ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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グラスゴーから来た二人(中編)

ユウたちが、ハルオミたち空からの来訪者たちを迎えているのと同時期…。

見慣れた極東の一角にある都市の跡。

そこにはユウたちと別働隊としてリンドウ、ソーマ、そしてアリサの三人がいた。

自分たちはここで、空から来るフェンリルからの派遣者とは別の部隊を迎えることになる。後日行われるであろう作戦のために。

しかし、サクヤがユウたちにも言っていたように、今回の任務も急務に発注されたものだった。それも支部長直々のである。

新たな人材を確保する。それも、自分の管轄化である極東を中心に。

確かに現在の極東はかつてないほどの危機に見舞われている。これまで何体もの、スパークドールズを取り込んだことで規格外のサイズに進化したアラガミたちと交戦し、そのたびにウルトラマンに助け出されてきた。

支部長はウルトラマンの手を借りてばかりのフェンリルに、極東支部に保護されている人々が見限りをつけることを恐れ、本部から応援を要請したのだろうか?後日行われる大規模ミッションの事も考えるとわからなくもないが…。

(それだとただのパフォーマンスの意味合いが強くなっちまうな。そんなことのために本部から人材を回したのか?)

周囲にアラガミがいないか散策しながら、リンドウは考え込む。

ヨハネス支部長は、ヨーロッパに構えられている本部から遠く離れた極東支部の支部長という身分だが、フェンリル内では高い発言力を持っている。聞いた話によると、フェンリル設立には彼とサカキが深く関わっているとか。だが、いくら組織内での力が強くてもやりすぎれば周囲から疎まれる。その結果で邪魔が入ることもある。

その可能性がありながら本部の方から人材を回してもらっている。それだけの状況になるほど、なぜここ最近、異常進化したアラガミがこの極東を中心に集まっているか、ということが気になる。

しかもさらにきな臭いのが……

『支部長が巨大アラガミとウルトラマンの存在に対する驚きが自分たちよりも薄かった』ことだった。

(支部長の奴…)「何を考えてやがる…」

「そういうあんたも何を考えてやがる。今は任務中だ」

ソーマの声を聞いて、リンドウは我に帰る。そうだ、今は任務中だった。

「しっかりしてください、雨宮隊長」

この面子の中で一番の新参であるアリサからも冷たく返され、リンドウは頭を掻いた。

「あ~、すまん。ちょっと次のデートの打ち合わせについて悩んじまってな」

「もう…」

アリサはそれを聞いて目をしかめ、呆れた様子を露骨に示す。あからさまに軽蔑されたことを察して苦笑いを浮かべながらも、改めて任務に集中しようと、リンドウは通信機を通してオペレーターのヒバリに尋ねた。

「ヒバリ、アラガミの気配は?」

『はい、現在周辺のアラガミは中型種以下の個体で占められています。』

つまり今のところは予想外の危機となる確率は低いということだ。中型種程度なら、油断さえしなければ問題はない。アリサも既に中型種を相手にできるレベルでもある。後は不覚を取ってしまうなどのような、不測の事態さえなければ、だ。

「……」

ソーマは、周囲に気配を感じないか神経を研ぎ澄ませる。突然アラガミがレーダーの反応していない地点から誕生することもあるから、自分の第六感も頼った方がいいこともある。

すると、彼らの周囲から光が消えた。

何かの影が、太陽と自分たちの間に入って光を一瞬遮ったのだ。

何かが来たに違いない。三人は一斉に神機を構えた。直後、三人の前に何か巨大なものがドスン!と落下し、砂煙を巻き起こす。

異常進化した個体ではないようだが、この重量感…恐らく大型種だ。厄介なやつでなければいいが…と願うものの……その願いは見事に打ち砕かれた。

 

それも、最悪な意味で。

 

