ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
「……」
ヨハネスは、女神の森の中央に立つ、一番高い塔の最上階に招かれていた。半円形の机が並び、その向こうにホワイトボードと演説用の席が一つ。そこはまさに会議室…というべき造りだった。
しかしそれ以上に、ヨハネスに同行している護衛のゴッドイーターたちは突き刺さるような視線の方が気になった。中高年層の人間が大多数を占めているのだが、そのありとあらゆる視線が、敵意を込めた白い目だった。アラガミと違って手を出してこないのはいいのだが、逆に言えば排除することなど以ての外の相手からの視線は違う方向でキツイ。
「…女神の森へようこそ」
演説用の席からヨハネスたちに呼びかける男の声。だが、言葉とは裏腹に、心から歓迎してくれているとは思えない。その男はメガネをかけており、周囲とはまた違う目でヨハネスたちを見下ろしていた。
「私はこの女神の森の総統『葦原那智』だ。貴君は…」
「お初目にかかる。葦原那智総統。私はヨハネス・フォン・シックザール。ご存じだと思うが、フェンリル極東支部の支部長を勤めさせてもらっている」
「やはりそうか!」
そう叫んだのは、那智と名乗った男とは違う人物だった。この部屋にいた、議員の一人だ。彼が席を立ってヨハネスを睨み付ける
「シックザール!貴様、よくもまぁここへ来るきになったものだ!貴様の政策のおかげで、私は極東に入れず、路頭に迷うことになったのだぞ!」
「俺の家族は、貴様が見捨てたためにアラガミに食われたのだ!俺だけじゃない!ここにいるみんなの家族が、貴様のせいで死んでいった!」
「どの面を下げてここに来たんだこの野郎!」
「あわよくばここを乗っ取るつもりで来たのではないだろうな!そのつもりでいるならしかるべき覚悟をしてもらうぞ!」
たちまち、怒りの声がヨハネスたちの耳に飛び込んだ。その声を苦痛に感じて、ヨハネスの護衛のゴッドイーターたちは顔を歪ませた。
「そういう君こそ、なぜここにいるんだい?葦原那智総統…君の顔はエイジス建設計画書の顔写真で見たことがあるのだが」
至って落ち着いた口調でヨハネスは那智に問い返した。
「…やはり私のことを覚えていたか」
ふん、と息を吐いて那智は言う。
「なぜか?それは貴君の胸に聞けば容易くわかることだ。先ほど、彼らが貴君の名前を聞いて声を荒げてしまったようにな」
やはりか、と思った。それに対してヨハネスは表情一つ変えようとしなかった。わかっていたからだ。自分が…自分たちフェンリル関係者が彼らに罵声を浴びせられることは。
フェンリルの手で救える人類など、結局ほんの一握りだ。食料もアラガミに食われることもあるし、食料を作ったり育てたりするための土地もアラガミのせいで満足に開拓することもできない。地下にプラントを建設しているが、建設費も馬鹿にならないし数に限りがある。どのみちすべての人間を救うことなどできないのだ。誰かが貧困に陥り、路頭に迷うことになる。ならばせめてゴッドイーターとなる素質のある人間を優先的に救うのがいい。非情だとわかってはいるが、限られた資源と土地というハンディを強制で課せられている以上、それしか選択することができないのだ。
この選択で彼らのような人間から憎まれるとわかっていても、これも人類を救うために必要な選択だった。ヨハネスはどんなに悪意のある視線にさらされ、罵声を浴びせられても迷いもせず、そして揺らぐこともなかった。
「…改めて謝罪しよう。君たちを過酷な外の世界に放り出したのは紛れもなく私だ。謝って済む問題でないことは承知しているが、申し訳ないことをした」
