ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
その悔しさをバネに完成させました。
でも申し訳ないことに今回も変身はなしorz
アラガミ防壁で戦闘中だった防衛班メンバーたちだが、頭上から襲い掛かってくる超巨大のアラガミは、暴れるのを止める気配がなかった。
「くそ、なんなんだこいつは…ぐあああ!!」
「ブレンダン!」
ブレンダンがたった今、高速移動しながら降りてきた巨大アラガミの低空飛行の衝撃で吹き飛んだ。
「にゃろう!!ってうわ!!」
シュンが意地になって神機を構え、敵の攻撃に備えたものの、彼の神機は遠距離タイプではない。通常の飛行型アラガミならまだしも、あのように何十メートルも空高く飛んでしまっている、まして大型アラガミよりも遥かに巨大な敵をしとめることなど無理だった。今、かろうじて装甲を展開したが、装甲に直撃した際の衝撃が大きすぎて、シュンは吹っ飛んで防壁に背中を打ちつけた。
「ちぃ…偵察班め、一体何をしていやがった!」
カレルは少しでも仲間たちに近づけまいと、再び空高く飛行してこちらに近づく機会をうかがっているアラガミに連射し、牽制する。
「カノン、ジーナ、カレル!一つに固まるな!なるべく互いに遠い地点まで散会しろ!シュンとブレンダンは、それぞれカレルとカノンに着いて装甲を展開!俺はジーナに着く!」
防衛班リーダーでもあるタツミは直ちに指示を出す。銃形態の神機は装甲を搭載することができない。そして接近戦型の神機は空を飛ぶ敵に弱い。だから遠距離攻撃ができるカレルたち銃形態の神機使いの傍に、自分も含めた接近戦型神機使いを置いて、万が一攻撃が近づいたら最低限避け、避けきれない場合は装甲を展開することで銃使いを守るというものだった。
「この、灰になっちゃえ!!」
「撃ち抜く…!」
ブレンダンとタツミの二人に守られている、カノンとジーナもアラガミに向けて射撃する。
鋭い閃光と、暴発する弾丸が敵に炸裂する。しかし、敵にダメージこそ与えているものの、倒すまでにいたらなかった。
「くそ…やっぱし図体がでかい分強くもなっているみたいだな…あの『ザイゴード』もどき」
タツミが、空を飛ぶアラガミに対して悪態をつく。空を見上げ、そのアラガミの姿を凝視する。
ザイゴードとは、真っ白な女性の体が、一つ目のついた黒い卵の殻のようなものに呑み込まれているような姿をした小型アラガミの名前だ。この個体もオウガテイル同様強い種ではなく、全ての属性にも、全ての種類の刀身による攻撃に対しても耐性が大きくない。
しかし、あの巨大なアラガミはそうではない。通常のザイゴードとはまるで異なっていた。
卵の殻のような黒い部分が竜の頭のような形を取っている。女体の部分は、両手は黒い竜の両腕に、下半身も腹の辺りから途切れるような形で黒い竜の体に取り込まれているような姿をしていた。そして背中には、半透明の翼を持っている。
『み、みなさん!それ以上は危険です!早く逃げて!!』
すでにこの時点で、防衛班は詰まれていた。体力・精神も限界に近づきつつあった。勝ち目が無いことは一目瞭然。
しかし、タツミたちには逃げられない理由がある。ここで逃げてしまったら、いずれあのアラガミが防壁を破り、防壁内の人たちを食らい尽くすかもしれないのだ。自分たちもここから防壁の中に逃げたところで…。
ザイゴードの特徴を持つその竜はタツミたちの目の前に山のように積まれたコンテナの上に降りてきた。奴の頭の単眼が血走った目でこちらを見下ろしている。
「グルオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
その雄叫びはヴァジュラの非ではなかった。防衛班メンバーたちを戦慄させ、凍りつかせた。
巨大アラガミは荒れ狂うように腕を振るうと、その豪腕でアラガミ防壁を攻撃する。凄まじい力だった。アラガミ防壁の一部が崩れ、ひび割れてしまい、崩れた箇所から瓦礫がなだれ落ちた。
「しまった!」
アラガミ防壁に傷が入る。たったそれだけでも、防壁内の人たちがアラガミの格好の餌食にされやすくなる。
アラガミ防壁は、人間に好き嫌いがあるように、アラガミの食するものにあわせ、彼らが食べる気を起こさせないようにするための偏食因子を組み込ませている。だから防壁内の人たちは中に入りさえすれば、すぐに襲われたりすることが無い。しかしこの防壁は決して無敵なものではない。ほぼ数日に一回ごとに、この防壁は破られているのだ。それに偏食因子も防壁を構成する『オラクルリソース』も無償ではない。修理するにせよ修繕費用もかかり、ハイヴ内の人々全員の悩みの種となっている。
その防壁が、また破られたのだ。破壊されたのは防壁の頂上。それに続いて、縦一本に描くように防壁が破壊されてしまった。すでに近隣の住民が避難していたことが不幸中の幸い。しかし、これ以上防壁を破られると、せっかく避難した人たちにも危害が間違いなく及ぶ事態が起こる。
「や、やめろおおおおお!!」
カノンが声を振り絞りながら、ブラスト弾を放った。その一発はアラガミの顔に被弾、アラガミの顔は血塗れた赤黒い表皮がむき出しの状態となった。
そのアラガミは邪魔をしてきたカノンを見ると、怒りを孕んだような唸り声を上げながらその大きな口を広げて食らいかかった。
「ひえ…」
