ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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ギンガ、敗れる

「はははは、すばらしい!見ろ、ウルトラマンギンガは全く歯が立たないほどの力を身につけるとは!圧倒的だぞ!」

爆風で吹っ飛ばされたグレイヴを、今まで自分も乗っていた乗り物が破壊された光景をモニター越しに見ても、イクスはあわてるどころか興奮しきっていた。マルグリットがあの中に乗っていたというのに、それを意に返そうともしていない。こいつにとって他人の命などモルモットでしかないのか。

いずれギースも奴か、待機させている他の闇のエージェントどもに殺されるだろう。ヴェネはここにいるし、あとは彼を拘束したまま極東を離脱すれば、この技術を持ち帰ることができ、情報が漏れることもない。あの男はおそらくこの技術を狙っているだろうが…奴の悔しがる顔が目に浮かぶ。

「さて、そろそろ奴らに指示を出すか」

イクスは通信端末を起動させ、どこかに繋げる。すると、ジャックやギンガの戦いの映像を映しているモニターとは別のモニターに、奇怪な怪人の顔が映されていった。

ヴェネはモニター越しに彼らの顔を見て目を見開く。

仮装しているような見た目だった。しかし、あのイクスがこの状況でなくても奇妙な趣味に逸るような連中とつるむとは思えないから、すぐに認識した。こいつらはウルトラマンと敵対している奴らだと。

「機は熟した。ウルトラマンギンガを捕らえるチャンスだ。すぐに始めろ」

冷淡に言ってきたイクスに、映像の向こうにいる毛の深い怪人が身を気持ち悪くくねらせてくる。

『んもぉ、繋いで来ていきなりそれん?少しは「気をつけていけよ?」とか言わないわけ?』

『オカマ野郎がなに乙女くさい願望をほざいてやがる。はっきり言ってキモいぞ』

さらに、仮面に全身タイツの男がオカマの怪人に対して辛辣な感想を述べると、さっきのオカマ口調の怪人が憤慨する。

『んま!!失礼な人!これだからマグマ星人の男ってのは…』

『HeyHey!喧嘩は終わった後でも間に合うだろぉ?さっさと憎きウルトラマンギンガをCatchingしてやろうぜぇ!』

極めつけのごとく現れた、英語交じりの奇妙な口調で第3の怪人も姿を現す。こんな怪しげ満載の連中とコンタクトを取って命令を下す。イクスは本当に奴らの仲間なのだろう。

『あらあら、そこにいるのはあのウルトラマンタロウかしらん?随分可愛らしくなっちゃって』

気持ち悪い言い回しのなかに屈辱的意味も込めて、オカマの怪人、ナックル星人グレイは人形の姿で鳥かごの中に捕まっているタロウを嘲笑う。

『これから貴様の後輩は俺たちで飼ってやる。貴様らウルトラマンは、一人残らず皆殺しにしてやりたいところだが、これも命令でな。ま、殺さないだけありがたく思うんだな』

『そこでWatchingしとくんだな。てめえの後輩が、Youたちが後生大事に守ってきた人間共を蹂躙するところをよ』

仮面の怪人、マグマ星人マグニスにバルキー星人も不快感を促すような台詞をタロウに言い放つ。好き放題言い放った挙句、行動を開始するつもりなのか、即座に彼らの顔を映していたモニターの映像が切れた。

「…一度ジャックには停止命令を出しておくか」

イクスは一度コンソールのキーを一つ適当に押す。すると、唯一表示されたままのモニターに見えるジャックの動きが、さっきの暴れぶりが嘘のように停止した。確実に闇のエージェントたちがギンガを捕獲するために、邪魔な動きをさせないための停止命令の信号を送ったのだ。アラガミ化した強敵が自分たちにまで危害を食らわせることは避けたかった意図が見える。

「これでギンガを捕まえれば、もう我々の障害となる脅威はいなくなるも同然だ。…せめて、同じウルトラマンの手で別のウルトラマンを葬るというもの見てみたかったがな」

「…貴様ら、絶対に許さんぞ!」

タロウは自分を閉じ込めているこの邪魔くさい鳥篭を破壊し、今すぐにイクスに報復してやりたくなった。ウルトラマンも心がある以上、相手を憎む気持ちがある。正義の枠を越えた感情を抱かないはずがない。

