ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
ユウたちは、オペレーション・メテオライトに必要なアラガミ誘導装置の設置を行ったが、自分たちが設置したその装置が禁忌種の攻撃を受けたという話を受け、リンドウとエリックと共に、アーサソールに連れられ直ちに出撃する。
禁忌種とはギース以外戦うことができない。通常のアラガミだけならまだしも、禁忌種との戦いだけは彼に任せるしかないのは変わらなかった。
しかし、新たな禁忌種『ツクヨミ』との戦闘で、再びギースは暴走状態に陥る。
一方、ヴェネはカーゴ内にてイクスによって拘束されてしまう。彼の目的は、普段はゴッドイーターとして留まっているウルトラマンギンガを、アーサソールへ施す洗脳技術で手中に収めることだった。それに気づいたタロウはイクスに歯向うも、逆に自分の襲撃を予測したイクスによって捕まってしまう。
そして、タロウや外にいるギンガ=ユウは予想外の敵と遭遇することになる。
その姿は、コウタから聞いた通りの特徴だった。ウルトラマンに似ながらも、どこかスサノオの特徴を多く備えた姿。プレッシャーがほとばしり、ギンガはそれを肌で感じるあまりすぐに動くことはできなかった。
「ギィ、ス……」
苦しそうに、何やら聞き取りづらい声を発していた。ギースは一瞬、自分が名前を呼ばれているのかと思った。
すると、直後にスサノオ擬きはギンガに向けて駈け出してきた。
「ジュアアア!!!」
(ッ!)
来る!!
ギンガは、考える間も与えられず、襲いかかってきたスサノオ擬きに向けて身構えるしかなく、近づいてきたスサノオもどきに向けて光線を打ち込む姿勢に入った。
前進のクリスタルを紫色に輝かせ、それを向かってくるスサノオ擬きに発射する。
〈ギンガスラッシュ!〉
「ディア!!」
光線は、スサノオ擬きが直進してきたこともあってもろに直撃した。…が。
「アアアアアアアアアア!!!!」
「な…!?」
ギンガは動揺した。光線を正面から受けているにもかかわらず、そのまま突撃してきている。ならばこれで!とギンガは宙に向けて飛び上がり、上空から次の技の態勢に入る。体中のクリスタルを赤く燃え上がらせ、灼熱の隕石を形成してぶつけた。
〈ギンガファイヤーボール!〉
火球はスサノオ擬きに浴びせられていく。やったか?
爆炎の中に姿が消えたスサノオ擬きだったが、ギンガの淡い希望は砕かれる。
炎の中からスサノオ擬きが姿を現したのだ。それも…『傷一つ』ない状態。
だったら!ギンガは次の技の態勢に入る。次はクリスタルから金色の雷をほとばしらせる〈ギンガサンダーボルト〉。闇を切り裂く雷が、スサノオ擬きに向けて放たれた。
「デエエアアアア!!!」
さっきと同様に、スサノオ擬きの周囲が爆発に包まれたが、すぐに奴は軽くいなすように、煙を腕の一振りで払ってしまう。これだけ、これまでアラガミと怪獣の合成生物を倒してきた技を連続して喰らいながら平然としている相手に、ギンガは絶句するしかない。
こいつには僕の…ギンガの技が通じないのか!?
しかし驚くのもつかの間、スサノオは両腕を…
十字形に組み上げてきた。
(あの構えは!)
驚きが抜け出せなかったために空中で静止していたギンガ。避けるのに反応を遅らせたために肩に直撃する。
「グアァアアアアアアア!!」
スサノオの右手から発射された光線を受けたギンガは地上へ落下し激突する。
(こ、光線…!?)
