ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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星の降る時

時は未来…。

地球は『神』によって食われていた。

 

 

人類はある日、人類の歴史において未確認の細胞を発見した。発見者たちは、この細胞を仮に『オラクル細胞』と名付けた。

オラクル細胞は一つ一つの生命活動が自己完結しており、いうなれば単細胞生物だ。それだけならまだよかった。

だが、このオラクル細胞には恐るべき特性があった。

それは…。

 

『あらゆるものを食い尽くす』というものだった。

 

オラクル細胞は複数が集合して一匹の獣へと姿を変え、やがて進化を遂げていき、1・2年にも満たない年月で人類を凌駕する怪物へと変貌を遂げてしまったのだ。

既存の大量破壊兵器を用いてオラクル細胞で構成された怪物を攻撃しても、彼らは何度でも再集合し新たな生物となって甦る。そして無機物だろうと生物だろうと何でも食らう。

皮肉にも、その人類共通の敵となった生物の誕生によって、人類同士の争いは終結した。だが、彼らは瞬く間に世界各地に出現し、あらゆる都市の機能をマヒさせ国家を壊滅、事実上世界を支配した。

 

いつしか人々は、人類の天敵となったその怪物たちを、その姿から、かつて日本と呼ばれた極東地域の八百万の神になぞらえ、荒ぶる神『アラガミ』と呼称するようになった。

 

アラガミによって各地に残された人類の歴史を記録したデータさえも多数が消去され、その折り目となった戦いは、人類の記憶には留められていなかった。

そして、同時に…

 

かつてこの地球、いや宇宙を守り抜いた光の戦士たちの存在さえも、人類は忘れ去っていた。

 

アラガミが出現する数十年前…宇宙のどこなのかも不明な暗黒の世界。

その世界では数多の怪獣や悪しき異星人たち、そして…我らがヒーローたちの二派に分かれた戦いが起っていた。

「ヘア!!」「ダアアアア!!」

宇宙恐竜と戦う最初の銀色の戦士。赤き鳥の獣に刃を振う赤い巨人。

その赤い巨人とよく似た容姿を持つ二本角の戦士や、体に紫と赤の模様を刻んだ超古代の巨人。青き慈愛の戦士など、数多の光の戦士たちが、暴れまわる怪獣や異星人たちと激闘を繰り広げていた。

だが、目の前の敵など序の口だった。

突如彼らのいる世界の、闇に染まった空に巨大な黒い影が現れた。

 

 

 

――すべての時を…止めてやる

 

 

 

体から禍々しい赤い光を灯す黒い影は、その手に握った暗黒の道具から、暗黒のオーラを地上に向けて飛ばした。

「「ウワアアアアアア!!!」」

光の戦士も、怪獣や異星人も無差別に、黒い霧のようなそれに抗うことができず、すべてが飲み込まれて消えて行った…。

 

 

 

光の戦士たちがこの世から姿を消し、アラガミによって地球が支配されてから数年後…。

 

元は穀物メジャーであった企業『フェンリル』はオラクル細胞の研究により、アラガミの食べ残しとして生き残った人類の命綱となった。各地に制御されたオラクル細胞で構成されたアラガミ防壁に囲まれた都市『ハイヴ』を提供。さらに人類の希望となる、唯一アラガミに対抗できる兵器『神機』を開発、それを操るためにオラクル細胞を投与された戦士神を喰らう者『ゴッドイーター』を生み出し各地の支部に配備した。

 

 

西暦2071年。

すでにこの時代の地球は、かつての人口の100分の1しか人類は残されていなかった。

かつて日本の神奈川県藤沢市が存在していた都市、『第8ハイヴ』。中央に点在されている基地『フェンリル極東支部』は地下にも施設が広がっていることから、『アナグラ』と呼ばれている。

この地域は特にアラガミが集まっており危険な区域でもあったが、同時に優秀なゴッドイーターが集められ、同時にアラガミ討伐の舞台としては花形でもあったので、第8ハイヴへ移住したがる人間は年々増加傾向にある。だがそれに伴い、居住人数に制限があるため居住を認められない人間が数えきれないほどいるのもまた事実だった。

極東地域のフィールドの一つである、アラガミに喰われた痕が残る教会が特徴の廃墟『贖罪の街』。

夕日に照らされ、哀愁を漂わせる街の、祈る神のいない教会の傍らには、一匹のライオンや虎に似た容姿を持つ大型アラガミ『ヴァジュラ』の死骸が転がり、その周りには死骸を喰らいにやって来た小型アラガミ『オウガテイル』が数匹集まっている。さらにそのオウガテイルを、もう一匹のヴァジュラが飛びつき、喰らいついた。

「……」

近くの廃墟となったビルの陰から、ヴァジュラの捕食を観察する三人組がいた。一人は赤黒い長剣型神機を担いだ黒髪のコートの男、二人目はスナイパー型神機を担いだ黒いボブカットの美しい女性、最後は銀髪に青いフード付きパーカーを羽織った青年がノコギリのような黒い大剣を担いでいた。

「…よし、敵は死体に食いついてるな」

コートの男は二人に視線を向けると、女性は頷き、青年はふんと軽く鼻息を飛ばした。青年はヴァジュラに悟られぬ様、コートの男の反対側の物陰に隠れる。女性も地面にうつ伏せに寝て、スナイパーの銃口を死骸に食いついているヴァジュラに向けた。

コートの男が三の数字を表す三本の指を立てる。数を数えながら、指を引っ込めていく。

「3、2、1……GO!」

掛け声とともにコートの男と青年はヴァジュラに向けて駆け込んだ。ヴァジュラもさすがに全速力で駆けこむ人間に反応し、返り討ちにして喰らおうとしたが、女性の発射した銃弾がその体を貫き通すように突き刺さった。そのダメージで怯んでいる間、コートの男と青年の剣による同時攻撃で、ヴァジュラは体を切り刻まれて倒れ、絶命した。

「うし!今日も仕事終了ってな」

コートの男は神機を死骸となったヴァジュラに構える。死んだはずの敵になぜと思う人もいるだろう。だがこれは、彼らゴッドイーターにとって非常に重大な意味のある行為だった。

コートの男の神機が変形し始めると、彼の神機から怪物の頭のようなものが顔を出し、ヴァジュラの死骸にガジガジと食らいついた。神機が元の長剣に戻ると、コートの男はお、と声を出す。

「レアものだな」

アラガミはたとえ既存の兵器で攻撃しても、彼らの体を構成するオラクル細胞の『核(コア)』を摘出しないと殺すことができないのだ。よって、そのコアを今のコートの男がやったように、神機を通称『捕喰形態(プレデターフォーム)』に変形させアラガミの死体を食わせることで摘出する必要がある。しかも、ゴッドイーターの神機を強化するための素材もアラガミの死骸から手に入れることができるのだ。

「戦果は上場って奴ね。さ、帰りましょう。お腹すいてきちゃった」

女性がコートの男に帰りを促した。

「ああ、またサカキのおっさんがはしゃぎそうだな」

「……こちら第一部隊の『ソーマ』だ。任務完了した。迎えのヘリを出してくれ」

青年は二人の会話に介入しようとはしなかった。持っていた携帯端末を起動させ、迎えを寄越すように連絡先の人間に頼んでいた。

迎えのポイントへ着くと、迎えに来たヘリが、ちょうど降りてきた頃だった。三人は神機をフェンリルのエンブレムが刻まれた特殊なケースに仕舞いヘリに搭乗する。長居するとまたアラガミがやってくるので、ヘリパイロットは三人が乗ったのを確認すると、直ちにアナグラに向けて飛び立った。

