ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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サブタイトルでいいのが浮かばなかったので適当…(をい)


陰る光

アーサソールと共同で誘導装置を設置することになったユウとリンドウ、そしてエリック。戦闘中、新たな接触禁忌種アマテラスが出現し、これをギースが応戦する。それだけならまだよかったかもしれないが、運の悪いことに、また新たなアラガミ…合成神獣ヴァジュリスが出現する。ヴァジュラをベースにしたそのアラガミからギースを援護するべく、ユウはギンガに変身し、これを打ち倒した。

だが、ギンガとして戦闘している間、アマテラスに深手を負わされたギースが突如暴走、アマテラスを惨殺するというおぞましい形での勝利を飾った。

さらには、ユウ自身は認知していないことだが、彼は偶然にもリンドウに変身したときの光景を見られ、正体がバレてしまった。当然、リンドウは衝撃を受けた。

あらゆる理由で勝利の喜びを得られないまま、一向はアナグラへと帰投した。

 

 

 

医務室では、ユウは今回の戦いで着いた傷を癒すため、ルミコからの治療を受けた。

「うん、怪我はさほど深くないから、これくらいでもすぐに治るよ」

「ありがとうございます、ルミコ先生。いつもすみません」

「これが私の仕事だから。けど、謝るなら体をもっと大事にしてね」

「善処します」

果たして大事にできるのか、と問われると無理が大きい。なにせ戦う敵はただのアラガミではない。かつてこの星で戦ってきたウルトラマンたちを苦しめた怪獣との合成生物なのだから。

ルミコに軽く頭を下げてから医務室を出ると、ユウはふぅ、とため息を漏らした。

「今回戦った相手、ヴァジュラの特徴を持っていたな」

「大型種に属するアラガミだな」

先刻、ギンガとなって戦ったヴァジュリスのことを口にすると、タロウがちらっと顔を出して言葉を返してきた。

「正直、勝てるかどうか今思うと不安だったかもね。元が大型アラガミだから、勝ててよかったよ」

「ユウ、君は着実にギンガの力を制御できるようになっている。その賜物もあっての勝利だと私は思うぞ。ここしばらく、私が見ていた訓練でも、なかなか見事な動きをこなせるようになった」

「そうかな?まだよくわからないけど…少なくともまだまだだと思う」

この最近のユウの訓練は、密かにタロウも見てくれていた。

立体映像を用いた擬似アラガミとの訓練にて、ユウの動きにミスが見られたら、どうしたらそのミスを解消できるかを的確に指示し、それをユウは形にしていった。

かつてこの地球を守っていた英雄の一人だった事実は嘘ではない的確なアドバイスを元に、ユウは次第に訓練でも好成績を収め始めていた。元々新型神機という貴重な武器を手に入れただけでなく、戦士としての才覚も他のフェンリルスタッフやゴッドイーターたちの注目を集めつつあった。

だが自分でもユウは、まだ戦士としては青さがあることを知っている。それにギンガの力のすべてをまだ把握できているとはいえない。

「それに、アラガミってサカキ博士の講義を聞く限り、短期間で限りなく強くなっている。タロウも見ただろ?あのアマテラスってアラガミを」

その名前を聞いて、先日のアーサソールとの合同任務のことを思い出すタロウ。アラガミは同じ種類の個体が地球中のあちこちに生息している。アマテラスも遭遇した件数が少ないらしいが、ギースが倒した個体で最後だなんてことはありえない。

「アマテラスか…あいつらがオウガダランビアや先日の相手のような進化を果たしたら、もしかしたら今の君がギンガに変身しても勝てないかもしれない」

タロウでさえ、アマテラスがアラガミの中でもやばい個体であることを認めた。アラガミたちは、ついに大型種がスパークドールズを取り込んで進化した個体を見せてきた。タロウのいうとおり、もしアマテラスがスパークドールズを取り込んでしまったとしたら、想像するだけでゾッとする。