「リンドウ!こいつは…!」

いち早くソーマが表情を一瞬で険しくさせ、声を荒げた。まだ若いとはいえ、彼もまた古参のベテランゴッドイーター。そんな彼からこれだけ落ち着きを奪うほどの相手だった。

リンドウとアリサもまた、目を凝らしてその砂煙に姿を覆い隠している敵の姿を目視する。

「な…!」

その姿を真っ先に見たリンドウは、絶句した。だんだん薄まっていく砂煙の奥に隠れている敵の姿を見て、アリサは表情を険しくした。

「こいつは、確か…『ボルグ・カムラン』?」

ボルグ・カムランとは、全身が鎧のような硬い体表で身を包んだ、騎士のようなサソリの姿をした大型アラガミである。その尾は槍のように鋭く、両手の髑髏模様の盾は展開されればあらゆる攻撃を弾き飛ばすといわれている。

だが…妙だとアリサは思った。このボルグ・カムラン…話に聞いていた特長とはかなり違っている。確かにサソリと別のものが混ざったようなだが…それが騎士ではなく、寧ろ男神ととるべきである気がする。それに全身が、漆黒のような鎧がわずかに紫色に発光しているようにも見える。そしてその両腕は、カムランが本来持っている左右に分かれた盾ではなく、神機の捕食形態に似ている。鬼のような顔を刻んだ頭からは発光する長い髪を靡かせている。

アラガミたちが、各地の環境に適合するように形態変化を起こした種『堕天種』というものだろうか?

「グゥゥゥ…」

だが、今のうなり声で、リンドウとソーマは…すぐにこのアラガミが通常のボルグ・カムランではないことに気づいた。自分たちの知るボルグ・カムランの鳴き声とは異なっている。

(冗談だろ…!?)

頭の中に、カラータイマーの点滅のような警鐘が鳴り響き、ドッと汗が吹き出た。

どうなっている…ヒバリのオペレートにも引っかからなかったのか!?

「おい、一旦退くぞ!」

「え!?ちょ…何をするんですか!?」

飲み込めていないアリサは、突然リンドウが下した退避命令にあっけにとられる。が、すぐにソーマが乱暴に彼女を引っ張りだす。

カムランに似たアラガミは、彼らを逃すまいとリンドウたちを追い回そうとしたが…直後にやつの顔のすぐ手前の辺りで何かが投げ込まれ、強烈な光を放つ。

スタングレネード。ゴッドイーターの任務においての必須アイテムだ。

その光でカムランに似たアラガミの視界を奪っている隙に、リンドウたちは急いで離れ、廃ビルの中に姿を隠した。

「はぁ、はぁ…」

「…おい、リンドウ。奴は?」

身を隠した直後、三人はぜーぜーと荒く息を吐き続けた。

「あぁ、俺たちを取り逃がして悔しがってるみたいだな。やっこさんは」

廃ビルの入り口からそっと外をのぞきこんで、相手の姿を観察するリンドウはソーマにそう答える。

「おい…さっきまであいつの反応はなかったのか?」

『す、すみませんソーマさん…どうしてか、いきなり現れたとしか…』

ソーマが通信先のヒバリに、責めるようにも聞こえる口調で問いただすと、ヒバリが申し訳なさそうに謝罪するばかりだった。もしかしたら、自分たちの前に現れたあの瞬間に誕生した可能性がある。リンドウとソーマは、長いことこの仕事をし続ける中で、アラガミが地面から湧いて出てくる形で生まれる光景を見たことがある。

