった。医者を育てることも困難な今の世では、防壁外の人たちの怪我を診る医者は貴重だった。彼女は医者として、この集落の負傷者を見捨てることはできない。だが一方で、大車の汚い野望のために利用されたアリサのことも放っておくこともできなかった。アリサはというと、かろうじてリディアの鎮静剤入りの注射をさされたことでようやくおとなしく眠っている。しかし目覚めて薬の効果が切れてしまえば、まだ精神が安定していない彼女のことだから、また錯乱して暴れるのだろう。
そんな彼女を察してか、集落の人たちはリディアに…
「こっちの方なら大丈夫です。行ってあげてください」
「怪我人も多くないですし、常々先生からは包帯の替え方とか教えてもらってました」
このように、リディアに行っても大丈夫だという人がいてくれた。何人かが医者という貴重で頼れる人がいなくなるのを恐れて反対した人もいたが、リディアの気持ちを案じてくれた人たちが彼らを説得するそうだ。
リディアは彼らに、アリサの身に起きた憂いを絶つことができたら、改めてここへ戻ると約束し、第1部隊のメンバーたちの協力者としてアナグラヘ同行した。
戻った後のユウは医務室に運ばれ、傷の手当を受けた。
さすがに疲労が蓄積していたこともあり、2日ほど入院をすることになった。ゴッドイーターはアラガミの細胞を取り込んでいることもあって回復は早いのだが、それでもかなり痛手を負わされていたので油断ならなかった。その間の見舞いに、コウタやサクヤ、タツミら第2部隊、真壁夫妻といった仲間たちも何度か訪れた。
無事を祝ってくれたが、大半のゴッドイーターたちが特に望んでいたのは…リンドウの無事であることだった。長年多くの後輩たちを生存させてきた実績による安心と信頼、それが大きかった。寂しいが、仕方がない。
その際、やはりというべきか…ディアウス・ピターとボガールが同時に襲ってきたあの時のことを聞かれた。だが正直に言うことはできなかった。特にアリサがボガールになっていたなどと知られれば、極東は愚か、世界中から彼女は居場所を失ってしまうことが考えられた。任務中に怪物と化して、リンドウやユウを襲った…裏切り者として。彼女だって大車に踊らされた哀れな被害者なのに、かわいそうすぎる。
「まだ整理がついていないから、せめて退院するまで待ってください」
だからユウは、そのようにはぐらかした。いずれにせよ、ツバキなどの上官たちからも問われることだが、悪いハプニングが起こり過ぎたし、大車のように気になることも多い。入院している間に彼は報告すべきことを、タロウと話し合いながらまとめることにした。
ユウは2日の休みを経て、退院した。だが、アリサは…回復の兆候が見られなかった。
あの時以来、アリサは目を覚ますとすぐに錯乱して暴れだしてしまうようになった。これも大車が彼女に行った洗脳によるものなのだろうと思った。
「パパ…ママ…違う、違うの…私のせいじゃ、私のせいじゃ…」
「ルミコさん、アリサちゃんを押さえつけて!鎮静剤を打ちます!!」
「わかった!」
「あああ…ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」
「私だ、わかるかアリサ?」
「やだ!ほっといてよぉおおおおおおお!!私のことなんて……」
病室の外から聞こえるアリサの言葉は、許しを請うか言い訳ばかりだった。リディアたちの奮闘の声も聞こえてくる。
「アリサ、大丈夫かな…なんか、酷いことされてたんだろ。あの大車って人に」
「うん…」
一緒に病室の外で待っているコウタにそのようにユウは答えた。
先日同様、酷い有様に違いない。ユウは病室内のアリサがどんな顔をしているのかたやすく想像できた。コウタも表情が思わしくない。ユウとの再会を喜びたかったが、エリックの死やアリサの今のこともあって、いつもの明るい振舞いをする気にもなれない。