だが、せめてもの礼儀は尽くさねばならない。ヨハネスは頭を下げて謝罪した。無論たった一言で済まされるほど自分のしたことは…『自分が行っていること』は許されることではないとわかっていた。
「謝って済まないとわかっていながら…なぜ俺たちを見捨てた!!」
「ゴッドイーターの素質がなければ、救う価値もないとでも言うのか!貴様それでも支部長か!!」
ヨハネスの誠意を持った謝罪に対しても、信用できないとばかりに女神の森の議員たちは口々にヨハネスを罵倒し呪いの言葉をぶつける。
「せめてもの償いとして、我々の方からこちらに資材を送っていることは…」
ヨハネスはユウをゴッドイーターとして迎え入れたことで、資材をこの女神の森に送り届けていることについても触れる。
「償い?物を送りつけたくらいで済む話か!!」
もちろん、向こうにとって大助かりではあるものの、物を送ったくらいで彼らがこれまで失ってきた近しい人たちが蘇るわけではないし、怒りが必ず収まるわけでもないことは、ヨハネス自身も分かった上の事だった。
「黙れ貴様ら!支部長が…俺たちフェンリルだって人類のために苦心の努力をしているというのに、何も理解もせず非難するとは、貴様らこそ何様のつもりだ!!」
「なんだと!!?」
「おい、止さないか!」
だが、ついにヨハネスの護衛のゴッドイーターたちも黙っていられなくなり、たとえすべきでないとわかっていても、乱暴な口調と怒鳴り声で反論してしまった。中にはそれを止めようとした者の声もあったが、彼らの声はすぐ互いを憎み合う心の声で潰されてしまう。
「静粛に!!」
すると、那智が両手を一つパンと叩いて、議員たちの口を閉ざさせた。
「君たちもだ、ここで事を荒げるような真似をするな」
ヨハネスも、引き連れてきたゴッドイーターたちにただ一言言って、彼らを黙らせた。
そして、那智は改めてヨハネスを見て質問する。
「単調直入にお尋ねしようか、シックザール支部長。なぜ、ここに来られたのだ?」
「ここはアラガミの襲撃された痕跡が全くと言っていいほど見られなかった。その理由を我々も知りたいのだ」
「やはり、ここを奪いに…」
「木野議員、お気持ちはわかるが、今は支部長殿との話し中だ」
「……」
一人の議員が、ヨハネスがここを乗っ取ると思って席を立って文句を言おうとしたが、那智の一言と視線を浴びせられ、渋々ながらも着席した。
「で、知ってどうするおつもりだ?」
「人類を一人でも多く巣食うために、その秘密を解き明かしたいのだ。君たちのような、路頭に迷ったもの、今でも壁外で苦しむ人間を一人でも救うために」
ヨハネスは那智を見ながら続けた。
「私の政策の結果が、君たちのような方々を生み出してしまった。だからこそ、その過ちを精算するためにここへ来た。
勝手を承知ではありますが、葦原総統。あなた方『女神の森』に協力を申し出たい」
自分の方法がすべて正しいとは思っていない。だが、自分は人類を守るために親友と共にオラクル研究者に、そして今は支部長としての役割に徹している。その信念に迷いはない。
ここがアラガミに狙われない理由…それを解き明かさねばならない。
しかし、彼らは自分の切り捨て政策のために、アラガミの巣くう防壁外での生活を余儀なくされた身の集団。信用されない方がおかしいとヨハネス自身も自覚している。もしかしたら、自分たちの予期していないタイミングで、背中を指されることも懸念されるし、それ以前にこの場で協力を断られることも当然考えられる。
万が一そうなった場合の…覚悟はできている。
(アラガミの根絶された未来…それこそが『アイーシャ』の…人類の誰もが夢見た未来なのだ)
そのためなら…どんな手を使ってでも…!
