ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
※誤字、修正します…
私が…アラガミのようですって…!?
アリサはユウから言われた言葉が深く突き刺さっていた。それによる悪感情を払おうと、その不満や怒りを、シユウに対してぶつけ続けていた。
こいつらの方が、醜い化け物だというのに…あの男は!!
『アラガミを殺し尽くしたところで、君のパパとママは戻ってくるの?』
そんなこと…わかっている!
こいつらを殺したところで、パパとママが帰ってくるわけがないってことくらい!
だから…だからこそ憎いんだ!!
「この、アラガミいいいいいいいい!!!」
ユウに言われたことが正しいはずがない。そう思い込ませているようにしか見えなかった。冷静さを欠いたアリサの連続攻撃を、シユウは軽く避けていった。そして足を狙ってきた一太刀を飛んで避け、アリサに背後から一直線に突進、口を開けて彼女に食らい付こうとした。アリサもすばやく反応して、シユウの攻撃を防ごうとしたが、間に合わない。
「そうはさせない!」
斜線上、アリサよりもシユウのほうがこちらから見て前に出てきた!チャンスと見たユウは、銃に仕込んでいた氷属性バレットを、シユウの頭に向けて連射した。
「ギャアアウウウ!!」
効いた!シユウは氷に弱いとノルンのデータベースで確認していたが、ちゃんと効果的なダメージを与えることができたようだ。今の攻撃で怯んだシユウは、バランスを崩して地面に落下した。
(固いのは胴体部分と翼の方…だが)
奴が剣による物理攻撃を食らう際、苦手とする部位は…手と頭だ。だが奴を相手にする場合は、当てにくい手や頭を狙うよりも…破砕効果のある攻撃の方が当てやすい。
ユウは神機をロングブレードに切り替えて駆け出す。駆け出しながら神機の刀身から捕食形態を展開。ちょうど翼を振るってユウに殴りかかってきたシユウの翼に食らい付かせた。
噛り付いた捕食形態はシユウの翼の一部を飲み込み、ユウに力を与える。シユウのオラクルを取り込んだことでバーストモードに突入し、力がみなぎった。
体の一部を食われたシユウは、怒って活性化を始め、一心不乱にユウに向けて肉弾戦を挑んできた。
『ユウ、落ち着いて…相手の動きをよく見るんだ。今の状態の君なら見極められる』
諭すようにタロウの声が聞こえる。それがユウの心に冷静さを保たせた。
アリサのようにすばやくはあったが、憎しみを込めた力任せな戦い方を展開していたアリサとは違い、一切の邪念を持たない冷静な動きだった。一つ一つを的確に避けていく。だが、避けることに集中する状態は長く持続できるようなことじゃない。
「私を…無視するな!」
すると、体制を整えたアリサがここで参戦、神機を頭上から振り下ろしてシユウに切りかかってきた。シユウが、背後から襲ってきたアリサに反応しユウから背を向けた。
(今だ!)
ユウは、今度は銃形態に切り替え、リンドウの方に振り返り、引き金を引いた。
「リンドウさん!」
彼の神機の銃口から発射された一発の光が被弾したリンドウの体は、光に包まれた。
「これは…」
光に身を包んだリンドウは、自身の力の増幅を強く感じた。それを見て、ユウはよし!と言葉で表しているように頷いた。
(リッカちゃんの聞いていた通りか…『リンクバースト』)
ここで少し、解説を入れる。
通常、近接武器を扱うゴッドイーターは、捕食形態で攻撃したアラガミのオラクルを自身に取り込むことで神機が活性化し、バースト状態となって一時的にパワーアップする。
だが銃型神機の場合、捕食形態を持たないので、アラガミからオラクルを自力で取り込むことはできない。
だが、ユウは技術班のリッカから、新型神機の特性についていくつか、あらかじめ聞いていたことがあった。
『私も全部知ってるってわけじゃないけど、新型神機には銃と剣の両方が使える以外にも、特殊な能力があるの。
リンクバーストっていうんだけど、今までゴッドイーターたちは捕食で敵からオラクルを取り込んでバーストするんだけど、新型の場合はちょっと違うんだ。
取り込んだオラクルを、仲間のゴッドイーターたちにも受け渡してあげることができるの』
つまり、自力ではバーストできない旧型銃形態神機でも、新型ゴッドイーターの任意でバーストさせることが可能なのだ。
シユウのオラクルでリンクバーストしたリンドウは、狙いをシユウに定める。アリサに注意を向けてこちらには気づいていないようだ。シユウのジャブを、アリサが後ろに下がって避けた。
(今だ!)
