ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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神となった光の戦士

現場である誘導装置設置地点。そこの廃ビルの屋上に、今回のターゲットがいた。

一つ目の青い巨人型のアラガミだ。ここへ来る途中のイクスが、本部からそのアラガミの名前は『ツクヨミ』と名づけられた。

青い身体中からシリンダーのような突起を生やし、金色の頭髪のようなものが生えている。

「あんなアラガミ、見たことないぞ」

停車させたグレイヴの窓からツクヨミの姿を見上げながら、エリックは呟く。ユウも外で暮らしていた頃、アラガミを数種類ほど頭に記憶していた。だがツクヨミは、今まで会ってきたアラガミと比べて異様な姿だ。

「リンドウさん、あれは何から進化したんですか?」

「強いてあげるなら、コンゴウ堕天種だが、まさに猿と人間の差だからな。俺も検討がつかないな」

「ドクター、何か、何か情報ないんですか!?」

「あるなら教えている。あれは既存のアラガミとは全く異なる進化をたどったミッシングリングかもしれん』

つまり、新種といっても、フェンリルで確認されている既存のアラガミの亜種『堕天種』でもない、言葉通の完全な新種ということになる。

「こんなときに、君たちの隊長はどこに…」

こんな未知の敵は、出現すること事態は可能性のうちにあったはず。

だというのに、ここにいるはずの…アーサソール隊長であるヴェネが、なぜかここにはいなかった。

エリックの口にした疑問は、まるでヴェネが臆病風に吹かれてたからここにヴェネがいないんだ、そんな風に聞こえた。ギースの頭の中でプチンと何かが切れるきっかけとなる。

「てメェ、ヴェネを臆病者だって言ってんのか…このナルシスト野郎っ!」

「ひ…」

「ギース!」

マルグリットが引き留めるように彼の名を呼んだが、今のマルグリットはヴェネの代わりに運転席にいるため、すぐに止めに行くことができなかった。

代わりに彼を止めたのはユウだった。後ろから羽織い絞めで彼の動きを封じた。

「止すんだギース!味方同士で殴りあってどうするんだ!」

「離せ、離せよ!だってこいつはヴェネを…」

「エリックはいないことを口にしただけで、君が勝手にそう思ってるだけじゃないか!いいから落ち着くんだ!」

そうだ、「怖くなったんだよ、あいつは」なんてエリックは言った訳じゃない。やはりマルグリットが気にしている通りかも知れない。ギースとは知り合ったばかりだが、短気すぎる。いったいどうしたというのだ。

「いい加減にしとけ!」

ついには、普段は怒ったような口をほとんど叩かないリンドウから、強い怒鳴り声が轟いた。

「そのイラつきはアラガミを倒すときにぶつけろ」

それは、ギースがヴェネから何度も言われた言葉だった。

リンドウだけじゃなかった。マルグリットも運転席から降りてきてギースに目だけで「止めて」と訴えていた。

「ギース、お願いだから…」

ギースは、自分が普通じゃなかったことにようやく気づいて落ち着いた。

「大丈夫、エリック?」

「あぁ…」

「…出るよ、開けてくれ」

ユウはどつかれたエリックを支える。それを見てどこか逃げようともしてるともとれた言い方をしながら、ギースは整備台の上の神機に触れる。マルグリットの手で整備台の神機の固定具が解かれ、休眠状態から目を覚ました神機を手に取ったギースは、開かれたグレイヴのハッチから外へ飛び出す。

気をつけて…ギースを見送りながら、マルグリットは小さく呟く。

それをユウたちも見送るなか、ポケットに隠れているタロウがユウにテレパシーを送ってきた。

『…ユウ、禁忌種というものは、近づいたゴッドイーターの精神に影響している。そうだったな?』

『うん、そう聞いてる。でもギースはその禁忌種を倒すのが仕事だろう?だったら、禁忌種の偏食場を相殺するための対策もあるはず…』

だから通常のゴッドイーターである自分たちは禁忌種の偏食場を相殺できないので、極力ここで待機させられている。

ちょっと今更な感じを漂わせる確認。なぜタロウは今になってそんなことを尋ねてきたのか。

『本当にそう思うのか?』

しかし、タロウは話を続ける。

『ギースのあの短気ぶりは、彼を知ったばかりの我々から見ても異様なことは、君でも察しているはずだ。マルグリットが止めにはいれば大人しくなるとしても、あれほどまでだと、集団行動において高いリスクを抱え込んだも同じではないか?』

