ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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今回結構悩みました。しばらく同じように悩む時間が増え、その割にはあまり大した内容が出来上がらないかもしれません。時間をかけてしまったことも含め、前もって謝ります。すいませんでした。

暁などでも小説を書いています。ハーメルンでも一冊だけオリトラものを投稿しております。気になる方は目を通してくれるだけでも嬉しいです。


グリーン・サラブレット(前編)

アリサは、ある場所にいた。部屋に明かりは灯されておらず、部屋にあるベッドに横たえている。ベッドの周りはカーテンで覆われ、周囲の景色を一切遮断している。

「今日はやけに不機嫌そうじゃないか」

カーテンの向こう側から、声が聞こえる。

「例の新型の方と話したんです」

「新型の?あぁ、彼のことか。君と同じ第1部隊の」

「どんな人かと思ったんですけど、期待外れの人でした。新型としてのプライドもなさそうでしたし、何より…」

「ん、どうしたんだい?何か言いたいことがあるんじゃないのかい?」

「彼は私がパパとママを失ったように、妹さんを亡くされていたそうなんです。それなのに…意地悪なことを言ったんです。『憎しみで戦わない』って…」

シーツを握り締めながら、アリサは悔しさを包み隠さずに顔を歪ませた。

「意味が分からないですし、不愉快です。アラガミを憎むことの何が悪いんです?殺して殺して殺して…オラクル細胞の一粒も遺さないほど消し去って何が悪いのかわからないです」

「なるほどね…アリサの戦う理由に水を差してきたというわけか」

「きっと、妹さんのことなんてあの人にとってはどうでもいいんです。そうに違いありません」

これを彼が…ユウが聞いていたら聞き捨てならなかったに違いない。自分の肉親への思いを、アリサ自身の勝手なものさしで計られるだけならまだしも、こんな言い分をされたら不快に思うはずだ。

「先生、私、間違ってませんよね?アラガミを殺し尽くせば、パパとママも喜んでくれますよね?」

アリサはカーテンの向こうにいる人影に向けて、他の面子には一度も向けたことのない、無垢な眼差しを向けた。

「心配いらないよアリサ。君はただアラガミを殺すことだけを考えればいいんだ。君にそんな意地悪な言葉をいう奴の言葉なんて気にしなくていいんだよ。アリサは私の言ったとおり、パパのママのために、アラガミを殺していけばいいんだ。

天国のパパとママも喜んでくれるよ」

「はい」

「そういえば…」

すると、アリサが何かを思い出したそぶりを見せだした。

「前にも、同じようなことを言われたような気がするんです…気のせいだとは思うんですけど、実際に起きたことのような、不思議な感覚を覚えるんです」

「…ッ!?」

カーテンの向こうに隠れた人物が、息を詰まらせた。

「どうか、なさいました?」

それに気づいたアリサが尋ねるが、こほんと咳払いの後に、何事もなかったように声が返ってきた。

「きっと夢で似たようなことを言われたことがあるんじゃないかな?そのくらいのものだから気に留めることはないよ、アリサ」

「そうですね…」

「さあ、そろそろ診察の時間だ。ひとまず眠るといい」

「はい…」

アリサはカーテンの向こうにいる人物に言われたとおり、眠りに着いた。カーテンの向こうに姿を隠していた人物は彼女が眠りに着いたのを確認すると、再びカーテンの向こう側へと姿を隠した。

ふと、その人物のものなのか、携帯端末の着信音が鳴り出した。

「あ、はい。こちら●●。

そちらのお仕事は…はい。わかりました。それで、次の例の作戦……ええ、こちらもあなたから請け負ったことは忘れておりません。抜かりなく実行させておきますので。では…」