リンドウはアリサに気をとられているシユウに向けて自身の神機、ブラッドサージの刀身を振りかざす。シェーンソーのように刃がうなり、シユウの膝に食い込んでいく。さらに力をつ避けて2度振るうと、シユウの胴体の表皮と翼、そして頭の一部が崩れ落ちた。
「結合崩壊した!やれ!」
「はい!」
リンドウの声を聞き入れ、ユウはシユウの頭上に飛び上がる。そして、勢いよく神機を振り下ろしてシユウの頭に回転切りを叩き込んだ。
「がぁ…!」
ユウの頭上からの回転切りによって頭を叩き割られ、シユウの胴体は左右に真っ二つに切り落とされた。
「よし…ッ」
後は捕食形態でコアを取り込むだけだ。ユウはすぐ捕食形態でシユウのコアを回収する。少し時間が経過すれば、シユウの死体は黒い液体となって染み込んでいくはずだ。
アリサの動きでどうなることかと思ったが、この場はとりあえず丸く収まったようだ。
「アリサ、怪我は?」
今回主に動き回った…というか、暴れていたのはアリサだろう。怪我の可能性が一番高い。ユウはアリサに傷を負っていないかを尋ねるが、思った通りというべきか、アリサからは睨み返された。
「ッ…邪魔をしないで!あれは、私が倒すつもりだったアラガミです!」
「そんなの、アリサが勝手に決めたことじゃないか。まるでシュンみたいだよ」
「あんな人と一緒にしないでください!」
見下している旧型神機使いの問題児と同列に見られたことにアリサは憤慨するが、こちらからすればアリサのほうが大問題だ。すると、リンドウも口を挟んできた。
「アリサ。こんなことは言いたくねぇが…あまり勝手な行動ばかりとると、うちの姉上にお前の今後の処遇をゆだねなければならなくなる。手のつけられない隊員を引き連れたままじゃ、チームの足かせになるだけだ」
目の前のアラガミを倒すために、周りの仲間を無視した。下手をすれば仲間を死に追いやり、自分までも敵の手にかかる可能性が高い。それをいつまでも、新型だからだのアラガミが憎いからだの…ありきたりでつまらない理由のために認めないままで居させてはならない。
「ッ!…ついには隊長権限ですか」
まるでこちらが汚い手を使ってきている言いたげな言い回し。やはりそう来るか。こうやって自分から生意気な口を叩いて、それに対して手を挙げたくても、上官として迂闊に手を挙げられないことをいいことに好き放題言ってくる。だがリンドウは気にしなかった。
『ユウ』
すると、ユウの脳裏に、制服の胸ポケットに隠れているタロウからのテレパシーが届いた。
『タロウ?』
『向こうに車が一台通って来ているぞ』
そう言われてユウは、自分たちが立っている場所の崖下に広がる廃ビル街の景色を眺めてみる。タロウが言っていた通り、一台のトレーラーが通りがかっていた。フェンリルのマークが刻まれていることから、恐らくあれが、リンドウが言っていた、後に行う大規模のミッションのスタッフとなるフェンリル関係者なのだろう。
すると、リンドウの通信端末に着信が入った。
「こちらリンドウ。どうした?」
『リンドウさん!そちらの方にアラガミが接近中です!それも、グボロの巨大変異種です!』
(グボロの巨大変異種…!?)
サクヤたちに伝えた情報と同じだった。
「…!リンドウさん!アリサ!」
すると、彼は向こうにのトレーラーに向かっていくアラガミの群れが見えた。すぐに二人に知らせると、リンドウとアリサもユウが指差した方に目を向ける。
「フェンリルの関係者なら、なおさら助けないわけにいかないな。急がないと…って、おい!?」
と、リンドウが呟いたときだった。ユウはすぐに崖から飛び降りていった。引き止めようとしているようにも聞こえた声だったが、ユウの耳には届かなかった。
「無茶しやがって…」
呆れた声を漏らすが、アリサの場合と違う。恐らくあのトレーラーを守りに向かったのだ。好感は持てるが、しょうがない子だ。とりあえず援護を万全なものとするためにもサクヤたちに連絡を入れなければ。
「こちらリンドウ。サクヤ、聞こえ……ッ!」
連絡を取ろうとした途端のことだった。
アリサもユウに続くように、崖を折り出していたのだ。
「ったく、新型ってのは張り切り屋だなぁ…」
崖下を覗きながら、リンドウはため息を漏らした。だが、このまま見ているのはよろしくない。
『リンドウ、今そっちに向かってるところだけど、なにかあったの?』
すると、通信先のサクヤの声が聞こえてきた。
「悪い、すぐこっちに来てくれや。新型が二人とも、このエリアを通ってきたフェンリルのトレーラーの援護に向かいやがった」
『なんですって!?今そっちの方には…』
「あぁ、俺も聞いた。ウルトラマンが取り逃がしたグボロの巨大変異種が近づいてきてる。俺は新型とトレーラーの連中の援護に向かう。とりあえず急いでこっちに来て、遠距離からの援護を頼む」
贖罪の街を突っ切ろうとしているトレーラーは、オウガテイルとシユウの集まりによって追い回されていた。このままではいつ奴らの餌となるか分かったものじゃない。
「ぐるおおおおおお!!!」
オウガテイルの一匹が、走りこみ続けながらついにそのトレーラーに食らい付こうとしたときだった。
バン!と音を発しながらそのオウガテイルの顔は破裂し炎上した。駆けつけ、銃形態に切り替えたユウが、トレーラーの上に飛び移り、炎属性バレットでトレーラーに食らい付こうとしたオウガテイルの顔を撃ったのだ。
「な、なに!?」
トレーラーの中から、誰かの悲鳴が聞こえる。若い女性と思われる声も混ざっていた。
