ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
「…そうか、リンドウ君たちが…報告、ご苦労だった」
支部長室にてヨハネスは、呼び出したツバキから今回の第1部隊の身に起きた報告を聞いた。
「現在、ヒバリに腕輪の反応を追わせています。現地には調査隊も派遣させ、第1部隊には一度帰還させ休ませています」
「すぐ捜索に向かわせなかったのは賢明な判断だ。現場には目撃情報の少ないヴァジュラの変異種が現れ、リンドウ君を含めた全員が苦戦を強いられた以上、正面から戦闘を行うのは危険が大きすぎる。
防衛班の隊員や他の支部から呼び寄せたゴッドイーターを、調査隊と同行させるのも厳しいだろう。これ以上負傷者および犠牲者が出ることはオペレーション・メテオライトへ悪影響も及ぼしかねない。ツバキ君、とにかく今は彼らを休ませてあげてくれ。何を言われてもね」
「はい」
ヨハネスの判断は間違いではない。
リンドウほどの戦士と、貴重な新型神機の使い手であるユウ。生死が確認されているわけではないとはいえ、この二人に続いてオペレーション・メテオライトに必要な人材が、ミイラ取りがミイラになるように減っていく可能性が大きかった。
「君にも憎まれ役を押し付けることになってすまないな。きっと君に、たくさんのゴッドイーターたちが、リンドウ君たちの捜索を願い出るはずだろう」
「いえ、これが私の仕事ですのでお気遣いなく。それに…我が愚弟のしぶとさは私がよく知っています」
「それを聞いて、少し安心したよ。
だが、少し気になることがある。今回の任務中、アリサ君から誘導装置と同じ、アラガミを誘引する信号が発せられていたと、君は言ったね?」
「サクヤの話によると、そのようです。どうやら大車医師に持つように言われていたと、リンドウらと合流する前にヘリの中で話していたそうです」
「大車君が…」
それを聞いて、すぐにヨハネスはデスクにある電話機を取り出し、医療班に連絡を入れた。あの男は前のロシア支部同様、ここの医療班に配属されたことになっている。
「こちら支部長のシックザールだ。すぐに大車医師を……いない?どこへ外出したかは?…そうか、聞いていないか、わかった。もし姿を見かけたら直接私に連絡を入れてくれ」
ヨハネスはそう言って、医療班との通信を切る。
「…どうやら、すでに逃げられていたようだ」
「ッ…」
ツバキはそれを聞いて、わずかに眉間にしわを寄せる。大車…どこか胡散臭い男だとは、廊下ですれ違った時に思うことがあったが、まさか『黒』だったとは。
「大車君には、別の捜索隊に極東支部内を探らせるとしよう。
それともう一つ気になることがある。今回の任務中、第1部隊はウルトラマンを目撃したかな?」
報告を聞く限り、相手はリンドウでさえ手こずる相当の力を持ったアラガミ。ならばウルトラマンが這い出てきてもおかしくないとヨハネスは読んでいた。
「ウルトラマンは、姿を見せませんでした。ですが…にわかに信じがたいことがあったようです」
「ほぅ?聞かせてくれないか?」
「…アラガミのような巨大生物に、襲われたとのことです」
「巨大生物?例の合成神獣か?」
それを聞いたヨハネスの目が鋭くなった。
「いえ、ヒバリによると、オラクル反応は検知されていなかったとこのことです。」
「アラガミではない、正体不明の未確認生物、ということかな?」
「信じられませんが、そうなるかと。奴の攻撃で、神薙ユウの行方が分からなくなったとのことです。また、撤退中にとエリック・デア=フォーゲルヴァイデの姿もなくなったと」
エリックがユウを助けに戻ったことは、やはり伝わってたようだ。
「…そうか。ご苦労だった。下がっていい」
「では…」
ツバキは敬礼をし、その後支部長室の扉から去って行く彼女をヨハネスは静かに見送った。
(…すまないな、ツバキ君。だが…)