なにやら怪しい会話が続いているように聞こえるが、アリサは既に眠りについていて聞いておらず、仮に聞いていたとしても意味を理解しなかっただろう。

カーテンの向こうに隠れた人物は通話を切り、椅子の背もたれに背中を預けた。

「ち、またか…どこにでもいるということか。人の邪魔をするうっとおしい不純物というものは。

薬のレベルを上げなくては…………む?くそ…ちょうど薬を切らしたのか。早く新しいものを発注する必要があるな」

その人物が姿を消したカーテンの向こう側から、イラつきの混じった深いため息がもれ出ていた。

 

 

 

その頃…。

極東支部から北方の山岳地帯。

ここまで来る間、やはり上空にはザイゴードをはじめとした飛行型アラガミが何十…いや、軽く数百体以上飛び回っていた。おかげでフェンリルの力をもってしても、かつてこの空を飛び回ることができた人類は、そう簡単に空を飛び回ることができない。

だが、今自分たちがちょうど飛んでいる区域は…どういうわけかアラガミたちが近寄ってこなかった。それよりも気になるものもある。アラガミの底なしの捕食活動によって消えたはずの、地上に広がる森林地帯。なぜこの区域だけ、森が生きたままなのだ。こんな森が存在しているなんて、今まで気づきもしなかった。

だが、これは大きな発見だ。なんとしても、この森の正体を突き止めなければならない。

ヘリで飛行を続けると、ヨハネスはある場所に注目した。

森の中央の、山に囲まれた区域に…人々の集落と思われる場所が見えた。外から見ると大きなドーム状の建物だ。

ふと、ヨハネスは携帯端末を出し、誰かと通話し始めた。

「…こちらシックザール。…あぁ、もうすぐ目的地に着く。そちらの手筈はどうだ?…よし、予定の日に頼む。こちらも話をつけるつもりだ。では頼むぞ」

ヨハネスはそこで電話を切り、パイロットにここで下ろすように命じる。

地上に降りて、極東からつれてきた少数のゴッドイーターを護衛として引き連れながら、ヨハネスはそのドームの元へ歩き出した。

(ここが女神の森…か)

ドームの前には、銃を持った警備兵らしき男が二人ほど待ち構えていた。

「なんだ貴様ら?見たところフェンリルのようだが」

警備兵の一人がヨハネスを見て、目を細める。この冷たい視線に込められた、彼らの気持ちをすぐにヨハネスは察した。自分たちフェンリルに所属する者を嫌っているに違いない。

「ここはお前たちのような奴らが入るところじゃない。さっさと出て行け」

とても歓迎されている雰囲気ではないことはわかっていた。ヨハネスは

「私はヨハネス・フォン・シックザール。極東支部の支部長を勤めている。この女神の森の総統閣下と話をさせてもらいたい」

「支部長だと!?」

ヨハネスの正体が極東支部支部長だと知るや否や、警備兵はヨハネスに向けて銃口を構えた。

「支部長!」

ヨハネスの護衛として連れてこられたゴッドイーターたちも、ヨハネスを守るべく警備兵の前に立ちふさがる。

「こいつが俺たちを締め出したせいで、俺の家族は…」

だが、相手が人間を超えた力を持った戦士だとしても、警備兵たちはヨハネスやゴッドイーターたちに対する憎悪の眼差しを向け続けた。

「さっさとアナグラに引っ込みやがれ!」

「そうだ!失せろ!」

ヨハネスはやはり、と心の中で呟いた。彼らは、自分の政策で極東支部をやむなく追われた…いや、自分が外の世界という地獄に追い払ってしまった者たちだ。恐らく、自分が引き取った新型ゴッドイーターの青年がそうだったように。

「き、貴様ら…」

しかし、ゴッドイーターたちからすれば、事情も知らないくせに、とも言いたくなる。

冷徹な考えだが、フェンリルに保護されている人間たちは、いつかゴッドイーターとなるかもしれない…人類の剣となるかもしれない人達。パッチテストの段階でそれになることができない人達が目の前に居る警備兵のような、変色因子への適合が不可能な人間。もしこの過酷な世界で人類という種を一人でも多く遺す…という目的を達するには、ゴッドイーターになる素質を持つ者たちのほうが建設的だった。だからこそ、ヨハネスは自分のとった選択に後悔はしていない。

