「お疲れ様でしたー!」
ある暑い夏の日。期末テストを終え、夏休みという時期でも俺は小咲さんの家でバイトをしていた。今はそれを終えたところだった。
「あの、凪君」
「は、はい?なんですか?」
七夕大会を終えてから俺は小咲さんと若干ギクシャクしていた。なんで小咲さんがあの短冊を持っていたのか聞けてないからだ。この前春にも、お姉ちゃんと何かあったの?と心配されたところだ。
「あ、あのね。今度の花火大会の事なんだけど。私、クラスのみんなと行くんだけど、凪君もどうかな?」
「花火大会ですか?確かに俺も春とか風やポーラや翔太を誘って行こうと思ってましたけど。そっちに混ざってもいいんですか?」
「うん。千棘ちゃんとか春がきてほしいって思ってるくらいだし」
桐崎さんは春に対しては若干……というか大分LOVE成分が入ってるからな。
「わかりました。他のみんなにも声かけてみます」
「うん、よろしくね」
「はい。それでは」
小咲さんに手を振って俺は店を出た。にしても、小咲さんとのモヤモヤをどうにか解決しないと。というか、俺は春にしろ小咲さんにしろなんでこんなに面倒な事にまき込まれるんだ。
「まぁそれは置いといて。翔太とかに連絡しないと……」
俺は携帯を取り出し、翔太に電話する。
『……もしもし』
「あ、翔太か?あのさ今度の花火大会の事なんだけど、小咲……小野寺先輩に花火大会一緒に来ないかって『行く!!!』早いな!!」
『だって、小野寺先輩が誘うって事は小野寺先輩の友達みんな来るんだろ?俺仲良くなりてえもん』
「いや、まぁ来るならそれでいいんだ。場所や時間はまた電話するよ」
『了解〜。サンキューな凪。持つべきものはやっぱり友だぜ!』
「あ、ありがと。まぁそういう事だから」
俺は翔太との電話を切った。相変わらずのやつだな。どうせ二学期始まったらその事をみんなに自慢するに違いない。
「風は……家帰るときについでに寄ったらいいか」
花火大会当日
俺は風と一緒に小咲さんの家に向かっていた。小咲さんと春と合流して四人で待ち合わせ場所に向かうからだ。
「ねぇ、凪君。私の浴衣にあってるかな?」
「んー?うん。似合ってるぞ、かわいい」
「ならよかった〜」
普通に思ったことを言うと何故か風は春の方へ向いてドヤ顔をした。よく意味はわかんないけど。
「なんだこれ………」
俺と風と小野寺姉妹で待ち合わせ場所に着いたが、着いた第一声がこれだった。
「翔太君、この写真はどうかね?なかなかいいものだろう?」
「最高っすね!でも、俺も負けてないっすよ。これなんかどうですか、舞子先輩!」
何故か舞子先輩と翔太の二人がお互いに撮った写真を見せ合っていた。てか翔太のやつ、隠し撮りなんかしてたのか?
「ふおぉっ!!最高だ!よろしい、君を俺の弟子に認めよう!」
「あざっす、集師匠!」
「なんか師弟関係生まれた!!?」
「あ、凪!なんだよ、お前。こんなにすごい先輩がいるなら先に教えといてくれよ」
「そうだぞ凪。こんな後輩がいるならどうして俺に真っ先に教えないんだ」
「どれだけ意気投合してるんですか、舞子先輩。まぁ、仲良くなれてよかったですけど」
お互いに肩を組んで笑いあっている。あって数分も経たないうちにここまで仲良くなるなんて思ってもなかった?