ヘリの中で、女性がコートの男に声を変えた。

「ねえ『リンドウ』、今度の配給なんだったか知ってる?」

「うん?この前の食糧会議で、新しい品種のトウモロコシが出るってさ」

「ええ?またあの大きなトウモロコシ?あれ食べにくいのよね…」

「このご時世だ。食えるだけありがたいと思えよ、『サクヤ』」

文句を言う女性『橘サクヤ』に、コートの男『雨宮リンドウ』がたしなめるように言った。

サクヤは後ろの座席に腕を組みながら座っていた青年、『ソーマ・シックザール』に声をかけた。

「ねえソーマ、何かと交換しない?」

「…断る」

低くクールな声で、ソーマは返した。リンドウはそんなそっけない態度のソーマにやれやれとため息を漏らした。懐からライターとタバコを取り出し、一服盛ろうとした彼はちらと外を見た。

地上には見覚えのある地域が広がっていた。現在では『鎮魂の廃寺』と呼ばれている、アラガミに喰われた街とそのシンボルである廃寺。仏像さえもアラガミに喰われてしまい、雪がずっと降り積もり続けている場所だ。

「『降星街』…懐かしいわね」

「ああ…」

サクヤもまた上空からその町を見下ろしながら言うと、リンドウも懐かしみながら返した。

この二人は、かつてあの地域で暮らしていたことがあった。現在では当時の面影を残していない自分たちの故郷に、どうしても切なさを覚えてしまっていた。

「…ん?」

ふと、リンドウは地上…降星町の廃寺に何か、一瞬だけ光ったように見えた。

「どうかしたの?」

「…そういやサクヤ、お前聞いたことあるか?ガキの頃の話なんだが…」

急に子供の頃の話を持ちかけてきたリンドウに、サクヤは首を傾げた。

「降星町のあの寺にはな、呪いを解く御神体が眠っている、なんて話だ」

「?…聞いたことないけど、急にどうしたの?」

「ん?あぁ、気にすんな。大したこったない」

リンドウははぐらかすように何でもないふりをした。きっと目の錯覚だろう。それに、呪いを解くなんてものが存在するなら、この呪われた世界を、人類が安心して生きられる世界に戻してほしいものだ。もっとも、そんな都合のいいものなんてないから、自分たちのようなゴッドイーターが日に日にアラガミと戦い続けているのだが。

だがこの時、上空から見下ろされた降星町の一瞬の煌めきこそが、人類の新たな希望の光となることを、誰も知る由はなかった。

 

 

その頃、フェンリル極東支部第8ハイヴ。

極東地域で生きる人々は、特にこの地域で暮らしている。人口は外部居住区でも13万人、内部居住区である極東基地には1万人の人々が住んでいる。

ここは生産と消費が自己完結しているアーコロジーとなっているため、たとえ他の支部が壊滅しても単独で生き延びることができるのだ。

「ふんふん~」

居住区の道を、少し逆立ち気味の赤茶色の髪をした少年がいた。下手な鼻歌を歌いながら嬉しそうに歩いていることから、何かいいことでもあったように見受けられる。

彼が立ちよったのは、本屋だった。アラガミによってほんの素材となる木々も食われることが多く、本はそれなりに貴重な品でもあった。だがこの日、どうしても彼は欲しかったものがあった。

「…お、あったあった!コミック版『バガラリー』!」

少年漫画のコーナーに置かれていた一冊の漫画を手に取った少年は飛び跳ねるように喜んだ。年齢もまだ大人とは言えないが、まるで誕生日プレゼントをもらった10歳前後の子供のようだ。

ふと、少年はバガラリーの近くに、何となく目についた本を見つけた。

「なんだこれ…」

本棚から取り出し、そのタイトルを確認してみる。

 

『ウルトラマン~空想科学シリーズ~』

 

カバーイラストを見ると、銀色の体に紅い模様を刻んだ戦士が描かれている。何かのヒーローものだろうか?

「ほう、若いの。ウルトラマンに興味があるのか?」

「うわ!?」

いきなり自分の背後に、よぼよぼの老人が立っていた。まるで背後霊のような出現に少年は殺気とは違う意味で飛び跳ねるほど驚いた。思わずバガラリーを床に落としそうになる。

「な、なんだよ爺ちゃん…脅かさないでくれよ」

老人に対して少年はため息を漏らす。

「…で、何?ウルトラマンってこの絵の奴?」

カバーイラストを見せながら、少年は老人に尋ねる。

「そうじゃ、かつてこの地球には、『ウルトラマン』と呼ばれる宇宙人たちがおってな、一年に一度のペースで新たなウルトラマンが現れては、子供から大人まで、皆の憧れの英雄だったのじゃ。もう60年以上も、姿を見ておらんがのう…。

その本は彼らの実際の戦いを元に捜索された物語なのじゃよ」

「へえ…」

少年はカバーイラストに描かれた戦士…ウルトラマンを見つめる。見た目については申し分ないカッコよさを現しており、見る時間が長引く度に少年らしい心を持つ彼の心を刺激した。

「ちょっと爺さん、うちの店の客に変な知識を受け付けないでくれよ!ボケるのもいい加減にしろよな!」

店の奥から老人に対して、本屋の店員が文句を言ってきた。

「変な知識とはなんじゃ!これはれっきとした事実じゃぞ!何せわしは子供の頃に彼らを見たことがある!」

それに対して老人は自分をぼけ老人呼ばわりされて怒りだす。

「あのなあ、んなご都合主義なヒーローがいる訳ないだろ!いるんならとっととアラガミ共をぶっ殺してるぜ!ほら、商売の邪魔だ!あっち行けよ!」

店員が迷惑そうに、老人を店の外に押し出そうとするのを見て、少年は何を真に受けていたんだと、自分の単純さを呪った。こんな無敵のヒーローみたいなのがいたら、フェンリルもゴッドイーターもいらないじゃないか。けど、こんな都合のいいヒーローなんていなかったし、いたとしても本当にアラガミを滅ぼせるほどの力があるだなんて考えにくい。どうせそこらへんの作家がアラガミだらけのこの世界の現実から目を背けたいとか、子供たちに希望を持ってほしいとか思って考えた二次元のキャラクターだろう。

「…爺さん、悪いことは言わないからさ、あんた病院に行った方がいいぞ」

「小童!お前さんまでわしをボケジジイ扱いか!これ、待たんか!!」

少年はそう言って、漫画版バガラリーを購入すると、老人の怒鳴り声を無視してせっせと出て行った。

変な爺さんだったな…と思った。まあ、あんな爺さんのたわごとよりももっと大事なことがあるのだ。忘れても構わないだろう。

「さて…次は…っと」

少年は新しい服でも買いに来たのか、今度は服屋に立ち寄った。フェンリル職員に支給されているものと違い、あまり良質品の供給がアラガミのせいでよろしくないのだが、それでも一般人にとってありがたいものだった。

しかし、もうじきこの少年は一般人ではなくなる。なぜなら…。

「どうしたんだいコウタ、妙にニタニタして気持ち悪い」

店の店員を勤めるおばさんが少年を見て突っかかってきた。少年はよくぞ聞いてくれましたとばかりにニヤッと笑みを浮かべておばさんに言った。

「聞いてくれよ服屋のおばちゃん!実はさ、俺この前の適合試験に合格したんだ!」

「試験に合格って…もしかして…」

「ああ、もうすぐ俺もゴッドイーターになれるってこと!これでおばちゃんも、母さんやノゾミも、みんな俺の手で守ってやれるんだ!」

どうやらこの少年、『藤木コウタ』は新たなゴッドイーターに選ばれたのだ。ゴッドイーターとなった者とその家族は、フェンリルから生活保障を確実なものとされている。そのためゴッドイーターに憧れる者はたくさんいる。だが、その対価としてアラガミと戦うことを運命づけられることを意味しているのだ。おばさんはコウタからその話を聞いて、悲しげに目を伏せていた。それに気づいたコウタは、おばさんに近づいて言った。

「……そんな顔しないでくれよ。俺は、うれしいんだ。皆を守れる力を手にできるんだから」

「そうはいうけど、あんたの父親はあんたがまだちっこかった頃に…下手したら、あんたもアラガミの餌食になっちまうんだよ!それでもいいってのかい!?」

おばさんから父親をはじめとした家族の話をダシにされて、コウタは辛うじて保とうとしていた笑みが消えた。

おばさんはできることなら、この時可愛がっている近所の子供を死と隣り合わせの世界に行くことを思いとどまってほしいと願っているに違いない。しかし、コウタは続けた。今度はさっきのようなおどけた節は全くなく、真剣かつ本気の眼差しで彼は言った。