光線を受けたダメージですぐに立ち上がれず、顔をあげてスサノオ擬きを見るギンガ。
彼の脳裏に、あってほしくなかった予想が過る。奴の身体的特徴、今の光線…
そのまさかの予想は、的中していた。
「あ、あぁ…!!」
信じられない、信じたくない現実を、イクスがカーゴ内に設置した用意したモニターから見せられたタロウは、全身を震えさせた。
ツクヨミを捕食してギンガとギースの前に現れたアラガミは、スサノオの姿に加え、タロウがよく知る戦士の特徴を備えていた。
それに今ギンガに発射した光線にも深く覚えがある。あれは、〈スペシウム光線〉だ。
タロウが良く知る戦士、それは……
かつてこの地球にウルトラマンという存在が認識されていた頃、この地球を幾度も危機から救い出した光の英雄『ウルトラ兄弟』の一人…
「なぜあなたがそこにいるのですか……ジャック兄さん!!」
『ウルトラマンジャック』だったのだ。
そう、ウルトラマンジャックはタロウ同様スパークドールズ化してしまったところを…
スサノオに捕食されてしまい、結果的に自分たちの使命を継いでいたウルトラマンギンガの敵として、立ちふさがってきたのである。
『無双武神・ジャック』として。
(これが……タロウが言っていた、兄と慕うウルトラマン…だった人なのか…!?)
ギンガ…ユウも、相手がタロウの身内ということまでは知らないが、それでもあのスサノオの正体が、ウルトラマンとアラガミの合成神獣ということには気付いている。
タロウが暇なときに話を聞かせてくれた…光の国の兄弟たち。彼が尊敬する先代ウルトラ戦士の一人が…アラガミとなって自分に敵意を向けているのだ。こんな恐ろしいことは夢であってほしかったことだ。それはタロウの方がそう思っているに違いない。
しかし動揺の暇など無かった。すかさずジャックはギンガに向けて、左手首をかざす。すると、ジャックはそれを右手で触れるとその手に光輝く刃を出現させ、ギンガに向けて投げつけた。
それを、身を反らして回避したギンガだが、よけきったと思った途端、空中でその刃はギンガの足を切りつけた。
「グゥ…!?」
鋭利な光の刃によって右足の肉を切り裂かれ、ギンガは膝を着いた。激しい激痛だった。まるで骨の辺りまでえぐられたような、どこまでも体の芯に突き刺さる痛みだった。
しかし、ジャックはすかさず彼に追撃を加えてきた。
近づいてきたジャックは腕を伸ばし、その腕を通常のスサノオだった頃の捕食形態に変異させ、ギンガに食らいつこうとする。ギンガはそれを飛び退くことで避けると、彼の背後の地面に何かが突き刺さった音を聞いて足を止めた。
振り返ると、ジャックの尾から延びた槍が、首を亡くしたツクヨミの遺体を貫いている。その尾は引っ張りあげられると、今度はギンガを貫き刺そうとうねりながら再び襲ってくる。
頭上からだと空から降り注ぐ雨、横や正面からだと自分を狙い打とうとする弾丸のようだった。しかし食らえばただでは済まない。
ギンガは光の剣〈ギンガセイバー〉を形成、自ら剣を振るってジャックの槍を弾く。だが必死に弾いていっても、ジャックの槍の方が圧倒的に速く、ギンガはそれに追い付けなくなっていく。さらには足を切り裂かれた痛みで動きが鈍ってしまっていたため、ついに一撃肩に槍の刃先が突き刺さる。
「グアアアァ!!」
ギンガは、今度は突き刺された肩を抑えて絶叫した。
そこからは、まさにウルトラリンチというべき有り様だった。拳の一撃全てが、ギンガの体に深くめり込み、今にも体を引き裂かれるような痛みを与える。
ギンガの技はことごとく通じず、逆にジャックが徹底的に追い詰めていった。