『確かに…』

タロウの言う通りだ。それにマルグリットでさえ今のやたら短気なギースに不安を感じていたことをユウに明かしていた。

『…ユウ、少し気になることがある。今から少し場を離れるが、構わないかね?』

『え?』

タロウがこの状況下で一度この場を離れるという提案を出してきたことに、ユウは少し困惑した。

 

 

予想はしていた。自分が苦戦することは。しかし苦戦する状況に陥るといつも落ち着かないのは変わらなかった。

奴は地を這うアメンボのように体をくねらせ移動しながら、ギースを襲った。すぐに避けたギースは銃形態に切り替え、ツクヨミを撃つ。マルグリットお手製の数発ものバレットレーザーがツクヨミを襲う。彼はその際、火・氷・雷・神…瞬間的にバレットを切り替えていた。どの属性が奴に効くのか確かめるためである。結果、着弾したバレットの中で、ツクヨミは神と雷のバレットに対して怯んだ姿勢を見せた。

「よし!」

ギースの神機の刀身、神蝕剣タキリは神属性。奴の弱点を突ける!しかし、神機を剣に切り替えた瞬間、ツクヨミの一つ目が光り、勘を研ぎ澄ませた彼は身をかがめる。その直後、彼の頭上を、奴の目から放たれたレーザーが突きぬけ、地面を焼いた。

危なかった、遅かったら…頭を失っていたところだ。首をもがれた姿なんて、マリーたちには見せられない。彼は懐に飛び込むように姿勢を低めたまま、ツクヨミに向かい、剣を振るった。

だが、奴の肢体に届く前に、ツクヨミの髪がギースの神機をガードした。剣をはじかれてしまい、彼の胸元ががら空きになる。そこに向かって、ツクヨミの髪が鋭く振るわれ、彼の胸元を斬りつけた。

「ぐあぁ!!」

鋭い痛みを感じ、ギースは胸を押さえる。さらに追い打ちをかけに、ツクヨミは単眼からオラクルのビームを放った。倒れざまに、ギースはただちに神蝕盾イキオシを展開。直後にツクヨミのビームが、盾を展開した彼に浴びせられる。盾のおかげで、ダメージは免れることができた。

「この一つ目野郎…やりやがった…なッ!?」

踏ん張って立ち上がったギースだが、直後に体に猛烈な虚脱感を覚えた。この状態には覚えがある。ヴェノム状態…つまり毒だ。

しまった、動きが鈍った…!

ギースがふらついたところで、ツクヨミの頭の後ろにある金環が輝いた。

 

 

「まずい、奴の攻撃がくる!」

グレイヴから見ていたユウ・リンドウ・マルグリット・エリック。しかし彼らは力を貸すことはできない。なぜならユウたちゴッドイーターが外に出れば、ツクヨミの禁忌種特有の偏食場パルスによって狂わされてしまう危険がある。かといってマルグリットでは話にならない。彼女はそもそもゴッドイーターではないため戦う力などない。

「ギース、逃げてギース!!」

窓にすがりつきながら、マルグリットは悲鳴に近い叫び声をあげる。

このままではギースが殺されてしまう。

「ドクター!応答して!早く!」

マルグリットはカーゴにいるイクスにすぐ連絡を入れたが、全く応答がない。いや、連絡を入れたところで無駄なのだ。イクスでさえツクヨミに関して何の知識も持っていないのだから。