「なぁ、ユウ……」
少しの沈黙を経て、コウタが再度口を開く。
「戻ってきてから、何度も思ってたんだ。なんであの時、ウルトラマンは来なかったんだって」
コウタは、ウルトラマンを特に信頼していた。少年らしい、ヒーローへの憧れゆえに。それだけに、あれほどのピンチの状況でありながらギンガが現れ無かったことが気がかりだったようだ。
「…その前に、アーサソールとの任務中の時に僕らを助けたんだ。その時…エネルギーを使いすぎて、ね…」
はっきりとした真実ではないが、ほぼ嘘は言っていない。
「じゃあ…助けたくても、無理だったってこと?」
「だろうね…」
そう、助けたかったけど無理だった。ギンガも自分の力不足を、アリサがライブしたボガールとの戦いの際に口にしていた。でも、何より僕自身に力が足りていなかったことも大きかった…とユウは思った。
「…俺、すっげー嫌なこと考えてる。あの時ウルトラマンが来てくれれば…リンドウさんはいなくならなくて、サクヤさんも悲しむことなかった。エリックだって死なずに済んでさ…妹さん、いたのに…
…勝手だって、わかってるけど…」
ウルトラマンがもっと早く来れば、誰も傷つかずに済んだ…と。コウタは自分の中に湧き上がる身勝手な感情を自覚しつつも、そう思いたくなっていた。以前にアリサからも指摘されたことだ。愛する父と母をピターから守ってくれればこんなことには、と。
「妹って…前にエリックが言ってたエリナって子のこと?」
「うん。あの任務の後、エリナちゃんがエントランスにきて、エリックがまだ帰ってないか何度も尋ねて来たんだ。さっきも見かけたよ」
「…僕もだ。入院中にあの子が来て、僕に聞いてきた。『エリックが戻ってこない』って…」
入院時、エリナはエリックの行方をユウに聞いてきた。エリックの遺体と神機も帰還の際に回収されたから、アナグラにいる誰もが知っている。
エリックは死んだ。
それを言葉に乗せても、エリナは聞き入れない。入院中にユウのもとに来た時がそうだった。
『皆が嘘つくの!エリックが死んだって…もう帰ってこないって!』
『…ごめん、エリナちゃん…』
『っ!ユウさんまで…そんなこと言うの…お兄ちゃんが死んだって!そうやってみんなで私に意地悪して楽しいんだ!!
最低!皆大っ嫌い!!』
泣き叫びながら訴えるエリナに、その時のユウはどう答えるべきか、わからなかった。ただ心を痛め…ただ一言
だけ詫びを入れることしかできなかった。そして泣きながら病室を飛び出すエリナをただ見ているしかできなかった。
すごく心に傷を刻み込むような…だがユウ自身も、同じように思ってしまうことだった。僕がもっと強ければ、あの時ヴェネや難民の人たちを守れなかったことにを悔いて腐っていなければ、こんなことには、 ならなかったと。コウタがそうであるように、何度も自己嫌悪に陥る。
すると、病室の扉が開いてルミコとツバキが出てきた。
「アリサの様子は?」
ベンチから腰を上げて彼女らのもとにユウが向かい、真っ先に尋ねる。
「今は落ち着いて眠っているよ。でも、結構強い薬使ったからね…しばらく意識は戻らないと思う。また目が覚めたら、暴れ出しちゃうと思うから、しばらく面会謝絶ってことで」
「そうですか…」
ルミコからの報告に、ユウは表情が沈む。命にかかわるほどの外傷がないのは不幸中の幸いだが、それでも思わしい結果ではない。
ちらっと、病室の扉を見やる。実は密かに、病室にはタロウを忍び込ませている。大車の洗脳を不幸にも受け、一時怪獣にされてしまった身だ。万が一鎮静剤だけでどうにもならなくなった場合とかのために、一度ユウの元から離れているのだ。
「今はまだ入らない方がいいだろう。リディア先生が診てくれているから、今日のところはそっとしておいてやれ」