「落ち着いてください!そのままハンドルを握って走って!」
エンジン音越しでも聞こえるように、ユウは大声で運転手に向かって叫んだ。そして再びトレーラーの後ろを振り返り、銃でオウガテイルたちを乱射し続ける。残るはさっきと同じくシユウ。そのシユウは飛びながらこちらに近づいてきていた。
こちらからすればいい的だ。
だが、シユウを撃とうとした途端のことだった。
そのシユウは翼に向けてどこからか放たれた弾丸によって翼が破壊され、地面の上を転がってしまう。それと同時に、近くの3階建てほどの廃ビルの屋上から人影が飛び降り、ユウのすぐそばに着地する。
「アリサ!?」
それはアリサだった。
翼を失って地面の上を這い蹲るシユウはそのままトレーラーに追いつくことが敵わず、放置されていった。
最後の一匹も無力化されたところで、ユウは元に近づいた。
「さっきは…その、助かったよ」
「勘違いないしないでください。私は目の前のアラガミを駆逐しただけです」
助けを求めていたわけではないが、結果的に彼女の援護で助かった。それについて礼を言ったが、アリサは冷たく返してきた。前回までのような、アラガミを殺した時の優越感も見えない、よほどユウに対して良くない感情を持っているようだ。ユウからすれば迷惑な話だが。
すると、ユウの脳裏にタロウの声が響いてきた。
『ユウ、安心するのはまだ早いぞ!』
「!」
その一言でユウの気は意思と関係なく引き締められる。
ゴゴゴゴゴゴ…と周囲が地響きを起こし始めた。
思わず止まるユウ。何か、強い気配を感じる。アリサもまたそう思った。
その気配の正体は、すぐに分かった。
地面を突き破りながら、以前にもギンガと戦ったことのある巨大なアラガミ…『グボロ・グビラ』だった。
「クアアアアアアア!!」
しかも、かつてギンガに負わされた傷がほとんど回復していた。これもアラガミのオラクル細胞による驚異的な再生能力からなのだろう。
現れたと同時に、トレーラーを追跡していたアラガミたちは地面ごとグビラの口の中に飲み込まれてしまい、一瞬で貪られてしまった。
「またあいつが…」
以前取り逃がしてしまった相手。それがあまり日数の経たないうちに再び災いとして降りかかってきたと思うと、あの時仕留めることができなかったことが悔やまれる。
さすがにこいつ相手では、神機で倒すことはできない。だとしたら、自分に残された手段は一つしかない。ユウは懐のギンガスパークに触れる。
(これに頼りっぱなしだと、またギンガに呆れられるかもしれない…)
思えば、最終的にこの力にばかり頼っている気がしてならなかった。自分たちゴッドイーターは精一杯日々の任務に励んでいるし、今日の自分もそれなりに戦ったとは思う。だが、あのような巨大なアラガミが現れる事態になるたびに、結局ギンガに変身しなければ対抗することができない。それでは、いずれ自分はまたこの力に依存し溺れてしまうのではないだろうか。とはいえ、これ以外巨大アラガミに対抗できる術はない。
それにまだ、ここにはアリサもいる。下手に変身して正体を明かすことになるのは避けなければならなかった。
『ユウ、ボーっとしている場合か!』
タロウの声が聞こえ、ユウはハッと我に返った。いつグビラがトレーラーに追いつくかわからない。時間がない。ユウは変身の構えを取ったときだった。
バン!!
アリサの神機によって銃声が鳴り響いた。
たとえどんな敵だろうと、『憎きアラガミならば倒すだけ』だ。アリサは迷うことなく神機を銃に切り替え、グビラに向けてバレットを連射した。だが、巨大な体であることも関係して通じている気配がない。グビラは被弾したことで一度立ち止まり、アリサの方を見る。しかしすぐに追跡を再開した。それを見てアリサは炎属性のバレットを装填して、再びグビラに向けて連射を開始した。すると、元が火を苦手とするアラガミであるため、グビラの皮膚の一部に小さな火が着いた。
そうだ、こっちを向け。すぐに殺してやるから。
彼女は闘争心と憎悪を燃え上がらせ、グビラを睨みつける。自覚の足らないあんな極東のゴッドイーターたちなんて当てにできない。こいつを倒して、自分こそが真に優れたゴッドイーターであることを示す。そして、憎いアラガミを殺して亡き父と母に捧げてやる。
グビラはアリサの銃撃を受け続けたこともあって、結果として進行速度が遅くなり始めた。
(いや、今はそんなことはどうだっていい。僕もやらないと!)
ユウも神機を銃形態のまま構え、グビラに向けて連射を開始した。さきほどよりも弾幕が激しくなり、攻撃を絶え間なく受け続けたグビラの速度がさらに遅くなる。
「…邪魔をしないでくださいと言ったはずです」
横から連射を続けながらアリサがユウに対して冷たい言葉を飛ばしてきた。
「別に邪魔なんてしてないだろ?」
ユウは今のアリサの発言から確信した。アリサは『トレーラーを逃がす時間を稼ぐため』に撃っているのではない。『グビラを倒すため』に射撃を繰り返していた。グビラを倒すことに関してはどう考えても無謀だった。アリサは、人のことを好き放題言っておきながら、自分が今とっている行動の真意があまりに無謀なことであることに気づかなくなっていた。
アリサは、このまま連射しても埒が明かないと思い始めた。ならば、奴の急所を…目を狙ってやる。あの時現れた、マグマ星人とやらと同じように。アリサは照準をグビラの目に向ける。
だが、思わぬハプニングが発生した。
ガタン!!