一方で、アラガミ殲滅主義者のアリサは抗議を入れてきた。

「なんで戦おうとさえもしなかったんですか!いくらなんで逃げ腰がすぎますよ!」

「…アリサ、ありゃただのカムラン系のアラガミじゃねぇんだ」

「え…?」

すると、リンドウが外のアラガミの様子をそのまま観察しながらアリサに説明を入れた。

「まだお前も知らないみたいだから、この際によく覚えとけ。

いいか、あいつに出会ったらすぐに逃げろ。今のお前の腕じゃ絶対倒せない手合いだ。それに、俺も戦ったことさえもねぇ。

ただ分かっているのは、やつは『神機』が大好物ってことだ」

「神機が、好物…?」

「ソーマ、お前は?」

「…やりあったことはある。ただ…やつと接触した日は俺以外全滅だった。俺もかなり傷を負わされた」

この二人も、アナグラの中ではかなりの凄腕だと評されているゴッドイーター。その二人をそこまで言わせるほどのアラガミだというのか。

「ソーマがそこまで言うほどって事は…間違いねぇ、あいつは……

『接触禁忌種』だ。それも、さらに『第1種』に相当しやがる」

「接触禁忌種…?」

響きだけで、なんだか妙にヤバイやつだということが伺える。

「近づいただけで、人によっちゃそのアラガミの放つ偏食場で気が狂うことだってある。しかも鬼畜めいた強さもあるから、出会ったら即退避が一番ってことだ」

リンドウはアリサのほうに向き直って、彼女が決して忘れないように念を押すつもりで続ける。

「よく覚えて置け、アリサ。奴の名前は……」

 

 

 

『スサノオ』だ。

 

 

 

 

その頃の上空エリア。

ユウたちは、地上のリンドウたちとは別に、フェンリル本部の意向で派遣された輸送機に乗せられた人々を極東支部へ安全に連れて行く任務を与えられた。しかし輸送機はザイゴードとサリエルの近縁種のアラガミに狙われており、その数もおびただしかった。何とか援護を試みるものの、数がなかなか減らせなかった。

すると、輸送機の中から護衛対象でもある二人のゴッドイーターが新たに参戦した。

その二人はグラスゴー支部の若夫婦ゴッドイーター…。

真壁ハルオミと、ケイト・ロウリーである。

「うおおおおらああ!!!」「せええええいい!!」

ハルオミのバスターブレードの一太刀がアラガミを3体まとめて切り落とす。彼の背中を守るように、ケイトがアサルト銃で援護に回る。

バスターブレードは攻撃力が高く、硬い体表を持つアラガミの体を破砕し切り裂くことができるが、その分動きが現時点での神機の刀身パーツの中でも鈍い。だがその鈍さから発生する隙を、ケイトが連射率の高いアサルト銃でけん制して援護、隙を消し去ってくれる。

さすが、夫婦を名乗っているだけ見事なコンビネーションだった。

だが、二人だけでは輸送機のダメージが大きくなる可能性が高い。

「サクヤさん、僕が降りてあの二人を援護します!」

「わかったわ。パイロットさん、ヘリを近づけて!」

ここは自分が行こう。幸いヘリにはさっきの一体以外寄り付いてきていない。今の内にユウを輸送機に移すことになった。

「真壁隊長、今行きます!」

ユウは使い捨てのパラシュートを装着し、ヘリが輸送機の方に近づいてきたところでユウは飛び降りた。すると、彼の接近に気づいたのか、2匹ほどのアラガミたちが宙に身を投げた彼の方に向かっていく。格好の餌だとでも思ったのか。

だが、それをサクヤたちが許すはずもない。ユウに近づいてきたアラガミたちに向け、サクヤとコウタの二人が狙撃。ユウを食わせまいとアラガミたちを撃ち抜いた。二人の援護もおかげで、ユウは輸送機の上に着地した。

「あらら、サクヤちゃんの方じゃないのか~、残念」

「こら、せっかく来てくれたんだから変な事言わないの」

大した残念さを感じさせない軽い笑みを浮かべるハルオミに、ケイトがぴしゃりと言い放つ。

「お二人とも、怪我はありませんか?」

ユウが二人の下に駆け寄ってくる。

「おう、助かったぜ」

「君もここに来るまで怪我はなかったかな?」

「はい、サクヤさんとコウタが援護してくれましたから。それよりも…」

ケイトからの問いにユウは頷く。彼が輸送機の周囲に再び集まろうとしているアラガミたちの群れを見る。さらに数が増えている気がする。これもサリエルが空のアラガミたちを引き寄せているせいなのだろうか。

『この数…輸送機は、諦めた方がいいかもしれないわ…』

通信機に、サクヤの声が聞こえる。後日の大規模ミッションのためにフェンリル本部から派遣されたのは、恐らくこの二人だ。この二人を優先的にヘリに回収して即時離脱さえすれば、ミッションコンプリートとなる。

「輸送機のパイロットの方に、操縦をオートに切り替えてもらって離脱…ってことですね?」

『えぇ、それが完了するまで、そっちでその二人を援護してくれるかしら?』

「あ~、俺たちをご指名してくれるのはありがたいが、それは却下させてもらえるか?」

「え!?」

ユウとサクヤが上げた、二人の優先案をハルオミは蹴った。

グラスゴー支部という一拠点で隊長の座に就いたのなら、自分たちが下した提案こそが最善の判断だと分かるはずだ。なぜ断った?