「…うん、だからもっと強くなって、みんなを守れるだけの力をつけたい。」

懐のギンガスパークに触れながら、改めて決意を口にするユウ。

…もう、妹を失ったときのような、あんな思いをするのはたくさんだ。

「ユウ、任務お疲れ!」

「うわ!」

ちょうどそこへ、コウタがやって来た。タロウとの会話で気を取られていたこともあって、突然のことのようにユウは驚いた。

「え、えっと…どったの?」

なぜ驚かれたのか、事情を知らないコウタは戸惑う。一瞬、さっきの会話を聞かれてタロウの事がバレてしまったのではと疑惑したが、どうやらそういうわけではないらしい。

「あ、いや…なんでもないよ。コウタもお疲れ様。ありがとう…」

適当に誤魔化してコウタの手から差し出されたドリンクを受け取り、二人は腰を下ろせる場所を求めて廊下を歩きだした。

ユウはふと、リッカから聞いた、サカキが時々奇妙な飲み物を開発しているのを思い出した。もしやそれだったりするのでは…なんて嫌な予感をよぎらせた。

が、ラベルの柄はいつも通りの、気に入りのドリンクを表していて、杞憂だったことを気づかせる。

「どうした?飲まないの?」

「あぁ…うん、飲むよ」

コウタに言われ、ユウはすぐ缶の蓋を開いて飲んだ。味も普通のドリンク。やはり杞憂だったようだ。

「なあ、そっちはどうだった?」

横からコウタが話しかける。

「無事に設置してきたよ。向こうの部隊の人やリンドウさんがいなかったらヤバかったかも」

「そんなにヤバイ奴がきたの?リッカさんから聞いたけど、ユウたちって神機に新しい機能つけてもらったんだろ?えと、なんだっけ…『ブースカスタイル』?」

「プレデタースタイル、だよ。コウタもそのことは聞いてたんだ」

奇妙な言い間違いをかましたコウタに訂正を入れる。

「けどまあ、本当にヤバイアラガミだった」

アマテラスのことを思いだし、ユウは僅かながら恐怖を蘇らせる。接触禁忌種とされているだけあり、今のユウではギンガの力がなかったらまず勝てない。ギンガの力をやたらと使うわけに行かない以上、できればもう会いたくない相手だった。

「ヤバイ相手か…そうそう!実を言うとさ、俺たちの方もヤバイ奴が来たんだよ。確か…スサノオ!」

「え…!?」

それを聞いてユウは目を見開く。リンドウたちが交戦することなく退くことを強いられた、アマテラスと同じ第一種接触禁忌種アラガミ。コウタはそいつと出くわしてしまったというのか。

「本当に見たんですか?正直疑わしいですね」

そんな二人の前に、少し高飛車な声が入る。声の方を向くと、アリサがそこに立っていた。いつも通りの、少し高圧的な感じの空気を出している。

「ご無事だったようで何よりですね、神薙さん」

「あぁ、アリサ。もしかして心配かけちゃったかな?」

「し、心配なんてしてません!同じ新型のあなたが任務中に殉職でもしたら張り合いがなくなって、今後の任務が詰まらなくなったら嫌だと思っただけです!」

少し頬に赤みをさしながらアリサは怒鳴る。なぜ怒鳴られたのかわからず、ユウは困ったように首を傾げた。どうも彼女からは変な対抗意識を向けられている。

「と、ところで、スサノオを見たと言いましたよね、コウタ。確か、今回の任務で一度逸れた時の事でしたよね」

少しコホンと咳払いしながら、アリサはコウタの方を見る。ユウがリンドウやアーサソールとの合同任務に勤しんでいた頃、コウタはアリサ・ソーマ・サクヤと共に、ユウたちが設置する者とは別の誘導装置の設置任務に参加していた。しかしその最中、一度仲間たちと逸れてしまったらしい。

