ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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待っていた方々、お待たせしました。
うまくできてるか不安ですが、最新話を投稿します。

最近はマグマ星人たちエージェント側のエイリアンやゴッドイーターにおける敵(人間)の扱いをどうしようかと模索中です。ある程度は考えてますがね…。

今回、原作順序のつもりで書いては見ましたが、あの子が酷い状態です。アンチ・ヘイトと見られてもおかしくないかもしれませんので覚悟するように…。
…最初に言っておきますが、決して嫌いじゃないですよ?




優しさを失わないでくれ

ヘリに乗る赤い神機使いの少女の弾丸が、ギンガを襲う。

一発一発が、威力としては軽いアサルト神機だが、嵐のように降り注がれると厄介なものだった。

ギンガは両腕をクロスして盾代わりにして掲げ、少女の放つ銃撃を防ぐ。

「グゥ…!」

腕越しにギンガは…いや、ユウは神機使いの少女を見る。明らかに彼女は敵意を向けていた。突き刺さるような、鋭い氷のようなまなざし。そんな目で見られたことなど無かった。

あの目の意味を、ユウはすぐに察した。

彼女の目は、アラガミを見る目だ。誰もが一度は抱く負の感情の中でも、最もドス黒い…『憎悪』。

(今の僕は…アラガミとみなされているのか…っ)

自分が怪物扱いされている。変身しているとはいえ、自分だってアラガミに対する怒りを覚えている。それはあまりに辛かった。同化しているギンガはどう思っているのだろうか気になるくらいだ。

しかし、もうカラータイマーが点滅をはじめ、この姿を長く維持することは難しい。

ギンガは無理やりに立ち上がり、空高く飛び上がって、かなたへ飛び去っていった。

「シュワ!」

飛び去っていくギンガを見て、一端銃撃を中断した少女はヘリパイロットに怒鳴る。

「追いかけて!!」

「え、ですが…!」

「いいから早くしてください!」

無茶な話だった。既にこのとき、ギンガの姿は豆粒にも満たないほど小さく見える距離まで飛び去っており、追いつけるはずが無かった。

『ちょーっと待った。そこまでだ』

ふと、通信回線越しにリンドウの声が聞こえてきて、アリサは彼の声に耳を傾けた。

『お前さんの機転のおかげで助かったが、それ以上余計なことはしなくていい。どうせあいつには追いつけねぇよ』

「アリサ、ここは抑えよう。彼の言うとおり、とても無理だ」

「……わかりました」

やや不満げに、『アリサ』と呼ばれた少女は、傍らに座っていた医師の言葉に従った。

その後、第1部隊はアナグラへ帰還した。

 

 

 

グボロ・グボロのコアを十分に集めたものの、ギンガと交戦したグボロ・グビラとの戦闘は、結局ターゲットから逃げられる形となった。

当然、戦闘中に現れた異星人…マグマ星人のこともツバキたちに知らせることとなった。アラガミを操る、アラガミ以外の脅威。無視などできるはずも無い。

それを言うと、前回の赤い新型神機使いの少女が最後にとった、ウルトラマンへの発砲行為も許容範囲に捕らえられてもおかしくなかったのだが…。

「なぜ、あのアラガミへの攻撃を許可しないのですか」

上の階層へ上がっていくエレベータ内にて、あのもう一人の新型神機使いの少女、アリサは隣に立つツバキと話をしていた。内容は、前回のミッションの最後のことについてだった。

「あのアラガミは、別の超大型アラガミを撃滅するほどの力を持っています。放置すれば危険です。だったら討伐に向けた作戦を立案するのが妥当じゃありませんか」

「アリサ、あの巨人のことなのだが、あの巨人からはオラクル反応は確認されなかった」

「そんなの、装置の故障でしょう。あんな危険な奴がアラガミでないわけないじゃないですか」

「残念だが本当だ。私も新種のアラガミかと勘ぐっていたが、センサーには一切不備はなかった。よってあの巨人がアラガミではない、アラガミとは全く異なる存在であることが認定された」

「だとしても、奴がいずれ人類に牙を向くことは目に見えています。ツバキ教官もご存知でしょう?あんな恐ろしい力を持った奴が…」

「アリサ」

ツバキはアリサの名前を呼び、彼女の次から続くかもしれなかった言葉を遮った。

「お前の行為は藪を突いて蛇を出す行為でしかない。以後、勝手な行動は慎め。これは支部長からの命令でもあり、全ゴッドイーターたちにも敵意を向けてこない限り、攻撃は絶対に控えろとメールが送ってある。忘れるな」

「…はい」

どこか納得しがたい様子であることは変わりなかったが、彼女はそれ以上何も言わないことにした。

「よろしい、では…第1部隊の者たちに自己紹介だ」

エレベータの扉が開かれ、二人はエントランスへ出た。エントランス前の出撃ゲート前のフリースペースには、既にリンドウたち第1部隊のメンバーが全員揃っていた。ツバキが来たと同時に、リンドウ・サクヤ・コウタ・ソーマ、そしてユウは一列に並んだ。

「全員集まってるな。今日からお前たちの仲間となる新型神機使いだ」

「どうも、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。本日より第1部隊に配属となりました。よろしくお願いします」

「おぉ!改めてみると…」

アリサの姿を見ると、コウタがなにやら興奮を示してきた。実際、アリサは容姿・スタイル共に美少女の部類に入るほどのもので、彼が年頃男子らしい反応を見せるのも無理は無かった。

「……」

一方で、ユウは無言だった。アリサの顔…いや、そのアクアブルーの瞳を見ていた。

(まるで、深い闇だな…)

ギンガに変身していた状態で見たときと同じだ。ユウのアリサに対する印象はそれだった。この子から、一切の光を感じない。彼女から感じる雰囲気に明るさなど皆無で、そういったところはソーマよりも黒く塗りつぶされているような感覚だ。

「ユウ?」

「え?何、コウタ?」

声をかけられ、ユウは我に返る。

「お前、もしかしてこの子に見とれてたのか~?」

「な、何言ってんだよ」

ニヤニヤといやな笑みを向けてくるコウタを、ユウは白い目で見返す。コウタじゃあるまいし…まぁ、確かにこの子がかわいいことは認めはしたが。

「…よくそんな浮ついた考えで、ここまで生き残れましたね」

「へ?」

そんなコウタとユウを見て、アリサは冷たい言葉を向ける。すると、ツバキは第1部隊メンバーたちに向けてアリサの詳細について述べる。

「彼女はロシア支部に就いていた頃から演習において優秀な成績を残している。実戦経験も多くは無いが、戦績も決して悪いものなどではない。追い抜かれないように気を引き締めておけ」