「兄さん…なにをしているんです!やめろ!やめてください!!」
カーゴ内の、自分を閉じ込めている鳥篭をガシャガシャ鳴らしながら、タロウはモニターに映されたジャックに向けて叫んだ。
「無駄だ。このカーゴから発している信号によって、あのウルトラマン…ジャックは意のままに動いている。アラガミに取り込まれ、もはや怪物と化した貴様の兄に、貴様の声は届くはずも無い」
イクスは、ひとりでに動く哀れな人形を見下ろし、それをこっけいに感じて笑った。視線を、椅子に拘束されているヴェネに向ける。
「どうだいヴェネ君。ウルトラマンさえも私は制御することが可能となったのだ。それも、アラガミと一体化し究極の生命となった存在をね」
彼の言う通り、アラガミとの合成生物と化したジャックは圧倒的だった。これまで合成神獣を打ち破ってきたギンガの技が全く通じていない。その驚異にヴェネも戦慄を覚えざるを得ない。
「…こんなことをして、一体どうするつもりだ」
「なに、後で別地点にて待機している私の仲間が彼を回収する。後は、私の放つ信号でギンガの人間体を洗脳し、次はジャック…奴を倒させてスパークドールズを回収。その後は………くくく」
いわずともわかるだろう?と言いたげな笑みに聞こえた。
きっとその先に、この男がやろうとしていることは、さっき彼自身が口にした目的からたやすく想像できた。
ギンガをあえてスサノオに取り込まれたジャックの手で倒させたところを、変身が解けたユウを回収、洗脳する。そしてギンガをその状態で復活させて、今度はジャックを倒させてスパークドールズを回収させる。後は、後に配属されることとなるアーサソールの隊員にウルトラマンのスパークドールズを与え、究極の殲滅部隊を完成させる。
そんな究極の殲滅部隊を完成させることは、確かにアラガミの脅威から絶対的な盾となれるかもしれない。しかしこの男の正体を考えると、そんな希望的観測など抱けるはずも無い。なぜなら…こいつもマグマ星人たちと同じ、ウルトラマンを敵視し、この世界を狙う『闇のエージェント』なのだから。
「まぁ、私が命令を送らなくても、あのアラガミはスサノオのままだとしても、ギース・クリムゾンを地の果てまで追って殺す。何故ならあれは、ウルトラマンジャックであるが、同時に君の影でもあるのだからね」
「影だと…?」
何を言い出すのだ。理解できないヴェネに、イクスは説明する。
「あのウルトラマンとスサノオの合成だが、実はスサノオの体内には、かつてスサノオに食われた君の神機が取り込まれていることがわかっている」
ヴェネの目が見開かれる。ギースたちと共に、アーサソールとしての任務を続けているさなかずっと探し続けていた、スサノオに食われた神機が、ウルトラマンと一つになったあのアラガミの中にあるというのか!
「君の頭に埋め込んだ装置と、奴が捕食した君の神機との交換作用により、君の感情を受け取ったことで、あのスサノオとウルトラマンジャックの合成体は、ギース・クリムゾンをツクヨミから救いに来ると同時に殺しに来たのだ。
ツクヨミの出現地に、いつもどおり我々が来て、ギース・クリムゾンが危機に陥れば、必ず現れると踏んだよ」
「もしそれが本当だとして、なぜスサノオがギースを狙うんだ…!」
あのスサノオが…ジャックが偏食場パルスの交換作用で自分の感情をそのまま受け止めているのなら、仲間であるギースを殺すことなどできない可能性がある。それでも見ての通りギースやウルトラマンギンガを襲っているのは、やはりアラガミとしての本能が抑えられないからなのか?