「そ、そうそう!スサノオ!ボルグ・カミヤンの堕天種みたいな感じだから」

「ボルグ・カムランです。ちゃんと戦う敵の名前くらい覚えておいたらどうですか」

「なんだっていいさ。それより、スサノオを見たって話だったでしょ?」

名前をまた間違えたコウタに冷たく訂正を入れてきたアリサを遮りながら、ユウは話を戻させた。

「うん。そいつはさ、言葉を喋ってきたんだ!」

「言葉を…喋る?」

アラガミが、人間の言葉を発していたというのか?ユウが怪訝に目を細めると、コウタがちょっと不満を感じてきた。

「あ、その目は信じてないだろ!間違いなく喋ってたぜ、あいつは!」

「そんなわけないでしょう。夢でも見たんじゃないんですか?」

アリサが頭でもおかしくなったんじゃないかと言わんばかりに鼻を鳴らす。

「はっきり起きてたよ!ギー、とか、ギィス…とか!」

(…ギース?)

ユウはコウタがそういったとき、脳裏にギースの姿を思い浮かべた。確かにギースとスサノオは接点がある。だが…スサノオがそれを感じるとは思えなかった。アラガミがいちいち捕食対象の名前など覚えるだろうか。

「仮に声を発してたとして、それは本当に言葉だったんですか?ギィスだなんて…ただの関節の軋みとか唸り声だとか思わないんですか?

それに、そんなアラガミと遭遇して、あなた程度のゴッドイーターが無事で済むとは思えませんね」

さらりと、以前通りの旧型神機使いへの見下した言い回しをしてきたアリサに、言われたコウタもピクッと眉をひそめたが、ユウもまたか…と頭を抱えた。しかしコウタには言い返せる要素がない。自分でもまだ青さが強く残っている事はわかっていた。怒りを押し込めて話を続けた。

「そうは思ったんだけどよ…本当に喋ってたんだよ!アンプル切らしてすぐに隠れたからちゃんと聞き取れたんだぜ」

「…じゃあ、なんて言ったんですか?」

とりあえず聞いてやろう、な上から目線の姿勢を保ったままアリサは耳を傾けた。

「うん、なんか…『タロウはどこだ?』…とか」

「…!?」

それを聞いた途端、さらにユウは思わずぎょっとした。それ以上に、ユウの服のポケットの中にいるタロウが強い衝撃を受けた。

いや、コウタの聞き違いかもしれない。嫌な予感を促す言葉だが、まだ確証はない。二人はその予感を封じて耳を傾けた。

「なんですかそれ。アラガミが誰かの身を案じていたというんですか?それに、太郎?今時の極東の人の名前じゃないって、ロシア出身の私でも知ってますよ」

(今時じゃなくて悪かったな…)

存在を認知していないとはいえ、鼻で笑ってきたアリサにタロウは目くじらを立てた。確かにやたら昭和のごく一般的な響きの名前だが、父と母が名づけてくれた名前だ。それも、光の国の言語だと『タロウ』は『勇気があり正義を愛する者』という、まさにウルトラマンが名乗るにふさわしい意味が込められている。全次元世界、日本全国の太郎さんに謝れ!と叫びたい。

「やはり幻覚でも見たんでしょう?活性化したオラクルが幻覚を見せることだってありえるんですから」

そんなことを言ってきたアリサの顔が、なぜか一瞬だけ曇ったが、すぐにいつもの高飛車な顔に戻る。

「アリサ、ちょっと黙ってて」

「な、なんですか急に…」

「いいから」

さらに畳み掛けるように言おうとしたアリサだが、ユウが睨みを利かせたような鋭い視線を彼女に向けて黙らせてきた。少し渋々ながらも、アリサは会話から外れた。

「そのスサノオに、他に何か特徴とかないの?見た目に変化は?」

「え、えっと…」

何か確信めいたものを感じてか、さっきと打って変わって食い入るような姿勢で聞いてきたユウに、コウタは少し戸惑ったが、言われた通り続けた。

「うーん…あ、そうだ!ボルグ・カムランとかスサノオって、なんかサソリっぽかったよな?」

「うん。サソリと騎士っぽいもんね」

「けど、俺が見たスサノオって、それを通り越して…ケンタウロス、だったっけ?馬と人間が組み合わさったような…エメラルドっぽい光も発してて、スサノオのようで違うような…そんな感じだったよ」