「…父さんはゴッドイーターじゃなかったけど、俺にとっちゃ最高の人だった。たとえアラガミに殺されたとしてもさ、俺や母さんとノゾミ…それに街の人たちのために何度も危険を恐れずに頑張って来たんだ。だから……今度は俺が頑張りたいんだ!父さんの分も!それが、生き残った俺のやるべきことなんだって!」

「コウタ…」

もう、自分が何を言ったところで止めるすべはないと気付くと、おばさんは店の棚から一つのニット帽を取り出し、コウタに手渡した。

「こいつを持って行きな。あんたに似合うと思って」

「おばさん…」

「けど、約束だよ。ちゃんとお母さんとノゾミちゃんの元に帰って安心させてあげなさい。代金は…いらないから。せめてもの、あたしからの気持ちだよ」

おばさんはそう言うと、店の奥に姿を消して行った。コウタは、おばさんから手渡されたニット帽を見る。

「辛い思いをさせちゃったかな…」

コウタは呟く。脳裏には母と妹、街の人たち、そして幼い頃に死んで顔さえもぼんやりとしている父親の後姿がよぎる。

自分はゴッドイーターとなって家族も街の人たちも守ると決めたのだ。もう後に引くことはできない。

コウタはニット帽をかぶり、袋に包んだ漫画版バガラリーを持って家にいったん帰り始めた。

ふと、あの本屋で偶然出会った老人の与太話を思い出した。

『かつてこの地球には、「ウルトラマン」と呼ばれる宇宙人たちがおってな、一年に一度のペースで新たなウルトラマンが現れては、子供から大人まで、皆の憧れの英雄だったのじゃ』

「…俺がなってやらないとな。みんなにとっての『ウルトラマン』に」

おばさんからもらった帽子をしっかりと被り、コウタは駆け出した。

 

 

外部居住区を守るアラガミ防壁の北入り口が開かれると、フェンリルのマークが刻まれた一台の小型トラックが荷台に機械を乗せて入ってきた。しばらくそのトラックは走り続けると、人気の少ない路地裏に回り込んだ。しばらくそこを走っていると、埃被った店の前に到着し、トラックからはソーマとほぼ同年代に見受けられる好青年が降りてきた。

「…ふう、やっと着いた~」

青年は長旅で疲れていたのか、荷台に被せられたゴムカバーを下ろし、その下に積みあがっていた機械…テレビや通信機などを見上げて深いため息を漏らした。

「すいませ~ん」

青年が店の扉を叩くと、店の中から髭を生やした中年の男性が顔を出してきた。彼が店の店長なのだろう。

「この機械買ってくれませんか?」

青年はトラックの荷台に積みあがった機械を見せながら頼んでみると、店長はいぶかしむような目で、青年が持ってきた機械類を見上げる。

「売るって…そいつら使いもんになるのか?」

「それについては大丈夫ですって!ちゃんと修理したし、チェックは済ませておきましたから!」

「…なら、試してみろよ」

「じゃあ、まずはこのラジオから…」

青年は荷台から一台のラジオを取り出してアンテナを立て、スイッチを試しに押してみる。ザ…ザザ…と電波が悪いせいかあまり聞き取りにくい。なかなか音声が聞こえなかった。

「…兄ちゃん、うちに不良品を押し付けに来たのか?」

青年は店長に睨まれ、焦った。

「い、いやまさか!おっかしいな…ここに来る前にちゃんとチェックしてたのに…」

青年はラジオをコツコツと叩いてみる。しかし音はなかなかならなかった…が、3分ほど経過してからようやく音声が聞こえてきた。

『ニュースをお伝えします』

「やった!やっと鳴った!」

青年は手をバシンと叩いて喜んだ。店長は子供みたいな青年の姿に、あきれた様子でため息を漏らしていた。

『本日未明、外部居住区生活者を中心とした団体による、フェンリルに対する抗議集会が世界各地の支部前にて行われました。フェンリルに対して、主に食料供給の増量と防衛の強化、雇用枠の増大を訴えたもので参加者は二時間ほどでも行進をした後に、大きな混乱もなく解散した模様です』

ニュースの内容は、あまり聞こえの良いものではなかった。だが無理もないことだった。フェンリルは事実上今の人類を支配しているともいえる大企業で、神機やゴッドイーター、そして彼らのいるこの第8ハイヴのようなアラガミ防壁で守れられている都市を提供しているのも全てフェンリルだ。だが、フェンリルで救える人の数も限りが存在し、中にはアラガミのはこびっている危険な外の世界にはじかれてしまう人の方が多いのだ。でもだからといってハイヴの中に保護された人たちの生活が待遇されていると言うわけでもない。そんな彼らのデモについての情報が今のニュースで流れた、ということなのだろう。

「またデモが起きたみてえだな。やれやれ…フェンリルの連中しっかりしてんのか?」

店長は以前にも何度かこのようなニュースを聞いたことがあるのか、いい加減飽き飽きしている様子だった。

すると、青年は店長の方を向いて質問してきた。

「店長さん、この辺りで人を探してるんですけど、どこかに保護施設とかありませんか?たとえばその…迷子とか」

「あぁ?誰か探してんのかい?」

「はい…まぁ」

少し表情を暗くして青年が言った。

「悪いが俺には人探しをしている暇なんてないしな。仕事の用もねえとこの事なんざ知っちゃいねえさ」

「そうですか…」

店長の返答を聞いてさらにいっそう暗くなった青年を見かねて、店長は頭を掻きながらも彼の肩を叩いた。

「そう暗い顔すんなよ。あんまりしけた顔してっと、アラガミに喰われちまうぜ。ほれ、この荷台に乗ってるもん、全部買い取ってやるからよ」

「いいんですか!?」

「いいんだよ、ほれ」

店長はひょいと青年に紙幣の束を投げ渡した。国家が破壊されたこの時代では、お金はフェンリルが発行した『fc(フェンリルクレジット)』に一括されているのだ。

「こ、こんなによろしいんですか!?」

「いいから持ってけ。こう見えてもうちの店はそれなりのもんだからな。これからもうちに売ってこい。ただし、不良品ばっかだったら二度とうちの店をくぐらせねえからな」

店長はぶっきらぼうに青年に言って、青年がトラックに積んで運んできた機械を運び終えると、店の中へと引っ込んでいった。

「…ありがとうございました!!」

店長に手渡された紙幣を見て、青年は店に戻った店長に聞こえるように大声で礼を言った。言わずにはいられなかった。だが、あまりに声が大きかったのかご近所さんが数人、一斉に何事だと思って外に出てきた。おそらくアラガミが防壁を破ってきたのかと思ったらしい。外にいたのは若い青年一人だったことを知ると、主婦の一人が青年に怒鳴ってきた。

「ちょっと、大声出さないでちょうだい!」

「す、すみません…」

青年はつい恥ずかしくなって赤面し、頭を下げて皆に謝った。

付近の人たちが家に戻ると、青年も荷台から荷物が無くなって軽くなったトラックに乗った。

「ちょっと恥ずかしい思いはしたけど、いい具合に稼げたね」

エンジンを起動させ、ハンドルを握った青年は、助手席に置いた財布に詰めた紙幣を見て呟いた。ニヤつかないように堪えるのに必死になる。

「さて…早く『女神の森(ネモス・ディアナ)』に戻らないと。あまり長居すると、フェンリル身分証明書の偽造がバレるだろうし」

さっきのお金で食料品や生活用品を買い、彼は嬉しそうに暖かな笑みを浮かべた青年はそう呟くと、トラックを走らせて店の前から走り出す。

前述で語ったと思うが、防壁外の人間が居住区に入れてもらえず弾かれてしまい、露頭に迷うことは多数ある。中には自分たちで居住区を作り上げることもあるが、アラガミ防壁のない状態ではアラガミの格好の餌場になる可能性が高く、被害は増加傾向にある。

