ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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Mad Dorctor(前編)

自分たちの道を阻むように、突如姿を見せた大車に、ユウはリディアの前に立って身構えた。そんな彼を大車は見下すような目を向ける。

「正直言って君が生きているとは思わなかったよ、神薙ユウ君…ボガールに君を殺させようと思っていたのだが、奴らの言うとおりだったか」

闇のエージェントたちもウルトラマンギンガと、彼の変身者として選ばれたユウが生きている事を指摘していた。ギンガを倒した手柄に酔いしれた自分に対する妬みだと思って適当に流していたが、こうしてギンガに選ばれた男を見つけた以上、無視はできない。

「大車先生、なぜあなたが!?アリサちゃんの主治医だったあなたが、極東支部外のこんなところで…?」

困惑と動揺を露わにしていたリディアの口からも大車、そしてアリサの名前が出たことに、ユウは目を見開く。

(アリサ、ちゃん?…まさか、さっきリディア先生が言っていた女の子って…!?)

「ロシア以来ですね、あなたとこうして会話するのは」

大車のその一言で確信に変わった。かつてリディアは、数年前にアリサと面識があったのだと。

「それに、今何をおっしゃってたのですか?私には、まるでユウさんが生きていることが、あなたにとってなにかしら不都合な言い回しに聞こえましたが?」

「ええ、おっしゃる通りです。彼に生きてもらっていると非常に困るのですよ。私の夢を叶えるために…彼は存在自体が邪魔なのですよ」

「それが同じ医者の言葉ですか!?医者というものは、患者の命を第1に考えるものでしょう!?」

「私と比べて一回り年下のくせにずいぶんと上からの物言いを言ってくるのですね。ロシアでの任務のショックで自我が崩壊しかけていたアリサを救ったのがこの私だという恩を忘れたのですか?」

「…ッ!!」

(ロシアでの任務…?)

それを言われた時のリディアは、おっとりとした人物像から一転して、鋭い目で大車を睨み付ける。そんな視線さえ、大車は嘲笑って楽しむように適当に流した。

「まぁ、今はそのようなことはどうでもいい。それよりも君だ、神薙君。君にぜひ聞いてほしいことがあるのだ」

「僕に聞いてほしいこと、ですって?」

アリサをボガールに変え、自分たちを罠にはめようとした男だ。間違いなくろくでもないことを要求してくるに違いないと確信した。

「君には、このまま私と共に来てほしいんだよ。君の身を、『あの方』に差し出してほしいんだ」

思った通りだった。しかもアーサソール事件で姿を現した闇のエージェントたちと言っていることが全く同じ。

「もし私の要求に応じてくれるなら、集落のボルグ・カムランをどうにかしてあげようじゃないか」

こちらから冷静さを奪ってくる物言いに怒りが殺意に変貌しそうだった。

「さあ、早くしたらどうなんだい?早く決めないと……集落の人々がボルグ・カムランの餌になってしまうかもしれんぞ?私のアリサなら…止められるだろうがね」

「アリサ!?」

「アリサちゃんもここにいるんですか!?」

「ええ、それはそれはもう…彼女は私の役に大いに立ってくれていますよ。……『忠実な哀願人形』としてね」

「哀願…人形…!?」

「…やはり、アリサにあんなことをしたのは、あなたが…!なんてことを!」

その言い回しにユウは衝動的に大車に向かおうとするが、彼の足もとに大車の銃弾が撃ち込まれ、足を止めてしまう。

「そう構えたところで無駄なことはわかっているだろう?今の君に、ウルトラマン共の加護はない。そして頼みの神機も、私のかわいい人形のおかげで使い物にならないスクラップと化している。つまり、私がその気になれば、この銃で君の脳天を貫くことなど簡単なのだよ」

先刻の戦いでアリサはアラガミを誘引する装置とダミースパーク、そしてボガールのスパークドールズを入れていた黒いケースを持たせたのが大車だと聞いてから、予想はしていた。この男は自分がウルトラマンだと知ったうえで、命を奪うべく卑劣な罠を仕掛けてきたのだ。