すると、ヴェネの心を奥底まで見透かすような視線を、イクスはヴェネに向けてきた。
「引退したゴッドイーターが現役のそれに対して、どう思うか、君は考えたことはあるだろう?」
「耳を貸すな!こんな男の言葉に惑わされてはいけない!」
「他人の貴様が話を阻むな。私はレフィカル君に問うているのだ」
自分の言葉を強く否定したタロウの言葉をイクスは黙らせる。
ヴェネは一方で、どう言うことかなにも言わない。否定したくても、それが出来ない、そんな感じの苦痛の表情だった。それを見てイクスは笑う。
「その暗き闇の心を晴らす機会を与えてやろうじゃないか。
さあ、神の力を得たウルトラマンジャックよ。レフィカル君の暗き情念を、お前の血染めの手で晴らしてやれ!ウルトラマンギンガとギース・クリムゾンの命を代償に!」
「…ッ!!」
リンドウとエリックを下ろし、グレイヴを運転してギースを助けに向かうマルグリット。その際、ウルトラマンギンガと、アラガミとなったジャックの対峙を目の当たりにして…、一度運転を止めて窓から外の様子を伺う。なんという破壊力のぶつかり合いなのだ。こんな怪物同然の存在同士の戦いの場、赴けた自分もただでは済まされないのは明白。
いや、それでも今はギースを回収しなければ!あれだけの巨体同士の存在の戦う傍にいるのだ。だからこそ行かなければ!
「待ってて、ギース!」
すぐ助けに行くから!マルグリットはアクセルを踏んでグレイヴを再発進させた。
「っくしょう…!!」
リンドウは悪態をついていた。
今、彼はカーゴの前に立っていた。マルグリットに言われた通り、この中に引き込もっているイクスを引っ張り出してくるように頼まれたが、いくらノックしても、扉に拳を叩き込んでも、うんともすんともいってこない。この状況下、イクスの自分に対するシカトっぷりにはさすがのリンドウもキレたくなった。こんなときにあの陰険そうなドクターは何をやっているのだ!
現に今、またギンガが現れ、巨大アラガミと戦っている。
しかも今度現れた奴はこれまでの敵とはあまりにも桁違いで、ギンガがまるで歯が立っていなかった。
そして苦戦を強いられているギンガの正体は…
あの激闘の激しさと、接触禁忌主の持つ偏食場パルスの影響を考えると、近づきたくても近づけない。だが時間がない。すでにギンガのカラータイマーは点滅を開始し始めていた。
こんなところでぐずぐずしてる場合じゃない。彼は強行手段をとることにし、神機をカーゴに向けて構えた。
エリックは再び姿を現したウルトラマンギンガに希望の光を見出したが、それはすぐに消え去った。ウルトラマンの光線に対して、あのスサノオはまるでびくともしていない。
なんと言う強敵なのか。こればかりはさすがにまずい。
(ギース君を見捨てででも、ほかの皆で撤退すべきか…?)
合理的だとは思うが、その考えをすぐにエリックは却下した。仲間を見捨てるゴッドイーターなど、華麗なわけが無い。そんなのは自分のプライドが許せなかった。何が何でも助けてこそ、真の華麗なるゴッドイーターというものだ。たとえ、愚か者とののしられることになっても。
そんな彼の感情を、さらに後押しするような光景を、彼はすぐに目にした。マルグリットが運転しているグレイヴが、ギンガとスサノオ…ジャックの方に向かっている。
「いかん、マルグリット君!戻りたまえ!今度ばかりは危険すぎる!」
危機感を覚えたエリックは、思わず声を上げる。さっきはスサノオが発している接触金機種の偏食場パルスの影響のことで、ツクヨミからギースを救うためにゴッドイーターではない故にパルスの影響を受けない彼女が近づき、その援護をユウと自分が行うことになっていたが、今度ばかりは状況が悪すぎる。なにせ50mもの巨体を誇る存在同士の争いなのだ。アリを踏み潰すかのごとく、彼女の命がないのが目に見えた。
近づけば、偏食場パルスの影響を受けてとち狂うか、ギンガとスサノオの戦いに巻き込まれて無駄死にするか…。
いや、行くしかない!