「ギース、今行く!」

やはり、ここは助けに向かうしかない!ユウは踵を返してグレイヴの入口に向かう。

「ユウ君、待ちたまえ!何をする気だ!」

すかさずエリックが引き留める。当然リンドウも口を挟んできた。

「お前、外に出る気か!危険だ!」

「ユウさんダメです!外に出たらあなたも偏食場パルスの影響を受けてしまいます!」

マルグリットもギースらと共に禁忌種の相手をし続けてきた。それに連なる知識と、危険度もここにいる誰よりも熟知している。

「だがこのままだとギースが死ぬ!」

ユウは反論する。いくらミイラ取りがミイラになるとしても、ギースを見捨てられないのは彼らとて同じはずだ。

それに…ユウにはただ一つ残された、ギースを救う方法がある。それを使うしか、ここにいるみんなが助かる手段が思い浮かばない。そのためにも、正体を隠しつつ外に出て変身しなければならない。

その直後だった。イクスの金環の光がギースを飲み込んでしまった。

「ぎ…!!」

ギース!と呼ぼうとしたマルグリット。しかし、彼を包み込んだ光は、ギースの周りで激し爆炎を起こした。

爆発によって炎が立ち上る中、マルグリットは自分の心の中に絶望と悲しみが生まれるのを覚えた。

 

ギースが…死んだ…?

 

目を背けた。そしてその事実が頭の中に刻まれる。

ずっと一緒だった少年が、たった今目の前で消え去った。走馬灯のようにギースがこれまで自分に見せてきた表情がよぎる。

体が震え、涙があふれ出てきそうになる。

そして…こんな時に限って、自分でもなんと愚かしいタイミングだろうと思えるときに、気づいた。自分が、本当はギースをどのように思っていたのかを。

ユウ、エリック、リンドウもギースが殺されてしまったのかと思い、衝撃を受けたことを露わに、目を見開いていた。

ギースを抹殺したと思っているのか、ツクヨミがこちらに近づいてくる。

(くそ、やはり反対を押し切ってでも…)

外に出るべきだった。ユウの中に、後悔が生まれた。

が、マルグリットが崩れ落ちようとしたところで、ユウは彼女を受け止め、外を指さした。

「マルグリット、しっかりして!ギースはまだ生きてる!」

「…!」

その言葉を聴いて彼女は窓の外を見る。

流星のように、グレイヴに迫ってくるツクヨミの真上から、何かが落下した。

上から落ちてきた何かによって地面に押さえつけられたツクヨミは、踏みつけられた虫のごとく足をくねらせながらもがいている。

その背中に、神機を突き立てながら立っていたのは、死んだと思っていたギースだった。

彼の姿を見て、マルグリットはさっきとは真逆の、感涙の涙を流していた。嬉しいときの方が涙があふれ出る、そんな話が本当のことだと思い知らされた。

 

…だが、様子がおかしかった。

 

「ギース…?」

思わず彼の名前を漏らすユウ。その時、彼はギースから嫌なものを感じ取った。

その何かの正体を、ギースの次に放ってきた叫び声で知った。

 

「クソガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

(これは…殺意!?)

ツクヨミの背中を、捕食形態に切り替えた神機でむさぼるギース。背中から神機を引き抜くと、ツクヨミの頭の上に浮いている月輪に刀身を叩き込んで破壊した。

異常だった。その時のギースは、前回のミッションの時よりも明らかに暴走していた。こんな状態のギースは、近づくものすべてを敵とみなしてしまうかもしれない。

こういう時は、タロウの方が適任だろう。彼はゴッドイーターじゃないから偏食場パルスの影響を受けない。しかし彼はどこかへ飛んでいってしまっている。

(タロウ、こんな時にいったいどこに…?)

