ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

15 / 68
次回からの執筆はしばらく時間がかかると思います。あらかじめご了承ください。


グリーン・サラブレット(終編)

ザムシユウとグビラとの交戦に入った第1部隊。ユウもウルトラマンギンガとしてこの二体の強敵を相手に応戦することとなる。

しかしアリサはグビラとの戦闘中に奴と目を合わせた途端、過去のトラウマが蘇り、神機を落として戦意を失ってしまう。

迫るグビラに、ただその場で呆然と逃げることなく立ちすくんでしまうアリサ。

 

 

だが、そのときだった。

 

 

「ダアアアアアアアア!!!」

 

 

光が、アリサたちを守ろうとグビラの前に立ちふさがり、グビラの進行を両手で掴んで阻止した。

「う、ウルトラマン…!!」

ギンガが、ザムシユウの妨害を経て辛うじて駆けつけてくれたのだ。それを見て、リンドウたちはほっとした。そして…同時に確信したことがあった。

 

彼は…ウルトラマンは味方なのだと

 

すぐにでもアリサたちを捕食しようとするグビラを、ギンガは押し返していく。

(お前なんかに…!!)

 

仲間たちを食われてたまるか!!

 

「ショオオオオララアアアア!!」

右腕を振りかざし、ギンガはその鉄拳で、グビラの砲塔を殴りつけた。

バキン!!と音を立て、グビラの砲塔は無残にも砕け散った。

「ガアアアアアアアア!!」

初戦と同様…いやそれ以上に自慢の砲塔を砕かれたグビラが激痛で悲鳴を轟かせた。

「すごい…結合崩壊した!」

神機を用いず、素手のみで、アラガミのオラクル細胞の結合を砕いた。やはりギンガの力は凄まじいものだと実感させられた。

怯むグビラを、ギンガは下から力いっぱい持ち上げると、そのままザムシユウのほうに向かって思い切り投げ飛ばした。

投げ飛ばしたところで、ギンガはアリサの方を振り返った。

グビラへの恐怖で、ギンガに直視されていることに気づくのに、少し間をおく必要があった。自分とギンガの目が会ったところで、アリサははっと我に帰って神機を拾い上げる。

「お、おいあんた!」

今は逃げるべきじゃないのか?アリサが保護しようとしたフェンリルスタッフの男が慌てる。やめてくれという言葉を喉から出そうとするが、それは喉の奥で押しとめられた。

 

『アリサ』

 

「え…?」

突如、頭の中に自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「今、私を呼びました?」

「え、いや…私は何も…」

アリサは、自分が拾おうとした、すぐ傍にいたフェンリルスタッフの男が自分を呼んでいたかと思ったが、その男ではなかった。そもそも、彼には一言も自己紹介していなかったことを思い出す。

(じゃあ…今の声って…もしかして…)

アリサは、まさかと思って顔を上げ、目の前に立っている光の巨人の顔を見上げた。

銃形態『レイジングロア』の銃口は確かに、ギンガに向けられていた。だがアリサは、彼に向けて発砲していない。

彼女は、ギンガの乳白色に発光する瞳に当てられていた。最初は、恐れた。ウルトラマンといえど、彼女からすれば人ならざる者であることに変わりない。だが…。

自分の両親を奪った、あの黒い帝王のような顔のアラガミとは違う。

 

 

穏やかで、暖かな…全てを慈しむような優しい目だった。

 

 

どうして…なんでだ。

 

私は一度、あなたをアラガミと断じて、撃ったのだぞ?

 

それなのに…

 

(どうして…パパとママみたいな優しい目で…私を見るんですか…)

自分をまっすぐ見て、安心してくれと頷くギンガを、どこか悔しそうに見ていた。

「シュア!!」

再びアラガミの方へ向き直り、彼は立ち向かっていった。

「アリサ!」

そこへ、リンドウがアリサたちを連れ戻しに駆けつけてきた。アラガミに立ち向かっていくギンガの姿をただ見つめる、そんなアリサに説くように言った。

「アリサ、お前の昔のことは聞いてる。だからこそ許せないのはわかるさ。

けどな…俺はウルトラマンの事情なんざ知らねぇし、今のお前はゴッドイーター。もう過ぎちまったことを何時までもごね続けたところで、過去は変えられねぇ。アナグラにいる連中はそれを割り切ってる。