エリックはバレットを神機に装填し、駆け出した。
「うおあ!!」
戦いの余波はすぐ近くにいたギースにも及んだ。彼のすぐ近くの地面が、ジャックの光線の余波でえぐられ、彼もその身を風圧で煽られる。
落下してその身を地面に打ち付けたギースは、すぐに立ち上がる。
「くっそがあああ!」
暴走の影響がまだ残っているせいか、ギースはまだ興奮気味だった。バレットを乱射し、スサノオの体に当てていく。神機に内蔵しているオラクルを絞り出すように。こいつを食らったスサノオが怯まなかったことはなかった。最もふつうのスサノオでも、この乱射を回避せずに食らえばの話だが、今回は全部当てることができた。しかもアマテラスの素材を取り込んだことでギースの神機は強化されていた。
…しかし、バレットを食らったことで巻き上がった煙が晴れた時、スサノオ擬き…アラガミ化したウルトラマンジャックの姿を見てギースは絶句する。
「…!?」
無傷、そう…全くの無傷だったのだ。
そんな馬鹿な…!?これまで腐るほどアラガミと戦ってきたが、こんなことは初めてだ。禁忌種を狩り続けてきた自分の腕に自信があっただけに、ギースは驚愕させられる。
そんな彼に向けて、ジャックは尾の槍をギースに向けて伸ばしてきた。ギンガはそれを見て体を起こそうとしたが、刺された肩の傷みと足の傷みが走って動きを止めてしまう。だったら、ここからもう一度光線を打ち込んで牽制するしかない。ギンガは一発だけギンガファイヤーボールを放ち、ギースを狙っていたジャックの足元を焼く。ジャックが足を止め、その間にギンガはギースの元へ、足を引きずりながらも急いで助けに向かう。
なんとかギースの前に立ち、彼を強引に手の中に納めた。ギースの驚きの声が聞こえたような気がしたが、気に止めなかった。
しかし、足を止めていたジャックがすでにギンガたちの背後に迫っていた。一瞬だけで眼前に飛び込んできたジャックに向かって振り返る。
つかみかかってきたその腕で、自分の首を掴まれた。
(は、離れない…!?なんて力だ…!)
当然ほどこうとしたギンガだが、予想以上にその力は強かった。本気の力を振り絞ってでも奴の腕を振り払おうとしても、ちっともほどける気配がない。
これでは窒息するか、それとも最悪首を脊柱ごと…なんてことを想像してしまう。
「……タ…ウ…」
一瞬、ギンガは動きを止めた。何か聞き覚えのあるような声が、スサノオもどきから聞こえてきたせいだ。
その時だった。ギンガとジャックの腕が繋がりあった時、ギンガの…ユウの頭の中に、何か奇妙な記憶が流れ込んできた。
(こ、これは…!?)
しかしそれは、ギンガの手の中にいるギースの頭にも、流れ込んでいた。
記憶の中には、ある光景を描いた映像が再生された。
闇に包まれた暗黒の星。その世界は、各地で起こる戦いの戦禍によって発生した炎で照らされていた。
『なんだ、この景色は…!?』
非現実的なヴィジョンに、ユウは息を飲む。いや、この景色は…ギンガスパークを手に入れたときと…
しかしその星を照らしていたのは、戦いの炎だけではない。怪獣たちと戦う光の戦士たちの持つ光によっても照らされていた。
数多の光の戦士たちが、数百を超える怪獣軍団と交戦する。
「くそ、こいつら…!!」
一人のウルトラ戦士の一人が、全く減ることのない怪獣たちの攻撃に痺れを切らしたように声を荒らげる。
「兄さん、このままでは我々のエネルギーが尽きてしまいます!」
その言葉と共に、一人のウルトラ戦士が、鋭いくちばしを持つ赤い鳥をヘッドロックで動きを封じながら、こちらに呼び掛けてきた。