 

 

 

ギースがツクヨミを相手に奮闘している頃だった。

グレイヴに繋げられているカーゴ内。いつも通りイクスはそこにいた。しかしこの日は珍しく彼だけではない。中央にある椅子には、なぜかヴェネが座らされている。目を覚ましたヴェネ。しかし手足が思うように動かなかった。拘束されていると気づくのに時間は必要なかった。

なぜ拘束されているのか。ヴェネは記憶を辿る。新たな禁忌種出現を聞いて、イクスに隊長として呼び出されたのを思い出す。そしてその直後からの記憶がない。その際に、イクスに何かをされて意識を失ったのだ。

「…これはなんの真似だ、ドクター」

「お目覚めのようだね、レフィカル君」

ジロッと睨んできたヴェネに、イクスは酷薄に笑みを見せてくる。

「これは任務を兼ねた実験さ」

「任務を兼ねた実験だと?」

ヴェネは目を細める。

「僕らは接触禁忌種の討伐が目的のはずだ。こんなことをする理由がわからない」

イクスはヴェネの口からそれを聞くと、不気味に笑みを見せた。

「君たちには知らせていなかったね。このアーサソールの真の目的を…ね」

「真の目的?」

「禁忌種の討伐など、真の目的を達成させるための必要過程でしかない」

イクスの笑みに見られた、狂気がかつて無いほど寒気を促すものへと強まっていた。それがヴェネの背筋さえも凍らせた。

「私の任務は、既存のゴッドイーターよりも戦闘に特化したアラガミ殲滅部隊アーサソールに必要な強化ゴッドイーターを作り出すための基礎研究の確立。そのために君を、そして君の後を継いだギース・クリムゾンを戦わせていた。そしてこれまでのデータをもとに、強力な洗脳状態を起こして戦闘に特化したゴッドイーターを作り出せることを私は発見したのだよ」

「洗脳…!?」

とても穏やかではない、人間としての尊厳を踏み躙る単語を聞いてヴェネは目を見開いた。

「じゃあやはり、ギースのニーベルング・リングは…」

「そう、ニーベルング・リングは禁忌種の偏食場を相殺などしていない。あれはギース・クリムゾンが禁忌種の偏食場を受けた際の脳波の状態を私のもとに送信していたにすぎん!

おかしいと思っただろう?偏食場を相殺しているはずだと言うのに、ギース・クリムゾンが妙に機嫌を損ねやすかったことに!」

ヴェネは、自分がゴッドイーターとして体を張ってきたことがすべて否定されたような、絶望を覚えた。自分がゴッドイーターとして戦ってきたのも、ギースたちをフェンリルへ誘ったのは、この狂った世界で共にくじけることなく生きるため。だが、それが逆にギースたちを追い込ませていたのだ。以前は自分が、今はギースがイクスの実験のモルモットになっていたのだ。ここしばらくのギースが感情の抑えが効かなかったのもこのためだった。

下手すれば、マリーもそうなっていたのか…!?

「計画に必要な禁忌種の出現位置も、君を利用させてもらうことで特定してきた。神機を食われた君の脳を少しばかり弄らせてもらった」

「なに?」

ヴェネはさらに疑問を抱かされる。

「いくら接触禁忌種といっても、アラガミであることに変わりない。その位置は我々のレーダーで探知可能なはずだ。なぜ僕が利用される?」

「偏食場パルスとは、電波ではない。空気振動でも地面のゆれでも…いずれでもない。全く新しい『波』だ。それを我々は偏食場パルスのレーダーを発して探知する。だが禁忌種の場合…そのパルス振動数はごく微量過ぎて、現在のレーダーでは探知不可能。するには、そのごく微量の振動数のパルスをこちらから発しておく必要がある。その発生源として、君の脳に禁忌種と同じパルス発生装置を仕込んだ。つまり君自身が禁忌種の探知装置なのだ」

悦楽に満ちた笑みを見せながら、イクスはさらに話を続けた。

ゴッドイーターが神機を制御する際の、捕食形態への切り替えなどの命令は信号という形で、腕輪を介して神機に伝わる。偏食場パルスにもそれと同じ信号をイクスは見つけ出したのだという。

「さらにもう一つ判明した。新型ゴッドイーターは神機を脳波からの信号によって銃形態と剣形態へと切り替えが可能だ。そしてそれは、アラガミの持つ偏食場パルスの中にも同様の者が確認されている。