「それは…気の毒だった」

ふと、ヨハネスの口から哀れみの言葉が漏らされた。しかし、それはたった一言である分、相手側からすればあまりに軽い言葉に聞こえてならなかった。

「気の毒だと…ざけんな!!そのたった一言で済まされると思うな!」

再度銃を構えなおす警備兵。しかしヨハネスは全く怯む様子を見せない。

「確かに君たちの言うとおりだ。君たちが今のように我々に対して敵意を抱くのも致し方ない。全ては我々フェンリルの力不足だ」

「支部長!」

「………」

突然の謝罪に、護衛のゴッドイーターもそうだが、警備兵たちも戸惑いを示した。自分たちの反抗的な態度に、怒りをこらえるどころか、謝罪してきた。

「…何の用でここに来た」

支部長じきじきの謝罪を聞き入れ、少し心に落ち着きが戻ったようだ。

「このドームのリーダーとの会談を申し入れたい。あなた方のような、壁外で苦しむ人間を救うために」

「…少し待っていろ。総統閣下と連絡を取る」

自分たちのような人間を救う。その言葉を聞き、警備兵の一人が旧型の連絡機器を取り出し、連絡を入れた。

「こちら警備の矢島です。『葦原総統』、…はい、実は……」

少しの時間を置いた後、矢島と名乗った警備兵の一人がヨハネスたちに言った。

「喜べ、総統がお前との会談を受け入れるとのことだ」

「…さっさと入れ」

もう一人の警備兵が、目の前の鋼鉄製の扉を開かせる。

そこから見えた世界は、ヨハネスにとっても新鮮に思えてならなかった。

 

ドームの中に、美しい自然に囲まれた街が広がっていた。

 

 

極東には、かつて多くの人たちによって栄えていた都市が密集していた。だがこの時代ではそれらの都市の繁栄していた頃の面影は存在しない。

かつて横浜と呼ばれてたこの『贖罪の街』も同様である。そこは以前、リンドウ・サクヤ・ソーマらがヴァジュラを討伐したミッション現場でもあった。

「おいバキ」

贖罪の街の、あるビルの内部から外を見下ろす二人組がいた。アリサに目をつぶされた『マグマ星人・マグニス』と、彼と行動を共にしているエイリアン『バルキー星人・バキ』の二人である。

「あのシユウとかいうアラガミ…別に大したもんじゃねぇだろうが。あんなちゃちなアラガミを素材にした合成獣でウルトラマンギンガを殺せるのか?」

「NON,NON。もちろんMeだってそうは思っちゃいないさ」

「ではなぜだ!?」

そうと分かっているなら、なんのために。マグニスは怒鳴り声を散らしてバキに問うと、バキはいつものマイペースかつ奇妙過ぎる踊りとテンションで語りだした。

「まずは適当な駒を見繕ってギンガPowerを計るのさ。その結果を元にどの怪獣のスパークドールズが、あの『VeryStrong』なアラガミちゃんと合成するに相応しいかを…な?」

そういってバキが見下ろした時、遠くの地から土しぶきが巻き起こり、見覚えのある巨大な影が姿を現した。

 

「グガアアアア!!」

 

鼻の先の砲塔を持つ、巨大魚のような姿をした怪物だ。

「あれは確か、俺が…」

アリサの横槍のせいでギンガが取り逃がした合成獣グボロ・グビラだった。マグニスは己の手で誕生させたアラガミであるため、あれのことは覚えていた。

「だが、一度でも敗れる程度の合成獣ごときでウルトラマンを倒せると思っているのか?」

同時に、あいつがギンガ相手に敗れてしまったことも記憶に新しい。故に、一度負けた駒をもう一度引っ張り出すバキの魂胆を疑った。

マグニスの言うとおり、グビラの体にはギンガによって受けたダメージの後が傷として痛々しく残ったままだった。流石のアラガミでも、その無差別かつ無尽蔵の捕食能力をもってして数々の兵器さえも無効化できるとはいえ、