その理由を、ケイトが説明した。

「実はこの輸送機…そっちの支部長の命令で本部から召集をかけられた人たちが乗っているの。そっちのヘリには入りきれない人数よ」

「なんだって…!?」

操縦士ならまだしも、他にもまだフェンリル所属の人たちがこの輸送機に乗っているというのか。目を丸くするユウに、ケイトはさらに言う。

「言ったでしょ?さっき整備を完了させたって。アラガミが近づいてきたから、急いで整備をしてもらってたの」

「正直、お前さんたちが一足早く来てくれなかったらやばかったかもしれない。

けど、俺たちはできればこの機内にいる連中も守りたい」

ハルオミは機体の床を見下ろしながら、中にいるであろう人たちの身を案じた。

ここで自分たちを見捨てて、ハルオミとケイトの二人を回収するのはたやすいし、任務においてはこの二人さえいれば何とか成功扱いとなる。だが…。

それができるほど、ユウは非情にも大人でいることもできなかった。

「サクヤさん、コウタ…」

『…言わなくていいわ、なんとなく察したから。弾丸も腐るほどあるくらいよ』

サクヤは、ユウが自分たちの名前を呼んでいるときの声から、彼が何を考えているかを察したようだ。

「じゃあ!」

『けど無茶は禁物よ。ウルトラマンが都合よく現れる保障もないんだから』

「はい…」

実はそのウルトラマンが僕なんです…と心の中で呟いた。最も、いつでも変身できるわけじゃないから同じことだが。だが言っていることは決して間違いではない。ウルトラマン頼りはよろしくない。ギンガからも最初は、無言の形でそれを言われたものだ。

「ウルトラマン?」

聞きなれていないのか、ハルオミは首をかしげる。

「それは任務の後で説明します。今は…」

「…そうだな。かわいい化け物ちゃんたちとの楽しいお時間を乗り切らないとな」

「またへんな言い方するんだから。ま、なんだかんだ言って付き合ってる私も私か…」

軽い物言いをするハルオミに、ケイトはため息を漏らし、苦笑いを浮かべた。

 

こうして、グラスゴー支部部隊と第1部隊の共同戦線が開始された。

前衛はハルオミ、中衛は遠近両用が可能なユウ、後衛は当然銃型神機であるサクヤ、コウタ、ケイトの三人。…忘れられているかもしれないが、タロウもユウ以外に存在が知れていないとはいえ、彼と同じポジションだ。

サクヤの放った、爆発効果をもたらすモジュールを組み込んだ弾丸が、狼煙となった。その一発が、多量のオラクルと引き換えに多数のアラガミたちを一掃する。

それに合わせ、機体の上でユウとハルオミが動き出した。

「ったく、モテる男は辛い……なっ!!」

最初はハルオミが、自分に向かってくるアラガミを横一直線に切り裂く。前衛は後衛のための壁役のようなもの。それを取りこぼしたり仕留めそこなったもの、または前衛の手にかかる前に後ろから狙い落とすのが後衛の役目だ。一番前のハルオミの負担を減らすために、ユウとケイトが彼の後ろから、そしてコウタとサクヤの二人が空から狙撃して、数を減らしていく。

そんな中、ユウの銃が弾切れを起こした。

「ち…!」

こういうときは捕食形態に切り替えだ。すぐにそれに切り替えに入るが、その隙を突いて来るアラガミの群れ。だがそんなアラガミたちを、仲間たちが射撃を行ったり、ハルオミの剣戟で処理されたり援護をしてくれた。

その中にはこの人もいた。

『ウルトラ念力!』

胸のポケットに収まったままのタロウが周囲に念力を発しながら、アラガミの動きを一時的にだが封じてくれていた。おかげで、ユウは一番近い位置のアラガミに対し捕食をたやすく行うことができた。ユウの神機は、ガジリ!と噛り付いてその体のオラクルを取り込んだ。

