ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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お待たせしました、今回戦闘はありません。次の戦闘回へのつなぎです。

文を書いてると、どうしても『あのキャラはこんなときどういうのか、どうするのか』とか、そのあたりで悩むことが多くなってきます。そして考えた果てに、そんなにインパクトのある話を書けたわけでもなく…なんてことになりがちです。

特にタロウや、支部長たち、そして闇のエージェントたち。この人達はどう考えて動かすべきか、いざ書いてみて『本当にこれでいいのか?』とか、まだ練りきれていない気がしてなりません。
なので、また大幅な変更があったりすることもありえますので、ご了承ください…
(今ならアニメ版のスタッフさんたちの苦労がわかる気がする…)

『禁忌を破る者』編は、オリジナルに踏み込みすぎるとだいぶ苦戦するので、小説内の経緯に沿った方針で行こうと思います。

その後で、運命の展開へつなげていこうかと…

話のエピソードに関しても皆さんからアドバイスを仰ぎたいです。アラガミのアイデア等も含めよろしくお願いします。
ただ、できればユーザー機能にあるメッセージで送ってくれると助かります。


余談ですがゼロ魔、ついに完結しましたね。それを記念して暁の方でもゼロ魔×ウルトラマンゼロを更新してます。気になる方は覗いてみてください。


ギースとユウ

…とある暗闇に満ちた一室にて、怪しげな人影が数人集まっていた。

「極東の連中、各支部からゴッドイーターを集めて新たな作戦を行おうとしているようだな。『オペレーション・メテオライト』とは…ふん、ゴッドイーターという隕石を降らせてアラガミを一網打尽というわけか」

「Foo,なかなかCoolなnamingじゃねえか。

けどよ、このProjectをThinkingしたMr.シックザール…人間の癖になかなかのTacticianだと思うぜ。ただアラガミをKnock Downするだけとは思えねぇな、こいつは」

今の言葉を発したのは、これまでゴッドイーターたちの戦いに干渉し、スパークドールズを使ってアラガミを異常進化させて事態を混乱させた異星人…マグマ星人マグニスとバルキー星人バキの二人。

「そうねぇん…こっちでもシックザールちゃんのきな臭さは噂になっているわよん」

さらにもう一人、オネェ言葉を使う怪人…ナックル星人グレイもまた腰を奇妙にくねらせながら言葉を発する。

「…エイジス計画のことか」

すると、この三人の怪人以外にもう一人、暗闇の中から話しかける者がいた。この三人の怪人たちの仲間だろうか。

…エイジス計画。あらゆるアラガミから全ての人類を守るための巨大シェルター。現在のゴッドイーターたちはこれを完成させることが最終目的だ。しかしその『もう一人』は嘲笑する。

「もしこれを本気で進めているとしたら、馬鹿な話だよ。アラガミの捕食本能は高ぶるばかり。いずれあのエイジスさえも食らうか破壊できるアラガミが出てきて終わりだ」

その人物はエイジス計画の是非そのものを怪しんでいた。

「それをあのMr.シックザールが気付いてねぇはずがねぇ。何せHeは、オラクル細胞の発見者にして研究者の一人だったんだからな」

「…裏で彼が何かを企んでるってわけね?それも、もしかしたら私たちに害をなすようなことかもしれない」

グレイの問いに、バキは頷く。

「ウルトラマンギンガのことだけじゃねぇ。Youたちを呼んだのも、このProjectの裏をMeたちも調べる必要があるからさ」

バキの言葉に続くように、暗闇に隠れた謎の人物は、彼らに向けて言う。

「シックザールが、貴重な人材ということで私の部隊も引き寄せてくれて嬉しかったよ。おかげで、奴の動きを探りつつ、命令も遂行できる」

「命令だと?」

マグニスは目を細める。

 

「命令は…『ウルトラマンギンガを…手中に収めろ』」

 