だとしたら、何が自分にとって成すべきことなのかは分かっているはずだ」

「……」

リンドウはやれやれとため息を漏らした。どことなく、まだ納得できない気持ちが分かりやすく表に出ている。気難しいけど、分かりやすい子だと思った。仲間たちをあまりに蔑ろにしてきたアリサに対して悪感情を抱きたくなったが、実際はただの融通の利かない不器用な少女なのだろう。

「自分以外の何かを認めることも、人として大事な一歩だぜ?あの新入りのこともな」

新入り、と聞いて、アリサはそれがユウを指していることを察した。

あの人のことを、認める…か。

正直な話、あの人のことをそう簡単に認めるべきかと思うと、素直にそれができるとは思えない。だが…ユウの言葉が蘇る。

『君のパパとママは、憎しみで戦うことを肯定する人でなしだったのか?』

自分の戦いは、復讐心から。だが、あのような言い方をされては否定せざるを得なかった。

でも憎しみを持たない戦いは、自分にとって生きる意味を変えなければならないことと同義だ。そうなると何もできなくなる。

「…私には、わかりません」

憎しみだけを糧に生きてきた自分が、それを否定された。それ以外に、何を理由に戦えばいいのかわからない。

「アリサ、今はわからなくてもいい。けど、少なくともわかっていることがあるはずだ」

「…目の前の任務を、成功させることです」

ただ一つだけ、はっきりしていることをアリサは口にした。よろしい、とリンドウは親か先生のような口調で言った。

「今から俺たちはウルトラマンギンガの援護および、このフェンリルより派遣された方々の護衛の二手に分ける。

俺とアリサ、コウタはウルトラマンの援護。サクヤはヘリを呼び、それまでの間ここにいるお客様方の護衛を頼む。ソーマは新入りの捜索に当たれ!」

「「「了解!」」」「……」

 

 

「ダァ!!」

ギンガはアリサを助けた後、そのままグビラとザムシユウに果敢に立ち向かう。再び剣を形成し、ザムシユウの刀に対抗する。さっきよりもエネルギーを流し込む形で作り直したから、さっきのように折られることはないはずだ。だが剣の腕に関しては、つい最近になって剣を握ったばかりの自分より、奴の方が上だろう。とはいえ素手で立ち向かうには不安がある。まだ未熟なユウとしては、とりあえず接近戦においては剣で立ち向かうしかなかった。

「フン!!」

再びザムシユウの刀とぶつかり合うギンガセイバー。力に至っては互角だが、変身する時間も使うことができる光エネルギーも限られている。カラータイマーも点滅が早まっており、このまま押し返されるとまずい。

すると、ギンガの耳に発砲音が聞こえてきた。つばぜり合いのまま振り返るギンガ。

リンドウとコウタ、そしてアリサがやってきてくれたのだ。

(みんな…)

来てくれたのか。しかも、どっちの自分(ユウとギンガ)にも否定的だったアリサまで。

「いっけええ!!」

アリサとコウタの同時射撃攻撃がザムシユウに向かっていく。

だが…。

「ヌウウウアアアア!!」

ザムシユウが、バレットが自身に被弾する直前、目にも止まらぬ速さで刀を振り回した。結果、彼らの撃ったバレットは金属音を発しながらあらぬ方向へと弾き飛ばされてしまう。

「嘘だろ!?弾丸を剣で弾きやがった!」

「これは、ちょっと反則って言いたくなるわね…」

ザムシユウの荒業を見て驚くしかないコウタ。遠くから見ていたサクヤも、この場の見晴らしがよかったおかげでそれを見ており、コウタ同様驚きを露にしていた。

といっても、驚いたのは全員だったことに変わりない。こんな荒業を見せ付けられるとは。

グビラが、仲間たちからの援護を入れられずザムシユウとそのままつばぜり合いを続けるギンガに突進していく。ことごとく邪魔をされてかなり怒っており、その怒りに呼応して体内のオラクル細胞が活性化しているのだ。

まずい、今の状態では避けきれない!

「ぬううう!!」

ここで援護できるのは自分だけ。グビラに念力を押し返されながらも、気力を吹き返したタロウが向かおうとした。

しかし、次の瞬間驚くべき光景を目の当たりにすることとなった。

「フン!!」

 

ザシュ!!