つまり、神機への命令と同じように、ゴッドイーターに対してパルス信号を利用した命令を送信し続ければ、ゴッドイーターを唯一つの目的の元に突き動かし操ることが可能だとわかったのだ!」

「ッ!!」

息を呑むヴェネ。まるで悪魔のごとき発想だ。さらにイクスの恐ろしさを、彼はさらに知ることになる。

「おぉ、見給え。あれを」

イクスが外の様子を映し出したモニターを指さす。ヴェネもそれに視線を向ける。そこに映っていたのは、ツクヨミと戦うギースだった。だがその様子はヴェネにとって許容しがたいものだった。

「ギース、お前…!?」

まさに自分そのものがアラガミのごとく暴れるギースを見て、イクスの言うとおりだったことを痛感する。

彼は、偏食場パルスの影響を強く受けて、暴走していたのだと。

 

 

ツクヨミの巨大レーザーを食らい、消し飛んだようにみられたギース。しかし…彼はまだ生きていた。爆発の瞬間、展開した神蝕盾イキオシの上に乗り、爆風に乗りつつ空高く飛び上がるという突拍子もない方法でツクヨミのレーザーを避けていたのだ。

ツクヨミは気が付いていないのか、グレイヴの方に向かっていく。空中で神機を捕食形態に切り替えたギースは、それをツクヨミの真上から兜割の構えで、落下と同時に叩き込んだ。

プレデタースタイル、滑空穿孔式・穿顎。頭上から爪のように牙をむき出した捕食形態がグレイヴの方へ進んでいたツクヨミの背中に食らいつく。

肉をぐちゃぐちゃに食いちぎらせながら、ギースは殺意を燃え上がらせる。

ただ頭の中には、こいつを殺す!殺す!という言葉しかなかった。

ツクヨミはたまらず、ギースを強引に振り払った。その際、ヴェノムを促すオラクルの光の刃が彼を襲った。遠くへ吹き飛ばされるギースは、地面に落下する。骨が折れたような気がしたが、痛みは感じなかった。

「てめえを食らってやるうううううううううう!!!」

すぐに立ち上がり、ギースは殺気をほとばしらせながら、再び吠えてツクヨミに向かっていった。

 

そんな彼を、近くから『何か』が覗き見ていたと気づかずに。

 

 

 

「ギース、ギース!!」

制止の言葉を、グレイヴの中からマルグリットは必死に叫ぶ。だが暴走するあまり頭の中が殺意のみとなっているギースには届かなかった。

「だめだ…彼は完全に暴走しているぞ!」

エリックが言った。今のギースは、もはやこちらから見てもアラガミのそれといえるような獰猛さだった。見ているこちらが、仲間のはずだというのに恐ろしく感じる。

「おいドクター!どうなってる!返事しろ!」

リンドウが怒声を浴びせながらイクスを呼ぶが、返事はない。ちっ、としびれを切らす。

「…こうなったら、私が!」

意を決して、マルグリットがユウたちの方を振り向いた。

「そんなのだめだよ!やはりここは僕が…!」

ユウが自分からギースを助けに向かおうと決断するが、マルグリットは首を横に振る。

「ゴッドイーターであるあなたたちは偏食場パルスの影響を受けてしまいます!だから私が行きます!グレイヴを叩きつけて、ギースを助けます!

