ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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禁忌を破る者(後編)

「バカな!!?」

イクスたちは、自分たちに攻撃を仕掛けてきたジャックに、あり得ない怪奇現象を目の当たりにしたような驚愕を露にした。

「ありえない、貴様は私の手で思いのままに操られているはずだ!たとえカーゴを破壊しても、予備の信号発信装置から命令を送り続け、我々に逆らわないようにしているはず!」

イクスは、アラガミとなったジャックを操るために完璧なる算段を考え、準備をした。すべては自分の忠誠の対象である『あの方』の最大の天敵となるであろうウルトラマンギンガを無力化させ、その力を捧げるため。

かつて、イクスの同胞だったダンカンは、タロウの親戚に当たる先代戦士の一人、『ウルトラセブン』を操ったことがある。ダンカンはウルトラ戦士さえも操る強力な催眠術を持っているのだ。

さらに、闇のエージェントたちにはギンガスパークを模した黒いアイテム『ダークダミースパーク』がある。それで力を解放させられた怪獣のスパークドールズをアラガミに取り込ませ、暴走させることができる。支配下に置くことも可能だ。

だが、ギンガの場合は違う。何故ならば、ウルトラマンギンガは…

闇のエージェントたちが畏怖する、ある存在とは…水と油のさらに先…『表と裏』の関係にある。

故に従来の洗脳が通じないことが予想され、イクスはゴッドイーターを利用した、新たな洗脳術を確立させた。ヴェネたちアーサソールを利用したのもこのためだ。

結果、スサノオと一つとなったウルトラマンジャックを自分達の操り人形にすることに成功した。ゴッドイーターを器としているギンガも、これで操ることが可能。もしかしたらあの方さえも…

しかし、操るにはこちらから信号にのせた命令を送信し続ける必要がある。主な送信元であるカーゴを奪われたり破壊されてもいいように、イクスは予め、誰にも見えないところに別の送信気を設置していた。だから、ジャックがこうして自分たちに逆らうことはあり得ないはずなのだ。

「WHY!?どう言うことだよDoctor!こいつはMeたちの思いのままじゃなかったのかよぉ!」

バキが、話が違うとばかりに声を荒くする。他二人のエージェントも説明しろとばかりに視線を向けてきた。

そんなこと言われても、自分の計画に何も支障はなく、己の才覚に対する自負が過ぎたような覚えもない。もしや、ウルトラマンギンガの変身者が何かを施したのか!?いや、奴の動きは常に把握していた。ジャックに何かをしでかしたような動きは見せていない。

いや…待てよ…?まさか!

確信を得て、イクスはジャックを睨み付けた。だがその目に見えているのは、ジャック本人ではない。

 

「…貴様の仕業か、ヴェネ・レフィカル!」

 

 

 

「どういうことだ…!?」

ユウたちも、突然アラガミ化し奴らの手駒となっていたジャックが、逆に闇のエージェントたちに反抗し始めたという事態に、何が起こったのか理解しきれなかった。

一体何が起こったのだ?

「今、あいつヴェネの名前を言ってたみたいだけど…」

マルグリットが、イクスのたった今のセリフを聞き逃さずに聞いてそのように言う。あのスタングレネードの光の中に紛れて、ヴェネが何かをしたのだろうか。

だが、そんな彼らの頭の中に浮かび上がる疑問について考える間もなく、反抗を始めたジャックが、アラガミの姿のまま闇のエージェントたちに襲いかかってきた。

 

 

ジャックが真っ先に狙ったのは、ナックル星人のグレイだった。

奴に即座に迫った彼は、奴の肩を掴んで引っ張り、腹に前足のひざを食い込ませ、

背後からジャックを狙いに、バキが飛び掛ってきたが、ジャックは全く動じず、右拳を頭の後ろへと運び、その際に飛び掛ってきたバキを殴り飛ばした。

「ぐふ…!」

だが、その隙を嫌らしく突いてくる輩がいた。のびてきたサーベルを、かろうじて身を翻して避けたジャック。見ると、予想通りマグニスがサーベルを彼に向けて突き刺そうとしていた。次々と向かってくるサーベルの嵐。ジャックはそれに対し、尾から生えていた〈ウルトラランス〉で応戦した。マグニスはサーベルを装備している状態で攻撃しているのに対し、尾から槍を生やして攻撃しているジャックは両手も使える状態だった。こちらの攻撃をいなすのにサーベルを利用しているために、逆に自分が隙を見せる羽目になっていた。ジャックは槍でマグニスのサーベルをかわしながら、残った両腕のうち、右手を突き出す。

