ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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初めて読む方、始めまして。
そして読んでくださった方、お久しぶりです。
うまくできているかはわからないけど、アニメ化記念もかねて二話目が完成したので投稿します。
アニメ版の主人公は空木レンカというキャラになったそうですが、こっちは神薙ユウ君のままにします。

3話目とこの先のプロットについてですが、ほとんど決まってません。そうなると原作にただ沿っているだけになる…それだとちょっと味気ないので次回の投稿はまたずっと先になると思います。

それに今作ではアラガミと怪獣の合成生物を登場させる方針もとっているので、その辺りでも苦戦は必死です。(純粋な怪獣や星人も登場予定です)
今のところ合成怪獣はオウガダランビア以外では一匹しか確定した個体がいません。しかも地上戦型なので次回登場する飛行タイプの怪獣とは別物です(ネタバレを避けるため敢えて言いません)。
なので、できればお読みくださった方々にこんな怪獣・またはアラガミを怪獣と合成させてはどうだろうかという意見をお聞きしたいです。ご自由にご意見を感想、メッセージでもなんでもいいので送ってください。
最優先として、次回登場予定の飛行型の怪獣と飛行型のアラガミを合成した怪獣のアイデアを…できれば!!(汗)orz
他にもおかしいだろ!っ手思った点、こうした方がいいのでは?などのご意見があれば言ってほしいです。

それにしても、我ながら戦闘描写がかなり不得手だな…いや、全体的に?


アナグラ

鎮魂の廃寺で起こった非常事態から約1時間後…。

フェンリル極東支部。アナグラの『支部長室』。

そこには実年齢以上に若い顔立ちを持つ男性が、山のような書類と傍らに置いたノートPCを相手にデスクワークを一人黙々と行っていた。

そんな彼の元に、通信でヒバリからの連絡が入る。

『こちらオペレーターのヒバリです。支部長、聞こえますか?』

「こちら『ヨハネス』。聞こえている。なんだね?」

この男は、極東支部の支部長…つまりこの地域のトップに当たる『ヨハネス支部長』。彼の周囲の状況を見てもかなりの仕事が詰まっていることがうかがえるが、文句をほとんどいうことなくこなしている。元はアラガミ研究の権威で、優秀な人物でもあるのだ。

『リンドウ隊長ら第一部隊が無事帰還いたしました。ただ、今回予想外の事態が起きて、サクヤさんとソーマさんが負傷したと報告がありました』

「予想外の事態?」

『交戦中だったオウガテイルが捕喰活動直後に突然変異を起こし、50mを超える巨大アラガミへと異常進化を遂げたそうです。

さらに、リンドウ隊長たちが危機に陥った時、正体不明の巨人が出現し、アラガミを撃退し姿を消しました』

「巨人?新種のアラガミか?」

『いえ…アラガミと断定していいのか…わかりません。巨人からは強いエネルギー反応は検知されましたが、オラクル反応は全く関知されませんでした』

「………」

ヨハネスの中に、ヒバリから報告された巨人への興味がわく。極限的な再生能力を持つオラクル細胞の集合体であるアラガミを、神機を用いることなく倒した巨人。関心を寄せない方が無理があるというものだ。ともあれリンドウたちが無事であることを知り、ヨハネスは安心した。しかし、すぐに真剣な表情を浮かべる。

「ツバキ君から、現場にアラガミ防壁外の一般人がいると報告があったが、彼は無事かね?」

『はい。リンドウ隊長たちが発見した時は酷く衰弱していましたが、ルミコ先生が診たところ命に別状はないそうです。

…え?もしかして、支部長は現場の方が男性だとご存じだったのですか?』

「ああ、ちょっと彼について気になることがあったのでね。時期に説明しよう。それよりも…彼の適性検査の結果を聞いておきたい」

『…はい。検査の結果、本部から支給された新型神機と高い適合率が確認されました』

ヒバリが『適性検査』の結果をヨハネスに報告すると、ヨハネスはふ…と笑みを浮かべた。

「…そうか。彼にとっては複雑かもしれないが、支部長としての私の立場からすれば、喜ばしいことでもある。ヒバリ君、ご苦労だった」

ヨハネスはヒバリとの通信を切ると、腕を組んで天井を見上げた。

「さて…君は人類のためにどう動いてくれるかな?」

 

 

 

極東地域のハイヴを囲うアラガミ防壁の外の、とある場所に点在する家の集まり…集落があった。そこは幸いアラガミがほとんど出現しない幸運の土地だった。井戸水を組み、わずかな作物を自分たちで栽培するなど、そこに住んでいる人々は、荒れ果てた土地の上にわずかに残っていた自然の恵みや古ぼけた機械類を頼りながら生きていた。

しかし、この時代はアラガミによって支配されているも同然。まだアラガミが出現していなかったとはいえ、集落の人は毎日警戒を怠ることができなかった。しかも彼らは極東ハイヴ入りを拒まれた流れ者たち。武器は愚か、スタングレネードを手に入れることさえままならず、誰かが偽造の身分証明書を作ってフェンリル職員を装ってハイヴに侵入し備品の横流しをする、またはフェンリルの輸送車が偶然通りかかったら適当に盗むなど、生きるために手癖の悪い手段をとるしかなかった。だが決して見つからなかったわけじゃない。中にはフェンリルの連中にばれてしまい、捕まってしまった者さえいる。人類の命綱である貴重な備品を盗み出したのだ。たとえ自分たちが生き残るためとはいえ、捕まったら最後何をされるかわかったものじゃない。

その集落の人たちは、そんな波乱の日々を強いられていた。

『兄さん、起きて!』

そんな集落に、一人の男児がいた。幼い妹を持つ、10を超したばかりの少年だった。彼は、旧世代の歴史や機械などに興味を持ち、アラガミに荒らされた廃都市に向かっては色々と拾い物をしていた。

『んあ…もう食べられないよぅ…』

貧乏な家というにしても、少しボロボロな作りのとある家の居間は、ゴミにしか見えないようなものの山が、テーブルに体を預けて眠っていた少年を中心に積みあがっていた。彼の妹らしき少女がそれを見て頭に来ているのか、寝ている兄を怒鳴り起こすと、兄は情けない声を漏らしながら起き上がった。

『なにが「もう食べられない」よ!またこんなにガラクタため込んで!掃除するあたしの身にもなってよ!』

『わ、わかったって…ふわああ…』

ありきたりな寝言をぼやく兄に対し、両手を腰に当ててプンすか怒る妹だが、兄は寝起きからなかなか立ち直ることができない。なんとか頭を適当に叩き、あくびをして無理やり意識を起こした。

『朝ごはん置きたいから、テーブルの上のだけでも早く片付けてね』

妹から言われると、兄はすぐにテーブルの上に散らかった部品を直ちに片づけ、二人で朝食をとった。しかし朝食を食べ終わって食器を流しに置いた途端、兄はまたしても散らかっていた部品を取って、機械の修理にかかっていた。彼が修理しているのはラジカセ。もうこの時代では80年前後も昔の機械だった。ドライバーで中をこじ開け、汚れた基盤を使い古した服を改造した布巾で拭き取って再び他の部品を繋ぎなおしていく。