「なんだと…どういう意味だ」

マグニスは、聞き違いかと思って耳を疑い、その人物に再び問うと、その人物はマグニスに肩をすくめて見せる。

「わからなかったのならわかりやすくいってやろう。あの方は、私に命令したのだよ。

ウルトラマンギンガを我々『闇のエージェント』の手駒にせよ、と」

それを聞いた途端、マグニスは「馬鹿な!」と声を荒げた。

「ウルトラマンは俺たちの先代たちにことごとく邪魔をして屈辱を味合わせた、不倶戴天の敵だぞ!」

マグニスの同族であるマグマ星人だけじゃない、グレイのナックル星人、バキのバルキー星人も…これまでアラガミが出現するはるか昔、地球を侵略しようと目論んだ種族だ。それを、ことごとくタロウをはじめとした歴代のウルトラマンたちに阻まれてしまい、侵略星人たちはウルトラマンという存在は憎んでいた。もっとも自業自得な上に逆恨みなのだが、宇宙の頂点に立とうと躍起になっている彼らからしてみれば、他の星の秩序や日常など石ころ以下の価値だった。

「あんたの個人的感情なんてこの際どうでもいいのよん。それにこれは…あの方の意思でもあるということよ」

「そういうことだな。Sorry、Mr.マグニス。どうやら、Youの復讐は思っていたのとは違う形になるようだぜ」

「ぐ…!!」

マグニスは納得できないと言った様子で顔を歪める。この手で、ギンガと自分の目を潰したあの小娘に復讐してやろうと思っていたが、それが自分の求めている形で叶わなくなったことにイラついた。しかし…『あの方』とはどういうことなのか。

「いいじゃないの。ウルトラマンには、私たちの先代たちの味わってきた敗北の味の分だけ、苦しませてあげようじゃない。

ウルトラマンたちが愛する地球人を、ウルトラマン自身の手で殺す。面白いと思わない?」

お釜口調とあいまって残酷なことを口にするグレイはマグニスに言った。

さらに謎の人物はマグニスたちに話を続ける。

「それにこの計画の影響で、アラガミたちが極東に集まっている。しかも『素材』にふさわしい個体も数え切れんほど見つかった。万が一ギンガが逆らうことになっても問題ない」

「後はスパークドールズたちが適合するかどうかね。どうなの?どいつか適合できそうな奴はいた?伊達にスパークドールズを組み合わせて、怪獣とアラガミのハイブリットを作っても、素材同士の力を引き出しきれないことだってあるじゃない?

…でしょ?マグニスちゃん」

「…ああ。コクーンメイデンとやらとツインテールはだめだった。素材が弱すぎただけじゃない。適合率が低く力を引き出しきれなかった。それにグビラとグボロも、てこずらせはしたが結局ギンガに劣る失敗作だ」

テイルメイデンやグボロ・グビラのように、マグニスはアラガミとスパークドールズ化した怪獣の合成実験を、闇のエージェントの仲間たちから任されていた。しかし、それも必ずしも彼らの望んだ結果を導くとは限らないようだ。

「いずれにせよ我々の、この極東の地でやることは全て…『あの方』の復活、そして『あの方』の望みをかなえることだ。しくじらないようにな」

「あなたもね…今回は、あなたに与えられた命令が要なのだから」

グレイは、そのように言ってきた暗闇の中の人物に対して、そっくりそのまま返してやるといっているような口調で言い返した。

 

 

 

説明会終了後、ユウはオペレーション・メテオライトに備えて神機の調整をしてもらうために、整備士のリッカの下を尋ねていた。しかしそこにいたのはリッカだけじゃない。サカキ博士もそこに居合わせていた。