だが、いつもの調子のままバキは続ける。

「言ったろ、力を計るだけってよ。あくまで今回はテストさ。まずは、ウルトラマンギンガのPowerを観察させてもらうのよ。もう一つ…」

バキは他にも、どこからか取り出した一つの人形をマグニスに見せ付ける。

「こいつも加えてよ」

 

 

 

この日、贖罪の街には第1部隊も訪れていた。

「今日はこのエリア内に侵入したアラガミを討伐する。

支部長からのお達しによると、今後アナグラの戦力を用いた大規模なミッションの下準備のために別支部からこの極東に戦力を一時集中させるとのことだ。

連中が気持ちよくアナグラにお邪魔できるよう、一匹残らずに討伐しつくように」

リンドウが神機を肩に担ぎながら部下である第1部隊の全メンバーに伝える。

「大規模な作戦…」

どこか大きく聞こえてくるリンドウの言い回し。どうやら今後、大規模な作戦を予定しているということだろうか。

「メンバーの配分はどうするの?リンドウ」

全メンバーが一箇所に固まっての行動は、格好の的となる。分散するのが鉄則だ。サクヤは今回はどのようにこの第1部隊を割くのかを尋ねた。

「そうだな…コウタとソーマはサクヤと行け。新型二人は俺に連いて来い」

「わかったわ。二人とも、着いてきて」

「はい」

「……」

振り返ったサクヤの声に、ユウが返事をしたことに対し、アリサは無言…というよりもそっけない態度だった。露骨に無視しているようにも見える。

「アリサ、返事は?」

「…ええ」

適当な返事で返したアリサに、サクヤは目を細める。ユウも不安をアリサに対して抱きつつあった。この子は、本当に周りを見ようとしてない。仲間のことも、自分の抱え込む思いばかりで、省みようともしていない。

 

 

結局、第1部隊に立ち込めるギスギスな空気は払われないまま、この日も第1部隊のミッションは開始された。

 

 

贖罪の街は、中央の教会を中心に広がっている。その外部には、滅び去った横浜の街のビルが変わり果てた状態で立ち並んでいる。

左方向に広場のあるエリアにはサクヤ隊、右方向の狭い道の方角にはリンドウ隊が行く。

「サクヤさん、あの二人を一緒にして大丈夫なんですか?」

サクヤについていきながら、コウタが尋ねてきた。

「どうしたの?」

「だって、アリサの奴、ユウのことなんか目の仇にしているような感じがするっていうか…」

コウタもアリサがユウに対して不快感を露にしていることを気にしていた。彼にとって仲間同士の不和は不味い飯よりも嫌いなものに値する。いつまでもあんな状態ではこちらが参ってしまう。

「……」

ソーマは話に耳こそ傾けていたが、会話に介入する姿勢は見せない。

「そうね…」

サクヤも憂いを抱いていた。

リンドウはこの極東で最も優れたゴッドイーターで、これまで新人たちをほぼ確実に生き残らせるだけの活躍も見せている。

だが一方で、口下手だ。生き残ることを優先して動くよう、これまで担当してきた新人たちに教えてきたが、度々自分の言いたいことが伝わらず、新人たちから失望の眼差しで見られることもあった。それに何時までも、年齢としては若い時期とはいえそろそろゴッドイーターとしてはロートルと言われても仕方ない自分が言うよりも、お互いにいい方向に刺激し合える相手の方がいい方にことが傾く場合だってある、と当の本人は語っていたくらいだ。

(リンドウのことを信じてないわけじゃない。でも、私たちの部隊は一つになっていない。もしそんなときに、最近出現している巨大アラガミが現れたら、いつかは…)