元から鉄仮面をかぶった様な表情を保っているツバキ。…だが、元神機使いで相談役の百田ゲンから聞いた話だと、その顔の奥で彼女も心を痛めていると察した。
その理由はアリサやエリックのこともあるが、それ以上に…
――――ましてや血を分けた弟だ。飛び出したいのはあいつの方だろうに
実弟のリンドウが姿を消した。それも生存確率が限りなく低い。さすがのツバキでもこれほど堪えることはなかった。ツバキはそんな心情を悟られまいと、いつもの鬼教官らしい毅然とした態度を持って部下たちに対応する。
「神薙ユウ、報告すべき事項はまとまったか?アーサソールとの任務直後から帰還までの日、何があったのか説明してほしい。あの…大車医師のことについてもな」
「…わかりました。ごめんコウタ、話はまた今度」
「あ、ああ…」
さっきも言ったように、アーサソールとの任務から立て続けに悪い状況が続き、仲間たちに死傷者と行方不明者まで続出した。生き延びたユウたちも静養の必要があったので、まだ報告を控えさせていた。リディアにも、自分がウルトラマンであることやタロウの存在、それらに関することは特に口に出さないように口止めさせている。
コウタたちに少しの間の別れを告げ、ツバキに連れられる形でユウはエレベーターに乗り込んだ。
「ツバキさん」
上に登っていく中、ユウは背を向けているツバキに向けて口を開く。
「なんだ?」
エレベーターの入口を見たまま、ツバキが聞き返す。
「リンドウさんの捜索…まだ情報はないですか?」
「…残念だが、捜索隊からあいつを見つけたという報告はない。生存は……正直、絶望的だろう。
オペレーション・メテオライトについても、日程の見直しか中止にするか、今は上層部の間で意見が割れている。リンドウほどのゴッドイーターの穴埋めは、他の支部から呼び寄せてきた者たちでも代わりが効く者はいない」
やはり、まだ見つかっていないのか。アナグラ内でも、リンドウが未だにアナグラへの帰還を果たしていないことは何度も耳にした。というか、ユウ自身、そのことについて問い詰められた。だが答えられるわけがない。リンドウが行方をくらます前に、自分がそうなっていたのだから。
「…すいませんでした」
「なぜ、お前が謝る?」
ツバキは背を向けながらも横顔を、謝罪してきたユウの方に向けてきた。
「…もしや、もっと強ければリンドウたちを救えたかもしれない…などと自惚れを抱いているのではないだろうな」
「…仰る通りです。自惚れなのはわかっています。けど…」
本当なら、自分にはできたかもしれなかった。口に出して言えることではないが、自分はウルトラマンだから。
「…今回のことは、僕以上に…みんなにとって失ったものが大きすぎます」
リンドウ、エリック、ヴェネ…ここに戻るまでの間にいなくなってしまった仲間。いずれも死なせるべき人間などではなかった。それなのに、この世界は彼らのような人間から真っ先に命を奪っていく。この世界は理不尽…わかっていたことだが、許しがたいことだった。
「ユウ」
ツバキは、気が付くとユウの肩に手を置いていた。
「その痛みを、決して忘れるな。そして…すべてを背負おうとするな。お前もゴッドイーターである以前に、一人の人間でしかないのだ」
その時の彼女の眼は、必死で堪えていた。
ユウは、ツバキに連れられて、支部長であるヨハネスへ明かせる分の報告を行った。
アーサソールの結末については、ギースとマルグリットを逃がすために、リンドウが以前に全滅したという虚偽の報告で終わらせている。今回も嘘を混じらせた報告をすることになった。
防壁外にて、かつてユウと同じく女神の森の人間だったスザキたちとの遭遇。ピターとボガールの同時奇襲によって、合流したはずの第1部隊は一気に瓦解。ユウ自身もエリックに救出されたものの、避難先でエリックが自分を守るために命を賭してボルグ・カムランを撃退、死亡。ここまでは帰還時の報告の通りだった。だが詳しく問われたのはそこではない。大車とアリサ、そしてボガールのことだ。