「グガアアアア!!」
グボロ・グビラとザムシユウ。二体のアラガミたちが、自分たちが取り囲っている巨人、ウルトラマンギンガに一斉に襲い掛かった。
先手を打ってきたのはグビラの方からだった。以前にも見せた突進してギンガに攻撃を仕掛けた。ギンガはそれを、両手を広げ正面から受け止める。勢いがすごかったことも合って、ギンガは受け止めの姿勢のままズルズルと後ろにずらされていく。背後にはザムシユウが、刀を構えていた。あれで串刺しにするというのだろうか。
そうはさせるか。ギンガは突進するグビラの方に向き直すと、グビラの背を伝いながら前転し、グビラの背後に降りた。
「デア!」
自分の頭上を、それも背中を逃げ道に利用されたグビラは驚き、ギンガを押しのけるためにかの上につけすぎた勢いを殺すことができない。結果、さっきまでギンガの背後で構えていたザムシユウとぶつかり合ってしまう。
「グフ…!!」「ギィ!!」
ギンガはアラガミたちの方に向き直ると、グビラの尾を掴んで引っ張りあげて振り向かせて持ち上げる。顎が頭上に見えるくらい持ち上がったところで、ギンガはその顎にアッパーを叩き込んで怯ませ、続けて蹴りを腹に叩き込んで突き飛ばした。
それと同時に、グビラと入れ替わるようにザムシユウが刀を振り上げてギンガに向かってきた。
「オオオオオ!!」
剣ならば、剣で勝負。ギンガは右腕のクリスタルから〈ギンガセイバー〉を形成、ザムシユウの剣撃を受け止めた。ザムシユウは一度防がれても動揺することなく、続けてギンガに向けて刀を振り回し続けた。ザムシユウが一太刀入れる度に、ギンガの光る剣が、刀の一撃を受け止め続けていく。
一方、撤退中の第1部隊。
彼らは保護したフェンリルのスタッフたちを連れて一度ミッション現場から退避していた。ギンガが戦ってくれていたおかげで、アラガミたちは彼の方に注意を向け続けており、今のところ自分たちは比較的万全の状態での撤退を続けることができていた。
「すげぇ…さすがギンガだぜ」
退避しつつも、彼らはギンガとアラガミたちの戦いを見ていた。
コウタから見て、ギンガの戦いぶりはまさに無双の剣士のような立ち振る舞いに見えた。相手も剣を使う相手だが、グビラというもう一体の強敵がいながら、奴らの攻撃をたくみに受け流している。
「こ、これならいけるかもしれない!」
自分たちはきっと助かる。リンドウたちに保護されたフェンリルのスタッフたちもコウタと同様に期待を寄せ始めた。
だが一方で、ソーマはふぅ…と呆れたようにため息を漏らしてきた。
「何だよ?」
なんか馬鹿にされたようにも聞こえる、そのため息をコウタは聞き逃さず、ソーマをジト目で睨む。その視線に対してソーマはただ一言「よく見ろ、馬鹿が」とだけ呟いた。
「…旗色が悪くなったな」
リンドウも表情が険しくなった。タバコを吸いながらギンガを見る目が、鋭くなっていた。
長年ゴッドイーターを続けてきたリンドウは、ギンガがそのとき苦戦を強いられ始めたことに、真っ先に気づき始めていた。
リンドウが思っていた通りだった。ザムシユウとの攻防はギンガに…ユウにとって一秒は愚か、一瞬たりとも気が抜けない攻防だった。
(速い!)
あまりにも相手の剣捌きが速く、達人の域と言っても過言ではないほどだった。これが捕食本能ばかりを優先させるアラガミの戦い方とはとても思えない。頭、喉下…手数を踏まえつつこちらの急所を的確に狙ってきているのだ。
「く!」
ほんの少しでも考えてると、奴はその隙を突いてくる。気を抜く暇も息つく暇もない。容赦なくザムシユウの剣撃がギンガを襲い続けた。
いつまでもこの状態では不味い。ギンガはお返しにザムシユウに向けてギンガセイバーを振るった。しかし、その一太刀は簡単に見切られてしまい、あっさり受け止められてしまう。
「!?」
驚いて隙を見せたのをザムシユウは見逃さなかった。
「フン!!」
刀を切り上げてギンガセイバーを弾き、胸元ががら空きとなったギンガに向けて、今度は刀を頭上から振り下ろした。
『避けろ、ユウ!』
タロウの声が頭の中に響く。まずい!ギンガはとっさに後ろへ飛び退こうとしたが…。
スバッ!!