何もできないまま時が過ぎるのを待つしかないのか?ギンガが破れ、この卑劣な男とその仲間たちの傀儡とされるのを…。

(く…ギース、マリー…)

ヴェネもまた歯噛みした。ウルトラマンが一体なぜ自分たちを守ってくれるのかわからないが、少なくともこの男よりもはるかに信ずるに値するし、外の様子の映像内でもギースを現に守ってくれていた。何より、今はギースの危機。確かにイクスが指摘した通りの感情はあるのかもしれない。だが、それだけじゃないはずだ。自分は、ギースとマルグリットの二人を守るためにゴッドイーターとなったのだ。今は神機を失っているが、それでも…

(…待てよ…?)

ヴェネはふと、あることに気付いて目をわずかに見開いた。

そのときの彼の視線は、映像に映っているジャックの姿に向けられていた。

それと同時だった。カーゴの外からガン!とやかましい音が鳴り響いた。

イクス、ヴェネ、そしてタロウはカーゴの入り口の方へ視線を傾けた。

 

 

 

「っくそが…!こいつやたら頑丈だな」

リンドウは神機で何度も、イクスがこもり続けているカーゴの入り口を切りつけていた。しかし、アラガミたちとの数え切れない戦いもあり、その分行われていたチューニングで新規の神機よりも高い切断力を備えた代物でありリンドウの神機の力でも、いまだに扉を開くことはかなわないままだった。まるで、こうなることが…カーゴに忍び寄る侵入者の存在を察していたかのようだ。何度叩いても斬っても、中からうんともすんとも言わない。無性に腹が立ってくる。

できればもっとパワーがほしいところだが、ここには自分をバーストさせてくれるような雑魚アラガミさえもいない。

しかし、諦めるわけにいかない。こうして戦っている間にあの新入りは…ユウは戦っているのだ。光の戦士、ウルトラマンとして。

一見、強大な力を得たものはその後の戦いで無敵の力を振るうことが約束されると想像するだろう。だがリンドウにはそう思えなかった。なぜなら、たとえユウがウルトラマンギンガの力を使いこなしていたとしても、今までの戦いで彼が余裕の勝利を飾りきれたことなどなかったからだ。それはつまり、力を得た分だけさらに過酷な運命が彼に降りかかるということ。無茶を承知でギンガとして戦ってきた彼がこれ以上その身に鞭を振るい続ければ、後でどんな反動が来てしまうのか。

そんな最悪な事態を避けるためにも、リンドウはカーゴに向けて神機を振るった。しかし、やはりカーゴはアラガミの襲撃を想定しているせいでかなり頑丈。なかなかこじ開けられなかった。

 

 

 

スサノオと一体となり、アラガミとなってしまったジャックの、尾から生やしたウルトラランスが、ギースを守るために乱入してきたグレイヴを貫き、爆発させてしまう。

ギースも、ダウンしたままそれを見ていたギンガも唖然としていた。マルグリットが、グレイヴもろとも爆炎の中に消え去った。そんな風にしか見えなかった。

しかし、そのときだった。ジャックが空中から落ちてきた何かを、その手の中にキャッチした。

ギンガとギースはそれを見てはっとする。

ジャックのキャッチしたもの、それは…

「マリー!!」

(マルグリット!)

グレイヴと共に爆発に巻き込まれたマルグリットだった。

実はジャックのウルトラランスが突き刺さって爆発した瞬間、彼女は爆風によって空高く吹き飛ばされていたのだ。

ジャックがマルグリットを捕まえると、奴は彼女を腕の中に収めたまま、ただ静かに腕の中に収めた彼女を見下ろす。

それを見たギースは青ざめる。まさか…マリーを食うつもりか!?

「や、やめろおおおおおおおおぉ!!」

ギースは神機を拾い上げ、ジャックの前足に刀身を食い込ませる。

『ギース駄目だ!危険すぎる!』

警告するギンガだが、マルグリットのことで頭がいっぱいの彼に声は届かない。がむしゃらに、洗練されていない荒い剣筋で、彼はジャックの足を切りつけ、最後に補食形態で神機にジャックの足からオラクルを取り込む。瞬間、ジャックはギースを邪魔と言わんばかりに蹴っ飛ばした。ただの人間だったら間違いなく体を粉々に吹っ飛ばされていたその一撃は、ギースの身体中の骨を砕いた。もはや悲鳴さえあげれない。

空中で血反吐を吐きながら舞うギースに、止めを指してやろうと、ジャックは無慈悲な光を浴びせる構えをとっていた。

ギンガはこんな状況でも動けない自分を呪った。なんて情けない。ウルトラマンの強靭な肉体でも奴の攻撃を耐えきれないなんて。それ以前に全く歯が立っていない。なんのためにこの力を借りたのだ!

