これからちょくちょく時間見つけて書いて、投稿できたらと思っているのですが、少し自信はありません。
ですが、気長に待ってくれるとありがたいです。
未完結で終わらせる事などしませんので。
ちなみにとんでもない急展開になりました。
ご了承を。
「…………で、どうなの?」
「いや、どうなの、と言われましても」
王様だった宮本先輩とそれを当てられた2番の俺は1度部屋を出て、廊下で2人っきりで話していた。
「俺の好きな人は涼ですよ」
「本当に?」
「本当です」
俺はため息をつき、手を頭の後ろに当てながら言った。
「神に誓えるの?」
「か、神?」
「えぇ。ちなみにそれが嘘だった場合、あなたは神様から罰せられるの。暴力的に」
「…………そんな神様いて欲しくありません。てかその話だと神って宮本先輩じゃないですか」
でも実際そんな事が起きるとしたらものすごく怖い。
「ところで知ってるかしら?あなたって嘘をつく時、絶対手を頭の後ろに当てるのよ」
「えっ!?」
俺は慌てて後ろに当てた手を戻した。瞬間、宮本先輩がニヤッと笑った。
「嘘よ」
「うえぇっ!?」
「そんなの嘘に決まってるじゃない。大体私と黒崎君はそんな事を見抜けるほど一緒にいるわけじゃないのよ?
でも、今の行為で動揺するって事は、あなたやっぱり好きな人は他にいるのね?」
「ぐっ………………」
カマかけられた。それも漫画でしか見たことのないような方法で。なんでこの人はそんな事を平然とやってのけるんだ……
「まっ、それだけわかれば十分だわ」
「十分?」
「えぇ。今のであなたが何を考えているのかが大体理解できたから」
「うっ…………」
あぁ、ダメだ。この人には本当にかなわない。俺の考えてることを全て見抜いて、それを確かめようとして今の行動をとったんだろう。
「て事は、もしかして今までの流れは全部作戦だったんですか?」
「えぇ。王様を引いたのは偶然だったけれど。あなたが2番を引いたのも、簡単な事で騙されることも、黒崎君が鈍感で単純でバカで一直線でって事も分かってたわ」
「いや、最後の方もうバカにしてるようにしか聞こえないんですけど。てか今バカって言いましたよね!」
というか、この人絶対俺のことバカにしてるな。じゃないとこんなことしようなんて思わないはずだ。
「まぁ、何を考えてるか大体わかったけれど、自分が後悔しないように選択しなさいよ」
「宮本先輩…………」
「でも、私の思い通りの結果にならないところ………殺すわ」
「折角の良い人イメージが台無しです。しかもいい直せてないです」
でも宮本先輩なら容赦しかねない。マジで俺今死刑宣告受けているのかもしれない。
「さてと、そろそろ戻るわよ」
「あ、はい、わかりました」
宮本先輩が部屋に戻ろうとするのを後ろからついて行く。でもよく考えたら宮本先輩とこうやって2人っきりで話したのってなんか新鮮かもしれない。
「あの、話は変わるんですけど?」
「なに?」
「宮本先輩って舞子先輩のことどう思ってるんですか?」
ずっと気になっていたことを聞くと宮本先輩は歩いていた足を止めこっちに振り向いた。鬼形相のような顔をして。
「どうしてそんなこと聞くのかしら?」
「い、いえ、その…よく考えたら宮本先輩って舞子と一緒にいるのよく見かけますし、さっきも自分の名前呼ばれなかって物凄い怒ってましたし、気があるのかなって思いまして」
「とりあえず、黒崎君。今あなたをここで殴ってもいいかしら?」
「えっ…………」
思いっきり拳を握りこんだ宮本先輩が俺にズカズカと歩み寄ってくる。
「えっと……」
「私があんな男の事好きなわけないでしょ!!」
「す、すいません!!」
「大体、私が舞子君の事を気があると思われてる事が心外だわ」
「は、はぁ……」
なにもそこまで怒らなくてもいいと思うんだけど。ただ見て思ったことを言っただけなのに。
「まぁいいわ。早く戻るわよ」
「は、はい、すいません」
はぁ、とため息をついて早足で歩く宮本先輩の後ろを俺も同じ速度で歩いて部屋に戻った。
「ただいま戻りました」
「あれ、凪?」
「ん?春、涼、それにポーラも」
部屋に戻るとなぜか春と涼とポーラがみんなと一緒に円になって座っていた。
「3人ともどうして?」
「私はお姉ちゃんが物凄い勢いで一条先輩の家に向かうのを見たから」
「私はブラックタイガーがすごい勢いで飛び出して行って面白そうだったから」
「私はただ、春に誘われたから〜。凪君がいるのは知らなかったよ〜」
春、ポーラ、涼の順で俺からの疑問を解消していく。要するにみんなそれぞれ誰かが心配だったというわけだ。
「というわけで一年生3人も交えて王様ゲーム再開〜!!」
舞子先輩の一言でみんなそれぞれ割り箸を引いていく。王様になったのは……
「あ、私だ〜」
涼だ。一体どんな命令を出してくるのか想像がつかない。
「えーっと、じゃあ。2番と6番が3番のおでこにデコピン」
涼にしては軽い命令だな。というか、俺何番だっけ?