サクヤは胸の中が異様につっかえる感覚を覚えた。

(…なんか、嫌な予感がする…)

想像したくもない未来を思い描きそうになるが、サクヤはそこで打ち止めにした。悪いことばかり考えると、それが現実のものになりかねないのだから。

「…来たぞ」

ふと、ソーマが二人に向けて口を開く。ただ一言、何かが近づいて来たことを伝えるためだけの言葉。彼の言っていた通り、彼らの方にもアラガミが数匹姿を見せた。コンゴウを中心とし、オウガテイルを配下として従えたメンバー。ゴッドイーターになってから何度も見た光景だ。いつも通り食い荒らしてやる。

 

と、そのときだった。

 

『こちらヒバリ。さ、サクヤさんッ!緊急事態です!』

アナグラから大慌ての様子のヒバリの通信が入ってきた。

「こちらサクヤ。どうしたの?」

『想定外の大型アラガミが進入!しかも、この反応は…』

「ヒバリちゃん?落ち着いて話して。何があったの?」

なんか以前の慌てっぷりともまた一層違う。一体どうしたというのだろうか。

『以前ウルトラマンが取り逃がしたグボロの巨大変異種です!リンドウさんの部隊の方に向かって進行中!』

「な…!」

それを聞いてサクヤは絶句する。

「…わかったわ、こっちを切り抜けたらそちらの援護に向かい、撤退する!」

サクヤはヒバリにそう返事して通信を切り、ソーマとコウタの方に振り返る。

「二人とも、この場のアラガミは全滅させなくていいわ。リンドウたちの方へかなり危険なアラガミが出たわ」

「え!?」

「…」

「私たちはこいつらを適当にあしらったら、リンドウたちの援護に入り、ミッションエリアから離脱する!」

「は、はい!」

ソーマは返事をしなかったが、コウタは少し堅くなりながらも返事した。

さて、まずは目の前の雑魚を片付けなければ。サクヤは端末を腰のホルダーに戻し、目の前のコンゴウやオウガテイルの群れを睨みつけた。

(目の前のこいつらはともかく、よりによって…)

心の中で、相変わらず人間に容赦のない事態に追い込む現実を恨みながら。

 

 

「付近にはシユウの反応が特に強いな。新入り、シユウって知ってるか?」

サクヤ隊と別れてしばらく経ってから、リンドウはユウに尋ねてきた。

「鳥の翼のようなものを持った人型のアラガミ…ですよね」

「ああ、そうだ。奴は人型だから近接戦闘も得意だが、手から火炎弾も撃って来る。それに、体表も固いから破砕属性の攻撃をお勧めする」

俺は切ることしかできないけどな、とリンドウは苦笑する。まだ未熟だった頃にシユウと遣り合って

「アリサ、破砕系のバレットは?」

「あります。当然です」

流石は優等生。危うさこそあれど、アリサはアラガミを根絶やしにするという強い目的意識があるからこそ、準備は万全なものにしていた。

「ところで、リンドウさん。さっき言っていた、『大規模な作戦』ってなんですか?」

「あぁ、ここしばらくアラガミが極東に向かって集まってきているらしい。そのアラガミたちを一掃するための作戦を支部長が考えてるって聞いたぜ」

「アラガミが、極東に…」

ユウはそれを聞いて表情が曇る。いくら一体一体が大したことのないものだとしても、数が集まるとかなり厄介だ。それに自分はまだ中型種までしか相手にしたことがない。ヴァジュラをはじめとした大型種をまともに相手にしたことがない。その作戦とやらには、きっと大型種が大勢集まってくるに違いない。