「サカキ博士?」

「おぉ、ユウ君か。最近なかなかに活躍しているそうだね。入隊当初に私の講義を受けていた頃が懐かしいものだ」

「まだほんのちょっと前じゃないですか」

まるで遠い昔のように語るサカキに、ユウは苦笑いを浮かべる。

「でも、どうして博士がここに?」

「神機に搭載された新たな機能の調子をこの目で確かめに来たのだよ。」

「もしかして…メテオライト作戦の資料にも載っていた、神機の新機能の…ですか?」

説明会の配布資料の中に、近接型神機に新たに搭載される新機能について触れている記述があった。そのことも含めて、彼はここに来ていた。

「ツバキ君の説明会ですでに知っていたようだね。」

「ユウ君、『プレデタースタイル』のことを聞きたいの?」

神機の調整中だったリッカが少し手を休めるつもりか、ゴーグルを外してユウのほうに振り返る。

「整備士であるリッカちゃんの口からいろいろ聞いてみようと思ったんだ。せっかくだから、博士からもご説明をお願いできますか?」

「ふむ、いいだろう。君がゴッドイーターとしてできることが多くなることは私としても喜ばしいからね」

「わかった。ちょっとこれを見て」

リッカは、タブレットを出してモニターに、神機の設計図のような図面を見せる。彼女はその図面の神機の見取り図にある一部部を指差しながら説明を続ける。

「神機の機関部にあるオラクル細胞を制御するこの制御ユニットに、さまざまな形のプレデタースタイルを記憶させることでそれを扱うことが可能なの」

「君たちゴッドイーターによって今まで使われていた捕食形態は、プレデタースタイルで言うと〈壱式〉と呼ぶ。わかりやすく言うと、神機からそのまままっすぐ捕食形態の顎が出てきて、対象のアラガミを食らうようになってるが、プレデタースタイルを使うとまた違う形で捕食形態が展開されるんだ」

「博士、それはどんな風にですか?」

「たとえば…捕食形態の顎が三つに分かれる…とか想像できるかな?」

「三つに…」

サカキの例えに、ユウは頭の中でおぼろげに想像してみる。捕食形態展開時のアラガミの頭が、三つ首になる。ちょっと子供が想像しそうな、怪物的な姿を考えてしまう。

「なんか、ちょっと怖いかも」

内心、捕食形態の姿がまさにアラガミのそれだったから、ユウは少し恐怖心じみたものを抱いていた。何せしばらく前まで、神機を持たずにアラガミから逃げ回った過酷な壁外生活を経験してきた。何度食い殺されかけたかわかったものじゃない。

それを察したリッカは苦笑交じりにユウに言う。

「ふふ、そうかもね。でも君の命を預かっている大切な神機だから大丈夫」

「この機能をうまく使えば、バーストモードを長時間維持することが可能だ。それ以外にも攻撃力が上がったりとか、ヴェノム状態への耐性が着くとか、さまざまな効果を発揮することが可能であることが、テスト段階で判明している。

まだ搭載したばかりだから、古株のゴッドイーターでもすぐに使いこなすには時間がかかるかもしれない。だが、君たちなら使いこなせると私は信じているよ」

サカキの狐のような目の奥には、強い期待がこめられていた。

「…はい、絶対に使いこなして見せます」

「うむ、いい返事だ。期待しているよ、ユウ君。

さて、私はここのところで研究室に戻るとしよう。こう見えてやらないといけないことがあるからね」

サカキは二人にそう言うと、整備室を後にした。ユウは、去っていったサカキを見送りながら、ふと浮かんだ疑問を口にする。

「博士って、普段はなにをしてるんだろう」

あの人と初めて会ったのは、神機の適合試験の後で体のメディカルチェックを受けたときだ。それからはアラガミの知識を得るために、コウタと共に講義を受けたこともある。常に狐目の笑みの奥に、何かを隠しているようにも感じられた。見た感じは、結構な変人だと思うが。