「り、了解です…」

ツバキから鋭く言われたコウタは気弱な返事をした。

「アリサは今後しばらくは、リンドウについておけ。そして、ユウ」

「あ、はい。なんでしょう」

「同じ新型としてアリサをサポートしてやれ。お前自身も彼女から学ぶべき点は多いはずだ」

「は、はい…」

あまり乗り気になれない。でも、とりあえず返事だけはしておいた。

「あ、ところでツバキ教官。一つよろしいですか?」

今度はユウの方から質問した。

「なんだ?」

「あれから、あの宇宙人とアラガミの行方について、何か分かったことはありますか?」

ユウは自分がみすみす逃してしまった敵である、あの後のマグマ星人やグビラの行方を知りたかった。

「それについてだが、我々も捨て置くことはできなかった。お前たちが帰還を開始した時から奴らの反応を追わせて見たが、手がかりはなしだ」

「そうですか…」

やはり、アナグラの方でも行方を追っては見たが成果はなかったらしい。自分の尻拭いの機会が見込めなかったことが残念だった。

「ではリンドウ、書類の引継ぎのため、私と来い。他の者は次のミッションに向けて静養するように」

「ほい、了解です」

「では、これで解散とする」

新メンバー紹介を終えて、ツバキはリンドウを連れてエレベータに乗って去っていった。

ツバキたちが去っていったところで、コウタがアリサと親睦を深めるべく、何かを話そうと考えアリサに適当に質問してみた。

本当は、言いたいことがあるにはあった。でも、せっかく入ってきた仲間を早速嫌うような真似はしたくなかったから、あえて二人はギンガを攻撃したことには触れないようにした。

「え、えっと…確かロシア支部から来たんだよね。あそこ寒いんでしょ?どんなところ?ねぇ、ねぇ!?」

「そうね。せっかくアナグラに来てくれたんだし、何かお話でも…」

サクヤもコウタに乗って、親睦を深めるための会話をかけようと考えてアリサに話しかけてみるが…。

「…どうしてあなた方にそんなことを言わなくちゃいけないんですか?言っておきますけど、私はあなたたちと馴れ合う気なんで一切ありません。

『旧型は旧型なりの仕事をしていただければいい』と思いますから」

「な…」

返ってきた言葉はまたしても冷たいものだった。コウタだけじゃない。ここにいる…いや、全ての旧型神機使いを、彼女は真っ向から否定したのだ。二人はアリサからの言葉通りの拒絶に呆気にとられた。

「そういえば、あなたでしたね。私と同じ、新型のゴッドイーターは」

そんなコウタたちを無視し、アリサは続いてユウの方に振り向く。

「ま、私と同じ新型神機使いだからって、私の足を引っ張らないでくださいよ。先刻のミッションでも、一人『無様』にはぐれていたみたいですし」

「………っ!」

ユウは内心、アリサのあまりの言い分にかちんときた。わざわざ『無様』という言葉を強調して。

ユウがギンガにウルトライブしていることは、彼とタロウ以外誰も知らない。はぐれたととられても当然だ。結果として一人だけ、仲間たちの目の届く場所から消えていたユウさえも、アリサは露骨に見下してきた。

「じゃあ、私はこれから訓練ですから失礼します」

アリサはただ一言言い残し、さっさとその場から立ち去っていった。

取り残された第1部隊メンバーたちだが、彼女がエレベータに姿を消したと同時に、コウタが不満をぶちまけた。

「…~~んだよ!せっかく人が仲良くやってこうって思ってんのに感じ悪いな!ギンガを攻撃した事だって水に流すつもりだったのによ!」

コウタはウルトラマンギンガを強く信頼している。おそらくアナグラの中では、ユウの次に一番かもしれない。だからアリサがギンガに向けて銃撃を仕掛けたことには動揺した。

「こ、コウタ落ち着いて。ここに来たばかりで気が立っているかもしれないじゃない」

「けど、だとしてもサクヤさんだって心の中でムカついてたんじゃないの?」

「それは…まぁ…あの言い方は無いとは思ったけど…」

サクヤもアリサの刺々しさだけでは収まらない言い分には、内心では流石に頭にきていたようだ。けど、やはり大人としての落ち着きがそうさせたのか、コウタのようにはっきりと不満を口にせず、ぐっと堪えた。

「ソーマだって、流石にムカッて来ただろ。かわいいのにもったいないよな」

「コウタ、もう…」

コウタはソーマに話を吹っかけるが、どこか下心のある部分を含めた言い方にサクヤは少し呆れた様子を見せた。

「…………」

「…お、おーい。せめて何か一言言ってくれよ…」

しかしソーマは、さっきから腕を組んだままソファにすわり、我関せずといった様子だった。アリサのことに興味を示したような様子を一切見せなかった。

 

 

 

「ドクター、先のアリサ君の行動…一体これはどういうことかな?」

あれから…支部長室にて、ヨハネスによって呼び出しを喰らった人物がいた。

「は、はぁ…どういうこと、とは?」

その男の名は…『大車ダイゴ』。

新たな新型神機使い、アリサ・イリーニチナ・アミエーラと付き添いでこの極東支部に転属となった医師である。

突然ヨハネスから呼び出されたこと、そしてたった今問われた質問の意味が理解できず大車は困惑していた。

「とぼけてもらっては困る。光の巨人…コードネーム『ウルトラマンギンガ』に対する彼女の発砲行為だ。

迂闊なことを吹き込んだのではあるまいな?」

大車とは支部長席と挟み、背を向けている形でヨハネスは尋ねる。その姿勢のままわずかに顔を振り向かせて大車を見ているときの彼の目には、確かな威圧感が存在していた。

「い、いえ!あの巨人が新種のアラガミなのではと思い…」

その目から放たれるプレッシャーに大車は息を詰まらせかけながらも、ヨハネスからの質問に答える。

「確かにウルトラマンを新種の、それもかなり危険な種のアラガミと断じる者もいることだろう。しかし彼からはオラクル細胞の反応はなく、少なくとも今のところウルトラマンが人類に手を下した情報はない。

わざわざ勝てもしない相手に手を下すのは、ゴッドイーターとして致命的な欠陥だ。しかも、意図は何であれウルトラマンはこれまで我々の仲間を救ってくれたと言う事実がある」