『兄さんって、いつも昔の道具ばかりいじってるよね』

身をかがめて、妹は兄の作業を観察しながら言った。

『まあね。一度やってみたらなかなか面白くってさ。それからついハマっちゃって…』

『おかげでうちはごみ屋敷っぽく見られがちなんだけど…』

『し、修理する度に片付いているから大丈夫じゃないか!』

ジト目で睨んでくる妹に、思わず兄はたじろぐ。尻に敷かれているようだ。

『それに、機械を修理するだけの技術ってすごく大事なことなのは確かだ。機械は、言いかえれば人の夢を形にした貴重な遺産でもあるんだ。こんなガラクタにしか見えない奴でも、アラガミのせいで荒れ放題のこの世界で生きる人たちの大切な命綱でもあるんだ』

兄は誇らしげに、修理完了間近のラジカセを眺めながら言った。

『でも…アラガミには普通の銃とか効かないんでしょ?アラガミを倒せるのはフェンリルのゴッドイーターだけ。けど、フェンリルは…』

フェンリルの名前をつぶやき、妹は悔しそうに歯噛みする。

『フェンリルはいっつも壁の中や自分たちのことばっかで!私たちのような壁の外の人たちは毎日誰かが食べられてる!助けられるはずのお父さんやお母さんだって助けてくれなかった!!この前だって近所のおじいちゃんが食べられちゃったんだよ!!』

『●●……』

この少女は父と母を失い、それを救えるだけの戦力を持つフェンリルと彼らが束ねるゴッドイーターたちに対して強い嫌悪感を抱いていた。

妹の名を呟く兄は妹の頭を撫でた。

『大丈夫だ。兄ちゃんがきっと、神機よりもすごい発明をしてみるよ。誰でも人を守るために使うことのできる力。それがあれば、きっとアラガミに怯えない世界がやってくるはずだ』

『………本当に?』

『ああ。そうしたら、もっとすごいものを作るんだ。それが、僕の夢なんだ』

腰を上げると、少年は窓を開けて、外の景色を青く彩る空を見上げた。地上がアラガミによって食い荒れているというのに、白い雲がふよふよと風に流されながら浮いている、いつの時代も青いままの空。

 

そう、夢を叶えたかった。そして、妹にそれを見せてあげたかった。だけど…。

 

『逃げて、兄さん!!』

アラガミが突然それを壊した。また、アラガミによって彼は奪われてしまった。突如家を破壊してきたヴァジュラのせいで、彼の家は焼けて崩れ落ち、置き去りとなった妹を飲み込んでしまった。

突然自分の日常が壊され、ただ呆然と、燃え盛る自分の家だった瓦礫の山を、ヴァジュラが炎に包まれながら食い散らかしている姿を見ているしかできなかった。

残酷な現実を見て、彼は頭を抱えて絶望した。

 

―――――うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

「ああ!!」

ガバッ!とユウは起き上がった。息がものすごく荒々しく、服を脱がされた上半身に付着した汗が彼の体を照り光らせている。

包帯が巻かれている自分の上半身を見て、彼は周囲を見渡す。ここは…病室だろうか?ベッドが六つほど規則正しく並んで、部屋には薬の匂いが鼻を突いた。けど、こんなに環境が整った病室をユウは見たこともなかった。

「よかった~。目が覚めたんだ。大丈夫?どこか体痛むかな?」

声が聞こえて、ユウは病室の入り口から入ってきた女性を見る。あの廃寺にいた女性とは違う人だった。跳ね上がった短い髪にゴーグルをつけ、ビキニのブラと作業用ズボンの上に白衣を羽織った人だった。女医なのだろうか?

彼女はユウのベッドの傍らの椅子に腰かけた。

「それにしても運がよかったね、君。あの廃寺はアラガミの巣も同然の危険区域なんだよ。それに今回、ものすごく大きなアラガミが出てきたって、リンドウさんから聞いていたし…。なのにやけどを負っただけで済んでたなんてね」

大きな、アラガミ…そう呟くと覚醒した蚊のように彼は女医に食いかかった。

「こ、ここは!?一体どこなんですか!?どうして、僕がここに!?」

「お、落ち着いて!順を追って話すから」

女医はユウの肩を掴み、立ち上がろうとしたユウをベッドに寝かせた。

「まずは自己紹介。私は『ルミコ』。このフェンリル極東支部、通称『アナグラ』で救護班として働いているんだ」

「は、はぁ…アナグラですか…って!?」

アナグラ、と聞いてユウは驚く。ここはアナグラの病室だったのか!?通りで病室の環境が異様に整っているのかと思ったら、そう言うことだったのか。

「リンドウさんたち第一部隊がね、廃寺の近くで急に爆発が起きたからって緊急派遣されたの。君はそこで意識不明の状態で倒れていて、こうして運ばれたってわけ」

「………」

ルミコという女医は、オウガテイルから進化したあのアラガミと、奴を倒した謎の巨人については触れてこなかった。

夢、だったのか?はは…それもそうか。まさか自分が巨人になってアラガミを倒したなんて、言ったところで作り話としか捉えられないに違いない。きっと廃寺の裏の坂を滑り落ちたときに自分は気絶していた。そしてピンチに駆けつけるヒーローという子供じみた夢を見ていたのだ。そうだ、きっとそうに…。

そう思っていたかった自分がいた。非現実的な光景を認められなかったのだが、それは許されなかった。ベッドの傍らに、自分の服の上に乗っているアイテムを見て、彼は驚きの表情を浮かべる。

廃寺で手に入れた、槍に変形してオウガテイルを倒したあのアイテムがたたまれている自分の服の上に乗せられているのだ。ユウはそれを手に取って確かめると、やはり間違いなく会の廃寺で拾ったアイテムだった。

「そのおもちゃみたいなの、君が持ってたんだよ」

「………」

夢じゃなかった。あの時自分は確かに、このアイテムのせいでいきなり巨人に変身し、あの巨大なアラガミを倒したのだ。

「ところで、君のことまだ聞いてなかったね。名前は?」

「え、えっと…」

名前を聞かれてユウは息を詰まらせた。

これまでのユウは、偽造証を使ってアナグラを囲む第8ハイヴに侵入し稼いできたのだ。迂闊な返答をしてしまえば後々厄介なことになってしまう。

それに、いかにこのアナグラがこれまで訪れた場所の中で最も安全な場所だとしても、自分には帰らないといけない場所があるのだ。

ユウは必死に頭を捻る。ここを抜け出し、『女神の森』へ帰還するにはどうすればいい?まずこの施設にはフェンリルの正規職員たちが何千人もいる。ゴッドイーターももちろんいることだろう。彼らを相手に、たった一人の一般人の男が、車やスタングレネードなどを盗み出して脱出するには確率なんてもので測れっこない。確実に捕まってしまうだろう。

(どうする…どうやってここから脱出する?あまり長く待たせるわけにもいかないし…)

「お、目ぇ覚めたみたいだな若者」

調子のよさそうな男の声が聞こえる。扉の方に視線を向けると、今度はコートの男が病室に入ってきた。

「あ、リンドウさん」

「お、ルミコちゃんお疲れ」

ルミコの姿を見て、リンドウは適当に手を振った。そしてルミコとは反対側の椅子に腰かけ、ユウを見た。

「怪我は浅かったみたいだな。いや~見つけたときは冷や冷やしたぜ。せっかく見つけたってのに、実はもう死んじまってたのかと。あ、でも心臓の鼓動は聞こえてたからおかしいか」