このままだと、今度こそギースが殺されてしまう。

(動け…動けよ!)

ギンガは、ユウは心の中で自分の体に呼びかける。だが大きすぎるダメージが溜まり続け、彼の体は思ったままに動くことが出来なかった。

宙に放り出されたギースに、ジャックは両腕を十字に組みあげた、その時だった。

突如どこからか発射されたバレットが、ジャックの目の前で弾けた。

「グウゥ!?」

眼前にて暴発したそれは、ジャックの視界を閉ざした。爆発の形状が、なぜかバラの形をかたどっていたのが気になったが、今ので奴に隙が生じた。今だ!動け!

ギンガは、動けなかった分だけ温存していた気力を絞り上げ、立ち上がった。そのまま宙に放り出されたギースに向けて駆け出し彼をキャッチ、すかさずギンガセイバーを形成してジャックのアラガミとしての腕を切りつける。悲鳴を上げながらジャックは、捕まえていたマルグリットも手放し、ギンガはもう片方の掌に彼女を受け止めた。

二人を地上に降ろし、ギンガは立ち上がる。二人が顔を上げてギンガの姿を見たが、もうすでに体はボロボロだった。それでも彼は二人を背後に控えさせる形で、目の前のジャックと対峙する。

なんとか、さっきの援護射撃のおかげで二人を救出できた。というか、さっさと動けるようになってほしかったものだと、自分の体に恨み言を並べたくなった。

それにしても、さっきの妙に派手なバレットは…

「二人とも、怪我はないかね!?」

その声が耳に入り、ギンガは気付いた。今のバレットを撃ってきたのは、エリックだ。

「お前、何で来たんだよ!?馬鹿か!?」

「そうですよエリックさん!どうしてここに来たんですか!?近づいたら危険だってわかってるでしょ!」

いつもだったらギースの言い方に注意を入れるマルグリットも、ギースに全面的に同調するように、エリックに怒鳴る。

「偏食場パルスのことかい?わかっているさ、その上で僕は君たちを助けに来たんだ。

僕にとって、仲間を見捨てて逃げるなど、僕の目指すべきゴッドイーターとしての姿からかけ離れている。だから来たんだ」

無謀なことをする人だ、と二人は思った。スサノオ…今はジャックだが、奴の発する偏食場パルスの影響を受けて、助けに向かうエリック自身が精神を狂わされたかもしれないというのに。が、結果的に彼に助けられたので、とやかく文句を言うことが出来ない。

マルグリットの言うことも分かる、だから一刻も早くここから離脱しなければ。ウルトラマンも長くは持たないかもしれないのだから。エリックは一度ギンガの方を振り返る。

彼も今回ばかりは退いておくべきだ。そう言おうと思ったが、目を疑う光景が飛び込む。

再度立ち上がったギンガが、ここは通すまいとジャックと対峙していたのだ。

ギンガは、このままでは倒れてしまう。だがギンガは退く姿勢を見せなかった。

 

今でも痛くて苦しい。でもここで自分が退いたら、ギースたちがこいつの手にかかってしまう。

こいつはタロウの同胞がアラガミ化してしまった存在。それだけにとんでもない力を持ったアラガミとなっている。ならばなおさら、ここでなんとかしなければならない…そう思えてならなかった。たとえこの人がタロウの大事な人だったとしても…

 

――――――大事な人?

 

(僕は…殺そうとしていたのか…タロウの仲間だった人を…!?)