実は彼も路頭に迷った人間の一人で、正規の方法では第8ハイヴに入ることができない。よって、偽造の身分証明書を作っては、こうしてフェンリル職員のふりをして第8ハイヴに出入りし、修繕した機械を売ってお金をため、生活費に必要な品を集めるという形で生計を立てていた。

防壁の外に出て車を走らせ続けて1時間、荒野となった道路を走っていると、彼の胸ポケットの携帯端末から着信音が鳴った。

「はい、『神薙ユウ』です。…うん、わかってるって。すぐに戻るから。じゃ…」

知り合いからの電話だったようだ。青年…神薙ユウは適当に返事をすると電話を切って運転に集中した。

長居事運転し続けている。音楽でも聞こうかな。ユウは車に搭載された音楽プレーヤーを鳴らした。曲名は『あの雲を超えて』。ユウが気に入っている歌だ。

彼の運転しているトラックは、ちょうど『降星町』と書かれたボロボロの看板を横切った。リンドウとサクヤが上空から見下ろし、懐かしんでいた街だ。

街はひどく荒れていた。アラガミに喰われた痕が残された旧時代のマンションやビル、住宅街の残骸があちこちに残っているが、建物の窓ガラスは割れ尽くされ、道路はアスファルトの上に砂が降り積もり、当時の面影は残っていない。

廃寺付近にも到着したが、ここもまた同じ。人類が想像した本物の神やそれに近い存在を象徴する仏像さえも容赦なく食い散らかされていた。アラガミの恐ろしさと、アラガミによって多くの悲しみが生まれたことを物語らせていた。

「…ん?」

ユウはふと、目を凝らした。廃寺の塔の屋根の上に、人の姿が見えた。防壁の外にはアラガミがあちこちにいることも忘れ、思わず彼はトラックを止めて外に降りてしまう。

廃寺の入り口をくぐり、周囲を見渡してみる。

(いない…けど、今確かに女の子の姿が見えた)

どうやらユウが見かけたのは、少女だったようだ。自分よりもほんの2・3才ほど年下に見える少女だった。

(もしかして…!)

ユウは廃寺中を走り回った。この廃寺は雪が積もっていて、非常に肌寒い地域だった。雪を積みつける音が静かな毎日を送る廃寺中に響く。しかし、わずかな時間でもアラガミが襲ってきてもおかしくないくらいの数分間、どんなに探し回ってもさっきの少女の姿を見つけることはできなかった。

(…僕の気のせいだったのか…?でも…)

ユウの脳裏に、一つの記憶が走馬灯のように流れた。幼き日の、自分の手を握る小さな少女が、自分に太陽のような笑顔を向けている姿。このご時世だからこそ力になりそうなその笑顔は、ユウの記憶に深く焼き付いていた。

ユウは肩を落とした。何か彼にとって強い希望になりうるものが見つかるのかと思っていたが、とんだ無駄足だったようだ。

見つかったものと言えば、ちょうど今雪に埋もれていたところを、わずかに顔を出していた小さな人形だった。ユウは雪を払って人形を拾い上げた。二足歩行の、体中から二本の突起物を生やした怪物を象った人形だった。この寺に遊びに来ていた子供が持っていたものだろうか。一体どれだけの人々がアラガミによって大事なものを奪われたことだろう。例えば、この人形の元の持ち主や自分のように…。

と、その時だった。廃寺の入り口から爆発音と火の手があがった。

「!」

今の音は、トラックからだ。ユウは急いでトラックに戻った。

戻った時には、彼が乗っていたトラックはすでに3匹のオウガテイルによって食われて見る影もなくなってしまっていた。

しまった…!ユウは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。たかがちっちゃな好奇心で、アラガミの支配する外の世界に留まってしまったために…。移動手段を失ったユウの生存確率は限りなく0に近いと言っても過言ではなかった。オウガテイルはアラガミの中でも小型かつ雑魚の部類に入るのだが、油断していると真上から不意打ちを仕掛け、ベテランの神機使いさえも食い殺してしまうすばしっこい奴だ。

「グルアアア!!!」

新たな獲物…それも生きた人間を見つけたオウガテイルは吠えると、ユウを喰らわんと飛びついてきた。

「く!!」

鬼気迫る思いで、ユウはズボンに括り付けていた、ピンのついた一発の黒い玉を取り出した。ピンを歯で引き抜くと、それをオウガテイルたちに向けて投げつける。

すると、弾はぴかっと周囲の景色を白く塗りつぶすほどの光を発し、オウガテイルたちはその光に目をくらませ怯んだ。

フェンリルがゴッドイーターや市民の身の安全のために開発した『スタングレネード』だ。これを常に携帯していたからこそ、ユウは外の世界で何とか生き延び続けていた。

オウガテイルが視界を取り戻し周囲を再確認した頃には、ユウの姿はなかった。だが、雪が降り積もっているせいで足跡が残ってしまっていた。

「はあ…はあ…!!」

こうして死と隣り合わせの世界で立っているだけで心臓がバクバクする。自分はゴッドイーターじゃないから、アラガミに唯一対抗できる神機なんて持っていない。銃を持っていたとしても、アラガミを殺すことなんてできっこないのは誰でも知っている常識だ。

物陰から、見失った自分を探し続けるオウガテイルを見たユウは、絶望に心が染まりかけていた。

(くそ、とにかく逃げなきゃ!)

ユウはアラガミたちから一歩でも遠く離れようと全速力で走った。対して武器を持っておらず、延命用のスタングレネードの数は、残り3個だった。

 

 

同じ頃、フェンリル極東支部アナグラのエントランス。

そこの出撃エレベータ前にリンドウ・サクヤ・ソーマの三人『第一部隊』が揃っていた。目の前には、胸元を大きく開いた制服を着た、鋭い目つきの女性が立っていた。

彼女は『雨宮ツバキ』。元ゴッドイーターで現在は訓練教導官を務めている。美人ではあるが、気が強く厳しい教官で、足音一つで彼女の教え子を震え上がらせるほどと噂されている。ちなみにリンドウとは血を分けた姉弟だ。

「第一部隊に新たな任務を伝える。降星町の廃寺に向かってほしい」

「廃寺に…ですか?」

サクヤが首を傾げると、ツバキが任務の概要を伝える。

「廃寺付近にて何かが爆発したと言う情報が入った。防壁外で暮らす誰かがアラガミに襲われた可能性がある。お前たちにはこれから降星町の廃寺に向かい、現場のアラガミを討伐、被害者を見つけた場合保護をしてもらう。以上だ」

ツバキは任務の概要を伝えると、他にすべき仕事があるためかせっせと去って行った。

「ようし、楽しいお仕事の時間だ。お前ら、準備はできてるな?」

リンドウは二人の方を振り返って尋ねる。

「問題ありません。いつでも行けるように準備してありますから、ね?」

「…さっさと行くぞ」

「よし…」

リンドウはサクヤとソーマ、二人とも準備ができていることを確認し、深呼吸してから二人に言った。

「俺からの命令は…とにかく死ぬな。以上!」

「…っち」

「大雑把な命令、承りました。上官殿」

ソーマは舌打ちする一方で、サクヤはいつものことのようにノリノリの様子で敬礼しながらリンドウの命令を受け入れた。

その後、すぐに第一部隊の三人を乗せたヘリが降星町に向けて飛び立っていった。

 

 

鎮魂の廃寺。

オウガテイルを出し抜いたユウは辛うじて本堂へ逃げた。この辺りは寒いのに、走ったせいか体が無性に熱くて息苦しい。アラガミの食いかけとなった仏像を見上げながら、ユウを深く息を吸って吐いた。

速くここから逃げなくては…。けどこれ以上逃げる場所なんてあるのか?アラガミ防壁外の世界は、アラガミの巣窟なんだぞ?こうして立っているだけで、自分を食べるためにアラガミが近づいてきている。

(僕は、ここで死ぬのか…!?)