(…スサノオかどうかもはっきりしないじゃないですか)

アリサが言葉を発さず、心の中でコウタに突っ込む。紫っぽい体色をしているケンタウロスのようなスサノオだなんて、もはやスサノオの領域に組んでいいのか疑わされる。

「それと、なんか顔つきが…」

しかし、そんな小さなことなど最初からなかったことにするかのようなことを、ユウは耳にすることになる。

 

「ウルトラマンっぽかったんだよな。胸にギンガの胸の宝石みたいなのもついてたし」

 

「ッ…!!?」

 

ドクン、とユウとタロウは心臓が一瞬強く高ぶったのを感じた。

もしコウタの言っていることが事実なら…いや、そんなまさか…

嫌な予感が確信となり、二人の頭の中をよぎり続けた。

 

 

 

帰還後、ギースが戦闘の途中で暴走を始めたということで、アーサソールのメンバーたちはリンドウを同伴させられる形で、支部長室への呼び出しを受けた。

「リンドウ君から聞いたよ。ギース・クリムゾンが戦闘中に暴走したそうだね」

椅子に座り込み、頬杖で頭を支えながら見据えてくるヨハネスに、イクスは頷いた。ギースらの前に見せる小馬鹿にしたような笑みはなく、少し余裕がないように見えた。

新人のゴッドイーターがアラガミとの戦闘への恐怖のあまり、ギースのように暴走してアラガミの死骸をズタズタに引き裂くまで暴れることもある。だが…ギースはこれまで接触禁忌種を相手にしてきた、若手ながらベテランの域に達知っているゴッドイーター。しかも、接触禁忌種の偏食場パルスをシャットアウトするニーベルング・リングで精神を正常に保っているにも関わらず、だ。

そんな彼が暴走してアマテラスを倒したことは異常事態。無視できないことだった。リングも万能ではないことも判明した。

当然、ヨハネスはイクスに、アナグラの安全とギースのためという名目で、ギースのメディカルチェックを命じた。ギースも戦いの負傷もある。とりあえず傷の治療は行われたが、メディカルチェックとなると綿密な身体データも取らされる。これはイクスにとって避けたかったこと。なぜなら、今のギースの体を調べられることで…『知られてはまずいこと』をヨハネスに知られてしまうことが懸念されていたからだった。

とりあえず、自分には決定権はないから、本部に許可をもらうよう連絡を入れることをヨハネスに伝え、とりあえずこの場を収めて解散した。

メディカルチェックを行うかどうかは、ヨハネスが連絡を取って結果を出すまでは決まらない。それまでの間、イクスはなんとしても、今『自分たち』が進めている『計画』を実行に移さなければと考えていた。

駐車場にて注射されている、グレイヴに繋げられたカーゴの中で、イクスはある人物へ連絡を入れた。

「私だ。今、例の奴の位置はどうなっている?……そうか、近くに留まっているのか。到達までは…後1日か。なら、すぐに計画を進める。ギース・クリムゾンの暴走でシックザールが合法的に我らの計画に干渉しようとしている以上、妥協している間はない…」

モニターの明かりでぼんやりと照らされたカーゴ内のデスクの上に、一枚の写真が置いてあった。その写真には…

 

『スサノオのような何か』が焼き映されていた。

 

 

 

「作戦の準備は順調かい?」

翌日、ヨハネスのいる支部長室にサカキが訪れていた。

「ペイラーか。ああ、今のところはない。ゴッドイーターたちにしばらく死者も出ておらず、装置も正常に稼働中だ」

「私には少し気になることがあるんだけどね」

デスクに居座ったまま言うヨハネスに、サカキはそう言った。

「誘導装置はアラガミを引き寄せる。なら、前日のリンドウ君たちやアーサソールがそうだったように、誘導装置の傍に『合成神獣』が出現することも、君なら容易く想定できたと思うんだけど?」