「ガハッ!!」
胸元に鋭い痛みが走った。後ろへよろめきながら胸を押さえるギンガ。カラータイマーを囲う形で胸元に埋め込まれていたクリスタルの一部に、切り傷が痛々しく刻み込まれていた。
「Wow!やるじゃねえかザムシユウちゃんよぉ!」
「ほぅ…」
ビルの屋上より、ギンガの体に刻まれた切り傷を見て、遠くから眺めていたバルキー星人バキははしゃぐ。マグマ星人マグニスも関心を寄せていた。思った以上の成果だった。
「確か、あのシユウの変異種の素材にした奴は…我らの同胞を切り殺した剣豪だったな」
「おうよ。メビウスやヒカリと共に、かの『暗黒大皇帝』に挑んだ身の程知らずではあったがな。Powerはこの宇宙でも十分強力な部類に入る奴だったのよ」
ここで少し説明を入れよう。
彼らの言うザムシユウの素材となった存在の名前は『宇宙剣豪ザムシャー』。
彼と、彼の同族たちはこの宇宙において高名な存在となるほどの剣の達人を輩出してきた種族なのだ。特に、『メビウス』と『ヒカリ』と戦った戦士はというと…今マグニスたちが言っていたように、彼らの同族を多勢に無勢だった上に、彗星という不安定な戦場だったにもかかわらず、『名刀・星斬丸』の一太刀のみで瞬殺したほどの豪の者だったのだ。
「しかし、試すというわりに、本気でやりあっているように見えるな」
マグニスは一方で、優位に立っているザムシユウを見て呟いた。今回はギンガの力量を計るために、シユウをザムシャーのスパークドールズと融合させている。その結果誕生したザムシユウは、見ての通りギンガよりも優性にあるのだが、これはもはや『試す』のベクトルを通り越しているようにも見えた。しかしバキは言った。
「試すには、本気で殺るつもりじゃねえと試すってことにはならねぇのよ、Meたちの業界じゃな。だろ?」
「…なるほどな。試し程度で敗れるような奴ならこれ以上関心を寄せる必要もないというわけか」
この程度で負けるようなウルトラマンなら、寧ろ願ったり叶ったりだ。自分たちの脅威となる災いの目が刈り取れるのだから。
「さあて…ギンガ、YouはこのPinchをどうClearするかい…?」
あぐらをかいて地上を見下ろしながら、バキは催し物を見るような目でギンガの戦いを見届け続けた。
「グオオオ!」
斬られた胸を押さえているところで、ギンガは後ろから押し出される感覚を覚え、そのまま前のめりながら倒れ込んだ。
「グゥ…!」
上からのしかかってくるグビラを跳ね除けようとするギンガ。すると、グビラはいつぞやのように鼻の砲塔からドリルを出すと、それを使ってギンガの顔をえぐり取ろうとする。
砲塔が顔に突き刺さる寸でのところで、ギンガはドリルを生やした砲塔を両手で掴んだ。力いっぱいドリルを突き出してはギンガの顔に傷を入れようとするグビラを、なんとしても押しのけようとするが、グビラの体重があまりに重かったために難しかった。だが、諦めるわけにいかない。ギンガは根性を振り絞り、全身のクリスタルを紫色に輝かせる。そして次の瞬間、彼の額のクリスタルから一発の光線がグビラの顔面に直撃した。
〈ギンガスラッシュ!〉
「デア!!」
「グガアアアア!!」
0距離で直撃した攻撃。それを食らってグビラはかなり怯み、その隙にグビラを蹴り上げて脱出。さらにダメ押しに勢いをつけたけりを叩き込んで遠くへグビラを突き飛ばす。
しかし、脱出に成功した直後に刀の刃がギンガの立っていた場所に突き刺さる。ザムシユウの攻撃だ。もしあのままグビラに捕まっていたままだったら、あの刀によって串刺しにされていたかもしれない。
だがその時、テレパシーを通してギンガ=ユウに呼びかけるタロウの声。
『気をつけろ!奴は先ほど地面に潜って姿を消したぞ!』
『何…?』
テレパシーの通り、周囲を見る。
(いない…!?)