カノンはさっきまでの豹変ぶりと異なり、本来のおとなしい状態にあった。恐怖で身動きさえもとることができずにいる。
「カノン!!」
タツミたちが声を荒げていたが、もう遅いし、間に合ったところで自分たちも結局一緒に食われてしまうだけだ。思わずタツミたちは目を伏せる…が、次の瞬間、不思議なことが起きた。
カノンに食らうほんのわずか数センチのところで、アラガミはカノンに近づかなくなり、少しずつ離れていくではないか。
「ふぇ…?」
間の抜けた声を漏らし、呆然とするカノン。いや、近づかなくなった…というのは少しおかしいかもしれない。全員が見上げた時、アラガミはカノンから離れているというよりも、見えない何かによって無理やり押し戻されているように見える。
しばらく見えない何かとつばぜり合いを続けていたアラガミだが、たまらなくなってその場から空に飛び上がり、逃亡した。
「…こちらタツミ。ヒバリちゃん、アラガミが逃げて行ったよ」
『こちらでも確認できました。すぐに救護班を派遣しますね…ふぅ』
通信先のヒバリの声を聞いて、アナグラにいる彼女も酷く安心していることが伺えた。
「た、助かった~…やべ、マジで死ぬかと思ったぜ」
「全くだな。くそ…偵察班め、次に会ったらみっちり問いたださないとな」
「今日も死ななかったわね…」
地面の上に腰を下ろし、緊張の糸が解けて息を荒げたシュン。カレルは帰ってきた後で今回の敵の情報をよこさなかった偵察班に一言文句を言うことを決めていた。ジーナは遠い目で、敵のアラガミが飛び去った空を眺めていた。
「しかし妙だな。あのアラガミ、その気になれば俺たち全員を食うことができたはずだが…」
ふと、ブレンダンが当然ながら先ほどのアラガミの行動に疑問を抱く。
「…今は考えてたって仕方ないさ。今はとにかく、生き残れたことを喜ぼうぜ」
タツミがブレンダンに軽く言う。今は肩の力を落として休まないと、次の任務に望めない。深く考えることが癖になっているブレンダンも、今はタツミの言うとおり休むことを優先し、救護班が来るまでその場に待機した。
ふと、ブレンダンは視線を感じた。挙動不審な彼の動きにタツミが首を傾げる。
「どしたブレ公?」
「いや、今…何かに見られているような気がしたが…すまん、気のせいだったよ」
ブレンダンたちは気づいていなかった。自分たちを、崩れた建物の影から見ていた、二本角を持つ、金色の瞳の主に。
極東。かつて日本呼ばれたその地には、アラガミたちが特にわんさかいる。毎日が危険な状況下にある中、その地で最も安全といえるのは、やはりフェンリル極東支部、第8ハイヴ。しかし、受け入れることが可能な人は無限ではない。人口が100分の1まで差し引かれてしまったとしても、壁の中の世界は、そのごく一部の人間を受け入れるには限界がありすぎた。
外の世界が常に脅威そのもの。そんな世界で、もし空席の安全地帯があればそこに手を伸ばすのが当たり前。その席をずっと独占したくなる気持ちも当然のことだ。しかし、その席を手に入れられなかった人たちからすれば、妬みと恨みの対象。
家族を、妹を失ってからのユウは、極東支部からやむをえなかったこともあったとはいえ、極東支部の保護を拒否された人々の声を聞き続けてきた。
なぜ、あいつらばかりが得をする?
ゴッドイーターばかり優遇しやがって!
どうして自分たちが追い出されないといけない?
自分たちの箱庭ばかりを守りやがって。
どうせ自分たちさえ助かれば他はどうなっていいんだろ?
上の連中は胡坐をかくばかりで、傍観しているに違いない。
自分たちばかりが迫害され、あいつらだけが惰眠をむさぼるほどの余裕がある。それが許せない。そのフェンリルとそれに連なる者たちに対する呪詛の言葉を聞き続けていた果てに、ユウも家族を失った悲しみから立ち上がるために、糧とした。
フェンリルとそれに連なる者たちへの怒りを。
しかし…。
「すぐに手当てするから!」
ルミコの叫び声が聞こえる。
何も…できなかった。
ユウは、アナグラの研究区画のメディカルルーム前の廊下にて、搬送されてきた防衛班の傷ついた姿を見て呆然と立ち尽くしていた。
僕は結局何をしようとしていた?何かで来たか?今回は何かを成すことができる力が…鎮魂の廃寺で手に入れたはずの巨人の力が使えなかった。どうして…なんで!?
これじゃ…『あの時』と何も変わらないじゃないか!
脳裏に、妹がアラガミによって倒壊してゆく家の中に飲み込まれたときの光景が蘇り、ユウは悔しさともどかしさで、アナグラの入り口付近の壁の頭を打ち付けた。
(ちくしょう…!!)
何もできない。何も成せない。なんとももどかしいことか。本当ならあの時、自分は巨人に変身して、防壁に出現したアラガミを倒すことができたかもしれなかった。けど、変身できなかった。そして防壁付近の人たちがそこを守っていた防衛班所属のゴッドイーターたち同様負傷、または犠牲になった。
(僕は、ゴッドイーター以上の力を手に入れたんじゃなかったのか!?なのに、どうしてあの時僕は変身できなかった!そうすれば、僕は自分の手でアラガミから人々を守ることもできたし、女神の森に帰ることだってできたかもしれないのに!!)
ガン!と壁を殴り、苛立ちを吐き出した。どうして、現実とはこうも人間に対して容赦の無いものを見せる?僕たちはただ、平穏に生きていたいだけなのに、どうしてこんなことばかりが起こる?
なんでだよ…なんで…なんで…!!