「『合成神獣』?」

聞きなれない単語を聞いたヨハネスはサカキの発した単語に詳細を尋ねる。

「おっと、スパークドールズを取り込んでアラガミのことさ。異常進化型アラガミといちいち長い呼び方をすると舌をかむと思って名付けてみたんだ。

っと、話が逸れたね。どうなんだい?」

「…確かに、私も君が考えていたことについては否定しない」

ヨハネスはあっさり肯定した。サカキとは長い付き合いだ。下手に嘘をついてもすぐに見抜かれることがわかっていた。

「確かに君の言うとおり、合成神獣が装置に傍に現れることはわかっていた。だが、わかっていたからといって、このオペレーション・メテオライトは決定事項だ。

それに、『装置が壊されるから』などという理由で今やらず先延ばしにしたところで、ずるずるチャンスを逃すだけだ。その分だけ、アラガミがどこかでスパークドールズを取り込み、合成神獣と化してその数を増やす。そうなる前に、合成神獣たちの素材であるアラガミを一気に始末できる作戦は、今後のためになると私は考える。

作戦には恐らくウルトラマンも現れる。我々の味方として戦ってくれるだろう」

「ウルトラマンのような存在を宛てにするとは、君はウルトラマンを高く信頼しているみたいだね」

「これまで彼は何度も我々の危機を救ってきた。信頼に足る存在だ。今のところか…だが」

サカキはヨハネスの言動に、常に細く保たれているキツネ目がさらに細くなったような気がした。ここまでウルトラマンを買っているとは、現実主義的かつペシミストであるヨハネスにしては意外に思えてならなかった。

「しかしいつまでも彼一人に頼っては我々が廃る。可能な限り彼への支援も積極的に行うつもりだ。そのためにもアーサソールが持つ技術を…ギース・クリムゾンが持つニーベルング・リングの技術を調べておきたい」

「あの秘密主義な本部の人間であるドクター・イクスが我々にそうたやすく教えてくれるかな?」

「もちろん思わないが、今回ギース・クリムゾンの暴走の件、私でなくても無視はできない。君とっても彼らの技術は魅力的だと思うがね」

もちろん、アラガミの研究者として魅力は感じるのは否定できない。ギースが装備している、禁忌種の偏食場パルスをシャットアウトできるスニーベルング・リング。これがあれば、多くのゴッドイーターたちが禁忌種と戦うことができるようになるはずだ。

しかし、そううまくいくものだろうか?サカキは疑惑する。アーサソールが自分たちと仲良くなったりすれば、向こうから秘密を明かしてくれるなんてこともあるのかもしれないが。

すると、ヨハネスのデスクの机にある電話機から受信音が鳴り響く。受話器を取ったヨハネスが通信先の相手から、無視できない報告を耳にする。

「…新種のアラガミだと?…そうか、わかった」

「何かあったのかい?」

「偵察班からの連絡だ。実は…」

ヨハネスが次に発した言葉を聞いて、サカキはやはり、と思った。

今の自分たちが体感している現実の通り、世の中そう簡単にうまくいくはずがない、と。

 

 

マルグリットはグレイヴの方でギースの神機を点検していた。やはり、と彼女は思った。ギースの神機だが…アマテラスとの戦いの後で意識が戻ったギースが言った通り、ある『変化』をしていた。

ボディが全体的に赤くなり、強度も以前までの神蝕剣タキリよりも増している。

「やっぱり、アマテラスのコアを捕食せず砕いてしまったのに、アマテラスのオラクルが検出されてるわ」

「どういうことだ、マリー」

ヴェネが説明を求める。

「ドクター・イクスに聞いたんだけど、神機は言わば人工アラガミで、アラガミは捕食したものの特徴、能力を吸収して進化する。本当ならコアから素材を吐き出すはずなんだけど、あの時ギースの制御を失った神機が、回収予定だったアマテラスの素材を刀身から取り込んだみたい」