〈ウルトラショット!〉

「ジュアア!!」

「ッ!しま…!」

純粋なウルトラマンだった頃と比べて野太い声をはきながら、マグニスに向けて光線を発射した。光線技がすぐ近くから発射されたのを見たときにはすでに遅く、マグニスは胸にジャックの必殺光線をもろに食らってしまう。胸元で火花が散り、マグニスは胸を押さえながら一歩下がった。

しかしそのとき、ジャックの横から強烈な肉弾が彼を突き飛ばした。四本の足で支えられた巨体が突き飛ばされ、ひび割れた廃ビルを倒壊させてしまう。

ぶつかってきた張本人は、怪獣としての正体をあらわにしたイクスことダンカンだった。イクスはさらに自分の体を高速回転させ、がけから転がしたタイヤのような破竹の勢いでジャックに再び体当たりに向かう。立ち上がったジャックは両腕をクロスしてそれをしのごうとするも、やはり相手の勢いの方が強かった。二度目を受け、再び突き飛ばされてしまうジャック。

「まったくもぅ…どうしてあんたたちウルトラマンはこうもしつこいのかしら…ね!!」

すると、突き飛ばされて一時ダウンしたジャックを、グレイが無理やり起き上がらせ、その四肢に拳を乱暴に叩き込んできた。

今のは結構堪えたらしく、ジャックは殴られた箇所を押さえながら一歩退いた。だが追撃に、グレイは手から邪悪なエネルギーを形成し、弾丸としてジャックに発射した。

「ウ…!」

さらに深く入り込んだ一撃に、膝を折ってしまう。

「俺たちのモルモットにしてやったのに結局逆らいやがって…覚悟しやがれ!」

マグニスがさっきの仕返しとばかりにサーベルを振りかざし、ジャックの体を切りつける。

「傷をえぐられるのはさすがに嫌だろう?ORA!!」

胸に深い切り傷が出来上がっていた。その傷をえぐるように、今度はバキが調子よく笑いながらその傷をわざと狙って蹴りを叩き込んでジャックをひるませた。

それからはリンチの始まりだった。バキがケンタウロスのようになったジャックの背中に乗り、羽交い絞めでジャックの動きを封じ、そこをグレイとマグニスがさらに攻撃、続いてイクスが体を転がして体当たりしジャックを再度突き飛ばした。

「グアァ…!」

ダウンしたジャックは、立ち上がって方膝を着いた。ウルトラマンだった頃からの名残である、カラータイマーも赤く点滅を開始し始めていた。

「へ、こちらには向かってきたからちと焦ったが…俺たち4人を相手にするには程遠かったようだな!」

「頼みのウルトラBrothersたちもてめえと同じく人形になってどこかに眠っている状態だろうしよ。復活早々残念だったなぁ!」

自分たちに逆らっておきながら、結局自分たち闇のエージェントたちはジャックをあざ笑った。すると、グレイがジャックに向けて、心無き言葉を飛ばしてきた。

「アラガミとなってなお、あんたはいまだに認めようとしていないみたいね。あんたが始めて戦ったあたしの同胞に、あんたの大事な人達が殺された理由が」

その言葉に、フラフラになりかけていたジャックがピクッと動きを止めた。

「ま、弱い奴から死んでいくのがこの宇宙の道理という奴よ、ウルトラマンジャック。

故に強大な力を持つ者にこそ世界を支配する権利があるの。そいつの大切な人とやらがあたしの同族に殺されたのは自業自得、当然の結果よ!」

「………ッ」

グレイから好き放題、勝手なことを言われたが、アラガミ化している影響からなのか、それとも別の理由からなのか…ジャックは言い返さなかった。

 

 

遠くから今の言葉を聞いたユウは、激しい憤りを覚えた。

(…当然の結果、だと?)

怒りを募らせるあまり、痛みを忘れたユウは傷だらけの体を起こして立ち上がった。ギリッと歯ぎしりし、目の前にそびえる塔のように立っているグレイを睨みつける。理不尽に命を食らうアラガミ、理不尽に暴力を用いて仲間たちを襲うこの怪人。…それは、憎むべき敵として同列の者として認識された。

「強ければ、何をしてもいいと…お前はそういうのか…!?」

ふざけるな…!僕の妹も…何の罪も犯していないあの子が死んだのも当然の結果だと?