この後は極東支部の他の上層部からも、行方不明になったリンドウらについての話があるだろう。そしてそれがオペレーション・メテオライトにどれほどの影響を与えるのか、自分もまた質問攻めに入られることが予想される。場合によっては中止を進言してくる奴もいるかもしれない。ゴッドイーターたちをこれ以上犠牲にできない、犠牲をさらに増やすつもりか、と自分に文句を言ってくる。だがヨハネスは、そういった奴に限って、ゴッドイーターでなく、自分の命の方を心配している臆病な輩だと確信していた。
まぁ、保身に身をやつしている奴よりも気にするべきは、リンドウとユウの行方だ。調査隊を派遣させているが、彼らはそもそもゴッドイーターでもないメンバーで構成されているのでアラガミとは戦えない。アラガミとの戦闘では幾度も疲弊しがちな、そして一人一人が貴重なゴッドイーターの負担を減らす目的があって運用されているのだ。あくまで璧外調査のみを目的としたので戦闘を行う必要はないのだ。
しかし、皆もすでに気づいてるだろう。
あの二人が行方不明になった最初の原因が…このヨハネスによるものである、ということを。
椅子に座ったヨハネスは両手の頬杖に顎を乗せ、電子モニターの方に目をやった。
ヨハネスは画面を見ながら、先ほどの任務中で、第1部隊メンバーたちの現在地が表示されていた電子マップを見る。そこには誰の名前も表示されていなかった。アラガミの名前も非表示になっている。だがヨハネスは、先ほどまでこのモニターにあった、『異能の反応』の存在があったことを知っていた。
(巨大生物…か……)
自分とはまた別の、それも悪意を持った者の暗躍がある。それをヨハネスは察した。
ツバキからの報告にあった、大車がアリサに渡したというケース。あれの中には、自分が渡したもの以外に、もう一つ『余計なもの』も入れていたようだ。
(神薙君の方は心配ないだろう。彼には『有能な先輩』がいるようだからな…だが、万が一のこともある)
頭の中に、自分が期待を寄せている新人、ユウの顔が浮かぶ。これまで合成神獣の戦闘の際、何度もその窮地から生還した奇跡と才能に恵まれた青年。人類にとっても、『自分の目的』のためにも、失うのは非常にまずい。
(…すぐに出撃できるよう、ヘリの準備を整備班に急がせるか)
ヨハネスは椅子から立ち上がり、支部長室を出る。
彼が去って行ったデスクの上には、赤い模様の小さな球体が飾られていた。ひとりでにそれは、赤いランプを灯し、ある電子画像を映し出す。そこには…
極東支部の屋上で彼とタロウが対話している姿と、
合成神獣が出現した任務において、ユウがウルトラマンギンガに変身しているちょうどその時の画像が表示されていた。
その後、ヨハネスの予想通り第1・第2部隊メンバーをはじめとしたゴッドイーターたちから、リンドウ捜索の申し出があった。だが支部長命令を貫いたツバキによってそれは封じられた。
捜索さえ許されなくなったことに、特に第1部隊メンバーであるサクヤ、コウタ、ソーマの三人が不満を露わにしていた。
「納得できねぇよ!なんで俺たちが捜索に向かわせてもらえないんだよ!こうしている間にも、ユウたちが危ない目に合ってるのに!!」
エントランスのエレベータ前、第1部隊はそこのソファーに座っていたが、コウタが机に握った拳を叩いて苛立ちを吐き出した。
「リンドウ…」
コウタだけじゃない。サクヤも今にも泣きそうな、切ない表情でソファに座ったまま俯いている。ソーマもフードに顔を隠してその表情を見せない。今の自分の顔を、誰にも見られたくないとでも言いたげに。
そんな彼らのもとに第3部隊の三人もアナグラのエントランスを訪れた。第2部隊と同じくアナグラ防衛班として扱われているが、本来の彼らはエイジス島の防衛である。今は勤務時間を過ぎたので戻ってきていたのだ。
「サクヤさん!リンドウさんが死んだってマジなのか!?」
「新型二人とエリックもいねぇな…何があった?」
第3部隊にもリンドウたちの失踪については伝わっていた。リンドウはそれだけ凄腕のゴッドイーターとして有名だった。だが、有名なのはもう一人いる。
シュンはソーマの方を睨み、彼の胸ぐらをつかんで彼に怒鳴りだした。