「ねえガム要る?」
自分のことだろうか?ユウはその声を聞いて振り向くと、どこかで見た顔だった。赤い髪に黄色のニット棒とマフラーをつけた少年だ。確かリンドウの姉、ツバキと一緒にいた少年。彼はポケットからガムの外箱を取り出したが、中は空っぽだった。
「あ、ごめん…!さっき食った奴で最後だったみたい」
謝りながら、少年は頭を掻いた。なんだこいつは。何か用でもあるのかと思っていると、少年は再びユウを見返してあることを尋ねた。
「あんた、もしかして新人の人?」
「え?」
「リンドウさんが言ってたんだ。もしかしたら大物になれるかもしれない奴がくるって。もしかしたらあんたのことじゃないかって」
人のことを過大評価されても困る、と心の中でユウはぼやいた。
「俺、藤木コウタ。もしあんたがゴッドイーターになるとしたら、俺がほんのちょこっと先輩って事で、よろしく」
少年、コウタはニカッと笑う。まるで子供のように見える。最も見るからに年下なのだが。
「そういやさ、あんた…リンドウさんたちが鎮魂の廃寺で保護してたんだよな」
「え?あ…うん」
話を切り替えてきたコウタに、少し戸惑いながらユウは頷いた。
「じゃあ、やっぱ見たのか?廃寺に現れてアラガミを倒したって言う、銀色の巨人」
「…!」
もうすでに、ユウがあの時変身した巨人の話が広がりつつあったらしい。
「いいな~俺も見たかったんだよな。まだ風の噂程度でほとんどのみんなが半信半疑なんだけどさ」
しかしコウタの話だと、まだ信憑性の無い都市伝説程度でしかなかったようだ。一時は自分があの巨人に変身していたことがばれたのかと思ってヒヤッとした。フェンリルは信用なら無い。もし自分があの時の巨人だと知れ渡ったら、モルモットにされるのではないのかと危惧したが、今のところその心配は無かったようだ。
しかし、不思議だ。
「半信半疑なのに、どうしているって思うの?」
ユウがコウタに問う。巨人がまだ都市伝説程度の存在なら、つまりその巨人がいたという証拠写真程度の証拠品がないのだろう。ただリンドウたちが目視し、口頭で伝えただけ。
「いや、俺もまだ信じ切れているわけじゃないって思うけどさ、信じられる気がするんだ。ここに来るちょっと前に、その巨人に似たヒーロー小説があったのを、気に入りの漫画を買いに行った時に見つけてさ。
その小説って、地球がアラガミに支配される前のことを記述してたんだってさ。
そのとき、フェンリルみたいな当時の防衛組織だけじゃない。『ウルトラマン』っていう宇宙人たちが現れて、一緒に戦ってくれてたって話なんだ」
「ウルトラ…マン…?」
そんな名前が、あったのか?
「さっき言ってた巨人の名前。
けどアラガミって色んな物食うだろ?そのせいで昔のデータがほとんどなくなっちゃってたけど、その一握りの情報の中にある、夢みたいな奴が実在したって話を聞いたら、やっぱ信じたくなるってもんじゃん?」
「……」
信じたくなる…か。
僕も信じたかった。あの巨人の力さえあれば、僕はもうゴッドイーターに頼ることなく誰かを守り、誰も失うことが無い。そして自由になれるのだとばかり思っていたのに…。
ユウの表情は沈み始める。コウタはその原因が、近くにあるメディカルルームにあることを察した。
「俺さっき違う地区でリンドウさんと任務に当たってたんだ。あの時はゴッドイーターになれて浮かれてたんだけど、少しはわかった気がするよ。この仕事が、すごく過酷なものなんだって…。」
先輩たちが傷ついた姿を見て、ゴッドイーターに成り立てのコウタも、これから彼らのように傷だらけになっていくことを察した。いや、傷だらけになるだけまだましな方だった。リンドウたちによると、たとえ新人でもゴッドイーターたちは早死にしてしまうことがある。
「嫌なもんだな、傷つくって」
「嫌なら断っとけば良かったんじゃないか…」
ユウがポツリと言う。しかしコウタは首を横に振った。
「確かに自分が傷つくのは怖くていやだけどさ、俺にはもっといやなことがある。だからゴッドイーターになることを選んだんだ」
「どうして?」
「外部居住区に家族がいるんだよ。母さんと妹の二人」
それを聞いて、ユウはコウタの顔を見上げた。ガムの話をした時は、苦労知らずの子供みたいな顔をしていたというのに、今はそんなわずかなおチャラけ具合もなかった。
「俺はずっと考えてる。どうしたらアラガミの脅威から母さんと妹を守れるのかなって。そうしたら、やっぱゴッドイーターになることしかぱっと浮かばなかった。二人とも乗り気じゃなかったけど、俺が絶対になって守る、その代わり必ず帰るって約束したら、折れてくれたんだ。
一度自分で決めたことなんだ。今更後になんか退けるかよ。この腕輪だって外れないし」
コウタはそういって、ゴッドイーターの証でもある腕輪を見せる。この腕輪は一生外すことができないのだ。コウタは見たところ年下に見える。この年齢で責任感に溢れた言葉を言える奴はそうはいない。
「あそこで運ばれた、傷つく人たちがいなくなるように、母さんとノゾミが傷つかないように…俺もなりたいんだ。
みんなにとっての『ウルトラマン』に。
まあ、まだ夢とかそんなもんでしかないってみんな言ってるけど、だから俺ががんばってそれっぽくなってやらないとな!」
「おう、いい心がけじゃないか新入り」
エレベーターの方から声が聞こえた。そこを振り向くと、リンドウが歩いてきた。
「リンドウさん!」
「けど、無理はすんなよ。死んだら元も子もないんだからな…ってお、お前さんもいたのか」
ユウがそこに立っていることに気がつき、よう、と軽く手を上げて見せたが、ユウはリンドウの方を一度ちらと見ただけですぐに目を背けた。
リンドウはユウに近づく。
「ボウズ。ちっとばかしおっさんからの説教だ」
少しその表情は険しいが、口調はいつもの調子をどこか保っている。行き成り思わぬ説教を食らうという状況に一瞬戸惑いを覚えたが、すかさずリンドウは続けた。
「避難誘導の放送が、さっきの戦闘中もアナグラ中に流れていた。けど、お前は屋上にいたんだよな」
ユウは黙ったまま頷いた。