その戦士には覚えがあった。
『タロウ…!?』
ユウは今の戦士が、タロウだと気付いた。ただ、小さな人形として留まっている普段の姿ではない。ギンガにライブしたときの自分と同じ、ウルトラマンとしての姿を保っていた。
「諦めるなタロウ!ここで我々が倒れたら、誰がこの宇宙を守るのだ!?」
もう一人別の声が聞こえてきた。ほかのウルトラマンだろう。だが、『こちら』に話しかけてきたタロウ以外に声をかけてきたのは誰もいない。おそらく、『こちら』の視点の主のウルトラマン…ジャックがタロウを叱責したのだ。
戦いは怪獣と邪心を抱く異星人。平和と正義を尊ぶウルトラマンたち光の勢力軍。あらゆる世界から呼び寄せられた戦士たちが二つに別れて、激しい激闘を繰り広げていた。
しかし、光の戦士軍は次第に劣勢に立たされていた。それは、この不思議なヴィジョンを見ているユウからみて、アラガミの脅威さえもそのときは忘れてしまうほどだった。
それでも互いに補い、言葉を交わしあいながら、ウルトラマンたち光の戦士たちは戦い続けてきた。この戦いの先、少なくとも諦めずにいれば平和を取り戻せると信じて。
だが、そんな景色もすぐに変わる。
戦いを続けるウルトラマンたちの頭上。そこに煙のように立ち込める、暗い闇が吹き上がりだした。
こいつは煙でもなければ…ただの闇なんかではない。強大すぎる、邪悪な力が…捕食本能の塊であるアラガミよりも、あらゆるものを飲み込んでしまいそうな…一言で表すなら、まさにその闇は『ブラックホール』そのもののようだ。
ユウはそれを見て、強烈な恐怖と戦慄と感じる。
それだけじゃない。闇の中に、何かが見える。あれは…
(巨人…?)
ウルトラマンよりもさらに一回り大きな、闇の中で巨大な影が、ところどころから赤い光をちらつかせていた。あれが、この得体の知れないプレッシャーの正体なのか?
その影は、地上で争っているウルトラマンや怪獣たちの方を振り返ると、彼らに向けて影の中に隠した、闇の見えざる手を突き出す。すると、黒い煙のような闇が放射され、地上にいる彼らに浴びせられていく。
無差別に蔓延していくその闇は、次々と怪獣や異星人、そして光の戦士であるウルトラマンたちをも飲み込んでいく。
その闇に、タロウも巻き込まれかけていた。
「く、ウルトラバリア!」
タロウはバリアを発生させて身を守るが、闇は足元や横、そして図上からも彼を飲み込んで食らおうとする。すでにタロウの体を、闇が覆いつくそうとしたときだった。視界の主であるジャックが、強引にタロウを、まだ闇が蔓延していない方角へと投げ飛ばした。
飛ばされたタロウは地上を転がされ、顔を上げる。このヴィジョン内では、地に這い蹲るタロウがこちらに顔を向けているという様子だったが、ジャックがすでに闇の中に呑まれているのが察せられた。ジャックが闇に対して抵抗を見せるも、体を包み込んでいく闇はジャックを闇の中に溶け込ませていく。
「ジャック兄さん!!」
「このままでは我々は全滅する!そうなる前にタロウ、お前はできうる限り、生き残った手勢を集め、ここから急いで離脱しろ!」
「そんな、駄目です!私などよりも、兄さんの方が生き延びるべきだ!」
「来るなタロウ!もう俺は闇の中に溶け込むだろう。お前までこちらに来たら巻き添えを食らうぞ!」
「しかし…」
「いい加減にしろ、タロウ!メビウスほどの戦士を鍛えるだけの才をも発揮しておきながら、また甘えたことを抜かすつもりか!