「てめえ…ソーマ!お前今まで超難易度の任務でも生き残ってきたんだろ!!なのになんでお前が戻ってリンドウさんたちが帰ってきてないんだ!」
激高するシュンに対し、ソーマは無言を貫く。黙っていることをいいことに、彼の怒りは行き場をソーマに定め続けた。
「やっぱてめえ噂通りだな。一緒にいるだけで仲間を殺す…死神だ!!」
「ッ……」
死神、その侮辱と罵倒の意志がはっきりとされた呼び名に、ソーマはフードの下でピクリと反応を示した。
「シュン、うるさいぞ。ちっとは落ち着け」
「これが落ち着いてられるかよ!逃げ足も速くて強いあのリンドウさんがだぞ!?あの人のおかげで、俺たち何度も助けてもらってたんだぞ!なのに、なんであの人がいなくなって、こんな死神が…!!」
ソーマを指さしながら、シュンはカレルに向けて癇癪を起し続ける。ちょうどその時、エレベーターの扉が開き、ハルオミとケイトの二人がその場を目の当たりにした。
「ね、ねぇハル。あれって…」
「ったく、リンドウさんがいないって聞いて来てみれば…さっそく揉め事かい」
見かねたハルオミがシュンを止めに行こうと向かった時だった。
「やめなさい!」
サクヤはソファから腰をバッと上げて怒鳴った。思わず怒鳴られてビクッと身を震わせたシュンだが、すぐに彼女に抗議を入れる。
「け、けどサクヤさん…!リンドウさんとあんたは確か…」
「それ以上は、ソーマを信じたリンドウやツバキさんへの侮辱になるわ!!そんなの…私が許さない!!」
正面から睨み返され、シュンは押し黙った。怒鳴って内に溜めた者を吐き出し、冷静さを取り戻したサクヤは目を背けだした。
「…ごめん、大声出して…今は、何も言わないでちょうだい…次の任務までには、持ち直してみせるから」
彼女はそう言い残し、ハルオミたちとは入れ替わるようにエレベーターに入って行った。彼女を乗せてエレベーターが下りていったところで、ジーナはシュンに向かって口を開いた。
「…一番傷ついてるのはサクヤの方よ。死んだとか、言うものじゃないわ」
「あ…」
口が過ぎたことをようやく自覚し、シュンは俯いた。
すると、サクヤに続くようにソーマもエレベーターの方へ向かいだした。
「ソーマ、どこへ行くんだ?」
「…てめえらには関係ねぇ」
コウタの問いに対しても、ソーマはただそう答えるだけで、戻ってきたエレベーターにのってそのままエントランスを後にした。
「ねえハル。死神って何のこと?」
「…さあてな」
去って行ったソーマを見送ったところで、ケイトはハルオミに、シュンのソーマに対する『死神』という単語が何のことかを尋ねだす。女性がらみのムーブメントに関することなら遠慮しないが、こういう悪意の混じった陰口じみたことを話すのは抵抗があったハルオミは適当に誤魔化しておくことにした。
「あの…」
ハルオミは自分のズボンを引っ張る感触を覚え、足元を見る。そこにいたのは、エリックの妹であるエリナだった。
「どうしたお嬢ちゃん?誰かいい男でも探しに来たかい?」
「ハル、そんな小さい子にまで手を出す気?」
「こらこら、俺はロリには手を出す気はないぞ?んで、どうしたんだ?」
背後から冗談半分で奇妙な疑惑を寄せてくるケイトに言い返し、身をかがめてエリナとの目線に合わせたハルオミがエリナの話に耳を傾ける。
「あの…兄を見ませんでしたか?エリックっていうんですけど…今日、第1部隊ってチームの人と一緒にお仕事に行ってるって…」
「あぁ…」
この子、エリックの妹か…とハルオミは納得する。兄がまだ任務から戻ってこないから、心配になってきていたのだろう。
「大丈夫だ。すぐ戻ってくるさ。ちょっと忙しいから」
ハルオミはエリナの頭を優しく撫でて安心させようと図る。
エリックにはリンドウも、そして以前自分たち夫妻と共に戦った新型のユウもいる。あの腕前は信じながら、強い可能性を感じていたが…。
(無事でいてくれよ…みんな)
こうして待っているだけの身の自分たちにできることは、祈ることだけだった。