強く握られた拳から血が流れ落ちた。

 

 

「グレイ、挑発しすぎるな。いくら追い詰められたといっても、こいつらは我々の野望をことごとく阻止してきたウルトラマンだ」

イクスが、調子に乗っているようにも取れたグレイをいさめる様にいうが、心配ない、とグレイは軽く聞き流した。

「安心なさい、今度こそ同じナックル星人であるあたしが止めを刺してあげる!」

グレイは自らの手で止めを刺してやろうと、ジャックに向かって近づき、その肩に手を置き始めた。

 

――――弱い奴から…死んで当然だと?

 

――――坂田さんと、アキちゃんを殺したことが、何も間違っていないと?

 

「終わりよ!」

再び自分の右手からエネルギー団を、それも至近距離からカラータイマーに向けて叩き込もうとしたグレイ。だがそのときだった。

 

「…フザケルナ…」

 

ガシッと、自分の手をジャックが強く掴んできた。

「な…!まだそんな力が…!」

振りほどこうとしたグレイだが、あまりに強烈な力でジャックが掴んできたために振りほどくことはかなわなかった。これまで好き放題操ってきた報復を返すかのごとく、ジャックはグレイの顔に強烈なパンチを叩き込んだ。

「ヘア!!」

「がぶ…が!!」

その足った一撃の拳が、決定打となった。

「あたしの…美しい、顔に…よく、も…!!?」

ダウンしたグレイは、自分が美しいと自負する自慢の顔を傷つけられ怒りに駆られた。だが、彼は立ち上がれなかった。こめかみの辺りを強烈に殴られたせいか、激しい脳震盪を起こしていた。

「この!いい加減に…!」

痺れを切らしたバキが、再びジャックに向けて突撃する。だがそれを見越して、ジャックは尾を伸ばしてバキを瞬時に拘束した。そして強烈な締め付けで首と胴体を締め上げていく。

「が、がが…!!」

バキは抵抗を試みるが、自分の首と胴体を締める力に逆らえず、力が抜けてぐったりとしてしまう。そのバキをジャックは、動揺しているイクスのほうへと思い切り投げつけ。イクスを昏倒させた。

「おのれ…ウルトラマあああああああああン!!!」

残ったのはマグニス。マグニスは口元を苛立ちでゆがませながら、自慢のサーベルを振り回し、ジャックに襲い掛かってきた。

だが、敵を威圧するのに十分なマグニスの迫力に対して、ジャックは決して動じることなく身構えるのだった。

 

 

(これが…タロウが言っていた…光の国最強戦士の一人『ウルトラ兄弟』の力…!)

一度苦戦しかかったように見えて、実は決して負けているわけではない。それどころか逆に何度も逆転の状況を作って反撃に転じ、星人たちを圧倒する。

想像していた以上…無双のような強さを見せつけるジャックに、ユウたちは驚かされていた。アラガミ化しているとはいえ、ギンガ以外のウルトラマンの戦い。いや、寧ろその状態となった自分の特長さえも生かして彼は星人たちを翻弄している。さっき自分達を襲ってきたような恐ろしさ不思議と感じなくなった。

 

ジャックの手から、光り輝く光輪〈ウルトラスラッシュ〉が放たれる。

マグニスはそれを叩き落そうとしたが、それはできなかった。サーベルの刀身は、ウルトラスラッシュの切れ味に勝てず、そのままたたき折られて彼の肩を掠めてしまったのだ。

「ぐあ…!!」

これでマグニスも今度こそ戦闘不能となった。すると、イクスが再び立ち上がってくる。

「おのれ…私はなんとしても、生き延びてやる…」

その口から、同じく逆転のピンチを許し危機状態となった仲間であるマグニスたちに対する気遣いはなかった。イクスは自分の体を丸める。再びこちらに向かってくるつもりかと考えたジャックは再度構えを取ったが、イクスは予想外の行動に出た。

ジャックとは反対方向へと高速で転がり始めたではないか。

「あ、てめえ…!!」

自分だけ逃げるつもりか!!ギースらをモルモット扱いして非道な実験にかけ、自分が助かるために仲間さえも見捨てる。なんとも薄情で卑劣な男なのだ。

そんなイクスには考えがあった。いくらウルトラマンといえど、今の奴はアラガミでもある。オラクル細胞の中にあるアラガミの本能が蘇ることは目に見えていた。あの状態が…かつてのウルトラ戦士だった頃の正常な心がいつまでも保てるとは思っていなかった。