目の前にはザムシユウ。だが、もう一体の…グボロ・グビラの姿が見当たらない。いったいどこへ消えたのだ?ザムシユウにも警戒しつつ、姿を消したグビラの姿を探し回った。どこに隠れたのだ。注意深く観察するギンガだが、そんな気さえも回そうともせずギンガに襲いかかる。今度は、シユウだったときにも備えていた火炎弾を手のひらから飛ばしてきた。
「グゥ!!」
ギンガはとっさに両腕をクロスし、火炎弾を防御する。奴は接近戦だけでなく、遠慮理からの攻撃も可能。これでは姿を消したグビラがどこに消えたのか調べることができない。
地面に突き刺さった刀は、ギンガに近づいてきたザムシユウによって拾い上げられ、再びギンガを細切れにせんとばかりに振り回された。自分ももう一度ギンガセイバーを用いて応戦するギンガ。だが、やはり剣術の腕は奴の方が上手だった。ザムシユウの荒れ狂う剣の舞の前に、鍔迫り合いに持ち込むことさえできなくなる。
そして…
「ムゥン!!」
バキン!!
ギンガのセイバーが、へし折られた。
「!?」
自分の剣が折られ、思わず動揺し折られた剣を見る。まさかここまで見事にへし折られてしまうとは思いもしなかった。だが、それは今の状況でしてはならないことだった。折れたギンガセイバーに視線を傾けてしまった隙に、一つの影がギンガの前に立っていた。
それも…刀を振りかざした状態で。
直後、名刀による一太刀が、ギンガを頭上から襲いかかった。
『いかん、ユウ!』
タロウの叫び声がギンガの耳に聞こえたが、もう遅かった。
ドシュ!!
「グアアアアアアアアア!!」
避けることができず、ギンガの肩に深い刀傷が刻み込まれてしまった。
ピコン、ピコン…ピコン…
ギンガのカラータイマーが、点滅を始めた。
強い…。ギンガはアラガミとはいえ、とんでもない剣術を繰り出してくるザムシユウに戦慄する。でもここで負けては、自分たちにも仲間たちにも未来はないのだ。勝たなくてはならないんだ。
そのとき、地面が勝ち割れる音が響いた。もしや、姿を消したグビラだろうか?そう思ってギンガは身構えなおす。
だが、このときユウは自分が油断しきっていたことを呪った。
姿を消していたグビラが、フェンリルスタッフを連れてミッションエリアから離脱しようとした第1部隊の仲間たちのすぐ近くの地面から、這い出てきたのだ。
(しまった…!!)
ギンガは、すぐに彼らを助けに向かおうと駆け出そうとしたが、銀色の剣閃が彼を襲った。ザムシユウの刀だ。咄嗟にバック転して回避したギンガ。
(あ、危なかった…)
下手したら同と下半身が分かれる所だった。しかし、これでは仲間たちの援護に迎えない。
「ヌアアアアアアア!!」
武者というよりも、凶戦士のような雄叫びを上げて再び剣を振りかざしてきたザムシユウ。ギンガは再びギンガセイバーを形成してその剣撃を防御する。一度この剣は折られてしまったのに、咄嗟のことだったから避けるのではなく防いでしまった。そのことを軽く後悔する。
(く、くそ…!)
ギギギギ…と音を立てながら続くつばぜり合い。だが、このままではいずれまた剣を折られてしまう。そしてまた仲間たちの下へ向かう時間が…。
いちいち時間なんてかけられるか!
「どけ!邪魔をするな!!」
ギンガは、自分とつばぜり合いの姿勢のままだったザムシユウの足元の地面を蹴り上げて抉った。その際、土や砂がザムシユウの頭に降りかかる。刀で押し返すことに集中していたこともあり、油断して顔に土や砂を浴びてしまい、顔を抑えるザムシユウ。隙を見せて、しめた!とギンガはザムシユウの体に一太刀、剣の一撃を加えた。
「ゼア!!」
「ギェアッ…!!」
ギンガの光の剣の一撃が、ザムシユウの体を覆う鎧さえも突き破り、鎧に覆われていたその体表に傷が深くめり込む。斬りぬくと同時にザムシユウは大きく後退りしてよろめき、膝を着いた。
(間に合え!)