『女神の森』からこうして危険を犯してまで第8ハイヴに侵入し商売をしているのは、ユウにはどうしても成し遂げたい目的があったからだ。

それは、機械を買ってくれた店の店長にも言った、『人探し』。彼にはどうしても見つけ出したいと願っている人物がいたのだ。だからこうして、危険はアラガミ壁外に足を踏み入れ続けている。

それに、こんな自分を『女神の森』で保護してくれた人だっている。だから…。

(…嫌だ…死にたくない!こんなところで死んでたまるか!!)

すると、廃寺の入り口の向こうから猛獣の泣き声が聞こえてきた。やばい、もうここまで嗅ぎつけてきたのか。ユウは焦った。せめて何か…何か武器があれば…!!スタングレネードもそんなにたくさんは持っていない。逃げに徹し続ければ、早いうちに全部使い切ってしまう。入口からオウガテイルの姿が見え隠れしている。もう逃げ場と言えば、狭苦しい食われた仏像の裏だ。

…仕方ない。奴らがこの廃寺に侵入したら、残されたスタングレネードでアラガミの視界を奪い、すれ違いざまに逃げるしかない。

と、その時だった。ミシミシ!と音をたてて彼の隠れている仏像の後ろの壁が崩れた。その音にオウガテイルたちが反応を示す。今の音で気付かれたか!ぐ、と唇をかみしめるユウだったが、不幸中の幸いを見つけた。崩れた壁の向こうに、傾斜面が顔を出している。彼は迷わずその道を滑り落ちて行った。まるでスキーをするような滑りっぷりだったが、スキー用品なしでのスキーなんてうまくいくはずもなく、ふもとにつく前に転んでしまい、そのまま顔を擦らせながらふもとに落下した。

「痛った!?いつつ…鼻が…」

顔を擦らせながら傾斜面を落ちていくのは、想像するだけでもかなり痛そうだ。顔を押さえながらユウは起き上がった。廃寺の背後には山がそびえているためか、逃げ道の先はアラガミに喰われた痕があちこちに残っている林の跡だった。

ふと、林の跡の向こうに、星のような輝きを放つ光が見えた。

(なんだろう…?)

気になったユウは近付いていくうちに、誰かが倒れているのが見えた。服装からして、廃寺がまだ寺として機能していた頃あの寺にいた和尚だろうか。気になって近づいてみたが、すでにそれは体の一部が食われ、残された体の部位が白骨化した遺体となっていた。う…と息を詰まらせるユウ。この人もアラガミによって…。

しかし、その遺体の傍らに光の正体を見つけた。銀色に光る謎のアイテムだった。ユウはそれを拾い上げると、さっきまで放たれていた星のような輝きは消えた。

遺体の人物が死ぬ直前まで必死こいて持ち出していたほどのものだ。何か貴重なものなのだろうか。

そのアイテムを観察している間に、彼の周りにまたしてもオウガテイルが一匹現れた。血に飢え、目の前の得物を食いたくて仕方がないと言わんばかりの眼差しをユウに向けている。一匹の雑魚アラガミでも、無力な人間からすれば立派な脅威だ。

武器は…ない。それはそうだ。近くにアラガミを退ける道具が都合よく落ちている訳…。

…とその時だった。

「え…!?」

ユウの脳裏に、謎のヴィジョンが流れ込んだ。自分の記憶ではない何かの記憶が。

光のオーラを身にまとった戦士が、ユウが手に持っていた謎のアイテムと同じ形をしたアイテムを、槍に変えて黒い影と戦う光景だった。

(まさか…!)

自分が手に持っている道具を見て、一つの仮説を立てたユウは…アイテムに念じた。

武器になれ、と。

すると、そのアイテムはユウの願い通り、長い柄の銀槍となった。

「…!!」

星のような輝かしい光を放つその槍をユウが眺めていると、オウガテイルが飛びかかってきた。ユウはそれに気づくと、オウガテイルに向けて槍を突き出した。

突き出した途端、槍の刃先から光の刃が突き出て、オウガテイルを貫き通した。

「グゴォ…」

体を貫かれたオウガテイルは、倒れた。ユウは驚きのあまり呆然とした。神機以外の武器でアラガミを見事に倒して見せたのだ。死骸と化したオウガテイルは、体を構成するオラクル細胞が崩れ始め、やがて黒い水たまりと化し、地面に染み込んでいった。

「嘘だろ…これって、実は神機…なわけないよね」

思わず驚きの声を漏らした。それにしても、なんだこの槍は?まるでファンタジー系の物語の主人公が突然伝説の剣に選ばれました的な展開に、ユウは現実を受け入れがたく思っていた。けど、まぎれもない現実だった。たった今間違いなく神機ではない武器でオウガテイルを倒して見せたのだ。

…いや、調子に乗っている場合じゃない。ここから離れなければ、いずれここにもアラガミがやってくる。せめて、帰りが遅くなることを知らせるために携帯を…。

が、ユウはここで気が付く、胸ポケットにしまっていたはずの携帯がないのだ!またしても焦ってしまうユウ。

ユウは槍を元に戻すと、それを懐に仕舞ってすぐに駆け出した。

が、その直後ユウはドスン!と大きな音と共に地面が揺れるのを感じた。地震?

空を見上げると、ユウはこの時これまでにないほどの恐怖を覚えた。

体中から突起物を生やした、体長60m近くも誇る四足歩行の巨大な生物が、地上を見下ろしていた。

 

 

 

その頃、廃寺に到着したリンドウ率いる第一部隊は、ユウが乗っていたトラックを発見し、その周りに集まっていたオウガテイルを全滅させていた。

「見つからないわね…」

廃寺へ続く二つの内左の階段を登り、サクヤが辺りを見渡しながらトラックの持ち主を探してみるが、姿形さえ見つからない。

「今頃アラガミの餌になったんじゃないか?こんな危険区域を通るような馬鹿みたいだしな」

ソーマがキツイ上に不吉なことを言うと、たしなめるようにリンドウが口を挟んできた。

「ソーマ、そんな悲観的に言うなよ。もしかしたらひょっこり、なんてこともあるかもしれねえぞ」

「ふん、どうだか…」

階段を登り終えた三人は、廃寺の中庭中央部に着く。オウガテイルがそこにも5匹ほど群がっていて、餌を求めてうろついていた。

「また雑魚の集りか」

どうせならやりがいのある言相手を求めていたのか、ソーマは舌打ちする。しかしリンドウはふ、と笑う。

「生き残りやすくていいじゃねえか。後は油断しないこと、だな」

「ええ、始めましょうか」

サクヤは銃を構えながらそう言うと、リンドウとソーマの二人はオウガテイルに向かって駆け出して行く。

オウガテイルはすばしっこいが、彼ら三人の一流のゴッドイーターにとって始末することなどお茶の子さいさいだ。サクヤのスナイパーが次々と敵を捉えて打ち抜き、ソーマが頭を叩き割り、リンドウが横一直線に切り裂いたりと、一分も経たないうちにオウガテイルは残り一匹だけとなった。

「さて、残るはお前だけだぜ。どうする?」

挑発じみた声でリンドウが、残った一匹のオウガテイルに神機を突き付けながら言う。流石のオウガテイルも、アラガミだからと言って悪食な本能にどこまでこ忠実と言うわけではなかったのか、叶わないと感じたのか三人の前からそそっくさに走り去った。

『こちらヒバリ!アラガミが後退、捕喰に向かいました!』

アナグラにてオペレーターを勤める少女『竹田ヒバリ』から通信が入る。

「おいおい、どこ行くんだ?」

「一匹でも残すと後々厄介だからね、追いましょう」

三人は残ったオウガテイルを追っていく。逃げた割に、オウガテイルは遠いとはいいがたい場所、さっきユウが通りかかった右の階段の踊り場にて、雪を掘り返しながら餌を探していた。