(あのままマグニスたちが奴と戦い続ければ、いずれまた奴は暴走する。そうなればマグニスたちとウルトラマンは相打ちとなり、近くにいるギース・クリムゾンたちも死ぬだろう…)

そうなれば、自分の研究成果と内容をこれ以上知られることなく隠蔽し、自分もまた生き延びて再び研究の続きを…ウルトラマンの力を支配した最強のゴッドイーター完成の研究を続行できることになる。そのためにも、マグニスたちには悪いが犠牲になってもらう。

今回はジャックの反抗という予想外の事態が起きたが、それも含め貴重なデータが取れた。

(ふふ…喜ぶがいい、お前たちの犠牲が、『あの方』の願いの成就に繋がるのだからな…)

思った以上に早く、奴らのいる場所から離れることができた。もう自分の独り勝ちは決まった。そう思っていたイクス。

だが、イクスは見誤っていた。ウルトラマンは…人の命をもてあそび仲間を見捨てる非道の輩を見逃すほど甘くは無かった。

はるかかなたまで距離を開いていたにもかかわらず、イクス…ダンカンに向けて、ジャックは両腕をL字型に組み上げる。ギンガクロスシュートと同じ構えを見て、ユウは次にジャックが何を繰り出してくるか瞬時に理解した。

組み上がった腕から、〈スペシウム光線〉を越える破壊力を誇る最強光線、

〈シネラマショット〉が炸裂した。

「ヘアアアアッ!!」

シネラマショットは、スペシウム光線よりもはるかに高い威力と、その分だけ伸びた射程距離があった。互いにのびた距離感も無視し、光線はイクスの体を直撃する。

「ぐがあああああああああああああああ!!!?」

ジャックの最強の必殺光線をもろに受けたイクスは、木端微塵に砕け散ってしまった。

アーサソールの管理官であり、一方でギースたちをモルモットに、ユウとギンガを野望のための兵器に仕立てようとした悪の異星人科学者の、無惨な最期だった。

 

「ぐ、があ…は…!!」

闇のエージェントたちも思わぬ反撃により、もはやユウたちをどうこうできる余裕はなくなっていた。

「キーッ…!あと一歩のところで…ウルトラマンなんかを宛てにしたのが間違いだったのよ」

グレイが、自分も話に乗っていたくせに、自分には全く非がないと、無責任な台詞を吐き飛ばす。闇のエージェントたちは、絶対的と思われたチェックメイトから、ジャックの反抗によって一気にダメージを追わされ、逆転を許してしまう。

「SHIT!ここはEscapeするしかねぇ!」

バキが撤退を進言、闇のエージェントたちはやむを得ず、この場から姿を消した。

「た、助かった…」

最大のピンチから、ユウたちは奇跡的に救われたのである。

ユウたちは、危機の脱出のきっかけとなったスサノオ…ジャックを見上げた。

なぜ、闇のエージェントたちに操られていたはずのこいつが、自分達を助けてくれたのだろうか。

「ジャック兄さん…まさか、自我が?」

タロウが、ほのかな希望を心に宿しながら、ジャックを見上げた。さっきは星人たちの僕として襲ってきたにもかかわらず、突如反旗を翻して自分たちを救った。自分の知っているウルトラマンジャックとしての心が蘇ってくれたのかと期待をしてしまう。

対するジャックは、静かにタロウたちを見下ろしていた。

タロウはジャックに手を差し伸べるように近づいていく。

だがその途端のことだった。ジャックの口が開かれた。

『来るな!』

突然飛んできた怒声に、タロウは動きを止めた。だが、もう一つ気になることがあった。

「今の声…兄さんじゃない」

「え?」

タロウの突然の発言にユウは耳を疑った。どういうことだ。このアラガミとウルトラマンの合成生物の元になったのはタロウが兄と呼んでいるウルトラマンじゃないのか?

「ヴェネ…!?」

マルグリットがジャックを見上げてそう呟いてきた。ギースがそれを聞いて目を見開く。一瞬嘘かと思った。けど、ギース自身、今の彼女の言葉に強い信憑性を感じていた。今の「来るな」という声の感じとイントネーション…それらに強い覚えがあった。

「どういうことだよ!お前、同じウルトラマンならわかるだろ!?」

「僕にだってわからないよ…!」

ギースが、なぜジャックからヴェネの声が聞こえたのか、その理由を求めてユウに問い詰めてきた。もしかしたら、このアラガミがヴェネでもあるのではという嫌な予想が過ぎっていた。ユウもウルトラマンだが、ごく最近に偶然とも言える形で変身できるようになっただけで詳しさなど皆無だ。答えられるはずもなかった。