遠くから建物が倒壊する音が響き、後ろに存在する集落の方角を三人は振り返る。

「ボルグ・カムランか…あのエリックとかいうゴミには敵わん相手に違いない。まったく愚かなものだよ。守る価値のない人間のために、敵いもしない敵に単身立ち向かうとは…実に理解しがたいよ」

この集落はともかく、そこにいる人間など彼にとってどうでもいいことだった。寧ろ邪魔な人間たちが勝手にアラガミの餌になってくれてちょうどいいくらいだ。それに、さっき尾行したところ、どうやら神薙ユウは先刻のミッションでのことがトラウマになって戦闘できる状態ではない。これを機に、奴がこのままアラガミに食われてしまえば、報告の虚偽の疑いを『あの方』から懸けられずに済む。

「…断れば?」

「はははははは、君は断れる立場ではない。なぜなら今の君は神機を破壊され、ウルトラマンの加護を得ていないただの無力な人間でしかないのだからね。いつも一緒にいるウルトラマンの先輩が一緒でも、あんなちっぽけな人形にされた虫けらに何ができるんだろうね?」

タロウが傍にいないこともわかっていたようだ。思えば確かに、タロウがいたのなら、大車はこうして自分たちの前に姿を現さなかっただろう。銃弾程度、たとえ人形になった今のタロウでも怖くもなんともないのだから。

「さて、答えを聞こうじゃないか?」

「く……」

後ろにはリディアもいる。万が一断った結果、自分が大車の銃弾に倒れてしまえば、今度は彼女の命が危ない。ユウには従うしか選択肢が残されていなかった。だが、リディアがユウの前に立ち、彼を守るように立ち塞がった。

「撃つなら私を撃ってください」

「リディア先生!?」

リディアは後ろにいるユウの方へ振り返る。

「最近噂で、ウルトラマンのことはよく聞き及んでいます。どうしてこのタイミングで、あの人があなたに向けてそのことを言ったのかよくわからないけど、何かあるんですよね、ユウさん?」

「先生、下がってください!この男の狙いは僕だ!」

「下がれません、私は医者として、一度診た患者は絶対に見捨てません!」

彼女はユウの言葉を拒否し、両手を広げ自らユウの盾になり続けた。

「妹が死んだだけでいっぱいなのに…もう私と関わった人の死は…味わいたくないんです」

「…そうだな、ちょうどいい。小娘…お前も私の人形の邪魔になるだろうからな」

ならばと、大車は銃口をリディアの眉間に合わせた。

「通りで、アリサちゃんをここに連れてこなかったんですね。私と顔を合わせれば…あの子の心に影響が出る。場合によっては、あの子はあなたにとって都合のいい人形さんじゃなくなるから…」

「その通りだ。だが今のお前たちなど、この銃で十分だ」

人差し指を引き金に回し、1秒もかけることなくすぐに撃てる体制に入る大車。

「さあ早く答えを出したまえ、神薙ユウ。このまま大人しく私と共に『あの方』の元へ来るか、ここで彼女と共に私の凶弾に倒れるか、それとも集落がアラガミに破壊されつくすのをただ待つだけか」

「く…」

「ユウさん、私のことは構いません!こんな人の言うことなんて聞かないで!」

リディアは自分のことを気にしなくてもいいと言うが、それこそそんなこと聞けるわけがない。かといって、一人の少女をいかがわしい意味合いも含めて人形扱いし、罪のない人々さえも死に追いやろうとする、医者の風上にも置けないこんな卑劣な男の掌で踊らされることも許しがたい。

(くそ…また僕は…!)

目の前で誰かが死ぬ様を見せられるというのか。こんな卑劣な輩の企みで!!何の罪もない人が、どうしてこんな卑怯者たちの踏み台にされなければならないんだ!!