「うわあ!?」
トレーラーに衝撃が走り、激しく揺れ動いた。彼や、フェンリルから派遣されたスタッフを乗せたトレーラーは、まるで追突事故でも起こしたかのように地面の上を転がってしまった。
実はこのとき、不安定な道の上を走行し続けた影響でトレーラーの前のタイヤがパンクしてしまったのだ。それもアラガミから必死に逃げるために高速走行中だったこともあり、過剰な逃走スピードに加えて、グビラの追跡の度に起きる地面の激しい揺れが災いしてトレーラーがバランスを崩し、地面の上を転がってしまったのだ。
「きゃあ…!」
当然トレーラーの上に着地していたアリサやユウにも影響が出た。真っ先に、アリサがバランスを崩して宙に放り出されてしまう。
「アリサ!」
気が付いたユウは飛び上がり、宙に放り出されたアリサの体を自分の身を使ってキャッチする。だが勢いが付いていたこともあって、二人揃って廃墟となったビルの中へ、割れた窓ガラスを突き破って中に入り込んでしまった。
リンドウが、崖からユウたちが飛び降りた低地へ駆けつけたのは、そのときだった。
敵は、あの時ウルトラマンが倒せなかった巨大なアラガミ。性懲りもなく現れたのか。すると、そこへサクヤたち三人がようやくリンドウに追いついてきた。
「リンドウさん、ユウとアリサは!?」
コウタが真っ先にユウの安否を尋ねてきた。
「悪い…またはぐれちまった」
「ち、またか…」
ばつが悪そうにリンドウが答えると、それを聞いてソーマが舌打ちする。何度もはぐれているような気がする。そのたびに生きて戻ってくるのはいいが、自分としてはいい加減にしてほしかった。
「とにかくユウ君たちに連絡を取ってみましょう」
サクヤは端末を取り出してユウへの連絡を試みようとするが、ソーマが顔を上げてきた。
「待て。あれを見ろ」
彼が指を差すと、その方角にてグビラがトレーラーの走行していた方向に向かって歩き続けている。もう時間がない。恐らく向こうにはユウたちがいる。
「ったく、やっこさんはまーだ前のデートの続きがしたいらしいな」
「んな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ!」
ため息交じりにぼやくリンドウに、コウタが鋭く突っ込みを入れてきた。
「みんな、一気に駆けましょう!」
サクヤが三人に向かって叫んだ。
「ぐ…」
一方、トレーラーから放り出されたことでビルの中に突っ込んでしまったユウは起き上がった。
「ユウ、大丈夫か!?」
目の前にタロウが浮遊しながら言葉をかけてきた。
「なんとかね。結構痛かったなぁ…」
いくら偏食因子を体内に注入されたことで体が強化されているとはいえ、激痛だ。普通の人間だったら死んでいたかもしれない。
「そうだ、アリサは!?」
確か、ここに突っ込む直前に自分の身を使って受け止めていたと記憶していた。アリサの姿を求めて辺りを見渡すユウ。
アリサの姿は、すぐに見つかった。ユウの傍らで倒れていた。
「アリサ、大丈夫!?」
「う…」
倒れていたアリサのそばで身をかがめ、名前を呼ぶ。アリサはすぐに目を覚ました。
「神薙、さん…私の神機は…?」
アリサもさっき吹っ飛ばされたことで体に受けた衝撃が残ったままだったようだ。
「無茶したらだめだ。もうその怪我じゃ…」
「私は立ち止まるわけに、行きません…パパとママの仇を殺すまでは…絶対に…」
既に体が激痛だらけで、見た目も負傷していることが伺えるというのに、アリサは戦うことをやめようとしない。立ち上がって傍らの地面に突き刺さった神機を拾いに行こうとする。
「痛ッ!」
怪我の影響もあってアリサはすぐ膝を着いてしまう。だがそれでも、体を引きずりながらも外に向かい始めた。
「アリサ!やっぱり堪えてるじゃないか。すぐに治療しないと…」
「あなたの方を借りるくらいなら…一人で行く方がマシです!」
元々ユウを見下していたこともあるし、しかも体を触られたショックで彼女は、絶対にユウに頼らないことを心に誓った。神機を地面から引き抜くと、背を向けてユウの下を去り始めた。
「アリサ!一人じゃ危険だって!おいって!」
「っぐ…」
しかし、意地をいくら張っても体というものは正直。神機を手から落とし、アリサは体に残ったダメージの影響でその場で膝を着いた。
「ほら、やっぱり痛んでるじゃないか。ここに座ってて。今携行品から薬出すから」
「ち、ちょっと!」
ユウは無理やりアリサを壁際に座らせると、自身の携行品から回復錠やガーゼを取り出す。そしてアリサの傷だらけになっていた右腕を持ち、傷に塗り薬を塗りつける。ゴッドイーターとなった人間は普通の人よりも傷の治りがずっと早いのだが、今は仲間をはぐれている状態。薬を使ってすぐにでも回復した方が効率がいいはずだ。
「意外と、手慣れてるんですね…」
「意外は余計。まぁ、昔妹がすりむいたときとかあったからね。それで自然とね」
なるほど、通りで手先が小器用なのだ。治療相手の傷を痛めないように、そっと優しく触れながら傷薬を塗りつけていく。
不思議と、アリサは懐かしい気持ちになる。
以前にも、『あの人』にやってもらったんだっけ。
親を失い、絶望の淵に叩き落されたアリサには、手を差し伸べてくれた人がいた。親をアラガミに食われ生きる導も見失った彼女の手を握り、引っ張ってくれた人だ。だけど…
(なんで、あの人のことを思い出したんでしょうか…)
アリサはその人のことを考えるのをやめた。その人とは、もう会っていない。いや…もう会えないと考えるべきだろう。だって私は…あの人からも…。
「アリサ、昨日の話の続きなんだけど」
すると、ユウが治療を続けながら、アリサに向けて話を切り出してきた。それも昨日の話の続き。アリサとしては避けたかった話題だった。
「ご両親って、どんな人だった?」
しかし、彼はなぜかアリサの両親について問いかけてきた。
「…私のわがままを笑って許してくれる、優しい両親でした」
幼い頃の光景を脳裏に浮かべながら、率直且つ正直に、アリサは答えた。
「そっか…」
どこか安心したように、ユウはほっと息を吐いた。そして、だとしたら…と続けた。
「そんなに優しい人ならアリサが憎しみの赴くままに戦うことを良しとしないと思うんだ」
「ッ!…どうして…どうしてそんなことが言い切れるんですか。あなたは私のパパでもママでもないくせに…ッ!」
またそれか、とアリサは思った。この人はなぜこうもアラガミへの憎しみを理由に戦うことを拒むのか。以前一度否定されたときの怒りが湧き上がりそうになる。
「確かに。でも、人を養ったことがあるから分かる気がするんだ。君のご両親と同じように、僕も妹を持っていたから」
ユウはアリサの視線にも、その言葉にも押されることなく続けた。
「もし、妹が生きていたとして、ゴッドイーターになるって言ったら…僕は間違いなく反対する。たとえ僕自身が死んでいても同じことを言いたくなる」
表情が、穏やかなものからだんだんと険しいものになっていく。
「だってそうだろ?自分の大切な人を好きで戦場に送る奴なんて、その人の命を軽く考える、ただの人でなしじゃないか。ましてや、自分が傷つけられたからって娘にやり返すことを促すなんて…そんなの親のすることであってたまるか」
アリサは、一度ユウに否定された憎悪を否定されたときと同じように、心が灼熱していくのを覚えた。
アリサったら、どこに行ったのかしら?
