「みんな……って言っても僕含めて3人なんだけど」
ナイアーラトテップに久しぶりに依頼の連絡があった。なんでも安寧道の教主補佐のボリックの警備だそうだ。無論、僕たちは裏方の仕事、表向きはイェーガーズが警護。さらに裏方には羅刹四鬼という大臣お抱えの暗殺集団がいる。僕たちはさらにその裏方というわけだ(それはもう表では?)
「……というわけで、久しぶりの仕事だよ。ミソギ君がまだ帰ってきてないのは気になるけど、まぁ僕たちは予備の予備みたいなものだ。あまり気兼ねせずに行こう」
「りょーかいでーす」
「了解です」
…………イートちゃんは通常運行。片手に食べ物を持ちながら話を聞いている。ムカエちゃんは………。言うまでもない。
ムカエちゃんはカルマちゃんが死んでからというもの、一度も笑わなくなった。この
帝具の対話?だっけ?を行ってからはさらに殺しに躊躇いがなくなっていった。ラフラフレシアの奥の手、植物を操る力でもう何人も殺している。
そういえばウェイブ君も対話を行なったらしい。グランシャリオがDr.スタイリッシュの兵器のように近未来チックになっていた。
対話…ね………。
《無視スンナヨ》
「……………」
《聞コエテンダロ?俺ダヨ。トエテシュレーガ》
「じゃあ行こうか、とりあえず大臣のところへ」
《……………》
「火が強すぎる。それではすぐに焦げてしまうぞ」
「うーー!!なんでできないのー!!」
タツミ達が任務を行っている間、私はスーさんに料理を習っている。いや、まぁ料理と言える代物にはなっていないのが現状だが。
「…今日はもうやめるか?」
「…やめない!タツミに食べてもらうんだから!」
「………分かった。じゃあ次はーー」
「任務完了」
「いやー。やっぱ四人でやると早いなぁ」
今回の依頼は民間人からきたものだった。何でも最近巷で奴隷商人が蔓延っていて、子供の行方不明者が続出しているとか。その本部を叩くということだったのだが、権力にものを言わせている連中で対して強くもなく、何でもない任務だった。
「それでは帰還する。行くぞ」
「あぁ」
「オッケー」
「…………」
「……マイン?」
「へ?」
「帰還するぞ?」
「え…あぁ!うん!いいわよ」
「なんだ?マイン疲れてるのか?帰るまでが任務だぞ」
「う、うるさいわね!あんたに言われなくたって分かってるわよ!」
ふふ、マインも精神が崩壊していた頃に比べて随分回復したな。パンプキンと、親友であるところのチェルシーのおかげだな。
《あなたの恋人ね》
いちいちぶり返すな、インクルシオ。
「……………」
「あと少しでアジトだ」
「タツミ〜、今頃チェルシーが愛情のこもった夕食を作ってくれてるんだろうなぁ〜。うしし!」
「な!も、もう…姐さんまで!」
《ヒューヒュー!》
照れ臭くてまともに顔が上げられない。まぁ……嫌な気持ちはしないんだけどさ。
「………………」
「マイン?お前本当に大丈夫か?どこか怪我でもしたのか?」
「え?イヤイヤ!なんでもないわよ」
「マイン!?怪我をしたのか!?見せてみろ!!」
「ほ、ほらぁ!アカメが心配してるじゃない!なんでもないわよ。あれよあれ、チェルシーの料理、ちゃんと食べられるレベルまで仕上がったのか、それが心配だったのよ」
「あぁ〜確かに」
「食べ物は粗末にするのはよくない」
「食べ物になってたらな。ま、いざとなったらタツミが全部食べるから問題ないけど」
「いぃ!?」
「私たちはスーさんのご飯を食べるからさ」
「そ、そんなぁ…」
《いいじゃない!恋人のご飯なんだから!》
……感覚のリンクは切らないからな。死なば諸共、だ
《……………マジで?》
「うまっ!!なんだこれ!チェルシー!お前こんなに料理上手かったのか!」
「マ、マァネー…」
「マジで!?ちょっ…タツミ!私にもくれよ!」
「ヤダよ!姐さん、あんなに馬鹿にしてたくせに!」
「謝るからさぁ〜。なぁ〜頼むよぉ。この通り!!」
「もう、しょうがないなぁ」
「…………うまっ!!!マジか!?てっきり料理とは言えない代物が出てくる流れだと思ってたのに!」
「アハハー、シツレイネー、レオーネ」
「おい、それは俺が作むぐぅ」
「スサノオ、言わぬが花、だ」
「…………本当、美味しいわね。タツミはいい彼女を持ったわ」
「本当だよなぁ!よかったよかった。これでいつ子供が出来ても安心だな」
「レオーネ!」
「姐さん!」
「…さて、お腹いっぱいになって眠くなっちゃった。疲れてるし、もう寝るわね」
「おぉ、お疲れ様、マイン。パンプキンもな」
《はいはーい。流石、俺っちの前任者。労いの心も忘れない!全くスサノオさんが羨ましいねー》
「…パンプキンが、ありがとう、だってさ」
「あぁ、おやすみ。マイン、パンプキン」
「……………眠れない」
《眠くなったんじゃ?》
「いざベッドに入ったら眠れなくなった。パンプキン、ちょっと外で射撃練習に付き合って」
《ほいほいー》
アジトから2、3キロ離れた森の中、夜になると危険種のレベルも上がるが、今の私たちには赤子の手をひねるようなものだ。ヘマはしない。
ズドン!!