「いい顔を見せてくれるじゃないか、神薙君。さあ…もう時間はないぞ?どうするのかね?」

ユウの顔に悔しさが現れ、それを大車は愉快そうに笑ってみていた。怒りと焦りで、ユウの顔から汗が流れ落ちていく。

どうすればいい…どうすれば…どうすればこの状況を打開できる?何か方法はないのか?どこまでも自分に、『人間が求める形の神』は微笑まないというのか。

苦悩を強めていくユウ。

「…どうやら最後まで膝を着くつもりがないということか。まぁいい、ここで君たちを殺せば、私の野望も、『あの方』の野望も阻む最大の障害が消えるのだからな」

自分に対してどこまでも反抗的な視線を向けるユウに、大車は彼に降伏の意思がないと見なし、ついに引き金を引いた。

 

 

だが…その時だった。

 

 

ユウとリディアに向けて飛ばされた銃弾は、二人に届きかけたところで、まるで時間が止まったかのように制止、少しの間を置いた後、軌道を変えて近くの木の幹に突き刺さった。

「「え!?」「何!?」

何が起こったのか分からず、困惑するリディアと大車。

(今のは…まさか!)

思わず顔を上げるユウ。そこには、待ち望んでいた者の姿があった。

「無事か、ユウ!?」

「タロウ!!」

やはり思った通りだった。小さな人形にされながらも、若き日から抱き続けてきたウルトラ戦士の心を貫き続ける誇るべき先輩、ウルトラマンタロウが目の前に浮遊していたのだ。

「これを受け取れ!!」

タロウはユウに向けて、背中に背負っていたギンガスパークを投げ渡した。受け取ったそのギンガスパークは、土と泥の跡でかなり汚れきっていた。あの雨の中、ここに来るまで探し回ってくれていたのか。

「え、え!?もしかして、人形が…喋って…!?」

色々と混乱を促す状況が続く中、人形が自我を持ってさらに困惑を深めるリディアだが、今はこの疑問に正面から答えている暇などない。

「この男は私が止めておく。ユウ、先に行くんだ!」

「ナイスタイミングだよタロウ!ありがとう!」

「あ、ま…待ってくださいユウさん!!」

ユウはこの時ほどタロウに感謝を述べずにいられない時はなかった。すぐにリディアを連れて、集落の方へと一気に駈け出した。

「この、逃がす…か…あ!?」

すぐに振り返ってユウたちを撃とうとする大車だが、体が突然動かなくなってしまう。タロウのウルトラ念力によって、動きを封じられてしまったのだ。結局ユウたちが大車の射程圏から立ち去るまで、大車は身動きできなかった。

「く、くそぉ!!あと一歩のところで…!!」

ユウたちが無事タロウの助力で去った直後、忌々しげに大車は、自分の動きを封じ続けているタロウを睨み付ける。

「…大車ダイゴ…君は何をしているのかわかっているのか」

だが、対するタロウもまた、大車に対して心の中に静かな炎を燃え上がらせていた。

「君は侵略者の手助けをしているんだぞ!

自分の故郷を…自らの手で潰そうとしているんだぞ!」

故郷が滅ぶ助力をする。タロウにとって、地球を守り続けてきたウルトラ戦士としても、地球人・東光太郎という自分としても、あまりにも非道な行為に走る大車の行いは怒りを燃やさずにいられないほど許しがたい行為だ。

「…だからどうした…!!こんな癌細胞のような人間共ばかりが生きる世界、何の価値があるというのだ!!」

「癌細胞…だと!?なぜそんな言い方ができる!?」

全く持って理解ができない。確かに地球には悪意のある人間だっているだろうが、それでも大車のような男は悪い意味で希有過ぎた。疑問と不快感を覚えるタロウに、大車は嘲笑うように言い放つ。

「ウルトラマンタロウ…お前たちも愚かだなぁ…一昔前から人間を何度も救って来たみたいだが、はっきり言って理解に苦しむよ。こんなことをしても、この地球は真の意味で救済されない」

大車の言葉が、次第に陶酔さを出し始めていた。空を仰ぎ、何かを崇めるように彼は話を続けた。

「この星を悪辣な人間共から救うのは、『あの方』しかいないんだ。お前のような、いつまでも飽きずに正義の味方ごっこに浸る馬鹿共ではない」

「救済?それに、『あの方』…?