部屋に戻ってから、サクヤは部屋の明かりをつけずにベッドの上で横になった。
リンドウがいないときなんて今に始まったことじゃない。でも、彼が次第に危険な任務を追うようになっていく内に、会う時間が少し減ることもあった。なんとなくわかった、リンドウが力をつけていく内に、彼を頼って上層部が危険な任務を彼に実行させていると。
それでもリンドウは、何度も死地から戻ってきて、自分に飄々とした態度で屈託のない笑みを見せてきた。でも、今回は…。
右腕でアイマスクのように目を多い、その下からは涙がわずかに流れ落ちた。
「リンドウ…」
ソーマも、自室の部屋の明かりをつけず、ターミナルの横の空いた壁の前に立ち、壁を乱暴に殴り付けた。
彼の部屋は、ひどく荒れていた。ターミナルは画面がひび割れ、他の箇所の壁には、銃弾の跡さえある。
「くそが…」
リンドウはいつも自分に言っていた。『死ぬな』『死にそうになったら逃げろ』『そんで隠れろ』『運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ』と。だが今回は…。
「自分で出した命令さえ守れないのか、あの野郎は…!!」
リンドウらの失踪、その一つの情報は、今の極東のゴッドイーターたちから希望を霞ませつつあった。
できることは、無事でいてほしいと願うことだけだった。
だが、その願いは打ち砕かれていた。
リンドウとピターが交戦していたビルの瓦礫の山の付近には…
血の池がたまっていて、その上はリンドウの着込んでいるコートの切れ端が、浮いていた。
第1部隊が、元はヴァジュラの生息圏だったエリアから離脱してしばらくの時間が経過した頃だった。
「ぬぬぅ…」
水たまりの中から、タロウは這い上がってきた。人形の姿にされたせいで、水たまりでさえ今の彼にとっては深い池のようだった。
彼は顔を上げて、雨が降り続く荒廃した大地を見渡す。
自分をここへ落としたボガール…ダークライブしたアリサの姿も、リンドウたち第1部隊のメンバーの姿も、エリック…そして彼と共にいたユウの姿も見当たらない。
「くそ、私がこんな姿だったばかりに…!!」
アラガミ化したジャック、闇のエージェント三人、強敵たちとの連戦で体力もエネルギーも浪費しすぎた。それ以前に、自分が本来の力を封じられたせいでこのような事態になってしまった。
…いや、悔やんでいる場合じゃない。こうしている間にも、ユウはどこかに…
その時、ザッ…と、自分以外にこの地を踏む何かの足音らしき音が聞こえた。アラガミかもしれない。タロウはとっさに水たまりの中に隠れ、水中から外を覗き見る。
「ここが、先ほどまで狙い目のアラガミがいた場所、か…」
そこに現れたのは闇のエージェントの異星人、バルキー星人バキ、ナックル星人グレイ、マグマ星人マグニスの三人だった。
「なによぉ、何もないじゃない」
グレイが拍子抜けしたのか、がっかりした様子を見せる。
「いやいや、さっきどす黒い闇の力を感じたぜぃ。アラガミの中でも珍しい個体だ。あのお方とは別に、DarkなPowerとHeartを持ったアラガミってのは他じゃ見ないからな」
「アラガミでありながら、闇の力を持った個体だと?例の…『ディアウス・ピター』とかいうアラガミか?」
「Of couse!Meも最初はUnbelievableだったがな。だがこのダミースパークが、奴にReactionしていたのさ」
そう言ってバキは、マグニスに対しどこからか取り出したダークダミースパークを取り出した。
「こいつはDirtyなHeartに強い反応を示す。あのピターには、単に獲物をEatingするだけじゃぁねェ……Eating timeに、獲物のFear to full Faceを拝むのが大好きなのさ」
つまり、ディアウス・ピターは人間の恐怖の顔を拝みながら食べることを喜びとしている…ということだ。
「…趣味の悪いアラガミね。できれば会いたくないタイプよ」
「バキ、もしやお前…『あれ』とピターを合成させる気か?」
(『あれ』?)