「………3番俺じゃん」
「ごめんね、凪君」
「いや、別に謝ることじゃないけど」
まぁ、デコピンはいいとして。2番と6番は一体……
「えっと、ごめんね凪」
「2番と6番私たちみたい」
そう言って立ち上がったのは春と小咲さん。どうやら2人がおれにデコピンをするようだ。なんだか軽そうで良かった。
「いや〜、姉妹にデコピンされるってなんか得した気分になる。そうだろ、凪?」
「いや、これはどっちかっていうと損の方じゃないんですか、舞子先輩」
デコピンで得するって一体どういうことなんだろう。
「まずは春からお願い」
「う、うん。わかった」
春がデコピンをするように構える。それを見て俺はおでこを出すように前髪をあげた。
「じゃあいくよ?」
「お、おう」
何をそんな緊張することがあるのか。春の手はプルプルと震えていた。
「え、えい!!」
春のデコピンはうまく決まり、俺のおでこの中心くらいにヒットした。悶絶するほど痛いわけではないが、それでも少し痛い。少しだけおでこが赤くなっている程度だろう。
「ご、ごめんね凪。でもこれもルールだから」
「いや、別に気にしなくていいぞ。じゃあ次は小咲さんですね」
「う、うん」
今度は小咲さんがデコピンする構えに入る。いつも優しい小咲さんだ。そんな強いわけがない。むしろ優しいまであるかもしれない。
「なるべく優しくできるよう頑張ってみるね?」
「お、お願いします」
お互い正座をしてお辞儀する。まったく正座する意味もお辞儀する意味もないのだが……なんだかお見合いしてるみたいだ。俺たち2人の間に机があるならば間違いなくお見合いだろう。
「すぅ…………はぁ…………」
たかがデコピンなのに、深呼吸するほど重要なことなんだろうか。でもそんな小咲さんも可愛いと思えてしまう。というか可愛い。
「じゃ、じゃあ……」
「お願いします」
お願いします、なんて物凄いドMみたいだ。
「…………ん……」
小咲さんがデコピンの構えを取る。目を閉じて、力いっぱい込めてるのか、構えていた手はプルプルと震えていた。
「………えい!!」
「つっ…………」
言葉とともに飛んで来たのは、優しい痛み。だと思ったのだが、姉妹なおかげなのか、それとも偶然なのか。小咲さんのデコピンは春が当てたところと寸分狂わず当てて来た。いくら小咲さんのデコピンが他の人と比べて優しいとはいえ、これは少しくるものがある。
「あ、あの、ごめんなさい!痛かった?あ、私絆創膏持ってるから!よかったら……」
「いえ……大丈夫ですよ。でも、流石は小咲さんですね」
「あ、ありがとう?」
俺は寸分狂わず同じところに当てた小咲さんを素直に賞賛した。小咲さんは何のことかわかっていない様子だったが。
「さーて。続けていこうでおじゃる」
今まで俺たちの様子を見守っていた舞子先輩が口を開き王様ゲームを再開し始めた。あー、おでこ少し痛い。
「ん?私が王様か?全員私にお菓子を持ってまいれ!!」
「子どもだ!子どもがいる!!」
王様を引いたポーラがここにいる全員にお菓子を持ってくるように命令する。
「私ですわっ!今度こそ成功させます!」
「今度こそって一体何を…………痛っ!」
(本田、ナイスです!)