「…」

ユウはリンドウの右腕の手首を見る。赤い模様の腕輪がはめ込まれている。これはゴッドイーターたち全員が身に着けなければならないものだ。

実をいうとゴッドイーターたちが用いる神機はアラガミを殺すことができる唯一の武器であると同時に、フェンリルが開発した人工アラガミでもある。適合していない者はたとえゴッドイーターであろうと、迂闊に障れば神機が手に持った人間を捕食しかねない、扱いに関してはシビアにならねばならない危険物でもあるのだ。そしてゴッドイーターたちの体にはアラガミの持つオラクル細胞…偏食因子が投与されている。腕輪を介して定期的に偏食因子を投与しなければ、神機に捕食されるか、または体内のオラクル細胞が暴走し、アラガミとなってしまう危険性があるのだ。だからゴッドイーターとなった者は生涯腕輪を外すことはできない。

ユウはリンドウの持つ腕輪を見て複雑な感情を抱いた。

(もし、あの時…ゴッドイーターが早く来てくれていたら…)

幼い頃の悪夢のような現実を思い出さずにはいられなかった。掛布団を掴む手に力が籠められ、ギュッと布団を握った。

リンドウもそれに気づいた。長年のキャリアを持つため、これまで何度もフェンリルに対して反抗的な態度を持つ一般人を何度も見てきた。神機使いになりたての時は、一方的なバッシングに折れかけたことがあったのかもしれない。

けど、だからって自分まで相手と同じ態度で接することはしてはならない。余計に溝を深めるだけなのだから。

「怪我は痛むか?」

「…大丈夫です。もう動けます」

ユウはリンドウからの気遣いに、そっけなく返答し、立ち上って服を着た。

「その様子なら、大丈夫そうだな」

突っぱねるような態度を示すユウを見て、命にかかわるほどの負傷じゃなかったことを知り、リンドウは安心した。

「聞いてるとは思うが、俺は雨宮リンドウ。フェンリル極東支部第一部隊の隊長だ。こうしてお前の様子を見に来たのは、お前の容体の確認の他にもう一つある」

最初の内は少し砕けた態度にも見えたが、自分が第一部隊隊長であることを明かしてからのリンドウの目つきは少しだけきりっと真面目なものになっていた。

「支部長がお前を呼んでる」

「支部長?」

…ということは、この極東支部のトップ?そんな立場の人間がなぜ自分を呼んでいるのか、ユウには一瞬理解できなかったが、もしやとある予想を立てた。

まさか、自分がこれまで第8ハイヴに不法侵入していたことがバレてしまったのか!?

「リンドウさん、確かに検査には通ってたからって、いきなりすぎるんじゃない?彼だってほら、怪我してるし目覚めたばっかりだし…」

「あぁ、それについては俺も思った。けど、こいつについて見逃しきれない事情があるっつって、目を覚ましたら支部長が丁重に自分の前に連れてきてほしいって命令してきたんだ」

支部長の、目を覚ましたばかりの患者への扱いに対して難色を示すルミコに、リンドウもまた納得しきれていない様子だ。

「その事情も、お聞きしたの?」

「おう、ただ…ここではちと話せないことだ。悪いが、こいつを借りるよ。

お前さん、ちょっと俺について来い」

「あ、はい…」

リンドウはユウの背中を押すと、彼を連れて病室を後にした。

 

 

病室のすぐ近くのエレベーターに乗り、ユウとリンドウはアナグラの『役員区画』エリアの、『支部長室』までやって来た。

部屋に入ると、目の前には実年齢を感じさせない整った顔の男性がデスクに座っていた。

「ご苦労だったね、リンドウ君」

「いえいえ、これくらいの命令なら朝飯前ですから」

労いの言葉を向ける男…ヨハネス支部長に、リンドウは謙虚に言い返す。複雑に思う組織の人間とはいえ、相手は自分より圧倒的に偉い。とりあえずユウは気を付けをしてみる。

「ああ君、そう固くならなくていい。それより、怪我もあるというのに無理に呼び出して済まなかった」

手をかざして肩の力を抜くように言う支部長。

「では、初めましてだね。私の名は『ヨハネス・フォン・シックザール』。聞いているかもしれないが、このフェンリル極東支部の支部長を務めている」

「は、初めまして…」

とりあえず頭を下げてみるユウ。なんというか、正直ただでさえ自分でも自覚している違法行為で呼び出されたのではと言う予感を覚えている彼にとってこの支部長室は居心地が悪かった。

「さて、早速だがこうして君を呼び出した理由を話そう」

ひじを付き、目の前で両手を指でからめながら、ヨハネスはユウをまっすぐ捕える。

「まず、リンドウ君たち第一部隊が君を救出に向かった旧降星町の廃寺で起こったことを話してほしいのだ。記憶している限りで構わない」

「わ、わかりました」

迂闊にここから飛び出して逃げようにも、ここにはリンドウ…第一部隊隊長という役職に就くほどの男がいる。逃げ出そうとしたらすぐに捕まるだろう。とりあえず深呼吸して落ち着かせ、ユウは廃寺で起こったことを話してみることにした。

とはいえ、話す言葉と事実は選んだ。まず、あの廃寺に向かい途中で一瞬だけ見かけた少女。恐らく幻だと思っているので話すのは避けた。続いて自分が変身したあの巨人のことも話さなかった。自分があの巨人に変身したことを知られるのは危険だと感じた。なにせフェンリルは信用性に欠ける。これまで自分のような路頭に迷った人間にとってフェンリルは人類の救世主などではなく、寧ろ守るべき人たちを見捨て自分たちの箱庭を守り続け保身を図る愚か者たちの集まりのように見られているのだ。ユウもそこまでは思わなかったが、フェンリルに全面的な信頼を寄せるのはよくないと悟っていた。

だから、結果としてあの巨大なアラガミ…オウガダランビアのこと、スタングレネードを用いて捕食されかけたサクヤを辛うじて救ったこと、その直後に攻撃を受けて気絶したと話した。

「そうか、なるほど。嘘は…言っていないようだね。私は支部長として、君に感謝の言葉を贈らねばならないな」

こちらを見透かすような目でヨハネスはユウをじっと見る。確かに嘘は言っていない。だが、『本当のことも言っていない』。それを気づかれないでほしいものだ。

「ありがとう、君のおかげで一人の若い命が救われた。サクヤ君ほどの神機使いを失うことは、この極東支部のみならず、人類全体の損害となるだろうからね」

「い、いえ…あの時は無我夢中だったので…」

「だが、君をここへ呼び出した理由はまだ他にもある」

まだあるのか…できればもう早く帰りたいところなのだが…。お礼を言われるのは嫌いなわけじゃないが、ユウは早くこの場所から解放されたかった。

リンドウの目が鋭くなっている。すると、ヨハネスから驚くべき言葉がユウに向けられた。

 

 

「君を我が極東支部のゴッドイーターとして迎え入れたい」

 

 

「な……!!?」

ユウは驚いた。この男は、今なんと言った?

僕に…ゴッドイーターになれと!?