「大車君は巨大なアラガミのような獣を操っただけでなく、アリサ君を己のいいように扱える存在として暗示を施していた…か」
「はい。ウルトラマンが助けに来なかったら、僕も今頃殺されていたと思います」
ヨハネスが両手で組んだ頬杖を解きながら、ユウの話を復唱する。ユウがウルトラマンであること、アリサがボガールだったことはなるべく伏せ、大車がボガールを直接操っていたような形の内容で報告した。
「行方不明者の中で君と、不安定な状態とはいえアリサ君だけでも無事だったのは幸いだった。エリック君のことは誠に残念だったが…最後まで仲間のために戦い、散った彼を私は誇りに思う。
後日、彼の葬儀を執り行おう。彼の魂が、少しでも安らかに眠れるように」
「ありがとう、ございます…」
作戦のことはどうでもよかった。世界のために、妹のために、そして友のために命を燃やしたエリック。ユウは少しでも多く祈りをささげたいという思いが強く、それだけにヨハネスの配慮に、ユウは深く感謝した。
「しかし、リンドウ君とエリック君、そしてアーサソールのメンバーたちが抜けた穴は大きい。オペレーション・メテオライトにも影響がでるだろう。上層部と話をつけねばならないな」
「……」
他の支部のゴッドイーターを一時滞在させているという貴重な状況から、彼らを簡単に元の支部に帰すのは、帰り道にもアラガミが出ることもあるので危険且つもったいないと思えば、理解はできる。しかし普通なら、リンドウや本部直轄のアーサソールがいなくなったことで、作戦が当初の形から大きく外れてしまいかねず、下手をすれば確実に失敗する流れになってしまうかもしれない。
確かに、この作戦が成功すれば大勢のアラガミのコアが入手され、エイジス完成が一気に近づく。アラガミの数が少なくなることで、合成神獣の発生率も減るだろう。だがそれでも、エイジスが完成に至るまでには長すぎる時間を要することに変わりない。なら別の確実かつ効率的な方針を考案することも考えるべきかと思うが…ツバキは、ヨハネスがどうもメテオライト作戦を勧めたがっているように見えた。リンドウたちという貴重な戦力が削れた今でも、何が何でも作戦を決行したがっていると。
「あぁ、それと神薙君。まだ君に言っていないことがあった。君の故郷の総統と会ってきた」
「故郷?…まさか、女神の森に!?」
席を立ち、話を切り替えるようにヨハネスは改めてユウに話を振る。
「予想通り、私に対する敵対心が強かったよ。当然のことだがね。私の行いの重さは私も重々承知しているつもりだ。だがそれでも、支援については、引き続き行おうと検討している。とはいえ、我々もエイジス完成のために、オラクル資源を駆使せねばならないから、あくまで微々たる量程度しか回しきれない」
やはりそうなのか。大車も言っていたことだし、ピターやボガールの出現前にもスザキから酷く一方的に言われたものだ。
「しかし、君に対しても先ほど連絡があった。『我々への援助をしてくれたこと、感謝する。神薙ユウのこともよろしく頼む』とね」
「え…」
それを聞いたユウは目を見開いた。
「我々フェンリルに対する反目の意思はあったが、君個人に対する心配は、芦原総統も気に留めておられたようだ。君は向こうでも強い信頼を得ているようだね」
「い、いえ!恐縮です!」
思わなかった。フェンリルの庇護下に置かれた自分が、極度のフェンリル嫌いでもある芦原総統から心配をされていたとは。幼い頃、彼の娘であるユノと縁を持ったことが幸いしたのだろうか。思わずヨハネスからの褒めと、予想外の嬉しい知らせで舞い上がりかけるのを悟られまいと、ユウは姿勢を固くする。
「ご苦労だった、神薙君。下がっていい」
その言葉でユウを支部長室から下がらせた後、ツバキはヨハネスに顔を向ける。