なぁに。いつもの場所に決まってるさ
あの子は、かくれんぼするたびに何時も同じところに隠れるからな
「違う…」
もういいかい?
まぁだだよ
「君のパパとママはそんなことを平気で強要する酷い人だったのか?」
もういいかい?
もういいよ
「憎しみを糧に戦い、仲間の存在を蔑ろにする、今の君を本当に肯定してくれる人でなしだったのか?」
「違います!!…痛ッ…」
思わず腰を上げたアリサ。だが、まだダメージが残っていた影響で、すぐに体を抑えながら再び腰をかけた。だが、親さえも否定してきたユウへの怒りを、力で示せないぶん口先で強くぶつけて見せた。
「私のパパとママは!そんな人じゃありません!!そんな人…じゃ………ッ!!」
が、ここまで言いかけたとき、アリサは何かに気が付いて、ハッとなった。
「そうだよね。やっぱりそうだと思った」
ユウはそこまで聞いて、頷いた。
「親を失ってあれだけアラガミを憎むほど両親を愛した君の親が、君が戦場で戦うことを喜ぶはずがないじゃないか」
「それ、は…!でも…」
『あの人』は、言っていた。何度も言っていた。『アラガミを殺せばパパとママが喜ぶ』と。
でも、どうしてだろう。悔しいが、確かに思い起こせばパパとママはユウの言ったとおり、そんなことを許すような人たちじゃなかった…という確信があった。それなのに、『アラガミを殺せばパパとママが喜ぶ』だなんて、どうして思うようになったんだろう。
自分の中に宿る矛盾を、彼女は自覚しつつあった。
「アリサ、憎しみってすごく厄介だよね…。でも、だからってアラガミを殺すためだけに戦うことにつなげるべきじゃないし、ましてや周りの皆を見下していい理由にもならない。そんなこと、君のパパとママが許してくれるはずがないだろ?
だから、ほんの少しずつでもいい。僕たちやアナグラのゴッドイーターたちのことを見てほしいんだ。新型だからとか憎しみとか、そんなこと関係なしに」
「……」
憎しみを持っていることも、新型であることも関係なしに…。
親を失い、生きる気力を失った。だがある日、新型の資格を得たことで、自分から全てを奪ったアラガミへの憎悪を糧に、ゴッドイーターとして精進してきた。だが他のゴッドイーターたちは、旧型の人たちはアラガミを倒すための心構えを持っているとは思えない抜けまくりの人材ばかり。新型である自分は、そんな人たちとは違うと考えた。だから自然と壁を作ってきた。その人たちのようにはなりたくなかったから…仲間を蔑ろにし始めていた。
そうやってゴッドイーターとして戦ってきたアリサにとって、それはゴッドイーターとしての生き方を丸々変えてしまえと言われているようだった。
「あ、そうだ。アリサ。回復錠、まだ自分の分ある?」
「え?あ……いえ」
思わず呆けたような声を漏らすアリサ。しかし、直後に彼女のボーっとしていた脳はすぐに覚醒する。
「ほら、あーん」
ユウが指先で回復錠を摘み、それをアリサの口の中に入れようとしていたのだ。それを見てアリサは、これまで冷たい表情しか見せなかったはずのその顔を真っ赤にした。
「こ、子供扱いしないでもらえます!?」
「な…なんだよ。そもそも君は僕より年下だろ?」
がー!っと牙をむき出すように怒鳴るアリサに、逆にユウは困惑した。
「どうでもいいです!回復錠くらい自分で服用できますから!」
アリサは乱暴にユウから回復錠をぶん取ろうとしたが、その拍子にバランスを崩し、体が前のめりに倒れてしまう。
「危ない!」
ユウはとっさにアリサの体を落ちないように受け止めた。
だが、そのとき彼は手に何か変な感触を覚えた。
何か、むにゅ、と心地よいやわらかさが彼の手に収まっていた。
(なんだこれ?なんかやけにやわらかくて…妙に大きくて…)
ふにふに、とも取れる感触。驚くほどに心地よい。
すると、ユウに受け止められていたアリサの口から声がもれ出た。だが、その声は今までにないほどのものすごくドスの利いた真っ黒な声だ。
「……………ちょっと」
思わず神機もギンガスパークもなしでアラガミと相対した時以上の恐怖が蘇りだしたユウ。
(な、なんだ…アリサ、もしかして怒ってる?)
どうして彼女は怒っているのだろう。視線を落としてその意味を知ろうとする。すぐにその答えはわかった。
自分の右手が、アリサの豊満な胸をがっしり握っていたのだ。
「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」
思わず両手を挙げて、まるでお化けにでも遭遇したかのような叫び声を挙げてしまったユウはすぐにアリサから離れた。
「ち、ちちち違うんだ!これは決してわざとじゃないんだ!アクシデントなんだ!