まだ大隊長たちもどこかで戦っているはず。いいか、俺の言う通りまだ生き延びている戦士たちをかき集め、この戦場を脱出しろ!」
そのときの、ジャックの視界が…ユウが見ているヴィジョンが闇の中に包まれ始めていた。タロウの姿も見えなくなっていく。
かろうじて見えたのは、タロウが必死に届かない手をこちらに、ジャックに伸ばそうとしている姿だった。
「兄さん、ジャック兄さあああああん!!!」
タロウの最後の叫び声を最後に、ヴィジョンはそこで切れた。
今のは、間違いない。タロウが人形にされる直前にどこかで起きた出来事だ。しかしどうしていきなりあんな景色が、一瞬で頭の中に流れ込んできたのだ。
何かを…ジャックが伝えようとしているのだろうか。
だが、ユウの頭の中に流れ込んだ記憶は、ウルトラマンジャックのものだけではなかった。
今度は、全く異なる景色がユウの脳裏に流れ込んだ。
新たなヴィジョンから感じられるのは…危機に陥っても闘志を失わなかったウルトラマンジャックの不屈の精神と異なり、激しく陰鬱とした嫉妬や劣等感というマイナスなものだった。
景色は、アナグラの中に似た建物。正面には、ギースとマルグリットが楽しそうに会話をしている姿。
―――なぜ、なぜ僕なんだ。なぜ僕に見せ付ける!
―――なぜ僕だけ戦うことができないんだ!神機さえあれば、僕だって…!
―――僕だって守りたい…それなのに…
―――なぜ僕を選ばなかったんだ、マリー!!
(…ッ!)
ギンガ…ユウが受け止めた、ヴェネの暗い情念。
彼は、新型ゴッドイーターでありながら、スサノオに神機を食われてしまったために引退を余儀なくされてしまった。生き残れただけマシともとれたが、同時にそれはヴェネに、己の無力さに対する生き地獄を与えていたのだ。
そしてヴェネは…気付いたのだ。マルグリットが一番誰を想っているのか。
ジャックの動きが止まった。その隙に、腕の中にギースを抱えたままギンガは、奴から距離をとった。
「…ギィ…ス……ロウ」
ギンガは気付いた。こいつがさっきからつぶやいていたのは、ギースとタロウの名前だったのだ。ジャックとヴェネの記憶を持っているために、こいつは彼らの名前を口にしている。
(けど、なんであんなものが僕の頭に…!?)
理由がわからなかった。最初の、ウルトラマンジャックの記憶と思われるヴィジョンについては、もしかしたらジャックが自分に何かを訴えようとしている意思があると考えれば説明がつくが、ヴェネの記憶のヴィジョンの話となると、理由がわからない。寧ろ他人には明かされたくない記憶を垣間見てしまったとしか思えない。
「っぐ…」
ギンガはそのとき、うめき声を上げる。ジャックから受けたダメージで、膝を突いてしまった。それでも腕の中にいるギースを落とさないように、ゆっくり手を地面に置いてギースを下ろした。
ギースに怪我はなかった。体の痛みが気になるが、それについてほっとしたギンガ。しかし、ギースの様子がおかしかった。
「…ヴェネ…」
ギンガの手から下りた彼は、ジャックを…スサノオを見上げながら呆然としている。さっきまでの暴走気味の様子と比べ、落ち着きを取り戻したとも見えるが、戦意喪失していると見るべきだった。なぜこんな状況で!?
(まさか、ギースも…!?)
今のジャックやヴェネの記憶の一端を見てしまったのか?
そう考えるとギースがこの状況で立ち止まってしまったことにも納得がいった。後半のヴェネの記憶から知ってしまった、ヴェネのギースに対する嫉妬と憎悪の感情が、彼から戦う意思を奪ってしまったのだ。
ずっと一緒だったギースとヴェネ、マルグリット。ヴェネはギースがそうであるように、マルグリットを一人の女の子として大切に想っていた。しかし神機を食われたためにそんな彼女を守ることができなくなり、逆にマルグリットから目を向けられていたギースがその力を持ち続けている。ずっと守ってくれていたヴェネがそんな風に思っていたなんて…。二つの事象からなる嫉妬と憎悪に気付けなかったことに、ギースは自分を呪い始めた。
これは自分に対する…罰なのだと。
すると、スサノオが…ジャックが再び動き始めた。しかも狙っているのは…ギース!