あまりに動揺してしまい、ユウは驚きを隠すことができずにいた。

「その様子だと、やはり驚いているようだね。だが、君のけがを治療している間に適合検査を、勝手で申し訳ないが行わせてもらったのだ。

その結果、この極東支部で初めて支給された新型神機に、君は見事高い適合率を示したのだ。この極東支部にはまだ新型の神機は他にない。それどころか各部隊で隊員の貸し合いが頻繁になるほど人材が不足しがちなのだ。人類全体の未来を考えている我々としては、君ほどの逸材をこのまま捨て去るには惜しいのだ」

どうだろうか?と問うてきたヨハネス支部長。だが、ユウの言葉は一つしか決まっていなかった。

「…嫌です。他を当たってください」

フェンリルには何度も助けを乞い続けていた。けど、今まで一度もそんなことは聞き入れてもらえなかった。結果、父も母も、そして最終的に妹さえも失った。それに今は『女神の森』で暮らし、生計を立てている。アラガミ防壁がまだないとはいえ、あそこは幸運にもアラガミの出現例がなく、ユウにとってやっと手に入れた居場所なのだ。

今回は確かに彼らに助けてもらったところはあるが、だからといって今更フェンリルには頼りたくなかったし、人材不足だからって頼られたいとも思えなかった。

「……そうか。だが、残念ながら君に我々からの要求を拒むことはできない」

「…!」

しかし、ヨハネスの言葉と鋭い視線に、ユウは息を詰まらせる。ヨハネスの手には、ユウが第8ハイヴへ侵入する際に必ず使用する、偽造のフェンリル身分証明書だった。

「君には偽装証を用いてこの第8ハイヴに侵入した容疑がかかっている。

身分証明書では君はフェンリル職員『加賀美リョウ』となっているが、我々の手をもってすれば、正規品と偽造品の見分けなどたやすい。おそらく君は防壁外の未保護拠点の人間なのだね?」

やはり手荷物のことは調べ上げられ、自分の不法侵入の件がバレてしまっていたのだ。リンドウが回復したばかりの怪我人である自分を、少しいやそうにしながらもつれてきた理由がわかる。どんなに小さく正当な理由があっても、不正を見逃してはならないのだ。追い詰められたユウは焦り始めた。

「だが、我々とて鬼や悪魔ではない。君がもしゴッドイーターになってくれるのなら、君の保護者たちの生活を保障、君の不法侵入罪も免除すると約束しよう」

「…」

なるほど、そう来たか。この人はどうあっても僕をゴッドイーターとして引き入れたがっているのか。従わなければよくて独房行きにされるかもしれない。ましてこのアナグラは厳重なセキュリティを張り巡らされている。脱走なんてできないだろう。

「…少し考えさせてください」

それが精一杯だった。時間をおいてから決断する。女神の森に帰りたくても帰れないユウがかろうじて要求できることだった。

ヨハネスは穏やかな表情を浮かべて頷いた。

「いいだろう。我々フェンリルにも非がある。ハイヴに住める人数が限られているとはいえ、アラガミ防壁外の住人を受け入れることができないのは、我々の力不足だ。

元々壁外の住人である君はフェンリルに対して複雑な感情を抱いていることだろう。そんな立場の君が、いきなりゴッドイーターになれと言われてはいそうですかと受託してくれるとは思っていない。

だが、君がゴッドイーターとなることで救われる命があることを忘れないでほしい」

「………」

「そうだ、リンドウ君。忙しいところ申し訳ないが、少しでかまわない。彼にこのアナグラを案内してあげてほしい」

「へい、了解いたしましたっと」

リンドウに連れられ、ユウは彼とともに一度支部長室を後にした。

「…よい返事を期待しているよ」

ふ、と静かに笑いながら、ヨハネスは二人を見送った。

 

 

「そうだ、お前さんの本名聞いてなかったな。さっきの身分証明書の名前って偽名だろ。すぐに名前ばれちまったら洒落にならねえからな」

廊下に出たところで、ユウはリンドウから自己紹介を求められる。

「ユウ…です。神薙ユウ」

第8ハイヴに侵入したことがバレた以上、あの偽造身分証明書の名前も偽名であることが明かされた。嘘を言っても通じないので、ユウはやむなく本名を明かした。

「ユウ、か…いい名前じゃないか。けど、行き成り悪かったな。目を覚まして途端にゴッドイーターになれとか言われて混乱してるだろ」

「………」

肩に手を回しながら気さくに話し掛けてくるリンドウ。根は気のいい人なのは確かだろうが、ユウはそれでもフェンリルに対する複雑な思いのせいで、心を許す気にはなれなかった。それに、脅しじみた頼み方でゴッドイーターになれと言ってきた支部長の存在も大きかった。

こいつぁ、強敵かな…とリンドウは心の中で呟く。元は極東支部入りを拒まれ、壁外の路頭に迷った人間がそう簡単にフェンリルの人間を受け入れてくれるとは思えない。頭ではわかっていたことだが、こっちも気落ちしてしまいそうになる。

「ちょっくらこっちに来いよ。ラウンジに案内してやる」

リンドウと一緒にエレベーターで下の階に降りていくと、二人はアナグラのエントランスに着いた。

ゴッドイーターのために用意された公共端末『ターミナル』とそれを使う幾人かのゴッドイーター、それに挟まれる形で用意された出撃ゲート、他にはミッションを受注するカウンターや近くの階段の傍らにたくさんの荷物を置いて座り込んでいる万屋の男の姿…様々だった。

ふと、リンドウは足を止める。エントランスの入り口付近の椅子に座り込んでいた赤い髪にニット帽を被った少年が、ツバキと対面していた。

「立て」

「…へ?」

不意に目の前の少年に立ち上がるように命じられた少年はボヘッとした様子でツバキを見る。

「立てと言っている。さっさと立たんか!」

「は、はい!!」

その少年は、コウタだった。町の知り合いのおばさんにもらった帽子の他に、この日は縞模様のマフラーを首に巻いていた。

「後の予定が詰まっているので手短に話すぞ。私は雨宮ツバキ。お前の訓練教官だ。これからお前には…………」

「お~お~。姉上ったら今日も新人教育か。それにしても我が姉ながらおっかないな~」

「姉…上?」

もちろんわざとのつもりだろうが、敢えて古風な呼び方をしながら、リンドウは双眼鏡で覗き込むようにツバキとコウタを観察していた。

「わかったか?わかったらとっとと返事をせんか!」

「は、はいぃ!!」

威圧されるように怒鳴られるコウタは完全に気圧されている。ツバキの威圧感に恐怖し、気をつけの姿勢に磨きがかかりすぎている。

とても砕けた態度のリンドウとは姉弟とは思えないきつめの性格をしていたツバキ。髪の色やリンドウがツバキのことを姉上と呼んでいたことから、ユウはツバキとリンドウが姉弟であることは理解したものの、あまりに性格が真反対の二人に戸惑いを覚えた。

「っとと、あんまり突っ立ってると姉上に目をつけられっからな…こっちだ」

背中を押して、エレベーターのちょうど反対側の自動扉の方へと案内した。

その扉の先の部屋は、くつろぎ様のソファ一式とテレビを置いたスペース、ビリヤード台、中央にはキッチン一式とカウンターテーブルが設置されたラウンジだった。

「ここなら少しは落ち着けるだろ。ほれ、こっちに来い」

カウンターテーブルの席に座ると、リンドウは自分の左隣に座ってくるよう左脇の椅子をトントンと叩いてユウを誘い、カウンターテーブルの向こうにいる調理師にビールと適当などリンクを頼む。

「昼間からビールですか…」

「かたいこと言うなって。それに、こいつはノンアルコールだ」

ゴッドイーターとあろう者が飲んだくれるとは、隊長のくせに自覚が足りないんじゃないのかとユウはリンドウに呆れると、リンドウは頼んだビールの缶の『0%』の字を指差す。