タロウは、バキの意図を読み取ってそれを尋ねたマグニスが口にした『あれ』という言葉に強く気を惹かれた。
「さすがはMr.マグニス!ご褒美のExcellentDanceをPresentするぜ!」
ご名答だったらしく、バキは手をパチンと鳴らし、彼の周りで怪しげな踊りを始める。その動きは、とにかく目障りでうっとおしいことこの上ない。
「いらん!そのウザッたくて下手糞なダンスをやめろ!!」
「HeyHey!下手糞とは心外だぜ!Meが徹夜して考えたSoulのこもったDanceだぞ!?」
「ああもう!さっさと話を進めなさいよ馬鹿コンビ!」
「グボ!!?」「Ouch!?」
話が脇に逸れ始めたことに、怒り爆発のグレイが揉め始めた二人の頭にゲンコツを叩きこんだ。
「ハァー、ハァー…バキ、さっさとその例のアラガミとやらの居所を探って頂戴」
妙に余計な体力を使って息を荒くするグレイは、ピターの現在地について詳細を求める。その迫力はまるで、男がらみの問題で機嫌を損ねた鬼女のようである。…グレイはオカマなのだが。Noなど許さんとばかりの迫力に圧されるバキはただ頷くだけだった。
「Y…Yes、Boss…ぴ、ピターの居場所は…」
改めて掲げたダミースパークに、ピターの位置を示させようとしたバキ。だが、タロウは同時に、三人の闇のエージェントたちとは違う何者かの気配を感じた。
「その必要はないぞ、星人共」
「「「!」」」
三人は同じ方角を見やる。そこには顔を覆い尽くすほどの大きなフードが付いた雨合羽を着た男が、顔を隠したまま三人に近づいて来ていた。
「ウルトラマンギンガなら、もうお前たちが追う必要はない。私があらかじめ作っておいた『愛しい人形』に始末をつけさせたよ。これを使ってな」
「何!?」
大車は、闇のエージェント三人に見せつけるように、右手にあるものを見せつける。
それはアリサが変身していた怪獣ボガールのスパークドールズだった。それを聞いたマグニスが驚愕し、バキが男に向けて抗議を入れる。
「Hey!まさか抜け駆けしやがったってのかぁ!?YouがあのRussiaGirlに持たせたボガールとピターをFusionさせた合成神獣でギンガをKillingするPlanだっただろう!?」
「いつまでたっても、貴様らが合成神獣を差し向けても、ウルトラマンギンガを殺せなかったからな。しかし予想通りだな、星人共。貴様らは過去にこの地球を侵略しに来た悪名高い種族だと聞いていたが…やはり期待外れという奴だな」
「あんた…!!…『地球人』ごときが、私たちと同じ主を持ったからっていい気にならないで」
グレイは屈辱と怒りを強く感じ、これ以上舐めた口をきけば殺すと言わんばかりに言葉をぶつける。だが男はグレイから放たれるプレッシャーなどものともせず、彼らを嘲笑った。
「だってそうだろう?貴様らは何度侵略に来てもウルトラマン共に返り討ちにされ、敗北の歴史を積み重ねてきた愚かな連中だからな!」
タロウは、グレイの言っていた言葉の中に、信じられない言葉があったことを聞き逃さなかった。
(今…ナックル星人はなんと言った…地球人のくせに、だと!?)