『いけない…!』
ギンガはすぐに動き出して、ギースに向かってきたジャックから、彼を守ろうと立ちふさがる。しかし、今のギンガはすでに満身創痍だった。駆け出しざまに食らったパンチで殴り飛ばされ、簡単にギースの元から引き剥がされてしまった。
「グフッ…!」
再び地面にダウンさせられたギンガ。顔を上げると、尾の槍…かつてジャックがウルトラマンとして使っていた武器の一つ…〈ウルトラランス〉がギースを貫こうと振りかざされていた。
手を伸ばすが、やはり届かない。援護しようにも、すぐにそれができるほどの余裕はギンガにはなく、ただギースが串刺しにされるのを黙ってみていることしかできなかった。
「逃げろ…逃げるんだギース!!」
ユウとしてのありったけの声で叫ぶ。だが、ギースは動かなかった。手から神機を落としてしまい、例えここで気力が戻っても彼に逃げる余裕などなかった。
槍が彼を貫こうと、まっすぐ伸びてきた。
そのときだった。
「ギーーーーーース!!!」
マルグリットの声が轟いた。同時に、彼女の運転していたグレイヴが、ギースとジャックの間に割って入り、ウルトラランスの刺突攻撃をその装甲で受け止めた。
グレイヴは、アラガミからの襲撃に備えてアラガミ防壁と同じ素材で出来上がった移動拠点。しかし防壁が何度も破られ防衛班をはじめとしたゴッドイーターたちがその度に侵入したアラガミを拾蜂しているように、グレイヴの装甲も無敵ではなかった。
貫かれたグレイヴが、無残に爆発を起こした。
中にいたマルグリットを、巻き添えに…
「ッ!!!」
ようやくギースは、意識を戻した。目の前に飛び込んだのは、自分を守るために現れたグレイヴが爆発で燃え盛る光景だった。
ギンガも、グレイヴの爆発する光景に絶句し、呆然とした。
「あ、あぁ…」
マリーーーーーー!!!
今まで気付けなかったヴェネの感情に対する後悔と重なり、グレイヴに乗っていたマルグリットへの後悔の念のあまり、ギースは叫んだ。
●NORN DATA BASE
・無双武神ジャック
スパークドールズと化したウルトラジャンジャックがスサノオに捕食されて誕生した合成神獣。素材となったのがウルトラマンであることに加え、アラガミの中でも強力な部類である『第1種接触禁忌種』であるため、間違いなくこれまで登場した合成神獣の中でも最強。
これまでジャックが使ってきた『スペシウム光線』などの光線技を使う他、『ウルトラブレスレット』から繰り広げる武器も扱う。
ウルトラランスはスサノオから引き継いだ尾の先から生え、あらゆる敵の体を貫くほどの鋭さを持つ。両腕は、普段はジャックの頃と同じ普通の腕なのだが、スサノオのように神機の捕食形態状のものや、ボルグ・カムランのような盾に変化することが可能。ちなみに盾もウルトラブレスレットの武具の一つである「ウルトラディフェンダー」である。
見た目は『Another Genesis』に登場したジャックの姿とよく似ている。そちらのジャックは、見た目だけなら全くの別人…というか怪獣のようにも見える。
・ウルトラマンジャック
『帰ってきたウルトラマン』の主人公。ジャックという名前は放送当時の名前ではなく、後年で名付けられたもの。
「ウルトラ兄弟」の4番目の戦士で、宇宙警備隊に所属するウルトラマンの中でもベテランかつ最強の戦士の一人だった。
人間の姿の名は『郷秀樹』で、元々ジャックとは別の存在だった地球人である。恋人や家族を星人に暗殺されるなどの辛い戦いを送ってきたが、それでもウルトラマンとして凶悪な星人や怪獣と戦い抜いた。