「では!6番と王様がポッキゲームですわ!!」
「6番……って私じゃない!?」
「そんなっ!!私は確かに……はっ!9番と間違え…………」
再び王様となった橘先輩が桐崎先輩とポッキゲームとなり一瞬駄々をこねたが、結局やる羽目になったり。
「あ、俺王様ー!!じゃあ、3番と6番が王様に愛のキスをー!!」
「させないわよっ!!」
「ぶふっ!ま、待って。3番と6番が誰かわからないだろー、るりちゃん!!」
「…………それもそうね」
「…………3番俺だ」
「6番が俺です…………」
「だそうよ?よかったわね舞子君。3番と6番の人と愛のキスをされる事ができるわよ?」
「え、えーっと……」
自爆というのはまさにこのことを言うのだろう。そして、舞子先輩の引き運の悪さを呪った。この先のこと?………………話したくもない。
「で、では、王様ゲームは、最後にするとしよう…………」
王様ゲームの仕切り役、舞子先輩。そして、見事に3番と6番を引いた一条先輩と俺はグロッキーな状態になっていた。
「うぅ…………うぅ………なんで、なんで俺が……」
「な、凪君!元気出して!」
「そ、そうだよ凪!くじ運が悪かっただけだよ!うん!」
落ち込む様子を見て慰めてくれる小咲さんと春。2人とも優しい。一条先輩はと言うと、羽倉先生と桐崎先輩は必死に慰めている状態。
「そうそう〜。唇だけじゃないだけマシだよ〜」
「「風ちゃん!!」」
涼の一言が矢のように俺の胸に突き刺さった。確かに唇ではなく頬だった。それだけはマシだった。でも…………
「もうやだ。死のう」
「死んじゃダメ!!」
「そうだよ!気をしっかり持ってよ凪!」
「なんだったら私が上書きしてあげよっか〜?」
「上書き?」
涼の言葉がイマイチピンとこなかった。上書きというのは一体……
「凪君、じっとしててね〜」
「え、ちょ、す、涼?」
みんながいるにもかかわらず。みんなが見ているにもかかわらず、涼は両手で俺の頬を押さえて動けないようにして、顔を近づける。
「お、おい待て!冗談!」
「うふふ〜」
ニッコリと笑いながらも涼は俺の制止を聞くことなく近づく。涼が近づいてくるにつれて、女の子特有のいい香りや、綺麗な唇が俺の嗅覚、視覚を刺激する。
「おい!ホントっ!!」
周りを見渡してみるも、みんな顔を赤くして顔を背けるだけ。そして、俺と涼の唇が合わさりそうなった瞬間。
「だ、ダメー!!」
春が涼を引き離した。
「み、みんな見てるのに何してるの風ちゃん!!」
「え〜、凪君がショック受けてたから慰めようと思って〜。ほら、私彼女だし〜」
「とにかくダメったらダメ!いくら風ちゃんでもそれはダメなの!!」
「え〜」
危ない。俺もドキドキして溺れてしまうところだった。何に?決まっている。柔らかそうな唇にだ。あんなことされたら誰でも溺れてしまう。
「ふぅ………ごめんな春。一応お礼を言っておくよ」
「べ、別に凪のためじゃないし……」
「それでもだよ。ありがとう」
「う、うん」
「さ、さーて。やっぱり王様ゲームはお開きにしましょうか」
「そ、そうね。なんかすごいもの見ちゃったし……」
舞子先輩の言葉に桐崎先輩が賛同して、そして次々とうんうん、と頷いていく。
「じゃあ次はなんのゲームを……」
「ところで、そろそろ日も暮れて来ちゃうけど、みんな帰らなくても平気なの?」
「え、もうそんな時間…………」
羽倉先生の言葉とともに、ハッとする桐崎先輩。そしてその言葉と同時に桐崎先輩達は何か考えるように俯いた。
「「「…………今日は泊まっていきます!」」」
「は!!?」
いきなり爆弾発言を投げる桐崎先輩と鶫先輩、そして橘先輩。この人達はいきなり何を言いだすんだ?
「え、泊まるって……お前ら本気か!?」
「本気も本気よ!今日は朝まで遊び倒すんだから!」
「お嬢が泊まるなら私も!」
「私もご一緒しますわ!」
「ブラックタイガーが泊まるなら私も泊まるー」
次々と一条先輩の家に泊まろうとする先輩。そして、ポーラ。
「凪君はどうする?」
「うーん……みんな泊まるなら俺も泊まろうと思います。いま家にはあんまり帰りたくないんで」
姉貴のこととか、咲のこととか色々面倒くさいし。
「じゃ、じゃあ私も泊まろうかな。楽しそうだし」
「お、お姉ちゃんが泊まるなら私も」
「春と凪君がいるなら私も〜」
俺、小咲さん、春、涼も泊まることに決定。こんな大人数だけど大丈夫なのかな?