青ざめるタロウ。水中だから耳にグレイの声が響きにくいから、聞き違えたのだろうかと思いたくなる。だが自分たちウルトラマンは水中でも音を聞き分けられる。今のグレイの言葉が嘘でもなければ聞き違いでもなかったことを悟らされた。
闇のエージェントに、地球人がいるのだ、と!
ずっと地球と人類を守ってきたウルトラマンであるタロウ。だが、その守ってきた人類の中に、自分たちウルトラマンと明確な悪意を持って敵対する存在がいるなんて!
…いや…と、タロウは一呼吸置いて冷静さを保とうとした。ウルトラマンに敵意を持つ人間なんて、前例がないわけではないのだ。少なくとも、自分は兄弟の内の二人…特に愛弟子でもある弟から明確な悪意を向けられ、裏切られたことがある。それを語った時の彼の顔は、失望と怒りを強く感じさせられた。もし彼に地球人の仲間がいなければ、彼は二度と人間を信じらなかったかもしれない。それくらいの邪悪さを持った人物だった。
だとすると、あの男もそうなのだろう。しかしならばあの男は一体誰……?
(…もしや…)
タロウはつい先ほどの第1部隊の戦闘を見た自身の記憶を辿る。
先ほどの戦闘、氷のヴァジュラに続いて、ピターがビルの中に飛び込み、第1部隊は戦闘を開始。難民を逃すため、リンドウとアリサだけを残してビルの中でピターとの戦闘が続く。そしてその途中、アラガミ誘導信号がアリサの持つ黒いケースから放たれていることが判明し、それを破壊するためにユウがビルに入り込んだ途端…。ダミースパークでボガールにアリサがダークライブした。
タロウは確信した。
あの闇のエージェントの地球人は…!
(…大車、ダイゴ…!!)
タロウの確信は的を射た。フードを取ってその素顔を闇のエージェントに表したその男は。紛れもなくアリサの主治医、大車だったのだ。
「くははは…!残念だったな星人共!私こそが、あの方のご加護を得る崇高な存在となるのにふさわしいのだ!あの娘と同じようにな!!」
嘲笑い続ける大車に、マグニスは今すぐにでもサーベルでその首を跳ね飛ばしたくなる衝動に駆られる。だが、大車もまた闇のエージェント。何の対策もなしに、自分より優れた種族であるマグニスたちに近づくはずがない。それに気づいていたこともあり、マグニスは手を下すことはなかった。
「まだ奴が死んだとは限らん。ウルトラマンの悪運の強さは俺たちがよく知っている」
「ふん、なら奴を見つけて止めでも刺しに行くなり、ピターとの合成神獣作りに勤しめばいい。無駄だろうがな」
「そういうあんたも、せいぜい自分がスパイとして潜り込んだことバレない様にしなさい。特にあんたをロシアから引き連れてきたシックザールちゃんには…ね」
「わかっている。奴の目論みを探りきるまではしくじる気はないさ…」
タロウは水中に隠れながら、この異星人たちがまた一つ、ユウたちに対して卑劣な策謀を目論んでいることを聞き逃さなかった。それにしても、シックザール…ヨハネスもまた何かを考えているらしい。それについては闇のエージェントたちも知りたがっているようだ。だからアリサと共に大車を送り込んだのだろうか。
(ピターとの合成神獣に続き、地球人である大車が闇のエージェント…なんということだ…!一刻も早くユウを見つけ出して、この恐るべき事実を伝えねば…)
しかしこのまま逃げてもこいつらに見つかってしまう。水中に隠れながら、タロウは闇のエージェントたちが立ち去るまでの間、泥の中に自分の身を沈め続けた。