「マジか…」

自分で言うのも奇妙だったが、何だかとんでもないことが自分の神機に起きたことをギースは感じた。

「さしずめ、タキリ改か。

しかし、ギースが暴走してこれを許してしまったのはまずい。ギースの体にも影響が出かねない。最悪、ギースに神機が牙を向くことも考えられる」

それを避けるためにも、メディカルチェックを受けてギースの体の具合を調べ、それをもとに神機を改めて調整する必要がある。ここは幸い、設備が他のよりも整っている。神機もうまいこと調整してくれるかもしれない。ニーベルング・リングの調整も必要だ。

しかし、オペレーション・メテオライトの要である誘導装置はアラガミを引き寄せる。禁忌種も引き寄せることだろうし、無視もできない。ギースはすぐに駆り出されざるをえないだろう。ギース一人で無茶な戦いを強いられる可能性が高い。

「やっぱり私も神機を持った方がいいと思う。これ以上ギースとヴェネに負担をかけたくないから…」

「やめろよ!」

マルグリットが自分もゴッドイーターとなることを言おうとした途端、ギースがその言葉を怒鳴り声で遮った。

「マリーが戦う必要なんてねぇよ!俺がアラガミを全部片づける!余計なこと考えんな!」

「でも、ギース…私は…」

「いいか!ゴッドイーターになるとか俺が絶対に許さねぇからな!絶対にゴッドイーターになろうだなんて考えるなよ、マリー!!」

マルグリットがゴッドイーターとなる。それは頼もしい味方が増えるという意味では好都合。だが、同時に彼女が危険な戦いに身を投じることになる。アラガミと何度も戦ってきたギースにとっても、そしてかつてゴッドイーターだったヴェネにとっても避けたかったことだった。特に感情を隠さず表に出すギースはそれを強く拒否した。

しかも、この極東では、自分達が遭遇したヴァジュリスのような規格外のアラガミさえいる。そんなやつらとマリーを戦わせてなるものか。

その思いが強すぎるがゆえに暴言のように発せられた怒鳴り声は、マルグリットに不満と苛立ちを促す。

「なんで…ギースが勝手に決めるの」

「マリー…?」

その不穏な空気を、真っ先にヴェネが察した。そして、直後に苛烈な眼差しを、マルグリットはギースに向けて大声を出した。

「私が、ギースとヴェネが前線で戦っている間、どれだけ自分の無力さを呪ったかわかる!?いくら整備士として頑張っても、前で戦ってるあなたたちと比べたら、私の苦労なんてたかが知れてる!!だからずっとゴッドイーターになって二人の役に立ちたかった!!今だってそうだよ!でも、そのことをギースに決めつけられる義理はないじゃない!最後に決めるのは私なんだから!!」

元々彼女は、ゴッドイーターとしての適性があったことも関係して整備士としてアーサソールに参加していた。しかし自分の神機だけはいまだに見つからず、ヴェネは神機を失い、今はギースがただ一人の戦闘員。整備士としてバックアップを頑張ってきたが、やはり全盛に赴くギースの過酷な現状と比べると、その苦労は比較にできない。だからこそ神機を求めていたが、ギースからああまで真っ向から拒絶されたら怒りたくなった。

「お前、わかってねぇよ!ゴッドイーターとして前戦で戦うってことはな…」

「いわなくたってわかるよ!それに理解もしてる!だから…」

「いい加減にしろ!!二人とも!!」

ついには口論に発展するギースとマルグリット。しかしそれを見かね、ヴェネが二人よりもさらにでかい声を発して二人を黙らせた。

「ギースもマリーも落ち着け。ここでお前たちが口論したところで、アラガミは倒せない。そうだろ?」

「「………」」

「とにかく、僕らは今後のオペレーション・メテオライトのためにも対策を練る必要がある。ギース、お前も体を休めておけ。アマテラスとの戦闘だけでも、お前はかなりのダメージを負っていたんだからな」