「あそこも戦闘中の非戦闘員の立ち入りは禁止されてんだ。空を飛ぶアラガミがここまでなだれ込んでくる可能性だってある。まして今回のアラガミは、通常の飛行型アラガミよりも遥かに巨大な個体だったそうだ。その意味…わかるな?」
「……」
下手をしたら、自分もあの時アラガミ防壁に出現したアラガミに食われていたかもしれない…ということだ。言わずともわかる。
「お前さんが屋上で何をしようとしてたのかは知らねえが、次からは気をつけろよ。死んだ奴の骨を拾ったって、もう助けてやれないんだからな」
ユウは黙ったままだった。リンドウはその表情から見え隠れしているユウの感情を察した。
「…悔しいのか?」
リンドウからの問いにユウは何も答えない。
「俺は無理にお前さんがゴッドイーターになることを強要する気はねえ。俺から言えるのは、『自分が後悔しない道を選べ』ってことだけだ。
…んじゃ、これでおっさんからの説教は終わりだ」
リンドウはユウの方を軽く叩いて元気を出すように促した。
すると、メディカルルームから数人ほど姿を見せた。防衛班のメンバーたちだ。
「リンドウさん、見舞いに来てくれたんすか?」
タツミが笑みをこぼす。
「おう、お前ら全員無事だった見たいだな。怪我はどうよ?」
リンドウは怪我の具合を尋ねた。
「いえ、全員大きな怪我はありません。数日休むことになるのが、正直…」
ブレンダンが悔しげに言う。自分が戦えないことで、その分の犠牲が出てしまうのではないかと危惧しているのが見受けられた。
「そう思うなら、今はゆっくり休んで、俺たちに任せとけって。な、コウタ?」
「はい、任せてください!」
リンドウから太鼓判を押され、コウタは調子よく胸を叩いた。
「どーだかな…そいつ最近入ってきたばっかの新人じゃねえか。役に立つどころか、リンドウさんの足引っ張るのがオチじゃねえの?」
しかし、ここでシュンが水を差すように口を挟んできた。
「何ぃ…」
あからさまに自分を、新人というだけで小馬鹿にしてきたシュンに、コウタは表情を歪ませたが、自分の頭にポンと置いてきたリンドウが場の空気を和らげるつもりか、あることを暴露する。
「シュン、そういうお前だって最初の頃は足が震えまくりだったろ?俺ぁ覚えてるぜ。最近だってやたらゲンさんに生意気にも『負け犬』とか言う割りに、撃破数稼ぎのために無茶して任務の失敗数も数知れず…って、姉上が頭を悩ませてたぞ」
「あぁ!!リンドウさん、新人の前で何言ってんすか!」
「ふーん…そうだったんすか~…」
「ああほら!リンドウさんが余計なこというから新人の奴が!」
コウタからの冷たく細い視線に当てられ、シュンはコウタを指差しながらリンドウに怒鳴り返した。
「ふふ、やられたわね」
「まぁ、シュンは無駄に強がりだからな」
「てめえら少しはフォローしろよ…」
同じ第3部隊のジーナとカレルからもたしなめられ、シュンは先輩風を吹かせることもできなくなり肩を落とした。
「いいか、俺たちゴッドイーターは戦場でかっこつけたり手柄を立てることが仕事じゃない。最優先は…『生き残る』ことだ。とにかく自分が生き延びることを考えろ。そうすりゃ活躍の場だってもっと増えるし、この先にできるかもしれない仲間や家族、恋人…さらにもっと多くの人たちを助ける事だってできる。
自分なんかがのうのうと生き延びていることを気に病むことはないし、目先の手柄のために喉から手を出すこともねえんだ。いいな?」
「…へーい」
特に自分に対して言われていると思ったシュンが返事し、他の面々も了解、と軽く敬礼した。
「そういえばリンドウさん、そこにいらっしゃるもう一人の人はどなたでしょうか?」
ふと、カノンがユウを見てリンドウに尋ねる。見ない顔であることに気づいていたらしく、他の面々も興味深そうにユウを見た。
「おう、こいつは…っておい!」
視線に耐えがたかったのか、ユウは最後まで何も言わずにリンドウたちから背を向け、エレベーターの方に歩き出していった。リンドウの言葉だけじゃない。それ以外にも、突き刺さるものがある。
医務室に運ばれていった怪我人たち。もしかしたら、別の場所にも怪我人が多数運ばれ、中には死人も出ていることだろう。そんな光景を見て、頑張って理想に近づこうとするコウタの姿と、手柄や報酬よりも生き延びることを説くリンドウの姿勢。
それに引き換え力を持っておきながら何もできなかった自分に、いたたまれなくなってその場から離れていった。
「どうかしたのか?あいつ…」
ブレンダンが首をかしげながら呟いた。
「あぁ…ちょっとな」
リンドウは参ったな…と頭を掻く。今回新たに入ってくるかもしれない新型神機使いの候補者。だが個人的事情についてのクセがある。元はアラガミ防壁外、つまりフェンリルからの保護を受けることができない地にいた人間。フェンリルに対する反発心も強い。これは仲間になるにしても手を焼かされそうだと思わされた。
どうして…。
ユウは警戒態勢が解かれたこともあって開放された屋上のテラスに来ていた。すでに何人か、第8ハイヴ内の避難民の姿が見える。まだ家に戻れないからやむなくここに集まっているのだろう。自分たちの家を失って嘆いている人、そんな人を励まそうと肩を寄せる人の姿がその中にある。
あの時地面に叩きつけていたあの神秘のアイテムは、ない。誰かに拾われていたのかもしれない。
けど、もうどうでもよかった。あんな土壇場になって使えなくなるような力なんて、肝心な時に役に立てない力なんて欲しくなかった。
きっとここに集まっている人たちはゴッドイーターたちが必死になって助け出した人たち。自分だって、あの巨人の力さえあれば、彼ら以上に多くの人たちを傷つけることなくアラガミを倒せたかもしれない。防壁を破られ、ここにいる人たちが元通り、すぐに家に戻る事だってできたかもしれないのに、どうして自分はダメだった?
しばらくユウは、近くのベンチに座り続けた。いつしか時間が経つにつれ、景色は夕日が差し、この場にいた人たちも夕を除いて去っていく。
この先、自分はどうすればいいのだろう?