ギンガ…いや、ユウはここにきて、自分でも愚かしいタイミングだと思えるこのときにようやく気付いた。さっきまで一方的にやられていたせいで、なんとかこの場をしのがなければ、そう思っていたから気付くのが遅れたのかもしれない。

しかし、彼が動揺している隙を突いてくるように、ギンガは突如その身に、突然放たれたサーベルの一太刀による強い衝撃を食らってダウンした。

「っぐぁ!?」

「これほどの敵を相手に棒立ちとは、ずいぶん余裕があるんじゃないか?ウルトラマンギンガ!」

ギンガは体を起こすと、見覚えのある怪人が、今の自分と同じサイズで姿を現していた。

「マグマ星人…!」

 

 

「な、なんだよこいつら…!?」

突然現れた三人の怪しい姿の巨人たちを見て、ギースとマルグリットは目を見開く。

「アラガミ、じゃない…?」

あいつらは自分の意思を持って、ギンガに言葉を発している。アラガミに言語能力を持つ奴なんて、自分たちが知る限りその事例はないはずだ。

「確かアラガミを巨大凶暴化させたという怪人か!」

エリックはアナグラで配信されているノルンのデータベースで知っている。アリサがほぼ飛び入りの形で第1部隊に参加した日、グボロ・グビラを誕生させて暴れさせたと。あの時の怪人は一人だけだったが。今度は三人も…!ただでさえあのスサノオ(ジャック)には勝てる見込みが無いというのに、現実とはどれほど自分たちに 試練を与えるのだろうか。

「…」

どの道自分たちには、このままぶつかったところで犬死しかしない。そんな中自分たちにできるのか…一つしか思い浮かばなかった。

「リンドウさんと合流するしかない…!」

 

 

 

「覚えていてくれて光栄だ。しかし、もう忘れることになると思うと、少々物悲しいものだ」

刀身を撫で回しながら、全く悲しみを感じていない、どこか喜んでいるような声でマグニスはギンガを見下ろす。すると、彼の後ろからも新たに巨大な怪人が二人も姿を現す。

「お前たちは…!?」

こいつらもマグマ星人の仲間なのか。アラガミじゃないことは、ゴッドイーターになったこともあって、感覚的に理解できたが、アラガミじゃない敵の出現には驚きがいまだに勝る。

「このTimeを待ってたぜい!アラガミ化したウルトラマンジャックにてめえをぶっ潰させたところを、俺たちで回収。後は…」

「あなたを彼の手で、私たちの仲間にすれば…闇のウルトラマンギンガの完成…ということねん」

「なんだと!?」

ジャックに僕をつぶさせ、僕がこいつらの仲間に…闇のウルトラマンギンガ、だと?新手の怪人、バキとグレイの言葉にギンガは耳を疑った。

「さあて、大人しくMeたちについてきてもらおうかい」

「冗談じゃない…!」

目的は大体だが理解できた。こんな奴らに連れさらわれたりしたら、目的が何であっても、どう考えてもよからぬことをされかねない。

抵抗の意思表示も含め、ギンガは立ち上がる。だが、そんな彼を見てマグニスたちは肩を震わせながら笑った。

「すでにピコピコ鳴ってるわ、ふらついているわ…そんな状態でどうやって俺たちの相手をするつもりだ?」

「黙れ…!アラガミだけでも手一杯だって言うのに、余計な茶々を入れてくるお前たちを無視できるか…!」

タロウから話は聞いている。彼はこいつらのような手合いを何度も相手にしてきたと聞いている。そのいずれもが、一部を除いて地球を侵略しようとした悪党。しかもアラガミよりも巨体サイズになれるのだから、個々の強さに関してはアラガミ以上の脅威だ。

「あたしのことも見てくれるのは、女冥利に尽きるというものだけど、頑張りすぎるのもどうかしらねん。愚かで弱くて野蛮な人間なんかのために、無意味だと思ったりしないわけ?」

「何!?」

ユウとしての行いも含め、自分がやっていることを否定してきたグレイに、ギンガは目を尖らせた。

「アラガミが現れる以前、Meたちの同胞たちはな、何度もこの美しいPlanet地球を乗っ取ろうとした。ことごとくウルトラマンたちに返り討ちにされちまったがな。

しっかし、相変わらずウルトラマンって奴らは無駄なことがHobbyらしいな。人間なんざ、相手を見た目や噂だけで判断することもいとわない、weakでstupidな生き物なのを理解してねえのかねぇ」

グレイに続いてそのように口にしたバキは、呆れた様子でつぶやく。

「こいつらの事情など俺たちの知ったことではない。さっさと捕まえるぞ」

マグニスは、これ以上焦らされるとイラつくだけと考え、サーベルを構えてギンガに真っ先に切りかかった。

応戦するべく、ギンガもギンガセイバーを形成しようとした…が、

(け、形成できない…ッ!?)