「アラガミの研究とかをやってる人なんだけどね、あまり研究室から出てこないんだ。で、たまに変なドリックを自販機で販売してる」

リッカの説明の中に、思わぬ事実を聞いたユウが目を丸くした。

「変なドリンク?」

「さっき聞いたら、『今度初恋ジュースって飲み物を売ってみようと思うんだがどうだね?』なんて聞いてきたよ」

「…何、その甘酸っぱそうなジュース」

本当に何をやってるんだ、とユウはサカキへ突っ込みたくなった。

「神機の生みの親でもあるんだから、もっとマシな発明はしないのかなって、内心では私も突っ込みまくりだけどね」

どうやらリッカも同じことを考えていたようだ。自分の考えがおかしいものじゃなかったことにどこか安心する。

「…と、そうだ。プレデタースタイルのことを知ったんだし、せっかくだから何か搭載してみたらどうかな?」

「なんか悪いね。寝る間も削らせることになっちゃうみたいだし」

「いいのいいの。私たちの仕事はゴッドイーターたちの命を預かる神機を完璧な状態に治したり強化することだから。それに、機械をいじってると楽しくなるんだ。

夢中になりすぎていつの間にか朝!なんてこと、しょっちゅうだけどね…我ながらあまり女の子っぽくないなぁ…」

たはは、とリッカはユウに笑う。整備士としてここでこもりきりだから、女の子らしいことがあまりできないのかもしれない。

すると、そんなユウとリッカのもとに、さらに新たな人物が一人やってくる。

「あの、ここ…整備室でいいですか?」

「えっと、君は?」

入ってきたのは、見たところまだ10代半ばのまだ若い女の子。なぜか服装の露出度の高さが目立つ極東支部の女性陣約数名のように、彼女も結構肌の露出が高い服を着ているのが気になった。…と、ユウはそこで煩悩を心の中で振り払う。タロウは今部屋の方にいるのだが、ここにいたらまた「女性の肌をじろじろ見るなどけしからんぞ」と小言を言ってくるところだった。