「う…ですが、それがもし間違いだったら…」

「だとしても、今のところ彼が敵であることがはっきりしていない以上、余計なことは吹き込まないでもらおう。おかげで、ウルトラマンが彼女に対して余計な警戒心を抱かせることになる可能性が高い。そうなれば、ウルトラマンが我々を敵とみなし、ゴッドイーターたちに危害を加え、計画に大きな支障をもたらす存在になることも否定できない。

これは上層部の決定でもある。以後、アリサ君には慎んでもらうようにしてくれ」

「は…以後、気をつけます」

「それでいい。では…私はこれから一端極東支部から出張する」

机の上に置かれた鞄にノートPCを、胸のポケットに携帯端末を仕舞うと、彼はそれを手に支部長室の出口に向かう。

「どこへ向かわれるのですか?」

この部屋の主であるヨハネスが出る以上、自分がここに留まるわけにもいかず、大車もヨハネスに質問をしながら後に続く形で部屋を出る。

「こちらにいた新型君の家…通称『女神の森』だ。まだあちらの『総統』とはゆっくり話をつけていない。

あそこに直接行って、確かめてみたいものもあるんだ。

では、私はこれで」

エレベーター前にたどり着いたところで、ヨハネスはエレベーターに乗り込み、大車に軽い別れのあいさつを終えて上の階へ降りて行った。

 

 

 

「しっかし、レアものの新型が二人もいるなんて、ここぐらいじゃないですか?」

エレベータ内にて、書類の引き継ぎのためツバキに同行していたリンドウが、彼女に話しかけてくる。

「ああ、そうだな。だが本部の意向で、今後は新型神機の適合者発掘が優先されている。お前もその理由はよくわかっているはずだ」

「理由…まぁ、確かに」

一つしか思い当たらない。

フェンリル本部も、極東に出現したオウガダランビア、ドラゴード、グボロ・グビラ…巨大アラガミよりもさらに巨大さを誇る超大型アラガミの存在を無視できなかったのだ。少しでも新たな武器に頼り、対策を練るのは自然といえる。

「しかも、先日のミッションでお前たちが遭遇したとか言う怪人のこともある。アラガミを強制進化させたこと、また奴自身も巨大化したという話は上層部も無視できなかった」

怪人、間違いなくマグマ星人を名乗った、タイツ姿の男のことだ。奴のことについてはアナグラ内でも広まっており、マグマ星人はすぐに要注意人物として認定されていた。

「この先も新型の投入のほか、新たな打開策が必要となるに違いない。そのためにも新型であるユウとアリサも磨いておかねばならん。ただ…」

「ただ?」

「アリサはロシア支部にいた頃から、対人関係にも難があったと報告書にあった。どうも彼女の場合、精神面に不安があると診断されていてな。主治医によるからの定期的なメンタルケアを組まれているそうだ。まぁ、とにかく注意を払ってやってくれ」

「厄介なことですねぇ…無愛想の役はソーマだけで事足りてるってのに」

「それもリンドウ、隊長であるお前の務めでもある。あいつらの前で弱音は吐くなよ」

「了解です、姉上」

「…リンドウ、同じことを何度言わせる気だ?」

「いいじゃないですか少しくらい。ここには俺とあなたしかいませんよ」

「まったく…」

常に厳しく対応する彼女とは対照的に、飄々とした対応をとるリンドウ。対照的な弟の反応に、ツバキはため息を漏らす。といっても、ツバキは個人的にリンドウのこの飄々とした姿を否定することはなかった。寧ろ自分には無い美点だろう。あまり厳しく当たるだけでは後輩たちはアラガミよりも先人たちに恐れを抱くようでは話にならない。リンドウのような軽く、安心感を持たせられるような男も必要だろう。

そう思っていると、エレベータの扉が開かれ、ある男が姿を見せた。

ヨハネス・フォン・シックザール支部長だった。

「支部長、これからお出かけですか?」

「ああ、リンドウ君にツバキ君か。これから私自身が直接会っておきたい人を尋ねに行くことになってね。

すまないがアナグラを空けることになる。留守を頼むよ」

「了解しました。お気をつけて」

ツバキの敬礼を背に受け、ヨハネスはエレベータの中に消えた。

「会いに行く、か。支部長もいい女をデートにでも誘ったんですかね」

「馬鹿者」

いつもの調子の良い言い回しに、ツバキは一発バインダーで弟の頭を軽く叩いた。

「姉上、その叩き方やめてくれよ。後輩たちに見られたら恥ずかしいじゃないですか」

「ここにはお前と私しかおらんからかまわんさ」

不敵に笑ってみせる姉に、リンドウはやはりこの人にだけは敵わない、と心の中で思った。

 

 

 

「そうか、ギンガにライブした君を攻撃した彼女は…」

「うん…」

自室に戻ったユウは、タロウにアリサのことを話した。内容を聞いて、タロウは残念そうな反応を示した。せっかくの後輩の新しい仲間が、平気で他人を見下すような隊員だなんて、あってほしくないことだ。

「あんな子が新しい仲間だなんて…!」

ベッドに腰掛け、ぎゅっと彼は膝の上で拳を握った。しかし、タロウは落ち着いた声でユウに諭す。

「ユウ、君の気持ちは痛いほど分かる。だが、人生とは時にこのような人物と出会うこともある。堪えるんだ」

「……」

タロウ自身も、かつては人間として地球に留まっていた時期があるから嫌なタイプの人と会ったことが多々あるのだろう。でも、ムカつくからってこちらから叩きにかかるとかえって自分たちの首を絞めてしまいかねない。

「しかし、あの戦闘でマグマ星人とグビラに逃げられたのは痛かったな。またいずれ奴らは牙を向いてくるに違いない」

「…そうだね」

『一つ下の弟』をはじめとしたウルトラ戦士たちが交戦したことがあるから、マグマ星人の厄介さはタロウの方が良く知っている。強敵をみすみす取り逃がしてしまった。これは今後の痛手として影響することだろう。だからこそ、あのときのアリサの行動は許しがたい。あそこで彼女が邪魔さえしてこなかったら…。

「今日はもう寝た方がいいだろう。あまり苛立つと明日に影響してしまうぞ」

「…わかった。じゃあ、お休み」

またユウがアリサに対して不満を抱き始めたのことに気付き、タロウは就寝を促す。ユウもこれ以上アリサのことを考えるのはやめにした。考えたところで苛立ちしか募らない。だったら考えるのをやめて、いっそどっと寝てしまった方がいい。