右腕のクリスタルから発現するはずのギンガセイバーが、ほんの少し光を帯びた状態でのびた途端に、消失してしまったのだ。

「うらああ!!」

「グハァ!!」

その隙を突いてマグニスは乱暴な立ち振る舞いでギンガの胸を切りつけた。

 

 

「ふぅ…全く脅かしてくれる」

カーゴの外から聞こえてきたうるさい金属音。アラガミでも近づいているのだろうかと思ったイクスは息を吐く。リンドウが神機をぶつけてきている音だろう。

だが、その安心感もすぐに危機感へと一変した。

ザクッ!と音を立てて、ギザギザの刀身の一部がカーゴの角に突き刺さっていた。イクスは絶句する。まさかこのカーゴを突き破ってくるとは!

突き刺さった刀身は、リンドウの神機ブラッドサージの刀身だった。チェーンソーの刃のように刃が回転しながら、カーゴの壁を無理やり切り裂いていく。やがて、その刃は完全にカーゴの壁を切り裂き、リンドウが姿を現した。

「ヴェネ、無事で良かった…ここにいたのね」

リンドウだけじゃない。その後ろにはエリック、そしてギースとマルグリットの二人も健在だった。リンドウだけでは打ち破れなかったカーゴの装甲を、ギースとエリックの攻撃も兼ね備えたことで打ち破ったのだ。

「ヴェネ…」

「ギース…」

しかし、ギースとヴェネは互いの顔を見て気まずい思いを強く抱いた。ギンガを通してジャックの記憶と共に、ヴェネのギースに対する猛烈な嫉妬と憎悪を知ってしまった。そのことが、本来なら喜ぶべきこの再会を台無しにさせた。

「ドクター・イクス!」

「シックザールの犬風情が…!」

入ってきたリンドウは、カーゴ内部を一望する。椅子に拘束されているヴェネ、怪しげな実験器具の山と、壁に設置されているモニターの数々、さらには…なぜだろう、二本角の赤い人形が鳥かごの中に閉じ込められている。

「くそ、ギース・クリムゾンまでも…あいつら何をやっている…!」

ついに侵入を許してしまったイクスは、モニターの一部に移る闇のエージェントたちの姿を見てはき捨てる。仲間がギンガのほうに集中するあまり、こちらのことはそっちのけ扱いの現状に不満を洩らさずに入られなかった。

改めてリンドウの方に向き直り、彼を睨む。

しかも、てっきりジャックとギンガの戦いに巻き込まれたギースとマルグリットも健在だった。ギースたちは、生かしておくことはイクスとしては望ましくなかった。これまで培ってきた自分の…ウルトラマンを制御した究極のゴッドイーターを作り出す研究の情報が少しでも漏れてしまう危険があった。あのまま死んでしまっていれば、アーサソールの情報を欠片も漏らす危険がなくなったものを…!

犬呼ばわりにリンドウは不快感を覚えたが言い返さなかった。…いや、言い返せなかった。少なくとも、ある目的のためにあえて『犬』となっているのだから。

「仲間が仕事中だってのに、一体ここでなにをしてやがったんだ。話してもらうぜ?」

「ほざけ!貴様らには何も話すことは無い!」

イクスはやけを起こしたように、懐から銃を取り出す。それで反撃するつもりかと思い、リンドウたちは身構える。

しかし、イクスが最初に撃ったのはリンドウたちではなかった。その銃口は、ヴェネに向けられていた。

「ヴェネ!」

いち早く気づいたギースが、前にいたリンドウとエリックをはねのけイクスの前に立ち塞がり、銃を握っている彼の腕を掴む。当然二人は銃をめぐって取っ組み合う。その際タロウを閉じ込めた鳥篭が蹴飛ばされ、タロウもその拍子に「おわああ!?」と悲鳴をあげて鳥篭もろとも蹴られてしまうが誰も気づかなかった。