…ぬ!!」

意味深な言葉を口にしている大車に、いったいどういうことかを問おうとした時だった。

タロウは自分に向かって、何かが飛んできたのを察し回避に移った。今のは、神機のバレットか!?念力による拘束が解かれ、大車は自由の身となる。

「ご無事ですか…先生?外に出てから、戻ってこないまま時間が経過していたので…」

その銃撃の射手は、森の中から現れたアリサだった。大車を守るように、タロウの前に立ちはだかった。

「アリサ…!」

「アリサ!ははは…どうやら私もまた、幸運の女神というものに愛されていたようだな!」

自分の人形が都合のいいタイミングで自分を救いに現れた、その事実に大車は歓喜する。自分の人形としてどこまでも完成に近づきつつあることに大満足だった。

「戯言を…!アリサ、目を覚ませ!!」

「…誰ですか、あなた」

すかさず説得を試みるタロウ。しかし、返ってきた答えは淡々としたものだった。そうだ、思えば自分はアリサとはちゃんとした面識を持っていなかった。疑念を持つのも致し方ない。

「あなた…大車先生に明確な敵対行動を行っていた…つまり、私の敵です」

「違う!今の君は、大車に操られているんだ!」

銃口を向けてくるアリサにタロウは再度言葉をかけるも、アリサの目に変化はない。そのアクアブルーの瞳は、最初に極東支部に赴任した時よりも深い、少しの光さえも差し込まない闇の色に染まっている。

(ダメか…!やはり大車に精神を支配されたままなんだ!!)

「先生…この変な人形…食べてしまった方がよろしいですか?」

「いや、それには及ばない。それより、すぐに私を連れて集落に向かうんだ!まだ君の仇のアラガミが生きて、集落で暴れまわっているんだよ。君の力があれば、そいつを今度こそ殺してやれる。さあ、早く!!」

「……パパと…ママの仇が…まだ…」

仇のアラガミがまだ生きている。その言葉が、アリサの表情を歪ませる。元々抱いていたアラガミへの憎しみが、大車の暗示によってさらに溢れ出している。しかもその両親の仇が、奴の洗脳によって本来のディアウス・ピターからユウたちにすり替わってしまっているままだ。

すぐにアリサは、右手を神機からダークダミースパークに持ち替え、左手に握ったボガールのスパークドールズをリードする。

 

【ダークライブ、ボガール!!】

 

アリサと大車は、二人同時にダークダミースパークが放つ邪悪な闇に覆い尽くされ、巨大化していく。やがてアリサはあの時と同じように、巨大な魔獣…ボガールへと姿を変えてしまった。

ボガールとなったアリサは、大車を乗せて集落へ向かう。

「く、待て!!」

その後を、直ちにタロウは追った。

 

 

 

集落内の戦いは熾烈を極めた。

全身から血を流しながらも、ボルグ・カムランを水辺までに追い詰めていたエリックがいた。集落の人たちの多くは、避難場所へと逃げ込むことに成功した。一部の者だけが、近くのダムの管制塔からエリックの戦いを見守っていた。

この時、彼らはある作戦を立てていた。エリックが近くの川にアラガミを追い落とす。そしてダムの放水を開始し、押し流すというものだ。コアを回収できず、単独では奴に止めを刺すのが難しいエリックの戦闘力を考えてのことだった。戦いの最中にこの作戦を立てて、そしてエリックに伝えるのも難しかった。