「…」

ヴェネから落ち着くように言われた二人は、そのまま互いを見ることができなくなった。

すると、グレイヴの外からノックする音が聞こえてきた。

「…誰だ?」

グレイヴは基本、関係者以外立ち入りをしないようにさせていたが、イクスだろうか?それとも雨宮隊長だろうか。

「僕です、神薙です」

「!」

リンドウと共に自分たちアーサソールと共に戦うことになった、極東の新型。なるほど、一応関係者でもある。だが、接触禁忌種という主に戦う敵の偏食場パルスの影響のことも考慮すると、任務以外ではアーサソールのメンバーでない者とはなるべく接触しない方がよかった。それを、あの新型はわかったうえでここに来たのか?

「…神薙上等兵か。要件はなんだ?」

ヴェネはグレイヴの扉を開く。そこに立っていたのは、確かにユウだった。ギースとマルグリットも、突如来訪していたユウに視線を傾けてきた。

「少し聞きたいことがあるんです。スサノオのことについて。…もしかして、お邪魔でしたか?なんだか、大声が聞こえてきたんですが…」

「いや、こちらの事情だ。それより、スサノオについて聞きたいことがあると言ったな?」

「ええ」

「だったらメールとか通信機とか使えよ。なんでわざわざここに来たんだ」

「ギース…」

少し言い方を乱暴に発したギースに、これで何度目か、マルグリットが睨み付ける。その視線の重さに、少しギースは凄みを覚えて、いけね、と口を押さえた。そんな二人に対してユウは首を横に振った。

「いいよ、マルグリット。僕も急に訪ねてきてごめんね。

それとギース、君たちはあくまでオペレーション・メテオライトで派遣されてきた臨時の人だからアドレスを持っていない。だからメールで伝えることができないし、通信回線も作戦以外では繋げてもらえないから、こうして直接来るしかなかったんだ」

「あぁ、そう…」

そういうことかよ、とギースは適当に流すことにした。ちょっと礼儀がなっていない態度にマルグリットはもぅ、とため息を漏らしたが、いちいちこれくらいで突っ込んだりすると、かえってギースが拗ねると思ったのでやめた。そんな子供っぽい姿は嫌いではないのだが。

「でもユウさん、どうしてスサノオのことを聞きに来たんですか?」

「友達が…第1部隊の仲間に、変わった姿のスサノオを見たって言う話を聞いたんだ。アーサソールは禁忌種の討伐を目的としているみたいだから、目撃情報とかないのかなって、気になったんだ」

「……」

ヴェネはその際、なぜ彼がスサノオのことを気にするのか気になった。それも、変わった姿をしたというスサノオだという。

「もし次の任務で、そんな怪物が出たら、いくらギースが禁忌種と戦える力を持っていたとしても危険であることに変わりない。ギース一人だけでどうこうできるほど小さい問題じゃないはずです。いずれ他のゴッドイーターたちも接触禁忌種と戦う力を持たないと、アラガミたちに一方的にやられるだけです。だから、少しでもスサノオと戦ったことのある君たちから情報をもらって、少しでも一緒に対策を講じ、ギースじゃなくても禁忌種と戦えるだけの技術も手にするべきだと思います」

ユウはそういうが、口には出していないが理由はまだある。スサノオ…第1種接触禁忌種と呼ばれるほどの力と強力な偏食場パルスを放つほどのアラガミが、もしスパークドールズを取り込んで異常進化を果たしたとしたら、どれほど恐ろしい敵となるのか予測がつかない。タロウが、もしそれが現実となったら勝てないと断言するくらいだ。アラガミを異常な形で進化させた、あのマグマ星人とかいう異星人がスサノオを見つけることも考えられる。その前に、こちらからスサノオのような禁忌種を倒さなければならない。

ギースはユウの言葉を聞いて、ずいぶんと真面目な男だと思った。こいつは考えている。ヴェネに難しいことを丸投げしている自分とは…違う。それがなんとなく妬ましく感じた。