「…よいのですか?そのような嘘をついて」
「君らしい意見、理解するよツバキ君。だが、今の彼は仲間の死と敗北の味の重さで傷つきすぎている。これ以上ショックを与える情報を与えては、今後の彼のコンディションに悪影響が出る可能性が高い。貴重な新型にして勇敢なゴッドイーターを失うことは、全人類共通の損失だ」
これを見ている皆も、ヨハネスの口から「芦原総統が、裏切り者と断じたユウを心配している」と聞いておかしいと思っただろう。だが実は嘘だった。
実は、ヨハネスは女神の森への来訪から戻る際に、このようなメッセージを受けていた。
『一応感謝はしておくが、これ以上恩着せがましく資材を送ったところで、我々が貴様らへの考えを改めると思うな。そちらが送り付けてきた資材についても、我々はそちらとの協力関係を結ばない。自分たちで勝手にやらせてもらう。裏切り者の神薙ユウは、そちらで好きに扱え。あの時あなたを何もせぬまま送り返したことも含め、我々を蔑ろにしたことの罪はひとまずそれで妥協してやる』
ツバキに向けて、ヨハネスは女神の森からのメールを見せた。文面を見てツバキは、彼らに対する不快感を覚えた。
フェンリルを嫌う理由はわかる。現在少ない資源を多く保有しておきながら、独占するばかりで防壁外に留まったままの人のためにほとんど分けてくれない状況が続いている。だがフェンリルもアラガミに対抗する兵器の開発のために余裕がないのだから仕方がないのだ。ゴッドイーターになれる素質を持つ人間も限られている。だがそれを抜きにしても、ずっと共に生きてきた仲間であるユウに対して、あまりにも…。
一方でヨハネスは全てを悪いものとは思わなかった。
「しかし援助を彼ら自身が受けるのを拒否したのは逆に好都合な側面もある。ノーコストで神薙君を我々の仲間として保持できる」
元々ユウがこの支部で戦うことを選んだのは、一種の契約も混ざっていた。ユウの活躍に応じて、エイジス計画に差し支えない程度の量のオラクル資源を遅れる分だけ女神の森に送りつける、というものだ。だがユウの使用権を全部こちらに委ねた。こうなればもう、親切に資源を送りつける必要もないということだ。
「彼の活躍が高まれば、きっと女神の森の彼らもきっと考えを改めるはずだ。少なくともその時まで、彼にはこの連絡のことは私と君だけの秘密にしてくれ」
「了解いたしました。では…」
ツバキもまた、支部長室を後にした。
「…そう、彼には十分すぎる利用価値がある。裏切り者として捨てるとは…愚かしいものだ、芦原総統」
ヨハネスも芦原那智に対して、呆れと失望を抱いたような言葉を呟いた。フェンリル嫌いの姿勢を貫くために、ユウという人間と、援助を受けることで得られる資源を切り捨てるとは。
彼の真実を知れば、きっと彼らは後悔することになるだろうというのに。
だが、実は彼らの協力を仰ぐことが目的ではなかった。
(女神の森に、未だにアラガミが寄り付かない要因の究明と…万が一に備えての『保険』をかけてきた。寧ろ対立姿勢を持ち、神薙君の保護権限をすべて私にゆだねてくれたのは都合がいい…)
もし、彼らがユウや資源の援助を切り捨てられるだけの余裕に理由があるのだとしても、現時点において自分にとって良い方向に状況が流れ始めていることをヨハネスは悟った。
「おっと、裏切り者といえば…彼もいたな。あの男と目障りな異星人も、彼に倒させてもらわないとな。私のこの計画…真に地球を救うための計画のために」
そのためにも、当初は大車に操らせたアリサに…リンドウを殺させようとしたのだから。
全て最終的に、人類がアラガミをはじめとしたあらゆる脅威から救われるためだ。そのためならどんなに汚れた手を使っても構わない。
「今後も期待しているよ、神薙ユウ…いや……
…ウルトラマンギンガ」
次回も後処理的エピソードですが、それに加えてアリサのエピソードを始めようと思ってます。