ギンガは再び第1部隊の元へ駆け出した。
「ヤバイ!ウルトラマンに傷が!」
斬りつけられ、カラータイマーが点滅を開始したギンガを見て、コウタが思わず声を上げた。
あの太刀捌き、素人から見てもあまりにすごすぎて言葉にならなかった。ゴッドイーターは剣を扱う者は数知れないが、あれほど剣術に精通した戦いぶりを見せた存在は、リンドウでさえ見たことがなかった。
「化け物の癖に…」
なんて達人ぶりなのか。アリサは認めたくないのに、ギンガを斬りつけたザムシユウの剣術を心のどこかで認めていた。
「な、なんだよあのアラガミは…あんな奴見たことないぞ!」
フェンリルのスタッフたちも、ギンガと交戦するザムシユウの力に恐れおののくばかりだった。
「リンドウ、どうする?援護する?」
苦戦するギンガを見て、サクヤがリンドウに提案した。
「援護って…本気で言ってるんですか!?」
ギンガを快く思わないこともあり、信じられないといった様子でアリサは声を上げた。
「ウルトラマンが得体の知れない存在なのは確かよ。でも、アラガミと戦ってくれるのなら、彼の力を利用しない手はないわ。その方が誰も命を落とすことなく危機を脱する可能性が高い」
「そうだな…だが今の俺たちは彼らを護衛しないといけない身だ。迂闊に手を出すのはかえってやばい。それに…俺とソーマは近接攻撃しかできねぇ。ヴァジュラ程度のサイズならまだいいが、あそこまでデカイ奴だとちと無理がある」
サクヤとリンドウの言うとおり、自分たちを襲わず、アラガミとの戦いを自ら率先してくれるウルトラマンの存在は都合がいい。それに今回は、フェンリルから派遣されたスタッフがいるのだ。彼らを守りつつアナグラに無事帰還するためには、ギンガの力を借りた方が効率的だ。
しかし、アリサは納得できずにいた。なんで、あんな奴の力を借りなければならないのだ。
「前々から思ってたんですが、あなたたちはそれでもゴッドイーターなんですか!?あんな巨人の力じゃなくて、自分たちの力で任務を遂行しようと思わないなんて!」
自力で解決するのが難しくても、それをなんとかするのが自分たちの仕事ではないのか。アリサはそれを訴える。
「じゃあアリサ、お前に何か決定打があるとでもいうのか?」
「そ、それは…!」
じっとリンドウの視線に当てられ、アリサは息を詰まらせた。認めなくないこともあって、何かを言いたくて仕方ない衝動に駆られた。だがいくら考えても、リンドウが求めているような答えを見つけることができない。
「で、でも!あの巨人が私たちの味方かどうかなんて…!そもそも、ウルトラマンがもし人類の味方であることが本当だとして…どうして今までアラガミを見逃してきたんですか!!」
それでも、許せない気持ちを隠せないアリサには、ギンガに力を貸すことに反論したくなる。
「っと、どうも俺たちも呑気に話してる場合じゃねぇな…!」
ガン!と激しい音が鳴り響くとともに、リンドウたちの足もとが地震を起こしたように激しく振動する。ギンガとアラガミたちとの戦いが激化し始めたのだ。
しかし、もう一つ彼らはあることに気が付く。
「もう一体のアラガミがいない!」
そう、彼らもグビラが姿を消したことに気が付いた。位置は?どこに隠れた?廃ビル街の中か?すぐに警戒を強めた第1部隊だが…姿が見当たらない。
「下だ!早く避けろ!」
ソーマが足元を見ていきなり叫び声を轟かせる。彼の声に反応して、第1部隊の面々は3人のスタッフを一人ずつ抱えると、一斉にその場から散る。そして次の瞬間、地鳴りが起こり、地面が割れていく。
そして勢いよく、巨大な影が彼らの立っていた場所を突き破って姿を現した。
「うわあああああああ!!」
姿を消していたグビラだった。ギンガに敵わないと見たのか、同時に一度狙った獲物を逃がさないために、今度はゴッドイーターたちにターゲットを変えて襲ってきたのだ。
「クアアアアアアア!!」