「呆れるもんだな。少しばかり食ったくらいで…」

俺たちに勝てるわけがないだろう。ソーマは止めは俺が刺すと二人に進言し、二人はそれを承諾。ソーマは神機を捕喰形態に変形させ、神機にオウガテイルを食わせようとした。

 

――だが、彼らここで一つの予想外な現実を目の当たりにする。

今、オウガテイルが探して食っていたのは、ユウが先ほど拾ってその場に置いたままにしていた、怪獣を象った人形だった。オウガテイルはそれを口の中に飲み込んでしまう。

『こ、これは…!?』

通信先のヒバリから驚愕の声が漏れ出ていた。

「どうしたの、ヒバリ?」

『オウガテイルのオラクル反応が、急激に増大しています!通常のオウガテイルの10…20…50倍!!』

通信越しにサクヤが声をかけると、ヒバリが気が動転したかのように声を荒げた。

ソーマが捕喰形態の神機をオウガテイルに近づかせたとき、同じく通信を聞いていたリンドウが異変に気付いた。

「ソーマ!!すぐそいつから離れろ!!」

「あ…!?」

ソーマが気づいたときには、オウガテイルの体に正体不明の異変が起こった。真っ黒な霧のようなものが、怪獣の人形を食ったオウガテイルを包み込み始めたのだ。

「な、何!?何が起きたの!?」

サクヤもまた驚愕を露わにしていた。この現象は一体?これまで長く神機使いをやって来た三人だったが、こんなことは初めてだった。

見る見るうちに、黒い霧に覆われたオウガテイルの姿が、元は小型サイズだったはずなのに大きくなっていく。中型種のアラガミ…いや、それどころか大型種のサイズをも超え始めた。

「うそ……」

やがて黒い霧が晴れると、そこにはさっきのような小型アラガミとしてのオウガテイルの姿はなかった。

体中が岩のようにごつごつと盛り上がり、背中には棘のような二つほどの突起物を生やした、そして顔にはオウガテイルの面影を残す白い仮面と体表を身に着けた巨大生物だった。

「…グぅウゥウゥ……」

白い息を吐きながら、オウガテイルだったその怪物はリンドウたちを見下ろしていた。

「…こりゃあ、ちとやばいな」

危機感を覚えたリンドウは、加えていたタバコを吐き捨てた。

「ソーマ、サクヤ。こいつは未確認な種である上にデカすぎる。仕方ないが、ここは退くぞ!」

リンドウは二人に撤退指示を出す。無策のまま未確認の…それもこんな馬鹿でかすぎるアラガミを相手にするのは自殺行為にも等しい。

「けど、リンドウ!ツバキさんから探すように言われていた子は!?」

「ここにいたら、俺たちまで共倒れだ!今は自分たちの身の安全を優先しろ。ソーマ、お前もちゃんと言うこと聞けよ!」

「…ちっ」

語尾に念入りに命令を聞けと言うリンドウに、ソーマはまたしても舌打ちした。

オウガテイルが怪獣の人形を喰らうことで誕生したアラガミ『合成神獣オウガダランビア』はリンドウたちに向けて、頭部の角から破壊光線を撃ちこんできた。

まるでアクション映画の爆破シーンのごとく、リンドウたちが走り抜いた箇所の地面が爆発を起こす。その連射速度も攻撃範囲も馬鹿にならず、数発目の光線によってソーマのすぐ近くの地面が暴発、彼は大きく吹っ飛ばされた。

「ぐがぁ…!!」

「「ソーマ!!」」

爆風によってソーマは廃寺の壁に叩きつけられ、地面に落ちると同時に神機を落としてしまう。直ちに二人が駆けつけたが、ソーマは酷いダメージを受けて戦闘を続行できるような状態ではない。

「…リンドウ、ここは私が引き付ける!ソーマを連れて先に逃げて!!」

サクヤがスナイパーをオウガダランビアに向け、リンドウに先に撤退するようにった。

「サクヤ…!!」

リンドウはサクヤに何かを言おうとした。いや、間違いなく馬鹿を言うなとか、お前を残して行けるかとか言うつもりだった。けど、リンドウがそれを言おうとして言わなかったのは、自分には第一部隊の隊長としての責務があったからだ。部下を連れて帰る。ましてやこの状況下、先に戦えなくなったソーマの身の安全の方を優先すべきだ。それにあれだけの巨体の敵を相手に接近戦は無謀。尚且つこの中で遠距離射撃ができるのは、スナイパー型神機を持つサクヤだけだ。

「安心して、あなたからの絶対厳守の命令は完遂させる」

振り返って、サクヤは笑みを浮かべた。リンドウはその笑みを見て意を決した。

「…その言葉、信じてるからな!ソーマ、肩に捕まれ」

「ぐ…」

リンドウは、ソーマの神機を彼に握らせ、彼を連れて先に撤退した。

「さあて、どこまで持てるかしらね…」

若干不敵な笑みを浮かべつつ、サクヤはオウガダランビアに向けて銃口を向けた。

 

 

突如出現した怪獣を見て、ユウは悪い予感を感じて直ちに廃寺の方へと戻ってきた。

本堂の入り口から、オウガダランビアの光線を避けながら、リンドウたちが撤退するまで時間を稼ごうと、射撃を続けるサクヤの姿が見える。

「あんな馬鹿でかいアラガミを相手にたった一人で…!?」

あの女性が神機を持っていることから、彼女がゴッドイーターであることがうかがえる。だが、いくら彼女がベテランのゴッドイーターだとしても、一人で相手にするには無謀すぎるのは、正式なフェンリルの人間ではないユウもわかりきっている。

しかし、サクヤはそれでもリンドウたちを守るために、間一髪オウガダランビアの光線を避けながら、銃を撃ちこむ。だが、無駄内を避けてもいずれ弾切れが起きる。この死と隣り合わせの状況下で、何とか奴の弱点を見つけて撃ちこむことが望ましい。

(奴は角から光線を撃っていた。だったら…!)

そこを狙う!

オウガダランビアの光線を再び避けると、サクヤはわずか一瞬の間、照準をオウガダランビアの角に向け、撃ちこんだ。そして、角に彼女の弾丸が命中した。

「グルオオ!!!」

角を攻撃され、オウガダランビアが怯んだ。しかも、今の一発で奴の角に傷が…オラクル細胞の結合が弱まった『結合崩壊』が起きている。よし!とガッツポーズを決めるサクヤ。流石は長くゴッドイーターを続けてきただけのことはある。

しかし、ここに来て彼女に最大の危機が訪れた。

再び銃を構え、さらに追い詰めようと試みたサクヤだが、引き金を引いても、弾が発射されない。

「弾切れ…!!」

く…と顔を歪ませるサクヤ。

銃型の神機には、従来の銃と同じ弱点があった。それは、弾切れを起こすまで撃つと、しばらくの間射撃ができなくなってしまうこと。だからあらかじめストックを持ちこむことが必要なのだが、この日は雑魚アラガミのオウガテイルだけが相手のはずだったため、無駄を避けるためにもそんなに多くのストックを持ってきていなかった。

オウガダランビアが、角を傷つけられ怒り、活性化した。怒りの咆哮をあげて、オウガダランビアは再び光線をサクヤに向けて放つ。

サクヤの立っている場所の目の前で爆発が起こり、サクヤもさっきのソーマ同様ぶっ飛ばされる。

「いやああ!!」

「!!」

神機を落とし、地面の上を転がるサクヤ。ソーマほど体が頑丈ではないせいか、体を起こすことができない。

一方でそれを見ていたユウは、その場にただ茫然と立っていた。自分は神機使いじゃない。だから彼女に注意が向けれている今なら逃げ出せるはずだった。けど…それができなかった。

サクヤは痛みをこらえて、目の前に落ちた神機を拾い上げようと手を伸ばしたが、自分の頭上に大きな影が差し込む。

頭上を見上げると、オウガダランビアが鋭い牙をむき出してこちらを見下ろしていた。後ろ足がオウガテイルと同じ俊足となっているせいか、素早さをも持ち合わせていたのだ。

オウガダランビアが、口を近づけ彼女を喰らおうとした。

「きゃ…!!!」

目を伏せるサクヤ。

その姿に、ユウの脳裏に一瞬、彼にとって忌わしい過去の記憶が呼び起された。

 