《…………んー、命中!さっすがマインちゃん!》
「でも、威力がイマイチね」
《別にピンチでもなんでもないからね、少し前ならいざ知らず、俺っちとのペアリングが強化されてる今現在なら、トイレで紙がない方がピンチだよ》
「その例えもどうなの…?」
んー、まだ眠くないけど、疲れたし横になったら眠くなるかな。そろそろ帰……。
ドズン!!
…………………え?
《マインちゃん!!》
嘘…………何かが胸を貫いて……………これは………剣……?………槍………?………………いや……………これは……!!
「ね……じ………」
と言うことは………!!!
「ミ……ソギ………!!」
この空気が捻じ曲がるような感覚。見るだけで鳥肌がたつ気持ち悪さ。間違いない。ミソギだ…!!
『久しぶり、マインちゃん、僕だよ』
クソッ、油断した。この傷じゃもう助から……………。
……………あれ?
《マインちゃん!?しっかりしろ!!意識を飛ばすなよ!!》
「いや、あのね…………、全然……痛くない………」
《え?》
そう、全然痛くないのだ。確かに私の胸に深々と突き刺さり、貫通しているのにも関わらず、血も出ていなければ、痛みも感じないのだ。
「まさか……オールフィクションで私の痛覚をなかったことに…?いやでも血も出てないし………」
《マインちゃん!髪が!》
「え?……!!」
私の髪が……白く………!?
《これは………まさか……》
『現実虚構・オールフィクションの奥の手……まぁイレギュラーなオールフィクションのことを考えると裏の手って感じなんだけど……まぁとりあえず奥の手としておこうかな』
『ブックメーカー』
ブックメーカー?何それ?何にしろ、外傷はないみたいね。だったら!
「忘れたの?パンプキンは私がピンチならピンチの分だけ威力が増すのよ!!あなたの攻撃を受けて、威力がが上がらないわけがない!」
私はそう言うと、パンプキンを構える。否、構えようとした。しかし実現しなかった。パンプキンは私の手からこぼれ落ちたのだ。
「あ…れ?」
いや、こぼれ落ちたと言うのは正しくない。弾き飛んだ、の方が近いかもしれない。
「え?嘘……なんで?」
何度拾おうとしてもパンプキンを持つことができない。さらに言えば対話もできない。
「ねぇ!パンプキン!どうしたの!?ねぇったら!!」
『無駄だよ、もう君にはパンプキンは使えない』
「……………何したの……パンプキンに何をしたの!!」
『いやいや、パンプキンには何もしてないよ。ただ単に今の君にはパンプキンを使う資格がない、ってだけの話だよ』
「馬鹿言わないで!私はパンプキンと対話をしてペアリングを………」
『だから、その資格がなくなったんだって。僕と一緒でさ』
「……は?」
『今の君は何も出来ない。僕と一緒で。だから帝具も使えない』
「何言って……あれ?」
何……立ってるのも……辛い……?
『【ブックメーカー】ーーオールフィクションの「事象をなかったことにする」と言う特性になぞらえて言うならば君の「強さをなかったことにする」技だ』
「強さを?」
『正確に言うと、この螺子が刺さった相手のレベルを僕と同じレベルまで下げる技だ。別に常人が使えたなら、なんてことない技なんだけど……僕が使うなら別だ』
何?思考回路も……ままならない……?
『思考レベルも僕と同じレベルだからね。僕の破綻した性格抜きでその状態は同情に値するよ。だから今の君にも分かりやすように状態を述べるなら』
ーーーー君は世界最弱の生き物になったんだ。
やっと出せた「
カッコはいつ外せるかなぁ。