ギンガの力を使うことになるとしても、変身が許されたわずか3分のみの時間で、襲い来るアラガミを全滅できるだろうか。

「不安か?」

ユウの憂い顔を見かね、リンドウが顔を覗き込んできた。問いかけてきたリンドウに対し、ユウはただ一言「はい」と、覇気のない声で答えた。

「戦う前に落ち込むもんじゃねぇ。任務に当たる際は常にテンションは十分保っている状態じゃねえと元気が出ないぞ。そうなっちまうと、助けられるもんも助けられなくなる」

「…ええ。わかってます」

そう言いながら、ユウはそっと胸の内ポケットに隠し持っているギンガスパークに触れた。

「……」

二人の会話にアリサは耳を傾けていたが、横目で二人を見ているその視線には今だに軽蔑の眼差しが込められていた。ユウに対しては、同じような過去を背負っておきながら憎しみを否定したこと、リンドウに対しては、ゴッドイーターらしからぬ飄々とした態度といい加減さに対しての軽蔑。それが二人に対する差別的な低評価意識に繋がった。

その時だった。

頭上から「ガアアアアア!」と獰猛な鳴き声が聞こえてきた。気配も肌で感じ取れる。三人は頭上を見上げる。

教会の真上の建物に、聞いていた通りの、硬質な体表を身にまとう鳥人の姿が見えた。

「シユウ!」

「二人とも、構えろ!俺が前に出る」

リンドウがユウとアリサに命じると、二人はすぐに銃形態に切り替え、飛び降りてきたシユウに向かって一斉に銃撃を開始した。

「グウオオオオッ!!」

だが、風に乗りながら地上のリンドウ隊に向かってくるシユウは、その手のひらから火炎弾を形成、それをユウたちが発射したバレットに向けて放ち、互いに撃ち合った弾丸は空中でともに爆発を起こした。

「相殺された…!」

く、と悔しげに顔を歪ませるユウ。しかも、今の爆発に紛れたのか、シユウの姿がなかった。

(まずい!)

姿が見えないのでは、どこに向けて攻撃すべきか分からなくなる。

『ユウ、来るぞ!神機を切り替えるんだ!』

だが、制服の胸ポケットに隠れているタロウには見えていた。ユウたちが煙幕に包まれたシユウの姿を見失っている間、奴は爆発によって発生した煙の上を通って背後の建物の上に回り込んでいた。

タロウの声で気づいたユウは振り返る。すでに、彼に向かってシユウが飛び掛ってきていた。

彼はすぐさま装甲を展開、突撃してきたシユウの突進を防いだ。まるで飲酒運転トラックが突っ込んできたような勢い。運よく防ぐことはできたものの、その衝撃で少し体が後ろに下げられた。

『ッ!いかん!』

再びタロウの声が響く。その直後だった。ユウのすぐ真横から一発の弾丸が突き抜け、ちょうど地上に足をつけたシユウに着弾した。すぐ近くだから、ユウも爆風に煽られよろめいてしまう。

「ッ…」

「おい、アリサ!」

リンドウが怒鳴り散らした。当然だ。仲間が斜線上のすぐ近くに居たにもかかわらず、注意がけさえもせずに発砲したのだ。

だが、いつものごとくアリサは無視。すでに神機をロングブレード『アヴェンジャー』に切り替え、ユウを跳ね除けてシユウに切りかかった。

アリサの振り下ろした神機の刀身が、シユウの体に当たる。

ノルンのデータベースや座学で学んだとおり、体表は固い。今の一撃も、少し歯が食い込んだだけであまり効果的なダメージを与えられていない。だがそんなことは関係ない。アリサはお構いなしに力いっぱい神機を振るってシユウの体に傷を刻み込んだ。

シユウはアリサの神機の刀身が食い込むのを防ぐため、一歩後ろに下がった。それを追っていくアリサ。当然ユウとリンドウの存在など無視していた。目の前の憎いアラガミを殺す。ただそのためだけに。