そして、ヴェネとマリー、この二人さえいれば他に何もいらないと考える自分の領域に、ずけずけと踏み込んでくるこのユウという優男のことがますます気に食わなくなった。アーサソールに配属された際に管理官として近づいてきたイクスのように、何を仕掛けてくるのか分からないという、テリトリーを侵された獣のように警戒していた。

「スサノオの情報を少しでも知りたい、か。君の気持ちはわかった。ただ、それはいくらこのアーサソールの隊長である僕であっても、僕だけの一存ではできかねる」

「どうしてですか?僕たちはアラガミという共通の敵と戦っている。なら情報はお互いに共有すべきだと思います」

ヴェネの返答を聞いて、ユウはスサノオの情報を明かそうとしないヴェネに疑問を抱いた。

一方でヴェネはユウの今の発言を聞いて、一つ気付いたことがあった。フェンリルは一枚岩ではない、ということをユウはまだ認識しきれていないようだ。同じ組織下でも、互いに腹の探りあいをしているというのが、ヴェネが本部にいた頃に知ったことだ。

すると、カーゴの扉が開かれ、イクスが降りてきた。

「構わないよ」

話を聞いていたのか、ユウの頼みに対して、快く頷いてきたのだ。

「ドクター?珍しいな。本部の目を気にするあんたが、僕たちの集めた情報を他者に提供するとは」

「彼もこの極東にいる間は共に戦う仲間。なら万が一スサノオが現れた場合に備えて情報を与えるのも、互いのためだと思うがね」

言っていることは確かに正しい。だが、ヴェネはどうも不気味に感じた。あのイクスは、嘘は言わなくても、本当のことも言っていない。そんな感じの言葉をこれまで何度も口にしてきた。それに本部のことに関しても彼は一切話してこない。同じ部隊に所属する者同士でも、イクスとギースら三人には確かな隔たりがあった。

「それに、先ほど本部から連絡があったよ」

「新たな禁忌種が現れたって話か?」

イクスの言葉を先に言ったのは、ちょうどやって来たリンドウだった。

「…雨宮君の方にも報告があったようだね」

「支部長が教えてくれてね。だから新入り探しもかねてここへ来たのさ」

「お!」

ギースは禁忌種がまた現れたと聞いてを聞いて目を輝かせる。

「新入り、ここにいたか。すぐに出る準備しとけ。俺たちが設置した誘導装置のすぐそばだ。見逃したら装置がやられるから急げよ」

「はい」

命令を受け、すぐにユウは準備に入ろうとするが、一度グレイヴのそばを離れようとした際、リンドウはユウの肩を掴み、一旦引き留めた。

「リンドウさん?何かまだ…」

「命令は覚えてるな?お前がゴッドイーターになって最初の任務で、俺が言った奴だ」

「…死ぬな、死にそうになったら逃げろ…っていうあれ、ですか?」

「覚えてるならいい。その命令だけは絶対守れ」

なぜいきなり、その言葉の確認を求めてきたのか、ユウにはわからなかった。ただ、去り際に自分に向けていた彼の視線は、自分の中にある何かを見据えているように見えた。

…いや、考えても仕方ない。兎に角すぐ準備にかかろう。

コウタから聞いた…ウルトラマンの特徴を持つと言う、スサノオも気になる。タロウはその事を聞いてから、黙り混んだままだ。

今のタロウの中に、ある嫌な予想が立っていた。頭の中で言葉にすることさえも恐ろしいくらいの予想があった。まして口にすることなどできるはずもない。

ユウはタロウが抱く悪い予感に関しては、口にしないことにした。タロウだって耳を塞ぎたいことがある、そう思って。

タロウのためにも、今回の禁忌種がスパークドールズを取り込んだりする前に、ギンガに変身してでも仕留めなければ。

 

 

しかし、どれほど目と耳を塞いだところで、現実は覆らない。それを彼らは思い知ることになる…

 

 

 


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