その間にユウさんたちは、カーゴからドクターを引きずり出してください!カーゴは切り離しておきます!」

ゴッドイーターとしてそれ以外に、手はなかった。それにマルグリットは自分たちが何を言っても聞く姿勢を持っていないことを、リンドウは察した。

「…新入り、エリック。俺たちはグレイヴを下りる」

「リンドウさん!」

そんな無茶なことを!反論しようとするエリック。ユウも同感だった。マルグリットは確かに編職場の影響は受けないだろうが、車をぶつけただけで、神機以外のあらゆる攻撃を受け付けないアラガミは倒せない。それでギースが助かることになっても、殺されに行くようなものだった。

…いや、ユウはこれをチャンスととらえた。外に出さえすれば、変身してギースもマルグリットも助け出せるかもしれない。

「わかった。マルグリット…死なないで」

「ありがとう、ユウさん…」

「ユウ君まで…」

「エリック、僕たちはマルグリットが少しでも生きられるよう、遠くからグレイヴを援護しよう。その間リンドウさんにはカーゴのドクター・イクスたちを引っ張り出してもらえばいい」

ユウがそういったところで、彼らの動きは決まった。ユウたち三人がグレイヴを下りたところで、カーゴを切り離したグレイヴは、マルグリットの運転によってツクヨミとギースの交戦地点へと向かった。

「俺はカーゴのドクターを叩きだす。お前らは遠くからあの子を援護しろ!絶対に近づきすぎるな!」

グレイヴを見送り、リンドウはユウとエリックに命令を下す。全員生きて帰る。それだけは諦めてはならない。

ユウとエリックは顔を見合わせて頷き合い、散会した。

散会しながら、エリックとユウは銃神機を構えながら、射撃の射程圏に入りつつも偏食場パルスの影響を受けない位置まで到着する。

エリックの姿が見えない。それを確認したところでユウは瓦礫の陰に隠れ、ギンガスパークを取り出した。

 

【ウルトライブ、ウルトラマンギンガ!】

 

 

 

「ギース、よせ…!」

届かない彼への言葉を、ヴェネは口にする。

「今の彼の頭には、目の前のアラガミを殺すことしかない。実験はゴッドイーターに対して、成功しているとみるべきだな」

無駄だ、といいつつ、イクスはギースの暴走ぶりを見て満足げに笑った。禁忌種の偏食場パルスだの影響を受けた状態のギースは、イクスがカーゴの装置から発している信号によって動かされているのだ。うまく殺意を、ツクヨミの身に向けて他のことは全てシャットアウトされている。

「ギースは…どうなる」

あれほど暴走しているということは、おそらく己の限界以上の力も引き出されている。通常のバーストモードの比ではないだろう。だがそれは、彼の体に大きすぎる負担をかけているに違いない。あの状態を長く続けてしまったら、たとえツクヨミを倒せてもギースは…。

「さあね。私はこの実験が成功に足るものと判断できるデータさえ取れれば、君たちの命などどうでもいい」

ヴェネはキッ!とイクスを睨み付けるが、囚われの身であるヴェネに対する恐怖などイクスには全くない。

「しかし、この計画に一つ変更すべきことが見つかったのだ。それも…とても面白く、私にとってとても喜ばしいことだ」

イクスは話を切り替えるかのような口調で話を続ける。

「君は前回の任務で、ウルトラマンと巨大なアラガミが戦う姿を見たとき、どう思ったかな?」

「なぜそんなことを気にする…」

悪寒を感じながらヴェネは問い返す。

「君の視点から聞いてみたいのさ。まだ一度しか見たことがない君だが、ウルトラマンがどんな存在か、考えたはずだ。なぜゴッドイーターに力を貸すのか、どこから現れたのか、何のために彼はアラガミ共と戦うのか、とね」

ヴェネはそれを否定しなかった。ウルトラマンという存在を知ってから、確かに色々思うところがある。しかし、現に彼は…目的はわからないが前回の任務でギースを、アマテラスよりもさらに強大なヴァジュリスの手から守った。味方だという確証は個人的に抱ききれていないが、それについては一種の恩義も感じたくらいだ。

「しかしウルトラマンというものは、私のような手合いにとって非常に厄介だ。いつまでも正義の味方面してもらうことは、邪魔でしかない。だから我々はウルトラマンの正体を調査し、そして突き止めた」