寝巻に着替え、彼は次に備えて眠りについた。

 

 

 

グボロ・グビラとの戦闘ミッションからしばらく経った。

アリサはツバキから聞いていた通り優秀だった。接近戦を考慮した剣の訓練ではダミーのアラガミたちを開始からほとんど時間をかけずに一掃し、獣の訓練についてもコウタがダミーと分かっても思わず転んでしまって失敗を犯したことに対して、彼女はそんな凡ミスは一切せず、銃のみでダミーアラガミを一体残らず消し飛ばした。

今こうして順番待ちの間、ユウはガラス越しに訓練場を見渡せるフロアから、アリサの訓練中の様子を見ていた。

「おぉ、この数値は…実に興味深い!」

サカキ博士も新型神機について強い興味を示していたのか、アリサの訓練を見学しにきていた。コンピュータのディスプレイ画面に映る数値を見て猛烈な反応を示している。

「新型神機を手足のように使いこなしてますね。銃形態への切り替えもユウ君より早い」

リッカも神機の整備士としては新型神機に注目せずにはいられず、アリサの訓練を見学にきていた。

『目標を全て撃破しました』

5分も経たず、通信回線越しにアリサが目標のダミーアラガミを全て撃破したことを報告する。

「あ、うん。ご苦労様。記録は…」

今回の訓練は、ダミーの討伐数が目標の数に達するまでのタイムを計るものだったが、ユウは画面でその時間を見て目を丸くする。

(僕よりも早い…)

ユウも同じ訓練をしたことがあるが、アリサと比べるとまだ幾分遅かった。新型だから得意げになっていたわけではない。彼女は事実上の天才的才能の持ち主でもあった。

「これは同じ新型として負けられないんじゃないかな?」

同じ新型ということもあり、ユウに対してちょっと炊き付けるような言い方をしてみる。

が、ユウからは返事はない。

「ユウ君?」

静かに彼はアリサの戦いを見ていた。

『ユウ、彼女の戦い方についてだが』

『タロウ?何か気になるの?』

脳内に、タロウの声が聞こえてきた。実はタロウも、ユウのジャケットの胸ポケットに隠れる形でアリサの訓練を見学し彼女の動きを観察していたのである。

『…いや、なんでもない』

しかし、意味深な声を漏らしておきながらタロウはその場でそれ以上何も言うことはなかった。

演習、座学共に優秀ではあるアリサ。しかし、タロウは彼女の持つ危険さを、一度見ただけで察していた。それがどんなものなのかまでは明確に見極め切れていないが、よくないものであることなのは確かだ。

 

 

 

壁外での討伐任務にて同行者をアリサとサクヤ、そしてリンドウとしたミッションだった。出撃前、美女二人と任務に同行することになったことについてコウタから羨ましがられたが、ユウはそんな気分に全く浸れなかった。それにリンドウもいる。それについてリンドウが「一人余計なおじさんが混じってて悪いな、新入り」と出発前に茶化してきたのは余談である。…何を言うのやら、『まだ26歳』。

場所は、リンドウがソーマとサクヤをつれ、ヴァジュラを撃破した場所でもある廃都市『黎明の亡都』。そしてエリア内にはオウガテイルやザイゴードといった小型のアラガミたちがぞろぞろと揃っている。

「今日は新型の両方とのミッションか。まぁ、足を引っ張らないように気をつけるんでよろしく頼むわ」

「足を引っ張るって…」

寧ろ経験不足なこっちの方が引っ張ってしまうとしか思えない。

「そうですね。隊長さんなんですから、足を引っ張らないようにお願いしますよ」

一方でアリサは不遜な態度を崩さない。ユウとサクヤは堪えはしたが、内心に沸いた不快感を抱かずにはいられなかった。

「…そろそろ時間だな。

今日はこのエリアにいる小型アラガミを一掃する。俺とユウが前衛だ。アリサとサクヤは銃で後方からバックアップ。

今回の任務の目的はアラガミを倒すことではなく、第1部隊内のチームワークを築くことが目的だ。いいな?」

「「了解」」

ユウとサクヤは了解する。

「アリサ、ユウ君のフォローをお願いね」

サクヤが、改めてアリサの方を見て、ユウの背中を任せてもらおうと思って声をかけた。

「必要ありません。私一人で十分です」

しかし、またしても帰ってきたのは拒絶の意思表示。

「アリサ…!?」

「それに、チームワークなんてものに頼るなんて…よほど自分の腕に自信が無いんですね。それじゃ」

「ちょ、ちょっとアリサ!待ちなさい!!」

そう吐き捨てると、サクヤの引き止める声を無視してアリサは神機の剣形態、赤い刀身のロングブレード『アヴェンジャー』を担いでそのまま行ってしまった。

「ったく、ロシア支部の奴らはあいつに何を教えてきたんだよ…」

リンドウもこの手の新人に流石に頭を悩ませた。いくらなんでも仲間を省みなさ過ぎるのではないか。

「仕方ねえ、作戦変更だ。俺がアリサをフォローする。新入りとサクヤは銃で後方支援だ」

「り、了解…!」

全く、なんて勝手な奴なのだろう。心の中で毒を吐くが届くはずも無い。サクヤはステラスウォームを構え、ユウは神機を銃形態に切り替えた。リンドウは二人からの了解を聞いて、すぐにアリサの援護に向かう。

リンドウの接近に気づき、ザイゴードたちが彼に迫る。しかしリンドウは構わずに、向こうでオウガテイルを切り裂くアリサの元に向かった。

しかし、アリサの戦い方は訓練時のときもそうだったが見事なものだった。舞うように迫り来るアラガミたちを切り裂いていく。リンドウもアリサに気を配りつつも、自分に近づくアラガミを蹴散らしていった。ユウは二人を見て援護など必要だろうか、そんな疑問さえ浮かぶ。とはいえ、言われたことはこなすのみ。二人に近づいてくるアラガミを一体でも多く撃ち落すことにした。

その後、アラガミたちは小型のみしか出てこなかったこと、リンドウやサクヤという強力な同行者もいたこともあり、結果としてはミッションはあっさりと成功した。

…のだが、『チームワーク増強』という当初の目的とは大きく外れてしまった。

「なんでリンドウのいうことを聞かなかったの、アリサ!」

「聞くまでも無いからです」

「チームで動く以上、ちゃんと仲間との連携を重視しなさい!…ちょっと、聞いてるの!?これはあなたのためでもあって…」

ミッション終了後、サクヤはチームを完全無視した個人プレイに走ったアリサに説教と飛ばしたが、アリサは後輩という立場を全くわきまえない不遜な態度だった。どこ吹く風のごとくサクヤの言葉を聞き流している。