「この、モルモット風情が邪魔をするな!」

腕を捕まれたイクスが声を荒げながら、ギースの腹に強烈な膝蹴りを叩き込む。

「が…!」

「ギース!」

うずくまるギースの元にマルグリットが駆け寄ると、イクスはそれを見てニタッと笑う。今度は彼女に銃口を向けていたのだ。

それに気づいたギースは、とっさにマルグリットをエリックの方へ突き飛ばした。それも狙い通り、イクスはギースに向けて引き金を引く。

撃たれる!ギースは思わず目を閉ざす。しかしその時、鳥篭が蹴られた拍子に籠の入り口が開かれ、脱出に成功したタロウが飛び出した。

「ウルトラ念力!」

「うぐ…!?」

目に見えない波動が、ギースに銃を向けるイクスを襲う。イクスは体の動きを封じられ、バン!と何かを撃ち込むような金属音が鳴り響く。

念力の力により、ギースに向かうはずの銃弾はイクスの方にはね返り、彼の胸を貫いた。

「グハッ…!お、おのれ…人形ごときが」

恨めしく発したイクスは胸を押さえ、立つことができなくなってその場で膝をついてしまう。

「え、あれ…!?」

ギースはてっきり自分が撃たれたとばかり思った。しかし自分の体に銃で撃たれた痛みも傷も無かった。例えギースでなくてもあの反応を示すしかない。リンドウたちが来る前にタロウのことを聞いたヴェネだけは、今のが誰の仕業だったのかすぐにわかった。

「…レフィカル隊長、お怪我は?」

「ああ、問題ない。救出感謝する」

エリックもてっきりギースが撃たれるとばかり思っていたため今の現象に目を丸くしていたが、たまたま視界に椅子に拘束されたままのヴェネが見えたので、すぐに彼を解放する。

「ヴェネ、俺…」

「…その様子だと、『感応現象』で僕の記憶を見たようだな」

「え!?」

拘束を解かれたヴェネを見て、言いづらそうにしながらも、とにかく何か言葉をかけようとしたギースだが、その前にヴェネが彼に向けて問い返してきた。逆に自分がそのことを言おうとしたことを気付かれたギースは驚愕する。

「どうしてわかったんだよ…!?俺、まだ何も…」

「イクスが言っていた。あのスサノオの中には、僕たちが探していた僕の神機が取り込まれている。その神機とお前の間に感応現象が起こって、神機の中に眠っていた僕の記憶がお前の頭の中に流れ込んだんだ」

(感応現象…?)

あまり聞いたことが無かった単語に、リンドウとエリックは自然と耳を傾ける。

「…ごめん、ヴェネ。俺、馬鹿だから何でも軽く考えて、今までヴェネがあんなふうに思っていたなんて気付いてなかった…」

ギースは、あの時垣間見たヴェネの記憶を通して抱いた思いを口にした。対するヴェネは首を横に振る。

「ギース、確かに僕は…お前に対して嫉妬や劣等感を抱いていた。でも、お前が悪く考えることはない。僕が勝手に思っていたことだ」

「けど…」

「それ以前に、僕にも非がある。お前とマリーをこんな戦いの世界に巻き込んだことだ。だから、いつも通りいつもみたいに深く考えるな」

「ヴェネ…」

本人はそう言ってくれたが、すぐに気にしなくなるなんて無理だった。だからせめて、それ以上ギースは言わないことにし、心の中に留め続けることにした。

「見て!ドクターの体が!」

マルグリットが床の上に倒れたイクスに指を指す。全員はそれを見て言葉を失った。

イクスの体が泡となって崩れ落ちたのだ。

ヴェネと、密かに隠れたタロウは正体を知ったとはいえ、知らなかったために驚いたギースたちと同様に、異様な光景に絶句した。

「イクスが泡になって…一体どうなってんだ…!?」

「…いや、今はこんなことよりも、この戦線を離脱するべきだ」

動揺しているギースに、ヴェネは平静さをなんとか保ちながら言った。確かにイクスが泡となったのは気になるが、そんなことをしている場合じゃない。外の状況のこともあり、もはやこれ以上ミッションを続けることは不可能だった。

その時だった。外からズン!と大きな地鳴りが鳴り響く。ちょうどギンガがマグニスの踏みつけを食らった音だった。一同はその正体を確認するために外に出た。

このとき誰も気がついていなかった。

イクスだった泡の塊が、床に染み込むことなく何かの形をなそうと、ひとりでに不気味に動いていた。

 

 

外に出たリンドウたちは、星人を相手にしていたギンガの傷だらけの姿を目の当たりにした。

「ウルトラマン…!」

夕陽を背景に、表情に陰ができていたギンガは痛々しく見えた。星人たちはそんな彼にも容赦せず、ギンガがマグニスによって踏みつけられる姿を見せつける。

「ウルトラマンに気をとられてる今なら離脱できます。今のうちに…」

「待ってくれ!まだユウ君が…」

しかしまだユウだけが合流していないことに気づいたエリックが言う。

リンドウはそれを聞いて、視線を改めてギンガの方に向けた。そうだ、あいつはまだあそこにいる。見るからに満身創痍だった。しかしそれでも彼は、あの怪人たちを相手に退く姿勢を見せなかった。

(なにやってんだあいつは!もう自分でも限界だってわかってるだろ!?)