自分たち以上に、かなり疲れ果て、もはやこれ以上の戦闘が望めないほどに疲弊とダメージを蓄積し、膝を着いて一歩も動けなさそうだ。エリックよりもずっと少ないが、最初のころと比べるとボルグ・カムランにも傷が目立ち始めていた。

「…これで…最後の2発…!」

歯を食いしばり、エリックは新たな…残りの、たった二発のバレットを震える手で装填し、ボルグ・カムランに向ける。奴のように固い体表を持つアラガミに有効な、たった二つだけ残った破砕属性のバレットと、鋭くて発射速度が速い貫通属性のバレット。盾に防がれてしまうことがないよう、彼は狙いを定める。だが奴はこちらがバレットを撃つことを考えているはずだ。でなければちょうどいいタイミングで何度もバレットを、あの髑髏のような盾に防がれるわけがない。だがそれでも、必ず撃ち落とす。

静かに狙いを定め、発射タイミングを図る。対するボルグ・カムランの尾先の槍をいつでもエリックにぶつけてやれる態勢に入っている。その動きに細心の注意を払う。

1秒が長く、ここまで澄み渡るような感覚は初めてだ。さながら、アラガミが現れる前に広くされていた、一昔前の西部劇のガンマンのような気分だ。

さあ、来い…

僕が華麗に葬ってあげよう…そして、エリナへの土産話のネタになってもらおうか。

サングラスの奥で不敵に笑うエリックは、引き金を引いた。それと同時に、ボルグ・カムランの槍もまた、エリックを襲った。

 

 

 

ユウとリディアは走り続けた。必死になって集落に向かって駆け続けた。今の自分にはアラガミや怪獣を倒す力はない、アラガミの細胞を移植されただけの、ただの人間だ。

だけど、それでも守りたい。家族に守られ、ただ目の前で失うのを黙って見せられるだけなんて、もうごめんだ!

その思いがユウの足をとにかく速めさせた。

「ゆ、ユウさん…ちょっとペースを…」

ユウほど過度な運動に慣れていないためか、リディアが先に息切れをし始める。気持ち的に焦っている自分としては、聞きたくない弱音だった。だからほぼ無視してリディアを連れて集落へとノンストップで向かう。

ようやく集落の入口までたどり着いた時には、二人とも…特にリディアが酷くバテ果てていた。

「ぜぇ、ぜぇ…ゆ、ユウさ…ん…ペース、落とし…てっ…て、」

息が切れすぎてろくに文句も言いきれないリディアだが、休ませる余裕さえも現状は許さない。

集落はボルグ・カムランの暴れっぷりによって酷い有様となっていた。防壁外の廃都市とあまり変わらなく見えてしまうくらいに。

だがそれ以上に気になることがある。エリックはどこにいるんだ!?辺りを見渡して彼の姿を探し回ると、ちょうど激闘が終わろうとしていた時だった。

ちょうどエリックの神機から、バレットが一発放たれたところだった。向こうも攻撃態勢だったこともあってか、盾で防がれなかった。弾丸はそのまま、ボルグ・カムランの体に着弾し、その鎧の一部を砕いた。

「ガアアアアアア!!」

激痛で吠えるボルグ・カムラン。だが同時に放たれたボルグ・カムランの槍は…

 

 

 

 

 

エリックの体を貫いた。

 

 

 

 

 

 

彼のトレードマークでもあった、サングラスが宙を舞う。

「エリッ…」

ユウの喉から声が続かなかった。だが、すかさずエリックは…残されたもう一発のバレットを、お返しに撃ちかえした。

「終わりだ…!!」

貫通属性は言葉通り鋭く早い。スナイパー神機と比べると劣るだろうが、それでも自分を守る鎧が砕けている奴の体を貫くには十分だ。さきほど破砕属性のバレットを撃ち込んだ場所に向けて、エリックはそれを放った。