 

「!?」

ギンガも、リンドウたちもその瞬間に起きた出来事に呆然としていた。

ザムシユウによって振り下ろされた刀が………

 

「ゲェ…!?」

 

味方であるはずのグビラの胴体を、上下に真っ二つに切り落としてしまったのだ。少なくとも敵ではない、そう思っていたのか、味方に切られた事実を受け止める前に、グビラは絶命しその場でこと切れた。斬り分かれたグビラの遺体から露出したコアは、コアの内部に取り込まれていたスパークドールズごと真っ二つに切り落とされていた。

「邪…魔……ダ……」

ザムシユウの、仮面の奥に隠れた口から発せられた、無情な一言。それが余計に周囲の者たちの背筋に悪寒を走らせた。

(こいつ…!)

自分の味方を斬ってしまうなんて、なんと恐ろしいことをするのだ。卑劣さに怒りたくなるどころか、寧ろ恐怖と戦慄を覚えてしまう。

ギンガの方に向き直り、再び剣を構えるザムシユウ。

一人ぼっちで佇みながら自分に剣を向ける。ただ目の前の敵を倒すためだけに。

奇妙なことに、アリサはその姿をどこかで見たことがあるような…いや、違う。見たことがあるというよりも、自分自身に覚えがあった。

新型としてのプライド故に、緩さを感じる極東の旧型神機使いたちを蔑ろにしてきた自分。

邪魔の一言で仲間のアラガミを切り伏せ、たった一人で戦おうとするザムシユウ。

不愉快だが、アリサはその姿が自分とあまりにダブって見えてきた。

同時に、無性に消し去りたくなった。自分とどこか被って見えるあのアラガミを。

だが、自分も意地を張ってるわけに行かない。

「…藤木さん。雨宮隊長」

「へ?」

「うん?」

いきなり声をかけられ、リンドウはともかく、コウタは間の抜けた声を漏らす。

「あのアラガミをウルトラマンに倒させます。手伝ってもらいますよ」

「ええ!?」

コウタは予想外なアリサの発言に目を丸くした。あれだけウルトラマンのことを否定してきたアリサが、一体どういう風の吹き回しなのか。

「…ふ」

だが、リンドウは満足げに笑っていた。

「な、なんですか?何がおかしいんですか?」

「いや、若者の成長を感じただけさ」

自分がまるで馬鹿にされているように感じたアリサはリンドウを睨むが、対するリンドウはいつもの飄々とした態度で流した。

「さて、お二人さんはあのアラガミの隙を作れ。もし攻撃が来たら俺が盾になる。いいな」

「はい!」「…了解しました」

同じ頃、二つの剣がぶつかり合い、金属音が鳴り響く。ギンガとザムシユウの戦いはまだ続いていた。

(そろそろ時間が…!)

さっきと比べると、カラータイマーの点滅がさらに早くなった。このままでは変身が解けてしまう。いや、解けるだけならまだいいかもしれない。思えば、時間切れになったときの代償がどんなものかはタロウから聞いている。

しばらく再起不能になるか、一定の期間の間変身できなくなるか、最悪の場合…

『我々ウルトラマンにとって光は命そのものだ。その光で構成されたエネルギーがもし、切れるようなことがあれば、最悪の場合生命活動が停止…つまり…』

 

―――死だ。

 

死がすぐ近くまで迫っている。そう思うと心に焦りが余計に生じてしまう。そして…ギンガの腕を鈍らせてしまう。

「ク…!」

しかも相手はアラガミの癖に剣の達人なのだ。剣術では劣るギンガでは持ちこたえきれない。

「ギンガあああああああ!!」

コウタの叫び声が聞こえてくる。ギンガは後ろを振り返ると、リンドウとコウタ、そしてアリサの姿が見える。

「そいつの動き封じててくれ!」

封じろ、と叫んでくるコウタ。すると、言ってる傍からザムシユウが再度剣を振りかざす。止めを刺しに来ているのだ。

(コウタも無茶を言ってくれるよな…)

こちらの方が不利だというのに。だが、死にたくないし、諦めるわけにも行かない。ギンガは何とか自分の剣とザムシユウの刀をぶつけ合わせ、そのままつばぜり合いの姿勢を保たせる。