すると、ユウの代わりに返事するつもりか、目の前にいるジャックから声が聞こえてきた。

『…マリー…よく僕がこの中にいるとわかったな』

「!やっぱり…ヴェネなんだね!?」

マリーが目を見開きながら、ジャックを見つめる。ジャックはヴェネの声のまま話を続けてきた。

『以前、僕はスサノオに神機を食われた。このウルトラマンとスサノオの合成生物の片割れは、そのときのスサノオだった。さっき、スタングレネードの光にまぎれて、今度は僕自身を取り込ませたんだ。

こいつの中に取り込まれた僕の神機を通して、僕は「ギースたちを守れ」と命令し続けた。その結果、どうやら今の通り、この体を操ることができたようだ』

「すげえ…やっぱヴェネは凄すぎるよ」

ヴェネを強く尊敬するギースは、こんな大胆かつ無謀な手を使って、あの状況を覆してしまったヴェネに、それ以上どのように言葉を浮かべるべきかもわからなくなった。

「なんつーこと考えたんだ…自分がそのまま食われちまうことは考えなかったのか!?」

『確かにあんたの言うとおりだ。だが…あんただったら、他に何か思いつけたのか』

聞いただけでとんでもなく無謀さに満ちた手段をとったヴェネにリンドウは声を上げるも、逆に言い返され返す言葉が見つからなくなる。彼のいうとおり、他にヴェネが取った行動以外で、あの最悪の危機を抜け出せる方法など浮かばなかった。

 

『っぐ…!!』

 

突如、ジャックの口からもれ出たヴェネの声が、苦痛のそれになった。胸を押さえ、苦しそうに身悶え始めている。

「ヴェネさん!?」

「ッ!あぶねぇ!」

ユウが一体何が起こったのかと、彼に向けて叫ぶ。同時に、反射的にリンドウがユウを抱えて飛びのいた。直後、ジャックの右腕が振り上げられ、ユウの立っていた地面を貫いた。

『避けろ、マリー!!』

だが、すかさずジャックからヴェネの声が再び響く。だがマルグリットは動揺のあまりその場で立ちすくんでいる。ギースがすぐに彼女を抱きかかえて飛びのくと、今度はジャックの、スサノオの尾の槍が、すれ違うようにマルグリットが立っていた地面に突き刺さった。

ジャックが、今度は自分たちにも刃を向けてきたという事態に、彼らは動揺した。

「どうしたの、ヴェネ!?」

『…予想は…していたが、やはりお前の変身したウルトラマンギンガと違い、こっちはアラガミでもあるせいだな。もう…僕の制御が利かなくなった』

「制御が利かない…まさか!?」

マルグリットが悪い核心を得た。

『大体お前の予想している通りだマリー。もうじき、今度こそこいつは…アラガミとして暴れ始める。僕の全てを完全に食らって、な…』

「ヴェネ、そうと決まったら早くそんな奴の中から出てこいよ!」

ギースがヴェネに、ジャックの体からの脱出を促したが、ヴェネから還ってきた返事は『無理だ』の一言だった。

『…こいつの中には、ウルトラマンの力を支配しているスサノオと、半ば…無理矢理…主導権を奪った僕が…存在しあっている。

どうやら…スサノオ自身が新たなコアとなった…僕の存在を拒んでいるようだ。もし脱出ができても、それは同時に…この体の主導権をスサノオに返すことになる…そうなれば、誰にも止められない…』

「そんな…」

エリックが青褪める。タロウも、ヴェネが捨て身の行動でこの危機をようやく脱することができた矢先に、また新たな、それもさっき以上の驚異が迫っている事態に、強烈な危機感を覚えた。

『安心しろ、こいつなんかにお前たちを殺させやしない。この中にいるウルトラマンも奪わせたりしない』

だが、ヴェネは最期の時が迫っているというのに…いや、だからこそなのか、諦めない姿勢を崩していなかった。

すると、ヴェネの意思によるものか、ジャックは自らの体に、突然自分の手を突き刺しえぐりだした。自らを殺す勢いで自分の肉体を抉るジャックに、全員が絶句する。

ジャックは自分の体を手探り続けた果てに、引き抜いた血みどろの手に、金色に輝く宝珠を掲げた。

「スサノオのコア…!」

何度も見たことがあるギースがそうつぶやいた。しかもそのコアの中に、あるものが見えたのをタロウは見逃さなかった。

「じ、ジャック兄さん!?」

スサノオのコア、その中には…なんとタロウと同じように人形と化していたウルトラマンジャックが取り込まれていた。

コアを取り出したジャック…いや、ジャックだったアラガミは自らのコアをユウたちの前に置くと、再びその身が激しくもだえ始める。さらにおぞましい光景が、現実に起こり始めた。