「サンキュー、タロウ!」

「私を忘れてもらっては困るぞ!」

バースト状態に入って体から力がみなぎり、発砲に必要なオラクルも取り戻した。銃形態に早速切り替え、取り込んだオラクルで形成したアラガミバレットでユウは他のアラガミたちを打ち抜き始めた。

「ねぇ今誰かと話してた?」

「空耳ですよ、ケイトさん!それより、これを!」

さっきのタロウとユウの短い会話が聞こえたのか、ケイトが話しかけてきたが、ユウは一言適当に言い返して彼女の問いを受け流した。ついでに念押しのつもりか、ユウは銃口を通して、ケイトとハルオミに捕食で取り込んだオラクルを受け渡した。

「!これって…バースト!?」

銃形態のみの旧型神機は自らバーストできない。初めて感じるバースト状態にケイトは新鮮味を感じた。

「なるほど、噂の新型の機能って奴か!両刀使いとはやるな」

「…その言い方止めてくれますか!?すっごく嫌な意味に聞こえるんですけ…どッ!?」

ハルオミのヤバイ意味を孕んだ下品な言葉にユウは鋭いツッコミを入れながら、近づいてきたアラガミの一匹を切り伏せた。

さっきよりも、着実にアラガミを減らしていくことができた。だがまだ全滅には至らない。やはり、さっき現れたサリエルの存在が大きいのかもしれない。

「サクヤさん、サリエルの居場所はわかりますか!?」

『今レーダーで確認しているわ!…今度は5時の方向よ!』

言われたとおり、ユウは5時の方角を見る。その方角には、確かにサリエルがいた。そして、目が合った瞬間頭についた単眼から光線を放ってきた。奴の放ったレーザーがうねるように舞いながらまっすぐ向かってくる。そして、一本だったその交戦は分裂して、輸送機の上にいる三人にそれぞれ向かっていった。

「ユウ!」

「わかってる!装甲展開!」

すぐにユウは神機を一度剣に戻し、そして盾『バックラー』を展開し、レーザーを防いだ。

(ッ…!)

バックラーは小さく軽いから展開速度は速いものの、その分装甲が薄くて振動が伝わりやすい。盾を通して少しだが振動を感じた。

他の分裂したレーザーが他の二人にも襲ってくる。ケイトの神機は銃形態のみなので、装甲を展開することができない。レーザーにも追尾の効果が加わっていて、当然格好の的だ。ケイトも急いでレーザーの回避に入るが、この輸送機の上は同時に空の上。動ける範囲は限られていた。何とか軽快に動き回るが、やはりしつこくレーザーが彼女を追尾してきていた。

「ケイト!」

だが、一人の大剣を使う紳士がケイトの前に颯爽と現れる。そして、瞬間的に盾を形成してケイトを狙うレーザーを、自分の方を狙うそれといっぺんに防いで見せた。

「ケイト、無事か!?」

「ええ、大丈夫よ。ハル」

「はは…そいつはよかった」

自分のピンチに駆けつけて来てくれた旦那様に笑ってきた妻に、ハルオミは頭の後ろを掻きながら照れくさげに笑い返した。綺麗な女性に花の下を伸ばす夫と、それを笑顔のまま厳しくしかりつける妻。だがいざ危機に陥れば自ら互いを守る盾と剣となる。この夫婦の愛と絆は確かなものだろう。

「サリエルをなんとかしないと…」

二人が無事なのはいいが、まだ安心はできない。親玉であるこいつが、まだ残っているのだから。

ユウは神機を構えなおした。

 

 

輸送機の中の連絡通路には、フェンリルから派遣された人たちが大勢乗っていた。だが、その人たちの多くが、包帯を頭に巻いていたりと、あからさまに怪我をしていた。

「ぐ、うぅ…」

「しっかりしてください。外でゴッドイーターの皆さんが頑張ってるんですから」

恐らく、この輸送機がさっきのアラガミの群れに襲われたとき、思い切り壁などに体をぶつけてしまったためだろう。怪我人に対して、他の者たちが救護に入った。だがここは輸送機。十分な医療環境ではないので、応急処置しかできない。一刻も早く極東支部へ…彼らの願いはそれだけだった。