「今の内に奴の刀を握る手をつかめ!」

リンドウの声が聞こえた。その声にギンガは反応し、ザムシユウの手元に目を落とす。自分が振りかざしているギンガセイバーを押さえつけようとしている奴の刀が、奴の両手によってしっかりと握られている。

「!」

そうか!ギンガはつばぜり合いの姿勢のまま、ギンガセイバーを握る腕の力を抜くと同時に、瞬間的に自身の体をザムシユウの方に寄せた。そしてギンガセイバーを即座に解除。ザムシユウの刀を握る両腕を、容疑者を引っ捕らえようとする警官のように、右脇の下に挟んで捕まえた。

離せといわんばかりにザムシユウは、ギンガを振りほどこうともがきだす。しかしギンガは力を振り絞って決して離れようとしない。ザムシユウを妨害するべく、アリサとコウタは氷属性バレットを装填、ザムシユウに向けて銃口を向ける。

「しくじってウルトラマンに当てないでくださいよ?」

「へっ!そっちこそ、どさくさに紛れてウルトラマンを撃とうだなんて思うなよ!?」

互いに挑発しているような言葉を交わしあいながらも、二人は刀を握るザムシユウの腕に向かってバレット連射する。ザムシユウの素材となったアラガミ、シユウは炎と氷には弱い。それも合ってか、進化後のザムシユウにも弱点が引き継がれていたようだ。

「グ、ギギギ…!!」

だが、それでもザムシユウは、刀は武士の魂だと語るように、しっかりと握ったまま離れない。いくらオラクルの消費の少ないアサルト銃の神機によるバレット連射でも、いずれ神機に溜め込んであるバレット発射用のオラクルが尽きてしまう。

しかし、一つの人影が高速で駆け抜けながら迫ってきた。それは一回りどころか何倍も大きなザムシユウの体を駆け上がっていく。

(リンドウさん…!?)

その人影がリンドウだった。ゴッドイーターは体内に偏食因子を投与したことで身体が驚異的に向上することは既に知っている、というか常識としてユウの記憶の中にも刻み込まれているが、まさか自分とほぼ同じくらいかそれ以上のサイズの敵の体を、まさか走って駆け上がるとは。

リンドウは神機『ブラッドサージ』を構え、空中で捕食形態を発動、そのまま落下する。その先は、ザムシユウの両手だった。

「おおおおおおおお!!!」

ドガッ!と生々しい音を立てながら、リンドウの神機がザムシユウの手の指を食いちぎった。

「ガアアアア!!」

苦しみ悶えながら、ザムシユウは手から刀を落とし、よろよろと後退りする。奴の自慢の刀は、ギンガのすぐ傍の地面に突き刺さった。

「今だ、やれ!!」

地上に着地したリンドウがギンガに向けて吼えた。ギンガは頷き、地面に突き刺さったザムシユウの刀を引き抜き、逆手に持って構える。

最後の足掻きか、ザムシユウはギンガに向けて手のひらから火炎弾を放ちだした。

「ウオオオオオ!」

それと同時に、ギンガは走り出した。自分の体に向かっていく火炎弾が体に被弾することも構わず…

 

ドガッ!!!

 

ちょうど自分と奴の姿が重なると同時に、一閃!

ギンガは駆け抜け、ザムシユウの背後で刀を逆手に持ったままその場に佇んでいた。ギンガとすれ違ったザムシユウも、一歩も動かずそのまま突っ立っていた。

しばしの間が置かれていた。それから、数秒後のことだった。

 

ザムシユウの上半身がずるずるとずり落ち、自身の下半身と永遠の別れを告げた。

 

「か、勝った…やったああああああ!!」

勝利を確信し、コウタは思わず神機を頭上に放り投げた。

「ち、ちょっと!危ないじゃないですか!」

あまりに乱暴な扱い方をするコウタに、アリサは突っ込んだ。

ギンガも振り返ってザムシユウの生命の安否を確認する。すでにザムシユウの遺体にはリンドウがおり、神機で遺体を捕食し、残されたコアを回収していた。回収が完了したところで、リンドウはギンガの方を向いてサムズアップを向けた。これでもう奴は完全に倒したことになる。

それを確認したギンガもリンドウに、そしてコウタとアリサに向けて頷くと、空の彼方へと飛び去って行った。

 

 