まるで、聖人君子が現れたことで自分の言うことを聞かなくなることを恐れた、古来の悪徳権力者の発想のような予想だった。しかし、驚く話を耳にした。

「ウルトラマンの正体を…知っただと?」

「そうだ、それも君たちからすればかなり意外な場所だったよ」

酷薄に笑うイクスは、衝撃の事実をヴェネに暴露しようと、口を動かした。

「ウルトラマンの正体は、極東の…」

 

「待て!!」

 

突如、イクスの声をさえぎる者が現れる。

「ドクター・イクス、ここでいったい何をしている!」

「ッ!誰だ…!?」

ヴェネはあたりを見渡す。この狭いカーゴの中、自分とイクスしかいないはず。扉も開かれた形跡もない。だというのに、この部屋に侵入者がいたというのか?

その声をイクスも聞いていたようで、肩を震えさせながらそれをあざ笑った。

「っくっくっく…そんな情けない姿で何を格好つけた台詞を吐くんだ。みっともないとか思わないのか?」

「く…」

声の主は悔しげに声を漏らす。少なくとも退く姿勢はないだけ臆病者でないとほめるべきか、と心の中でエラそうに評価する。

「貴様は人間の姿にも、ましては本来のウルトラマンの姿さえも封じられている。そんな貴様に何ができるというのだ、ウルトラマンタロウ!」

イクスは、椅子に拘束されているヴェネのちょうど背後にいる、小さな赤い影を指さしながら言い放つ。

背後を振り返るヴェネ。そこには彼の言うとおり、ユウと別行動を取っていたタロウがちょこんと立っていた。

「ウルトラマン…だと…?その人形が…」

こいつは、ただの人形じゃないのか?誰かが悪戯で…と思ったがすぐにそれは否定した。このカーゴに入れるのは、管理者であるイクスだけ。自分がここにいられるのは、この男によって拉致されたからだ。そしてあの人形、イクスの趣味にしては幼児的すぎる。あれがただの人形なら、明らかに子供が好みそうな人形だ。そんなものを集める趣味なんて、ギースから笑われるだけだ。だとしたら…本当に…。

「私の正体を知りながら、動揺もしないか。貴様、さては…やはりマグマ星人の…!」

タロウの中に、イクスに対する確信がついた。

奴らの仲間だったのか!そうに違いないとしか思えなかった。だとすると、この男は…

 

人間じゃない!!宇宙人の擬態だったのか!

 

「やはりここへ来ると思っていたぞ。私が不振な行動をとっているのを貴様が見逃すはずがないとよんでいた。しかし迂闊だったな。今の自分の無力さを忘れているようだ。そんな人形の姿となったにもかかわらずここへ来るとは、まさに飛んで火に入る夏の虫よ。我々が貴様の横槍を想定しなかったとでも考えたのか?」

イクスは小さな人形としてのタロウを、下等生物を見下すような…いや、明らかに見下している意志をさらけ出しながら言い放つと、壁に埋め込まれたスイッチの一つをプッシュする。

「ぬぅ!!」

瞬間、タロウの足もとから突如、煙のようなものが漂い、彼の姿を覆い隠してしまう。それが晴れると、タロウの姿はあるものの中に閉じ込められていた。

「こ、これは…!」

それは、パッと見ると鳥籠だった。なぜいきなり鳥籠が!?タロウは鉄格子を握り、無理やりこじ開けようとする。だが鳥かごの鉄格子は全くびくともしなかった。

「く、イクス!これを外せ!!」

「その籠は宇宙金属で構成されている。たとえ念力を使うことができても、今の貴様では抜け出せまい」

外せと言われて外すはずがない。笑みと無言の視線でそれを伝えるイクスは、タロウを見下ろしながら言う。

「レフィカル君と共に、その籠の中で見ているがいい。貴様が希望を託した愚かなウルトラマンが倒されるのをな。それも貴様がよく知っている者の手で」

「なんだと…どういうことだ!」

鉄格子を開こうともがきながら、タロウはイクスに対して問いただす。自分がよく知っている者の手で、ギンガが倒される?