『逃げて!兄さん!!』

ヴァジュラに襲われた、とある壁外の一軒家。幼かった頃のユウの目の前で、家の壁を突き破って現れたヴァジュラから、自分を兄と呼ぶ少女が自分をかばおうと家の外へ突き飛ばすと、彼の家がたちまち崩れ落ち、爆発を引き起こした。

 

「やめろおおおおおおおお!!!!」

過去の記憶に刺激され、ユウは叫んだ。見ていられず、彼は残ったスタングレネードを投げつけた。閃光がほとばしり、オウガダランビアの視界を奪い去った。

その隙にユウはサクヤを抱え、直ちにオウガダランビアの前から走り抜く。だが、あんな巨体が相手では、スタングレネードが作る一瞬の隙で逃げ出せるはずがない。

せめてどこかに彼女を連れて身を隠さなくては、廃寺の塔の傍らに彼女を運びこみ、一緒に隠れてやり過ごすことにした。

だが、オウガダランビアの再起は早すぎた。すぐにサクヤを物陰に隠したユウを見つけ、光線を放ってきた。

「ぐあああああ!!!」

光線によってユウは吹っ飛び、彼の近くにそびえていた塔は粉々に破壊されてしまった。塔が崩れ落ち、ユウとサクヤは瓦礫に下敷きとなってしまう。

オウガダランビアが近づいてくる。二人の死体を塔の瓦礫ごと食らうつもりだろうか。

「ぐうう…痛ってて…」

瓦礫の下で、ユウは頭から血を流して倒れていた。さっきの女の人はどうなった?瓦礫の下の景色を見ると、サクヤもまた負傷した状態で倒れている。生きているのか、それとも死んでしまったのかわからないが、とにかく彼女を…。

すると、ユウは自分の目の前に、廃寺の遺体から拾ったアイテムが落ちていることに気づき、右手でそれを拾い上げた。

このアイテムは不思議なものだった。神機じゃないはずなのに、オウガテイルを…アラガミを倒すほどの謎の力を秘めている。けど…それでもあんな馬鹿でかい怪物に勝てるとは思い難い。

 

――――やっぱりだめなのか?

 

――――僕たちは、こうして大事な人たちが消えていくのを見ているだけしかできないのか?

 

――――どうして、僕たち人間は淘汰されないといけない?

 

――――敵の名前が『アラガミ』なだけに、これは神様の人間に対する裁きだっていうのか?

 

…嫌だ。こんな、理不尽な現実をただ鵜呑みにするなんて、嫌だ!納得なんてできっこない!脳裏に、自分を助けて消えて言った妹の姿が、自分が現在住まう『女神の森』で待っている知人の姿が浮かぶ。

彼らへの思いの強さの分だけ、ユウはアイテムをぎゅっと握りしめる。瓦礫の隙間からオウガダランビアが顔をのぞかせている。

オウガダランビアを睨み付けるユウの目に、怒りの炎が燃えたぎった。たくさんの人たちの大事なものを次々と奪い、食らうアラガミ。

こんなのが、神様だって?

(ふざけるな…!!)

ギリッと、ユウは歯ぎしりした。平気な顔をしてたくさんの命を奪い、自然を無残に喰い散らかし、悲しみを生み出してきたこいつらが、本当に神様だとしても…。

「僕はお前たちを、許さなああああああああい!!!!」

その時だった。まるで彼の思いに答えたのか、アイテムを握る彼の右手の甲に、見たこともない六角形の紋章が浮かび上がってきた。そして握っていたアイテムから、突如14センチほどの光り輝く人形が飛び出してきた。

「…え?」

アラガミとは違う、本当の意味で神々しく綺麗な、雄々しい戦士の姿。足の裏には、たった今ユウの右手に浮かんだものと同じ紋章が刻まれている。

人形は自ら動いてユウの持つアイテムの先端を、まるでカードリーダーのように左足のマークにくっつけた。

瞬間、ユウの体はまるで銀河系を象った光に包まれた。

 

 

「もういい、下ろせ…」

一方、サクヤに促され先に撤退していたリンドウとソーマは廃寺の入り口まで来ていた。ソーマはもう下ろしてほしいと言うと、リンドウはソーマを下ろした。

「おお、相変わらず回復速いな」

「…黙れ」

あれだけの爆風を喰らってまだ間もないのに、予想以上に立ち上がったソーマ。リンドウは褒めたように言うと、ソーマは全く不機嫌そうな仏頂面だった。

ソーマがもう大丈夫なら、残して来たサクヤが心配だ。

ちょうどその時、廃寺の塔がオウガダランビアの光線によって粉々に破壊されてしまった。

「ソーマ、お前はここにいろ。俺はサクヤを連れ戻してくる」

「何言ってやがる。ミイラ取りがミイラになるだけだぞ」

今の爆発で触発されたのか、連れ戻すと言いだしてきたリンドウに、ソーマは警告を入れる。あのリンドウとて、さっきの超巨大アラガミを相手にしたうえで要救助者を迎えに行くことがどんなに無謀なことか百も承知のはずだ。

「俺はこれでも第一部隊の隊長だ。部下を全員生きて連れて帰るのが最優先だ」

しかし、リンドウは助けに行くことを決して諦めようとしなかった。

その時だった。

廃寺の塔の跡から、突然光の柱が立ち上ってきた。

「なんだ…?」

ソーマは目を細めて、光の柱を見上げる。もしや、新しいアラガミでも現れるのか?

「何が起こってるかわかるか?」

アナグラにいるヒバリに連絡を取ったリンドウだが、対するヒバリも予測しえない事態に困惑している様子だった。

『わ、わかりません!ただ、オラクル反応とは全く異なるエネルギー反応が検知され、未だ上昇しています!!』

「オラクル反応じゃない…?」

アラガミは体の抗生物質がすべてオラクル細胞によるものだ。よって、オペレーターが常にオラクル反応を探知しアラガミの現在位置を知らせてくれるのだが…あの光の柱はそうではない。となると、アラガミとは違うということになる。

だったら、一体何が来ると言うのだろうか?

光の柱が消え、そこから一つの光が流星のように飛び、地上に落下した。

 

 

 

銀色のたくましい体に赤く刺々しい模様を刻み、頭や両腕など体のあちこちに水晶を埋め込んだ巨人となって。

 

 

 

「光の…巨人…?」

リンドウがその姿を見て、思わずそう声を漏らした。

 

ユウは、自分の身に何が起きたのか理解しきれなかった。突然人形があのアイテムから姿を現し、アイテムと人形がくっ付いたかと思ったら光に包まれ、自分があの人形と同じ姿となった上に、しかも目の前のアラガミにも負けない巨体に変貌してしまっている。

何が起きたのか理解できず、自分の体を確かめる巨人…。

(なんだこれ…僕の体に、一体何が…!?)

すると、オウガダランビアが巨人となったユウに向けて突進してきた。

「ウワ!!?」

不意打ちを食らい、巨人は後方へ吹っ飛ぶ。

巨人が倒れても、オウガダランビアは傷ついた角から光線を乱射し、巨人を追い詰める。

追撃にダメージを負った巨人に近づき、彼を乱暴に立ち上がらせて顔を殴り、腹に膝蹴りを、背中にパンチを叩き込んでいく。

(ぐ…このぉ…!!!)