「…まーためんどくせえことになりそうだな」

リンドウはタバコをふかしながら、サクヤとアリサのやり取りを見て険しい表情を浮かべた。

『…全く、リンドウ君の言うとおりだ。一体ロシア支部で彼女は何を学んできたのだ。あれではいつか自分の方が足を引っ張ってしまうぞ』

ユウの胸のポケットに身を隠している状態のタロウも、サクヤやリンドウと同じ反応だった。

「はぁ…リンドウさんじゃないですけど、めんどくさそう…」

ユウも流石に、これ以上放っていたままなのは危険かもしれないと考えた。いくら優れた力を持つエリートで、新型だからって、何でもできるはずが無い。

寛恕と似たような態度をとるソーマの場合もあるが、あれはエリックやリンドウという貴重な理解者がいるから、乱暴な一面が強いがユウ個人としては悪感情までは抱くことは無かったのだが…。

サクヤとアリサのいがみ合いが終わっていない。アリサに説教をしていたサクヤだが、アリサは無視し続け指先で髪をいじり、鼻で笑い飛ばしている。

あからさまに馬鹿にしてきている態度にサクヤは眉間にしわを寄せた。このままではいくら寛容さを持つはずのサクヤが、堪忍袋の尾を切ってしまう。

「二人とも、もう帰りましょう。今回の任務は達成したんだ」

「…そうね」

「ふん」

「まぁサクヤ。こいつは気難しいだけで悪い子じゃないはずだ。大目に見てやってくれ」

と、リンドウは屈託無く笑みを見せ、アリサの頭に軽く手を載せた、途端のことだった。

「きゃあああ!!?」

いきなりアリサが悲鳴を上げてリンドウの前から一歩後ずさった。

「…あ~あ、ずいぶん嫌われたもんだな」

「い、いえ…驚いただけです。何でもありません…」

アリサはそういうが、その割りにはどこか妙だ。息が荒く、落ち着きが無い。あまりの慌てように、リンドウも一瞬驚いてしまったほどだ。

「リンドウさん、気軽に女の子に触るのはセクハラですよ。それもサクヤさんの前で…」

すると、ユウが少し意地の悪い笑みを浮かべてリンドウを軽くからかって見せた。

「お、おいおい!俺はそんな下心を出したつもりは…」

「やだわリンドウ、もしかしてそっちの気があったのかしら?」

無論リンドウの名誉のために言うが、彼にそんな気は無い。が、悪乗りしたサクヤが目を細めて怖い笑みを浮かべる。

「お前ら、わざとだろその顔…ったく。

…あ~こちらリンドウ。迎えのヘリをくれ」

頭をぽりぽりと掻きながらも、リンドウはひとまず持参してきた携帯端末でアナグラに迎えの連絡を入れる。

してやったり。気まずそうなリンドウを見て、サクヤと二人で笑いあう。

落ち着きを取り戻したのか、アリサがユウに近づいてきた。

「…こんなこと言いたくなかったんですけど、極東の人たちって自覚が足りないんじゃないんですか?」

「自覚?」

「戦場の真ん中なんですよ?へらへらしすぎだと思うんですけど?特に、隊長さんとコウタさん…でしたっけ?いくらなんでもいい加減すぎます」

「…あ、うん」

いい加減さがある、ということについては否定できないが…だからといって周りを見ないこの子もどうかと思う。そう内心で呟いた。

 

 

さらに頭を悩ませる事態が起きた…。

 

 

この日、アリサ、ソーマ、エリックと共に防衛班のタツミらと共に、防壁に群がり始めたアラガミの掃討作戦に入ることになった。

「やぁ、君が二人目の新型君かな?僕はエリック、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。君も…」

「あなたが誰だなんてどうでもいいです。さっさと今日の任務を片付けてしまいましょう」

「へ…」

早速自己紹介をしてきたエリックに対しても、不遜な態度を変えなかった。完全にエリックを邪魔者扱いし、アリサは神機を閉まったケースを持って車に乗ってしまう。

「ふ、な…なかなか癖のある新人君のようだね」

顔を引きつらせながらも、エリックは本人曰く、貴族らしく寛大な心を大事にするためもあって、アリサの態度に対して不満を露にしようとはしなかった。…ぜんぜん平気そうに見えないのが気になるが。癖があるという点ではエリックも変わらないと思うが、現時点で彼の方がアリサの何倍も親しみ深さがあるのでマシだろう。

「……行くぞ。乗れ」

ソーマはユウに乗るように言うと、運転席に座る。あれからアリサとは一言も話していない。というか、最初から全く会話しようとしなかった。ソーマ自身、彼女と話なんてしたくないのだろう。

「…それにしても、極東に来てもまた防衛任務ですか…つまらなかったですね」

走行中、アリサがつまらなそうに呟く。

「嫌なのかい?」

エリックからの問いに当たり前だといわんばかりにアリサは続けた。

「防衛任務はロシア支部にいた頃からうんざりしてましたから」

「…ふう…アリサ、防衛任務も立派な任務だよ。僕たちの帰る家を守るためのね」

ユウも口を挟んで大事なことだという念押しを図ってみる。

「それについては否定しません。でも、そんなのは防衛班の方々に任せてしまえばいいじゃないですか。私はあくまで壁外での討伐任務を希望していたのに…人の希望を聞かないんですね」

(聞いてないのは誰だよ…)

アリサに対して心の中で突っ込みを入れていると、防壁に到着し、現場で先に待機していた防衛班メンバーたちと合流した。

「よぉ、期待の新人もいるようで頼もしいな!」

到着し、4人が車を降りると、防衛班メンバーたちが出迎えてきた。

「ソーマとエリックはもう知り合ってはいるが、そっちの二人とはまだあんまし会話してなかったな。

俺は大森タツミ。防衛班班長、および第二部隊の隊長をやってる者だ」

「第二部隊所属のブレンダン・バーデルだ」

「だ、台場カノンと申します!同じく第二部隊です。よ、よろしくお願いします!」

自己紹介をされて、ユウはこの人たちとはまだあまり話していなかったことに気づいた。ドラゴードが出現した際は同じ現場にいたのだが、

「お前さんが神薙ユウだな。リンドウさんから聞いてるぜ。『なかなか将来性のある奴が来た』ってさ」

「そ、そうでしょうか?僕なんて皆さんに比べたらまだ経験不足ですし」

それに元をたどれば自分はフェンリルに反目していた。今こうして期待を寄せられると、嬉しくないわけではないがちょっと気まずい思いを抱かされる。

「そっちとは初めて会うな。俺は第3部隊のカレル・シュナイダーだ」

「同じくジーナ・ディキンソンよ。よろしく…」

第3部隊のメンバーたちは、ユウとは会ったことがあるがアリサとは始めて会話をすることとなるので、彼女に向けてとりあえずの自己紹介をした。

「…?どうしたシュン、自己紹介は?」

が、シュンだけはすぐにそれをしなかった。恐らく、ユウの姿が目に入ったからだろう。以前のいざこざもあって、今の彼にとってユウはむかつく生意気な後輩というイメージが定着しつつあったのだろう。

「…ち、小川シュンだ!