「ねぇ、凪!あっちにたこ焼き売ってるの!あっち行こ!!」
「え、おい春!待てって!」
人がたくさんいる中、春は俺の腕を引いて屋台の方へと向かっていった。
「いやー、集師匠」
「言いたいことはわかる。だから何も言うな、翔太君」
「何バカなこと言ってるの?私たちも行くわよ」
後ろで舞子先輩と翔太が宮本先輩に急かされるのを聞きながら俺は屋台に向かった。
「凪ー、次はあっち行こー!」
「おい、待てよ春。あんま急ぐとこけるぞ!………はぁ」
「ごめんね、凪君。春が迷惑かけちゃって」
「別に良いですよ。こういうの慣れてますし。とんでもない妹がいるんで」
「あはは、それもそうだね……」
『お兄ちゃん、次はあっちだよ!あ、わたあめもある!チョコバナナも!』
凄い我儘で甘えん坊な妹の姿が目に浮かぶ。あれと比べれば春なんて……
「ただね凪君。春ってとんでもない方向音痴なの」
「へっ?」
「だからちょっと目を離したらすぐどこかに……ってもういない!!」
「えっ!?」
先を歩いて行った春がふと目を離したスキにどこかにいなくなっていた。
「春ー!どこいったんだー!」
「春ー!返事してー!」
俺と小咲さんが春の名前を大声で呼ぶが反応は全くない。
「はぁ、なんでこんな短時間でどっかにいなくなれるんだ。あいつ咲並みに大変なんじゃないんですか?」
「あはは……とりあえず携帯で電話かけてみるね?」
「お願いします」
小咲さんは携帯を取り出して耳に携帯を当てる。…………待てよ。今春がどっか行ったって事は今俺たち二人きりなんじゃ。後からついてきてた風たちも気づいたらいなくなってたし。てことは今これはたから見たら……
「デート!?」
「え、何!?どうかしたの?」
「い、いえなんでも……」
いや待て落ち着け黒崎凪。これはデートじゃない。ただの先輩と後輩が一緒にいるだけだ。そうだ。小咲さんには一条先輩がいるし、俺もそういう感情を持ってるわけじゃない。でもこんなに可愛い先輩と二人きりでいられるなんて……
「ねぇ、凪君」
でもよく考えたら俺って小咲さんと二人でいる時間結構多いかも。お互いに風邪ひいた時もそうだし。
「あの、凪君?」
そういえば俺って小咲さんの事お姫様抱っこしてるんだった。ざまぁみろ一条先輩。俺はあなたより小咲さんとの関係は進行してるんだよ!って今はそんな事を考えてる場合じゃ。
「凪君!!」
「は、はい!!」
「どうしたの?さっきから声かけてるのに返事しなかったけど……もしかしてこの暑さがきつかった?」
「い、いえ。大丈夫です」
「そう?しんどくなったらいつでも言ってね。私凪君が倒れたりしたらやだもん」
や、やばい。小咲さんエンジェルだ。マイエンジェル小咲さん。
「あ、春に電話、どうなりました?」
「それが出なかったの。携帯置いてきちゃったのかな?」
「マジですか……じゃあ探しに行きますか」
そう言って俺は小咲さんに手を出す。
「えっ?」
「いや、こんだけ人が多かったら俺たちがはぐれちゃうかもしれないですし、三人バラバラになった方が面倒なんで手を繋ごうかと……あ、決してそういう気持ちがあるのではなくて!!」
「う、うん。わかってる!私もいきなりでびっくりしただけだから!」
あー、なんでこうなっちゃうんだろ。普通に歩けばよかったのに。俺ただでさえ今小咲の短冊の事で悩んでるのに……
「で、でも迷子になったら確かに危ないもんね。だったら、お願いしてもいいかな?」
「え………いや、はい!喜んで!」
「喜んで?」
「いえ、なんでも!!じゃあ、失礼します」
つい本音が出ちゃったけど、これで俺たちが離れる事はないだろう。俺は小咲さんの手を握って歩き始めた。
(ど、どうしよう。勢いで手繋いじゃったけど、これじゃまるでデートみたい……私男の子と真面目に手繋いでのあんまりないのに。でも、凪君の手、一条君の手の感触とは少し違うな。私より年下なのに頼りになるっていうか)
やばい。小咲さんの手、スゲェスベスベだ。柔らかい。小咲さんが風邪ひいた時に一回握ってるからって思ったけどあの時とは全然違う。なんという緊張する!