「大丈夫かよ、ユウ?」

ギンガが去ると同時に、ひょっこり戻ってきたユウ。無論心配をかけたことでリンドウたちからとことん茶化しを受けた。既にヘリを呼んでいだサクヤから当然止められたが。ちなみにタロウは既に彼の服の胸ポケットに隠れている。

サクヤが戦闘中に守っていたフェンリルのスタッフたちは、怪我こそしているが全員生存していた。

「大丈夫だよ。大した怪我はしていないって」

コウタから怪我の具合を問われたユウはなんともなさそうに言うが、サクヤがユウの服を見て言った。

「あら…ユウ君、服の胸の辺り破けてるわね」

言われてユウは自分の服の胸元を見る。確かに何かに切られたかのように破れていた。

「あ、本当だ。アラガミを戦っていたときに破けたかもしれませんね」

「せっかくだし、私が編みましょうか?」

「いいんですか?わざわざ」

お姉さんキャラのイメージどおり、家庭的なことが得意そうに見えるが、本当らしい。

「今日もがんばったご褒美よ。せっかくもらえるんだから素直に受けなさいな」

「はは、ありがとうございます」

ユウはせっかくだからお言葉に甘えてみることにした。

「えぇ…いいなぁユウ。サクヤさん、俺にはご褒美ないんですか?」

「コウタも?そうね…」

コウタも、美人なお姉さんからのご褒美を受けてもらうことを、ズルをした奴を見るような目でユウを見ながら羨ましそうにしていた。

「神薙さん」

すると、アリサがユウの前に歩いてきた。いつもの高飛車な言葉をぶつけてくるのだろうか?不穏な空気を感じ取るコウタとサクヤ。

「私は、アラガミが憎いです。アラガミをオラクルの残すことなく滅ぼすまで、戦い続けることになると思います」

「そっか…」

やっぱりそうか…とユウは内心がっかりした。だが自分もアリサの気持ちがよく分かるから否定できない。しかし…次にアリサの口から出てきたのは意外な言葉だった。

「ただ、あなたにいわれたことも一理あります。今回戦ったアラガミと同じ目で、見られたくないですから。ですから皆さんのことも少しは妥協して考えてみることにします」

「アリサ…!」

それは、アリサがほんの少しだけ旧型の仲間たちのことも、大きな目で見ることを誓う言葉でもあった。リンドウはおぉ、と声を漏らす。アリサの心の氷が少し解けた。それだけでも今回の任務は、それについても非常に意味があったと思えた。

「…それと今日は、まぁ…あなたのおかげもあって助かりました。それについてはとりあえず感謝しておきます」

上から目線を感じる物言いだったが、その言葉遣いとは裏腹に、どこかアリサの態度がしおらしく見えた。ユウには視線を合わせず、少し顔を朱色に染めつつも続けた。

「別に、僕は大したことはしていないよ。それに今日も、ウルトラマンギンガがいたから勝てたんだし」

「まぁ、そうでしょうけど…それでも私はあなたに借りができたことに変わりないです」

「そ、そう…」

なんか気まずい…もしや、胸を謝って触ったことをまだ怒っているのだろうか?などと思い、またあの魅力的な感触を思い出しかけてユウは必死に頭から煩悩を取り払おうとした。

「ですから、その制服…」

「うん?」

なんだろう、少し声が小さいが、ユウは聞き逃さないように耳を傾ける。

「橘副隊長じゃなくて、私が…編んであげます」

「え!?アリサ…が…!?」

それはあまりに意外だった。いつも自分たちに対して高飛車な態度をとり続けていたアリサの言葉とは思えなかった。リンドウを除く全員が驚きのあまり目を丸くした。

「な、なんですかその目!はっ、さては私が家事もできない女だと思ってるんでしょう!?」

「な…なんでそうなるのさ!?」

「べ、別に苦手なわけじゃありませんからね!?ただ、その…まだ慣れていないだけなんですから!!」

言いがかりだ。あまりに意外な言葉だったから驚いただけなのに、アリサは勝手に疑惑している。

「いいですか神薙さん!その服はアナグラに戻ったらちゃんと私のところに持ってきてくださいよ!?」

「は、はぁ…」

顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らすアリサ。高飛車な態度のままではあるが、これまでの彼女と比べると、どこか不思議とかわいらしく見える。アラガミに残酷な死を与えてきたとは思えない。