しばらく時間を置いたのち、闇のエージェントたちがどこかへ姿を消したところで、密かに彼はユウを探しに雨夜の中を移動し始めた。
同じように、雨の中で目を覚ました男がいた。
極東の華麗なるゴッドイーター。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。極東で療養中の愛する妹のために、名家の御曹司の身でありながら自らも極東支部のゴッドイーターに志願した男だ。
「げほ!げほっ…!」
泥水をかぶっていたせいか、彼は咳き込んだ。
実はエリックはあの後、ユウが川に流されていたところで、川の中から突き出ていた瓦礫に引っかかって流されずにすんでいたところを発見したのを見つけた。陸から何とか引き上げようと、ロープを川の近くの瓦礫に巻きつけ自らを固定しユウを引っ張り上げようとしたが、その瓦礫が頑丈じゃなかったせいでエリックも、ユウと共に流されてしまっていたのだ。
(我ながらなんとドジなことか…)
口の中まで土の味がして嫌な感じだ。名家の御曹司とはいえ、ゴッドイーターになって戦いに出るようになってからは土臭いのは慣れているが、ここまで泥臭いのは流石に堪える。薄着だから上半身は泥まみれだ。
口からとにかくこの土と砂の味と感触を取り払おうと、エリックは吐き飛ばし続ける。早く帰ってうがいしたいところだが、そんなことを言っている場合じゃない。
「ユウ君!どこだ!?」
そう、つい先ほど助けようと思っていたユウの姿が見当たらない。確か、あのアラガミのような怪物の起こした爆風で一緒に流されていたはずだ。
「アナグラに連絡を入れなければ…」
エリックはすぐに通信端末を手に取る。だが、通信機は電源スイッチを何度押しても画面に光がともらない。防水機能があるのだが、川に落ちた時に端子部分から水が入り込んでしまったので壊れてしまったのだ。
「やっぱりだめか。それにしても…」
エリックは川の上流を見上げる。どこまで流されてきただろうか。既に夜なのか、それとも雨雲のせいなのか、空が黒く染まっていて見えづらい。いや、見えていたとしても、この荒廃しきった地球の景色はほぼどこもかしこも同じような景色しか広がっていない。
一刻も早く見つけ出さなければ。エリックはすぐに駆け足で川の水を踏み、川を下りながらユウを探し始める。幸い自分の神機はすぐに見つかった。もし見つからなかったら、万が一アラガミに遭遇したときに対抗しきれないところだった。だがこの神機はオラクルの消費率の高いブラスト銃神機。無駄撃ちは避けなければ。
運よく、川を下っている間にアラガミと遭遇することはなかった。川を下り始めてしばらく時間が経ったところで、エリックはあるものを見つける。
ユウの新型神機だ。証拠に、ボガールの攻撃を防いだことで、銃・剣・盾すべてが壊れて跡形もなくなっている。もしかしたら近くにいるのかも!確信したエリックは、ユウの神機をそのまま置いて周囲を散策する。
「あれは…?」
その時、エリックは目を疑った。侵攻先の向こうから、何か白い光のようなものが輝いている。何かいるのだろうか。いつでも撃てる姿勢を保ち、神機を構えながら光に近づくエリック。そこに、探し求めていた男が倒れていた。
「ユウ君!!」
コバルトブルーのフェンリル士官兵服の上着に、目立つ金髪。近づいて顔を確認すると、間違いなくユウだった。岩陰に、うつ伏せで倒れている。だが、奇妙だった。なぜ彼の体が白く光っているのだ?