「あぁ、もしかして、アーサソールってチームの整備士さん?」

「え、はい!そうです。マルグリット・クラヴェリといいます」

その少女は、マルグリットだった。整備士ということもあってここへ来たのだ。

「はじめまして、だね。私は楠リッカ。よろしくね。ああと、こっちの彼は…」

「僕は神薙ユウ。第一部隊のゴッドイーターだよ」

「よろしくお願いします、リッカさんに、ユウさん…でいいですか?」

「いいよ。…ん?アーサソールって、もしかして…」

説明会での出来事をユウは思い出す。確かツバキの口から聞いて、その名称の対象とされたのが、あのギースとヴェネと呼ばれた二人の男だった。

ギースとヴェネのちょっとしたとんちなやり取りを思い出してユウは思わず苦笑する。

「あの、なんで笑ってるんです?」

「いや、君が悪いわけじゃないんだ。ただ…」

「ユウ君、出会いがしらに女の子を笑うなんて酷いんじゃない?」

リッカが細めでユウを睨んでくる。

「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど…ちょっと説明会のこと思い出しちゃって…」

それからユウは、説明会でギースが起こした寸劇の詳細をマルグリットの話すと、マルグリットは大きなため息を漏らした。

「…ギースったら、ヴェネに丸投げしすぎちゃダメって言ってるのに、もぅ…」

彼女も彼女で、ギースという少年には少し頭を悩まされているようだ。

「昔から知り合いなのかい?」

「はい、幼馴染みなんです。ギースって昔から…」

そこまで言いかけたところで、先程サカキが去ったエレベーターの扉が開かれ、二人の男が入ってくる。

「マリー、探したぞ。どこ行ってたんだよ」

「よぉ、新入り。お前もここだったか」

ギースとリンドウの二人組だった。

「リンドウさんまでここにくるなんて、なんか珍しい。もしかしてサクヤさんに追い出されたんですか?」

「こらこらリッカ君、それはどういう意味かな?」

リンドウとリッカが他愛のない会話をする一方で、ギースは…マルグリットの隣の位置に立っていたユウを睨んだ。

「…誰だてめぇ」

「少年、こいつがうちの新型の一人、神薙ユウだ。仲良くしてやってくれ」

とりあえずリンドウが間に入ってユウを紹介してみる。

「こいつが…ね」

「えっと…ギース…だったね。僕、何か悪いことしたのかな?」

「てめえとなれ合う気なんかねぇよ。気安く俺の名前を呼ぶな。それと、なにさりげなくマリーの隣に立ってんだよ」

ギースがやたら睨んでくる姿勢に、ユウは少し後ずさる。説明会で皆からいろんな意味で注目の的にされたから機嫌が悪いのだろうか。

「ギースッ!」

「な、なんだよマリー…」

「初対面の人に対して失礼じゃない。そんな居心地の悪くなるようなこと言っちゃだめでしょ」

出会い頭にユウへ、まるで突っかかるような態度を現すギースを、マルグリットが叱る。

「だって、なんかこいつの優男っぽい顔が気に入らねぇンだよ」

本音は、惚れている女の子が自分は愚かヴェネとも違う男の傍に立っているのが非常に気に入らないだけだった。しかしそれをマルグリットが察するはずもなく…というか、今察する必要もないだろう。無礼な態度をとるギースの方がよほど悪い。

「またそんなこと言う!いい?そんなこと言うと、素でギースが嫌な人だって思われることになるの。私とヴェネはそうじゃないって知ってるけど、この人たちがそうとは限らないんだから」

「別に仲良くなる気はねぇし…」

ギースは本気でそう思っていた。マリーとヴェネ、この二人さえいれば他に何もいらない。イクスがいなくなればもっといい。それにこの支部も、例のなんとかって作戦が終わればすぐに退散することになる。仲良しごっこをするだけ無駄なのだと思っていた。

「そのつもりじゃなくても、せめて礼儀正しく接すること!この前の支部ではそのせいで他の支部で会ったゴッドイーターと殴り合いになりかけたでしょ!?」

また彼女から説教されたことに面白くない表情を浮かべるも、彼女の言葉を無碍にできないギースは口を尖らせ、渋々ながらユウの前から下がる。

すると、ユウたちの通信端末にメールが入る。

次の任務…誘導装置設置任務についての詳細だった。説明会でのツバキの発表だと、ユウとリンドウ、そしてギースとここにはいないエリックが同じ班となっている。今回の任務でギースたちとの連携を確かなものとし、メテオライト本作戦での備えにしておかなければならない。

「…やっと任務か!マリー、すぐにグレイヴに来いよ。早くしねぇとアラガミに逃げられちまうから」

ギースは任務と聞いて、不機嫌な様子から一転してかなり興奮した。彼はアラガミとの戦いに喜びを感じている。そんな戦闘狂っぽいところは、ギースが先ほどユウに対して悪感情を押し付けたように…ユウもまた、あまり快く思えないところがあった。リンドウのように心に余裕があったり、体を外で動かすのが好きなだけなら、まぁそれでいいのだが。

「その前に!ちゃんとユウさんたちに謝って!」

しかしすぐにギースがこの場を出ようとするのをマルグリットが許さなかった。彼の手を引っ張り出し、

「な、なんでだよ!俺がやらかしたの、こいつ相手にだけだろ!?」

なぜかリンドウとリッカにまで謝るように言われたギースが、ユウを指さしながら納得できないと声を上げるが、すかさずマルグリットは言い返す。

「リンドウさんやリッカさんたちにもみっともないところを見せたじゃない。それも含めて、です!」

「…わーったよ。…ごめんなさい」

「もぅ…後ですぐグレイヴに来るから、それまで大人しくしててね」

「へ~い…」

とことん叱られ、いじけた様子のギースはエレベータの方へ向かう。

「おっと、俺もそろそろ行かないとな。こいつの面倒見るように支部長から言われたからな」

「…保護者面してんじゃねーよ…」

リンドウが馴れ馴れしく保護者顔してくるのが嫌なのか、それとも意地っ張りな性格ゆえか、ギースがボソッと呟く。マルグリットに聞こえたらまた説教を食らうと思い、聞こえないようにボソッと言った。