「…………こ、小咲さん!」
「な、なに、凪君!?」
「え、えっと……あ、あそこにチョコバナナ売ってますよ!食べませんか?」
「そ、そうだね!美味しそうだし食べたいな〜」
「じゃ、じゃあ行きますか」
なんだこの付き合いたてホヤホヤカップルみたいな現状は!緊張しすぎて何も言えねえよ!てかこれ他の人にもそう思われるんじゃ……
「す、すいません。チョコバナナ一つ下さい」
「あいよ。200円ね」
「はい。……じゃあこれで」
「200円丁度な。なんだあんたら恋人同士か?」
案の定勘違いされた!
「ち、違います。俺たち恋人同士じゃありません!」
「そうなのか?俺はてっきり付き合ってるもんかと……まぁいいや。こんだけ人が多いんだ。男がしっかり女を守るってもんだ。頑張れよ、ボウズ!」
ガッハッハ、と笑って俺の肩をポンポン叩くチョコバナナ屋のおじちゃん。なんだかテンション高い人だなこの人。
「はい。チョコバナナありがとうございました」
「おう!しっかりな!」
俺はチョコバナナを小咲さんに渡してまた歩き始めた。
「チョコバナナ代、後で返すね」
「いいですよそんなの。これは俺の奢りです!」
「でも……」
「小咲さんや春にはいつもお世話になってるんでそのお礼って事で。ダメですか?」
「……それ言ったら私だって凪君にいつもお世話に。命を二度も救われてるのに」
流石優しさの塊小咲さんだ。こんな事では引き下がらない。だが俺も男だ。ここは引かない!
「いいですよ!とにかくこれは俺の奢りです!さぁ。春を探しに行きましょ!」
「う、うん。わかった」
渋々という感じで頷いた小咲さん。別にそんなに気にしなくていいのに。
「でも、良かった。凪君と一緒に入れて」
「えっ?」
「最近、凪君はいつも春と一緒にいるからなんか私が1人で少し寂しかったんだ。だけど、今日は春が迷子になっちゃったから凪君と一緒にいれる。それが凄く嬉しいの」
別に俺はそんなつもりじゃないですよ。春は同じクラスの友達だから一緒にいる機会が多かっただけです。って言いたかった。だけど、次に発した言葉に俺自身も驚いた。
「だから、あの短冊にもっと俺と仲良くなれますようにって書いたんですか?」
「え…………」
「俺見ちゃったんです。小咲さんが飾った短冊の他に小咲さんが持ってた短冊を」
「嘘。どうして」
「落としていったんですよ。拾って渡そうとしたんですけど、その短冊を見て驚いて。
でも俺少し疑問です。一条先輩ならともかく、なんで俺なんですか?小咲さんは一条先輩が好きなんでしょ?なのにどうして………」
短冊を拾って少し考えた後にずっと疑問に思っていた事。それをやっと口に出来た。それは良かったが何もこんな時にと少し自分を呪った。
「………確かに私は一条君の事は好き。中学生の頃からの恋だもん。これは揺るがないよ。でもね、最近凪君の事を考えると、凪君とももっと仲良くなりたいって思う自分もいるの」
俺と仲良く?もう充分仲良くできてると思うんだけど。
「なんていうか、凪君に二度も命を救われて凪君と一緒にいるうちにすごい意識しちゃって。春と一緒にいる凪君を羨ましくなったりして。短冊書くときも凪君の事考えてたら自然にああ書いちゃって……」
「それで誰かに見られるのは困るから自分で持ってたって事なんですか?」
顔を赤くしながら無言でコクリと頷く小咲さん。それならそれでいいんだけど。
「つまり小咲さんは一条先輩の事は好きだけど、俺の事も意識しちゃってるって考えてもいいんですか?」
「うぇっ!?」
しまった。とんでもない地雷を踏んじまった。俺の事を意識してるんですか?なんて俺の事も好きなんですか?って聞いてるようなもんじゃねえか!俺のバカ!