グビラは怯えるスタッフたちに追い打ちをかけるように、彼らに向けてその鋭い牙を生やした。ウルトラマンが現れ、アラガミと戦ってくれている。そしてゴッドイーターたちが自分たちを守ってくれている。安心した矢先にまた自分たちに死の恐怖を叩き込もうとする脅威が目の前に再来したことで、フェンリルスタッフたちは青ざめる。
「うわ!」
そして内の一人が恐怖で足がもつれたせいで転んでしまう。それを獲物に飢えたグビラが見逃すはずがなかった。地面をえぐりながら進み、そのスタッフの一人を飲み込もうとした。
『ウルトラ念力!』
その時、小さな赤い影が…タロウが間一髪でグビラの前に現れ、今の彼にとって唯一の武器である念力を浴びせた。
「ガ、ガガ…!?」
その影響でグビラは、見えない何かに押さえつけられたように動きを止めた。
「なんだ…?」
獲物を食らう絶好の機会なのに、動きを止めたグビラに、転んだスタッフを直ちに拾いに向かったリンドウたちは困惑する。
だが生き物とは常に動かずにはいられない存在。グビラはその見えない何か…タロウの念力に抗おうと、体に力を入れて抵抗し始める。
『く、やはり私の今の力では、抑えきれないか…!』
グビラの抵抗力の強さに、念力をかけているタロウも苦心する。元の力があれば、この怪獣に…アラガミにも対抗できたはずなのに、今はまだまだ青く若い後輩に託さなければならないというのがやはりもどかしい。それでも、ウルトラ念力は今の自分にできるたった一つの技。ゴッドイーターたちがスタッフたちと共に一度戦線を離脱し、ギンガが…ユウが来るまで時間を稼がなければ。
だが、タロウの願いとは裏腹に、グビラは咆哮を上げる。その雄叫びの力はタロウの力では抑え切れるほどのものじゃなかった。
『くあああああ!』
押し返されてしまい、念力が解けてしまうタロウ。当然解放されたグビラは再び獲物を狙いに迫る。しかし、再び閃光が周囲に走る。咄嗟にアリサがスタングレネードを投げ込んだのだ。視界を再び遮られたグビラがまたか!と叫んでいるような、うっとおしそうに悲鳴を上げる。
「早くこっちへ!」
アリサが立ち上がれないスタッフの男を引っ張っていく。まったくしつこいものだ、と思わされる。
「急いで走れ、アリサ!」
アリサに呼びかけるリンドウ。だがその時、グビラはスタングレネードで視界をつぶされていたにもかかわらず、すぐに動き出したのだ。
「何!?」
なぜ?スタングレネードの浴びせたのに?もしや、一度食らったがために、もうスタングレネードのフラッシュに対してある程度の耐性ができてしまったとでも言うのか?
「アリサ!」
一足先に、数メートル離れた位置にいたサクヤとコウタの声が聞こえる。しかし自分たちと違い、アリサたちはいつでも食われてもおかしくないほどの至近距離にいた。
すぐにコウタが銃を構え、グビラに向けて発砲しようとするが、ソーマが彼の手を掴んで遮った。
「俺たちがこいつらを抱えているのを忘れたのか…?」
「う…」
文句を言おうとしたコウタに、ソーマは自分たちの後ろに居るスタッフたちを見る。それを聞いてコウタは息を詰まらせた。そうだ、今自分があのアラガミを撃ってアリサの危機を救うことは簡単だ。だがその後、グビラにターゲットにされ保護しているフェンリルのスタッフたちを抱えたままもう一度逃亡することなどできるはずもない。少なくとも今はアリサを助けたくても助けられないのだ。
どちらにせよ味方の援助にはいまだ期待を寄せられないが、神機を構えなおすアリサ。
「く…!」
今度は、目を撃ち抜いて完全に視界を潰してやる。スタングレネードの比ではない。アリサはグビラの目に向けて発砲しようとした時だった。
グビラの目と、アリサの目が合った。
グビラの、獲物を…自分の食料を見る目がアリサのアクアブルーの瞳に飛び込んでいく。
そして、アリサの頭の中に…彼女の人生を変えた『悪夢』が蘇った。
「あ…」
もう、いいかい?