リンドウはギンガに、ユウに対して憤りに近いものを感じた。自分は言ったはずだ。死にそうになったら逃げろ、隠れろと。だがあいつはそれをやろうとしている姿勢が見られない。ウルトラマンの力なら、何でもできると思い込んでいるのか!?

彼はエリックの方に向き直って命令を下す。

「エリック、すぐに迎えのヘリの手配をしろ。作戦エリア外にアラガミのいないポイントにおろすようにヒバリに連絡入れとけ」

「え、あ、はい!」

命令を受け、エリックは直ちに通信端末を取り出し、連絡を入れた。だが、いざ端末に耳を澄ましてみても、聞こえてくるのはうるさいノイズだけだった。

「駄目です!電波障害が起きて、アナグラと連絡が取れません!」

「っち…!こんな時にジャミングかよ」

舌打ちするリンドウに、ヴェネが口を開いた。

「おそらくあの怪人やイクスが、邪魔が入らないように何か仕掛けたのだろうな。奴らの狙いは、ウルトラマンギンガの捕獲だからな」

「ウルトラマンを捕獲!?」

マルグリットが思わず声を上げる。リンドウはそれを聞いてさらに危機感が高まった。まだ殺さず、あのじわじわとなぶるような攻撃を続けているのはそのためか。

もし奴らの手にウルトラマンギンガが落ちてしまったら、この先の人類の未来が暗闇に閉ざされる。そんな確信がリンドウ、そして密かに着いて来ていたタロウによぎった。

(ゴッドイーターである以上、リンドウ君たちはすぐに動ける状態じゃない…)

ならば自分が先に助けに向かわねば。タロウはリンドウたちに気付かれないように、ギンガ救出のために去って行った。

 

 

「どうして、こんな真似を…!!」

踏まれた状態のまま、ギンガは顔を上げてマグニスを睨み付けた。

「それをYouに話したところでどうなるってんだい?さぁて、大人しくMeたちに従いな。さもねぇと…YouのFriendたちをどうしてくれようかねぇ。少なくとも今のエネルギー切れ寸前のYouでは絶対に守れないだろうしな」

すると、身をかがめて見下ろしてきたバキが彼に代わって、残酷な脅しをかけてきた。

「ふざ、けるな…!!」

ギンガは踏みつけられた状態のまま、地面の土もろとも拳を握り、体に最後の力を振り絞らせて強引に体を起こし、同時にマグニスを押しのける。

「ぬ!まだそんな力があったのか。…いや、もうタイムリミットだな」

転びかけたマグニスだがすぐに体制を整えて直立しギンガを見るが、動揺は一瞬で霧散する。

ギンガのカラータイマーの点滅速度は、極限状態にまで達していた。わずか1秒の間だけで、何十回もカラータイマーが連続して点滅していた。

スサノオと化したジャックは、星人たちが動き出してから、イクスのカーゴから送り込んだ、停止命令を含んだ信号によってその場で立ったままだ。

夕日をバックにしていたことで表情が影で覆われていたギンガは、まるで消えかけたろうそくの炎のようだった。しゃんと身構えようとしてるが、もう歩くことも立つこともままならなかった。

 

 

そして…ついにマグニスのいうタイムリミットが訪れた。

 

 

エネルギーが尽きかけてなお、戦う意志を保っていたウルトラマンギンガ。だが、ついに片膝を着き…倒れると同時に、

 

 

 

幻のように姿を消した。

 

 

 

 

「ウルトラマンが…負けた?」

 

 

 

 

現実を受け止めきれないエリックの呟きが、風と共にかき消された。

 




●Mail

そろそろエピソードのストックが尽きそう…早く続きを書かなければ。

…え?

タイトルが「城ノ内、死す」みたいだって?

細けぇことはいいんだよ!(開き直り)

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