 

だが、この輸送機を、悪意を持って利用する者がいた。

 

船内の中にいる男の一人が、なぜかキャビンの方へ移動した。

「まったく、あの二人も人使いが荒いわねん…『女』を何だと思ってるのかしら?」

窓の外から見えるザイゴートアラガミの群れ、そしてそれらを率いるサリエル。女…それを名乗っていることからして、こいつはオカマのようだ。

「まぁいいわ。私が運んできた『ブツ』をよこせば、連中も喜ぶでしょ」

男はそれを見て、にやっと笑うと、姿を一瞬にして変えた。

その姿は、人間のそれとは大きくかけ離れていた。細い灰色の体から、首から下の部位が獣のような体毛に溢れた怪人の姿に変わった。

「そして、彼もこの歓迎で盛り上がってくれるかしら?

最もこれは、あの二人にとって…彼を始末するための『お試し』としての意味合いが強いけど」

そう言って、その怪人…

 

『暗殺宇宙人ナックル星人グレイ』は、闇のアイテム『ダークダミースパーク』ともう一つ、小さな人形を…スパークドールズを取り出し、その足の裏についたマークをリードした。

 

【ダークライブ…ドラゴリー!!】

 

 

そして、その黒い霧はサリエルの体内に入り込んでいった。

「AAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」

霧に包まれたサリエルが、悲鳴を上げた。

「!!」

「な、何…?」

その尋常ではない叫び声と、霧に包まれる姿。サリエルの異変にユウたちは驚愕し、動揺した。そんな中、タロウがユウに向けて怒鳴る。

「ユウ、気をつけろ!こいつは…もうすぐいつものようになる!」

「いつもの?…まさか!」

そのまさかだった。

黒い霧に身を包んだサリエルの体が、見る見るうちにふくらみ、そして肥大化していく。

 

やがて、黒い霧が晴れ、サリエルは姿を変えた。

 

その姿はより巨大な…60mクラスのものに。

女神の体の部位の上にあった、単眼を供えた頭は猛獣のごとき牙を携えた凶暴な獣に、両手はまるで醜い巨大な蛾のようにカラフルで派手な翼。体全体の体表は緑色の硬くぶよぶよとした肉で覆われていた。

 

後に、その異常進化したサリエルは、それと区別されるために、ある種族名を名づけられた。

 

 

『蛾神獣ザラキエル』と。

 




●NORN DATA BASE

・真壁ハルオミ
『ゴッドイーター2』に登場するゴッドイーター。愛称は『ハル』。
元は極東出身で、後にグラスゴー支部に転属した。
性格は今回のエピソードから見ての通りのスケベ丸出しで、男の本能に忠実。女性型のアラガミと遭遇する際も『点数付け』を行うこともしばしば。
しかし、こんな彼だが仲間たちから頼られるほどの奇骨を持ち合わせており、彼なりに強い信念を持って戦いに臨む。
今回の時系列では、旧型のバスターブレード神機を使う。
アニメでは、セリフ無しだがケイトと共にちょっとだけ登場する。


・ケイト・ロウリー
ハルオミと同じく『ゴッドイーター2』に登場するゴッドイーター。ハルオミとは長年共に戦った仲間でもあり、夫婦でもある。
グラスゴー支部所属。
茶髪のロングヘアーに、メガネやセーターを着こんだ一見知的な女性。献身的で常に明るさを失わず、何かとセクハラ行動の多いハルオミをなんだかんだ言いながらも愛し、支えてきた。
今回の時系列では、旧型アサルト銃神機を使う。


・暗殺宇宙人ナックル星人グレイ
『ウルトラマンギンガ』本編に登場する異星人。
おネエな性格だが、歴代の同族同様、狡猾で卑劣。原作ではヒロインの心の闇に付け込んでギンガを始末しようとした。
今回もまた、何者かの呼び出しを受けて極東行きの輸送機に侵入、輸送機を追っていたサリエルをザラキエルに無理やり進化させた。


※次回は10月の上旬土曜日の予定です

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