以前ここの支部長に言われたとおり、ゴッドイーターになるか、それとも第8ハイヴへの不法侵入罪で牢屋行きになるか。
ゴッドイーターになんかなりたいとは、思わなかった。それはすなわちフェンリルの保護下に入ること。アラガミと果てしなく過酷さばかりが伴う戦いを続けること。そして、フェンリルの保護を得られなかった『女神の森』の人たちを裏切るということ。
自分がゴッドイーターになって、みすみす帰ったら罵倒されるに決まってる。それに自分でも、これまで自分たち防壁外の人間を拒否してきたフェンリルの力に頼らず、自分たちの力だけで必死に稼ぎながら生き延びてきたのに、今更フェンリルの世話になりたくなんかなかった。
それでも、僕だって…ゴッドイーターの人たちみたいに、誰かを守りたかったのに…。
そうすれば、妹を失ったときの自分みたいな思いをすることもなかったのに…。
ただ僕は、今の家でもある『女神の森』に帰りたかっただけなのに…。
「なぜ、君があの巨人に変身できなかったのかわかるか?」
「!!」
ユウは突然声をかけられ、顔を上げ周囲を見る。しかし、人の姿がない。子供さえも一人としていない。けど今の声は、確かに男の、どこか貫禄さえも感じられる声だった。
辺りをもう一度見回しても姿はない。
「誰なんだ!僕に話しかけているのは!?」
「ここだ」
今の声は、すぐ近く!?咄嗟に、ユウは己の勘に従い、視線を声の聞こえた方…自分が座っていたベンチの傍らに設置されたテーブルへと泳がせた。しかし、やはり人間の姿はなかった。代わりにあったのは…。
「人…形…?」
二本の角を持つ赤い、何かの偶像ヒーローのような人形だった。
「私の名は『タロウ』。ウルトラマンタロウだ」
「ウルトラマンッ…!っていうか喋った…!?」
コウタが確かその名前を言っていたのを思い出す一方で、人形があたかも喋ったのかと思った。
「って、誰かのいたずらか…」
が、直後に一瞬騙された自分をため息交じりに自嘲し人形を掴んで、どこかに小型スピーカーでも仕込まれているのだろうかと手の中に収めて確認してみる。しかしその直後、奇怪な現象が起きる。わずかに人形が光り出したと思ったら、ユウの手の中から人形が姿を消してしまったのだ。
「!?」
思わず身構えてしまった。しかも夕日が沈むに連れて星が見え始めるほど暗くなり始めてしまったために、辺りは暗くなっている。それにしても、あの人形はなんだ?さっきわずかに確認したくらいだが、あの人形には何のギミックもなかった。だがそれにもかかわらず、人形は自分の手の中から消えた。だとすると、あの声も人形そのものが発したものと言う信憑性が高まる。
強い危機感と警戒心を覚えさせられる。
「そう警戒しないでくれ。私はアラガミではない」
再び、テーブルの上に立つ形で人形は現れた。
「いくらアラガミじゃなくても、人の言葉を話す人形を怪しく思わないわけが無いだろ」
「はは、確かに。だが私は少なくとも君の味方だ。神薙ユウ」
「……!」
「君の動きを少し観察させてもらっていたよ。廃寺に巨人が出現したそのときからね」
名前を知られている。しかも知らない間に監視されていた。そのことに余計警戒を強めるユウ。タロウは彼からの不信感を募らせてばかりな視線をものとせずに続けた。
「さっきも言ったが、君は悩んでいるようだね。なぜあの時変身できなかったのか、と」
「……」
否定はしない。変身できなかった理由がいまだにわからない。どうしてゴッドイーターたちが戦うことができて、彼らを凌駕する力を持っているはずの自分がダメだったのか、はっきりとした理由がわからない。
「少し我々ウルトラマンのことを話そう」
タロウは、押し黙っているユウに向けて語り始めた。
「我々ウルトラマンは宇宙の秩序を守るべく、宇宙警備隊なる組織を結成した。そして全宇宙の平和のために、侵略者や怪獣と戦うことを自らの使命としている。だが、宇宙の平和を守る、とは一概に言うが、必然的に自らの故郷とは全く異なる世界を訪れることとなる。その世界の環境に我々の体が適合しないこともよくあるのだ。だから、我々は普段は人間として仮の姿を過ごす、または勇敢なる人間と一心同体となるという手段をとって、普段の生活を送るようにしているのだ」
なるほど、確かにあの時自分が変身した巨人の力は強大だった。もしかしたらあらゆる兵器の束が相手だったとしてもものともしないかもしれない。
けど、タロウと名乗ったその人形の話の中で、ユウは一つ理解した。あの巨人は自分を選んだ、物語でいえば、選ばれし者とされた主人公が手に入れた聖剣のような存在。要するに自分は選ばれた人間なのだ。それもゴッドイーターよりも遥かに選ばれる確率が0に近く、強大な力を。けど、だとしたら納得がいかなかった。
「だったら、どうしてあの時僕は、巨人になれたんだ!?どうして今回は変身できなかったんだ!」
廃寺にいた時は無我夢中気味だったが、変身することができた。そして巨大化したアラガミを倒すことができた。けど、今回だって同じくらいの危機的状況だったにもかかわらず、変身できなかった。
「下手をしたら、あそこの人たちが、戦っていたゴッドイーターたちが殺されていたんだぞ!なのにどうして!?」
「我々の力は、さっきも言ったとおり強大だ。確かに君の言うとおりその力を使うことができていれば、防衛班のゴッドイーターたちも負傷することも無かったし、あの時私が手を貸すこともなかった」
「手を貸す?」
「あの時は、間一髪私が密かに念力をかけてアラガミを追い払っておいたのだよ」
アラガミがカノンを食い殺そうとしたあの時、アラガミは後もう少しで彼女を食うことができたはずなのに、何かに押し出されていくかのように逃げ出していった。それは、このタロウが念力をかけて、カノンたち防衛班を守ろうとしていたからであったのだ。
「まぁ今はそんなことはどうでもいい。それよりも君のことだ」
タロウが再びユウに視線を向けて続けた。その視線は、まるで不良少年を睨む教師のようにも見える凄みがあり、ユウは言葉を発することさえもできなくなる。
「我々ウルトラマンは、人間が精一杯がんばった時だけにしか力を貸すことができない。さきほど言った理由もあるが、もう一つある。これが、最大の理由といってもいいだろう」
「最大の理由?」
「我らの力に、人間が頼りきりになってしまい、努力することを怠ることを避けるためだ。
あの廃寺で、たとえ極限状態においても君の諦めない心に呼応したことで、君は変身して戦うことができた。
…もうこれで、わかっただろう。君が、なぜあの時、変身できなかったことを」
「……!!」
―――――この巨人の力さえあれば、ゴッドイーターなんか要らないじゃないか
――――この力があれば、ゴッドイーターの人たちも、そうじゃない人たちも僕の力だけで守ることができる!
――――女神の森にも帰ることができる!自由だ…!
ユウは、気づいた。
目の前のこの人形がそうであるように、あの巨人にも意思があった。だがあの巨人は、ユウがその力にすがり始めていることに気づき、彼が怠惰になり始めていることを察知したのだ。だから、あえてユウに変身させることを拒否したのだ。
それは確かに、許されるべきことではない。力を貸してもらっている身である以上、それを自分のものと勝手に思い込んでしまうのは、他人の手柄を横取りするハイエナのような奴のすることだ。
しかしその反面、ユウには許しがたい事実が浮上する。
「じゃあ…あんたは僕にゴッドイーターになって…フェンリルに素直に従ってしまえばいいって言うのか…!?ふざけんな!!」
巨人の力以外でアラガミと対抗できるのは、ゴッドイーターの扱う神機だけ。しかしユウは知っている。
ゴッドイーターたちを管理するフェンリルの保護を受け入れずに路頭に迷うことになった人たちの言葉を。
――――どうして俺たちが追われないといけないんだ!