「一条先輩。泊まらせてもらうのに何もしないのは悪いので、今からスーパー行って何か買って来ますね?」
「いやちょっと待て凪!俺泊まる事を許可した覚えねえんだけど!!」
「え、だってこれもうみんな泊まる流れじゃないですか」
「ま、まぁ、確かにそうだけどよ」
「て事で行って来ます。何かいるものあります?」
「あー、じゃあ飲み物とか適当に。食材はあるから気にするな」
「はーい」
一条先輩に了承を得て、俺は部屋を出ようとすると、それに気づいた春がこっちに歩み寄って来た。
「あれ、凪?どこかいくの?」
「泊まらせてもらうのに何もしないのは悪いから買い出しに」
「あ、じゃあ私もいく」
「いいのか?絶対帰り荷物重くなるぞ」
「それこそ誰かがついていく方がいいんじゃないの?」
「…………それもそうか」
まぁ重い荷物さえ持たせなければ大丈夫だろう。お菓子とかそう言う軽いのだけ持ってもらう事にしよ。
「じゃあ行くか」
「うん!」
心なしか春の機嫌がいいように思えたが、俺の気のせいだろうか?
「いっぱい買っちゃったね。支払い全部任せちゃったけど、お金大丈夫なの?」
「最近結構バイト入ってるからな。それなりには余裕ある」
「そっかー……ならよかった」
スーパーで買い物を済まし、春と並んで2人で歩く。こういう小さな心遣いができるのもやっぱり春のいいところだよな〜。
「ねぇ、凪は文化祭どうするの?」
「文化祭?あー、そういえばもうすぐか」
2学期に入り文化祭の時期がやってきていた。俺たちのクラスはお化け屋敷をする事になり、みんな役割を決めて準備に取り掛かっている。俺はまぁ、ただの裏方だけど。翔太や春や涼はお化けをするのだ。
「その、誰かとまわったりしないの?」
「ん?そうだな。まぁ、涼とまわるのは確定だろうな」
「そっか……そうだよね。凪の彼女だもんね」
「………………あぁ」
「その…………もしよかったらだよ?」
「ん?」
「私とも一緒に……まわらない?文化祭」
「ん?俺は別にいいぞ。涼は絶対許可してくれる『2人で!』えっ?」
「凪と2人でまわりたいの。……ダメ?」
……毎回思うがそういう頼みごとをするときに上目遣いを使うのは反則だと思う。春みたいに可愛い女の子がそんな事したら断れるわけないじゃん。
「いいよ。俺はその、裏方だし。暇だと思うから」
「本当!?約束だよ!」
「あ、あぁ、もちろん」
「破ったら、絶交だから!」
「そこまでするのか……わかった。絶対一緒にまわる。約束な?」
「うん!!」
「…………つっ……」
返事をして満面の笑みを浮かべる春。ダメだ。可愛い……
「凪?」
「いや、なんでもない」
「ならいいけど……………あ!」
「ん?どうした?」
「あ、ううん。なんでもない」
「なんでもないって…………あー、そういえば、ここって入学式の時に俺が春を助けた場所だったな」
スーパーに向かう時は気づかなかったけど、春が反応したから気づけた。入学式の日と違って桜は咲いてないけど、よく覚えてる。
「凪、覚えててくれたんだ!」
「忘れるわけねえよ。あんな心に残る入学式の朝」
もう2学期だからあれからもう5ヶ月近くは経ってるんだな。時間が経つのって本当に早い。
「あの時の凪はかっこよかったな〜。いきなりだったのに私の事彼女だ、って言って男の人たち追い払ってくれて」
「恥ずかしいこと思い出させるな。これでもあの時はどうするか必死だったんだよ」
「そっか。でも、初対面の私のために必死になってくれるって。凪ってやっぱり優しいね」
「あんな困ってる女の子助けない男なんていない。俺は当たり前のことをしただけ」
「そんなことないよ。あの時の凪はかっこよくて優しかったよ。足すくんで歩けないわたしをおんぶで学校まで連れて行ってくれたし」
「やめろ。そんなこと言われると照れる」
「じゃもっと言ってあげる。凪はかっこいいし優しいよ?」
「ありがとう。でも、そんなになのか?」
「そうだよ。そんな優しくてかっこいい凪だから私は凪を好きになったんだよ?」
「………………………へっ?」
「えっ?」
いきなりのことで俺は両手に持っている荷物をその場に落として、素っ頓狂な声を上げてしまった。今春は自分が何を言ったのかわかってないのか?