考えている暇はなかった。巨人となったユウはオウガダランビアの手を振り払うと、掴みかかって押し出し始める。対するオウガダランビアも巨人を押し出そうと彼に掴みかかり、そのまま二人の激しい相撲取りのような取っ組み合いが展開された。

 

「う…」

瓦礫から、目を覚ましたサクヤが顔を出してきた。私は確か、あのアラガミに食べられかけたら、いきなりスタングレネードの光が…そこから記憶が途切れていた。立ち上がろうとしたが、まだダメージが回復していないせいか彼女はその場に膝を着く。

「ショオラァ!!」

いきなり頭上から誰かの掛け声が聞こえ、思わずビクッと驚いたサクヤは頭上を見上げた。

さっきの超巨大アラガミと、いつの間にか見たこともない巨人が取っ組み合いをしている姿に目を見開かされた。

「何が起きているの…」

「サクヤ、無事か!?」

聞き覚えのある声が耳に入り、サクヤは声の方を振り向いた。リンドウとソーマが階段を駆け上がってきた。

「リンドウ、ソーマ…!あの巨人は…?」

「さあな…だが、あの巨人があのアラガミと戦ってるのは好都合だ。奴らが戦っている間にここから離脱するぞ!」

「え、ええ…」

そうだ、とにかく今はここから脱出しなければ。

が、その時、巨人がついに取っ組み合いに負けてしまったのか、オウガダランビアによって殴り飛ばされてしまい、リンドウたちの近くに倒れこんできた。

すると、オウガダランビアたちが三人に気づく。まずい!そう思ったリンドウとソーマは自分たちの背後にサクヤを控えさせ、直ちに神機を盾形態に変形した。あれだけの巨大なアラガミの攻撃だ。この盾がちゃんと持っていてくれるか…。

しかし驚くことが起きた。

突然自分たちとアラガミの間を、巨人が割り込んできた。そして、自らの背中を盾にリンドウたちの代わりにオウガダランビアのビームをその身に受けたのだ。

「グアァァ!!」

「「「!?」」」

さらに予想外なことを目の当たりにした三人は、無表情ばかりのソーマも含め驚愕を隠せなかった。

驚いている間に、オウガダランビアは右手を触手のごとく伸ばし、巨人の体に巻きつけ動きを封じると、強烈な電撃を流し込んで巨人を苦しめた。

「ウワアアアアア!!!」

今の攻撃を受けてうつ伏せに倒れこんだ巨人。その隙にオウガダランビアが、今度は巨人を捕食対象として、牙をむき出して食らいつこうとした。

が、近づいてきた途端に巨人は後ろ蹴りでオウガダランビアを突き飛ばし、立ち上った。

ピコン、ピコン、ピコン…

すると、胸の蒼く光る彼の宝珠が、突然赤く点滅を開始し始めた。突然警報のように鳴り響く自分の体の一部に、巨人となったユウは驚いたが、その間さえも与えずオウガダランビアも立ち上がってきた。

 

瞬間、ユウの脳裏にまたしても奇妙なヴィジョンが流れた。

今自分が変身している巨人が、黒い影に向けて両腕をくみ上げて光線を放つ姿。

 

迷っている暇などなかった。巨人は両腕を前方で交差させると、全身に埋め込まれているクリスタルが青く輝き始める。Sの字を描くように両腕を大きく広げ、突き立てた右腕に左拳を当てる形でL字型に両腕をくみ上げた。

「シュワ!!」

 

次の瞬間、巨人の右腕のクリスタルから必殺の光線がオウガダランビアに向けて放たれた。対するオウガダランビアは、自分の前方に青白いバリアを張って光線を防ごうとする。しかし、巨人が光線にさらに力を込めると、光線はオウガダランビアの形成したバリアを、ガラスをたたき割るように突き破り、オウガダランビアに直撃。

光線が終わると、オウガダランビアは前のめりに倒れ、激しい爆音をたてながら粉々に砕け散った。

『…アラガミの活動停止を、確認しました』

ヒバリからの通信で、今のアラガミが倒されたことが報告された。

「アラガミを、倒した…!?」

「……」

オウガテイルの突然変異的な進化形態と、突如現れた巨人。自分たちをアラガミの攻撃からかばっただけでなく、神機を用いず光線を撃ちこんで見事撃退した巨人。

巨人は光線の構えを解くと、周囲に光の渦を起こしていき、自らも発光した後小さくなっていく形で姿を消して行った。

三人はそれぞれ巨人が消えた場所を眺めていた。

 

 

一方で、巨人の姿から元に戻ったユウは、変身が溶けると同時に雪の降り積もった地面に手を付けた。息が荒く、かなり体力が落ちてしまっている。

地面に落とした、あの巨人に変身するきっかけとなったアイテムを拾い上げる。

いきなり超巨大なアラガミが現れたと思ったら、自分が突然巨人に変身して、しかもアラガミを撃退した。あまりの出来事に、今までが本当に現実だったのかさえ実感できない。

「僕は…一体…どう…なっ…て…?」

すると、ぐらっと視界が揺らいだ。いけない、今の戦いのせいか、意識が飛びかけている。こんなアラガミしかいないような防壁の外で意識が飛ぶのは、死に等しい。なんとか意識を保とうとするユウだが、ついに意識を手放して倒れてしまった。

 

 

――――ついに、目覚めたか…

 

窓が存在せず、ただ真っ暗な部屋のモニターから、突如出現した光の巨人の映像を見ている者がいた。

 

――――憎い……憎い……

 

どす黒い感情を込めた言葉を述べながら、その声の主は言った。モニターの前でそいつは手を掲げる。その手には、ユウを巨人へ変身させたアイテムとよく似た道具が握られていた。

 

 




NORN DATA BASE


●神薙ユウ
CV.不明、パチスロゴッドイーターの彼と同じ
ゴッドイーターシリーズの小説版や漫画で展開されている作品において、1・BURSTの主人公に当たる青年で今作でも主人公としている。
当初は後述の『女神の森』で暮らしている・偽造のフェンリル職員としての身分証明書を使って第8ハイヴに侵入し、修理した機械を売って生計を立てている・妹らしき人物が存在していたらしいなど、今作の彼は上記のメディアと異なる設定を加えられている。
作者は特に斎藤ロクロ氏の神薙ユウの絵が気に入っている。


●藤木コウタ
原作ゲームでも主人公たちの良きムードメーカーとしても登場した少年。
今回は彼がゴッドイーターとなる直前の視点を描いた。
今回の彼はまだ帽子とマフラーを持っていなかったが、帽子だけは服屋のおばさんから貰った設定としている。


●合成神獣オウガダランビア
小型アラガミ『オウガテイル』とスフィア合成獣『ネオダランビア』の融合体。
白い仮面のような顔を中心とした体表と後ろ足がオウガテイル、巨体や光線などの攻撃手段がネオダランビアのものとなっている。怪獣であると同時にアラガミでもあるので、アラガミ特有の捕喰行動もとる。


●女神の森(ネモス・ディアナ)
漫画版『The second break』で登場した極東地域のとある地点に存在する居住区。今作のユウはそこで暮らしていた。漫画の時期よりも2年ほど前のため、まだアラガミ防壁は存在してはいないが、ユウが拠点としているところからまだアラガミの出現していないか、その確率が低い地域のようだ。


●ウルトラマンギンガ
CV.杉田智和
いわずとも、今作のユウが変身した謎のウルトラマン。『ギンガS』の来堂ヒカル同様、怪獣にウルトライブしてからギンガにライブするという手順を踏まえず、すぐにギンガに変身する手順を取っている。
ユウが手に入れた彼への変身アイテムは鎮魂の廃寺がまだ寺として機能している間、そこに保管されていたようだ。
作者のイメージでは、変身している人間がヒカルではないこともあり、「シュワ!」等の掛け声も常に杉田氏のボイスで発せられている。


●降星町
今作の降星町はリンドウとサクヤ、ツバキの出身地名とされている。原作ゲームのリンドウたちは鎮魂の廃寺の近くで幼少期を過ごしていたため、鎮魂の廃寺もまた降星町に点在している。
アラガミに喰い荒らされたため、廃墟と化している。


●あの雲を超えて
ゴッドイーターの主題歌『Over the cloud』の直訳。ユウのお気に入りの曲と言う設定。


※これはおかしい!などの意見があれば遠慮せずに言ってください。
ただし、そもそもウルトラマンとゴッドイーターのクロスなんざおかしいだろ!など、作品の存在を脅かすほどの意見はちょっと…。



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