いいか、前にも言ったがてめえ!新型持ってるからって調子に乗んなよな」

アリサに向けて、未だ未熟な癖にお高くとまろうとしている感が丸出しの先輩風を吹かせながら彼は怒鳴り散らした。

「あなたちこそ、長いだけのキャリアを盾にしないでくださいよ?」

今の台詞は、この場にいる自分以外の全員に向けたものだった。それに対して、第二部隊メンバーは絶句、カレルもイラつきを覚えて目を細めた。

「それに神薙さんでしたか。あなたなんかに目をかけるなんて、雨宮隊長には人を見る目が無いみたいですね」

さらにはユウを評価したリンドウに対する陰口を堂々と言ってのける。自分が馬鹿にされたこと異常に、自分を評価してくれたリンドウを馬鹿にしたことの方に、ユウはアリサに対してカチンと来る。

「…新型ってのはどいつもこいつも生意気な口ばっか聞きやがるんだな…よーくわかったぜ!」

露骨に舌打ちし、アリサをギロリと睨みつける。アリサはシュンから向けられる視線を無視し続けた。

「はぁ…」

ユウはため息を漏らす。またこれか。いい加減この態度を改めてくれないだろうか。

「あーはいはい!皆注目!今作戦の概要を説明するぞ」

これ以上場の空気がギスギスすると任務に支障が出ると考えたタツミが、作戦についての話をするためにみんなに向けて呼びかける。シュンも作戦概要と聞いて、アリサへのガン飛ばしを止めた。

「今回は防壁に張り付き始めているアラガミを掃討する。前線は俺・ブレンダン・ソーマ。中衛はユウ・シュン・アリサ。

後衛はジーナとカノン、そしてカレルで行う。

ユウと、アリサ…だったな。まだ新人のお前さんたちは大物は相手にするな。そっちは俺たちに任せてくれ。

今、『ヴァジュラ』も一匹寄り付いてるからな」

「ヴァジュラ…」

ユウとコウタは、アリサも極東に来てからは、サカキ博士からの講義を受けるようになった。そのときにヴァジュラのことも聞いているし、実際に遭遇した。大型種の中でも特に相手になることが多いと考えられる、虎の姿をした大型アラガミ。無論大型種だから神機使いになりたてのユウにはきつい相手だ。

「了解しました」

ユウは返事をしたが、アリサは無言だった。それを見て、ユウは彼女がまた何かやらかすのではと懸念した。

「うまく連携してここを守り抜くぞ」

ユウの不安など露知らず、タツミは皆に向けて気合の一言をいれる。

そしていざ防衛任務は始まったのだが…またしてもアリサは独断専行したのだ。

「どいてください」

「ちょ、おま…!」

「っ!」

ちょうどそのとき、オウガテイルを相手にしていたタツミとジーナを突き飛ばす。抗議を入れようとした彼を無視し、迫り来ていたオウガテイルを縦一直線に切り落とした。さらには、二次の方角でコンゴウの相手をしていたブレンダンとシュン、エリックのほうに向けて、神機を銃形態に切り替える。

「っ!ブレンダンさん、シュン!エリック!避けて!」

いやな予感がして、ユウがとっさに三人に呼びかける。彼の声を聞き、二人はユウの方を見ると、その呼びかけの意味を理解した。アリサが銃を向けていたのを見て、ブレンダンとシュンは慌てて避けた。

「ひええええええええ!!」

が、反応が遅れたエリックはアリサの銃撃の爆風に煽られ、飛ばされてしまう。

「エリック!」

「て、てめえ何しやがる!!」

無論、沸点の低いシュンがキレない訳がなかった。案の定アリサに食って掛かろうとしたが、アリサは構わずシュンたちが戦っていたコンゴウに向け、神機を捕食形態に切り替えた。

「…いただきます」

がぶり!と彼女の神機がコンゴウの頭を砕く勢いで食らいつく。頭を食いちぎられ、そのコンゴウは倒れて事切れてしまった。

コンゴウを食らうと、アリサの体がわずかに光をともす。

『バーストモード』。接近型神機は生きた状態のアラガミを捕食形態で攻撃し食らわせると、そのアラガミのオラクルを吸収し、一時的に持ち主を一定時間の間のみのパワーアップの恩恵を与える。

バーストしたアリサはさらに動きを高めた。地を蹴って、今度はソーマ、カレル、カノンが相手にしていたアラガミと。

そのアラガミは…なんとヴァジュラだった。すでにカノンとカレルの銃撃、そして前衛であるソーマの銃撃で結合崩壊を起こしていたが、アリサは彼らを跳ね除け飛び出して行く。

「おい!そいつは…」

俺の得物だ。カレルの言葉など聞こえていない。その赤く染まった刀身を振り下ろし、ヴァジュラに深い傷を負わせる。ヴァジュラはすでにソーマたちとの戦闘でボロボロなこともあって、反撃の気力も失っていた。

「…死んじゃえ。跡形も無く」

剣を振り下ろしながら、アリサはヴァジュラに言った。

すでにソーマたちの交戦でダメージを追っていたとはいえ、アリサはその言った地で大型アラガミのヴァジュラを見事しとめて見せた。

 

 

そこまでならまだよかった。そこからは、あまりに吐き気を催すほどの光景だった。

 

 

アリサはヴァジュラを生きたまま剣でブジュ!と血の吹き出る音を鳴らしながら、ヴァジュラの体を、『解体』し始めたのだ。

 

 

全身に、おびただしい血を浴びながら…。

 

 