「さて、と…お前さんこっからどうする気だ?」

すると、リンドウはテーブルに肘を着いてユウを見る。

「どうって…何がです?」

「支部長からゴッドイーターになれって話だ。まさか断んのか?」

「……」

ユウは、口には出さなかったが断ろうと思っていた。

考えてみれば、自分はゴッドイーターなんかよりはるかに強大な力を手に入れたじゃないか。あの巨人の力を使えば、ここから脱出できることなんて容易いだろうし、万が一誰かがアラガミに襲われたとしても、あの巨人の力を使って適当に光線を打ち込んでしまえば、それでいいじゃないか。それに自分をああまでゴッドイーターに引き込もうとする支部長に対して、不信感が募った。あの男は自分の保護者…つまり女神の森の人々の生活を保障するとは言うが、あそこは壁外の居住区の中でも住人の数が特に多い。その分極東に拒まれ路頭に迷った人々も数が知れない。それだけの人数を一介の支部長だけが何とかできるわけがないじゃないか。

だから、どんな条件を突きつけられても従う気はなかった。

「冗談、じゃないってことか…」

そんなユウの考えを見越したのか、リンドウはユウがゴッドイーターになる気はさらさらないことを見通した。

視線をカウンターの向こうで外の景色を映し出している窓を見ながら、リンドウは口を開く。

「…知ってるか?俺たち第8ハイヴの人間は、自らゴッドイーターになることもできれば、それになることを『強いられてる』ことがあるってことを」

「え?」

「この第8ハイヴの人間はよ、必ず一度は神機への適性を測るために病院で検査を行うことになる。もし保管されている神機への適合率が高かったら、強制的にゴッドイーターとしての使命を受ける」

「そ、そんなのあんまりじゃないですか!」

ユウはそれを聞いて唖然とする。ゴッドイーターたちは無理やり戦場に送られる…つまり死と隣り合わせの世界に無理やり送り込まれているようなものだった。いくらこの世界がアラガミに支配されているも同然で、それを少しでも打開しようとするためとはいえあんまりじゃないか。誰だって死ぬことは嫌なはずなのに…。言い過ぎかもしれないが、まるで生贄だ。

「けどよ…そいつらは自ら神機使いになった連中と同じように覚悟決めるんだ。こんなアラガミに支配された世界だ。だからこそ腹くくって戦う覚悟を決めてきた。自分の背中には家族や友人・恋人…そいつらの命や未来がかかってる。もし逃げ出したら、そいつらは自分の大切な人たちを奪いに来る」

リンドウはユウのほうに向き直ると、ユウの肩をつかんでじっと見ながら、心に叩きつけるように続ける。

「いいかボウズ。ゴッドイーターってのは人類を守る生贄なんかじゃねえ。大事な連中を守るためのチャンスだと捉えろ。

安心しろ、一癖もふた癖もあるが、俺を含めた新しい仲間がお前さんを助けてくれるさ」

「仲間なんかじゃない…」

最後はいつもどおりの笑みを浮かべながら安心させるように言うが、ユウは押し殺すのに必死な声を、抑えきれなくなっていた。

「父さんと母さんも、妹も守ろうともしなかったフェンリルなんか、仲間なんかじゃない!!なれなれしくしないでくれ!!」

リンドウの手を振り払うと、ユウは椅子から下りてラウンジから歩き去っていった。

「…失敗しちまったか…」

まさかここまでフェンリルを嫌っていたとは予想外だった。リンドウは去り行くユウの姿を見て頭を抱えた。最後の彼の言葉からすると、彼の家族『も』アラガミによって命を奪われてしまったようだ。今の時代、そのような被害者はいやなことにほとんど珍しくない事例…しかも個人に与える心の傷が深いものだった。

「けど、お前さんが我侭言えるような甘い世界じゃない。そいつは、お前さんだってわかってることじゃねえのか…?」

アラガミ防壁の外で暮らしていたのなら尚更だ。

すると、ユウと入れ替わる形でサクヤがラウンジにやってきて、リンドウを見つける。

「あれ、リンドウ一人なの?それになんか元気ないんじゃない?」

「おう、サクヤか。実はよ、たった今振られちまってな~。ちょっと付き合ってくれ」

「仕方ないわね…」

呆れつつも、サクヤは彼の愚痴に付き合ってやろうと、リンドウの隣に座って彼と話をすることにした。

「そういや、あの廃寺で戦ったアラガミのコアは回収できたのか?」

サクヤが隣に座ってきたところで、リンドウはサクヤに先日の任務の末端を聞いてきた。

「ソーマのおかげで一応回収はできたの。けど、すごくボロボロになっていたし、回収されたコアは通常のオウガテイルとまったく変わらなかったわ」

それを聞いてリンドウは目を細める。

「嘘だろ?あれだけ形態変化していりゃあコアにも何らかの変化が起きるもんじゃねえのか?」

「そうねえ…私もそう思ってはいたの。けど、あの超大型アラガミが破壊された付近で気になるものは見つかったの」

サクヤが一枚の写真を、複数の書類と共にテーブルの上においてリンドウに見せる。写真には、あの廃寺でユウが見つけそのまま放置していた怪物の人形が写されていた。

「なんだこれ?」

「空想の怪物をかたどった人形みたい。よく見てみて。あのアラガミと、どこか特徴が似ていないかしら?」

言われてみて、リンドウはあのときの、オウガテイルが突然変異を起こした成れの果てと、この写真の怪物の人形を比べてみる。シルエットを重ねて創造すると…。

「確かにところどころ似ているな。こいつにオウガテイルの特徴を加えると…」

あの時の廃寺で見せた驚異的な姿となるだろう。だが、単に人形をアラガミが取り込んだだけで、あれほど強大かつ強力なアラガミが生まれるだろうか?ただの人形を取り込んだだけで、普通ありえない。大きな変化といっても、見た目が変わるだけで身体が巨大化したり、いかずちを発生させるといった攻撃手段が増えるはずが無い。

いや…もし、あの人形が『ただの人形』じゃなかったとしたら?

「おそらくこの人形はただのおもちゃじゃない。サカキ博士はそれを予感して、今この人形を解析しているところなの」

「何かわかるといいけどな…」

あんな怪物にまた出てこられたりしたら、とても生き残れる自信がない。

「さっき誰かと話してたみたいだけど、何かあったの?」

「…言ったろ。デートの誘いだ。ま、さっきも言ったが振られちまったわけよ。なあ慰めてくれよ~」

「子供じゃないんですから、シャキッとしなさい」

 

 

 

ユウはラウンジを出て、エントランスから外に続く入り口方面へ歩いていた。

リンドウは話してて悪い人じゃなかったのは、頭ではわかってはいた。彼なりに言葉をかけてくれてはいたとは思う。…が、素直に彼のくれた言葉を受け入れることができない自分がいた。

フェンリルがもっとしっかりしていれば、自分の家族がアラガミに殺されることもなかった。フェンリルがちゃんと壁外の人間を助けようと躍起になってくれれば、自分をはじめとした極東支部への受け入れを拒まれるような人たちもいなくて済んだかもしれない。

(どうして、あの時…あなたのような人がいなかったんだ…そうすれば…)

だからこそ、リンドウのような良い人間が、自分が一度すべてを失ったあの日、いなかったことがものすごくもどかしかった。余計にフェンリルを許せない気持ちが募ってしまったのだ。