「すみません、ギースの事よろしくお願いします」

「おぅ、大船に乗ったつもりで任せとけ。若者の扱いは慣れてる方だ」

リンドウさんだってまだ若いじゃないですか。ユウは心の中で突っ込む。リンドウは去っていくギースについて行ってその場を後にするのだった。

二人が一度整備室を出た後で、マルグリットはユウの方を改めて振り返って頭を下げてきた。

「ごめんなさい。ギースは悪い人じゃないんだけど…」

「あ、ああ…いいんだよ。ちょっと慣れてるし」

「ゴッドイーターって、たまにあんな感じの子が来るんだよね。特にシュン君がそうだったし」

慣れてる、というのは…ユウの場合はアリサとソーマ、さらに加えるとシュンのおかげかもしれない。彼らも初対面からユウに対してあまりよろしくない態度だった。相手が嫌な接し方を仕掛けてくるシチュエーションに慣れてしまうとは、あまり自慢できない特技だ…とユウは心の中で苦笑いする。

「でも、そういう君もちょっと大変じゃない?言っちゃ悪いかもだけど、あんな感じの幼馴染を見ておくのって」

「ギースを見ておくのが私の役目だって思ってますから」

大変ですけどね、と笑みを見せるマルグリットはリッカに応える。ギースに対する不満こそあれど、決して嫌がっている様子はなかった。寧ろ望んで彼の面倒を見ている。ギースの子供っぽい仕草も性格も嫌いではなかった。

「でも、最近おかしいんです」

しかし、マルグリットは何かを憂うように、ユウとリッカに向けて言葉を続ける。

「ギースって、最近かなり気が立ちやすくなってるんです。昔から良くも悪くも素直だったけど、最近はいらだつことがあると物に当たることも多くて…そのせいで前の支部で鉢合わせした人たちと揉めちゃったんです。ヴェネからたしなめられて、私が言いくるめると、おとなしくなってくれるんですけど」

「確か、接触禁忌種のアラガミを倒すのがアーサソールの役目だって、サカキ博士から聞いたんだけど……禁忌種のアラガミが放つ偏食場パルスがギース君の精神に影響を与えてるんじゃないのかな?」

「いえ、それを考えてドクター・イクスが対策を講じてくれてます。それに、ここの支部長さんも精神を落ち着かせるアンプルを今日渡してくれましたし、だから…問題はないはずなんです」

「そのドクター・イクスって人の対策って?」

「…ごめんなさい。そのことはドクターから口止めされてるんです。アーサソールの機密に抵触することだから口外するなって」

その対策のことについては、マルグリットは話せなかった。

イクスの対策というのは、『ニーベルング・リング』と呼ばれる首輪のことだ。いつもギースの首に巻きつけられている。これのおかげで、接触禁忌種の偏食場パルスの影響を受けないのだというが…マルグリットは内心ではあのリングに不信感を寄せていた。調べようと思ったが取り外すこともできず、ならばイクスのカーゴを調べようと思ったが、あれはイクス以外に入れない。完全なブラックボックスだ。

マルグリットはユウに顔を向ける。

「ユウさんって、これからギースと任務を一緒にするって聞きました」

「うん、リンドウさんとエリックと一緒に行く予定だよ」

「なら、一つお願いしていいですか?」

「もしかして、ギースを見てくれってこと?」

「はい。ギースって昔から危なっかしいところが多いから心配で…私に合う神機が見つかったら、ギースとヴェネの負担を下げられるんですけどね…」

彼女は整備士だが、同時にゴッドイーターの候補者でもあった。しかし未だに彼女に合う神機は旧型にも見つかっていない上に、開発もされていない。一緒に戦うことだけでもできるユウが、ちょっとうらやましく思えた。

「大丈夫、仲間を守るのもゴッドイーターの役目だから」

ユウはマルグリットのお願いを全く断ろうともせずに頷いて受け入れる。いい人だ、とマルグリットは思う。少しはギースも彼を見習ってほしいところだ、とも思ってしまう。

「それに、僕も駄々っ子の扱いの経験くらいはあるから」

「そうなんだ?」

ユウからそんなことを聞いてリッカがちょっと意外に思って目を丸くする。

「昔ちょっとね」

…子供のころにアラガミに殺された妹の相手だけどね、と口には出さなかった。

 


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