「な、なんだ!?なにが起きて…!?」

あまりの現象にエリックが悲鳴のごとく声を上げた。

ヴェネの意思によってコアの取り出し口となった傷口から真っ黒な霧が、決壊したダムからあふれ出る水のように湧き上がり始めた。湧き上がった黒い霧は全てを飲み込もうとする勢いでさらに吹き荒れていく。

「やばい!離れろ!」

リンドウがすぐに呼びかけたが、それはできなかった。黒い霧は彼らさえも飲み込み、食らいつくそうと、自分と彼らごと黒い霧で周囲を囲ってしまった。

「まずい、逃げ場が…!」

「見て、この霧…!」

マルグリットが黒い霧を指差す。見ると、霧の中には、オウガテイルにコクーンメイデン、コンゴウ、ヴァジュラなど、あらゆるアラガミが百鬼夜行のごとくうねりながら現れて迫ってきている。獲物を決して逃がすまいと少しずつ近づいている。

「このまま我々を一人残らず食らうつもりというわけか…!」

タロウが苦々しげにつぶやく。念力を使って食い止めようにも、逃げ場をふさがれてしまっては意味が無い。しかもウルトラ念力ではいかなる敵の命を奪うことはできないのだ。

「おのれ!」

エリックが近くにいた、黒い霧のオウガテイルにバレットを撃った。彼のバレットは狙ったオウガテイルの頭を粉々に砕いた。…が、無意味だった。

「な……!!」

砕かれたオウガテイルの体が黒い霧に飲み込まれ、また新たにザイゴードの形を成して再び迫りきた。人間がアラガミに唯一対抗できる神機の攻撃さえも通じず、逃げ場も失った彼らに、打つ手は…。

(…これしかないのか)

ユウは、内ポケットに持っていたままのギンガスパークに触れる。すでに正体を仲間たちに知られた異常、ためらう理由はなかった。早速それを取り出したユウは、変身の構えをとってそれを掲げた。だが…ギンガのスパークドールズは現れない。

「やっぱり、まだ…」

さっきの闇のエージェントの戦いで、ユウと同様にウルトラマンギンガ自身もエネルギーの回復が間に合っていなかったのだ。

すると、スサノオの傷口から一本の神機が露出される。黒い霧は傷口から発生し、そこへと集まり始めていた。だがそれだけじゃない。自らの体に偏食因子を大量投与しわざとスサノオとジャックの合成生物に取り込まれたヴェネも、血まみれの姿で姿を現した。

「ヴェネ!?」

「…ギース、マリー…すまなかった。こんな残酷な世界にお前たちまで巻き込んでしまって」

露出された自らの神機の柄を杖のように掴みながら、ヴェネは幼き日からの幼馴染二人に謝罪した。

「神薙ユウ、雨宮隊長。あなた方にも謝らなければ…僕らアーサソールの問題に…」

「ヴェネさん…」

この黒い霧は、先ほどまでのスサノオの体を構成していたオラクル細胞。ヴェネの神機に吸い寄せられていく黒い霧の中のアラガミたちが一つに集まり、再びスサノオの形を成そうとしていた。コアを失ったスサノオが、いまだに生き延びようとヴェネの神機をサブのコアとして取り込んで復活しようとしているのだ。

だが、そうさせないためにヴェネは、打つべき手を打とうとしていた。

「こいつは…僕が連れて行く。ギース…マリーを頼んだぞ」

優しい笑みを見せたヴェネ。それを見てギースとマルグリットは同時にヴェネの名前を、引き止めるように叫んだ。気付いたのだ、あの笑みが…彼が自分たちに見せられる笑顔であることを。

「最後に…神薙、君にもう一言」

ヴェネは再びユウに視線を向ける。

「……人類の未来を、頼む」

ヴェネは神機を握り締め、自分の相棒だった神機に意識を集中する。すると、次第にユウたちを飲み込もうとしていた黒いオラクルの霧が、神機を掲げたヴェネに集まり、彼を包み始めた。それはまさにブラックホールのようだった。ヴェネの神機を中心に全ての黒い霧が吸い込まれていき、跡形もなく消え去った。

 

その中心にいたヴェネも…

 


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