ふと、ユウの耳に誰かの声が聞こえてきた。さっきの赤い髪に帽子の少年なのかと思ったが彼の姿は無く、全くの別人がゲート前のフリースペースのソファに座っていた。

「聞いたか、鎮魂の廃寺にちょうドデカいアラガミが現れたんだってよ!」

年齢よりも幼く見える、少し小柄な帽子の青年が、キザで捻くれた態度を取る金髪の男と何か話している。

「デカいアラガミだと?ウロヴォロスでも出てきたのか?」

「いやいや、それがな…ウロヴォロスよりもでっけえ…本当の意味で山みたいにでかいアラガミだったって話だ。あ~くそ!俺も行きたかったな~。そうすりゃ一儲けできたのによ~」

「馬鹿が…中型種のコンゴウにだって苦戦するお前が行っても瞬殺されるがオチだ」

「ああ!!?」

なにやら内輪揉めでも起きたようだが、ユウは無視した。無理に仲介役をする義理もないし、ゴッドイーターたちは偏食因子を投与されたことで常人を超えた力を手に入れている。迂闊に近づいたらこちらが火傷ではすまない怪我を負わされる。

放っておいてそのまま歩き去り、入り口近くの椅子に腰掛けた。

『君に、ゴッドイーターになってもらいたい』

ヨハネスからの突然の勧誘の言葉を思い出し、彼は天上を見上げる。紳士的に接してきたヨハネスだが、こちらに脅しさえもかけてきた男。素直に従えなんて無理があるし、心の整理がつかない。それに、今更ゴッドイーターの力を得ても…ユウが失った家族は二度と戻ってこない。なったところで、この第8ハイヴから自由に外を歩くことも…いや、アラガミが防壁外で生息している異常、自由にとは言い難いか。自分の勝手で、というのが正しいだろう。ともあれ、人を守る力を手にすると引き換えに、あの男からプレゼントされる首輪をつけられることになるのだ。だったら、侵入罪でこのまま捕まってただ惰眠をむさぼる生活に落ちるか?いや、それはないだろう。

ならば逃げるか?と思うがそうも行かない。おそらく自分を逃がすまいと、この極東に所属する誰か、または監視カメラが自分を常に見張っていることだろう。たかが素人の脱走者を取り逃がすほどフェンリルはザルじゃないと考えるべきだ。

しかし、ヨハネスからの要求そのものはすべてが悪い話ばかりではなかった。自分がゴッドイーターになれば、もう偽造証なしでもアナグラにも正規の手続きの上で居座ることもできる。何より自分や女神の森のみんなの生活を保障してくれるというのだ。しかしその反面、自分はほぼ毎日アラガミとの戦いという命の危機に晒されることとなる。逆に言えば、それは人生最大の不幸なことじゃないか。

でも、ゴッドイーターになれば…。試行錯誤を繰り返しながら、ユウは揺れた。

が、すぐにある答えに到達する。

いや…もうフェンリルなんていらない。今までだってフェンリルに頼らずに生きてきたし、これからだってきっとそうだろう。だって今の自分には、あの廃寺で手に入れたこの力があるんだ。

ユウは上着の内ポケットから、あの廃寺で入手したアイテムを取り出す。これさえあれば、ゴッドイーターにわざわざならなくても、誰かを助けることだってできるし身を守ることなんて容易い。巨人に初めて変身したあのときだって、超大型アラガミを一発の光線で倒すことができのだ。

いずれアラガミが出現するという情報が入るはずだ。その時は、アナグラの屋上のテラスに登り、そこで変身すればついでの人命救助もできれば逃亡することだってできるはずだ。

そうだ。この力さえあれば…自分に、『ゴッドイーター』の力なんか必要ないじゃないか。

うっすらと、ユウは笑みさえも浮かべた。

 

――その考えが甘すぎたことに気づいていなかった。

 

すると、アナグラ全域に突如警報が鳴り響いた。エントランスのカウンターに居た赤毛の少女オペレーターがコンソールをたたき出す。

「緊急事態発生!ただいまアナグラ防壁を『ヴァジュラ』『クアドリガ』『コンゴウ』他小型アラガミが終結!防衛班、直ちに集合してください!」

「ん、出番のようだな。いくぞシュン」

「へ、残らず始末してやんぜ。アラガミ野郎!」

その放送に、ユウのすぐ近くのテーブルでさっきまで喋り合っていた男二人が、出撃ゲート前の方へと出向いた。それから3分ほどたった後、防衛班と思われる6人の男女が集められた。

「カノン、お前ちゃんと放送聴いてたろ?みんなより1分遅れるって何してたんだ?」

「す、すみませんタツミさん…ちょっとお菓子作ってる最中でしたので…」

赤いジャケットを身に纏った青年が、後輩と思われる桃色の髪のおっとりとした少女を叱っている。

「おいおいカノン、あんた俺より年上だろ?そんなトロくて大丈夫なのかよ?」

さっきシュンと呼ばれた少年からもたしなめられ、桃髪の少女は肩を落とす。

「ふふ。じゃあ、お詫びに今回の任務の後お菓子をみんなに振舞うのはどうかしら?」

横から、眼帯で右目を覆っている細い長身の女性が微笑しながら会話に加わってくると、カノンと呼ばれた少女からぱあっと笑みが浮かぶ。

「あ、はい!お菓子、たくさんありますから!」

「…まぁ、深くしかりつけるのもなんだし、次は気をつけろよ。お前ただでさえ誤射が酷いからな」

「うぅ…」

聞くところ、このカノンという少女は銃形態の神機使いのようだが、射撃の腕の方はいまいちらしい。追い討ちをかけられちょっと落ち込んだようだ。少し同情してしまう。

「お前たち、私語はそれまでに。教官がこちらに来るぞ」

すると、青いジャケットを着込んだ短い銀髪の青年が全員に静粛にするように呼びかける。エレベーターの方から、先ほどコウタと呼ばれた少年と会話していた女性、リンドウの姉であるツバキがバインダーを手に防衛班のもとに歩み寄ってきた。

「よし、全員揃っているな?これよりお前たちには防壁外へ緊急出動してもらう。敵は大型アラガミ『ヴァジュラ』をはじめとした群れを成している。防壁を突破されたら、わかっているとは思うが住民に大きな被害が及ぶこととなる。万が一の時は他の部隊を応援に向かわせるが、それまでの間これを一匹残らず、なんとしても食い止めろ。いいな?」

「「「了解!」」」

「よし、では行け!」

ツバキからの出撃命令を受け、6人の防衛班メンバーたちは出撃ゲートから現場へと出撃した。

アラガミは、防壁の外…か。ユウも立ち上がり、エレベーターの方へと向かう。確かこのアナグラはこの第8ハイヴを見渡せるほどの屋上スペースがある。今は警戒体勢に入っているから人も集まっていないはずだ。ユウはエレベーターに乗って上昇ボタンを押し、すぐに屋上に上がった。

 

 

出撃命令を受けて現場、アラガミ防壁から一歩外に出た防衛ライン『創痕の防壁』に、防衛班は到着した。かつて人類の連合軍がアラガミと対峙するために建造された前線基地だった場所だが、現在は廃墟と化し、いまだに燃え尽きることの無い炎に焼かれている。現在もゴッドイーターたちが極東支部を守るためにここを死守し続けている。