これも、彼がウルトラマンだからなのか?いや、そんなことを考えている場合じゃない。
すぐにエリックはユウを担ぐ。直接触れてしまうと、彼の神機に捕食されてしまうため、彼の神機はあらかじめ持っていたロープで縛りつける形で一緒に引っ張り上げた。
陸地まで引っ張り上げたところで、エリックはユウをあおむけに寝かせる。やはり意識がないのか、目を閉じている。でも呼吸していることから、まだ彼が生きている事がわかる。彼を包む白い光は少しずつ弱まり、やがて彼の胸元に向けて収縮し始め、そして消えた。
「なんだ、今の光は…」
なんとなく、その光の正体を探ろうと考え、エリックはユウの服のポケットを探る。
その正体はすぐに分かった。
イクスの陰謀に巻き込まれ、アラガミとして一度は自分たちに襲いかかった、ウルトラマンジャックのスパークドールズがユウの胸のポケットから確認された。
取り出したジャックのスパークドールズを見て、エリックは納得した。しかしタロウと違い、ジャックは言葉を話す気配を見せなかった。
「そうか、彼を守ろうとして…力をほとんど使いきったのか」
もしタロウのように、スパークドールズとなってなお意識があったのなら、すでに話しかけているはずだ。ボガールの攻撃や濁流からユウを守るのに精いっぱいだったに違いない。
なら、やはり自分がユウを助けなければならない。
彼を失えば、自分たち人類は、アラガミだけじゃない。あのわけのわからない怪人共に蹂躙され滅ぼされてしまう。ユウはそれを回避できる可能性を秘めた救世主…ウルトラマンなのだ。
エリックはユウを担ぎ、彼の神機も引っ張りながら、少しでもここから安全と思える場所まで移動し始めた。
「ユウ君、安心したまえ…今度はこの華麗なるゴッドイーターである僕が、君を守って見せよう…!!」
絶望の中だからこそ、人は希望を抱いて前に進む。今のエリックは、誰よりも強く華麗にあろうとする戦士の姿をしていた。
しかし、ここからどこへ向かえばいいだろう。アナグラからここまでかなりの距離があり、しかも連絡をつけられない。雨はまだ降り続く。ひたすら冷たい雫を浴びせ、二人の体を冷やしていく。特に薄着であるエリックにこの天候は辛い。いつまでもつかはわからないが。できればどこかで休める場所さえあればいいのだが。それも人が住んでいそうな…。
「…え?」
その時だった。エリックは、目を丸くした。
目の前の瓦礫の傍らから、一人の女の子が姿を現した。だがその子は、あまり普通には見えなかった。
なぜならその少女は、どこかで拾ったのか、フェンリルのマークが刻まれたボロボロのマントを身にまとっているだけだった。だがそれ以上に、
短い白い髪と、雪のように真っ白な肌を持っていたのだから。
○NORN DATA BASE
・大車ダイゴ
年齢50代で、ヨハネスやサカキより年上。
ヨハネスによってアリサと共に極東支部へと赴任した医者。新型神機に関する知識を持っており、アリサがロシア支部へ入局した当初から彼女の主治医を請け負っている。彼女からは強い信頼を得ているが…
その実態はどす黒い野心と欲望に満ちた、『吐き気を催す邪悪』。
原作ではアリサに、親の仇がリンドウだと誤認させる暗示を施し、リンドウを贖罪の街の教会の中に閉じ込めさせる。アニメ版でも舞台こそ異なるが同じ行いを実行し、アリサの過去(『アリサ・イン・アンダーワールド』)や無印とBURST編の中間の時期を書いた小説(『ノッキンオンヘブンズドア』)ではさらにその描写が露わになっている。
本作品では、加えて変態要素を強く備えており、アリサを都合のいい人形として抱えている。ヨハネスに従っておきながら、その実は闇のエージェントを真に自分が身を置いている勢力としている。そのため彼に従うふりをして、アリサにリンドウだけでなく
、ウルトラマンであるユウさえも抹殺しようとした。
現在、ヨハネスに裏切りがバレることを察し、アリサを連れて先に逃走した。