見事に、それはズレさえも起こすことなく狙い通りの場所に被弾、ボルグ・カムランの体に、エリックの腹と同じように穴が開いた。

「ガ、ガギギギギギイイイイ!!!」

もだえ苦しみ、後退りした果てに、ボルグ・カムランは後ろ脚を川岸から踏み外し、バランスを崩して川に落ちた。

「放水開始!」

このチャンスを見逃さない!管制塔にいた男性はすぐにダムの放水レバーを下ろし、ダムを開く。ダムの水は一気に放水し、今も降り続ける長雨によって溜め込まれた激流がダムの扉から流れ落ちる。

ボルグ・カムランもまた、その水によって流されていき、姿を消した。

「やった…よ…ソーマ……エリナ……エミール………ユウ、君」

勝利を悟り、笑みを浮かべたエリックだが、血反吐を一気に吐き飛ばしてダウンした。

「エリック!!」「エリックさん!!」

すぐにユウとリディアの二人が駆けつけた。顔からサングラスが外れ、素顔が露になっていた。

「やぁ、ユウ君、もう…大丈夫、なのかい…?」

エリックを腕の中に抱き起したユウは、声を出していなかった。喉の奥が詰まって、声が出なかった。

「そうか…良かった…」

だが、エリックにはユウがなんともないと言ったように認識していた。幻聴を聞くほどまでに酷いダメージだった。

「よかったって…そんなわけ、ないだろ!だって…」

今のエリックの変わり果てた姿に、ユウは思わず喚いた。

彼の体は、今の光線の余波で…腹が抉れていた。血がおびただしく流れ、止まる気配がない。今の攻撃で致命傷を負っていたのだ。

「ユウ君…華麗なゴッドイーターであろうとしてきた僕だが…このざま、だよ…ソーマに…追いつくことも……君に借りを返しきることも…できなかった……まだ、返すには足りなすぎるのに…」

「エリック、もう喋らないで!先生、すぐに手当てを!」

「………」

すぐにリディアに治療を求めるユウだが、悲しげに、首を横に振るリディア。医者としてはっきりわかっていた。もはや治療でどうこうできるレベルの傷ではないほど、出血が多すぎたのだ。ゴッドイーターの持つ、普通の人間よりも高い自己治癒力も追いつかないほどに。

虫の息のまま、エリックは話を続けた。

「…正直、怖くもあったんだ…今も、そうだ…戦いに出れば、いつ…アラガミ…に…食われても…おかしくない…父上も、何度も言っていたよ…臆病な癖に無理にその道を選ぶものじゃ…ないとね…だが…僕は…僕が…してきたことに…何の、後悔もない……

君ほどの…華麗で…誇るべき戦士の…そして、守るべき…人々の…盾に、なれたのだから……これ以上の…名誉は、ない…」

「もういいって!それ以上喋ったらだめだ!!」

これ以上エリックが死に向かって苦しむ姿は目も当てられなかった。見ているだけで、心が抉り取られるような痛みを覚える。

「…ユウ君、忘れないでくれ…君は…僕らの…人類の希望だ……リンドウ、さんも…きっと同じ、ことを…考えている…はず、だ…」

エリックは震える手をユウに伸ばす。その手を、ユウは握り返す。

「ソーマと、エリナを…頼む、よ………あの子には…新しい、服を……僕の、代わりに…

 

………………………………………………………………

 

………………………………………………」

 

それが…エリックの最期の言葉だった。満面の笑みを見せ、華麗なる若きゴッドイーターは……目覚めのない眠りについた。

「……!!!」

エリックの手が、ユウの手から滑り落ちると同時に、近くの泥の中に…宙に舞っていた彼のひび割れたサングラスが落ちた。

一度はその命を救い、共に戦ってきた仲間なのに…自分が無力だったばかりに、結局彼を死に向かわせる羽目になった。

ユウは、呆然としていた。ショックが大きすぎて、叫ぶことなくそのまま涙が雨と共に流れ落ちた。リディアも、泣いていた。治療する間さえも与えられず、ただ目の前で助けたいはずの人の死に目を黙ってみているしかできない悔しさと悲しみが、心を締め付けた。