「…………………………えと、春?今お前俺になんて言ったかわかってるのか?」
「え?そんな優しくてかっこいい凪だから…………私は凪の事を……好きになったんだよ………………って………………」
自分が何を言ったのか理解したのか、春は俯いて、一瞬にして顔を茹でタコのように真っ赤にした。
「ち、違うよ!今のはそういうのじゃなくて!私は必死になってくれる凪が好きだよって言っただけで、その、えと、な、凪の事を好きだよって言ったわけじゃなくて。あ、でも、好きって言ったのは事実で。えっと、えっと…………」
「お、落ち着け。わかった。とりあえず落ち着け。な?」
「だから、その、えと………必死な凪が好きで、でも、好きってそういう意味じゃなくて……あ、そういう意味って言うのは恋愛的って意味で、あ、でも好きなのは好きなんだけど……」
…………やばい。慌てふためく春。めちゃくちゃ可愛い。こんな新鮮な春はなかなか見ないから。じゃない。どうしよう………この焦りよう。もしかして俺は今、春に告白されたのか?俺の勘違いじゃなくて、本当にか?
「えっと…だからその……」
「春。なぁ、おい」
「えっと……でも、凪には風ちゃんがいるし、お姉ちゃんもいるし。そんな私なんかが割って入っていいわけないし。いや、そうじゃなくて……」
「春!!」
「ひゃ、ひゃい!!」
「落ち着け。本当に」
「あ、あれ?私今何して?」
「とんでもなく慌てふためいていたよ。もう面白いくらいに」
「うぅ…………ごめん、落ち着いた」
「よし」
深呼吸して落ち着いた春は俺の方を見つめる。
「春?」
「え、えっとね。今のは。その……なんというか。無自覚に言葉が出ちゃってね。それでえと……」
冷静にはなったが、茹でタコのように赤くなった顔は元に戻っていない。て事はやっぱり……
「その、ね。私は……その…凪の事、好きなんだよ。でもその好きっていうのは…………」
「春………」
だんだん春の顔は赤色から普段の色に戻ってきた。代わりに春の瞳が少しずつ潤んできていた。
「うん。わかってる。わかってるよ。こんなの迷惑だよね。凪には風ちゃんがいるのに。なのにいきなりこんな事…………ごめん。ごめんね凪」
なんで……なんで春がそこで謝るんだよ。
「ごめん。凪には彼女がいるのに……なのに、文化祭2人でまわろうだなんて……虫が良すぎるよね…………ごめん……やっぱりさっきのなし。それと今のもなし。あれは私の口から無自覚に出ただけ。本心じゃない。だから……なし」
なんでそこで春が泣くんだよ。
「ごめんね凪……私バカだね…本当に1人で何やってんだろ……」
春は溢れ出る涙を拭わない。頬を伝う涙はそのまま地面へとポタポタと落ちていく。
「………………」
「こんな涙でぐしゃぐしゃの顔で戻ったらみんなに心配される……だから凪は先に戻ってて……私は後から、後からちゃんと戻るから」
俺は本当に……バカだ。
「春」
「なに………………えっ」
ずっと泣き続ける春の腕を取り、俺はそのまま春を自分の胸へと引き寄せた。その勢いで春は持っている両手の袋を地面に落としてしまった。
「ごめん。春………」
「………………なんで」
落としたお菓子が割れていようが、こんな道端で春を抱きしめる事だろうが、自分の服が春の涙で濡れようが関係ない。俺は……こんな春を放ってわけにはいかないんだ。春を泣かせたのは他でもない俺自身なんだから。
「なんで……凪が……謝るの」
「…………俺が本当にクズだからだ」
「そんな事ない……凪はクズじゃない……凪のせいじゃない。私が……私が勝手に……」
違う。春は何も悪くない。悪いのは全部俺なんだ。
「ごめん、春……」
「謝らないで…悪いのは私……だから」
違う。俺は春や小咲さん……いや、一条先輩にも舞子先輩にも宮本先輩にも。咲にも理沙姉にもみんなに……みんなに嘘をついていたんだ。
「悪いのは……俺なんだよ」
「え…………」
そうだ。俺は自分の気持ちは誤魔化しているんだ。俺の本当に好きな人は涼じゃないのに。涼の正直な気持ちを俺は利用したんだ。涼を自分の気持ちからの逃げ道に使ったんだ。俺自身の気持ちを隠すために。
「春…………」
「凪?どうしたの?」
こんな事をしても後から辛い思いをするのは自分なのに。この事を話して軽蔑されるのは自分なのに。この事を話して一人ぼっちになるのは自分なのに。なぜ俺はこの選択を取ってしまったんだろう。
「春…………まず言わせてくれ」
「な、何を……」
「俺も春の事が
好きだ」
なぜ、前半の流れからこうなったの?とか思いかもしれませんが、文化祭を目処にしてるのでご了承を いただければと思います。