――――くそ、フェンリルめ…自分たちの箱庭ばかり守りやがって!
――――どうせ、フェンリルなんてそんな組織なのよ。都合が悪いものを簡単に切り捨ててハイサヨウナラ
――――あのような組織に連なるものが来ても、決して馴れ合わない方がいい。後で裏切られるがオチだ
フェンリルは人類を守る最後の砦のような組織だが、同時に身勝手さも噂されている。
ゴッドイーターとその家族や、フェンリルの組織内で上役に居座っている連中は全員生活を保障される一方で、そうではない人たちは限られた仕事しか選べず、ゴッドイーターへの適正もごく限られた人間にしか許されていないという始末。
まるで旧時代の貧困に苦しむ平民と、自分たちだけ華やかな生活を送る貴族のような差が開かれている、格差社会。しかも外の平民たちは特に、危険な怪物たちの世界となった場所で、ユウのように肉親や愛する人たちが消えていくのが当たり前になるほどの放置状態。不満が高まるのは至極当然だった。
「フェンリルは自分たちの庭ばっかりゴッドイーターに守らせて、父さんも母さんも、妹も守ってくれなかったじゃないか!今更、あいつらの力に頼るなんて!
第一、あの支部長だって僕を利用しようとしている気が知れ…」
「甘えるな!!!」
ユウの言葉を、タロウのほとばしる勢いの怒鳴り声が遮った。
「…ッ!」
「辛いのは君たち、フェンリルの保護を受けることができない、防壁外の人間たちだけじゃないんだ!!彼らゴッドイーターも毎日命を賭けて戦っている!その手で助け出せる人の数なんてほんの一握りだ!何人もの人々を、仲間を目の前で失うことがあっても、それでも彼らは諦めることなく戦ってきている!自分たちが戦うことで、君たちのような人たちをひとりでも多く助け出せると信じている!自分たちが殺されてしまう可能性が高いにも拘らずにだ!
それに引き換え、君は何だ!!
支部長だの、戦うのが怖いとか、フェンリルに頼りたくないだの、それ以前に!!私には君がそれらを言い訳に、愚かな自惚れ具合を強めているようにしか見えん!!
自ら努力し前に進むことを捨てた、身勝手な者のために、一体誰が力を貸したがるというんだ!答えろ!!」
答えられない。答えられるはずが無かった。全て、的を射抜いていた言葉と言う名の矢だった。
「だったら…どうしろっていうんだよ…」
うつむき始め、ユウがタロウに言った。
「…アラガミに対抗できる…神機だって…誰にでも使える…兵器じゃないし、安くも無い…ロクに飯も食えないしまともな仕事も見つからない…。
そんな弱い立場の僕たちにできることなんて…何も無いようなもんじゃないか」
そのまま彼は両手と膝を着いた。今にも泣きそうな震えた声だった。
自分たち、フェンリルの保護を受けられなかった者たちにできることなんてなにもないも同然だった。ユウが『女神の森』から外出し、一人外界のアラガミの脅威から逃れつつ第8ハイヴに不法侵入してまで旧時代の機械を売買できることはもはや例外の範囲だが、ゴッドイーターと違って個人でアラガミと戦う力など持っていない。けど、そんな矢先に誰かを守る力が…それもゴッドイーターを超える力を手にしたら、振るわずにはいられないのも理解はできる。
「それは大きく誤った認識だ」
しかしタロウはそれでも否定した。だが、さっきの怒鳴り声と打って変わり優しい口調で。
「何もアラガミを倒すことでしか未来を切り開けない…ということはない。
何も無いのなら、自らなすべきことを見つけ出せばいいじゃないか。できることから、何かを始めていく。そうすればおのずと道は開いていくのだ」
「…あんたは…残酷だ。ロクに飯も食えない、稼ぎもロクな方法ではできない立場にある僕らに重労働を課すようなことを言うなんてさ」
「そうかもしれない。だが、我々は人類に失って欲しくないんだ。諦めることなく自ら、ひたすら前に進み、未来を勝ち取っていく人類に…希望を持って欲しいのだ」
私も、かつては人間だったのだから、なおさらだ。とタロウは心の中で付け加えた。
「ユウ、君は何もできないとは言っていたが、果たしてそうか?」
彼はユウに向けて、指を差す…いや、正確には人形であるせいか、前後の方向にしか動かせない右腕の先をユウに向けていた。
「君は恵まれている。ゴッドイーターになれる素質があると言うことは、その手で君が成したいことが成せるチャンスを人並み以上に掴むことができるということだ。
では問おう。君は何をしたい?どんなことを成し遂げたい?」
「………」
ユウは、顔を上げてすっかり日の沈んだ夜空を眺めた。
自分の成したいこと。
子供の頃は、良く夢に描いていたものだ。この世界はアラガミに支配されて以来、外の世界にロクに出ることもできなかった人間たち。昔は宇宙に足を伸ばしたとも言われているが、アラガミに数多くの資源や乗り物さえも食われてしまったために、それも遠い夢と化していた。
けど、昔のある音楽を聴いて、ユウはその歌の歌詞にあったように、見たいと思っていた。
けど、アラガミたちがそんな夢さえも食いつぶすという現実。
だからまずは…みんなを、助けたい。もう失いたくない。
いつか、あの雲を……超えるために。
ユウは、無意識のうちに歩き出していた。向かっているのは、エレベーターの入り口。すると、タロウが瞬間的にユウの眼前にテレポートしてきた。
「うわ!な…なんだよ」
「ユウ。忘れ物だぞ」
タロウの身の丈以上のものを、彼は両手で頭上に持ち上げた状態で持っていた。ユウが巨人…ウルトラマンと一体となって戦うための、神秘のアイテム。タロウが拾ってくれていたようだ。
「たとえ一度変身を拒んだとしても、このアイテムの中に宿っているウルトラマンは、君を選んだ。君が持っておきなさい」
「…うん」
ユウは、静かにタロウからアイテムを受け取り、エレベーターに乗り込んだ。しばらくタロウは、ユウを見送った姿勢のままそこに佇んでいた。
「こうして未熟な誰かを見送るのは、メビウス以来だろうか」
遠い昔を懐かしむように、タロウは空を見上げた。すでに満点の星々が、夜空の上で広がっていた。まるで、アラガミの支配されている世界を夜の暗闇が、星の光がそれでも現実を生きて未来を勝ち取ろうとする命の輝きを暗示しているかのようだった。
「兄弟たちよ…今はどこにいるのだろうか…」
僕は…馬鹿だ…!!