そんな彼らのもとに、追い打ちをかけるように、巨大な影がのしかかる。

アリサがダークライブしたボガールと、彼女が乗せている大車だった。

ボガールは放水したままのダムの池に着地し、近くのユウたちを見下ろした。

「!大車、先生…」

巨大なアラガミのような生物の肩に大車がいる。その信じられない光景にリディアが目を見開く。

「ははははははは!!無様だな神薙君。結局君はまた、目の前で仲間を失った!!」

エリックの遺体を抱いたままのユウを、大車は大声で笑い飛ばした。

「しかしそこの彼も…君の上官だった雨宮リンドウも…つくづく救えない大馬鹿者だ!!いや…すべてのゴッドイーター共に言えることだな!!

君たちは人をアラガミの脅威から守るために戦っているようだが…人の命?そんなもの簡単に散ってしまうではないか!

事実こうして君の仲間は呆気なく死んだ! 雨宮リンドウも、先日の時点で今頃アラガミの餌となっているだろうな!

たとえ万が一守ることができても、君が守ってきた人間たちは君に賛辞を必ず贈ってくれるのか?無理だろう!寧ろ彼らが求める形での安寧を、君たちゴッドイーターもウルトラマンももたらすことができない!そしてそんな人間たちは何もしてないくせに、君たちを『無能』『役立たず』と罵って侮辱する!!現に、君の故郷…『女神の森』だったか?彼らはかつての君と同様、人類を守るわずかな手段であるフェンリルを日々憎み、罵っていたではないかね!?君の伝でフェンリルからようやく来た支援に対しても、彼らはフェンリルへの認識を改めようとしなかった!」

ユウはその言葉に耳を傾けているのかそうでないのかもわからない。ただエリックの安らかな眠り顔に目を落とし続けている。構わず大車は、ユウを嘲笑い続けた。

「全く理解に苦しむよ。自分の命を預けている相手に対して感謝よりも文句ばかりを口にするような、そんな人間を生かそうと考えていた…昔の自分さえもね。

今の私ならもっと賢い選択をするよ…ゴミのごとき無駄な命を、私のような優れた人間のために有効に研究材料として利用する、とね」

「ふざけないで!それが仮にも医者の言うこと!?」

リディアは我慢ならず激高した。どこまで腐っているのだ、この男は!!

「今はっきりわかりました…アリサちゃんが極東に赴任する直前にあなたが施した、『あの時の措置』もそうだった…あの時のあなたは、アリサちゃんを救いたかったわけじゃない!!単に自分の都合のいい研究材料として…自分の野望のために体よく利用しただけ!!」

リディアの罵りに対して、大車はとことん下卑た笑みを浮かべた。

「全く、何度言わせる。私にとって、今のこの星の人間などその程度の価値しかないんだよ。寧ろ、私のような人間に見初められるんだ。この上ない光栄なことじゃないかね…ぎゃははははははは!!!」

自ら醜く利己的な本性を積み隠さずに明かしていく大車。聞くもの全ての神経をとことん逆撫でする。

「…喋りすぎたな。さあ、アリサ。こいつらを殺してパパとママの仇を今度こそ討ち滅ぼすんだ」

「え…!?」

ボガールの頭をねちっこく撫で回すあの男の言葉に、リディアは耳を疑う。今、あの男はあの化け物をアリサと呼んだのか?まさか……認めたくない事実を知りそうな予感がするあまり、その顔は青く染まり始める。

こと切れたエリックを優しく地面に寝かし、ユウは俯いたまま立ち上がる。

「許さない…」

「あん?」

「リンドウさん、エリック、ここの集落や、防壁外の人々だけじゃ飽き足らず…アリサまで弄んで…………」

拳を強く握りしめ、顔を上げたその目からは、大粒の涙が流れ、雨に溶けて行った。その目に映るのは、現在の集落の変わり果ててしまった景色。あの男はこの惨状でさえも嗤っている。

「でも一つだけ礼を言いますよ、大車先生………おかげで…挫ける気が完全に失せた!」

ユウは、タロウから受け取ったギンガスパークを掲げ、内部から出現したギンガのスパークドールズを掴む。あの激戦から、ついにギンガも十分なエネルギーを取り戻したのだ。

「僕はこの先も、すべてを投げ出したくなるような絶望を体感するかもしれない…それでも、僕が少しでも動き出すことで、助けたいと思った人たちの未来を切り開けるのなら…二度と膝を着かない!