「ったく、あいつは…」

「とにかく、援護しましょう!だからって見捨てたりしたらサクヤさんたちに会わせる顔がない!」

「そうだな…やるぞ!」

頭を抱えるリンドウに、ユウはまずアリサの援護を提案した。正直、不安ばかりだが上官としてリンドウもその案を採用し、銃をシユウに向ける。

だが、アリサの暴れっぷりは尋常ではなかった。徹底的に相手を嬲り殺しにかかっている。

「く…斜線上に入ったままじゃ…」

「これじゃ割り込みにくいな…」

アリサは、ユウの斜線上に入りっぱなしで、リンドウでさえも援護に回るタイミングを窺うのに苦労していた。

なにより見ていて、不快しか催さなかった。仲間も蔑ろにし、まるで自分までもアラガミと化したような獰猛な戦い方。アリサはユウからの説得にも耳を貸さず、逆に怒ってきたが…

(こんなことで…君は本当にそれでいいのか…アリサッ!)

 

 

 

その頃のサクヤたちは…

「当たれ!!」

「…消えろ」

「これで…終わりだ!」

コウタ・ソーマ・サクヤの三人はコンゴウをリーダーとしたオウガテイルの群れを、最後に群れのリーダーであるコンゴウを仕留めたことで勝利を勝ち取った。

「ちょっと時間かかったかしら。さ、二人とも、すぐにリンドウたちの援護に向かうわよ」

「はい!」

返事をするコウタと、静かに「ああ…」とだけ返事をするソーマ。見たところ、二人とも大きなダメージはない。

この調子ならすぐにリンドウたちの援護にも迎えるだろう。

すぐに三人はリンドウ隊の方へと駆け出した。

が、リンドウたちの元へ走っているとき、サクヤは突如足を止めた。

「サクヤさん?」

いきなり足を止めてどうしたというのか。不思議に思って声をかけたコウタ。すると、ソーマがフードの下に隠れた眼光を研ぎ澄ませる。敵の気配を感じ取ったのだ。

すると、物陰からその気配の正体が姿を現した。サクヤたちの方にも現れたアラガミ、シユウが2体だ。

「悪いけど、今はあなたたちたちと戦ってる時間はないの。

二人とも、目を閉じてて」

すぐにサクヤは神機を構え、スタングレネードを取り出す。歯でピンを引き抜き、目の前のシユウに向けて投げつけると、白い光がシユウを包み込み、視界を奪い去った。

「走って!」

シユウを通り退け、三人は直ちにリンドウたちの元へ駆け出した。シユウたちは視界をつぶされていたこともあり、追うことはかなわなかった。

三人の姿がすでに豆粒ほどに遠くなったところで、やっと視界が回復しようとしている二体のシユウの元に、さらにもう一つの、等身大の人影がシユウたちの前にスタッと降りてきた。

バルキー星人、バキだ。

バキはリンドウたちの存在には気づいていたものの、彼らを追うとはなかった。サクヤたちを見送り、自らの怪光線で動きを封じていたシユウの方へ視線を戻した。

「別にYouたちと戦うことはMeたちの優先事項じゃねえからな」

どうやら今回はリンドウたちに戦いを挑む必要はなかったようだ。

「せいぜい、ギンガとMeたちの戦いのとばっちりを食らわないように気をつけるこったな。

さあてと、仕込みStart…ってな」

バキがそういって取り出したのは、さっきマグニスに見せたスパークドールズと、ギンガスパークに似た意匠をあしらえたあの黒いアイテムだった。

そのとき、ようやく視力が回復したシユウたちが、バキの方に視線をやる。視線の先に獲物がいる。それを瞬時に理解した二体のシユウがバキに向かって飛び掛かった。

だがバキは全く恐怖することなく、そのスパークドールズの足の裏に刻まれたマークに、黒いギンガスパークのようなものをリードした。

 

『ダークライブ…』

 

黒いスパークから、黒い霧のような闇があふれ出し、シユウを包み込んでいった。

 




次回から1月に一回のペースになると思います。ご了承ください。

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