「っ!」

「ひぃ…!」

絶句するタツミ。一度は、いつもの癖でアリサに構わず銃を撃ちそうになったカノンも、その気が失せるほどだった。両手で口を隠して青ざめている。ブレンダンはそれを見かね、自分の背中でその光景を遮る。

「うげ…!!」

「こいつ…」

一度は任務終了後に、アリサに文句を言ってやろうと考えていたシュンはもとより、カレルも白い目でアリサを見た。

「…ちょっと品性がないわね」

ジーナはアラガミを撃ち抜くことが趣味のようなタイプだが、そんな彼女もアリサを見てあまり良い感情を持てなかった。自分とどこか通じるものがあるとは思っていたが、あそこまで行くとなると、流石の彼女も許容し切れなかったようだ。

「だ、大丈夫エリック?」

「あ、ああ…華麗さ皆無な姿を見せてしまったね」

ユウは、爆風で叩きつけられたエリックに肩を貸す。エリックは先ほど吹っ飛んだ際の悲鳴が自分でもどこか情けない感じに聞こえるものだったこともあり、少し気恥ずかしそうにしていた。

「それにしても、アリサ君のあれは異常だ。華麗さのベクトルから完全に外れている」

サングラス越しにアリサの姿を見て、表情を不快な思いで険しく歪ませながらエリックはそう言った。ユウもアリサを見て、もはや不快感を覚えずにはいられなかった。

そのとき、ヴァジュラを解体するアリサの顔を見てユウはぞっとした。

アリサの表情が…。

 

(笑っている…!!?)

 

簡単に言えば、冷笑。相手を痛めつけて悦楽に浸る恐ろしい笑みだった。

もはや、そこに人類の守護者ゴッドイーターとしての姿はない。

そこにあるのは…まるで…

 

 

人の姿をしたアラガミのようだった。

 

 

『やはり、そうだ』

ふと、ユウの懐のポケットからタロウがわずかに顔を出してアリサを見る。

『あの戦い方は内に秘めた感情をそのまま敵にぶつけているようだ。あのままの戦い方を続けていれば、いずれ彼女自身の身を滅ぼすことになってしまう』

アリサの戦いを見るのはこれで三度目だが、ここでタロウは、アリサの戦い方に対する違和感に確信を抱いていた。

『内に秘めた感情?』

『恐らく……憎悪だ』

憎悪、それを聞いてユウはどこか納得できた気がした。このご時勢だ。アラガミに大切な人を奪われた人など大勢いる。もし神機を握れたら、その人の仇をとりたいとも思うだろう。かく言う自分も、そんな時期があったから理解はできる。できるのだが…。

『異常すぎる…』

『…ああ、いくらなんでも、まだ年端もいかない少女の姿とはとても思えん』

さすがのタロウもアリサの姿に完全に引いてしまっていた。笑いながら相手を殺すゴッドイーターだなんて…。

「…」

ソーマは神機を担いでそのまま防壁の方へ行く。

チームワーク完全無視、それでいてヴァジュラに対する異常すぎる解体作業。ミッション成功、勝利の喜びなど全く無く、アリサのことについては不安ばかりが増す。そしてその不安は的中する。

 

 

 

次の日から、ユウ宛にメールが良く届くようになった。

「はぁ…またか」

メールを閲覧した途端、うんざりしきった様子でユウは肩を落とした。

「なんだ?メールが来たのか。む…」

妙に肩を落とした様子の彼が気になり、肩に乗る形で姿を見せたタロウがメールを見てくる。読み上げた途端、タロウもげんなりとした様子を見せる。

メールの内容は、いずれもアリサがらみのクレームのようなものだった。しかも総数は『数十件』にも上っていた。特にシュンとカレルからのメールが酷い。

いずれも、「あの生意気な態度をどうにかしろ」「あいつとのミッションなんかもうご免だ」といった内容だ。

「大丈夫かな…こんなんで」

「こういったことはなるようになるしかあるまい。何時の時代でも、彼女のような人間はどうしても出てしまう」

「そうだけど、それでもやっぱり不安に思わざるを得ないよ」

リンドウの話にあった、アリサのメディカルケア。精神面に関してアリサ自身も難がある。でも、精神的に問題があると診断されても、どの道彼女が他人との折り合いが悪いことに変わりない。

すると、タロウは口調に重みを乗せながら言葉を発した。

「…ユウ、この世界は我々が現役だった頃と比べ、過酷な上に狂っている。だから私も含め、誰しも心に余裕を持てない者や、彼女のように己自身しか見つめていない者もいることだろう。しかし、だからこそ君が覚えておかなければならないことがある。

これは私の兄の受け売りなのだが…」

 

 

「優しさを失わないでくれ。

弱い者を労わり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。

例えその気持ちが、何百回裏切られようと。

それが我々ウルトラ戦士の、変わらぬ願いだ」

 

 

先人からの切なる願いが、その短い言葉の中に詰まっていた。

「我々ウルトラマンも防衛任務に就いたときは、人間の姿を借りるか、人間と一体化しなければならなくなる。当然異星人である我々や、我々と一体化したことで超人的な力を得た者たちが地球人との間に衝突が起きたり溝が起きることがあった。時には悪しき心を持った人間のせいで絶望し使命を忘れかけたこともあった。

しかし、それでも人々に安息のときを取り戻すためにも、澄み渡るような心を忘れてはならないのだ。

君が、ゴッドイーターとなり、ウルトラマンの力を得たことがきっかけで、再び自分の夢を見つめることができたように」

「タロウ…」

 

 

 

優しさを失うな…か。簡単に言うが、本当にできるのだろうか。

ユウは留守をタロウに任せて部屋を出ると、懐からギンガスパークを出す。

(ギンガ…あなたはどう思う?)