でも何をそんなに怒っているのか分からない。ユウは自分にガーッ!と突っかかるアリサに困惑するばかりだった。

「さぁ、そうと決まったらさっさと戻りますよ!橘副隊長、確か迎えのヘリとのランデブーポイントはこっちでしたよね!?」

「え、えぇ。そうだけど…」

「ほら、先に行きますよ!」

「ち、ちょっと待ってよアリサ!」

アリサは自分の熱くなった顔を必死に隠すかのように、仲間たちも護衛対象のフェンリルスタッフたちを置いて先に言ってしまった。それをユウたちは追っていくのだった。

「アリサの奴、ユウと何かあったんスかねぇ…?」

アリサを追いながら、コウタはリンドウに呟きだす。

「はは、いいじゃねぇか。こういうのは詮索しないでやるもんだぜ?」

リンドウはニヤニヤしながらコウタに言った。

「そんなもんすか?…はっ!?もしかしてユウの奴、アリサにフラグを立てやがったんじゃ…」

「ま、まぁ…そこから先はご想像にお任せってもんだ」

「ちくしょお…ユウの奴、サクヤさんからもご褒美進呈だし、羨ましすぎるぜ!俺だって今日がんばったってのに!」

一人勝手に悔しがるコウタを、リンドウは面白おかしく思いながら、この日も無事に任務を、誰一人欠けることなく終わったことを実感した。

 

しかし、リンドウはユウの服の破けた箇所と傷を思い出して、あることに気が付いた。

 

見間違いじゃなければ、ギンガの胸を斬られた箇所と、ユウの服が破れた箇所が…合致している。

(シユウの変異種に切られた箇所と同じ…それに何かに切られたような…)

思えばあの新入りが姿を消していた時間と、ウルトラマンが交戦している時間も重なっていた。

 

まさか…な。

 

リンドウは、自分がたった今浮かんだ憶測をすぐに払おうとする。だが…決定的な根拠がないのに、不思議と納得できる自分がいた。

「リンドウ、ソーマがまだ戻っていないみたいだけど」

すると、サクヤが一旦リンドウの元に引き返して言ってくる。

「あっ!しまった…あいつのこと失念しちまってた」

サクヤの一言で、うっかりソーマのことを忘れていたことに気が付いたリンドウはやらかした…と頭を掻く。

「ちょっと、ソーマのこと忘れないでいるつもりだったでしょ?一人にしたら一人で勝手に死にに行く奴とか言ってたのに」

「悪かったって…ったく」

「それはソーマに言ってやりなさい」

「へいへい…」

まるで妻からたしなめられる夫。リンドウはすぐに、ユウの捜索を任せていたソーマに連絡を入れた。

 

 

その頃、ユウを探しているソーマは、リンドウからほどなくしてユウが戻ってきたとの連絡を受けた。

「ちっ」

ソーマは通信を切ると、いつも通り舌打ちした。全く、仲間に心配をあれだけかけておきながら、ひょっこり戻ってきやがって。とことん悪運に恵まれた奴だ。

そう思いながらも、ソーマは廃墟となったビルの街を横切りながら仲間たちの元へ戻っていく。

 

だがそのときだった。

 

…?

 

ソーマは、目の前のビルとビルの間の裏道に進む何かを見た。

 

「なんだ…人影?」

さっきの連絡のことで頭が一杯だったこともあり、一瞬しか見えなかったが、大きさと形からして人に見えた。

ソーマは、アラガミの気配に対してかなり敏感だ。アナグラのコンピュータに搭載されているオラクル反応追跡機能がなくても、どういうわけか近づいてくるアラガミを他のゴッドイーターよりも感じ取ることができる。そしていち早く対処することも可能だった。

そして今彼が感じ取った気配。

でも、奇妙だった。気配を確かに感じたのに、それはたったの一瞬で、すぐに消えてしまった。

バスターブレード神機『イーヴルワン』を構え、辺りを見渡すソーマ。まるで誰かに見られているような視線を感じていた。だが、いくらキョロキョロと見渡しても、姿が見当たらない。

「気のせいか…」

神機を肩に担いで、ソーマはその場から歩き去っていった。

 

ビルの屋上から、発せられる…

 

白く短い髪と肌を持つ少女の視線に気づくことなく。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。