本当です!信じてください!」
アリサの胸の忘れたくても忘れられない心地いい感触を必死に頭から振り払うように、ユウは彼女に必死に弁明した。だが対するアリサの視線は、あまりに刺々しいものだった。
「ド・ン・引・き・です!!!」
しまいには、この一言。アリサの顔は羞恥によって真っ赤に染まっており、目は汚物でも見ているように嫌悪感丸出しだった。
だめだ…わざとじゃなくてもこの子は絶対に許さないタイプだ。
『…ユウ』
胸ポケット内に隠れたままのタロウがテレパシーで、かなり呆れた…というより嫌悪感に近い感情を露にしていた。つい最近ウルトラマンとなった新米とは思えない、なかなかの語りを見せてきたはずなのに、あまりにも締まらないオチを見たことで、ユウに対して呆れずにはいられなかった。
「言っとくけど、アリサの胸握ったのはわざとじゃないからね!?わかります先輩!?」
『わ、わかった!わかったから落ち着け!!』
あくまで言っていることがタロウとのテレパシー越しの会話であることも忘れ、あまりに必死に弁明してくるユウの気迫に、流石のタロウも押されかける。よほど胸を触ったことでアリサの刺々しすぎる視線を浴びたこと、…いや、それ以上にアリサの心地よすぎる胸の感触への動揺が大きかった。
体を、それも胸を触られた羞恥心のあまり、アリサは棘のある視線を向けてユウから数歩離れ始めていく。
すると、ユウが所持している端末から着信音が鳴り出した。すぐに取り出すと、サクヤの声が端末から聞こえてきた。
『こ…ら…ャ!ユ…君、無…!?』
だが、ノイズが走っていてあまりよく聞こえない。
「ちょっと回線が悪いな…アリサはここにいて!ね?」
ユウはよし!と逃げるように、いったん外に出た。
「こちら神薙。僕の方は大丈夫ですが、アリサのほうが結構深いダメージを受けてるみたいです。救援を願います」
『やっぱり怪我をしたのね。でも、無事でよかったわ』
通信先の相手は、サクヤだった。少し息が弾んでいる。こっちに向かいながら連絡を取ってきているのだろう。
『すぐそっちに救出に向かうから、アラガミが寄ってこない限りはそこから離れないで。アリサのことも見ておいて頂戴』
自分たちの無事を聞いたことで安心してくれたようだ。しかしサクヤの声に続いて、コウタの慌てる声が聞こえてきた。
『サクヤさん!あれ!』
「どうしたんです!?」
『まずいわ…』
通信越しでもサクヤがかなり焦っているのが伺える。さらにもう一つ、アナグラからヒバリが緊急連絡を入れてきた。
『た、大変です!もう一つ、巨大アラガミの反応があります!』
「え!?」
ただでさえ一体だけでもきついというのに、このタイミングでさらにもう一体出現したという事実に、ユウは驚愕した。
『今こっちの方でも確認したわ!…あ!』
サクヤの方でも確認されたようだ。だが、サクヤが再び声を上げてきた。今度は何があったのだ?一瞬ユウは気になりだしたが、すぐにその意味を知った。
『そっちにアラガミが向かっているわ!』
「なんだって!」
しかもこっちに来ている、だと!?
端末に表示中の贖罪の街のマップに表示された、二体の巨大アラガミの座標データ。まさかもう一体現れるとは。たった一体でも間違いなく苦戦を強いられたというのに。
「なんてこった…」
ユウは苦難の続く現実に顔を歪ませた。このままでは、アナグラに出迎える予定のフェンリルスタッフもそうだし、第1部隊の仲間たちも危険だ。
「ユウ、今は早く行った方がいい。手遅れになるぞ」
「で、でもアリサは…」
ひょこっと上着のポケットから顔を出し、すぐさま進行を促すタロウ。確かに今はアラガミに襲われた仲間やフェンリル派遣のスタッフたちの元へ行かなければならない。速攻でいくには、負傷しているアリサをここに置いて行くことも考えなければならない。
だからって、ここにアリサを置いて行っていいものか?そう思うと足が動かなくなる。
「行ってください…」
すると、内部からアリサが姿を見せてきた。傷の治療こそしたが、神機を杖代わりに立っている姿はどう見ても万全とは程遠い。
「私はゴッドイーターです。私自身が足を引っ張るくらいなら…不本意ですけど、あなたに後をお任せします」
「…!」
ユウは驚いた。あのアリサが、不本意だと口にはしているものの、目の前の憎い仇を殺すことよりも、一度体勢を立て直すために退くことを選んだのだ。
「…わかった。一度リンドウさんたちの下へ僕が連れて行くよ。歩ける?」
「いえ、私一人で雨宮隊長たちの下へ戻ります。心配はいりません」
強気の姿勢のまま、ユウからの問いにアリサはそう答えた。
「本当に?」
「はい。それに…また胸を触られるのはいやですし」
そう言って彼女はジト目でユウを睨みつける。もし次に触られたら、今度はバレットを何百発もユウの脳天にぶち込むつもりでいる凄みがあった。
「いやいや!触らないし!わざとじゃないからね!?」
まだ根に持っていたのかと思い、ユウは慌てて首を横に振った。
あまり格好のつかない形のまま、彼は一旦アリサと別行動をとるのだった。
邪魔者がいなくなったグビラは進行を再開し、さっきまで狙っていたトレーラーが廃墟の街の路上を転がっているのを見つけた。やっと餌にありつける。そう確信してトレーラーの元に近づいていく。