主にここを守っているゴッドイーターは、主に防衛班と総称されている、『第二部隊』『第三部隊』の若い男女だった。

防壁の入り口から下を見下ろすと、すでに数体ものアラガミが下で待ち構えていた。

「ヴァジュラ。クラドリガ。コンゴウ…他はオウガテイル2匹とザイゴート3匹。偵察班の情報どおりだな」

ひねくれた風貌を持つ青年が携帯端末に表示された情報と現在の現場の状況を見て呟く。

以前リンドウたちが相手をしていたヴァジュラ以外の、髑髏のついた戦車型のアラガミを見て、シュンがめんどくさげにぼやきだす。

「雑魚はともかく、クアドリガかよ~。硬い装甲を持つアラガミって、面倒なんだよなぁ…」

「大丈夫よ、こっちにはブレンダンとカノンもいるんだから」

眼帯の女性がフォローを入れるように言ってくる。すると、青いジャケットの青年とカノンが頷いてみせる。とはいえ、カノンは少々緊張をほぐせていない様子だ。

「ああ、硬い装甲を持つアラガミなら任せてくれ。」

「だ、大丈夫です!アラガミにしっかり当てていきます!」

「間違っても俺たち巻き込むなよ…前みたいに」

「おいおいシュン、あんまりカノンを落ち込ませんなよ」

赤いジャケットの青年が、さすがにかわいそうになってきたのでそのへんにするように言うと、すぐにシュンから突っ込みが入る。

「そういうタツミだってカノンの誤射には手を焼いてるってぼやいてたくせに…」

「ぐ…」

「タツミさん…うぅ…」

さらに余計に落ち込むカノンを、眼帯の女性が慰めるようによしよしと頭を撫でた。

「っと…ヒバリちゃん聞こえるかい。こちら第二部隊、配置についたぜ」

わざと紛らわすように、赤いジャケットの青年、タツミは携帯端末を起動して、アナグラ内のヒバリに連絡を入れた。

『こちらヒバリ、部隊の配置を確認しました。皆さんの背中、ちゃんと見てますからね』

「うし、みんな。行くぞ!ここは絶対に食い止めるぞ!」

タツミが真っ先に飛び降り、それに続いて他の防衛半メンバーたちも降りた。結構な高さだったが、ゴッドイーターたちは強靭な体を手に入れているため、数メートルの高さから飛び降りても問題は無い。

銃形態の神機を持つ三人…『台場カノン』と眼帯の女性『ジーナ・ディキンソン』、ひねくれた青年『カレル・シュナイダー』が後衛、前衛には剣形態の神機を持つ『大森タツミ』『ブレンダン・バーデル』『小川シュン』の三人が努める。

剣形態…正確には接近形態の神機は現在『ショートブレード』、『ロングブレード』、『バスターブレード』の三種類、銃形態は『スナイパー』『ブラスト』『アサルト』の三種類存在し、属性には炎・氷・雷・神属性の四つがある。

ショートブレードは全ての接近装備の中で短いが、それだけでも普通の刀くらいの長さがあり扱い易さに富んでいる。ロングブレードは身の丈ほどの長さを持つため攻守のバランスに富み、バスターブレードはさらにその刀身に重みを乗せ機動性を犠牲に破壊力を高めたものだ。

「そら!!」

オウガテイルの一体がタツミの手によって切り裂かれる。タツミの持つ神機はショートブレードの『発熱ナイフ』は名前の通り炎属性。長い間神機使いとして戦ってきたキャリアを持つタツミの腕なら、全ての属性に弱いオウガテイルを簡単に焼き切ることなど赤子の手をひねるも同然だった。

「おらよっと!!」

「むん!!」

続いて宙を飛びまわりながら突進してくるザイゴードの一体を、氷属性の長剣『冷却ブレード』による空中回転切りで切り裂き、ブレンダンはクアドリガのはなってきたミサイルを避けつつ一定の距離を保ち、大剣『神切りクレイモア』を振るってクアドリガの前面装甲を傷物に変える。

彼らに向かって、コンゴウやオウガテイルが数匹襲ってくる。彼らが敵アラガミから距離を置けるよう、カノンとカレルが援護射撃を行い、襲ってきたオウガテイルを粉砕し、コンゴウにも被弾させる。ジーナは遠くの高台から、カレルとカノンは中距離からの射撃で前線のタツミたちをフォローするが…。

戦闘の際、傷を負ったコンゴウとヴァジュラが鎮座しているコンテナの間の道を通って逃亡し始め、それをカレルとシュンの二人が追い始めた。

「カレル、前に出過ぎじゃないか!?それにシュン、ヴァジュラは今は放って置け!お前一人の腕じゃ無理がある!」

「ふん、雑魚の多数撃破よりも、大物の処理の方が一発で稼げる。どうせ討伐対象だからかまわないだろ?」

「カレルの言うとおりだぜ!どうせ誰かが殺るんだ、俺がやったっていいだろ!」

ブレンダンからの警告に、済ました態度でカレルは言い返し、シュンと一緒に逃げたコンゴウを追い始める。

と、その途端とんでもない爆発が彼らの付近でズドン!!!と凄まじい轟音をほとばしらせながら発生した。

「「うおおおお!!?」」

無論近くにいたシュンたちは爆風で吹き飛び、同時にシュンたち二人が負っていたコンゴウに爆発の発生源であるブラスト弾が直撃、コンゴウはその一撃を受けて力尽き、ヴァジュラの方はというと顔の皮膚に結合崩壊を起こし傷だらけになる。

「…射線上に入るなって…私言わなかったっけ?」

どすの利いた声で言ったのは、なんとカノンだった。さっきまでの態度とはまるで別人のような態度を見て、タツミは「あちゃ…」と頭を抱え、シュンたちは青ざめる。

実はカノン、誤射してばかりと散々言われているが…原因はこれである。彼女は戦闘の際なぜかおっとりとした普段の性格から一転してとんでもなく攻撃的になるのである。射線上に味方が居てもおかまいなし、アラガミを撃ち殺すことに頭がいっぱいなのだ。ちなみに彼女は…一言も『射線上に入るな』とは言ったことがない。

すると、ヴァジュラが怒りに駆られたのか、タツミたちの方を振り向く。今のところ雑魚のアラガミたちはすでに倒しつくしたが、ヴァジュラは当然ながらオウガテイルが何匹も集まった分の力がある。カノンの誤射の爆風でまだ身動きが取れなくなっていたせいもあって、シュンとカレルはまだ動けない。

そこへ、遠くから線を描くような細く鋭い一発の弾丸が打ち込まれる。ジーナのスナイパーによる射撃だった。それと3発ほど撃ち込むと、ヴァジュラがジーナのほうに視線を向ける。優先すべき相手を彼女に変更したのか、彼女の方に向かっていく。

「あら、こっちに来たのね」

アラガミが近づいてきているというのに、ジーナは一切の恐怖を覚えていなかった。それどころか、それだけ余裕なのか不敵な笑みさえも浮かべている。スナイパーを構え直し、再びヴァジュラに向けて撃ちこむ。さらにもう数発撃ちこんでヴァジュラを痛めつけたが、撃っているうちに弾がでなくなる。

「弾切れか…」

若干顔をしかめるジーナ。銃形態の神機はしばらく待ってOP(オラクルポイント)の回復を待たなければならない。その感覚がジーナにとってかなりもどかしいものだった。

しかしジーナの動きは次に繋げるに大いに役立った。次の瞬間、タツミとシュンの攻撃が同時に炸裂し、ヴァジュラは沈黙した。クアドリガの姿はなかった。

「ヒバリちゃん、クアドリガが見当たらないんだけど、知らない?」

タツミは携帯端末を起動し、ヒバリに連絡を取った。

『クアドリガの反応ですが、そのエリアからは確認できません。タツミさんたちがまだ討伐していないままだとすると…おそらくミッションエリア内からすでに離脱した可能性がありますね』