まぁだだよ…
もういいかい?
もういいよ
そこは、廃棄された古い倉庫に放置されたクローゼットの中。
扉の隙間の向こうから聞こえる、両親の声。まるでいたずら好きな子供を、やれやれと思いつつも構ってくれている暖かな声だ。
彼女はその声の主が、両親が自分を見つけてくれるのを待っていた。
姿が見えた。アリサは何時もここに隠れていた。うまく隠れることよりも、両親がここを見つけてくれることの方が、アリサにとって重要だった。両親に見つかり、自分の手をその暖かな手で握ってもらう喜びのほうがとても大きかった。
その日も、仕事で忙しかった両親を困らせてでも構ってほしくて、大好きなかくれんぼをしていた。そして両親がいつも通り自分を見つけてくれる………
はずだった。
グチャ
…え?
少女は、最初は何が起こったのかわからなかった。
聞こえたのは、汁まみれの物体を足で踏んづけたような、気持ちの悪い音。その正体を知るのに、時間はかからなかった。
扉の向こうに見える、アリサの両親が…ついさっきまで、困り顔を混じらせた笑顔で捜していた二人が…
帝王のような風格の人間の顔を持った、黒いアラガミの口の中に…
ぐちゃぐちゃの肉片となって『食われていく』姿だった。
…!!!
突然の悪夢のような…いや、悪夢で済んでほしかった残酷な光景に、少女は呆然とする。両親の足が、奴の口からまるで奴にとっての麺類の食事のように飛び出ていた。
パパ…ママ…
やめて…食べないで!
懇願する少女。だが、神の名を騙る化け物に届くはずもない。
彼女の両親は、肉片も骨の一欠片も残さず飲み込まれた。
口元を赤く染めたそのアラガミは、クローゼットの隙間から感じる視線に気づき、アリサと目を合わせた。そして…
笑ったのだ。
アリサの両親が自分に向けてくれたような暖かなものじゃない
弱者を踏みにじるのを楽しんでいる、
狂った殺戮者と同じ目だった。
「あ、あ…ああああ…」
アリサは、グビラの視線に突き刺され、構えていたはずの神機を、ポトッと地面に落としてしまう。そして、その場で座り込んでしまった。
「あ、アリサ!?」
なぜこの状況で神機を!?リンドウたちはアリサの突然の異常に困惑するばかりだった。
ただ、わかることがある。
今のアリサは、グビラから発せられるプレッシャーに…いや、奴の視線と目を合わせたことで、過去のトラウマによる恐怖が蘇ってしまったのだ。
長くゴッドイーターを続けていたリンドウとサクヤ、ソーマには覚えがある。新人のゴッドイーターたちも、始めてアラガミと遭遇する際に同じ顔を浮かべていることが何度もあった。そして、戦意を失ってそのまま捕食されてしまうということもある。ここしばらく、最悪の事態だけは避けることができたのだが…。
「アリサ、逃げろおおおおお!!」
「あ、ああ…」
叫ぶリンドウ。だが、アリサの耳に仲間たちの声が全く届かない。
「お、おいあんた!しっかりしろ!頼む!しっかりしてくれ!」
彼女の傍らの男性フェンリルスタッフが叫ぶ。自分を守るためにもだが、何よりアリサ自身が自分のみを守らねばならないはずの状況で、おびえて何もできなくなったアリサに喚起を促す。
無情にも、グビラが今度こそ食らってやろうと大きな口を挙げて近づいてきた。