すると、横転していたトレーラーの傍らから、3・4人ほどの白衣を着た男女が姿を現してきた。リンドウが言っていた、後日の作戦のためにフェンリルから派遣されたスタッフたちだった。
「ひ、ひい!」
その内の一人の男性が、迫り来るグビラを見て悲鳴を上げた。その恐怖は伝染し、他の3人の男性たちにも及びかける。トレーラーの中から持ち出してきたケースを抱きかかえてそのまま立ち止まったり、腰を抜かして座り込んでしまうスタッフたち。
そして、追い討ちをかけるように、巨大な影が彼らの頭上から降りてきた。
「…!!」
頭上から自分たちの真上を暗くしたその巨大な影の正体を見上げ、彼らは今度こそ絶望の淵に叩き落されようとしていた。
同時期、ユウたちの元に急いでいたリンドウたちだが、厄介な事態に遭遇することになった。
ユウとアリサの居ると思われる方角に姿を見せているグボロ・グビラ。そしてさらに…自分たちが降りてきた高台のほうから、巨大な影が降りてきた。その姿を見て、リンドウは呟く。
「シユウの、巨大変異種…!?」
シユウはアラガミの中でも珍しい人の形を元にした種だ。その戦い方も武人然としている。そして本来なら空想の生物である鳥人間のように飛び回りながら獲物を翻弄し捕食する。
だが、たった今現れた、シユウの巨大種はその武人のような風貌に磨きがかかっていた。
顔の牙はそのままにした仮面。背中から生えたシユウの両翼のほかにも、手甲を身につけた新たな腕が生え、全部で四本にも増えた腕。そのうち新たに生えた鎧の両腕には、神機にはない、芸術的な美しささえも持つ名刀が握られていた。
「キシャアアア…!」
全体的にシユウの姿が、鎧武者のようなものに変貌しているのだ。
「一丁前に侍の真似事か?いい趣味してるな」
戦慄を覚えながらも、リンドウは戦意を孕んだ視線でシユウの変異種を睨みつけた。
すると、向こうから一つの人影が走ってきているのが見えた。だが足取りが、走っている人間にしてはどこか遅く、そしてぎこちない。目を凝らしてみると、その正体はすぐに分かった。
「アリサ!」
姿が見えたアリサの下へ、リンドウたちは一斉に駆け寄った。
「アリサ、無事か?」
「平気、です…少しへまをしただけですから」
リンドウから怪我の容態を問われ、アリサはいつも通り強気の台詞を言う。
「んの割にはボロボロじゃんか…それよりユウは!?」
「あの人なら、向こうに残っています。トレーラーの人たちの救助に向かいました」
それよりとはなんですか、と文句を言いたくなったが、コウタからの問いにアリサがそう答えると、皆の後ろからソーマが呆れたように口を開きだした。
「で、傷を負ったてめえだけがのこのこ戻ってきたって訳か」
「ッ!…そうですよ。悪いですか」
「…変な鼻っ柱を立てるから後で恥をかくんだ。覚えとけ」
こちらに目もあわせず、ムカつくくらいきつい言葉を述べていくソーマの姿を、アリサは睨みつけた。その言葉、覚えて置いてくださいよ?いつが自分に跳ね返ってくるでしょうから。そう言い返したかった。だが実際自業自得。言い返す資格なんてアリサにはない。
「はいはい君たち、喧嘩はお家に帰ってからにしなさい」
それを見かね、リンドウは両手を叩いて、まるで遠足にて生徒を引っ張る引率の先生のように呼びかける。どこかおどけた態度だが、直後に本気の目つきに変わって、隊員たちに向かって続けた。
「第1部隊はこれより新入りの救援を優先して動く。遅れるなよ!」
シユウの巨大変異種…『剣豪神ザムシユウ』は、横転したトレーラーから現れたフェンリルのスタッフを襲っていた。まるで、獲物を狙う鷹のように降りてくると、その魔手を伸ばしてスタッフを捕まえようとする。
彼らは必死にその手から逃げ延びようと、効かないと分かっていたが銃で狙撃する。当然ながらオラクル細胞の塊であるアラガミに、既存の武器など通じない。シユウの変異種の体が銃を受け付けないほどの頑丈であることもそうだし、たとえ通っても、アラガミの肉体を構成するオラクル細胞が弾丸さえも吸収してしまう。
しかも、グビラまでも迫っており、絶体絶命のピンチに陥っていた。
「だ、だめだ…」
やっぱり自分たち人間ごときじゃ、アラガミを倒すことなんてできないのだと改めて悟らされた。
「目を塞いで!」
だが、突如声が聞こえ、同時に一戸の物体が彼らや二体のアラガミたちの間に、視界を白く塗りつぶすほどの光が瞬く。スタングレネードの光だと瞬時に分かった。
その眩しさにアラガミたちは視界をつぶされてしまった。動きを止め、目元を覆うアラガミたちに、スタッフたちは驚いて動きを止めてしまう。
「こっちです!早く!」
声の聞こえた方向を見やるスタッフたち。そちらには、アリサと別行動をとり、彼らを救いに来たユウが彼らに向けて手招きする姿だった。
「ゴッドイーターだ!」
「よかったぁ…俺たち、助かるのか…」
安心するスタッフたち。だがそうするのはまだ早い。まだここは敵中の真っ只中なのだから。シユウの巨大変異種はまばゆい光から目を覆ってる隙に、彼らは一斉に駆け出した。
「みなさん、怪我はありませんか?」
スタッフたちが自分の下に来たことを確認し、ユウは怪我がないかを問う。
「はい、助かりました…」