みんなの未来や夢を守るためなら、憎しみも悲しみも責任も、全部背負ってやる!」

ギンガスパークを手に取ったユウを見て、大車は顔をしかめる。やはりタロウがあれを持ってきたため、こちらに対する対抗手段を取り戻していた。こちらの思惑が崩れる可能性を奴が再び手にしたことに、思い通りにならない現実にイラつきを覚える。だがすかさず彼は、ユウに対して言い放つ。

「私は君を遠くから観察してもらったから知っているぞ?女神の森の人間は…君をフェンリルに寝返った裏切り者だと!そして君がウルトラマンであることは誰も知らない!そんなことをしたところで、君が守ってきた人間が感謝するとでも言うのか!?再び信じてくれるとでも言うのかね!?」

その言葉に、目覚める前に見たあの悪夢が…第1部隊の仲間たちや、亡くなった妹から罵られ、心を踏みにじられた光景と言葉が、スザキや防壁外の人々から言われた侮辱の言葉が脳裏をよぎる。

…だけど、そんなことはもうどうでもよい。

ユウは、エリックの安らかな顔を見下ろす。視線をリディア、そしてちょうど森の方から大車たちを追ってきたタロウに移す。さらに…ここにはいない行方不明のリンドウの顔が浮かぶ。

信じてくれている人がいるのだ。こんな役に立たなくて、無能で、まだ未熟さばかりが目立つ自分を。

「僕は感謝されたくて戦っているんじゃない。自分の、ありもしない偉大さに浸り、多くの人たちの命と未来を弄んだ貴様ごときと一緒にするな!!」

自分を指さし、今度はユウの口から飛んできた罵声に、大車はこめかみをピクつかせ、顔を紅潮させた。普段保っていた紳士的な態度などそこにはない。この男は野心に溢れた激情家なのだ。

「何も知らない糞ガキが…アリサ!!あの生意気な小僧どもをぶち殺せ!!」

『…は、い…』

自分とは親子ほどの年齢の差があるであろうユウの言葉は、礼儀知らずや生意気な子供の悪口のようなもの。だがそんな陳腐な言葉同然の台詞にも怒りを露わにするほど大車の器は小さかった。彼は、アリサに…ボガールに抹殺命令を下した。ユウに向かって歩き出すボガール。

ついに戦う意志を見せてきた敵に、ユウはギンガのスパークドールズを見つめた後、ボガールの中にいるであろうアリサに視線を移す。

同じ地球の人間でありながら、あまりに利己的で残虐なあの男に、今度こそ守ろうと思っていた仲間をまた失った。このままあの男の好きにさせれば、この集落の人たちは殺され、彼らが生きるために溜めてきたもの全てがあの男の野望に利用されるだろう。それ以前にアリサは一人の人間としての、女の子としての人生さえ潰されてしまう。

今度こそ…守らなければならない。この集落の人も、アリサも!!

「ギンガ…僕は今度こそ守りたい。あなたの力…お借りします!!」

眼前にギンガスパークを掲げ、左手に掴んでいたギンガの人形をリードした。

 

【ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!】

 

「ギンガーーーーーーー!!!」

 

光の柱がユウを中心に立ち上り、彼を光の超人の姿に変えた。

 

 

復活を遂げたウルトラマンギンガの、一人の少女を弄ぶ卑劣な男との戦いが始まった。

 


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