巨人は…僕自身じゃない。それ以前に、僕は僕にしかできないことを精一杯やらなくちゃいけなかった…
けど僕は…自分が大事なものを失っていたからって…フェンリルから助けてもらえなかった被害者だからって…その立場に甘えていたんだ…。手に余る力を使ってアラガミを倒して、調子に乗っていたんだ…!
エレベーターに乗り、下の階に降りていくユウは、自分が過去の辛い経験…家族を失ったこと、ゴッドイーターたちに妹を助けてもらえず、フェンリルの保護を受けることができない防壁外の人たちのフェンリルに対する恨み言を聞き続けているうちに、自分が被害者面するあまり思い上がってもいたことを、ようやく痛感した。
早く気づくべきだった。
今までフェンリルに頼らずに、旧時代の機械の修理と売買で稼ぐことで生活費を稼いできたように、自分があの巨人…ウルトラマンの力を振るう前に、今の自分が一人の人間『神薙ユウ』として精一杯がんばらなければならないことを忘れてしまっていた。
しかし、ここでの自分の動きはすでに極東支部によって制限されている。何せ自分は元々偽造証による不法侵入罪で捕まるはずの身だったのだから。だから、許可もなく女神の森に帰ることはもうできない。
それにも拘らず、かのレアな新型神機の使い手としての適正が合った。不幸中の幸いと言う見方も取れる。
(帰ることがもうできないのは…辛いな。でも……)
あのタロウとかいう奴も言ってくれたのだ。手段こそ限られているが、何もできないわけじゃない。
「失礼します」
気がつけば、ユウは支部長室に来ていた。思っていた通り、そこにはこの極東支部の支部長…『ヨハネス・フォン・シックザール』が座って待っていた。
いくらユウを逃がさないためのカードをそろえていたとはいえ、最初からユウがここにくることを待っていたことを予知していたような構えだった。
「…どうやら、決断してくれたようだね」
しかもこちらの心情をすでに察している。ユウはこの男に対してきな臭さを覚えた。が、すぐに自分の決意をヨハネスに向けて表明した。
「はい…僕は、ゴッドイーターになります」
それを聞いたヨハネスは酷薄な笑みを浮かべた。
「よく決断してくれた、神薙ユウ君。そして改めて…」
『ようこそ。人類最後の砦「フェンリル」へ』
その直後、ユウはゴッドイーターたちが利用する訓練スペースまで連れてこられた。訓練場として使われている場所なだけあって、壁には刀傷や銃弾のあとが夥しく残っている。他にも色の落ちた壁や扉からして、大分使い古されているのが伺えた。
『今から対アラガミ討伐部隊ゴッドイーターとしての適正試験を始めよう』
(ここで適正試験…)
なぜわざわざこの場所で行うのだろうと疑問に思う人も要るかもしれないが、とある知り合いからの情報だとこういうことらしい。
昔、神機が配備されていた頃は現在ほど神機に対する個人の適合率を量ることが難しかったらしく、そのためにゴッドイーターの候補者として選ばれた人間は、神機に捕食され肉片と化してしまうケースがあったという。よって表向きはパッチ検査の一種としているそうだ。
(うぅ…考えたら寒気がしてきた)
もしかしたら自分が肉片になってしまうのではないかと悪い想像をしてしまう。目の前にある、機械仕掛けの台座の上に置かれた長剣を見ながらユウは表情を暗くする。さっき必死に下した決断が、情けないことに早速揺さぶられそうになってしまった。
『緊張しているようだが、少しリラックスした方がいいぞ。そのほうが良い結果が出やすいのだからね』
3階ほどの高さにある場所にはられたガラスの向こうにある部屋からシックザールが、二人ほどの研究者を携えて見下ろし、ユウの緊張を言葉で解きほぐそうとする。
言われてユウはとりあえず深呼吸して、精神と呼吸を整えた。
『少しは緊張をほぐせたかな?では、中央のケースの前へ』
ユウは指示通り中央のケースの前に歩き出す。傍によると、剣の色合いがわかった。美しい、日本刀のような銀色の輝き。それだけではない。
本来神機とは、接近戦型の刀剣型神機と、遠距離型の銃形態神機の二種類。しかし新型神機というだけあってか、この神機には剣の他に銃が折りたたまれた形で組み込まれていた。
『覚悟は決まっているはずだ。さぁ、そこのナット部分に手を置いてみてくれ』
ユウは視線を落とす。ゴッドイーターたちがつける腕輪のパーツがナット部分にある。右腕の袖をまくり、ごくりとつばを飲み込んだユウは右手首を乗せた。
『では…開始』
次の瞬間、断頭台のごとく台座の上の部分が降りてきた。
「ッ!!!!?ぐあああああああああああああああああああああああ!!!」
そして、ユウは絶叫した。何かが自分の体の中に入り込むおぞましい感触を覚える。それが同時にユウの体全体に激痛を走らせた。
「ぐ、うぅ…ううううううう…!!!」
苦痛のあまり脂汗が大量に滲み出る。しかし、右腕を左手で掴みながら、ユウはなんとしてでも耐え抜こうとした。
こんな…こんな痛みなんかで…!!