「ち、違うよ!一条君は好き!凪君は……その……もっと仲良くなりたいってだけで好きとかそういうのは……」
「で、ですよね。俺の事を好きになる女子なんてそういないし!」
(凪君ってやっぱり鈍感だったんだ。でも私も本当のところはどうなのか自分じゃもうわからない……るりちゃんに相談しようかな)
「そ、それじゃあ短冊の事もわかったわけですし行きますか?」
「そうだね………ってあれ?」
「どうかしましたか?」
「草履の鼻緒切れちゃった」
「……嘘でしょ!?」
「どうしよう………って1年前にも確かこんな感じの事が起きたような……」
1年前?あ、俺受験勉強で祭り行ってないんだった。話聞いた事だと草履の鼻緒が切れて一条先輩におんぶしてもらったとか。
「とりあえずここで止まってても仕方ないですし、俺がおんぶしますよ」
「えっ!?でも……」
「嫌なんですか?じゃあこのままここで止まって人様に迷惑かけますか?」
「うっ………凪君のいじわる」
「そうですね。俺はいじわるなんです。さ、早く」
「………わかった」
小咲さんが俺の背中に乗ったのを確認して俺は立ち上がり歩き始める。てか、最初の予定の春を探すのをすっかり忘れてる……まぁいっか。
凪sideout
小咲side
凪君の背中、すごく安心するな……しかもこの感じ初めてじゃない。
「そういえば、この前助けたときも中学の時も俺こんな風にして小咲さんをおんぶしたんですよね」
「そうなの?」
だから知ってたんだ。この感じを。意識はなくてもそういうものってやっぱりわかるものなんだ。というかさっきから胸のドキドキが止まらない。どうして…………おんぶしてもらってるだけなのに。
「小咲さん?どうかしましたか?」
「え、ううん。なんでもない」
「ならいいですけど。辛くなったら言ってくださいね。さっき小咲さんが俺に言ったみたいに、俺も辛そうにしてる小咲さんを見るのは嫌なんですから」
「うん。ありがとう」
「いえ、俺にとって小咲さんは大事な人なんですよ。小咲さんがいなかったら春とこんなに仲良くなかったかもしれないんですから」
だ、大事な人!?なんでそんな事言うのさ凪君は!!大体それで言ったら私だって凪君の事……あ…………そっか。そうなんだ。私が一条君の事を好きで大事な人と思うように、凪君の事も。
「あ、小咲さん、見てください!花火上がりましたよ!」
この胸のドキドキもそういう事なんだ。やっとわかった。これからどうするとかはまだわからないし、るりちゃんに相談して行きたいけど、とりあえず今わかるのは私、小野寺小咲が一条楽君だけじゃなくて、黒崎凪君の事も好きだという事。
小咲sideout
凪side
「あぁ、疲れた〜。なんか今日は色々あったな……ってあれ?風から電話?」
家が隣なんだから直接いえばいいのに、何の用だろう?
「もしもし?」
『凪君?風だよ〜』
「知ってるよ。何の用?」
『えっとね〜、この前の短冊の時の約束覚えてるよね〜?』
約束?なんの事だろう?
『その感じだと忘れてるね。私とデートする約束。明日休みだし2人で遊びに行こう。場所はもう私が決めてあるから。明日の朝9時に家の前でね。それじゃあ』
「あ、おい!風!!………何だ?」
確かにデートの約束はした事思い出したけど、なんでそんなに急いで決めたんだ?
「ま、いっか。久しぶりに風と2人で遊ぶんだし明日は楽しもう。……一応胃薬用意しとくか」
明日の準備をして俺は布団に入り眠りにつくのだった。
どうでしたか?
感想と訂正があればお待ちしております。