「んじゃ…任務完了だな。みんな無事か?」

タツミが全員に生存と負傷の確認をとる。全員無事に生きていることや怪我もあまりないことを見て、ほっと安心する。

「ったく、カノン!また俺たち巻き込みやがって!罰として飯奢れよ!」

「そうだな…俺からはお前の分の報酬の半分をいただくぞ」

「あぅ…」

シュンからの怒鳴り声とカレルの言葉に、カノンは縮こまる。さっきまでの豹変が嘘のようだ。カレルはともかく、本当ならシュンよりも一歳年上のはずの彼女だが、貫録がまるでない。

「もっと撃ちたかったわ…」

少し物足りなさそうにジーナは銃を肩に担ぎながら言う。

「最後まで警戒は怠るなよ」

ブレンダンが生真面目に警告を入れる。

…と、その時だった。タツミの端末が着信音を鳴らした。

「こちらタツミ、どうしたんだヒバリちゃん?」

『き、緊急事態です!!現在防壁外にて出撃中の第5・6部隊が、突然現れた超大型アラガミによって…全滅した模様です!』

「な…!!?」

予測不可の凶報を耳にして、タツミ…そしてブレンダンなどのメンバーたちの表情がこわばる。二つの部隊のゴッドイーターたちが、全滅した。それも、『超大型アラガミ』と言う単語。聞きなれないその言葉は皆の心を戦慄させる。

『現在リンドウさんたち第一部隊のメンバー3名に、救援を要請しました。防衛班のみなさんも救援に………え…!?』

「どうしたんだヒバリ!?」

ブレンダンが問うと、通信先にてヒバリの震える声が響く。

『超大型アラガミの反応が…こちら極東支部に向かって進行しています!30秒後にミッションエリア内に侵入します!防衛班のみなさん、警戒を!!』

「わかった!」

端末を切って、タツミは防衛班メンバーたちと向き合う。

「俺たち防衛班はこのままこの防衛ラインに待機する。気を抜くなよ!」

「へ、誰に向かって言ってんだよ。さっきみたいにばっさり切り落としてやるぜ」

「ふん、超大型アラガミ…か。報酬は高くつくんだろうな」

「早く撃ちたいわね。…あらカノン、あなた震えてるけど大丈夫かしら?」

「へ、平気です!これくらいなんとも…!」

「みんな、無茶はするなよ」

こうしてみると、彼ら防衛班はなかなかの個性派揃いだった。結成されてしばらく経つが、それぞれの個性が強く出ているために衝突することも多いが、不思議と皆仲が険悪と言うわけではない。防衛班のリーダーと第二部隊の隊長を兼任しているタツミはこんな仲間たちと共に戦えることに嬉しさを覚えた。

しかし、ヒバリの言っていた『超大型アラガミ』。大型アラガミよりも、さらに大きな姿をした奴なのだろうか?

『そ、そんな…予測より早い!?超大型アラガミ、ミッションエリア内上空に侵入を確認!』

その正体は、意外にも早い時間に現れた。

「ま…マジかよ…」

「…こいつはガチでやばいかもな」

彼らの頭上を黒い影が覆っていた。さっきまで余裕の態度をとっていたシュンは青ざめ、カレルさえも危機感を抱く。カノンも怯えきっていて震えている。

「超大型アラガミ、か…なるほど」

ブレンダンはなるべく心を落ち着かせるように自らの精神を律しようとしているが、油断するとすぐに恐怖に身をゆだねてしまいそうになっていた。

彼らの頭上の空、そこには……空を飛んでいる巨大な影があった。それも……リンドウたちが先日交戦した『オウガダランビア』並のサイズを誇る、巨大な怪獣だった。

 

 

エレベーターの扉が開かれると、すぐに外の風がびゅう…と吹いてユウの肌を刺す。この時代近くに森がなく荒野が広がっていること、かつての都市の機能が完全に停止したせいもあって、風が冷たく感じる。昔はもっと温暖な空気が漂っていたはずなのに。

防壁の向こうから銃撃や叫び声が聞こえる。戦闘が開始されたようだ。

「よし…!」

ゴッドイーターはあまり好きではないが、だからといって無視するわけにもいかない。だからあの時サクヤを助けたのだ。

この力…巨人の力さえあればもう彼らに無理をさせることも無い。自分も帰ることができるし、一石二鳥だ。

ユウは、あの廃寺で手に入れたアイテムを右手に握り、前に突き出した。これであの巨人を模した人形が出てくれば、またあの時と同じように巨人に変身できるはずだ。

 

しかし……巨人の人形は出てこなかった。

 

「え…!?」

もしかして、すぐには出てこない設定なのか?ならばもう少しだけその姿勢のまま待ってみるのだが、10秒、20秒、30秒…一分待っても巨人の人形は一向に出てくる気配を見せなかった。

どうして?何で出てこない!?ユウは混乱した。どうして出てきてくれない!?

意味が分からず、アイテムを睨むユウ。

「くそ!!」

苛立ちを覚え、ユウは頭に来てアイテムを叩きつけてしまう。なんでこんな時に!確かにあの時巨人に変身した時は無我夢中だったが、少なくともゴッドイーターたちの危機的状況であり、だからこそ変身するべきタイミングのはずだ。

なのに…どうして巨人の人形が出現しない!?あれさえあれば、全てがうまくいくはずだったのに!!

納得できずユウは憤りを覚えていると、防壁の向こうで激しい爆発音が鳴り響いた。

ユウは見た。防壁のすぐ傍まで、オウガダランビアに並ぶほどの巨体を誇る化け物が降りてきているのを。

そして、その巨体を用いて暴れまわりはじめたことに伴い、防壁に爆発音がさらに鳴り響いた。

しかもそのポイントは、タツミたち防衛班のいるミッションエリアだった。

「そんな…」

あの時のように巨人に変身することもできない。そのために、アナグラから脱出して帰るどころか、ゴッドイーターたちを助けることもできなかった。

 

ユウは、絶望した。

 




NORN DATA BASE


●加賀美リョウ
漫画版『the spiral fate』の登場人物で、同作の主人公。その作品では彼がGODEATER・およびBURSTの主人公に当たり、二作品で起きた事件も経験している設定。今作では名前のみ、ユウが第8ハイヴ進入のため偽造証に記名した偽名として名前のみの登場。
リデザイン前のタツミと姿が被っているという逸話がある。

●ルミコ
同じく漫画版『the spiral fate』で登場した女医。リョウの怪我の手当てをしていたが…。
原作ゲームではあまり医者らしい人物がほとんど見られなかったため、今作でも登場させた。鎮魂の廃寺で倒れていたところを救助されたユウを診てくれた。


●変身不可能
ウルトラシリーズにおいてたまに起こるある種の伝統現象。名前の通りウルトラマンへの変身ができない状態。
主人公と同化したウルトラマンが主人公の変身を拒んだがために起きる場合が多い。これまでのシリーズの中で作者は『帰ってきたウルトラマン』『ウルトラマンダイナ』『ウルトラマンコスモス』『ウルトラマンマックス』を確認している。
理由については次回の本編中でも語る予定。

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