ユウの脳裏に、あらゆる光景が浮かぶ。
顔も覚えていない、死に際さえもロクに覚えていない、亡くなった両親。
たった一人だけ自分に残されていた妹。
壁外の過酷な環境下で、貧しい集落の中での生活。
アラガミのよって攻撃され、崩れ落ちていく家から突き飛ばす形で兄を守り、消えていった妹。
一人ぼっちになってからの路頭に迷う生活。
壁外の人々と共に極東支部の受け入れを拒絶され、フェンリルに対する怒りを募らせた日々。
やがて同じ境遇の人々と共に、偶然にもアラガミに襲われずに済んだ場所を見つけ、そこが後の『女神の森』となり、新たな家とした。
それからはそこで、昔から得意だった機械の修理をして生計を立ててきた。親しい知人もできた。
でも、いつあの場所もアラガミに狙われるかもわかったものじゃない。
『苦しいかな?だがその苦しみに耐え抜けば、君が守りたいと願っている人々を己の手で守る力を手に入れることができる!求めるのなら、耐えるのだ!』
ヨハネス支部長の、どこか酔狂じみたような声も聞こえる。
ああ、そうだ。手に入れて、ものにしてみせる。まず自分の力で誰かを守るために…。
激痛は短い時間の間だけだったが、ユウには何時間にも感じられた。
台座の蓋が上げられる。装置に挟まれていたユウの右腕の手首に、神機を制御する役割を持ち、ゴッドイーターの証の一つでもある腕輪がはめ込まれていた。最初、腕輪からオラクル細胞による黒い霧が発生していたが、すぐに消滅する。
(お…終わった…?)
息が荒いままだったが、ユウは神機を手に取る。すると、今度は神機から黒い触手が伸び、腕輪に開けられた穴に入り込む。今度は、痛みは無かった。一瞬だけ自分の右手が骨のラインにあわせて黒く染まって消えた。触手は神機に戻っていった。
『おめでとう、君がこの支部初の新型ゴッドイーターだ』
ヨハネスの拍手と祝福の声が聞こえてきた。
どうやら悪い結果にならずに済んだようだ。さっきの激痛で、危うく本当に肉片になるのかと思っていたが、杞憂で済んで何よりだった。
それにしてもこの神機、不思議なくらいに自分の体にしっくり来ていた。まるでこの神機さえも体の一部のように思えるくらいに。しかし、こんなものは今までもったことが無いのだから、行き成り使いこなせるという保障はまずない。
(まずは…この力を使いこなして、いかないと…)
神機を見つめながら、ユウは頷いた。
『次は適合後のメディカルチェックが予定されている。始まるまでその扉の向こうで待機したまえ。気分が悪いなどの症状があればすぐに申し出るように。せっかくの新型神機使いを無下にはできないからね』
「…少しよろしいですか。支部長」
ユウが、ヨハネスたちのいるルームを見上げて口を開いた。
『なんだい?どこか具合が悪くなったのかな?』
「いえ、あなたが僕をゴッドイーターとして迎え入れると宣言した際に仰っていた…」
『ああそれのことか。大丈夫だ。まずは回せる分のみだが、既にいくらか物資を運ばせている。無論、護衛に第7部隊のゴッドイーターも数名配備済みだ。嘘と思うのなら、後で屋上スペースに向かって確認してみるといい』
あの支部長は全てを許せるタチには見えない。後で彼の言うヘリが本当に女神の森に向かうかどうかを確認し、真実だったら約束を破るような人物ではないと見ておこう。
「では、…防壁を襲ってきた巨大アラガミのことは」
もう一つ気になったのは、例の巨大なアラガミのことだった。防衛班がほとんど敵わなかったという相手に、自分を含めたゴッドイーターたちはどう対処すべきか考えさせられた。
『あのアラガミについても後で対策会議を開く予定だ。歴戦のキャリアを持つ防衛班が敵わなかった以上、やはり遭遇する際に無策というのは避けておきたいからね』
「そうですか…ありがとうございます」
『気にしなくていいさ。では、期待しているよ。
新型神機使い(ゴッドイーター)「神薙ユウ」君』
さて…これで自分は、晴れてゴッドイーターになれた。
ユウは自分の神機を持ち上げ、眺めた。
タロウが教えてくれた言葉…『自らなすべきことを見つけ出せばいい』。
見つけ出した答えは、まずは自らが体を張ること。その手段として敢えてヨハネスの言葉に従い、守るための力を手にすること。
全ては、かつて妹を失った時のような悲しみを消すため、女神の森にいる知人たちを助けるため。そして、二度と『フェンリルからの救いを得られなかった』『家族を救ってもらえなかった』ことを言い訳にしないために。
自分はもう自力で女神の森で帰ることはできない。神機使いになった以上、後に引くこともできない。
でも、いつかあそこへ戻れる機会はあるはずだ。そして守ることも。それまでは…。
(ここが、僕の戦場…!)
ユウはそう呟き、神機を軽く一振りした。
色々おかしいと思ったり納得できない展開、アラガミと怪獣の合成生物のアイデアがあれば積極的にお知らせください。
可能な限り最低でも月に一度のペースで投稿していきたいと思います。
NORN DATA BASE
○ウルトラマンタロウ
いわずと知れた、M78星雲光の国の宇宙警備隊最高幹部『ウルトラ兄弟』の6番目の弟。両親はウルトラマンケン(ウルトラの父)とウルトラウーマンマリー(ウルトラの母)。義兄にはウルトラマンエース、従兄弟にウルトラセブンがいる。
人間としての名前は『東光太郎』で、当時は防衛チーム『ZAT』の隊員としても活躍してきた。若さゆえに調子に乗ったり失敗することもあったが、戦いを通して一人前の戦士に成長。
ウルトラ兄弟の中でも生まれ持った才能に溢れた戦士で、地球防衛任務を終えた後は教官としてウルトラマンメビウスをはじめとした多くの教え子たちを鍛えた。
しかし、アラガミに支配されたために多くのデータ、そして当時彼の姿を見た人々が消えていったこの作品の世界で、彼を知るものはほとんどいなくなっている。
なぜか人形の姿でユウの前に姿を現す。
○新型神機
従来の神機は、接近戦のみを可能とする剣タイプと、遠距離型の銃タイプの二種類に分けられていたが、新たに開発された新型神機はこの二つの要素を持ち合わせた新兵器。
しかし旧型神機よりも人を選び、適合者含め、その数は現在のところ、全世界の分を集計してわずか10機前後のみ(小説版『禁忌を破る者』より)。
○ユウの神機
この時点でのユウの神機は以下のとおり。
・刀身
ロングブレード『ブレード』
・銃
アサルト『50型機関砲』
↑「スタミナ小」の効果
・盾
バックラー『対貫通バックラー』