もし自分という変身者がいなくても、ギンガならアリサに対して何かためになるようなことをしてくれるだろうか。しかし、ギンガはタロウと違って、ユウに語りかけることはほとんどなかった。あとは自分で考えてみてくれ、ということなのだろうか。

…考えても仕方がない。喉が乾いたこともあり、廊下の自販機から何かドリンクを買いに出ると、リンドウと出くわした。

「リンドウさん?」

「よぉ。今日もアリサの奴ともめたみたいだな」

リンドウはコインを自販機に入れると、二回ほどボタンを押し、二本のドリンクを取り出し口から出した。

「ほら、飲めよ」

「…すいません、いただきます」

ユウは遠慮せず、それを受け取る。

「…あの子なんだけどな、どうも訳ありらしい」

「訳あり?」

「姉上情報だが、精神が不安定らしくてな。メンタルケアを定期的に受けてんだ」

「メンタルケア…?」

そう聞いてユウは目の色を変えた。

「まぁこんなご時世、お前も含めていろんな悲劇を背負ってる奴はいる。お前もそうだったからフェンリルを白い目で見ててたんだろ?」

「……はい」

否定なんてできない。親の顔も覚えておらず、最近は妹の顔さえも記憶の中から霞み始めた。だが、アラガミに家族を奪われたことは今でも覚えている。そんな家族を救えなかったフェンリルに当り散らしていた。

アリサも、同じなのだろうか。だからあの時、ヴァジュラをあんなおぞましい形で…。

「けどま、失った痛みは一人で抱えこまねぇ方がいい。寧ろ誰かに吐き出して痛みを分かち合うのがいい。その方がずっと気楽だと俺は考える」

頭上に顔を上げ、遠い目で空を見上げるリンドウ。一見飄々としている彼自身にも、何か引きずり続けている痛みがあるのだろう。

「…同じ新型のよしみだ。あの子の力になってやってくれ」

…アリサのあの態度にカリカリしすぎていたかもしれない。彼女だって別に好きであんな態度をとるキャラに育ったわけではないはずだ。でもタロウに続いてリンドウのおかげで、少し頭の疲れが取れた気がした。

「…期待はしないでくださいよ?」

そこまで言われると何もしないわけにもいかないが、だからといって何かが解決するわけでもないので、ユウはそう答えた。

「おいおい、そこは『任せてください!』って主人公っぽく言ってくれると、おじさん安心するぞ」

「まだ20代でしょう…」

「それによ、場合によっちゃ、アリサがいい子になってくれて、お前さんの彼女になってくれるかも知れねぇぜ?」

「馬鹿言わないでくださいよ…」

恋愛沙汰に発展したらしたで面倒な気がする。ユウは今ゴッドイーターとして真面目に働き始めた身だ。異性とお付き合いする気なんて起こしようが無いのが彼の見解だった。

でも、優しさを失うな…か。

リンドウがまさにそれを実行しているのを見て、ユウはリンドウの器の大きさと己のメンタル面に関する未熟さ、そしていずれ自分もこの人のように大きな存在となりたいと思うようになった。

 

 

 

極東地域には、アラガミが世界中に出現するようになってから異常な状態となった地域が数多くある。

この、『煉獄の地下街』と呼ばれる場所もそのひとつだ。地下に広がるその場所は、かつては地下鉄とそこに隣接する地下市場が広がっていたのだが、アラガミの影響もあってか、『煉獄』にふさわしいマグマの海が広がっていたのだ。付近には廃棄された電車が転がっており、もう二度とこの場所が栄えることが無いことを物語らせている。

その場所に、一つの人影が車両の積みあがった壁の近くにうずくまっていた。

アリサによって目を潰されたマグマ星人マグニスだ。

「ち、ちくしょうがぁ…」

あの日から、逃亡したマグニスは、目元を押さえていた。アリサの銃撃で破裂させられた目にはガーゼと眼帯が押さえつけられているが、ガーゼの上からも血が染み込んでいる。

「あの小娘、今に見ていろよ…」

脳裏に映る、あの生意気な目つきをした小娘を…アリサを思い出し、憎悪を滾らせながらマグニスは歯軋りした。

マグマ星人の戦士として、あのような下等種族のガキにいいようにされるなどあってはならない。故に必ず報復しなければならない。それも、あいつが生きていることさえ後悔するほどの屈辱と絶望を味あわせなければ。

「OUCH!見るからに痛そうな姿だなぁその怪我はよ!」

すると、怪我の痛みを堪えるマグニスの前に、奇怪な動きをとる怪人が姿を見せた。

「…何の用だ貴様。俺様の今の姿を笑いに来やがったのか?」

「んだよぉ。MeとYouは同じ『エージェント』のFriendだろう?」

顔を上げて目の前に現れた者の姿を拝見する。そこに現れたのは、金色のマスクに赤い目を持つ黒い怪人だった。

「そろいも揃って俺に面倒ごとを押し付けやがって、Friendとはよく言ったもんだな…」

「Oh、ご機嫌NANAME45度って奴~?」

なにやら奇妙かつ奇怪な動き。相手を小馬鹿にしているようなダンスを踊っているようにも見え、マグニスはイライラしていく。この二人は仲間同士らしいが、どうにも折り合いが悪い関係にあるようだ。

「……」

「そうカリカリすんなよ。ちょっといい作戦をThinkingしたのさ。この作戦がうまくいけば…Mr.マグニス、ウルトラマンギンガとあの小娘の両方にRevengeできるぜぇ?それも最も苦痛を与える形の奴を…」

自分の邪魔をしたあの二人への復讐ができる。その言葉が引き金となったのか、マグニスは耳を傾けた。

「…ふん、じゃあとりあえず聞いておいてやるよ」

我ながら現金だとは思うが、どちらにせよ彼にとってウルトラマンは排除すべき敵という認識は拭えない。耳を傾けることにした。

「実はよぉ、この極東エリアに『VeryStrongなアラガミちゃん』が接近中とのことだぜぇ」

「…ほぉ?」

こいつは読めないところもツッコミ所も満載な奴だが、油断ならない奴でもある。そんな奴が注目するだけのアラガミ。嫌にも気にしてしまう。

「そいつを強力な怪獣とFusionさせちまえば、きっとGreetでMoreStrongなMonsterの完成。どうよ?そそるだろぉ?」

「貴様情報というのが気に食わんが…そのアラガミとやらを教えてもらおうか?」

「へへ。そいつはな…」

その怪人…『宇宙海人バルキー星人・バキ』はマグニスの耳元で、彼の知りたがっている情報を囁いた。




NORN DATA BASE

・宇宙海人バルキー星人・バキ
原作「ウルトラマンギンガ」に登場したバルキー星人本人。英語を混じらせた台詞と怪しい動きは健在。最初はキルバと名づけようとも考えたが、「大怪獣ラッシュ」で同じ名前の奴がいたので、とある漫画のタイトルから名づけてみた。…読んだことないが。
彼の語る『VeryStrongなアラガミ』とは…?


・「優しさを失わないでくれ」
『ウルトラマンA』最終回にて、ウルトラ兄弟5番目の戦士ウルトラマンエースがヤプールを倒し地球を去った際、子供たちやTACに対して残した言葉。数十年経った今でもその言葉はファンの間でも語り継がれている。



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