「さ、早くこっちへ」
後はこの人たちをリンドウたちの下へ送るだけ。ユウが彼らを誘導しようとした時だった。
「ガアアアアア!」
シユウの変異種とグビラの二体が同時に暴れだしたのだ。周囲を探るように乱暴に手を伸ばしたり、とにかく体を動かして周囲の廃ビルを壊し始めた。
「ど、どうして!?視界をスタングレネードで潰したはず!」
『奴らめ、相当食い意地を発しているな。手探りと匂いを辿ることで、獲物である我々を探し始めたのだ』
これは不味い。いくら直接アラガミの手にかからなくても、ここは酷く老朽化した上に破損した建物の並ぶ廃墟。ここで奴らに暴れられたら、瓦礫が頭上から降って来て自分たちの身が危うくなる。
『タロウ、その人たちを頼めない?』
小さな声でタロウに、ユウは頼みを申し込んだ。
『わかった。隠れながら彼らを見ておこう。気をつけるんだぞ』
タロウは表立って出歩くことができないが、ユウの指示通りリンドウたちの下へ一直線に向かうスタッフたちを隠れて追いかけながら行けば問題ないはずだ。
うん、と小さくユウは頷いた。が、その短い意思疎通さえも許さないとばかりに、視界がまだ回復していないアラガミたちは周囲を破壊しながら、逃した獲物たちを探り続けていた。おかげで瓦礫が頭上から降り始めている。
「みなさん!今の内に走ってください!その先から僕の仲間が向かってきています!ここは僕が足止めしますから、そのまま振り返らずに走って!」
「す、すみません…お願いします!」
ユウを気遣う余裕は、スタッフたちにはなかった。彼らはトレーラーから持ち出したケースをそれぞれ手持ちに持って一目散に、リンドウたちの下へ走り出した。
ちょうどそのとき、ザムシユウとグボロ・グビラの視力が回復した。獲物を狙おうと、口から涎を流しながら迫ろうとする。すると、奴らの顔に向けてユウの神機による銃撃が数発撃ち込まれた。
「お前たちの相手は僕だ!」
銃撃とその一言で、アラガミたちは彼に視線を集中させた。
そうだ、それでいい。リンドウさんたちにも、スタッフの人たちにも手出しはさせない。
まとめて、相手になってやる!
敵意を剥き出しにする二体のアラガミたちに対し、ユウはすぐギンガスパークを取り出す。右手の甲に『選ばれし者』の紋章が浮かび上がり、ギンガスパークからギンガの人形が飛び出す。それをガシッと掴み、足の裏の紋章をギンガスパークですぐにリードした。
『ウルトライブ、ウルトラマンギンガ!』
「ギンガーーーーーーー!!」
光に包まれたギンガスパークを掲げると同時に、ユウはまばゆい銀河系の光に包まれた。
その光の輝きの発生に気づき、ユウの助力の甲斐もあって逃げ延びたスタッフたちは振り向く。
まばゆい光の輝きは、彼らの元へ駆けつけたリンドウたちにも見えた。
「おーい!無事か!」
ユウの言っていた通り、仲間のゴッドイーターたちの姿を見てフェンリルスタッフたちの顔に安堵がよみがえる。そして、自分たちが逃げてきた方角から発生した光に対して疑問を寄せた。
「あの、あの光は一体…!?」
「見てりゃわかるさ。安心しな」
リンドウがそう言ったとき、天に向けて立ち上る光の柱が、巨人の姿となって実体化した。
「き、巨人…!?」
「まさか、あれが…あの巨人が…『ウルトラマン』…!」
話には、フェンリルの一因であるスタッフたちも聞いていた。突然極東に現れた巨大変異種アラガミに対抗するように出現した、正体不明の光の巨人だと。
「もう大丈夫です!俺たちとウルトラマンが揃えば、怖いものなんかないって!」
コウタは、もう安心していい、大船に乗ったつもりでいてくれと言いたげに、大声で豪語した。
「グオオオオオ!!」
「クアアアアアアア!!」
「シュワ!」
ザムシユウとグボロ・グビラという二体の強敵と相対してなお気圧されることのないその雄雄しく神々しい姿は、人によっては頼もしい英雄の姿ともとれた。それに、リンドウたちが彼に対して敵意を抱いていないことを察した彼らは、今だ未知の存在に対する不安こそ拭いきれなかったが、少なくともギンガが自分たちの敵ではないことに心の安寧を取り戻しつつあった。
「全員戦闘区域から離脱するぞ。走れ!」
今の自分たちは、保護対象者を抱えている。援護するべきだとしても、ここで彼らを巻き込むことになる。リンドウは一度ここで全員に撤退命令を下した。
しかし、一方でアリサは複雑な表情を浮かべていた。
(……)
自分の心の中で燃え続ける復讐の炎を、血塗られた過去を体現するような赤い色の神機を握りながら。
そしてそんなアリサを、影からタロウが憂いている様子で眺めていた。
●NORN DATA BASE
○『本当です!信じてください!』
『ウルトラマンA』で何度も披露された、ウルトラマンエースの変身者である北斗星司の名(迷?)台詞。
この作品の宿敵である『異次元人ヤプール』の召喚する超獣たちが、あまりにも非現実的な形で登場することが多く、また彼らの起こす怪事件もこれまで以上に現実離れしすぎたケースが多かった。
唯一目撃した北斗だが、現実主義な山中隊員を中心に仲間たちから信じてもらえず(ただし南夕子隊員だけは別)、竜隊長から謹慎処分を下されることが多かった。
ググってみるとすぐに見つかる。