「貴様があるゴッドイーターに手塩にかけているのが、既に調べがついている。

ウルトラマンギンガの正体は…

極東のゴッドイーターが変身したものだとね!」

タロウはイクスのセリフを聞いて歯噛みする。この男、そこまで調べをつけていたのか。

「いくらウルトラマンといえど、普段はただのゴッドイーター。パルスの影響を受ける。つまり…変身前にパルスの影響と我々の命令を乗せた信号を受けてしまえば…」

「そうか!貴様の狙いが分かったぞ!」

イクスがそこまでいいかけたところで、タロウは確信を得た。

「お前の狙いは…アーサソールの洗脳技術を利用し『ウルトラマンギンガを手駒にすること』だな!」

「くくく…正解だ」

イクスはタロウが正解を突いたのを聞いて笑った。

「ウルトラマンの正体が…ゴッドイーター…!?」

それを聞いてヴェネが強く反応する。頭の中が、次から次へと飛んでくる衝撃的事実に、頭が追いつくのが難しくなっていた。イクスの目的にも、イクスが突き止めたというウルトラマンギンガの正体についても。

「そして現に私はレフィカル君を利用したこの方法で、あるウルトラマンを制御下におくことに成功している!

見るがいい、あれを!」

ギースがツクヨミと戦っている映像を再び指さすイクス。

タロウと、ヴェネは…それを見て目を驚愕で見開いた。

 

 

ぐしゃ!!と生々しい音が、対峙していたツクヨミから聞こえてきた。顔を上げると、ツクヨミの頭が、どこからか伸びてきたアラガミの頭に…捕食形態に似た頭に食われてなくなっていた。

「てめえ…そいつは…」

イクスの信号や偏食場パルスの影響もあり、獲物を奪われた怒りがあった。だが、今目の前に現れたアラガミが、自分がよく対峙したアラガミとは異なるものとわかると、かろうじて失っていた理性が取り戻された。

それは…『スサノオ』だと思った。だが自分が知るスサノオとはだいぶ異なる。

すると、ギースのもとに一つの光が舞い降りた。

その身を包み込む光が消え、ウルトラマンギンガとしての姿を彼の前に見せる。

ギースと同じように、目の前のスサノオ擬きを見て、彼はギースとは違った衝撃を受けた。

コウタから聞いた通りだった。

ごつごつとした体はエメラルドグリーンに輝き、ツクヨミを食らった捕食形態の腕は元の…人間らしい形のものに変化している。スサノオを元にしたこともあり、四本足の姿はサソリというよりもケンタウロスというのがふさわしい。

鬣が風に流れて靡き、まるで怪物とは思えない…まさに戦士としての風格をもっている。

だが、他にも奴は無視しきれない特徴も持っていた。

胸には、ギンガのように青く光る宝珠が埋め込まれ、顔つきはギンガに近い。

(そんな、あれはまさか…!?)

 

 

 

「あれは…」

奴の姿に、ヴェネも目を見開く。スサノオ擬きのあの姿が、ウルトラマンの姿に似ている。

いや、タロウから見ればそれは当然だった。

鳥籠の中で、ギンガとギースの前に立つ新たなアラガミを見て、さらにその二人よりも違った…見てはならないものを見てしまった時の反応を露にしていた。

イクスはその反応を見て面白がっていたが気に留めることも出来なかった。鳥籠の鉄格子を握る腕が、カタカタと震えていた。

「あぁ…そんな、そんな馬鹿な…」

彼は感じ取った。ギンガたちの前にいるスサノオのようなアラガミから、感じ取ってしまった。

自分が昔から知っている、光の波動を。

「なぜ、なぜあなたが…」

悪い予想はしていた。しかし信じたくなかった。ハルオミたちを迎えた空のミッションの際に超巨大なウロヴォロスを見て、その予想を抱かされたが、信じたくなかった。そんなことがあるわけないと。

しかし、悪夢程度であってほしかった非情な現実がそこにあった。

「なぜあなたがそこにいるのですか…!?」

 

 

 

ジャック兄さん!!

 

 

 

 

 

 


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